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ジョゼフと鋼鉄の女神(ミューズ)

ガリア王国、王都リュティス。
ヴェルサルテイル宮殿『グラン・トロワ』。
その一室に、男は独り佇んでいた。
古惚けた日記帳を愛しげに撫ぜ、穏やかな瞳で窓の外を見遣る。
本日のリュティスは晴天、暖かい日差しが降り注いでいた。
男は椅子へと腰掛けると、日記帳を開いてその内容へと目を落とす。
其処にはおぞましいとしか言い様の無い、呪いの言葉が書き連ねられていた。
男は目を細め、口の端に笑みを浮かべて小さく呟く。

「よくもまあ……ここまで恨めたものだ」

苦笑しつつ、再び視線を窓の外へと移す。
窓には何時の間にか黒い影が落ち、眩い日差しを遮っていた。
それを視界に認めると、男―――ガリア王ジョゼフは、ふと溜息を吐く。

「我が事ながら、随分と見苦しいとは思わんか? なあ、余の女神(ミューズ)よ」

影は次第に面積を増し、やがて部屋全体を覆う。
禍々しく巨大なそれは、太陽を覆い隠すかの様にグラン・トロワ上空を横切って行った。



ジョゼフが使い魔を召喚したのは18の頃。
魔法が使えず、常に周囲からの声無き嘲笑に晒されていた彼は、生きる事自体が苦痛で仕方が無かった。
自ら命を断てればどれほど楽だろう。
そう考えた事すら一度や二度ではない。
彼を真に理解し、励ましてくれたのは、弟であるシャルルと婚約者だけ。
しかしそれすらも、その頃となっては彼の惨めさを際立たせるものでしかなかった。

そんな時、彼はサモン・サーヴァントを行った魔法学校の生徒達の姿を見た。
召喚した己の使い魔の姿に浮かれはしゃぐ生徒達。
それは彼の自尊心を傷付ける光景に過ぎなかった。

どうせ自分がサモン・サーヴァントを行っても、爆発が起こるだけだ。
自分には魔法の才能など『ゼロ』。
爆発しか起こせない落ちこぼれなのだ―――

そう考えた彼ではあったが、使い魔への憧れが無い訳ではなかった。
彼とて強大な使い魔を召喚し、周囲を見返してやりたいとの想いは在る。
しかし、それを為すだけの実力が無い。
呪文は、空でも紡げる。
知識だけなら、誰にも負けはしない。
しかし、その内容を実現する才能が無いのだ。

悔しさに唇を噛み締め、空を見上げる。
視界に映る雲は歪に歪み、鼻の奥がツンと痛む。
そして―――

「……我は心より求め、訴える……」

その言葉を紡いだのは、無意識だった。
諦めの色を滲ませた、飯事の様な形だけの呪文。
しかし、呼び掛けるその心だけは、何よりも必死で―――



気付いた時には、天空に巨大な鏡が浮いていた。


……その使い魔は、異様としか形容出来なかった。
青い外殻に覆われ、細長い背鰭と腹鰭を持った、何らかの『魚』。
ただ普通の魚と違うのは、大きさが100メイルほども在り、身体は強固な金属で構築され、極め付けは空を飛んでいるという事であった。

召喚の直後、王都はパニックに陥った。
無理も無い。
突然、自分達の頭上に得体の知れぬ怪物が現れたのだから。
ただ、その怪物は大きさに反して大人しく、静かに王都の郊外へと着地した。
その様子を唖然として眺めていたジョゼフもまた、止める衛兵たちを振り切って郊外へと馬を走らせる。

あれは、宙に浮かんだ巨大な鏡から出てきた。
ならばあれは、使い魔として召喚されたものと考える事が出来る。
誰の?

ジョゼフは、己の心臓が早鐘の様に鼓動を刻むのを感じていた。
それは恐怖であり、興奮であり、不安であり、歓喜だった。

決まってる。
俺のだ。
俺の使い魔だ。
俺だけの使い魔だ!

口が緩むのを押さえ切れず、ジョゼフは馬を潰さんばかりの速さで郊外へと駆ける。
やがて、王都を眩い光が包み込み―――



結論から言えば、その使い魔はジョゼフに新たな蔑称を授けただけだった。
契約後もルーンが刻まれる事は無く、冷たい装甲が浮かぶだけ。
巨大で宙に浮かぶ事以外、何の取柄も無い木偶の坊。
視覚の共有が出来る訳でもなし、命令に従うでもなし、戦う訳でもなし。
見た目ばかりが立派な、無能な皇太子に相応しい無能な使い魔。
周囲の貴族達は、そう言って陰からジョゼフを嘲った。

ジョゼフもまた、己の使い魔を毛嫌いし、視界に入れる事すら拒んだ。
空を見上げれば、嫌でもその巨体が目に入る。
自然と顔は下を向き、常に視線を落として歩く姿は、人々の冷笑を招いた。
そんな彼を必死に励ますシャルルすら拒絶し、甲斐甲斐しく世話を焼こうとする婚約者すら遠ざける日々。
そしてある日、彼は空を漂う己の使い魔に向かい、叫んだ。

「失せろ! 二度と俺の前に現れるな、この役立たずめ!」

その日を境に、巨大な魚はリュティスの空から姿を消した。

3年後―――
ガリア南部にて旗を掲げた叛軍は、規模を拡大しつつその手を王都にまで伸ばしつつあった。
父王に付き添い、前線の慰問に出掛けたジョゼフとシャルルは、叛徒による奇襲を受ける。
父王の避難こそ済んだものの、シャルルは手傷を負い、自身は足手纏いでしかない。
魔法衛士隊も巧妙に計画された奇襲に対応し切れず、死傷者が続出していた。

最早これまでか。
思えば、輝かしい記憶など数える程しかない。
苦痛と屈辱に塗れた、詰まらない人生だった。
これから先もこんな事が続くのなら、いっそ此処で死んだ方が楽やも知れぬ。

そんな事を考えた、その時。



天から降り注いだ無数の光条が、叛徒達の陣を消し飛ばした。



叛軍、王軍、共に呆然とする中、ジョゼフは降り注いだ光条の跡を眼で辿り、その先に在り得ないものを見出す。
それは、3年前に自身が否定した―――失せろと、二度と姿を現すなと命令した―――あの、使い魔の姿だった。
その姿は、3年前のそれとは似ても似付かず。
頭部より生え揃った5本の角、左右2対の鰭、禍々しく光る瞳、重厚さを増した外殻装甲。
木偶の坊と揶揄された3年前とは余りにも異なるその姿に、シャルルを含めた周囲の面々はひたすら呆然と空を見上げていた。
やがて使い魔は細かな光の束を無尽蔵に撃ち放ち、空、そして地を埋め尽くす叛徒達の軍を文字通り殲滅してゆく。
そして、遂に叛軍が降伏を示す旗を掲げた頃、ゆっくりと戦場に降下した異形の使い魔へと、ジョゼフはふらつく足で歩み寄った。
そして、一言。

「ずっと……見守って、いたのか?」

そうだ、とでも言うかの様に、使い魔の双眸が光を放つ。
ジョゼフは震える手でその装甲に触れ、何とか平静を装った声を放った。

「俺を守る為に……『成長』したのか?」

双眸が光る。

「あの様な物言いをした俺を……見限らずにいてくれたのか」

双眸が光る。

「……また、俺に仕えてくれるのか」

鰭が、そして顎が広がり、天をも貫かんばかりの咆哮が上がる。



この日、ジョゼフは己の使い魔へと誓いを立てた。
それを誰かに伝える事は生涯無かったが、彼自身の心の内で、密かに、しかし何よりも強く誓った。

『成長』してやる。
魔法が使えなくたっていい。
無能と蔑まれてもいい。
何としても『成長』してやる。
己の使い魔が見せてくれた。
他人にどれだけ蔑まれようと、近しい者に見限られようと、確固たる意思さえ在れば『成長』出来るのだ。

俺は、この使い魔の忠誠に応えよう。
この使い魔の様に、誰もが思い描かきもしなかった『成長』を遂げてやる。
こいつに相応しい男になってやる。

それが―――無能と蔑まれてきた俺の、この世界に対する復讐だ。



この日より、ジョゼフは己の知識を磨く事に全霊を注ぐ。
魔法が使えないのならば、それ以外の全てを修めてやる。
己の誓いに従い、怒涛の勢いであらゆる知識を詰め込むその姿に、王宮の者達は次第に彼を見る目を改めていった。
魔法が使えないという事で、ジョゼフを見下す視線が完全に消える事はなかったが、それも既に彼の心を揺さぶるものとはなり得ない。
そして彼は、自身を心から気遣う者達の存在に気付いたのだ

ずっと自分の才能を信じ、励まし続けたシャルル。
例え邪険にされても、静かに己を見守ってきた妻。
ジョゼフは初めて、彼等の存在に心より感謝した。
そして同時に、ある決意が彼の胸中に芽生える。



次王には、シャルルこそが相応しい。
俺は俺のやり方で『成長』してみせる。
王座には、真に民を思い遣る事の出来るあいつが着くべきだ。



やがて父王が崩御する際、王位継承を告げられた彼は、シャルルこそが王に相応しいと主張したが、父王はその言葉を受け付けなかった。
彼は最期に死の床で、必死に嘆願を繰り返すジョゼフへとこう言い放ったのだ。

「お前が魔法を使えない事を気に病んでいた事には気が付いていた。親として、誇れる事など何一つ出来なかった私が遺せる、たったひとつの贖罪だ。ジョゼフ、最早お前に敵う知謀を持つ者など、このハルケギニアには存在せん。
自信を持て。お前以上に次王に相応しい者など居ない。紛れも無く、お前こそがこの国、ガリアの『王』だ」



本来ならばシャルルの手に渡る筈だった王座。
それが何の因果か、王座になど欠片も興味の無かった自分の手に委ねられた。

シャルルはどんな顔で己を迎えるだろうか。
嫉妬に狂った顔だろうか。
恨みに歪んだ顔だろうか。
それもいい。
寧ろ、恨んで貰った方が気が楽だ。
国の事など欠片ほども考えてなどいない俺が、優秀なあいつを押し退けて玉座に着くのだから。

そして、自室にて彼を迎えたシャルルの放った言葉は―――



「おめでとう」



純粋な笑みを浮かべ、心からの賛辞を述べるシャルル。
呆然とするジョゼフの目の前で、彼は更に言葉を続ける。
ジョゼフの心を抉る、綺麗な、残酷なまでに綺麗な言葉を。



「兄さんが王になってくれて、本当に良かった。僕は兄さんが大好きだからね。僕も一生懸命協力する。一緒にこの国を素晴らしい国にしよう」



その瞬間、ジョゼフの胸中にどす黒い殺意が沸き起こる。

こいつは何を言っているのだ?
俺が王になって良かっただと?
お前まで、お前までそんな事を言うのか。
玉座を否定する事が、俺にとっての『成長』だったというのに。
お前は俺に、魔法も使えない無能王との蔑称を抱えて生きろというのか。

殺意が、弟への愛情を塗り潰してゆく。
どんなに己を磨こうとも、決して消え去りはしなかった僅かな嫉妬。
それが牙を剥き、あらゆる情を喰らい尽くす。

そして激情に任せ、ジョゼフが一歩を踏み出した瞬間―――

窓の外、彼方の空より此方を見詰める、一対の目に気付いた。

冷たく光る、巨大な双眸。
それは無言のままに、ジョゼフへと問い掛けていた。



『其処で終わりか?』、と。



踏み出した足が、元の位置へと戻る。
上がり掛けた手が降り、荒れ狂う感情が無風の湖面の様に凪ぐ。
そして、一言。



「……ありがとう」



この日、ガリア国王ジョゼフ一世が誕生した。




日記を閉じ、麗らかな日差しが部屋へと差し込んでいる事に気付いたジョゼフは、徐に窓へと歩み寄った。
彼方の空には、悠々と大空を舞う、巨大な影。
己の使い魔。

王となって暫くの後、ジョゼフは些細な事から自身の系統を知った。
更に成長した使い魔、その巨体と比して小さな額に、これまた小さく使い魔のルーンが浮かび上がったのだ。
それは、伝承にのみ記されたルーン。
神の頭脳『ミョズニトニルン』。
そして伝説の系統である『虚無』。
世の理さえ支配する、『ゼロ』の系統。

公には、ジョゼフは火のラインであるという事になっている。
これはコモンマジックの使用が可能になった事を誤魔化す為の方便であったが、今のところ疑いは持たれていない。
トライアングルやスクウェアとしなかったのは、ちょっとした意地の様なものだ。
自身がこの座に着いたのは、決して魔法の実力などによるものではないとの証明。
これだけは誰が何と言おうと、変えるつもりなど無かった。

今、ガリアは嘗て無い程の平穏の中に在った。
長らく続いた内戦を平定し、平和を謳歌している。
アルビオンで少々きな臭い動きが在る様だが、これもガリアにとって脅威とは為り得ない。
己の使い魔を聖地奪還に利用しようと近付いてきたロマリアの連中には、丁重に御引き取り願った。
気違いの宗教家どもにくれてやるガリア国民の血など、一滴たりとも在りはしないのだ。



やがて、ドアの向こうから賑やかな足音が響いてくる。
それを聴き留め、ジョゼフは小さく笑みを浮かべた。

さて、我が愛しのレディは、今日は何と言ってくるのだろうか?
シャルロットが羨ましい、か?
何で自分は魔法が使えないの、か?
それとも単にラグドリアン湖に行きたいの、か?
どれでもいい。
娘と語らう時間は、政務に比べればずっと楽しいのだから。

だが、もし彼女の自尊心が余りにも傷付いている様であれば、ひとつ昔話をしてやろう。
魔法が使えず、出来た弟を羨み、世界を憎んでいた男の話を。
魚の姿を取った女神(ミューズ)と出会い、全てを乗り越えて『成長』する事の尊さを知った男の話を。
計り知れぬ才能を秘めた、未だ目覚めぬ我が娘に伝えよう。



お前にもまた、『成長』の先に輝かしい未来が在るのだと。





ガリア王国、王都リュティス。
その上空を、巨大な魚の姿をした使い魔が悠々と泳ぐ。
ジョゼフ一世の即位と時を同じくして最後の『成長』を果たしたそれは、角にも似た威容を誇る上下の鰭と、黄金色に輝く胸鰭と尾鰭をゆっくりと動かしつつ、今日もまたガリアの地を見守るかの様に空を舞い続けている。
王と共に各地の内乱を平定し、周辺国家への牽制をも兼ねるその存在を、人々は王と併せて『ガリアの守護神』、『王の女神』と崇め称えた。
魔法の才に恵まれないながらも賢王と呼び称えられるジョゼフと、天舞う鉄の女神。
永きに渡りガリアの民に謳われる事と為る、2つの伝説。



彼等も、そして主たるジョゼフも、それを知る事は無い。
果たしてそれは『魚』でも、『女神』でも、『守護神』ですらなく。
遥か宇宙の彼方、たった一つの星を巡り始まった、二大勢力間の戦争。
その一方の陣営、『ベルサー連合軍』により機械生命体を基に生み出された、有人、無人を問わず、種々の海洋生物をモチーフとした、重装甲重火力、有機的柔軟性を兼ね備えた多数の巨大戦艦郡。
無数に存在する艦の中―――次元の狭間で、『鷹』の名を冠する戦闘機へと挑んだ、数十隻の無人艦。
その内の1隻が、突如として出現した巨大な鏡に呑み込まれ戦域を離脱し、このハルケギニアへと召喚された事など。
その艦が『成長する戦艦』だった事など。



『PRICKLY ANGLER』―――刺々しい釣り人。



此処に、虚無の王とその使い魔、1人と1隻の伝説が始まった。





同時期、ロマリア皇国。

「ぬうぅおおぉぉォォッッ!」

気合の雄叫びと共に、高位神官の服に身を包んだ青年が『それ』へと吶喊する。
しかし―――

「ご! ぐふゥッ!」
「ああっ、教皇さま!」

彼は見えない壁へと激突し、血を吐いて床へと倒れ伏す。
慌てて駆け寄る神官達。
しかし彼は、震える手でそれを制すると、再び立ち上がって『それ』を睨む。

「ふ、ふふふ……流石は余の使い魔! そう易々と契約させてはくれぬか!」
「教皇さま! もうお止めください! 御身体が保ちませぬ!」
「戯け! 此処で諦めて何とする! あの忌々しいエルフどもから聖地を奪還する為……何としても、私にはこの使い魔が必要なのだァァッ!」
「きょ、教皇さまぁ―――――ッ!」

そうして何度目かの契約の儀式へと臨むべく、これまた何度目かのダッシュを掛けるロマリア教皇―――聖エイジス三十二世、ヴィットーリオ・セレヴァレ。
そしてまたまた、彼が見えない壁へとぶち当たる鈍い音が、半ば崩壊した神殿内に響き渡った。

「ごふゥ―――――ッ!?」
「ああっ、またッ!?」



彼が召喚した使い魔、これまた巨大な魚は、その様子を眺めながら呑気に欠伸などしてみたりして。
重い使命から開放されたお魚さんは、何気にイイ性格らしかった。
もし彼の思考を読む事が出来たのなら、こんな声が聞こえてきた事だろう。



誰が『オス』の口吻なんか受けるか。



『ABSOLUTE DEFENDER』―――絶対防衛者。

彼はまたひとつ、お気楽太平に欠伸を吐いた。



「ごバァ―――――ッッ!?」
「ああッ、耳血がッ!?」
「(バリア展開を)もうやめて! 教皇さまのライフはとっくに虚無(ゼロ)よ!」

だ が 断 る 。





んでもってまた同時期、トリステイン王国。

此処からは音声ダイジェストでお送りします。

「クジラですが、何か?」
「クジラは飛ばないし、眉毛も無いでしょ」

「ちょっと! それイカじゃない! 空賊船よ!」

「主砲、一斉……やっぱ撃っちゃダメー!」

「赤いアレはダメって言ってるでしょ!? アルビオンごと落としてどうすんの!」

「手紙……? ……? ……! あ、ああ! はいはい、あー手紙ですね、あはは……」

「まあ、古来から終わり良ければ全て良しと申しまして……」



『G.T.』―――偉大なるもの、もしくはデカブツ。

その名の示す通り、主ともども何気に大雑把な性格であった。



「ワルド? あれ? 憑いてきてたんですか?」





もひとつ同時期、アルビオン王国、サウスゴータ地方ウエストウッド。

「おお……」
「おっぱい様じゃ……おっぱい様のご降臨じゃ……」

森の中から浮かび上がるは、妖艶な体躯を悩ましげに捻りポーズを取る、青く光る透明な体躯。
その中心には生命を司るコアが宿り、制御を司る兜の様な頭部が、麗しい乙女の顔、その造形を模したゲル状物質の内部に浮かんでいた。
完璧なプロポーション、そしてその前面に宿るは2つの果実、恐るべき質量兵器と化した二つの頂。
その神々しさの前には、人間にしては少々長い耳の造形など取るに足らぬ問題。

そして、何より―――

巨大でありながらプルプルと忙しなく揺れるそれは、正に胸革命。
4つの王家に伝わる古き言葉で表すのならば『BUST REVOLUTION』。
その威光はいがみ合う王党派と貴族派の垣根を取り払い、平和の内に両者を和解させるに十分なものだった。
更にはアルビオン国王ジェームズ1世が、『おっぱい様の祝福の前に人間とかエルフとか関係ないよねー』と発言した事により、アルビオンを皮切りにハルケギニアからエルフに対する敵意が払拭されたのは言うまでも無い。
無論、それはハーフエルフについても例外ではなく、むしろ『基本ナイムネの純エルフよりステッキーじゃね?』と神の如く称えられるまでになったのであった。



『THE EMBRYON』―――生み出す者。

全ての生命を司る母なる存在は今、1つの悲劇をこの世界から消し去ると同時、『羞恥』という名の感情の昂りと共に放たれた爆発によって、一時的にその機能を停止した。



なお、何故この機械生命体の母ともいえる存在が、羞恥に狂ったおっぱいハーフエルフの突発性エクスプロージョンを受ける危険を冒してまでその姿を模したのかという疑問については、筆者としては1つの仮説を提唱したい。
恐らく彼女は、そのおっぱいの造形に無限の愛を見出したのではなかろうか。
自身の生み出した恐るべき機械生命体と共に宇宙の平和を守ってきた彼女は、壊すのではなく内包するその優しさに救いを見出したのではなかろうと愚考する次第である。
事実、筆者としてもあの感触は極上の(以下、血痕により解読不可)

『自称ウエストウッドの流浪人 ヒラガ・サイト氏の日誌より抜粋』





そんでもって1年後。

ガリア王国、王都リュティス。
『グラン・トロワ』の庭園にて、2人の少女がいがみ合っていた。

「あの使い魔の何処が魚だって言うのよ!」
「い、一応魚だもん!」
「魚は歩かないわよ!」
「歩く魚だっているもん! 『おねえさま』のバカ!」
「あふッ……い、居る訳無いじゃない。現実を見るのね、シャルロット」
「『おねえさま』の使い魔なんか蟹じゃない! 空だって飛べないくせに!」
「ふぅんッ!?……し、失礼ね、ちゃんと『跳べる』わよ!」
「私のだって『跳べる』もん!」
「なら見せてみなさい! そこまで言うからには私の『ネーナ』より高く『跳べる』んでしょうね?」
「当たり前じゃない! 『おねえさま』の使い魔には負けないわ!」
「あふぅンッ!……い、い、いいわ、『跳び』なさい! 『ネーナ』ッ!」
「『跳んで』!」
「跳ぶな―――――ッ!」

ジョゼフの叫びも空しく、最愛の娘と姪の使い魔は天高く『跳び』上がった。



お天道様の光を遮る、『蟹』と『魚(仮)』の影。
上昇を止め、空高く静止したそれを眺めながら、ジョゼフの傍らに佇むシャルルはぽつりと呟いた。

「兄さん」
「何だ?」
「こうなるとさ、どうにも気にならないかい?」
「何が?」

『蟹』と『魚(仮)』が、ゆっくりと降下を始める。
重力に引かれてどんどんと加速する、鉄製の甲殻類と魚類(仮)。
薄れゆく己が意識を感じつつも何とか言葉を返したジョゼフへと向かって、シャルルは無邪気に言い放った。



「僕がサモン・サーヴァントをやったら、一体何が出てくるんだろうね」
「お願いだから止めてください」

そいつまで『跳ぶ』やつだったら洒落にならんし。



2体の着地と同時、ガリア全土を揺るがす地震と共に、ジョゼフは意識を手放した。



『HYSTERIC EMPRESS』―――ヒステリーな女帝。
『TRIPOD SARDINE』―――三脚鰯。

妖しいくらいに仲の良い従姉妹たちの使い魔は、やっぱり怖いくらいにそっくりだった。

連日の地震対策に追われるジョゼフ。
彼の胃に穴が開く日は、近い。



余談だが、シャルルの使い魔は『シャコ』だったらしい。

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