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鬼哭街 > Zero-5 IV

IV/

 己の体がまるで別の誰かのものになったかのような感覚。その違和感を押さえ、濤羅は
血振るいでもするかのように倭刀を一閃させた。相変わらず鋭い。その剣先は唯人ならば、
例え五間、いや十間離れていたとしても、目視することすら適わぬだろう。
 だが、それほどの速さを発揮していながら、濤羅の心は夜の帳が落ちたように暗く塞ぎ
こんでいた。
 ただの速さなど、遅きを以って速きを制す戴天流には無用の長物。ならば、この剣に誇
るべきものがどこにあろうか。
 濤羅は硬く倭刀の柄を握り締めた。その左手には光り輝くルーンが見える。

「流石だね、ガンダールヴ。伝説の名に相応しい」

 離れた場所からワルドが、朗らかに、ある種悠長とも言える口調で濤羅に語りかける。
 何も知らぬ濤羅にその伝説を教えたのは彼だった。あらゆる武器を使いこなしたという
過去にしか存在しない伝説の使い魔、ガンダールヴ。それが濤羅だと、ワルドはその口で
告げたのだ。
 そして、その力を試したいといったのも彼だった。濤羅とて唯の力比べには興味がない。
だが、あらゆる武器を使いこなす、その言葉だけは捨て置けなかった。
 濤羅は今でも身につけた戴天流剣法を捨てられない。剣を捨てたら、濤羅には脆弱な心
しか残されない。だから必死に、彼はかつての縁(よすが)にすがっているのだ。
 故に今、濤羅はここにいる。かつて錬兵場だったこの広場に。
 そして濤羅は己の剣にすら裏切られた。
 左手から全身に広がる力は、傷ついた濤羅の体を癒したかと錯覚させるほど高揚感すら
もたらした。その力に従い、いつものように刀を振るおうとして——失敗した。
 意を殺せぬのだ。己の意思とはまた違うところで剣が振るわれるのは変わらない。だが、
一刀如意の境地からは程遠い。無我でも殺我でもない。ただ我を奪われた。
 あまりに無様な剣だった。
 確かに剣速は増しただろう。内傷で動きの鈍った濤羅とでは比べ物にならぬ。あるいは
五体満足だったころよりも純粋な速さでは勝っているかもしれない。だが、それだけだ。
 こんなものは、己の剣ではない——ワルドの賞賛は本心からのものだったろう。それが
余計に、濤羅の神経を逆なでする。

「……こんなものは児戯だ」

 猛る心を押し殺し、濤羅は息を吐き出した。熱い吐息だ。
 その意図が判ったわけではあるまい。だが、ワルドは浮かべていた微笑を消し、腰にか
けていた杖を抜き取った。レイピアをかたどったそれの柄で帽子を押し上げ、

「なるほど、流石は伝説。言うことが違う。それでは、それが虚勢でないかどうか、確か
めてみるとしよう。準備はいいだろう?」

 答えるように、身を引いた。片手に倭刀を突き出した半身の構え。刃を上に、明らかに
刺突を目的としている。
 折りしも二人の構えは類似していた。違う点があるとすれば、ワルドが順手なのに対し、
濤羅の握りは逆手に近いところか。その違いがどう出るのか。

「それでは、行くぞ」

 いらえも待たず、ワルドは疾走した。軽く重心を落としただけのその走りは、ただ早く
駆けることだけを目的としている。一撃で仕留めることに慣れているのだろう。ぶれない
重心。帽子で隠された視線。そこには隠し切れぬ経験のほどが見て取れた。
 そうして、誘いの一撃。速さに惑わされた間抜けでは、簡単に釣られてしまうだろう。
それを冷静に見越した濤羅は、続く本命の一撃を切り上げる倭刀で受け流しす。
 辺りに、鋼の打ち合う硬質な音が響き渡った。

「なっ!」

「む」

 驚きは双方。ワルドは自信を持った一撃が、さして力を込めたようには見えない一撃で
捌かれたことに。濤羅は、手に伝わった久しく覚えていない衝撃に。
 だが、驚愕に我を忘れるほど二人は甘くない。体に染み付いた経験がそれを許さない。
 受け流されたということは、力はいまだ残っている。勢いそのままに手首を返し、足を
狙ってきたワルドの一撃を、濤羅は一歩下がることで回避した。その捩れた力を活かし、
意趣返しのように同じくワルドの足元に倭刀が迫る。
 が、何を思ったか、仕留める絶好の機会を前にしておきながら、濤羅はやおら右前方、
ワルドの左側面へ跳躍した。距離にして3mは離れただろうか。

「よく、気が付いたね」

 微笑むワルドの視線の先には抉れた大地。濤羅が飛びのかなければ、それに巻き込まれ
ていたことだろう。

「見えぬ一撃だったはずだが……よほど勘がいいと見える」

 そう、ワルドは濤羅に近接戦を仕掛けておきながら、同時に呪文も唱えていたのだ。そ
れも視認すら難しい風の魔法。濤羅は知らぬが、それはエア・ハンマーという魔法だった。
無防備なところに食らえば、訓練を受けた軍人ですら容易く昏倒する。
 それを回避せしめたのは、内功を積み重ねた濤羅ならではだ。虚実入り混じる実戦の中、
正しく意の込められた攻撃を察知する。
 例え体が我が物ならずとも、この程度ならば回避は容易い。
 事実、すんでのところで倒されかけたというのに、濤羅の顔に焦りはない。
 内家の戦いは濁流を泳ぐようなもの。流れに乗れば制するし、飲まれれば溺れて果てる。
 なればこのような紙一重の攻防は、濤羅には慣れ親しんだものだ。恐怖もない。
 逆に余裕がなくなったのは、ワルドのほうだった。得も知れぬ動きでワルドを惑わし、
避わせぬと思った一撃を容易く凌がれた。
 内家との立会いなど経験のないワルドの心に、敗北の文字が浮かぶ。

「仕留めたと思ったんだがね」

 だが、未知ならば既知にしてしまえばいい。斬り結ぶのはまずいと冷静に判断し距離を
とったワルドが再びルーンを唱える。選んだ呪文はエア・カッター。同じく目に見えぬ風
の刃が連なって濤羅を襲う。

「さあ、どうする、ガンダールヴ!」

 瞬きひとつ許さぬとワルドはつぶさに濤羅の動きに注目した。そしてすぐに失望した。
濤羅はみじろき一つ見せていなかったのだ。魔法を発したワルドには風の刃がどこにある
か手に取るようにわかる。その感覚が告げる。この刃は当たると。
 が、あとに残ったのは、初めと同じように半身になって倭刀を突き出す濤羅の姿。無論、
その身に傷一つ負っていない。
 今度こそ呆然と、ワルドは我を忘れた。いつ、どのように動いたのかすらわからない。
それだけならともかく、当たると確信を持った風の刃をどのようにすり抜けたのか。それ
こそ魔法でも使わなければありえない。いや、魔法を使ったとしてもありえない。

「これで、どうだっ!!」

 焦りのまま選んだ呪文は、既に避わされたはずのエア・ハンマー。今度こそ、今度こそ
濤羅の回避の種を明かしてやる。そう意気込んで放った呪文だったが——

「破っ!」

 裂帛の気合と共に振るわれた倭刀に、風の衝撃は両断された。後に残るのは髪を撫でる
微風のみ。これもやはり、ワルドの知る理ではありえぬ光景だった。

「は、はは」

 乾いた、それでいてぞっとするような笑みを漏らすと、ワルドは杖剣を収めた。そして
優雅に胸に手を当てると、どこか大迎な所作で濤羅に頭を下げる。

「これまでにしておこう。これ以上は……殺し合いになりそうだ」

 濤羅からは見えぬ角度でワルドが浮かべた表情は——

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