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Mr.0の使い魔 第二十五話

「撃てッ!」

 包囲部隊の指揮を執る傭兵は、都合七度目となる号令をかけた。最前列
で片膝をついた傭兵達が、弓やクロスボウを一斉に放つ。玄関口の竜巻が
弱まる瞬間を狙ったのだが、入れ替わりに炎が巻き起こり、放たれた矢は
全て塵に還ってしまった。
 後列の者から装填の終わったクロスボウを受け取りつつ、一人が何とも
退屈そうに訴える。

「なぁ、いい加減突っ込んでもいいんじゃねぇか?」
「いや、もう少し追い詰めてからだ。まだ相手には余裕がありそうだからな」

 そう答えて、隊長格の傭兵はあの白仮面の男を頭に思い描いた。
 つい先ほどまで一緒に様子を見ていた白仮面は、突然「獲物がかかった」
とどこかに消えてしまったのだ。去り際に、宿に残ったという相手の情報
を伝えてから。

『全部で三人。うち二人はそれぞれ風と炎のトライアングル。もう一人は土のドット』

 これを聞いた隊長は、とにかく二人のトライアングルを疲弊させるため
射撃を続行したのである。ひたすら矢を撃ち込んで魔法を無駄遣いさせ、
厄介な二人を無力化しておく。土のメイジは、ドットならそれほど恐れる
事はない。高破壊力の上級呪文を使われる心配がなく、有名なゴーレムも
ドットが作り出せる性能はたかが知れている。
 練度の低い若輩ばかり——老獪な者や勘のいい連中は『金の酒樽亭』で
巻き込まれた者を除き、皆警戒して関わろうとしなかった——であるが、
それでも百人近い人数で正面を抑えているのである。弱らせさえすれば、
最後は物量に任せて押し切れると隊長は踏んでいた。
 そいつらが裏口から逃げるのならそれでもいい。今回の仕事では、馬鹿
正直にメイジと一戦交える必要性などないのだから。

「おら、無駄口叩いてないでさっさと構えろ。そろそろあの火が消える頃合いだ」
「へいへい」

 軽装の傭兵がぶつくさ言いつつも前に向き直ったのを見届けて、隊長は
再び視線を『女神の杵亭』に戻した。玄関前で雨水を蒸発させていた炎が、
次第にその勢いを弱めていく。

「よーし、構え」

 号令に従い、前列が武器を構えた、その直後。
 炎を突き破って、青い人影が玄関口から飛び出した。鎧兜に身を包んだ
そいつは、2メイル近いハルバードを手に傭兵達へと襲いかかる。

「う、撃てッ!」

 咄嗟に射撃の命令を出すのと、無数の矢が放たれるのとは殆ど同時だ。
鎧や兜を鏃が穿ち、その人影は敢えなく頽れる。倒れた衝撃で、腕や足の
鎧がばらばらと転がった。
 中身は、ない。

「ゴーレムだと!?」

 誰かが驚きの声を上げた時には、既に次の攻撃が始まっていた。今度は
四体、先ほどと同じ型の鎧人形が宿から飛び出す。最前列が矢を射た直後
の隙を突かれたのだ。装填済みのクロスボウは後ろの補充係の手の中で、
射手に受け渡す時間はない。弓は矢を番えて引き絞る時間がない。
 もっとも、射撃の穴を埋める備えは用意していた。驚愕から笑みへ表情
を変えた隊長は、慌てず次の命令を下す。

「近接隊、行けぇ!」

 後ろに控えていた傭兵達が、待ってましたとばかりに躍り出た。その数
およそ六十人。各々剣や斧といった接近戦用の武器を携えて、ゴーレムに
殺到する。
 瞬く間に、戦場は乱戦の様相を呈した。円弧を描くハルバードの軌跡に
大剣が割り込み、受け止める。その隙を狙い槍が突き出され、鎧の関節を
貫く寸前で別のハルバードに叩き落とされた。
 ドットが操っているとは思えないほど流麗な動きをするゴーレム達だが、
如何せん数の差だけはどうにもならない。ついに一体が、大上段から振り
下ろされた大斧で叩き割られる。
 と、他のゴーレム達が一気に下がった。同時に、玄関口に人影が現れる。
キザな笑みを浮かべた金髪の少年——ギーシュだ。間髪入れずに後方から
矢が飛び出すが、それらは悉くハルバードに打ち払われた。間に傭兵達を
挟んだ状態では山なりの軌道で飛ばすしかなく、自然と命中までの時間が
延びてしまう。矢の到達までに時間があるなら、それを見切って切り払う
事はたいした苦労ではないのだ。
 青銅の戦乙女に守られたギーシュは、さっと前髪をかき上げた。

「勇壮な傭兵諸君、君達はよく戦った。が、残念ながらこれまでだ」
「ほざくな、ガキが!」

 激昂した一人が、剣を構えて吠え立てた。
 しかしギーシュは動じない。顔も気迫も、クロコダイルの方が百倍怖い。
あれに比べれば、そこらの傭兵の脅しなど恐るるに足りぬ。
 オーケストラの指揮者のように、ギーシュは薔薇を振り上げる。

「気づかないのかい? 上を見てみたまえ」
「あン?」

 つられて、何人かが思わず見上げた、刹那。


「【錬金】!」


 薔薇が振り下ろされ、傭兵達の足下が崩壊した。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十五話


 一般的に、メイジの持つ二つ名は、本人の得意な魔法に応じて名付け
られる。自分から言い出す事もあるし、他人が呼び始める事もあるが、
二つ名を聞けばそのメイジがどんな魔法を得意とするかがわかるのだ。
 さて、ギーシュの二つ名は『青銅』である。それはつまり、彼が殊更
『青銅』の扱いに長けている事を示す物だ。【錬金】で青銅を作ったり、
あるいは青銅製のゴーレムを多数使役したりというように、『青銅』に
関してなら、学院ではギーシュの右に出る者はいない。
 が、得意分野というのは、本人の知識と経験に従い、往々にして変化
するものでもある。特に魔法では、本人の意識の持ち様に強く影響され
やすい。例えば、感情を押し殺して冷淡な人間を演じ続ければ、単なる
風ではなく極寒の吹雪を起こせるようになる、といった具合に。
 そして、常日頃【砂嵐】に吹き飛ばされ続け、砂という“モノ”を心身
共に覚え込まされたギーシュは——『青銅』だけでなく、『砂』もまた
己の領分として操れるようになっていたのだ。
 傭兵達が立っていた路面、その岩肌が全て砂礫に【錬金】されて陥没
した。さらに雨水が染み渡って、砂地はあっという間に泥沼と化す。

「だぁあッ!?」
「やべぇ、下がれ!」
「くそ、足が!」

 武器や防具で重量の増した傭兵達が、ずぶずぶと沼の中へ沈み始めた。
駆け出そうとした傭兵が派手に転んで、別の傭兵を引き倒す。そいつが
起き上がろうとした所をまた違う傭兵に踏みつけられ、罵声とともに足
を掴んだ。当然そんな事をすれば相手も転ぶ。後はもう罵り合いと殴り
合い、仲間割れの開始であった。

「何やってんだ、この馬鹿ヤロウ共!」

 後ろで指揮を執っていた隊長が叫ぶが、既に乱闘を始めた連中は聞く
耳を持たない。顔を真っ赤にして怒りを露にした隊長は、殺気混じりの
鋭い視線でギーシュを睨みつけた。同時に、この場にいない白仮面へと
悪態をつく。

(適当な事言いやがって……どこがドットだ!)

 【錬金】で変質した範囲は道幅いっぱいに5メイル、左右にそれぞれ
10メイルほどの長方形である。傭兵達の足が埋まっている深さも計算
に入れると、岩の量は10メイル級ゴーレム一体分とほぼ同じくらい。
これほど大量の岩に【錬金】をかけるには、ライン以上の実力が必要で
あろう。

(しかもゴーレムを一度に五体……このガキも本当はトライアングルじゃねぇのか?)


 実の所、隊長は一つ思い違いをしていた。ゴーレムを同時に操作する
のはドットとしては破格の技能であるが、【錬金】に関してギーシュは
ドットレベルの物しか使っていない。実際に魔法で変化させた岩の量は、
隊長の予想の十分の一以下なのだ。
 では、ギーシュは一体どのようにして大量の岩を砂に作り替えたのか。
その答えは、宿の床の穴から顔を出していた。

——もぐもぐ
「ご苦労様、ヴェルダンデ。言いつけ通り、ちゃんと岩を砕いてくれたんだね」
——もぐ、もぐもぐ
「ああ、わかってるとも。帰ったら、まるまる太ったどばどばミミズを山ほど買ってあげよう」

 ギーシュはあらかじめ、ヴェルダンデに一つの指示を出していたのだ。

『大きな音がする地面の下の岩を、できるだけ細かく粉砕してくれ』

 ヴェルダンデは主人の命令を忠実に実行した。ワルキューレと傭兵の
乱戦による足音、そして武器のぶつかり合う音を頼りに、直下の岩石を
砕いて回ったのである。作業の途中で発生する破砕音は、降り注ぐ雨の
音と戦いの喧噪に紛れて掻き消された。ギーシュがやられる事を前提に
ワルキューレを突撃させたのは、ヴェルダンデに掘り返す位置を伝える
ためと、その作業の音を誤摩化すためだったのだ。
 ワルキューレ三体を下げたのは必要量を砕き終わったから。わざわざ
姿を見せて大仰な仕草を披露したのは、足下への注意をそらしたかった
から。仕上げに“蓋”として残っている岩を砂に【錬金】すれば、雨水と
混ざって泥沼の完成だ。
 傭兵達はこの策に見事に引っかかり、沼にはまって右往左往している。
射撃部隊は思わぬ事態に呆然としたまま。唯一隊長格の傭兵だけは、頭
から湯気を出しそうな勢いでギーシュを睨んでいた。
 立て直す暇など与えない。冷静になる前に、畳み掛ける。

「キュルケ、頼む」
「りょーかい」

 宿の中に炎が灯った。上面を開けた樽六個、うち二つに、キュルケが
着火したのだ。あらかじめ宿の中に隠していた二体のワルキューレが、
それぞれ一個の“照明”を抱き上げる。ギーシュが一歩引き下がり、入れ
違いに彼女らが進み出た。

「さて、諸君」

 背筋の凍るような笑みを浮かべるギーシュ。その意図に気づいた傭兵
数人が青ざめるが、もう遅い。

「ローストチキンは、お好きかな?」

 二体のワルキューレは、泥沼目掛けて燃え盛る油をぶち撒けた。
 油と水は簡単には混ざらない。そして、油は水より軽い。
 波打つ沼の上に、深紅のカーテンが翻った。

「ぎゃああッ!!」
「あぢ、あぢいいっ!」

 灼熱の舌に絡めとられ、傭兵達からは悲鳴が上がる。中には火だるま
になって、声も出せずに倒れ伏す者もいた。
 それでも十数秒もすると、雨に晒され続けた火勢が衰える。

「折角だ、遠慮せずに飲みたまえ」

 ギーシュがそう呟くと、空樽を放り出したワルキューレが新たな樽を
運んで来る。それを、炎の中へと投棄。勢いを減じていた炎は、新たな
エサを与えられて歓喜し、膨れ上がった。


 桟橋である大樹を前に、クロコダイルは一瞬唖然とした。一本の巨大
な枯れ木をくり抜き、高層タワーのように活用している。方々に伸びた
枝には、大きなフネが果実のようにぶら下がっていた。雨さえなければ、
さぞ雄大な眺めだっただろう。

「追っ手が来ないうちに、フネに乗り込みましょう」
「ん、ああ」

 ワルドの先導に従い、一同は大樹の中へと駆け込んだ。仄暗いホール
を抜け、きしむ階段を駆け上がる。人気のない桟橋に、壁を叩く雨の音
が不気味に反響した。
 踊り場の分岐点で一度足を止めたワルドは、枝に通じるゲートを順に
目で追った。行き先を表示する看板の中から、目的の一つを見つけ出す。
最後尾で後方を警戒しながら、クロコダイルが肩越しに声をかけた。

「子爵、どれだ」
「……あそこ、です」

 ワルドが僅かに言い淀んだ。
 緊張の色を感じたクロコダイルが振り向くと、通路の真ん中に人影が
ある。稲光に照らされて、白い仮面が闇の中に浮かび上がった。

「待ち伏せされていたの?」
「出港する便は二つしかないからね。通路を両方抑えておく事も難しくない」

 思わず後ずさるルイズを庇うように、杖を抜いたワルドが前に出る。
相手も同種の杖を構え、三人と対峙した。距離はおよそ15メイル。
階段の上に陣取っている分、敵の方がやや有利か。
 張りつめた空気に、ルイズはごくりと生唾を飲み込む。


 緊張の糸は、突然のデルフリンガーの声に断ち切られた。


「旦那、下だ!」
「ちぃ!」

 クロコダイルが振り向き様にデルフリンガーを抜くのと、階下から
閃光が飛ぶのは全くの同時だった。バチンと弾けるような音がして、
青白い稲妻がデルフリンガーとぶつかり合う。

「ぐ、ぅ!」

 魔力を吸い取る魔法の剣は、物理的な電撃の残照までは防げない。
右腕に強い痺れが奔り、クロコダイルは危うくデルフリンガーを取り
落としかけた。寸前で切っ先を床に突き立て、何とか滑落を防ぐ。雷
の出所に目をやれば、上にいた筈の白仮面の姿。
 素早く移動したのではない。デルフリンガーの警告は白仮面を視界
に入れている時に発せられたのだし、ワルドは未だに気を張ったまま。
つまり、上の奴とは別に、もう一人敵が現れたという事だ。

「クロコダイル!」

 思わず悲鳴を上げるルイズ。
 同時に上段の白仮面、そしてワルドが魔法を放つ。二人の杖から渦
を巻く暴風が起こり、激突してせめぎ合いを始めた。どちらかが僅か
でも気を抜けば、その一瞬で勝負が決する。
 下段の白仮面はしばし動かなかったが、やがて【フライ】を唱えて
宙に舞う。杖をレイピアのように構え、未だに立ち直る事のできない
クロコダイルへと飛びかかった。
 咄嗟にかぎ爪で受け止めはしたが、白仮面は【フライ】を解除する
とその膂力でもってクロコダイルを押さえ込む。

「やべぇぞ、旦那!」

 デルフリンガーに言われるまでもない。こんな至近距離で攻撃魔法
を撃たれれば、回避も防御もできずにあの世行きだ。だからといって
間合いを空けても、飛び道具のないこちらは一方的に魔法の餌食。
 進退窮まったクロコダイルをあざ笑うかのように、白仮面が詠唱を
始めた。わざとゆっくり時間をかけて、くぐもった声がルーンを紡ぐ。
一節、また一節……全てが終われば、新しい死体が一つ完成している
だろう。右腕は、まだ使い物にならない。

(どうする……何か、手は!?)

 思考を巡らすクロコダイル。
 そこにルイズの怒声が飛んだ。

「くく、クロコダイルから離れなさい! さもないと、ぶっ飛ばすわよ!」

 杖を抜いたルイズは、僅かに震えている。殺し合いを直に体験した事
のない少女では無理もない。
 ルイズを一瞥した白仮面は、すぐに視線をクロコダイルへと戻した。
脅威とはならない、と判断したのだろう。再び詠唱を開始した白仮面は、
そこでクロコダイルが笑みを浮かべているのに気がついた。

「構わねェ、やれ、ルイズ!」
「れ、【レビテーション】!」

 ルイズは、この時ばかりは『ゼロ』の二つ名に感謝した。魔法の成功
確率ゼロ、結果は決まって爆発だけ。つまり、どの魔法を使おうとも、
確実に爆発が起きるのだ。人間一人ぐらいなら軽々と吹き飛ばすほどの
凄まじい爆発が。

「ッ!」

 うめき声。
 【レビレーション】を掛けられた白仮面は、爆煙の中に飲み込まれた。 


   ...TO BE CONTINUED

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