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エデンの林檎 十五話

十五話 『蛇はイヴに狙いを変える』


 ずるりと湿った音を立てて風の槍がジェームズ一世の腹から抜ける。
 痛いどころではないだろうその傷にもかかわらず、ジェームズ一世は振り向きざまにエア・ハンマーを放った。

「父上!」
「杖を構えんか!」

 駆け寄るウェールズを一括し、ジェームズ一世は炎の魔法で自分の傷を焼きつぶす。

「ぐぬう! 何者か!」

 そのメイジはゆっくりと、その白い仮面を取り外す。
 整った顔、美麗な髭、それはどう見てもワルドだった。

「ぼ、僕だと! そんな馬鹿な!」
「遍在、って感じじゃないわね」
「シエスタ!」

 後ろから放り投げられた杖を受け取りそれをワルド(偽)に向ける。
 ワルドは一切の表情が抜け落ちた顔のまま、手に持つ杖を突き出した。

「エア・カッター」
「ワルキューレ!」

 生成された楯を持つ戦乙女が陣形を組み、飛来する無数の見えない刃を受け止める。
 ギーシュの後ろから打ち出された氷の矢と火球がそれを相殺、ワルド(偽)に向かった一部は風の楯にさえぎられた。

「ライトニング・ク「レビテーション!」」

 何を唱えても爆発するルイズの魔法が、ワルド(偽)の持つ杖に叩き込まれる。
 何か対策がしてあったのだろうが、それでも爆発は杖をワルド(偽)の手から離れた。
 直後驚くほど俊敏な動きで駆け出したワルドがその杖に手を伸ばし――

「つーかまーえたー♪」

 ――床を砕いて飛び出したギーシュによく似た女の手にさえぎられた。
 人間ではありえない握力で握り締められた足に向かってもう片方の手が振るわれる。
 凶悪な爪が生えた獣の手が、その足をひざからそぎ落とした。

「!」

 声も表情も痛みを一切感じさせず、それでも驚いた様子でワルド(偽)は床に手をつく。
 だからルイズたちのはるか後ろ、彼から二十メートルは離れた距離を一歩で踏み込んで拳を振り下ろしてくる人影には気づけなかった。
 まるで竜のような亜人の燃え盛る拳がワルド(偽)のからだのど真ん中に突き刺さる。

「吹き飛びなさい!」

 生物では絶対に立てられない金属のひしゃげる音を鳴らしながら、一度地面にめり込んだワルド(偽)は爆炎を上げて跳ね上がり、そのまま壁に叩きつけられた。

 結局彼はすぐ横にいた、デルフを腰だめに引き絞るシエスタに気づくこともなく、背をあずけた壁ごとその首と体を切り離されて停止する。
 ワルド(偽)はゆっくりと、まるで溶けるようにワルドとしての姿を失っていった。


「一体なんだったの?」
「こいつぁなんとかって人形だぜ。悪いが名前は忘れたが先住魔法系のオートマータだ」
「またあ? 壊れきってて情報が引き出せないのよ」
「機能なら覚えてるぜ。確か血を与えたやつの完全なコピーに化けるんだ」
「厄介ね……」

 念を入れてか背後で首から下を、その巨大な砂の腕で握り砕いているフーケを視界に捕らえながら、ルイズは杖を構えたまま座り込んだワルドに駆け寄った。

「大丈夫?」
「いや、正直精神力が残ってなくてね、限界だった」

 這いずったのだろう土まみれになった包帯に包まれた胸をなでおろし、ワルドは体の力を抜いた。

「ワルド様、あれに心当たりは?」
「いや無い。だがあのアンドバリの指輪といい先住魔法のアイテムだ、スポンサーがいたんだろうな、クロムウェルには」
「スポンサー、ね」
「司祭の地位を利用すれば軍人や官僚に近づくのは簡単だからね」
「やれやれね」

 ワルドに肩を貸して立たせると、ルイズは彼を支えたまま王に近づいていく。
 玉座に座り込んだ王は水のメイジの治療を受けていた。

「ワルド様、スポンサーに心当たりは?」
「ガリア、だろうね。今トリステインとゲルマニアに手を組まれて困るのはガリアだけだ。トリステインは土地がら前線基地を築くのにもってこいの場所が多い。例えば君の学園なんかそのまま要塞にできる」
「しかもこのクーデターが成功すればアルビオンは手の中、か」
「さらにこのアルビオンは浮遊大陸だ。先住魔法によっては大陸ごと移動ができるかもしれない」
「……冗談に聞こえないのが怖いですわね」

 少しだけ悲しそうに、ワルドは眉をしかめる。

「しかしあんなものが用意されているとは。今回のこれも最終的には僕ごと始末するつもりだったのかな」

 治療が終わったのか腹部に包帯を巻きつけているジェームズ一世。
 心配してだろうなにやらわめいている医者を無視し、彼はその上から鎧を着込んでいた。

「陛下、お傷のほうは?」
「もって一日」
「一日、ですか……」
「一矢報いて散るには十分すぎる時間じゃ」

 そこの笑顔に悲観や絶望はなかった。

「どうなさるおつもりですか?」
「何、ロートルの最後の一撃、やつらに食らわせるまでよ」
「父上、私は!」
「お前なら大丈夫だ。後を任せても問題はなかろう」

 体の痛みを無視してジェームズ一世が立ち上がり、数名の老兵がそれに従う。

「お客人、小さめの船を一隻お貸しする。それで無事トリステインに戻ってくれたまえ」
「陛下!」
「さらばだ。ほんの一晩だが良い宴であった」

 杖を手に持ちジェームズ一世は老兵たちと共に宮殿を後にする。

「父上! 御武運を!」

 ウェールズは一滴も涙を流さずに最敬礼でジェームズ一世を見送った。


「さあ、船は向こうだ。道中気を付けたまえ」
「殿下、御武運を」
「ああ、勝つさ。勝てないわけがない」


 ジェームズ一世はイーグル号よりも一回り小さな軍艦の中、船を制御する数名の老メイジたちと共にただ前だけを見据えていた。
 甲冑の前を開くとべったりと粘ついた血液。

「やはり数時間しか持たなんだか……」
「陛下、作戦開始まであと五分です」

 その声にジェームズ一世は重い腰を上げた。

「諸君、我々はこれより血路を開く。我らの放つ一撃がウェールズに、そしてこのアルビオンに再び団結をもたらすだろう」

 内臓が痛み骨がきしむ。

「あやつは良い王になる。ワシよりもずっとな。よって老害にしかならぬ我らの、これは最後の晴れ舞台だ」

 そして全員に、軽くだがその頭を下げた。

「礼を言う。この死に戦によくぞ付き合ってくれた」
「何をおっしゃいます陛下」

 だが周りの老メイジたちの反応は、少しの非難も悲観も含んではいなかった。

「私たちは戦争しか知らぬ老いぼれです」
「政治のことなどさしてわかりはしません」
「私ら老骨にこんな晴れ舞台、もったいのうて感謝したいぐらいですとも」

 皆一様に笑顔、それは決して死に向かう顔ではなく希望に満ちた顔。

「陛下、私たちは死にに行くのではありません。生かしにいくのです」
「……そうか、そうか」
「作戦開始まで一分!」

 ジェームズは杖を持ち、老いて傷ついた体を奮い立たせる。

「諸君、これより我らは敵旗艦のみを目標に戦闘を開始、それを停船するを目標とする」
「死ぬだろう、間違いなく死ぬだろう。だがそれは絶望ではなく希望のため、未来のため!」
「カウントダウン開始! 十! 九! 八! 七!」

 大きく息を吸い、痛みで縮こまった筋肉を肋骨で無理やり押し広げる。

「三! 二! 一! 開始!」
「目標ロイヤル・リヴリン改めレキシントン号ブリッジ! 突撃せよ!」

 船は大量の火薬と共に、大軍のど真ん中に突っ込んだ。
 洗脳が解けた兵たちが戸惑っているのかほとんど反撃は行われない。
 飛んでくるいくらかの魔法を気にもせず、船の全メイジで張った風の楯を掲げて船は真ん中を突き進む。

 そしてそれは寸分たがわず、クロムウェルの腹心たちが相談をしていたブリッジに突っ込んだ。

「我らが誇り高きアルビオンに栄光あれ!」

 ジェームズの一世の杖が炎の魔法を放ち、船中にまかれた火薬と油に点火する。

「ウェールズ! 後は任せた!」

 轟音と閃光が船を包み込んだ。



 轟音を上げてレキシントン号の上ではじけ飛ぶ偵察船。
 それに一同は黙って敬礼した。

「陛下……御立派でしたわ」
「まったくね」
「ウチの貴族もあれくらいしっかりしてれば……」

 リアリティあふれるワルドの泣き言に苦笑しながら、ルイズたちは船を進める。
 小型の大砲を一門積んだ船は、何故かシエスタが操縦できたため実に順調だった。
 何故か左手がちりちりしたのをシエスタは不思議そうに見ていたが。

「ルイズ様、何か左前方少し上に船が飛んでますよ」
「信号弾上げましょう」
「アルビオンのしかないわよ」
「貸したまえ。僕が作り変えるよ」

 信号弾の一発を錬金魔法でさっくり作り変えて、ギーシュはそれを上方に打ち出す。

「……止まりませんねぇ」
「まさかまた空賊?」
「停船命令が出てます! あとドクロの旗!」
「……打ち落としてくるわ」

 少し機嫌が悪くなっているルイズが一人、甲板へ歩み出た。

「いろいろあって虫の居所が悪いってのに……」

 取り込んだ資材が再構成され両肩が盛り上がり太目の筒が姿を見せる。
 背中から生えた金属フレームが体を固定した。

「くだらないことしてるんじゃないわよ!」

 両肩の筒、否大砲から打ち出された不可視の弾頭が、空賊船に風穴を開けた。

「うっわー」
「ルイズ、やりすぎじゃない?」
「流石にって待ちたまえ! 苦し紛れか!?」

 一発の砲弾がひゅうんと風を切って飛来する。
 ルイズはあろうことかそれを突き出した左手で受け止めた。

「ルイズ!」

 痛む体を押して甲板に出るワルド、その眼前の光景はある意味コミカルだった。

 ルイズの手の中で渦を巻く爆発現象そのもの、それはそのままルイズの口に吸い込まれ姿を消した。

 けぷっ、と小さなげっぷと共に吐き出される黒煙。

 煙を上げて墜落していく空賊船に向かって中指を突き出し、ルイズは口角をつりあげて笑った。

「おととい来なさい! この○○。○○野郎!」

 爆発の悪魔が少女の中でクククと笑った。



 途中立ち寄ったラ・ロシェールの港で錬金魔法を使って船にヴァリエール家の家紋を刻む。
 とりあえず襲ってくる馬鹿が減るだろう恩恵を考えて、ルイズ達はホテルで体を洗いに船を港に預けて町に出た。
 ワルドの洗浄をギーシュに任せ、水や食料をシエスタたちと買いに出る。

 クックベリーパイ片手にルイズはホテルに戻った。

「ワルド様、苦しいかも知れないけど身なりを整えたらすぐに出ますわ」
「いや、僕は気にしなくていい。というか王宮のほうが治療に専念できそうなんでね、急いでくれたほうがありがたい」

 全員でクックベリーパイを囲んで荷物を整理する。

「まあそれなら食事だけはしっかり取っておきましょう」
「あんたパイばっかじゃない」
「ハシバミ草を」

 苦い緑の葉っぱをパイに乗せられ、ルイズは顔をしかめた。

 でもまあ、何故かそんなに簡単に進まないのが二次創作。

「あれ何かしら?」
「見た感じテロリストね」
「あいつらどこにいるのかしら」
「船の中っぽいね」
「あの船は誰のかしら?」
「さっき君がヴァリエール家の家紋を彫り込んだ船だね」

 沈黙のままルイズはライフルを生成する。

「ぶっとばしてやる」

 数分後テロリスト達は黒こげで甲板に転がっていた。

「ふん、ざまあ見なさい」
「あんた最近凶暴ねえ」

 船は一応無事に港を出港した。


 王宮では対応に困っていた。
 明らかにアルビオン製の、しかしヴァリエール家の家紋が彫りこまれた小型の船が王宮の近くに停船したからだ。
 小型とはいえ正面と左右に合計五門の小型の大砲が備え付けられているのだから。
 まあ実は威嚇のための飾りなので意味はなかったりする。

 ともかく船を攻撃することもできず周りを囲むしかない兵たちだったが、出てきた人物に驚きもあらわに跳び上がった。
 それは少女に支えられた包帯でぐるぐる巻きのグリフォン隊隊長だったのだから。
 後ろには同じくボロボロのグリフォンもいる。

「し、子爵様! これはいったい!?」
「姫殿下の特命でね。こちらは婚約者のヴァリエール嬢だ。粗相のないように」
「はっ! 失礼しました」
「悪いが殿下に取り次いでくれないか? 特命で内容は話せないのでね、ルイズとワルドが帰ってきた、でお分かりになられると思う」
「了解しました! 少々お待ちください!」

 数分の後、ルイズ達は謁見の間に通された。


「そうですか、ウェールズ様は残って戦われると……」
「はい、ジェームズ一世陛下は私たちの前で討ち死にされました。立派な最後でした」
「そうですか……」
「殿下はおそらくは勝算がおありのようでした。おそらくは生き残って戦っておられるでしょう」
「私にできることはな「ありません、殿下」」

 失礼な行為だが、それでもワルドはアンリエッタの発言をさえぎりはなす。

「殿下は内政に御専念ください。戦争に関しては私たちの役目です」
「それはっ!」
「殿下のお勤めは政務です。誤解なされぬよう」

 ワルドの声はきっぱりとして、それでいて冷たい。

 ふと見上げるとアンリエッタの少し後ろ、マザリーニがじっとワルドとルイズを見ていた。

 謁見の後、マザリーニの私室でルイズはワルドと共に報告を行っていた。
 ワルドのこと、指輪のこと、アルビオン王家のこと、メイジをコピーする自動人形のこと、そしてレコン・キスタのオリヴァー・クロムウェルとその黒幕だろうガリアのこと。

「そうか、それで君はレコン・キスタへ」
「気づいておられたので?」
「隊長が私に断りもなしに遠出などありえんよ。違うかね?」
「……まったくです」

 ワルドは苦笑を返すしかなかった。

「ともかくおぬしへの処分はトリステインへの奉仕で代わりとする。今は治療に専念せい」
「感謝します」
「さてミス・ヴァリエール、君には感謝してもしきれんよ。いずれ何らかの礼をしよう」
「もったいお言葉です」
「とりあえず当面は金銭的謝礼をしよう。たしか平民も数名いたのだろう? 彼らに渡すといい」
「はっ!」
「あとあの船の登録はこちらでやっておく。そのまま乗って帰りたまえ」
「ありがとうございます」

 ルイズは一礼しその場を立ち去った。

「のう子爵、彼女は強いな」
「まったくです」
「殴ってでも正せばいい、か。耳に痛いな」
「これから気をつければいいだけのことです」
「そうよな。ああそうだ子爵、彼女を送ってくるといい」
「御配慮感謝します」

 自分を呼ぶ声に振り返るとワルドが手を振って駆け寄ってくる。

「せめてもの出入り口までは送るよ」
「治療に専念されたほうがよろしいのでは?」
「何、くだらん男の見栄さ」

 たわいのない昔話をしながら二人は王宮の入り口まで歩み行く。
 入り口で分かれる直前、ルイズがワルドに振り向いた。

「そうそうワルド様」
「なんだい?」


 かつて小さなルイズにそうしたように少ししゃがみこんで顔を近づける。
 その襟をつかんで引き寄せ、ルイズは唇を重ねた。

「プロポーズの件、少しだけど考えておいて上げる」

 にっこり笑ってルイズは外へ駆け出した。

「……まいったなこれは」

 残っている左手で唇に触れる。

「爵位が上がったら真面目にプロポーズするかね?」

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