…時に西暦2004年12月24日深夜。
日本国東京都、新宿区私立天香學園高等學校…の地下深く。
「うおおぉぉぉぉっ!!」
一瞬前迄、自分の身体があった所へ一抱え程もある岩塊が落下し、砕け散る。
止む事無く聴覚を独占する、不気味な地鳴りと不快な振動音。
頭上より落ち続ける土くれと埃の量は増す一方。
そんな修羅場の直中を、振り返らず、足を止めず只駆け抜ける人影……。
何故、彼はそんな状況に陥ったのか……。
――遥か昔。この地には、今は失われた文化と技術に支えられた文明が存在った。
それを神の力だのと思い上がった者達は、驕慢極まる振舞いの結果、自分自身すら制御の
出来ない存在を生み出し、処置に困った挙句、そいつを『臭い物には蓋を』の如く、地下深くに閉じ込め
『無かった事』にし、事態の収拾を謀り、それは上手くいったものと信じ込んだ。
…が、閉じ込められた方はそれで収まる訳も無く。千数百年に渡って憎悪と執念を抱き、
地上へと這い上がる日々を待ち、奥底にて密かに確実に蠢き続けていた。
刻に浸蝕され、かつては堅牢無比を誇った封印も衰え、至る所で綻び、歪みが生じつつあり、
仮に何も無かったとしても、遠からず封印は力尽きていただろうが、何よりもそれを助長したのは、
外部より訪れた一人の男だった。
巨大な墳墓といえる遺跡を探索し、そこに眠りし失われた叡智を探り、手にせんとする若き探求者。
人呼んで、トレジャーハンター…。
その一方で、彼はそこかしこに漂い、縛られていた過去の魂と念を払い、開放していった戦いの果てに。
遂に青年は、眠りより目醒めた遺跡の主であり、太古の荒ぶる神になぞらえた存在と対峙した。
一つ間違えばヒトの世の存亡にも関わる、語られる事無き熾烈な戦いは青年の勝利で終わり、
遺跡に封じられし存在は、積年の苦痛と妄念から開放されると共に、二度と醒める事無き眠りに付いた。
それと同時に、永い永い「役目」を終えた遺跡は崩壊を始め、青年は地上へ向けて懸命に脱出を計っていたのだった。
前方の地面に亀裂が走り、瞬く間にクレバスと化す。
勢いを落とさず跳躍し、一息に飛び越えて着地。走る。
壊れた扉を蹴破り、眼前に落ちる岩を避け、陥没を乗り越え、急激に盛り上がった地面に取り付き、身を押し上げる。
日本国東京都、新宿区私立天香學園高等學校…の地下深く。
「うおおぉぉぉぉっ!!」
一瞬前迄、自分の身体があった所へ一抱え程もある岩塊が落下し、砕け散る。
止む事無く聴覚を独占する、不気味な地鳴りと不快な振動音。
頭上より落ち続ける土くれと埃の量は増す一方。
そんな修羅場の直中を、振り返らず、足を止めず只駆け抜ける人影……。
何故、彼はそんな状況に陥ったのか……。
――遥か昔。この地には、今は失われた文化と技術に支えられた文明が存在った。
それを神の力だのと思い上がった者達は、驕慢極まる振舞いの結果、自分自身すら制御の
出来ない存在を生み出し、処置に困った挙句、そいつを『臭い物には蓋を』の如く、地下深くに閉じ込め
『無かった事』にし、事態の収拾を謀り、それは上手くいったものと信じ込んだ。
…が、閉じ込められた方はそれで収まる訳も無く。千数百年に渡って憎悪と執念を抱き、
地上へと這い上がる日々を待ち、奥底にて密かに確実に蠢き続けていた。
刻に浸蝕され、かつては堅牢無比を誇った封印も衰え、至る所で綻び、歪みが生じつつあり、
仮に何も無かったとしても、遠からず封印は力尽きていただろうが、何よりもそれを助長したのは、
外部より訪れた一人の男だった。
巨大な墳墓といえる遺跡を探索し、そこに眠りし失われた叡智を探り、手にせんとする若き探求者。
人呼んで、トレジャーハンター…。
その一方で、彼はそこかしこに漂い、縛られていた過去の魂と念を払い、開放していった戦いの果てに。
遂に青年は、眠りより目醒めた遺跡の主であり、太古の荒ぶる神になぞらえた存在と対峙した。
一つ間違えばヒトの世の存亡にも関わる、語られる事無き熾烈な戦いは青年の勝利で終わり、
遺跡に封じられし存在は、積年の苦痛と妄念から開放されると共に、二度と醒める事無き眠りに付いた。
それと同時に、永い永い「役目」を終えた遺跡は崩壊を始め、青年は地上へ向けて懸命に脱出を計っていたのだった。
前方の地面に亀裂が走り、瞬く間にクレバスと化す。
勢いを落とさず跳躍し、一息に飛び越えて着地。走る。
壊れた扉を蹴破り、眼前に落ちる岩を避け、陥没を乗り越え、急激に盛り上がった地面に取り付き、身を押し上げる。
そんな、命賭けの障害物競走に最高の真剣さで挑み続ける彼の目に、地上へと繋がる
命綱が在る場所へ通じる扉が映ったその瞬間。
目と鼻の先に、鏡に似た光彩を放つモノリス状の物体が出現した。
(っ、な……!!)
衝突を避けようと、全力でブレーキを掛けるも間に合う距離でもなければ、咄嗟に左右へと跳び退く暇も無い。
彼の身体はその光の壁に触れた瞬間、見えざるロープに絡み捕られたかの様に、強引に引き摺り込まれた。
――その光の壁の中は、まるで万華鏡の中の様だった。
ありとあらゆる色が入り交じり、瞬き、消えて、照らしつけて視界を蹂躙する一方、洗濯機に入れられた
衣類の様に、彼の身体を持ち上げ、落とし、回転させて、いいように意識と平衡感覚を翻弄する。
(な、何が、一体、どうなっ、ている、んだ………っ!!)
そんな人間の三半規管の限界を試す、耐久力テストじみた光景と状況下にありながら、彼はそれ迄背負っていた背嚢とその
中身を放さぬ様に抱え込んでいたが、耳道へと流れ聴こえて来るモノが在った。
『――告げる! 我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール!
遍く宇宙のどこかにいる、我が従僕よ! 強く、美しく、そして生命力溢れる存在よ!
私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応え、その姿を顕し給え!!』
(く、う…! だ、誰だ、この、声は…!? お、れを、一体、何処、へ……!)
意識を繋ぎ止めるのも、限界に達した。視界が真っ白に漂白される間際、
彼自身が飛び込んだ鏡じみた物体が、再度眼前に現れるのを見取ったのだった……。
――彼の背負いし宿星か、はたまた悪魔の悪戯か。二度に渡り、東京とヒトの世の安寧を護った青年は、
今また新たなる戦いへとその身を投じる。
――その名は、ハルケギニア。
剣と魔法、人とヒトならざるモノ達が生きる、「極めて近く、限り無く遠い世界」へと。
――ゼロの使い魔人、序章。
命綱が在る場所へ通じる扉が映ったその瞬間。
目と鼻の先に、鏡に似た光彩を放つモノリス状の物体が出現した。
(っ、な……!!)
衝突を避けようと、全力でブレーキを掛けるも間に合う距離でもなければ、咄嗟に左右へと跳び退く暇も無い。
彼の身体はその光の壁に触れた瞬間、見えざるロープに絡み捕られたかの様に、強引に引き摺り込まれた。
――その光の壁の中は、まるで万華鏡の中の様だった。
ありとあらゆる色が入り交じり、瞬き、消えて、照らしつけて視界を蹂躙する一方、洗濯機に入れられた
衣類の様に、彼の身体を持ち上げ、落とし、回転させて、いいように意識と平衡感覚を翻弄する。
(な、何が、一体、どうなっ、ている、んだ………っ!!)
そんな人間の三半規管の限界を試す、耐久力テストじみた光景と状況下にありながら、彼はそれ迄背負っていた背嚢とその
中身を放さぬ様に抱え込んでいたが、耳道へと流れ聴こえて来るモノが在った。
『――告げる! 我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール!
遍く宇宙のどこかにいる、我が従僕よ! 強く、美しく、そして生命力溢れる存在よ!
私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応え、その姿を顕し給え!!』
(く、う…! だ、誰だ、この、声は…!? お、れを、一体、何処、へ……!)
意識を繋ぎ止めるのも、限界に達した。視界が真っ白に漂白される間際、
彼自身が飛び込んだ鏡じみた物体が、再度眼前に現れるのを見取ったのだった……。
――彼の背負いし宿星か、はたまた悪魔の悪戯か。二度に渡り、東京とヒトの世の安寧を護った青年は、
今また新たなる戦いへとその身を投じる。
――その名は、ハルケギニア。
剣と魔法、人とヒトならざるモノ達が生きる、「極めて近く、限り無く遠い世界」へと。
――ゼロの使い魔人、序章。