あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのおかあさん-1

視界が黒く歪んでいく。


世界中の音が耳に届かない。


淀んだ空気にむせ返るような事はもう無い。


今まで口の中で染み込んだ錆びた鉄は、とうに消えている。


激しく鳴り続けていた心臓も、振り子時計がその役目を終える様に小さくなっていく。



……最期に手放すのは






    ▽    ▽    ▽



ハルケギニアに存在するトリステイン魔法学校。
外界と学校を隔てる壁と、中央にそびえ立つ学び舎の間にある広場。
そこでは、2年生に進級するのに大切な儀式が滞りなく行われていた。
儀式の内容は、魔法を使うものにとって大切な『使い魔』を呼ぶ事。
何人もの生徒が、期待に胸を膨らませて杖を振るう。
一人、また一人と儀式を終え、呼び出された使い魔を見て満面の笑みを浮かべる。
それが蛙であっても、モグラのようなものであっても。蜥蜴でも小さな竜でも。
一生を共にしていく相手との出会いを、彼らは絶対に忘れないよう心に刻む。
そんな中、桃色の髪の少女が広場の隅で煙を上げて立ち尽くしていた。
少女の名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』
この儀式の中、未だ笑みを浮かべる事無く何かを呟いていた。
そして、その度に爆発が起こり、ルイズの周囲を黒い煙が包んでいく。
呟いては爆発し、その度に周囲から嘲笑が囁かれる。
だが、何十回目かを迎えた頃からは、その嘲笑すら遠のいていった。
周囲に居た生徒達は普段と同じような爆発に興味を失い、隣に並ぶ使い魔に意識を移す。
それでも、ルイズは呟く事をやめなかった。
何度目の爆発か分からない。数えるのは、とうの昔にやめている。
(お願い! 答えて!)
髪が乱れていても、服が煤だらけになっていても、指が赤く滲んでいても。ルイズは諦めなかった。

「宇宙の……宇宙の果てのどこかにいる私の……下僕よ! 強く、美しく、そして……生命力に溢れた使い魔よ!
  私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えな……さいッ!」

渇いた喉を懸命に動かし、謳い慣れてしまった呪文を叫ぶ。
次の瞬間、今までの爆発のとは明らかに違う量の灰色の煙が、広場全体を覆う。
突然の事に驚く生徒たちを尻目に、ルイズは煙の中に浮ぶ黒い影を見つけた。
それは、ルイズにとっては夢にまで見ていた瞬間だった。
(ようやく成功した!)
目を凝らすが、影の正体は判らない。
それでも、今まで何も無かった場所に黒い影が突然現れた。
しかもそれは、ルイズが呪文を唱え終わると同時に現れたのだ。間違いないだろう。
非難を浴びせる生徒達を無視して、ルイズはその影へと近付く。
(私の! 私の使い魔!)
ルイズが影のそばまで駆け寄るのと、煙が風にまかれて消えていくのは同時だった。
後一歩踏み出せば使い魔の正体が判る。その一歩手前で、ルイズは立ち尽くしてしまう。
眼前に現れたのは、着ている物こそ変わっているが、その姿は間違いなく――
「ほほう。この二本の足。二本の腕。頭は一つ。これはまさか……」
「平民だぁぁーーー! 『ゼロ』のルイズが平民を呼び出したぞ!」
「しかも変な服と変な帽子のオマケつきぃぃぃぃ!」
「なんという結末。このオチは僕らの予想を遥か斜め上をいった」
「せっかくだから、俺は嘲笑う方を選ぶぜ」
「「「「「わははははははは!」」」」」
期待に膨らませていたはずの胸が、いつのまにか自らの胸と同じようにへこんでいく。
召喚に成功したのは素直に嬉しい。けれども、その結果は素直に喜べるものではなかった。
煙の中から姿を現したのは、杖を持たない上に、見かけない服装をした男。
しかも爆発で気絶したのか、先程から指一本動かす事無く仰向けに倒れていた。
顔を見るのも忘れ、ルイズは身体を180度捻って歩き出す。
そして、嘲笑う生徒達を諌めていた中年男性に向かって地響きを立てて近付いた。
「ミスタ・コルベール! やり直しを……儀式のやり直しをお願いします!」
「駄目です。使い魔の召喚は神聖なもの。それを気に入らないという理由だけで、
  契約をせずにやり直しを要求する事など認められません。これは伝統なのですよ」
「そんなっ! だっけあれは――」
「例え人間でも、それが貴女にとって必要だから呼ばれたのですよ。ミス・ヴァリエール」
「くっ……」
顔を真っ赤にして講義するが、ルイズの要求は何一つ通らず、無駄に労力だけが費やされていった。
数分後。ようやく諦めたのか、重い足取りで男のもとへと近付く。

(せっかく成功したのに)
喜んだ分だけ、悲しみも大きい。
陽の光を遮るように男の真上に立つが、瞼が動く様子すらない。
念のため確認したが、杖らしきものはどこにもない。間違いなく平民だろう。
「起きなさい」
声を掛けるが男は全く反応を返さない。
最初は無視しているのだと思ったが、どうやら気を失っているようだ。
嫌ではあるものの、流石に反応が無いのは恐ろしい。爪先で男の頭を小突いてみる。
「ちょっと」
蹴られた事は判るのか男が呻き声を上げる。だが、起きる気配は無い。
いつの間にか隣まで来ていたコルベールと呼ばれた中年が、男の顔を見た途端顔をしかめ、思わず身構える。
だが、そうしたのも一瞬で、次の瞬間にはいつも通りの穏やかな顔になっていた。
「ミス・ヴァリエール。コントラクト・サーヴァントを」
「あ……うぅ」
考えないようにしていたのか、顔を真っ赤にして俯く。
一呼吸置いて男の顔に唇を近づける。吐息が男の鼻に掛かるまで接近する。
(感謝しなさいよ! アンタみたいな平民が、貴族にこんなことされるなんて普通は一生ないんだから)
未だに躊躇いながらも、ルイズは必要な呪文を口早に唱えて顔を男に重ねていく。
ゆっくりと、ルイズの乾いた唇が男の唇に重なる。どちらの唇も、水気を失って乾ききっていた。
二人の唇が静かに離れていく。顔から湯気が出そうなルイズとは対照的に、男の顔は未だ無表情。
だがその直後、男の左手の甲にルーンが浮かび上がると同時に、男の身体が大きく痙攣する。
「ッ!」
「な、なに!」
すぐ傍にいたルイズは、突然の事に尻餅を突いてしまう。
男はそれ以降動きはしなかったが、その反応があまりに突然過ぎたため、ルイズはまだ立ち上がれない。
「大丈夫ですか?」
声を掛けつつも、コルベールは男の左手の甲を見て首を傾げる。
「ふむ。珍しいルーンですね。ところで立てますかミス・ヴァリエール?」
「え、あ、はい」
「宜しい。そしておめでとう。貴女の使い魔の儀式は無事成功です」
「あ――」
何か思い出したように、ルイズは息を漏らす。
そんな彼女に背を向け、コルベールは野次を飛ばしていた生徒達を叱りつつ行動を促す。
コルベールに逆らってまで野次を飛ばすつもりは無いのか、生徒達は次々と空へ飛んで行く。
何人かは、去り際にルイズに向けて普段通りの悪口を残して。
広場に残ったのは、熱心に何かをスケッチしていたコルベールとルイズ。そして未だ動かない男。
「ミス・ヴァリエール」
「は、はい!」
「見たところ彼は気を失っているだけのようです。
  次の授業は構いませんから、彼が目を覚ますのまで傍にいてあげなさい」
「え!? それならミスタ・コルベールが保健室に連れて行って下さったほうが早いのでは?」
「彼は既に貴女の使い魔です。その彼にこれまでの経緯と現状の説明をするのも貴女の仕事ですよ」
「それは、確かに、そうですが」
「どちらにせよ、次の授業は使い魔に関する講義です。問題は無いでしょう……それでは」
「え、あ、ちょ」
笑顔のまま、強引に話を打ち切られたルイズは、飛び去っていくコルベールを怨めしげに睨みながらため息をつく。
コルベールが忘れていたのかは不明だが、ルイズはレビテーションすら使えない。
試しに男の腕を引っ張ってみたが、予想上に重いため背負うのは諦めた。
こうなると、男が目覚めるまで隣にいるか、誰か他の人間を呼ぶしかない。
後者はルイズのプライドに関わるため却下。結果、目が覚めるまでここで待つしかないのだ。

何度目か分からない溜息を吐く。気が付くと、目からは涙が溢れていた。
「せっかく……せっかく成功したのに」
我慢してきたものが零れ落ちそうになる。泣き出したい気持ちを抑え、意識を男に向ける。
その鋭い眼光に視線を逸らしてしまうが、ふと違和感に気付く。
(あれ?)
もう一度男の顔を見つめると、ルイズを睨みつける男の眼球がそこにはあった。
「あ、ああ、あああ、ああああああんた! いつから起きてたのよ!?」
「どこだ……ここは」
舌を噛みそうになるのも構わず、ルイズは男に話しかける。
だが、男は質問を質問で返しただけで、ルイズの問いには答えてくれなかった。
「ちょっと! 私の質問に答えなさいよ! 名前は!? いつから見てたの!?」
「……」
「平民の癖に無視して! 早く私の質問に答えなさい!」
「……」
「ねえ! 聞いてる――「うるせぇぞ静かにしろ!」――ひぅ!」
男の怒声に思わず悲鳴をあげてしまう。
見下ろしている筈なのに、自分を射抜くような男の眼光のせいで、どちらが見下ろしているか分からなくなる。
一方怒声をあげた男も、ルイズの反応が以外だったのか小さく舌を打った。
「名前を名乗るなら自分からしろ。それと、質問は一つ一つしやがれ」
「な、何よ偉そうに! あんた自分の立場ってものが――」
男の鋭い眼光が肌に突き刺さり、最後まで告げられない。
睨み合いでは勝てないと本能が悟ったのか、ルイズは渋々ながら口を開く。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。それが私の名前よ」
「ここはどこだ」
「ちょっと、あんたも自己しょ……くっ。ここはトリステイン王国にあるトリステイン魔法学院よ」
「なんだと?」
ルイズの解答が気に入らなかったのか、男は低音で異論を唱える。
正直な所、男の視線から逃れたかったが、どういう訳か身体が動かない。
何事か考えていた男は、何かを思案するような表情を浮かべた後、ゆっくりとルイズに問いかけた。
「月光館学園。日本。無気力症患者。この三つに聞き覚えは」
「知らないわよ。それよりいい加減名を名乗りなさい。私はあんたのご主人様なのよ!」
「……」
男のこめかみがピクリと動いた気がするが、ルイズは構わず言葉を続ける。

「大体、その態度が貴族に対するものじゃないのよ! あんた平民でしょ! あたしは貴族なのよ!
  しかもその態度すら無礼なのに、さっきから私ばかりに質問して、あんたは全然答えてないじゃないの!」
「荒垣だ」
「へ?」
一言だけ喋ると、荒垣と名乗った男は腹部に手を添え顔をしかめるが、直ぐに表情を戻す。
「荒垣真次郎。俺の名前だ」
「アラガキ……シンジロウ? 変な名ま――なんでもないわ」
ルイズが漏らした呟きは、荒垣の睨みであっさりと遮られる。
そんなルイズを無視し、荒垣はゆっくりと立ち上がる。
そして、上着のコートに両手を入れると、ルイズに背を向け歩き出した。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「ここがどこだか知らねぇが、お前じゃ話にならない事は理解できた」
その言葉に、ルイズの顔が再び真っ赤に染まる。拳を握り締め、大きく肩を震わせてながら。
「待ちなさい!」
だが、そんな声も無視して荒垣はどんどん離れていってしまう。
慌てたルイズが荒垣の眼前まで回り込むと、両手を広げて遮った。
「さっきから何なのよ! ご主人様が待てっていったら待ちなさい!」
その言葉をきっかけに、今まで静かに凄んでいた荒垣がルイズに顔を接近させる。
先程のコントラクト・サーヴァントを思い出して、一気に顔が赤くなる。
だが、次に起こった出来事はルイズの予想していなかったものだった。
「さっきからゴチャゴチャとうるせぇぞこのガキが!」
「ひゃぅ!」
不意打ちで、しかも真正面に迫った顔から浴びせられる怒気に、ルイズはまたも尻餅をついてしまう。
さらに間の悪い事に、その衝撃で我慢していたものが溢れてきてしまい。
「あ――」
ルイズは、遠くなる意識の中で、下半身だけが冷たくなっていくのを感じた。



「ちっ」
一方気を失って倒れたルイズを見下ろしていた荒垣は、舌打ちをしつつ腰を屈めた。
そして、肩にルイズを乗せると建物の中へと足を運んでいった。
(まさか気を失うとはな)
溜息を吐きつつ、荒垣はルイズを担いで足を進めていた。
経緯はどうあれ、自分の睨みで気を失った以上責任はこちらにある。
見慣れぬ景色に呆れつつも、荒垣は話が通じそうな人間を探していた。
その間に、現在の状況と自身の最期を振り返っておく。
(あの時。あいつを庇って俺は死んだはずだ)
痛みも、残してきた言葉も、見届けてくれた仲間の顔も。全て本物だった。
それに自分の身体が冷たくなっていくのを、荒垣は確かに覚えている。
(って事は、ここは地獄か何かか?)
選択肢に天国など存在しない。自分が進めるのは地獄一択だろう。
だが、地獄にしてはここは穏やか過ぎる。しかも、妙な事に生きている感触が確かにある。



「魔法……だとよ」
自嘲気味に笑みをこぼす。仲間と共に戦ってきたが、こんな魔法は初めてだ。
どちらにせよ、状況判断するにはあまりにも情報が少なすぎる。
そのためにも誰でもいいから話を聞いて見る事が先決だ。
と、丁度良い具合に一人の女性が視界に写った。
壁に手を当てて何か考えているが、荒垣もやや急ぎであるため遠慮がちに声を掛ける。
「おい。ちょっといいか」
「っ! な、何でしょう?」
誰も来ないと思っていたのか、その女性は驚いた表情で杖を構えていた。
驚かせて悪い事をしたと思いつつも、荒垣は無表情のまま要件を告げる。
「このルイズってガキが気を失ったんだが、どこに連れて行けば良い」
「え?」
身構えていた女性は、予想していなかった用件に呆けつつも、すぐに咳払いをして体裁を整えた。
「ええと、もしかしてその方はミス・ヴァリエールではないでしょうか?」
「ああ……そういや名前の最後に、そんな言葉も付いていたな」
「外傷などありますか?」
外傷などどこにもないが、当人が気付けば負ってしまうであろう傷はある。
だが、そんな事をわざわざいう必要が無いと感じたのか、荒垣は首を横に振る。
「気を失ってるだけで、怪我なんざありゃしねぇよ」
「怪我をしたなら兎も角、気を失っているだけでしたら、保健室か自室にお送りした方が良いでしょう」
「悪いが、そのどちらも場所が分からねぇ」
そこに来て、女性は荒垣の格好に始めて注意が向く。
最初こそ戸惑ったが、その後はずっと自然な流れだったため忘れていたが、荒垣の姿は珍しかった。
「失礼ですが、どちら様でしょう」
丁寧な質問に、荒垣もそれなりに礼儀を込めて返す。
「荒垣真次郎だ。気付いたらこの場所に来ていた。それ以外は分からねぇぞ」
その言葉の嘘を探るように、女性は荒垣を真正面から見つめる。
一方の荒垣も、やましい事が無い以上その視線に真っ向から立ち向かう。
暫く見つめ合った後、女性は面白いものでも見たかのような笑顔を浮かべた。
「失礼。私はロングビルと申します。ミスタ・アラガキ。ご案内しますのでどうぞこちらに」
「そりゃありがたいが、用事は良いのか?」
「ええ。もう済みましたから」
ロングビルと名乗った女性は、荒垣と一定の距離を保ちつつ前に進みだした。
その後ろから、同じように距離を取りつつ荒垣も後ろについていく
「くちゅん!」
肩に担いだルイズのくしゃみだけが、石畳の通路に響き渡っていた。

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