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ゼロの蛮人4




《『王宮日誌 シャルロット私書録』より》

蛮人(バルバロイ)のトラクス、ゼロのルイズ、そしてミス・ロングビル。
《ヴェストリの広場》で姿を消した三人が、なぜここで一同に会しているのか。
少し考えれば答えは簡単、このミス・ロングビルが、トラクス(ルイズもいるけど)を密かに助けたのだ。
彼女は『土のメイジ』、あの時土の壁を落としてトラクスを捕らえたのはその魔法。
ならば、そこから地面に穴を開けてトラクスを逃がした…とも、考えられる。
土壁を自分で崩落させ、姿を消して行方不明扱いにするのも、あの状況なら結構容易い。

ではなぜ、学院長秘書である彼女がそんな事を? よもや、蛮人トラクスと恋仲というわけでもあるまい。
そう考えを巡らせるうち、不覚にも、飛び掛ったトラクスに杖を叩き落され、腕を掴まれた。
「おや、見られちゃあしょうがないねェ。バラすかい?」
「ケケケケ、運がなかったな小娘! おめーんとこからはカネが出るのかい? 身代金だよォ!」
「あんたは、それしかないのかい? ケッ、魔剣がカネ貯めて何しようってんだ」
下種な会話だ。あまり信じたくないが、ミス・ロングビルが蛮族や野盗のような口調で魔剣と話している。

「確かあんた、タバサとか言ったね。ガリアからの留学生で『風のトライアングル』…だね?
 ご覧の通り、あたしの本性は悪党さ。巷で噂の『土くれのフーケ』その人だよ」
フーケ。悪徳貴族の宝ばかりを狙い、庶民の鬱憤を晴らす怪盗。こんなところに、その正体がいたとは。
それなら、あの大立ち回りを見せたトラクスを脱出させ、仲間に引き入れようという魂胆か。

「おい嬢ちゃん! カネが出ねえんなら娼館に売り飛ばしちまうかァ?
 いくらトライアングルでもよォ、杖がないメイジはただのボンクラ揃いだしなあああ!!」
「デルフ、あんたはもう黙って。…あたし、ちょっとこの蛮人さんに惚れ込んじゃってさぁ。
 お察しの通り、この魔剣と達人の腕があれば、向かうとこ無敵でしょ?
 それに加えて、『土のトライアングル』メイジであるあたしの強力サポート。不可能はないわ」
そうかも知れないが、トラクスと魔剣――デルフ、というらしい――は、少々目立ちすぎはしないか。
王立の魔法学院でこれだけの大暴れをしたのだ、もう国内にはいられまい。

「で、どうする? あんたは外国人だし無口だし、このまんま見逃してくれるってんなら有難いけど。
 多少のお礼もするよ。…いやだってんなら、それなりに対処させてもらうさ」
とは言え、トラクスにがっしりと捕まえられた状況で否応もない。多勢に無勢だ。
彼の背中にいるルイズは、頭に包帯が巻かれて桃色の髪を隠され、まだ昏倒しているようだ…。
横暴な主人だったにせよ、十六歳の少女の頭に酷い怪我を負わせる手合い。私もただでは済みそうにない。

「………私も行く」
「………へぇ?!」
意外すぎる返答に、フーケが変な声を出す。
本当に、なぜそう答えてしまったのか。ルイズが心配? 命が惜しい? 冒険でしょでしょ?
多分、その全部だ。それに私もある意味、トラクスに魅せられていた。
美しく舞うように何十人もの敵を切り殺す、この恐るべき蛮人に。
「ふっ」
フーケの合図にトラクスが薄く笑い、私から手を放した。


漆黒の髪、無愛想な眼差し、手には一振りの剣を持つ一人の男。
双月の照らす中、木の下に座って物思いに耽るのは、蛮人トラクス。
女たちと学院から脱走して、今は食事をし、森の中で身を潜めているところだ。

そう言えば、古の英雄叙事詩に、こんな一節があった。
『この剣の力で、戦士としてのあらゆる道がひらけた!
 いまは、キンメリアの荒野から出てきた半裸の若者に過ぎないが、
 これによって世界への道を切り拓き、血汐の川を渡渉して、
 地上の諸王と同等の高位に達することも夢でなくなった』

キンメリアとは、俺たちスキタイ人が来るより前に、黒海の北側にいた遊牧騎馬民族だ。
今は南下して更に東方へ移り、強大なペルシア帝国の支配下にあるのだったか。
確かに、この剣…デルフのおかげで、俺の道は血汐とともにひらけた。
戦士か。傭兵やけちな山賊より、エトルリアで流行の剣闘士がいい。勝てばカネも名誉も手に入る。

いや、せっかく貴族の娘たちが手元にいるのだ。どこか遠くの領主に仕官して、のし上がろう。
戦争でもあれば思う存分腕を振るい、英雄となる。いずれは将軍様だ。更に学芸を身につければ、
都市を支配する僭主、いやいや、王様にでもなれるかも知れない。夢は膨らむ。
「ふっ」
夢、か。奴隷身分まで落ちた俺が、王様に。
スキタイはギリシアと違い、激しい実力主義の社会だ。弱肉強食と言ってもよいが、
中には交易で巨万の富を築いた者や、ギリシアやペルシアに名の響く賢者になった者もいる。
まだ若いこの俺トラクスが、王になったからとてよかろう。

それには、まずこの『異世界』をもっと知る事だ。鎖つきの奴隷のままでは見えなかった、様々な事。
お尋ね者とはなったが、自由な手足と五感で全てを感受し、いずれ全てを手に入れてやろう。
「ガリア、か」
トリステインやゲルマニア、ロマリアといった地名を耳にはしていたが、馴染みがない。
ただ『ガリア』だけは聞き覚えがあった。ギリシアよりずっと北西、スキタイにも劣る野蛮人、ケルト人どもの住む土地。
いつぞや西のイタリアへも攻め寄せて、多くの国々を荒らしまわったという。
まあ月が二つあり、マジナイ師がうろちょろしている異世界だ。あちらのガリアとはだいぶ違うだろうが。
向こうで寝ている青い髪の娘は、そのガリア出身らしい。

さて、久しぶりに腹もくちくなったし、寝るとしよう。…その前に、女が三人もいるんだから、性欲処理かな。

蛮人らしい思考法で、トラクスは離れたところで寝ている三人に夜這いをかける。
すると、左手の烙印が激しく発光し、トラクスの全身に雷に撃たれるような激痛が走った!!
「ぐぁぁぁああああ!!??」

どうも、この烙印は便利だが、その分『してはならない事』を封じてしまう効果があるようだ。
くそったれ、『ご主人様』以外の女にも触れられないではないか。とんだマジナイ、いやノロイだ。
これでは娼婦を買うこともできない。なんとかいうギリシア喜劇みたいだ。
「ゲァハハハハハ、いい格好じゃねェかトラクス! 奴隷に逆戻りかァ?」
黙れ、このクソ魔剣。それこそ調教してやろうか。


「タバサ! ミス・ロングビル! 何で私がこんなところにいるのよ!!
 帰して! 学院に帰りましょう! 痛い! 頭が痛い!」
翌朝、昏倒していたルイズがようやく起きてきて、騒ぎ出した。どう説明したものか。
杖は取り上げているから、たいした事はできまいが。

「おい、女、ナントカシロ」
俺は片言で緑の髪の女に言う。デルフが通訳にはなってくれるが、こいつに喋らせるとややこしくなる。
「あたしは『ロングビル』だよ。人前ではそう呼びな。
 ……ミス・ヴァリエール。まずは落ち着いて。頭の傷は秘薬を塗りましたが、まだふさがってはいないのです」
コロコロと態度を変える女だ。タバサとやらは俺より無口だし、こいつに任せるしかないが。

「と、トラクスッ!!? あああああああ、あんた犬っころ以下の蛮人の分際で、
 このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール公爵令嬢に何てことしてくれたのッ!!
 絶対殺す! ジワジワと嬲り殺しにしてやるッ!! それからドブネズミの餌にしてやるッ!!」
『……おい、デルフ。なんて言ってるんだ? ハランシャヴァーシュ・なんとか・パリヤールってこいつの家名か?』
『てめーをブッ殺して、犬のクソにしてやるとよ』
ま、怒り狂うのも無理はないか。脱出に成功はしたし、ここで舌切って放置して野犬の餌にしようか。
どうせ足手まといだし、身代金要求なぞしても、強いマジナイ師どもにかかればあっさり殺されかねん。
……しかし、この『烙印』が今消えるのは、いろいろ損得勘定してもちと惜しい気もする。どうしたものか。

「ミス・ヴァリエール! 落ち着きなさい!(パァン)」
ルングヴァル、じゃなかったロングビルが、暴れるルイズの頬を引っぱたいて大人しくさせる。
子供の扱いに慣れたような感じだ。ルイズは十六歳だというから、一応成人だが。
「私たちは、この蛮人トラクスに誘拐されたのです。杖なども取り上げられ、無力です。
 彼は脱出の際、学院の衛兵を何十人も切り殺している危険人物。隙を見て逃げ出すしかありません」
「誘拐……! あ、まさかッ!?」
「……いえ、彼に刻まれたルーンの効果か、そういう事は大丈夫のようです。
 それに、傷は負わせられても、貴女を殺す事もできない。ただし、身体能力の高さは異常です。
 下手に逃げれば深手を負わされ、後は放置されるかも知れません。猟犬のように追ってくるのですから」

何を言っているのかは分からんが、ルイズは静かになった。
「で、でも、『遠見の鏡』で見つけてくれるんじゃ……」
「いいえ、彼が持つ魔剣『デルフリンガー』は、メイジの魔法を尽く吸い込む効果があります。
 私たちが遠くへ離れなければ、効果は続くのでしょう」
実は、俺たちの背中には小さなマジナイ札が貼ってあり、『遠見の鏡』などでマジナイ師に察知されるのを防いでいる。
ロングビルがどこぞの貴族様の邸宅から盗み出したお宝だと言っていた。
ルイズがますますしょげかえる。流石にちと哀れになってきた。


《『王宮日誌 シャルロット私書録』より》

「わ……私の、責任です。自分の使い魔をちゃんと躾けられず、皆に死傷者まで出す迷惑をかけ、
 ミス・ロングビルやタバサまでこんな目に巻き込んで……」
ルイズが流石にしおらしくなる。こうしていれば、年相応に可愛らしいのに。
「いえ、貴女をトラクスの手から救い出せなかった、学院の側にも責任があります。こちらこそ謝らねば」
こちらは心底腹黒だ。嫁の行き手もなくなった年増め。
ミス・ロングビルは、泣き出したルイズを宥めてまた寝かしつけ、私とトラクスの方へ戻ってきた。

「……こんなもんかね。で、どうする?」
どうするって、行くあてがあるから脱走したのだろうに。
「なに、アジトはいろいろあるさ。どこへまず向かったもんかと思ってねぇ。
 トリスタニアの裏路地か、山の中の小屋か、学院に一回戻って忘れ物を持ってくるか。
 なんならこのまま国外逃亡したって、構わないけど」
ふむ。私だって、衝動的に出てきたようなものだし、一晩経ってみると冷静にもなった。
そうそう学院には帰れまい。シルフィードはとりあえず近くの森に潜ませておく。

「……なぁ蛮人さん、あんたはどうしたい? 今夜は貴族の館に潜入して、お宝をゲットしたい気分だけど」
『だとよ相棒。どーすんだ? 俺様は動けねーからどれでもいいぜ』
「……………」
トラクスは黙ったままだ。バルバロイとは『言葉が通じない異邦人』という程度の意味だが、
彼は言葉が通じなくとも、意外に高い知性を持つ男らしい。
「盗む。宝、武器、弓矢、馬。カネもメシも、家畜も家も女も。『盗まれた方が間抜け』だ。スキタイ人は、そう言う」
だが、発想はまるっきり蛮人だ。

「ははッ、面白い! スキタイ人ってのは、あんたの部族かい?
 分かったよミスタ・トラクス、まずはトリスタニアの裏路地に行って、準備を整えようか!」
ミス・ロングビル――フーケが笑い、荷物とルイズを馬に積み始める。




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