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クヴァーシルは月輪に飛ぶ

「ああ、ああっ、こんなに大きくて白くて立派なフクロウの使い魔なんて、
きっと誰一人として連れてないね! 素晴らしいよ、素敵だよ!
キミの名前はもう決めているんだ! ずっと前からこの名前にしようってね!
クヴァーシル! お伽噺に出てくる、とても賢くて強い鳥の名前さ!」
トリステイン魔法学院の中庭でおこなわれていた春の使い魔召喚の儀式。
『風上』のマリコルヌは歓喜の声を上げていた。
風の属性のメイジが使い魔を召喚すると、多くの場合空を飛ぶ生き物が召喚されるが、 マリコルヌが召喚したフクロウは全身の羽毛が純白で、同族の成鳥よりも二回りほど大きな、本当に立派なフクロウだったからだ。
向こうの方で失敗を繰り返していた同級生が平民を呼び出したなどと声が聞こえたが、 そんな外野の騒音など気にならないぐらいに、マリコルヌは大喜びだった。
少年は小さくも鋭く尖ったクヴァーシルの嘴に、コンストラクト・サーヴァントの口付けをしようと顔を寄せる。
その時だ。
召喚されたショックでか、今まで閉ざされていたクヴァーシルの眼がギョロリと開いた。
真円を描く、二つの月にも似た、その血走ったフクロウの瞳。
マリコルヌは知らず。
そのフクロウこそは元の世界でミネルバと呼ばれた恐るべき魔鳥。
殺気を感じて身をかわし、あらゆる敵の牙が届かぬ高き空を音の速度で飛翔する悪魔。
太古の伝説にあるゴルゴン、バシリスクなどと言う怪物どもと同列にある純白の恐怖。
彼のルールは、たった一つ。

……すなわち、見られた者は死ぬ。

【クヴァーシルは月輪に飛ぶ】

たった一つのルールをマリコルヌが理解し得たのかどうか。
一瞬の後には、ふとっちょの少年は目や鼻や口や耳、つまり顔の穴という穴から鮮血を噴出して絶命した。
誰かがそれに気がついて悲鳴をあげる。
空へと飛び上がったクヴァーシルの眼が、そこに並ぶ生徒達と使い魔を高みより睥睨した。
それだけで、虐殺は始まり、そして終結する。
苦悶の声を上げて、一人残らずバタバタと倒れる生徒達。
中には防御の魔法を織り上げる事に成功した者も居たが、そんな物など関係無しに死の視線が命を奪い取る。
異変を察して校庭に飛び出してきた教師。悲鳴に気がついて窓の外を覗いた生徒。
ありとあらゆる人間が、邪視の魔鳥に見られて死んでゆく。

わずか数分で、トリステイン魔法学院はその長い歴史に終止符を打った。

クヴァーシルは飛ぶ。
地上の事など何一つ気にならぬとでも言う様に。
それから数日でこの魔鳥の存在が知れ渡ると、人々は空を見上げる事を恐れるようになっていった。
クヴァーシルの存在を確認しようと、遠見の鏡などの秘宝を使ってその姿を見た高位の魔法使いも、バタバタと死んでしまった。
意気揚々と魔鳥討伐を宣言したトリステイン近衛魔法騎士隊の精鋭は、その出征セレモニーの最中飛来したクヴァーシルの視線に晒され、 隊長のワルド子爵を筆頭に、見送りの市民数千名を巻き込んで死滅する。
巨大戦艦『レキシントン』号をはじめとするハルケギニアの航空戦力は、空を飛ぶのに邪魔だとばかりに皆殺しにされ、 アルビオン王党派もレコン・キスタも関係無しに地に落ちた。
莫大な財力と未知の魔法技術で、かの鳥を討伐すると宣言した大国ガリアの国軍すらも、 国王ジョゼフ以下数万の兵が、一人残らず血を噴き出して死に絶える。
冥府で一足先に逝ったジョゼフの姪がその死を喜んだかは、さだかでは無い。
かくしてクヴァーシルは自由にハルケギニアの空を舞い、人々は鳥の羽音一つに怯える日々を送っていた。
市民は家を出ず、兵士は歩哨に立たず、猟師は弓を取らず。
日が暮れてフクロウの時間が来れば、誰もが視線の通らぬ壁の中で震えて朝を待つ。
そんな日々が、何ヶ月も続いた頃。
トリステインの王宮に、一組の男女が現われた。
奇怪な仮面にマントと杖を携える中年の男と、凍りついた雰囲気で長剣を抱えるように持った少女。
一人はラ・ヴァリエール公爵家息女、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。
一人はトリステイン魔法学院教師、『炎蛇』のジャン・コルベール。
共に魔法学院での虐殺を生き延びた、たった二人のメイジであった。
婚約者であるワルド子爵を殺されたためか、氷のような瞳に情念の炎を宿らせたルイズは、 伝説の『始祖の祈祷書』と『水のルビー』の貸与をアンリエッタ女王に願い出て、 二つ名に相応しい蛇を模した仮面を付けたコルベールは、錬金の魔術を使える優秀な魔術師の協力を願う。
ただ一つの目的、魔鳥クヴァーシルの討伐のためにと。

「わたくしが生き延びたのは、身を盾にした使い魔によってとっさに守られた数秒の時間が有った事。
そしてその数秒が与えた猶予によって、防御の呪文を唱えられた事によってでございます、姫様」
「まぁルイズ。いったいどんな呪文を唱えたと言うの?
あの恐ろしい鳥の視線にはどんな魔法の達人も耐えられなかったと言うのに!」
「姫様、わたくしは虚無の魔術師でありました。始祖より与えられし伝説の魔術。
虚無の力によって生まれた爆発が、かの魔鳥の視線から放たれる毒を打ち払ったのです」

名前も聞くことが出来なかった平民の少年によって守られ、生き延びたルイズは、 瀕死であったコルベールと共に魔鳥を追って、大きな街にたどり着いた。
クヴァーシルに一矢報いる武器を得んと、店主一家の死に絶えた武器屋に入り込んだ二人が見つけたのが伝説の剣。
デルフリンガーと名乗った剣に教えられ、ルイズは自分が虚無の魔術を操るメイジなのだと知ったのだ。
そしてコルベールは王女と宰相の前でこう語った。

「かの鳥を倒すのは、離れた相手を攻撃する事も出来ぬ剣や槍でも無ければ、 はっきりと視認できる距離でしか放てぬ魔法の力によるものでもありません。
火薬によって離れた相手に鉛の弾丸を飛ばす銃。
それも今までに無い、長々距離に弾丸を飛ばす銃を作り出さねばならないのです」

そう言って、王立アカデミーの研究院の協力をとりつけて新型長銃の開発を始めた。
『錬金』の精度を上げて銃身の強度を増し、装薬出来る火薬の量を増やす。
火薬そのものも湿気や温度変化に強く、より爆発力を高めたものに改良。
なにより、弾丸を正確に真直ぐ飛ばすために銃身の内側に正確な直線のミゾを入れた。
4本のミゾを入れた十字口、8本ミゾの八条口、更に十条口とミゾを増やしていったが、思ったほどの安定した弾道は得られない。
だがある時、偶然にも他の銃よりも安定した弾道をもった銃が製造される。
それは、製造工程のミスでミゾが捻れていた失敗作であった。
捻れ、つまり螺旋状に彫られたミゾこそが、弾丸に回転を与え、飛距離と安定性を生む。
こうして、正確な螺旋ミゾを彫るための試行錯誤が繰り返され、
ついに螺旋ミゾ――ライフリング――を有した長銃、トリステイン・ライフル壱式が開発されたのである。

最新式のフリントロック機構でありながら不発の可能性を極限まで減らしたライフル壱式、
そして始祖の祈祷書と水のルビーを携えて、コルベールとルイズはクヴァーシルを追って旅立った。
何百人のメイジが隊列を組もうと、クヴァーシルの視線の前にはひとたまりも無いのは既に証明されている。
ゆえに、最低限の人数で可能な限り近づき、そして狙撃する。
それこそが、二人の立てたクヴァーシルへの対抗法であった。
けれど空を飛ぶ仇の後を追うのは難しく、更に数ヶ月の時が過ぎ、更に多くの命が奪われていく。
反撃の機会はクヴァーシルの魔眼から運良く逃れたアルビオン皇太子ウェールズと、 彼の率いる『イーグル』号がルイズ達二人と邂逅した事から始まった。
周囲の生き物全てを滅ぼすクヴァーシルの出す羽音を拾って、正確に位置を探る魔術を開発したアルビオン空軍生き残り部隊と、その船に同乗していた、卓越した風竜の乗り手ジュリオ・チェザーレ。
多くのロマリア市民と教皇までもを殺害したクヴァーシルへの復讐を誓ったジュリオは、コルベールの願いを快く受け入れた。
それは、命がけの危険な作戦。
クヴァーシルの唯一の死角である頭上から、風竜での高速降下突撃による一撃必殺の狙撃だ。
失敗すれば大地に打ち付けられて死ぬであろう作戦に、しかし誰一人としてやめようと言う者は居ない。
誰もが決死の覚悟を決めて杖と剣と銃を打ち合わせた時、メイジの一人がクヴァージルを発見したとの報告を届けた。
イーグル号を降り、ウェールズ皇太子と共に馬でクヴァーシルへと近づくルイズ。
鬱蒼とした森の中では、上空から襲い掛かることなど出来ない。
クヴァーシルを挑発し、魔眼の鳥を森の外におびき出すのが二人の役目だった。
森の中で羽を休めていたクヴァーシル。
皇太子は小さな声で詠唱するのは、強力な攻撃のスペルだ。
だが呪文が完成するよりも早く、殺気を感知したクヴァーシルが目を開き、二人にむかって襲い掛かる。
迫り来る恐るべき速さの飛翔と恐るべき視線。
即死の邪視をルイズの放つ虚無がかろうじて受け止める。
どう! と倒れ臥す馬から飛び降りつつ謝罪の念を向けながら、皇太子とルイズは森を走った。
木が死ぬ。草が枯れる。リスが兎が狼がイノシシが死ぬ。森の命が滅びる。
あらゆる生ある物をことごとく死滅させつくして、クヴァーシルは森を飛んだ。
転がるように森を飛び出す二人。
追って現われたクヴァーシルの視線を、虚無の魔法が弾き飛ばす。
その瞬間こそ唯一の好機。
今度こそ二人を仕留めんと反転した瞬間のクヴァーシルへと、自由落下よりもなお早い速度でジュリオの竜が急降下した。
だが、魔鳥が気付く方が早い。
間に合わないと気がついて――
否、始めから間に合わぬと知っていたコルベールは、既に『フライ』の魔法を唱え終わっている。
最高速にのった竜の背を蹴って、銃を構えたままで飛び出すコルベール。
銃口は邪視の鳥の眉間にピタリと合わせられ、引き金には人差し指がしっかと掛けられている。

「だめだコルベール師、まだ―――」

それでもなお、クヴァーシルの視線の方がわずかに早い。

「なに、これで間に合いますとも」

その時、あまりの風圧にコルベールの仮面が外れて飛んだ。
一年ぶりの外気に晒されるのは、ひどい火傷に崩れた顔面と白濁した眼球。
彼が魔眼の鳥から生き延びたのは、あの時自分の眼を自分で焼き切ったからであった。
目から体内に侵入して人を殺す猛毒の視線は、ゆえにコルベールを即死させない。
次の瞬間に蛇のように絡み付いて耳から侵入して炎蛇を殺すだろう。
それでも、わずか一瞬の差で銃弾は放たれるのだ。
コルベールの死を、代償として。

「だめよ! 死なないでコルベール先生!
もう誰も私の目の前で死んで欲しくない……死なせないってアイツに誓ったから!」

ルイズの脳裏に自分をかばって死んだ使い魔の姿が浮かぶ。
咄嗟に唱えた呪文は虚無の呪文『幻影』であった。
脳裏に浮かんだ使い魔、平賀サイトという名の異世界の少年の姿が、コルベールの姿を隠すように現われる。
クヴァーシルのルールはたった一つ。
『見られたら、死ぬ』
ゆえに幻影の後ろにであろうとも、姿を隠したコルベールに死の視線は届かなかった。

銃声が一つ。
バツリと、鉛の弾丸がクヴァーシルの眉間を貫く。

クヴァーシルとコルベールは交差して、鳥は天へと、炎蛇は地へと。
魔法による制動が間に合わず地面に激突する寸前のコルベールを、ジュリオの風竜が間一髪で咥え取った。

「まったく、もう少し僕やコイツを信用して下さいよ、コルベール師」
「いやはや、また死に損ないましたか……」
「先生、クヴァーシルが!」

竜の口から開放されたコルベールが、ルイズに促されて見上げれば、青い月へと飛び続けるクヴァーシルの姿。

「まさかあの化け物、まだ生きているのか!?」
「いや―――鳥にまつわる、空の船乗りの間で知られている話がある。
強い気流のなかで絶命した鳥の中には、死んだ後もずっと飛び続けるものが居るのだ。
あの魔鳥もきっと―――」

慌てて風竜に乗り込もうとしたジュリオに語ったのは、ウェールズ皇太子。
王子の眼は、すべての終わりを見届けるように静かに澄んでいた。
四人の間に沈黙の帳がおりる。
その中で、コルベールが呟くように、唄うように、クヴァーシルを見送った。

「どこまでも飛んでゆきなさい、鳥よ。そこがあなたの場所なのだから。
鳥は空を飛び続け、蛇はまたこれからも地を這うのでしょう。
私がかつて奪い、今度もまた守れなかった幾多の命の分まで。
いつか、私がお前の場所に召されるその日まで……さよならですなクヴァーシル」

その言葉を最後として、ハルケギニアの住民を恐怖させた魔鳥の事件は終わりを告げた。

「さて、トリステインへ帰りますか」
「そうね、先生」
「では王都までイーグル号でお二人を送りましょう」
「僕も二人を見送ってからロマリアに帰還するかな」

四人はそれぞれの感慨を噛み締めながら帰路につこうとした。
そんな四人を、戦いの終わりを知ったイーグル号が迎えに来て、そして開口一番。

「船長! ゲルマニアの魔法学院で巨大で九本尻尾の白い狐の魔物が召喚されたそうです!」
「ガリアのリュティス魔法学院で死病をまきちらす自動人形の一団が召喚されたと連絡が!」
「我がアルビオンの魔法学院でも火を吹きながらジャンプする怪人が召喚されたと、いましがた緊急報告が!」
「ミス・ヴァリエール、コルベール師、帰国は一時中止だ! 協力を頼む!」
「やれやれ、ゆっくり休む間もありませんな」
「任せて下さい! こんどはもっと、ちゃんと戦ってみせますから!」
「もちろん僕も参加させてもらいますよ」
「総員配置に付け! イーグル号、発進!」

颯爽と飛び立つ空の帆船。
この年以後、ハルケギニア全土の魔法学院で使い魔召喚は禁止されたとさ。

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