あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのルイズ

 まったく同じ言葉、あるいは名称であっても、時としてそれはまるで正反対であったり、または異なる意味となることもある。
 ここに一人の少女がいる。
 名をルイズという。
 メイジでありながら、魔法が使えない。
 成功率ゼロ。
 そんなところから、ひと呼んでゼロのルイズ。
 この二つ名は生涯変わることはなかったけれど、ある時期から、それはまったく異なる意味を持つようになる。
 それは何かというと…………。


 「……あんた、何?」

 召喚した使い魔と契約を終えた後、ルイズは引きつった表情で、己の従者となった生き物に向かってつぶやいた。
 珍しい生き物ですな、などと教師は言っていたが、ルイズ自身はあまり喜べずにいた。
 召喚したその生き物はどこをどう見ても、すごそうには見えなかったからだ。
 一言で言うなら、丸い魚チックな生き物だった。
 本当に真ん丸いのだ。
 よく言えば可愛いが、悪く言えば間抜けな姿だった。

 ほえええ……。

 鳴き声もひどく間抜けだった。
 ふよふよと空中に浮かんでいるが、動きも鈍そう、というかちいとも動かない。
 使い魔のルーンが刻まれている時もぬぼうっとしたままだった(ちなみにルーンは額あたりに)。
 有効性を期待するのは恐ろしく不毛な予感がする。

 「あんた、なんて生き物?」

 ルイズはこのおかしな使い魔の顔(というか、体全体が大きな顔みたいでもあるが)をのぞきこみながらつぶやく。

 ――……くーよん。

 「へ?」

 その時、ルイズの頭に何か声のようなものが響いた。
 驚いてキョロキョロとしていると、とんでもないことが起こった。
 使い魔が。
 召喚したばかりの使い魔が、消えてしまったのだ。
 まるで、煙か何かのように。

 「……はい?」

 ルイズは事態が飲み込めず、しばらくぼーぜんとしていた。
 他の生徒たちから、嘲笑を投げつけられるまで。



 朝になって、ルイズは重苦しい気分でベッドから目を覚ました。
 気分だけでなく、体全体も重苦しい。
 ベッドで泣き伏し続け、そのまま眠ってしまったようだ。
 自分ではわからないが、目が真っ赤になり、その下には痛々しい隈ができている。
 せっかく召喚したはずの使い魔。
 それが、逃げてしまった。
 というより、どこかへ消えてしまった。
 そこまで思い出し、ルイズは思考を止めた。
 頭の中を、毒蛇がのたくっているような、嫌な気分になってきたのだ。
 胸がむかむかして、吐き気もしてくる。
 そのくせ、心がざわつき、落ち着かない。
 ゼロ。
 成功率ゼロ。
 ゼロのルイズ。
 そんな言葉が頭の中でぐるぐるとまわっていた。
 何だか、わけのわからない気持ちになってきた。
 悔しいのか、悲しいのか、それとも情けないのか。
 あるいはその全てなのか、そのどれでもないのか。
 ルイズはのろりのろりと身を起こして、何気なく机の上を見た。
 ペン刺しのペン。
 するりと抜いてみる。
 先がとがっている。当たり前だが。
 ルイズは、ぼけっと手にしたペンを見ていたが、ふと妙な気持ちになった。
 急に、ペンを自分の腕に突き刺してみたくなったのだ。
 手の甲でも平でも、どこでもいい。
 とにかく自分の体を傷つけたい衝動に駆られた。
 そして、ぐいとペンを振り上げてから、そのまま動かなくなった。

 (何やってんのよ……!)

 すんでのところで、行動を制止する。
 そんなことをして何になるのか、自分が痛いだけである。
 ルイズはいらだつ気持ちを抑えきれず、ペンを床に叩きつけた。
 これというのも、あの忌々しいボールのせいだ。
 いきなり幽霊みたいに消えやがって。
 契約したご主人様を無視して。
 おかげで、自分がどれだけ恥をかいたか。
 覚えていろ。
 もし見つけたら、

 (どっかにいるってんなら、出てきなさいよ!! ただですまさないんだから!!!)

 ルイズは心の中で、叫んだ。

 ぼうん。

 「うひゃ!」

 いきなり、間抜けな音がした。
 ひっくり返りそうになりながら、ルイズは何事か目を凝らす。
 そして、本当にひっくり返った。
 そこには消えた使い魔が、相変わらずの間抜け面でふよふよ浮かんでいたからだ。



 「出てきなさい」

 小声でルイズは呼びかけた。

 ぼうん。

 音を立てて、ルイズの前に使い魔が現れる。

 「うーーん……」

 何回かのテストの後、ルイズは3つのことを理解した。

 1、使い魔は逃げたわけでなかった。
 2、使い魔はしばらくすると消えてしまう。
 3、使い魔はルイズの声(正確には意思)に応えて姿を現す。

 「けっこうすごい感じではあるんだけど……」

 しかし、だからどうだという気もする。
 呼び出せばすぐに出てくるところは便利だが、

 (こいつに何ができるか、よねえ?)

 ただそこでぬぼっとしているだけなら、普通の猫や鼠でも召喚したほうがまだましである。

 (でもまあ、ここは……)

 ひとまず契約は成功していたというところが大事だろう。

 (このことを、ミスタ・コルベールに説明しとかないと)

 そう考えるとじっとしてはいられない。
 ルイズは乱れた髪を簡単に整え、部屋を飛び出した。
 途中でキュルケと出くわしたが、無視する。
 今は相手にする気分でなかったし、そんな暇もない。

 コルベールのもとに向かいながら、ルイズが先ほどと異なる棟のざわめきを感じていた。
 先のそれが暗いマイナスなものなら、これはプラス。
 これから、いいことが起こりそうな気がする。
 そんな予感がむくむくと膨らんでいた。
 ただし、そのいいことが、ルイズにとってはよくても、他の人間にはどうであるのか。
 ルイズはそんなことは考えもしなかったのだけれど。



 きっかけは何だったのか。
 思い出せばくだらない言い争いが原因だったのかもしれない。
 気がついた時には、食堂でギーシュと言い争いになっていた。
 だが、決定的なスイッチとなってしまったのは、このやり取りだろう。

 「君のその、丸っこい使い魔に何ができるというんだい?」

 「さあね? でも、あんたの死ぬほど不細工なモグラよりは可愛いんじゃない?」

 売り言葉に買い言葉とはいうけれど……。
 それはギーシュをぷっつんさせるには十分すぎる威力を持っていた。
 何だかかんだで、ルイズはギーシュと決闘することになってしまった。
 ルイズは、不思議と負ける気はしなかった。
 それは予感というよりも確信に近かった。
 何故そんなことを思ったのかは、謎であるが。
 決闘の前にギーシュが何か言っていたが、ルイズは聞いていなかった。
 それよりも、早く使い魔を呼び出したくてうずうずしていたのだ。
 そんなルイズのなめきった態度に、ギーシュはマジ切れしたのだろう、お得意の青銅ゴーレムを呼び出し、いきなり突進させてきた。
 ルイズは目の前に出されたご馳走を出され、さあどうぞと言われたような気分で、

 「出てきなさい!!」

 使い魔を呼んだ。
 主人の呼びかけに応じた使い魔は、この時通常とは異なる行動に出た。
 いや、今までは呼び出しても何もしなかったのだが。

 ほええええええええええええ!!

 使い魔はその口から、何かきらきらと光る粒子のごときをものを吐き出したのだ。
 その美しい、宝石の雪のようなものが周囲に降り注いだ瞬間、ギーシュのゴーレムはぼろりと崩れた。

 「え? な? なんで??」

 うそだろという顔つきで、ギーシュはまたゴーレムを出そうとする。
 が、無駄だった。
 形を形成する前に、ゴーレムはぼろぼろと土くれになってしまう。
 しまいには、それさえも起こらなくなった。
 硬直するギーシュの真横を、強烈な爆裂が通り過ぎた。
 ルイズの失敗魔法。
 普段ならば嘲笑の対象であるそれは、この時のギーシュには悪魔の凶器であった。

 「……まいった」

 「な~に~? 聞こえんな~~~」

 かすれる声でいうギーシュに、ルイズは死ぬほど邪悪な笑みを浮かべながら、ゆっくりと広げた右手を突き出す。

 「具合でも悪いのかしら~~? じゃ、下手糞で悪いけど、回復の魔法かけたげるわ」


 煙をあげながら倒れるギーシュを見下ろしながら、ルイズは自分の使い魔の能力を理解しはじめていた。
 何故、負ける気がしなかったのか。
 それは、もしかすると契約を通じて、無意識ながら、使い魔の能力がルイズに伝えられたのかもしれない。
 いずれにしろ、

 (これはいけるかも……!!)

 ルイズは笑った。



 ルイズが使い魔の能力の、本当の凄まじさを理解するのは、のちにフーケ事件と呼ばれる騒ぎでのことだった。
 土くれのフーケと呼ばれる盗賊。
 それが学園の宝物庫を狙ってきたのだ。
 とはいえ、その時ルイズはそんなことなど知るよしもなかった。
 ただ、夜散歩をしていたら、いきなりばかでかいゴーレムに出くわしたのだ。
 最初はかなりびびっていた。
 けれど、それだけにその後はかなりリラックスしてしまった。
 使い魔の吐き出す輝く粒子。
 それはあっという間に空中高く舞い上がり、ゴーレムをギーシュと時と同じように土に戻してしまった。
 もっとも粒子は風の流れのせいか、宝物庫までとんでいき、防御のためにかけられている魔法も消してしまったが。
 ちなみに、何か怪しい人影がいたので失敗魔法でぶっ飛ばしたらそれはミス・ロングビルだった。
 ロングビルは爆発をまともに食らって全治三ヶ月の怪我をおい、ルイズはギーシュの一件もあり、謹慎処分をくらう羽目になる。
 宝物庫の中は無事だったので、謹慎は短くてすんだのだが。
 謹慎を食らっても、ルイズはちっともこたえてなかった。
 何故ならば、自分の使い魔がどれだけすごいか、頭ではなく魂で理解できたから。

 (メイジの実力を見るなら、使い魔を見ろ……か。なるほど、私にぴったりじゃない!)

 部屋でじっとしてても、ニヤニヤと笑いが止まらない。
 あの使い魔、原理はわからないがあれの吐き出す粒子は魔法を消去してしまう力がある。
 ドットクラスのギーシュくらいのものなら、それなりでしかないだろうが、あの馬鹿でかいゴーレムさえ苦もなく無効にできるのだ。
 自分の魔法が消された時の、ギーシュのあの顔!
 思い出すだけでも傑作だ!
 翼をもがれた鳥みたいにぶざまな姿だった。
 ゼロのルイズ。
 その二つ名は大嫌いだった。
 でも、これから思い切り好きになれそうだ。

 「そうよ、私はゼロのルイズ」

 ルイズはくすくすと笑う。

 (でも、ゼロなのは私じゃない……。ゼロになるのは……)

 自分以外の、あらゆるメイジだ。


 後年、ゼロのルイズの名は永く広く語り継がれることになる。
 いかなるメイジも、彼女の前ではゼロになる。
 ただ、虚無の属性をのぞいては。

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