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マジシャン ザ ルイズ 3章 (18)

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マジシャン ザ ルイズ (18)操舵

「ウルザ!ミスタ・ウルザ!返事をして!目を開けて!ねぇ…っ!」

ブリッジに、警告アラートとウェザーライトⅡの船体が軋む音が猛り轟く。
一瞬にして八隻のアルビオン戦艦を沈め、二匹のイゼット・ドラゴンを葬った飛翔艦が、浮遊力を失ったことで地上へ向けて落下を始める。

「いけません!皆さん何処か手近なものにしっかり掴まってください!」
艦橋を襲う強烈な揺れと浮遊感。直後に叫んだコルベールの警告。
艦の平衡が失われて前傾し、艦橋内では固定されていなかったものが前方へと滑り落ちた。
言ったコルベール自身、そしてウルザ、ウルザに寄り添っていたルイズもまた床を滑り落ち、艦橋前方の壁へと叩きつけられた。
ウルザが意識を失うと同時に動力源であるエンジンからの供給が止まり、全てのシステムが遮断されたのである。
それらの停止した機能の中には当然、飛翔機能や力場発生機能も含まれている。
今や飛翔艦ウェザーライトⅡは空に浮かぶ巨大な棺桶と化し、地面へ向けて猛スピードで滑り落ちているのだった。

伝説のアーティフィクサー・ウルザ。
彼が設計し様々な処置を施されたウェザーライトⅡ、その性能はあらゆる面でハルケギニアに存在するどんなフネをも凌駕する。
だが、それでも天高くからの地表へ叩きつけられれば、何重にも『固定化』を施された船体とて無事で済むという保証はない。
何よりも、船体が無事であったとしても慣性を殺す『反射』が作用しなければ落下の衝撃で中の人間は挽肉になってしまうだろう。

「ぐ、ぐぐ……操縦が手動になっているのか」
この船をウルザと共同で製作したコルベールには、現状をある程度把握することが可能であった。
動力とコントロールを一人で担っていたウルザが敵から何らかの攻撃を受け、艦の操作を彼自身で行うのが困難となった。
そのため彼は意識を失う直前に制御権を手放し、艦を手動操作に切り替えたのだ。
結果操縦者を失ってしまったウェザーライトは、その制御を失い落下しているのだった。
コルベールの頭脳はこれらを整理し、現状を打破する方策をすぐさま導き出した。
そう、ことは単純である。
手動で制御してやればいいだけなのである。

前のめりに傾いだウェザーライトⅡの艦橋内、その床は三十度ほども傾斜している。
その傾斜の落ち止まりに位置するコルベールが、艦橋前部中央に位置する操縦席にたどり着くのは難しい。
コルベールは今このとき操縦席に座っている彼。必死にしがみついている彼に、全てを託す他に自分達が助かる道は無いと判断した。

「ミスタ・グラモン……ギーシュ・ド・グラモン!」

恐れで瞳をしっかりと閉じ、必死に床に据えつけられたコンソールに掴まっていたギーシュ。
コルベールは、彼に全ての命運を預けたのだった。

ギーシュ・ド・グラモン。
彼は本来この場所に立っているはずの無い人間である。
ウルザやルイズ、コルベールやオスマン、彼らのように覚悟や意気込みを持ってこの船に乗ったわけではない。
彼がこの船に乗ったのは事故、あるいは手違いによるものである。
突然戦場に放り出され、恐怖を感じなかった訳ではない。だが、圧倒的なウェザーライトⅡの性能は彼が今立っているここが、戦場であるという現実を忘れさせた。
そうして無邪気に興奮していたギーシュ。
彼は今ここに至ってやっと自分が戦争に巻き込まれたことを実感したのである。
繰り返し言おう、彼には覚悟も無ければ気概も持ち合わせていない。
そんな彼に、コルベールは全てを託す決心をしたのだった。

名を呼ばれ、恐る恐る目を開けるギーシュ。
彼はこれが悪い夢であり、目を開ければ全てがうたかたとなって消え去り、新しい朝が始まることを祈ってゆっくりと瞼を開いた。
しかし、彼の目の前に広がっていたものは横で吐息をたてるモンモランシーでも、自分のために朝食を用意してくれるモンモランシーの後姿でも、頬を朱に染めて目覚めのキスの余韻に浸るモンモランシーの愛らしい顔でもなかった。
そこに広がっていたのは、現実。
至る所で赤いライトが点滅し、アラートが鳴り響く、激しく傾き少しでも体勢を変えようとすると重力に引かれずり落ちてしまいそうになる、前方には一面に広がる草原、これが現実。
途端に恐怖で涙が溢れる。
そんなギーシュに、コルベールは更なる現実を突きつける。



「ミスタ・グラモン!君がしがみついているそれは、操舵装置だ!」
「は、はひ?」
恐怖のあまり泣き笑いのように引きつった顔のギーシュ。
「どうか、落ち着いて欲しい。この船は地面へと墜落しようとしている、それを回避する為には誰かが操縦し落下を食い止めるしかない。ここまでは分かるかい?」
「み、みしゅたこるべぇる……いったひ、なにを……」
涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃになった教え子の顔、それを見ながらもコルベールは冷静に続ける。
「今、この艦内で、操縦を行えるのは君しかいない。君が操縦し、この船の体勢を立て直すしか、我々が助かる道は無い」
きっぱりと言い切ったコルベール。
これで混乱したギーシュの頭も、ようやっと自分がやらねば全員が死ぬということを理解した。
だが、頭で理解することと心から湧き上がる感情は全く別である。
「で、でも、ぼかぁ……ぼかぁ……」
コルベールからはっきりと口にされた「死」の予兆。
それがギーシュの心を鎖となって縛り付けた。
「できませぇぇん!ぼくにはムリです!」

半泣きから全泣きで訴えるギーシュに、外野からの飛ぶ応援。
「やるんだ!ミスタ・グラモン!君にしか出来ないことなんだ!」
ギーシュを見据えたコルベールの叫び。
「やりなさいギーシュ!勇気を出して!」
倒れたウルザのしわがれた手を握ったルイズの叫び。
「やれ!貴族のぼんぼん!このままじゃ全員おっ死んじまうぞ!」
ウルザの横に転がるデルフリンガーの叫び。
「やるんじゃギーシュ君!今こそグラモン家の意地を見せるのじゃ!」
床を滑り落ちそうな体を、両手で椅子に縋り付いて必死に耐えているオールド・オスマンの叫び。
「やって……」
この期に及んでも慌てずに、しっかりと椅子に掴まって体を固定しているタバサの一言。

そして最後に、

ぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

艦橋後方に位置したトイレの扉の奥から響く、モンモランシーの叫び。

「も、モンモランシーーーーーー!!??」
首どころか体ごと向けるようにして背後を見やるギーシュ。
扉の向こうから愛するモンモランシーの助けを求める小さな叫びが、彼の耳に届いた。
ギーシュの頭を重量級のハンマーで頭を殴り飛ばされたような衝撃が走る。
モンモランシー! モンモランシー! モンモランシー! モンモランシー! モンモランシー! モンモンモンモンモン……モンモランシー!
今、彼の頭の思考スイッチが片っ端から下ろされる。ギアは瞬時にトップ、全ての障害/恐怖は脳髄の隅へと追放される。
彼の頭に血がめぐり、その頭脳が高速回転を始める。
どうすれば格好いいか、どうすれば女性に慕われるか、何がギーシュ・ド・グラモンらしいのか!
そうして遂に帰ってきた。気障で格好つけで女性に優しい、普段のギーシュが帰ってきたのである。

「分かりましたミスタ・コルベール!指示を、指示をお願いします!」
涙と鼻水と涎と汗と、それらが交じり合った汁でぐちゃぐちゃになった顔のまま、ギーシュ・ド・グラモンが絶叫した。

艦首を上げ、翼を広げて制動体勢に入るウェザーライトⅡ。
艦尾付近の飛翔翼がぼんやりと輝く。これは船が飛翔機能を取り戻したことを表していた。
しかし、既に地面までの距離は二千メイル。
自由落下の速度を殺しきれず、ウェザーライトⅡは今、正に硬い地面へと叩きつけられようとしていた。



「ハンドルを引きながら、足元の両ペダルを強く踏むんだ!」
「や、やっていますううううううう!!!」
顔を茹蛸のように真っ赤に染めながら叫ぶギーシュ。
その手には丸いハンドルが握られており、細い足は力いっぱい足元のペダルを踏み込んでいる。
コルベールの指示通りに操作を行ったギーシュは艦の飛翔機構の回復を成功させていた。
その際に再起動したのは強大な魔力を動力源とするスランエンジンではなく、船倉内部の飛翔翼付近に設置された二基の風石炉とそれに付随する飛翔機構の方である。

飛翔艦ウェザーライトⅡはウルザとコルベールが設計した、ドミナリアとハルケギニアの魔法と技術を融合させ生まれた船である。
古代スラン文明の技で鋼と技術を、ハルケギニアの魔法で『固定化』と風石を、エルフの先住魔法で『反射』を。
様々な部分で従来とは異なる機能を持ったウェザーライトⅡは、例えメイン動力であるスランエンジンが停止させたとしても、「風石」によって従来通りハルケギニアのフネとして飛行することができる。
しかし、天高くからの自由降下により勢いをつけた船体を再び空に上げるためには、風石の力だけでは足りない。

「もっと強く!強く踏むんだ!力いっぱい!」
「ふぬぬぬぬぬ……も、モンモランシィ、僕に力をぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」
掛け声一発背を反らして、脚力、背筋力、腕力を総動員してペダルを踏み抜こうとするギーシュ。

騒音溢れるブリッジに響く、かこん、という場違いに軽い音。
今、彼の足元のペダルが一段深く、押し込まれた。


勢いを殺しながらも落下を続け、高度千メイルにまで達したウェザーライトⅡ。
墜落は必然と思われたその船体から、強烈な閃光を伴う、魔力のフレアが発生する。
可視できる程に濃縮された魔力の噴射、緑の焔、それは風の純粋なる魔力の激流。

再燃焼装置。これこそがウェザーライトの飛翔機関に組み込まれた装置の名称。
再燃焼装置とは、使用することで通常の五十%から二百%程度の推力を得ることを可能とする一種の加速装置のことである。
反面、この装置は風石の消費が激しく、使用し続ければウェザーライトの風石は二十分程で空になってしまう代物である。
当然だが、この局面でそんなことを気にする必要は全く無い。


「いけええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
叫ぶ、ギーシュ。


巨大なウェザーライトⅡの船体を背後から押し上げる轟風、烈風、大旋風。
風のスクウェアメイジが数人がかりで唱えたスペルような、豪烈な風が船体を後押しする。
自由落下の加速度、重力の鎖、百五十メイル級の船体の重さ、そういった全てのものを破り捨て、ウェザーライトは再び空へと舞い上がる。



「た、助かった……」
操縦席に座ったままぐったりと脱力したギーシュ、その顔は一事をやり遂げた男の顔をしていた。

「やり遂げたなギーシュ君!」
喜びの表情で自分を祝福してくれるコルベール。
「さすがグラモン元帥の息子じゃ。彼は良い後継者に恵まれたようじゃな」
立ち上がって腰をさすっている学院長。
「やったじゃないギーシュ!見直したわ!」
自分を褒め称える、ちょっと胸の部分がかわいそうなレディ。
「……」
無言のまま、こちらを見つめている更に胸がかわいそうなレディ。
ぅきゅぅぅぅぅぅぅ
背後から響いた、可愛らしいモンモランシーの声。
「って、モンモランシィーーー!?」
全力で振り向こうとしたギーシュ。
だが、

ぐ ぎ り

そんな彼の腰から今、盛大にいい音が鳴った。


「ミス・ヴァリエール!ミスタ・ウルザの容態は!?」
「えっと、その、凄い火傷で…それで…」
ルイズの声に耳を傾けながら、コルベールが慎重な手つきでウルザの脈を取り、胸に耳を当てて心音を聞く。
途端にコルベールの顔がさっと蒼褪めた。
「……呼吸が停止している。心臓もだ」
聞いたルイズの体が驚きに強張る。
「そ、それってどういうことですかミスタ・コルベール!」
「お、おいデコッパゲ!そりゃどういうこった!?相棒は死んじまったってことかよ!?」
教え子とインテリジェンスソード、双方の言葉に神妙な顔つきで答えるミスタ・コルベール。
「分からない、だが……今すぐ蘇生措置をとれば間に合うかも知れない!」

早速コルベールが腕を捲り、心肺蘇生を始めようとしたとき、艦橋内に幾度目かの衝撃が走った。
「いかん!ミスタ・コルベール、敵襲じゃ!」
前方を見やれば、先ほどまで姿が見えなかった数騎の竜騎士がウェザーライトⅡの周辺に取り付き、炎のブレスを吐きつけていた。
ウルザと竜騎士に視線を配り、一瞬渋い顔を見せるコルベール。
これに対して、意外なところからの助け舟が入る。
「いけデコッパゲ!この船が落ちちまったら元も子も無ぇ、相棒のことなら俺に考えがあるからよっ!」
カタカタと音を鳴らしながら発言したのはデルフリンガー、聞いたコルベールが固く目を閉じた。
そうして次に目を開けたコルベールに迷いは無く、一直線にギーシュが腰を抜かしている操縦席の右に位置する席へと駆け寄った。
「みみみ、ミスタ・コルベール!正面に敵が!?」
「そのまま直進だミスタ・グラモン!」
コルベールの前に置かれているのは小さなウェザーライトⅡの模型が納められた半透明の球体。球の表面に触れながら口の中でルーンを唱える。
そうしてから、模型の前方、球体の表面を指でなぞりコルベールは呪文を発声した。
「ファイヤー・ウォール」

コルベールの防御の呪文が発動する。
だがそれは、本来発現すべきコルベールの眼前には現われはしない。
出現したのはウェザーライトⅡ前方の空間。そこに燃え盛る青炎の壁が現れたのである。
巻き込まれた二騎の竜騎士が、燐光のみを残す消し炭となって夜空に散った。


一方のルイズは、デルフリンガーの言う、「秘策」を試そうとしていた。

「おい娘ッ子、相棒を助けたいんなら、俺を相棒に握らせな。そうそう、そうだ…これで準備OKだ」
ウルザに握られたデルフリンガーが次に声をかけたのは、いつからかルイズの横に佇んでいたタバサである。
「それじゃ次は、青い髪の娘ッ子。お前さんだ、お前さん。何でもいいから魔法を唱えて、俺に向かって打ち込め!」
「ちょ、ちょっと何言ってるのっ!そんなことしたらあんたが壊れちゃうじゃない!?」
「いいからいいから、黙って見てろよ。手加減はいらねぇ、さあ思いっきりやってくんな!」
自信満々に語るデルフリンガーに、ルイズはそれ以上の言葉を紡ぐのを止める。
デルフリンガーの言葉に従って呪文を唱えるタバサ。
その顔は無表情で何も考えていないのか何かの予感があるのか、判別はつかない。


「エア・ハンマー」
風の槌が生まれ、それが正確にデルフリンガーへと打ち込まれる。
「ほいさ!」
呪文が直撃、したように見えたそのとき、ばん、と何かが破裂するような音が響いた。
風のトライアングルクラスのメイジが放った風魔法がその効果を発揮せず、デルフリンガーに当たった瞬間に消滅してしまったのを見たルイズが目を丸くする。
「ちょっと、何その隠し芸!?」
「おい嬢ちゃん、せめて隠し技って言ってくれよ。相棒があんまし俺を使ってくれねぇから今まで出番が無かったけどよ、俺も一応『伝説』なんだぜ?んじゃ、青髪の娘ッ子、次だ次!」
「エア・ハンマー」
「おいさ!」
「エア・ハンマー」
「よいさ!」
「エア・ハンマー」
「どっこいしょ!」
魔法を打ち込まれれば打ち込まれるほどに、刀身を輝かせていくデルフリンガー。
錆びだらけであったそれは、いつしか新品同様に美しい光沢を取り戻していた。
「どうよ、これが俺『デルフリンガー』の真の姿って奴だ」
「すごい、魔法を、吸収したの……?でもそれがミスタ・ウルザを蘇生させるのとどう関係があるのよ?」
「『伝説』様は魔法を吸収する以外にも隠し技があるんだよ。そのうち一つ、おりゃあは溜め込んだ魔力で『使い手』の体を一時的に動かすことができるんだ。今みたいにな、娘ッ子、相棒の胸に耳を当ててみな」
言われるままに、ルイズはウルザの胸に耳を置いてみた。
そこから響くのは、確かに聞こえる心臓の鼓動。
「う、動いてる!?」
「な?俺ちゃんと役にたつだろ?いらん子違うだろ?これを機会に相棒と娘ッ子は俺の扱いをもうちょっと考えてくれてもいいと思うんだぜ?って聞いてるか、おーい?」


                         これが私の経験する、初めての戦場であった。
                              ―――ギーシュ回顧録第四篇


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