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零魔娘娘追宝録 5

                突如として静嵐に戦いを挑みくる
                     悲壮の決意を持つ少女
                         『雪風のタバサ』
                       の目的とはいかに?
                                そして
                       奪われる禁断の宝物


 自室で一人、タバサは回想する。
 思い出すのは苦い、敗北の記憶だ。


『なかなか粘るな、小娘よ。年の割りにはよくやる、と言ったところか。
誇ってもいいぞ、只の人間で俺とここまで渡り合えるやつなんざそうは居やしない。
ま、だからといって俺に勝てもしないんだがな』
『――?』

『そうだ。あいにくと俺は人間じゃないんでね、人間相手に攻めようとしていたおまえはハナから見当違いだったのさ。
こう見えて俺は勉強家だからな。おまえたちメイジ相手の戦い方ってやつもそれなりに研究しているつもりだ』
『――?』

『何故あの男に力を貸すかだと? 理由なんてないさ。
この世界には俺の仇である『ヤツ』はいない。その上帰る方法も見当がつかない。
だからたまには真っ当な宝貝の真似事をしてみるのも面白かろうと思っただけだ。
これでも一応道具の業ってやつを持ってるんでね。使ってくれる分には誰でもかまわんさ。
おまえに運が無いのは俺を手にしたのがたまたまあの男だったということだけだ』
『――!』

『ほう、なかなかいい殺気を放てるじゃないか。少し背筋が寒くなったぞ。
『雪風』の名は伊達ではないというところか。
……いい眼だ。復讐に燃えながらも、殺気で研ぎ澄まされた氷のような瞳だ。
唯一堂々と宮中で杖が持てる機会である御前試合にかこつけて、
憎きあの男を殺してやろうという捨て身の殺意は隠し切れないか。
だがそれは未熟の現れでもある。殺気で人は殺せん。
殺気は闘争には必要。しかし目的を完遂するのには不必要。
戦闘中の覇気と殺気は違う境地にあるってことだな。まして怒気まじりの殺気なんぞとは大違いだ』
『――』

『まぁあまり気にするな。さっきも言ったがいい筋はいってやがる。
精進すればいずれ――おっと、無駄口を叩くなと言われたよ。
どんな手を使ってるのかわからんが、あの黒服の女は俺の状態がわかるようだな。ふん、忌々しい。
……さて、そろそろ終わりにしようか。別に殺せとは言われていないが、
だからといって手加減してやるほど俺は優しくないんでね。
せいぜい上手く負けるよう努力して次の機会に賭けるんだな』
『――』

『まぁ俺がいる限りそうそうお前の目的は達成されないさ。
それでも俺を出し抜こうというのなら、導果先生か静嵐君でも連れてくるんだな。
俺より強力な宝貝なんぞいくらでもあるが、あの二人だけが完全に俺に勝ちうる手段となる。
――では、いくぞ!』



 半年前、ガリアで御前試合が行われた。
 御前試合と言っても、多くの観衆の前で華々しく戦うものではなく、
 あくまでも国の裏側で、自分の力評価されるだけの薄汚いものだ。
 参加しているのは貴族、平民を問わない。それぞれがそれぞれ、望まれるだけの力を持った者たちだ。
 そう、ガリアの暗部、けして公になることはない裏の顔、ガリア北花壇騎士部隊としての力をだ。
 そこで多くの騎士とは名ばかりの戦奴や傭兵たちが、ただでさえ短い命を削りあうのだ。

 だがその日はいつもの『試合』とは違った。ガリア王ジョゼフ自らが、この戦いを観覧すると言ったのだ。
 それはいかなる気まぐれかはわからない。だが、タバサはこの事実に歓喜した。
 憎き仇。父の命を奪い、母を廃人同様へと追いやったあの男が、杖を持った自分の前に丸腰で立つのである。
 無論、ジョゼフとて愚かであっても馬鹿ではない。目に付くところ、つかないところに幾人もの護衛を配置していることだろう。
 その中には自分よりも遥かに卓越したメイジもいるだろう。
 もしジョゼフを狙ったりなどすれば、死は免れ得ないだろう。

 だがそれでも構わない。一太刀、あの男に打ち込み、その命を奪えさえすれば、タバサ自身はどうなってもかまわない。
 そう覚悟を決め、機会をうかがうべく試合に臨んだ。だが、
(結果は惨敗。命を奪うどころか自分が生き延びるのに必死だった)
 あの『武人』。どんな流派とも知れぬ不思議な技と術でタバサを翻弄し、敗北させた男。
 ヤツがいる限り、仇敵を討つ事は叶わないだろう。

 しかし、今の自分ではあの男に勝つことはできない。ならば、あの男自らが言っていた手段、
『それでも俺を出し抜こうというのなら、導果先生か静嵐君でも連れてくるんだな』
 ドウカとセイラン。その名を持つものの力を借りるしかない。
 そして今、自分の前にその一人がいる。
 タバサは窓を開け放ち、下を見下ろす。寮党、自分の部屋の直下。だらけた姿勢でボーっとしている男がいる。
 彼の名こそセイラン。自分が捜し求めるものの一人。

 だがその姿からは何の覇気も感じない。あの敵が見せたような立っているだけで圧倒されるような威圧感など無い。
 本当にこの男が『鍵』なのか? 彼を得れば自分は勝てるのか?
 わからない。だから自分にできることをするまでだ。
「そう。……確かめてみるだけ」

                  *

 満点の青空の下、静嵐は壁にもたれてくつろいでいた。
 気楽な様子とは裏腹に、その表情は晴れやかではない。
「はぁ~」
『どうした、相棒。溜息なんざついて』
「いや、暇だねえ、と思ってさ」

 そうなのだ。この世界に召喚されてからというもの、どうにも暇でしょうがない。
 一度決闘をしたものの、それ以来は出番が無く。主人であるルイズも自分に戦いではなく洗濯などの雑用を言いつけてくる。
 主人に命じられれば基本的に従うのが宝貝であるが、
 それでも自分の本分とかけ離れた仕事を任せられるのに不満がないかと言えばそうではない。
 あまりそうは見えないが、静嵐は武器の宝貝なのである。

 ならば訓練でもしていればいいものだが、武器の宝貝である静嵐は
 だらだらしていたところで体が鈍るわけでもないし、鍛えたところで能力が伸びるわけでもない。
 なんとも始末の悪い話であった。
 暇だというのには、肩に背負ったデルフリンガーも同意のようで、ぼやくように言う。
『世間は戦争だ反乱だの言ってるみてえだが、
この魔法学院にいるのは戦とも無縁の坊ちゃん嬢ちゃんばっかりだしな。
俺ら「剣」が暇なのも無理はねえよ』



 聞いた話によれば、トリステインの近隣国のアルビオンという国で反乱が起き、
 王族派と貴族派に分かれて相争っているらしい。
 戦況は王族派が劣勢のようで、政権交代も時間の問題だと言う。
 アルビオンの貴族はこの世界の全ての王家を降すことを目的としているらしく、
 このまま戦争が続けばトリステインとて戦火に巻き込まれることもありうるだろう。
 だが、そんな国際情勢は気楽な貴族の子弟には関係ないことらしく、
 皆のん気に学園生活を送っている。

「戦争か……」
 静嵐が思い出すのは、かつて自分が参加したとある『戦』についてだ。
 武器の宝貝である静嵐は、戦うことに対して恐れや不満は無い。
 だがそれでも、戦が好きかどうかと言われるとそんなことはない。
 戦争は嫌だ。とても虚しい気分になる。

 武器の宝貝という「何かを破壊するため」に生まれた存在であるがゆえに、
 そうした行為の愚かさや無意味さは身に沁みてわかっている。
 あの時戦った敵、彼は今どうしているだろうか……。
「――嫌だねえ。戦争っていうのは」
 武器らしからぬといえばそうであるが、ある意味では武器であるからこその言葉に、デルフリンガーも静かに同意する。
『そうだな……。実を言うと俺もあんまり好きじゃねえや』

 そうして二本の剣が、空を見上げていると。メイド服姿の平民の少女、静嵐の友人であるシエスタが通りかかる。
「あ、セイランさん。こんにちわ」
「やあシエスタ。洗濯かい?」
 にこやかに挨拶をしてくるシエスタは、手に大きな籠を抱えている。
 中にはシーツと思しき大量の布が詰まっている。

「ええ。今日はいいお天気ですから」
「そうだね。……よし、なら僕も手伝うよ」
 どうせ暇だったのだ。こんなところで腐っていてもしょうがない。
 そんな静嵐の申し出に、シエスタは困ったように笑う。
「そんな! 悪いですよ」
「いいっていいって。どうせ暇だったし」
 静嵐がそう言うと、シエスタはしばし思案する。

 これだけの量のシーツだ。一人で干すのは大変だし、手伝ってもらえるものならば手伝ってもらいたいものだろう。
 少し迷ったようではあるが、悪戯な笑みを浮かべてシエスタは言う。
「それじゃあ……お手伝いをお願いしちゃおうかな?」
「うん。任せて――あいて」
 笑顔で承諾しようとした静嵐の後頭部に、コツン、と小さな音を立てて軽い何かがぶつかる。
 静嵐は振り返ってみる。自分の頭に当たった何かが地面に落ちていた。

「これは……紙で出来た鳥?」
 手にとって見ると、それは小鳥を模した紙細工だった。
 自分の頭に当たったのは、その鳥の口ばしの部分だったんだろう。
 静嵐の手元を覗き込んだシエスタが言う。
「それはメイジの方々の遊びですよ。紙を折って造った鳥を、風の魔法で飛ばすんです。
誰が一番遠くまで飛ばせるかを競ったりするらしいんですよ」

「ふうん。じゃあどっかから流れてきたのかな? ――ん? 何か書いてある」
 ガサガサと小鳥の細工を開いてみると、文字と思しきものが数行に渡って書かれている。
 こちらの世界の文字を読めない静嵐には、その意味はわからない。
「え? ホントですか? ちょっと見せてください」
「君は字が読めるのかい?」
 いつかルイズが、平民の識字率は低いと言っていたことを思い出す。

「ええ。学院にお勤めさせていただく前に、寺院で習ったんです。――これは!」
 説明するシエスタの顔が驚きに染まる。
「なんて書いてあるのさ?」
「『ヴァリエールの使い魔、セイランへ。本日太陽が沈んだ後、ヴェストリの広場まで一人で来られたし。《雪風》より』です!」
 小鳥の紙細工は、自分に宛てた手紙であったのだ。
「これは……呼び出しだね。雪風ってのは確か」
 そういう二つ名の持ち主がいたはずだ。
「……ミス・タバサの二つ名です」

                  *

「もう! あのバカ剣ったら、どこをほっつき歩いてんのよ!」
 夕刻。日も沈みかけたころ、ルイズは静嵐を探して学院内を歩いていた。
 ちょっと小用を頼もうかと思ったのだが、どうも先ほどから姿が見えない。
 部屋にはデルフリンガーのみが残されており、どうやら一人で出歩いているようだった。

 食堂に差し掛かった時、黒髪のメイドが目に映る。
 そう言えば静嵐はこのメイドとは友人であったはずだ。
 そう思い出し、ルイズはメイド――シエスタとかいう名前のメイドに話しかける。
「あ、そこのメイド。シエスタだったかしら?」
「はい? なんですか、ミス・ヴァリエール」

「私の使い魔の、あのボーっとした男見てないかしら?」
 そう問われたシエスタは少し困ったような顔をする。どうやら居場所を知っているようではある。
 話していいものかどうか迷っているようだが、貴族であり、静嵐の主人である自分に黙っておくことはできないと判断したのか、
 迷いながらも口を開く。
「……セイランさんは今の時間はミス・タバサに呼び出されてヴェストリの広場に行ってるはずですよ」
「タバサが?」

 タバサとセイランという取り合わせが理解できない。
 ギーシュにリベンジを挑まれたとか、キュルケにちょっかいを出されたというならわかるが、
 何故タバサがセイランを呼び出したりするのだろうか?
「はい。今日のお昼、セイランさんに呼び出しの手紙が来てたんですよ。ミス・タバサから

 呼び出しの手紙。それはもしや、決闘の申し込みではないだろうか?
 タバサは見た目に似合わずかなりの魔法の使い手である。
 そんな彼女が、武器の宝貝である静嵐に興味を持ってもおかしくない。
 まさか、ただ因縁をつけてきたなどということはないだろうが、それでもかなりよろしくないことが起こるのではないか?

「なんてことなの……、すぐ行かなきゃ!」
 もし決闘などということになれば、その危険さはギーシュなどの比ではない。
 今度こそ止めなければとルイズは駆け出そうとするが、それをシエスタが制止する。
「だ、駄目ですよミス・ヴァリエール。邪魔をしちゃ悪いですよ」
「タバサはトライアングルクラスのメイジよ! いくらあのバカが頑丈だからって無事じゃ済まないわ!」
「そんな物騒な。逢引きでそんなことをする人なんていませんよ」
「あ、逢引き?

 どうにもおかしい。自分とシエスタとの「タバサからの呼び出し」の解釈には何か齟齬がある。
「え? 違うんですか? てっきりミス・タバサがセイランさんに何か思うところがあって、それで密かに逢おうと思い呼び出したのかと……」
「そんなわけないでしょ! 決闘の申し込みに決まってるわ!」
「ええ!? そうなんですか!」
「あのトンマに惚れる女なんて居るわけないでしょうがー!」

 このメイドの、あまりにお気楽な発想にルイズは惚れる。
 あの間抜けなバカ剣に懸想する人間が居るとすればあの好色なツェルプストーの女くらいだが、
 それでもあの女は今、セイランには興味を持っていなかったはずだ。
 ゆえに、あれに惚れるような人間などまず居まい。
 いるとすればよほどの物好きの変わり者か、さもなきゃ何年も恋人の一人も作れないようなイタい女だけだろう。
 だがシエスタは首をひねる。

「そうかなぁ。けっこう人気ありますよ、セイランさん」
「え?」
 意外な言葉にルイズの目が点になる。
「いえまぁ、仰るとおりちょっとボーっとしたところはありますけど。それでもそういうところが逆にいい、っていう人もいますよ」
「そ、そうなの?」

「はい。私の友人なんかも、『なんだか私が守ってあげなくちゃ』っていう気にさせるって言ってましたし」
「……物好きもけっこういるのね」
 そう言えば貴族の生徒の中にも、ちょっと興味深そうにセイランを見ていた人間も居たような気がする。
 てっきり珍しい格好をした男だから観察していたのかと思ったが、もしかしてそういうことなのか?
「ひょっとしてあんたもそうなの?」
「いえ、私はむしろ守ってもらいたい方なので。お友達としてしか……」
 シエスタは首を振って否定する。

「……私もどちらかといえばそうよね」 
 そんなルイズに、シエスタも同意する。
「ですよね。それが女の子の理想ですよ」
「まったくね」
「はい」
 なんだか妙なところで意気投合してしまう。
 もし自分たちが理想とする男が居たとしたら、彼女とはライバルになるのだろうか?

 などとルイズは詮の無いことを考えて、
「……って! こんなこと言ってる場合じゃないわ! さっさと止めにいかないと」
 そんなことをしている場合ではないと気づく。
 ルイズの剣幕に、シエスタはやや不満そうである。
「えー。逢引きだったらどうするんですか?」
「ありえ無いわよ、そんなの。
百歩譲ってあいつが少しはモテるとしても、相手はあのタバサよ。あの無愛想な子がそんなことするわけないわ」

 キュルケの横でいつも本を読んでいる鉄面皮のタバサ、あれが頬を赤らめ自分の使い魔に告白する。
 ……駄目だ。想像できない。どう考えてもありえない組み合わせである。
 だがシエスタは、うっとりと陶酔するように目を閉じ、詩の一節でも朗読するように言う。
「そこはそれ、ですよ。燃える乙女心を無表情な仮面の下に隠して……
密かに慕い上げるあの人への思い……身分違いな恋に悩む少女が覚悟を決めて恋文を……
というやつかもしれませんじゃないですか!」
「そんな都合いい話!あるわけないでしょうが!」
 一体それはどこの御伽噺だ。

 最近は平民も識字率が上がって、本を読む人間が増えたというが、中にはとんでもないような内容のものもあるという。
 もしかしてこのシエスタという少女もそんな類ではないかと疑いたくなる。
「何騒いでんのよ、あんた達?」
 ルイズたちの騒ぎ声を聞き、うるさそうな様子でキュルケが顔を出す。
「キュルケ! あんたの友達がうちの使い魔を呼び出して勝負を挑んでるのよ!」
 後ろで「逢引きですって」と不満そうにするシエスタを無視し、これ幸い、とキュルケに詰め寄るルイズ。

 このキュルケは、半ばタバサの保護者のようなことをしている。
 タバサに文句があるなら、本人に言うよりもキュルケに言うほうが効果的だ。
「友達って、……タバサが? あの娘が理由も無くそんなことするわけないと思うけど……どこに行ったの?」
 不思議そうな顔をしつつも、何か心当たりがあるのか、それ以上真偽を問わず、キュルケは聞く。
 ルイズは憮然として答える。

「ヴェストリの広場よ」
「……見に行ったほうが良さそうね」
 珍しいことに、わずかに顔を曇らせてキュルケは言った。

                  *

 静嵐の前に現れたタバサは、いつもの感情を見せぬ声で勧告する。
「あなたには二つの道がある。一つは何も言わず私に服従し、私のために力を貸すこと。
そうすれば貴方の生命健康は出来る限り保障する」
 会っていきなりこれとは、と静嵐は思う。

 日も沈んで後、静嵐はタバサに会うためにヴェストリの広場にやってきた。
 一人で来い、という言葉通り、デルフリンガーも置いてきている。
 デルフリンガーを一人、とみなすかどうかは微妙なところだが、それを言うならば武器の宝貝である静嵐とて同じである。
 タバサが自分に何の用事があるのかはわからなかった。
 この前の、ギーシュのように自分に決闘を挑むつもりなのかもしれない、と思ってはいた。
 もしそうならば不味いな、とも思っていた。

 タバサはギーシュなどよりもとても強いことを静嵐は知っていた。
 身に纏う空気が、ただの貴族の子女のそれではなく、
 幾度ものを命をかけた実戦を乗り越えてきた者であることは、武器の宝貝である静嵐にはわかったからだ。
 しかもそれは、敵と真っ当に立ち会う『武人』のものではない、ただ目的のために敵を倒す『刺客』のものである。
 そんな相手との戦闘になれば、静嵐とてどうなるかわからない。

 正面切っての斬ったはったならば人間相手に後れを取るつもりはないが、
 相手は魔法を使うメイジ、言わば彼の創造主たる仙人に近い存在である。
 まともにやりあえば無事では済まないことは想像に難くない。
 それ故に静嵐はタバサとの戦いを避けたかった。
 だが実際にタバサが言ったことは一方的な協力要請。つまりは脅迫行為である。

「……もう一つは?」
 一抹の期待を込めて静嵐は問う。
 タバサはあっさりと答える。
「死」
 ああ、やっぱり。どうせそんなことだろうと思いました。
 予想通りの答えに、半ば投げやりになる静嵐。
 しかしそこで疑問が浮かぶ。
 彼女、タバサは自分の力を借りたいと言った。それは何故だ?
 武器の宝貝らしく、静嵐は駆け引きを仕掛けてみる。

「でも、なんだってまた僕の力を? 見ての通り僕はちょっと腕に覚えのあるだけの『平民』だよ。
君のご期待に添えることはできないと思うんだけど」
「そんなことはない。私は貴方の『正体』を知っている。ただの剣士としてではない、あなたの本当の力が必要」
「……」
 通じなかった。それどころか自分の正体も知られているようだ。
「答えは?」
「……答えは『否』だよ。あいにくと、今の僕の使用者はルイズなんでね。
僕を使うなら、彼女に話を通してくれないと困るよ」

 静嵐にも宝貝としての意地がある。
 たとえ、どんなに冷酷非道な主であっても、使用者を裏切るような宝貝は少ない。
 それは、道具として当然のことであるし、何より主人のために力を尽くすことこそが宝貝の存在意義なのだ。
 静嵐とて宝貝だ。なればこそ、一度主人と定めた者に背くことなどできない。
 覚悟を決め、静嵐は戦いの境地へと心を切り替える。やるしかない。自分と、自分の主人のために。
 静嵐の答えに、タバサはわずかに残念そうな顔をする。

「そう……なら貴方を『破壊』する。あの男が恐れた力、万が一にも他の誰かに渡すわけにはいかない」
「あの男?」
 殺す、ではなく、破壊、という言葉を使った以上。自分が武器の宝貝だと知られていることは間違いない。
 しかし気になるのは、『あの男』という言葉だ。
 どうやらタバサは自分のことを知っている誰かに、自分のことを聞いたようだ。

「貴方を強敵だと言ってた。貴方だけが自分に勝つことができる、と。
私はあの男に勝たなければいけない、だから貴方の力が必要」
「え……?」
 そんな馬鹿な。タバサが勝てないような相手が自分を恐れている? そんなことがありうるだろうか。


 静嵐の背中に冷や汗が流れる。
 何か、タバサと自分の間には、致命的なねじれがある。
 まずい、この娘は何かを根本的に勘違いしている!

「いや、あの、誰かは知らないけれど、きっとそれは僕を過大評価というか、買いかぶっているのではないかと」
 静嵐は素直にそう白状する。タバサが勝てなくて自分だけが勝てる相手なんて、そうそう居はしないはずだ。
 だがタバサは、そんな静嵐を見て怪訝そうな顔をする。
「……謙遜?」
「違うって!」
「……? ……問答無用」

 考えるのが面倒くさくなったのか、タバサは改めて杖を構える。
 どうやらこのことについて、あまり深く考える気は無いらしい。
 話が通じるかと思ったけど、この娘意外といいかげんだ! と静嵐は戦慄する。
「行く……!」
 そう呟き、静嵐が身構えるのを待つまでも無くタバサは呪文の詠唱を始める。
 そして、すぐに決着はついた。

                  *

「そこまでよ! ……って、あれ?」
 ルイズとキュルケがヴェストリの広場にやってきてみれば、そこに居るのは、
「? ??」
 不思議そうに首を捻るタバサと、
「うう、冷たいなぁ……」
 体の半分を、まるで吹雪にでも逢ったかのように霜で凍らせた静嵐の姿だった。
                  *

「それで? このバカ剣の力を試そうと思って戦いを挑んでみたはいいが? 
剣士としては凄腕かもしれないけどそれまでで? 特に何かできるわけでもないとわかった、と」
 凍っていた静嵐をキュルケの火魔法で強引に解凍させ、ルイズは呆れたように言う。
 未だに勝負の結果、己の勝利に納得がいかないタバサは不思議そうに漏らす。
「こんなに弱いとは思わなかった」
「拍子抜けしちゃったわけね」
 キュルケも苦笑する。

 ルイズは苦虫を噛み潰したような顔で、申し訳無さそうに正座している静嵐をゲシゲシと足蹴にする。
 静嵐はその長身をくねらせ「痛い、痛いよルイズ」と無抵抗に悶える。
「あんたも、ちょっとは根性見せなさいよ。いくらタバサがギーシュなんかより格段に強いったって、
手も足も出ないなんてことはないでしょうが。パオペイでしょ、あんた」
「いや、僕も丸腰だったし。殺気が無いから手を出していいものか迷っちゃって。そうこうしてるうちにあれよあれよ、と……」
「情けない話ね……」
 キュルケが茶々を入れると、静嵐は真面目な顔でルイズに蹴られながら言う。

「いや。でも、タバサはとても強いよ。お互い本気でやりあってたならどうかなぁ……、僕も無事では済まなかっただろうね」
「負けといて言う話じゃないわよ!」
 心配させられた割に結果がお粗末だったことが腹立たしいのか、ルイズは静嵐に怒鳴る。
 しかし最もなルイズの言葉に、静嵐は誤魔化すようにして、改めてタバサに向き直る。 
「と、とにかく、詳しく話してくれないかな? 何故僕の力を必要としたのかを。
もし僕の力がどうしても必要だって言うんなら、僕からもルイズに頼んでみるよ。いいだろ? ルイズ」
「……まぁ理由次第ではいいけど」
「だってさ。どうなの?」

 事情があることは間違いない。
 それに自分の使い魔が必要だというのならば、力を貸すこともやぶさかではない。
 頼られれば嫌とは言わない、ある意味ではお手本のような貴族的考えではある。
 筋を通せば話の通じない相手ではないのだ、このルイズという少女は。
 もっとも、そうした貴族的思考と、本人の少女らしい気質が上手くかみ合っていないのであるが。
「……彼が必要だと言われたから」
 仕方なくタバサは、話せる範囲で事情を話すことにする。

「誰によ」
「敵。とても強い」
 簡潔と言えば簡潔な答えに、ルイズは疑わしげに言う。
「……なんでその、強い敵ってヤツがこんなバカ剣を恐れるのよ。
セイラン、あんたは心当たりあるの? その、自分を恐れている敵ってやつに」
 ルイズの言葉に静嵐は考え込み、記憶を辿ろうと首をひねる。

「ううん……? 封印のつづらの中ではいろんな宝貝にあったけど、そこまで僕を大きく見てくれるような宝貝はいたかなぁ?」
「いるわけないでしょ。そんなやつ。あんた自分でも大した力は無いって言ってたじゃない」
 にべもないルイズの言葉に静嵐はうなだれる。
「そうハッキリ言われると辛いなぁ。そりゃま、仰るとおり僕は大した力なんてありませんがね」



 でも、とタバサは不思議に思う。
(でも変。たしかに彼はあの敵ほども強くない。だけど何か底が知れないものがるような気がする)
 戦っていても、妙に手ごたえの無いふわふわとした感覚があった。
 多少の手加減はしてみたが、攻撃そのものはきちんと効いていたし、
 彼が実力的にそれほどのものではなく、さらに何か力を隠している様子もないことはわかった。

 だが、何かがある。彼には何か目に見えず、具体的ではない力が備わっているのではないか、
 そう思わせられているような気がしてならなかった。
 静嵐は何かを思いついたかのようにポンと手を打つ。
「――そうだ。ねえタバサ、その敵は名乗ったりしなかったのかい? そうでなけりゃどんな姿をしていたとかさ」

 名。たしか、それは自分も尋ねた。
 これほどの相手、さぞや名のある戦士に違いないと思ったのだ。
 たしか、

『俺の名か? 正々堂々立ちあった相手だ、名乗ってやりたいのは山々だが、
名は明かすなと言われているんでな……。ま、どうしても呼ぶのなら――』

「……『将軍』と言ってた」
「将軍だって! それは――」
 大声をあげ、静嵐の顔が驚きに変わる。だが次の瞬間、

 ドカンと爆音が響く。
「な、なんだ!?」
 驚いて上を見上げれば、いつの間に現れたのか、巨大な土塊がそこに屹立していた。
 土塊からはずんぐりむっくりとした手足が生えており、
 それが土系統の魔法で作られた土人形、ゴーレムであることがわかった。

「あれはゴーレム! なんて大きさなの……」
 ギーシュなどの得意とする青銅製ゴーレムとは、そもそもからして規模が違う。
 あれが人間大のものであるのに対して、これは見上げるほどもある。
 おそらく30メイルはあるだろう、とタバサは冷静に観察する。
 ゴーレムの肩の上には、術者と思しき人間が立っている。

 フードとマントを被っているため、男か女か、若いか老いているかどうかもわからない。
 だが、大きく動くゴーレムの上で身じろぎもせず立っているところから、只者ではないことが伺える。
 術者が杖を小さく振ると、ゴーレムの拳が鉄へと変化する。かなり高度な錬金の術である。
 ゴーレムは大きく拳を振り上げ、塔に向かって拳を打ち込む。
 タバサの魔法のせいで壁が脆くなってしまっていたのか、あっさりと壁を破壊する。

 術者はゴーレムの腕沿いに塔の内部に侵入する。あそこはたしか――宝物庫!
 獲物をあらかじめ定めておいたのか、数秒の間に術者はは再び姿をあらわす。
「何者よ!」
 ゴーレムの暴挙に、ルイズが誰何の声を挙げる。
 術者はそんなルイズを見て、小さくニヤリと笑い、何か紙切れを放り投げる。
 そしてそのまま、ゴーレムを使い、学院の外壁を破壊して逃亡する。
 タバサは紙切れを拾い上げる。そこにはこう書かれていた。

 魔封の札、たしかに領収いたしました。 土くれのフーケ



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