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ウィザーズ・ルーン~雪風の翼~6

 サイトはうめき声を上げながら起き上がると、今いるのが病室であることを確認した。
 目をこすると段々意識がはっきりしてきた。
 ここまで運んでくれたのは誰だろう。
「よう、目が覚めたみてえだな」
「え、ヘイズ?」
 予想外の声に驚く。
 自分を看病してくれたのはヘイズだろうか。ならお礼を言わねば。
「ありがとう、ヘイズ。ヘイズなんだろ? 俺を看病してくれたの」
 それにヘイズは苦虫を潰したような顔になって、
「いや、看病したのはシエスタとルイズだ。感謝しとけよ。お前の高い薬代は全部ルイズのポケットマネーなんだからな。オレはお前の容態が落ち着いてからこってり絞られる役だったよ」
「それはそれはひどい有様でしたよ。私はヘイズがあれ以上の悲鳴をあげるところを聞いたことがありません」
 ハリーが混ぜっ返した。
 こんなに強そうなヘイズに、そこまでの悲鳴を上げさせるとは一体……
 そういえば、そのルイズはどこだろう。サイトが辺りをぐるりと見回すが、病室にはサイトとヘイズしかいない。

「話したいことがあって、あいつらには席を外してもらった。単刀直入に言う。お前もこの世界の住人じゃねえな?」
「も? ……ってことはヘイズもなのか?」
「そうだ。オレはアメリカ大陸でちょいと調査中に、事故で鏡みたいなものに吸い込まれた」
「嘘はいけませんよヘイズ。あれは誰が見ても自分から入ったのが正しいかと。ところでサイト様はどのようにして?」
 俺、この世界で様付けで呼ばれたのって始めてかも、と感動に打ち震えながらサイトは答えた。
「俺の場合は、東京の秋葉原を歩いてたら、鏡みたいなのがあって、それに入って気づいたらこの世界だった」
「なるほど……鏡がキーだったようだな。……ところで、秋葉原って言ったな。それってシティ・東京跡地近辺のプラントの名前か?」
「東京跡地!? 何言ってるんだよ! 東京は潰れてなんかいねえぞ! そりゃ東京大空襲で焼かれたけど、ちゃんと今では大都会が築かれてる!」
「随分古い出来事が出てきたな。何世紀前の話だよ」
「何世紀って……まだ百年も経ってないじゃないか」
 そこまで言って、二人ははたと気づく。
「「違う時代から来てる?」」
 異口同音に言って、顔を見合わせる。

 それから二人は情報を交換し合った。
 ヘイズの世界はサイトのいた世界にはないはずの、遮光性の雲で覆われ、極寒のせかいになっていること。
 サイトの世界にシティだのプラントだのは存在していない。そしてヘイズの世界には六つのシティが存在している。
 ヘイズの世界には情報制御技術という学問があり、ヘイズはその力を行使する魔法士という存在であること。
 それほど差異があるのに、二人の世界のおおまかな地名や歴史は同じ。
 つまりそれは二人が同じ世界の、異なる時代から来ていることを如実に示していた。


 決闘に勝ってからというもの、微妙に周囲のサイトを見る目が変化した。
 相変わらずルイズはげしげし蹴ってくるものの、以前と比べて怒声に違う感情が混じっているような……
 そして一番変わったものといえば、
「きたな『我らの銃』!」
 そう呼んで歓迎するのは、コック長のマルトー親父。
 彼は魔法学院のコック長の癖に、貴族もメイジも毛嫌いしている。
 そんな彼は、シエスタを助ける為に成り行き上とはいえ貴族と決闘をし、そしてまさに満身創痍になってまで倒したサイトを『我らの銃』などと呼び、ほとんど王様みたいな待遇で接してくれるのだった。
「お、もう怪我の具合もよくなったみてえだな」
 一足先に席に着いているヘイズはもうすっかり、厨房の仕込み手伝いが板についているらしい。
 決闘騒ぎで銃を貸してもらったこともあり、すっかりヘイズとは打ち解けている。
 同じかまで飯を食った仲、というわけでもないがすでに一種の連帯感が生まれていた。
 そんなこんなで厨房はサイトのオアシス的存在なのだった。
 もはやサイト専用席と化した席――ちなみに隣はヘイズ専用席――に腰掛けると、シエスタが即座にパンとシチューを持ってきてくれる。
「うまい! いつも食ってる汁だけスープとは比べ物にならない」
「そりゃそうだ、そいつは普段貴族に食わせてるシチューだからな」
「「マジか! あいつらこんな美味いもの毎日食ってやがるのか!」」
 サイトとヘイズの声がハモった。
 二人の言葉に、マルトー親父は得意げに胸を張る。
「おおよ! それなのに、あいつらときたら、なに、確かに魔法はできるだろう。土から鍋を作れる。炎の弾は出せる。
しまいにはドラゴンにだって乗る。だが、こうやって、絶妙な味の料理をこさえるのも立派な魔法だろうが!」
 サイトとヘイズは同時に頷く。
「「確かにそのとおりだ」」
「いい奴だな! お前ら本当にいい奴だ!」 
 ヘイズも立場上はメイジなのだが、平民な上に厨房の者にはすでに魔法がろくに使えないことがばれているため、マルトー親父に嫌われていない。
 鍋を新調したいんだ、と言えば、「買いに行くから、金を渡してくれ」とのたまう。
 一気に皮むきをしてくれと言えば、「よっしゃ任せろ」と本当に凄い勢いで皮を包丁で剥いた。
 火力が欲しいんだと言えば、「薪を取ってくる」と言い残して薪を取りに行く。
 極めつけに、お前さんメイジじゃないのかと言うと、「俺は普通の魔法が使えねえんだよ」と来た。
 そんなやりとりがあって、魔法が使えないメイジなのに、それを気にした風もなく気さくでよく手伝ってくれるいい人、という認識が厨房内で出来上がっていた。

 その後、マルトーが二人に抱きつこうとして、コックやメイドに止められたり、
 ほぼ同時にシチューを食べつくした二人が、同時におかわりを言ってシエスタを苦笑させたりしたのは、また別の話。




 タバサはその日、量の自室にこもって、朝からずっと書物に向かっていた。
 うるさい騒動もなく――というかサイレントをかけているのだが――、面倒な仕事もない。
 虚無の曜日ということで、自分の世界に好きなだけ浸れるこのひとときを、タバサは確かに満喫していた。
 読んでいるのは、ヘイズの船にあった伝説集。
 子供の頃はイーヴァルディの勇者の本を読んでいたタバサにとって、ヘイズの世界の物語というものには少し興味があった。
 しかし肝心の文字が読めない。どうすればいい? とヘイズに訊ねると、数日のうちにトリステイン語・英語の翻訳機能を持った眼鏡を作ってくれた。
 「自分もこの世界の文字が読めないのは不便だしな」、と言っていたけれど、
 後からハリーに「徹夜をしてまでタバサ様のためにつくったのですよ。手伝いに重労働をさせられた私はいい迷惑です」と言っていた。
 始めて見るハリーの姿にどきりとしたけれど、「そう」とだけ呟いた。
 ヘイズは使い魔だから、ハリーに聞かなくても何をしているか見えるから知っていたのだけれど、それは秘密にしておいた。
 なんとなく嬉しかった。
 心の中の雪風をほんの少しかき消してくれた気がして、それを言ってしまうとこのうれしさも消えてしまう気がしたから。
 ヘイズには小さな声で「ありがとう」とだけ言った。
 タバサはなぜか自分の意思とは関係なく、すぐに駆け出してしまったので、返事はまだ聞いていない。


 タバサにとって他人とは彼女の世界への無粋な闖入者であり、それは数少ない例外であってもよほどのことがない限り、うっとうしいものだった。
 とはいえいつまでもそれが続くとは限らないのが現実である。
 急に扉が開いたかと思うと、どたどたと――聞こえないが――侵入者がやってきた。
 そしてタバサから本を取り上げると、肩をつかんでがっくんがっくん、と揺らす。
 誰かと思い顔を上げると、友人のキュルケだった。
 なにやら凄い勢いでしゃべっているのを見て取り、しかたなくサイレントを解除。

 解除したと同時に、堰を切ったように、大声が室内に響き渡る。
「タバサ! あなたの使い魔、たしか船持ってたでしょ! あれを貸して欲しいの!」
「虚無の曜日」
 それだけ言って、キュルケから本を取り返そうとするが、
「あのルイズがダーリンといっしょに買い物に行ったのよ! きっと何かプレゼントをして気を引こうっていう魂胆よ。
 ツェルプストーの女として、あのヴァリエールの女には負けてられない! ね? だから船を貸して」
 と懇願するものだから、タバサはふうとため息一つ。
 他ならぬ友人の頼みだ。数少ない例外の一人を無下にするつもりはない。
 タバサはゆっくりと立ち上がり、もうひとりの例外の元へ向かった。


 Hunter Pigeonの操縦室は今や一種のたまり場となっていた。
 キュルケとタバサが来ると、なぜかギーシュとモンモランシーがいて、ヘイズのとなりには三本線で描かれた顔が浮いている。
 いろいろな有象無象を無視して、キュルケが用件を伝えると、
「そりゃ、無理だ」
 とりつくしまもなく、一言でばっさりと切り捨てるヘイズ。
「な、なんで? こんなに立派な船なのにどうして飛ばないの? まさか風石が切れてるからとか?」
「こいつは風石なんて使わねえよ。ただ演算機関……じゃねえメイン動力の調子が悪くてな。調整が終わるまでは飛べねえ」
 必死に嘆願するキュルケに、「船は飛べません」という動かざる現状を伝えた。
「しっかし、こうなれば本格的になんとかしねえとな……」
「ヘイズ。演算機関の調整は急務となんども申し上げたはずですが」
「ああ。……明日から取り掛かる」
「それに近い言葉は今まで何度も聞きました」
 その光景を眺めていたギーシュがぽつりと呟く。
「随分と息の合った使い魔なのだね、君たちは」
 その発言にキュルケが、今気づいたという風に、
「そういえば、なんであんたたちここにいるのよ。あんたたちヘイズになんの用件があるのよ?」
 と訊ねると、ヘイズは仏頂面で、
「ギーシュはオレに、サイトの力を見抜いた戦術眼がどうたらこうたら。モンモランシーは浮気を繰り返す元彼がどうたらこうたら。オレの船はお悩み相談の駆け込み寺じゃねえぞ」
 と文句たらたらにぼやくが、
「こう言っていますが、ヘイズは頼まれると断れない性格でして。今もギーシュ様にもモンモランシー様にも親身に相談していたところでございます」
 などとハリーがいうものだから、ヘイズはくちをへのじにして黙り込んでしまった。

「ふーん。なるほどねえ」
 などと話を聞いたキュルケは顔をにやけさせる。
 それを見て苦虫を噛み潰したような顔になったヘイズは、
「聞いたぞ。お前サイトを自分の部屋に連れ込んだそうじゃねえか」
 と無理やり話題をそらせようとする。
「な!? 君はそんな大胆なことをしているのかね!? 僕でさえ、まだモンモランシを自分の部屋に招き入れたことはないというのに!」
 まだって何だ、まだって! と言いながらモンモランシーに鳩尾に拳をめりこまされ崩れ落ちるギーシュ。
「なあに? もしかしてヘイズはサイトに嫉妬してるのかしら?」
「いや、部屋の中からいつ出られるか分からないサイトよりも、ほぼ確実にここにいるオレのほうが呼びやすいんじゃないかと思ったんだが」
「あら。私は誰かの一番は取らないことにしてるの。特にタバサの大事にしている使い魔とかね」
 それを聞いたタバサの顔が少し緩んだ気がするのはヘイズの気のせいだろうか。
「それにしても君たちはどうしてそんなに仲がいいのだね? 始業式があってすぐに、決闘騒ぎがあったと聞くが」
 ようやく、苦悶のうめきを乗り越えたギーシュが、疑問を口にした。
「あ、それは私も聞きたいわね」
「ほう、そいつは気になるな」
「私もぜひ聞いてみたいものです」
 と次々に同意の声が上がる。
 キュルケはタバサのほうを見て、
「タバサも言っていいって言ってるから、教えるわね。あたしたちがどうやって、今のようになったか」
 そして訥々とキュルケは、語り始めた。

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