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白き使い魔への子守唄 第7話 賊

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ふと、見上げた夜空。
黒いキャンバスの中またたく満天の星。
大きな青い月と、小さな赤い月が、夫婦のように寄り添って、学院を照らす。
ひた向きに努力を重ねる者を。
冷たい水に負けじと剣を磨く者を。
復讐のため家族のため世界に抗う者を。

   第7話 賊

「えー、そんなぁっ! どういう事、ダーリン!」
洗濯物の洗い場で、キュルケが豊かな胸に剣を挟んで扇情的に身体を振りながら叫んだ。
そのリアクションに、どうしたものかとハクオロは苦笑いを浮かべる。
「どうもこうも、自分はすでに剣を買ってもらっている」
「でも、そんな錆びたボロ剣より、こっちの方がいいに決まってるじゃない!」
と、キュルケはハクオロの手元に視線を向けた。
ハクオロは地面にしゃがみ込み、桶の中に張った水で、デルフリンガーを洗っている。
「そういう装飾過多な剣は信頼できなくてな」
「錆びてるよりはマシでしょ?」
「だからこうして、錆を落としているんじゃないか」
学院に帰った後、夕食のついでにマルトーから砥石を借りたハクオロは、
すでにデルフリンガーの錆のほとんどを磨き落としていた。
後は水洗いをし、雑巾で拭くだけというところである。
「でもねダーリン。これはゲルマニアの高名な錬金魔術師シュペー卿が――」
「その話ならあの店で聞いた。その上で私はデルフリンガーを選んだんだ」
「デルフリンガー? 何それ、剣に名前なんてつけてるの?」
「別に相棒につけられた訳じゃねーけどな」
「え?」
突然聞き覚えの無い声がしてキュルケは周囲を見回したが、
彼女についてきていたタバサが自分の身長より長い杖で洗われている剣を差す。
「インテリジェンスソード」
「マジ? ダーリンったら、そんな変な物を買うだなんて」
「さすが」
キュルケは困惑しているようだが、タバサは納得とばかりにうなずいた。
額の両側から突起の生えた奇妙なデザインの白い仮面。
こんなのをつけてる男なんだから、相当人と違う趣味の持ち主に違いない。
だからキュルケが買った煌びやかな剣は受け取ってもらえないだろうと予測はついていた。
それでも一応成り行きを見てみたくてついてきたら、インテリジェンスソードときたもんだ。
ただの錆びたボロ剣だと思っていたら、想像の斜め上を行く展開を見せてくれた。
錆びてボロボロなインテリジェンスソードを選ぶ彼のセンス。
間違いない、本物だ。
この人のファッションセンスは、愉快。
「ともかく、自分はこの剣で満足……とまではいかないが、納得している。
 明日になったら試し切りでもしてみようと思っていてな」
「試し切り……そう、それよ! 試し切りをすればいいわ!
 私の剣とそのインテリジェンスソード、どっちが優れているか確かめればいいじゃない!」
「……なるほど」
有名な錬金魔術師が鍛えた剣、装飾用だろうと思っても興味が無い訳ではない。
しかしもしシュペー卿の剣の方が切れ味がよかったら、デルフは?
「相棒。俺の心配ならいらねーぜ。そんな派手なだけのナマクラに俺が負ける訳ねーからな」
「……いや、やはり必要の無い物だ。自分は彼女から無償で高価な品をもらう理由が無い」
試してみて優れている方を、という魅力的な選択肢をハクオロは拒否した。
積極的に迫ってくるこのキュルケから贈り物をもらったら後が怖いというのもあったが、
一番の本音は今口にした通り高価な品を無償で得る事に抵抗があるからだ。
「ダーリンったら、人格者なのね。そんなところも素敵!」
あばたもえくぼの要領でキュルケは贈り物を断られても、逆に好意を深めた。
「さて、デルフを磨き終えた事だし、寮に戻ろう」
学院内とはいえ時刻は夜、若い女性だけで出歩くのは危険だろうと、
ハクオロは二人と一緒に寮へ帰る事にした。
もちろんキュルケは大喜びで腕を組み、タバサは並んで歩く二人の一歩後ろをついてくる。


本塔の外壁に張りついていた彼女は、人の気配を感じるとすぐに身を隠した。
こんな時間、こんな場所、いったい誰が何の用でと、苛立ちに眉根を寄せながら。
やって来たのは桃色の髪の女生徒だった。
あれは確か、ヴァリエール家のご令嬢、平民を召喚した『ゼロのルイズ』だ。
まさか自分と同じ目的という訳でもあるまいし、いったい何しに来たのか?
彼女は物陰からルイズの様子をうかがった。

ルイズは人気の無い中庭まで来ると、周囲に人がいない事を確認して、杖を取り出す。
「ここなら寮からも離れてるし、大きな音がしても誰にも迷惑かけないわよね」
コモンマジックが使えるようになって『私の世の春が来たー!』状態のルイズは、
真面目にコモンマジックの練習をしてみたところ、全部一回か二回で成功した。
となれば次のステップへ進むしかあるまい。
ルイズが今、一番使ってみたい魔法。
空を自由に、飛びたいな。はい。
「レビテーション!」
穏やかな夜が、爆音で渦巻く、煙が上がる。
希望に満ちあふれていた空気が一転、ルイズはコホンと咳払いをした。
「……そうね、人には系統っていうものがあるものね。私は風じゃないのかも。
 風が駄目なら水よ! トリステインは水の国! いざ!」
水柱を立てるつもりが、新たな煙を立たせる結果に終わったルイズ。
相変わらず失敗して爆発が起こっているが、爆発は自分を綺麗に避けて起こっている。
これもある意味、自己防衛本能が働いたというか、そう、成長の証なのだ。
だから爆発がより派手により強力になってるなんて気にしない。
「ふ、うふふ。平気平気、十六年ずーっとゼロだったんだもの。
 一度や、二度の失敗くらいで、へこたれたりなんかしないわ。
 つつつ、次は、つ、土、やってみようかしら。そうね、錬金よ。錬金するわ」
手近にあった小石を拾い、手のひらの真ん中に置いて、杖を向ける。
さすがに錬金する対象を直触りでやるのは危ないのでは、
などという当然の発想は二度の失敗により空の彼方まで吹き飛んでいた。
ルーンを唱えて錬金をかける。
何を錬金するかのイメージは、ええと、土でいいや簡単そうだし。土、土よ土。
手のひらの上で盛大な爆発が起こり、しかし手のひらには傷ひとつつかず、
けれどススが顔や髪について、ルイズはゴホンと咳き込んだ。
「……け、系統魔法の練習は、ちょっと早かったかしら」
「早いっていうか、まずコモンマジックから練習しなさいよ」
とそこに、呆れた口調で語りかけてくるキュルケ現る。
そのキュルケと腕を組んで、その腕を大きな胸で挟まれているハクオロもいた。
二人の後ろにはタバサがいたけどルイズの眼中には無かった。
「な、ななな……」
「何してるのよ、こんな時間、こんな場所で」
ルイズは、キュルケと腕を組んでいるハクオロを見て、頭に血が上り、
さらに、ハクオロの脇に抱えられたデルフリンガーと、
買わなかったはずのシュペー卿の剣を見つけて、わなわなと震え出した。
殺気を感じ取ったハクオロはしどろもどろになりながら言い訳を開始する。
「ち、違うんだルイズ。この剣は別に贈り物とかではなくて、
 ただ寮まで持ち帰るのに重そうだったから、私が預かっているだけで」
「こここ、この、好色犬ぅぅぅ!!」
杖を振り回しながらファイヤーボールの詠唱をするルイズ。
起こる惨劇を予測して、ハクオロはキュルケをかばうように抱き寄せ、
タバサは素早く防御のための風を自分達の周囲に吹かせる魔法を唱えた。
が。
狂乱しながら放たれたルイズの魔法は狙いを大きくそれ、
本塔の外壁で爆発が起こり、その破片がガラガラと落ちた。
幸い爆発箇所から距離があり、破片も離れた位置に落ちたため、
ハクオロ達三人が負傷するような事態にはならなかった。
幸運だ。
そしてこの幸運を喜ぶもう一人の人物はニタリと笑って杖を地面に向ける。


「こここ、この好色犬! 何キュルケに抱きついてんのよ!」
「ダーリンったら、私をかばおうとしてくれたのね。ポッ」
「いや、自分は、その、それより塔の壁が崩れてしまったようだが大丈夫なのか?」
怒り沸騰のルイズ、惚け中のキュルケを正気に引き戻す発言をするハクオロ。
二人は塔を見上げた。
外壁が結構分厚いのか、表面が崩れただけですんでいるが、それでも相当やばい。
修繕費は当然、ルイズの自腹だろうなぁとハクオロは思った。
授業中の事故ならともかく、決闘の時は治療費自腹だったし、今回も。
デルフリンガーを買ったり、クックベリーパイを食べたりと、
他にもちょっと買い物を楽しんだおかげでルイズのお小遣いはゼロに近い。
実家に事情を話してお金を送ってもらうしかないだろう。
ルイズの顔が蒼白になる。
ヤバイ、怒られる、どうしよう。
そんなルイズに同情の視線を向けつつ、キュルケは呆れた口調で呟いた。
「まったくルイズったら、使えもしない魔法を使おうとするから……」
「ち、違うもん! コモンマジックは使えるようになったもん!」
「また強がりを……」
全然信じようとしないキュルケが同情の色を消して胡散臭そうな眼差しを向けた。
こうなったらハクオロを証人に、いや、目の前でコモンマジックを使って見せれば。
ルイズがそう考えた途端、タバサが、
「伏せて」
杖をかざす。
その先の地面が盛り上がって、巨大な土が山のようにそびえ立った。
「な、何なのタバサ!?」
「ゴーレム」
そう、それはゴーレム。
ギーシュのワルキューレとは格が違う、巨大で強力な土のゴーレム。
そのゴーレムの肩に黒いローブを着た何者かが乗っている。
「あれは、まさか」
最初にその正体に気づいたのはタバサだったが、彼女は無口だったため、
最初にその正体を口にしたのはハクオロだった。
「土くれのフーケ」
武器屋で聞いた、メイジの盗賊。
それにしても何という巨体なのだろう、あのゴーレムは。
ギーシュのゴーレムは人間と同じ身長だったというのに、
今目の前にいるゴーレムは大雑把に測っても三十メイルはある。
土くれのゴーレムはルイズ達ハクオロ達には見向きもせず、
外壁を破損した塔に向かって拳を叩き込み、瓦礫の雨を降らせた。
咄嗟にハクオロは剣を振り、自分達に向かって落ちてきた瓦礫をひとつ弾き飛ばす。
甲高い音がして、瓦礫の他に弾き飛んだ物体があった。
「あ」
ハクオロの振るった剣が、根元からへし折れたのだ。
「だからナマクラだって言ったろう」
地面に落っことされていたデルフリンガーが呆れた口調で言う。
折れたのは、シュペー卿の鍛えた名高い剣であった。
で、降ってくる瓦礫はそれ一個ではなく、剣一本ですべて防ぐなど不可能であり、
しかも地面に落ちてるデルフリンガーに持ち替える余裕など無い。
が、ハクオロ達を包むようにして発生した竜巻が防護壁となり瓦礫を吹き飛ばす。
的確に状況判断をしたタバサが詠唱した魔法だった。
その間にキュルケは冷静さを取り戻し、ハクオロの腕を引っ張る。
「早く逃げましょう! タバサも!」
「あ、ああ」
三十メイルのゴーレムなんてとても手に負えない、教師を呼ぶしかない。
ハクオロは折れた剣をその場に放り捨て、デルフリンガーを拾うと、
一足早く逃げ出したキュルケとタバサの後を追おうとし、立ち止まる。
「ルイズ、何をしている!」
立ち止まって、振り返った先では、ルイズが杖をゴーレムに向けていた。


「あいつ、私が壊してしまった壁を殴って、中に入っていったわ!
 私のせいで、だから、あの賊を何とかしなきゃ!」
ファイヤーボールの詠唱をし、ゴーレムの表面で爆発を起こさせるルイズ。
なぜか威力の向上している爆発は、ゴーレムの肩を半分ほどえぐった。
しかしそこにはもう、黒いローブの人物、土くれのフーケの姿は無い。
塔に空いた穴から宝物庫に侵入したフーケは薄ら笑いを浮かべていた。
固定化をかけられた分厚い外壁、自分のゴーレムでも壊せなかったろう障害に、
なぜかあの『ゼロのルイズ』が突破口を開いてくれた。
おかげでこうして宝物庫に入り、お目当てのお宝を盗む事ができる。
宝物庫には様々な宝があったが、フーケはとある黒い箱にしか興味を示さない。
黒い箱の下には『天照らすもの。持ち出し不許可』と書かれたプレートがあった。
念のため箱を開けて中身を確認したフーケは、にんまりと笑う。
「ふふ……美しいわ、なるほど天を照らすと言われるだけの輝きがある」
箱を閉め懐にしまい込んだフーケは、壁に向けて杖を振った。
するとそこに文字が刻まれる。
『天照らすもの、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
その後フーケは己のゴーレムの肩に飛び乗り、
反対側の肩がえぐれている事に多少の困惑を見せたが、
構わずゴーレムを学院の外、森へ向けて歩かせた。
足元でゼロのルイズ達がわめいているようだがどうでもいい。
上機嫌のフーケは森に入るとゴーレムから降りて身を潜め、
そのままゴーレムをしばらく歩かせたところで元の土くれに戻した。
無人のゴーレムを追って頭上を風竜が飛んでいく様を見て、彼女は声を殺して笑う。

使い魔のシルフィードを使いゴーレムの追跡に向かったタバサを案じながら、
ハクオロはルイズの無事に安堵していた。しかし。
「あんな挑発するような真似をして、もし反撃をされたらどうするつもりだった」
ルイズの無鉄砲な行動をいさめたが、ルイズは拳を握りしめて黙り込んだままだ。
場の空気の悪さにうんざりしつつ、キュルケはタバサの帰りを待つ。
しばらくして、事件に気づいた教師達が駆けつけるのとほぼ同時にタバサが帰ってきた。
土くれのフーケを見失った、という残念な結果を持って。

翌朝になって、学院長室に集まった教師陣は責任の押しつけ合いを始めていた。
醜い争いをおさめたオールド・オスマンは、
事件の目撃者として呼び出しておいた四人に説明をするよううながす。
四人とはもちろんルイズ、キュルケ、タバサ、そしてハクオロだ。
ルイズが説明しようとしたのをさえぎって、キュルケが一部始終を話す。
が、その説明の中に『ルイズが魔法で外壁を破壊した』という言葉は含まれなかった。
話を聞き終えたオールド・オスマンが顎ヒゲをさすって思案し出すと、
タイミングを掴んだとばかりにルイズが口を開こうとしたが、
いきなり学院長室のドアが開け放たれ、秘書のミス・ロングビルが駆け込んできた。
ロングビルは事件を知るや即座に調査に向かい、フーケの居場所を突き止めたと報告。
教師達は沸き上がったが『誰がフーケ討伐・天照らすもの奪還に向かうか』に話題が向くと、
全員そろって怯え出してしまう始末。あまりの情けなさにオスマンは深々と溜め息だ。
王室に連絡して兵を派遣してもらうという意見も出たが、
それでは遅すぎてフーケに逃げられてしまうし、
学院の不始末は学院でつけるべきとオスマンは強く主張した。
結果、捜索隊に参加る者は皆無。いっそ自分がとオスマンは思い始める。
ルイズが杖を掲げた。それを見てキュルケも杖を掲げた。さらにタバサも杖を掲げた。
オスマン以外の教師陣が慌てふためいたが、オスマンは彼女達を捜索隊に任命する。
タバサはシュヴァリエの称号を持つ騎士で、キュルケは軍人の家系、
弱虫毛虫教師達よりはずっとマシだとオスマンは言い切った。
で、ルイズ。
「彼女は、えーと、ヴァリエール家の出身でだね、将来有望というか、大器晩成っぽいし。
 あー、うん。彼女の使い魔は決闘でギーシュ・ド・グラモンを倒してるし。んー、あっ。
 そう! 何より錬金に失敗して起こした爆発の威力はすごかったと聞いているぞ!」
褒め言葉じゃない、とみんな思った。ルイズも思った。
(絶ッ対ッ! フーケを捕まえて汚名返上してやるんだから!)
人一倍闘志情熱使命感に轟々と燃えるルイズ。
そんな彼女はまさに、空回りしていた。


何だかんだで結成される捜索隊。
ゼロのルイズ、微熱のキュルケ、雪風のタバサ。
そして好色犬ハクオロ、あるいは我等が仮面ハクオロ、もしくは平民の使い魔ハクオロ。
この四人、に加えてオスマンの秘書ミス・ロングビルの姿もあった。
フーケの居場所を突き止めた彼女は自ら案内を申し出て、
今は四人を乗せた馬車の手綱を握り街道を進んでいる。
「で、結局キュルケからもらった剣は折れちゃった訳ね」
「あ~ん、もう、結構高かったのにぃ。ダーリン、慰めて!」
「ちょっと、ハクオロにくっつかないでよ。そいつは私の使い魔なの!」
「ダーリン! メイドにお弁当を用意させたの。はい、アーンして」
ルイズとキュルケ、両手に花というより挟み撃ちにされてハクオロは頭を抱えていた。
助けを請うようにタバサに視線を向ける。読書に夢中。
ならばとロングビルに視線を向ける。手綱を手に馬車を走らせている。
邪魔するのはよくないな、ハクオロは二人に挟まれたまま天を仰いだ。
陽射しが眩しい。
「天照らすもの……か。いったいどのような物なのだろうな」
ふと、呟いたその言葉にルイズとキュルケの喧嘩が止まり、一身に視線を浴びる。
タバサも本から顔を上げ、ロングビルも手綱を握ったまま振り向いている。
「ん? 何だ?」
ルイズは思い出したように呟く。
「そういえば天照らすものがどういう物なのか聞いてないわね」
キュルケは顔をしかめながら言った。
「マジックアイテムよね? どんな形をしてるのかしら」
タバサは誰にも聞こえないような小声で。
「……コッパゲ型?」
それは天照らすものじゃなくて、天に照らされるもの。
とタバサは心の中でセルフツッコミを入れた。
結局誰も天照らすものの能力どころか形状すら知らぬとなって、
ロングビルは残念そうに溜め息をつく。

しばらくしてハクオロ達は無事フーケの隠れ家に到着した。
見つからないよう馬車を遠くに置き、小屋の周囲にある森の中から様子をうかがう。
人の気配は感じられない。
さっそく踏み込もうとルイズは提案したが、ハクオロが待ったをかける。
「真正面から乗り込むのは危険が大きい。
 それに学院からこんな近い場所に潜むなど、何か裏があるかもしれん。……罠か?」
「でも、行かなきゃフーケを捕まえられないわ」
「うーん、フーケが罠を仕掛けている可能性があるのなら、こちらも罠を仕掛けるか」
三十メイルのゴーレムをどう倒すか?
落とし穴だとか、水を引いて泥沼を作るなど、動きを封じる策を提案するハクオロ。
しかそそのどれもが実現不能である。
魔法を使えば何とかできないか、という淡い期待を持っていたのだが。
「やはり作戦を練るだけの時間や人員が無いと、どうにもならんな」
「でもダーリンの作戦、実行できればかなり有利よね。本当に平民?
 何だか考え方とか、どことなく軍人っぽく感じるんだけど」
「軍人? 私が?」
キュルケに言われて、そうかもしれないとハクオロは思った。
それなら戦いのための作戦を自然と考えてしまう己の思考や、
槍や剣といった武器をある程度使えるのにも納得がいく。
しかし今はそんな考察は役に立たないし、作戦も思いつかないのが現状だ。
仕方なくハクオロは、自分が小屋の様子を見に行き、
フーケがいたらルイズ達に知らせて攻撃するという、簡単な策にした。


ハクオロはデルフリンガーを握り、一人小屋へと忍び寄る。
フーケが土系統のメイジという事で地面に何か罠がないかと慎重に歩を進めたが、
特に何事も無く小屋に到着し、窓から中の様子をうかがう。
人気は無い。隠れられそうな場所も見当たらない。
窓から死角の位置にいるのか、それともとっくに逃げた後なのか。
フーケの姿はどこにも見当たらなかった。
ハクオロは合図をしてルイズ達を呼び寄せる。
恐る恐る近づいてくるルイズ達だったが、タバサは物怖じせず小屋の前に立ち、
ドアに向けて杖を振り、魔法で小屋を調べる。
「罠は無いみたい」
そう言うや、ドアを開けて中に入って行ってしまった。
寡黙な少女の意外な行動力に驚きながら、ハクオロとキュルケも後に続き、
ルイズは外で見張りをすると言って残って、ロングビルは辺りを偵察するため森の中に。

小屋に入った三人は、フーケが何か手がかりを残してないか調べ出す。
するとすぐにタバサが黒い箱を発見する。
「天照らすもの」
探し物がいとも簡単に見つかり、ハクオロもキュルケも目を丸くした。
だが果たして本当に本物なのか、とりあえず箱を開けてみる。
と、キュルケは天照らすものの輝きにうっとりと微笑んだ。
「へえ、素敵。澄んだ青空のように美しいと思わない? ダーリン」
「ん……そうだな」
ハクオロも天照らすものを見て『美しい』とは思ったが、
どこかで見た覚えがあるような気がしてならなかった。
装飾だって、どことなく和風というか、ハルケギニアらしくないデザインだ。
もしかして自分の元いた國、あるいは東方の品なのだろうか。
「だがこれが本当に天照らすものなのか? 誰も見た事がないんだろう?」
「それもそうだけど、そうね、ちょっと調べてみましょうか」
キュルケが杖を振って光の粒を天照らすものに振り掛ける。
光は天照らすものに触れると溶けるように消えていった。
「……おかしいわね?」
「どうした?」
「天照らすものっていうくらいだから、マジックアイテムだと思ったんだけど……」
続く言葉は、外から聞こえたルイズの悲鳴にさえぎられた。
さらに轟音を立てて小屋の屋根が吹き飛ばされ、晴れ渡った青空が見えるようになる。
その青空をバックに巨大な土のゴーレム。
ハクオロは叫んだ。
「出たな土くれのフーケ!」

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