あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の王-04


「丁度、外国行ってた弟が帰って来た所やったんや。ゴッツイ土産持ってなあ。で、手出した途端や。いきなり、目の前に鏡現れよって。うっかり触れたらビリっと来て、気失ってもうて――――」
「気付いたら、あそこに倒れてた、と」

 夜食のパンを片手に、ルイズは言った。疑っている、と言うより、胡散臭い物を見る目だ。
 トリステイン魔法学院女子寮。ルイズの部屋は、12畳程の広々とした物だった。豪奢と端正とが程良く調和した調度品の数々は、一目に高価な物ばかりだ。

「やれやれ。ルイズは疑い深くていかんわ」
「だって、別の世界とか、別の星とか、とても信じられないもの」
「コッパゲはすぐ信じてくれたで」
「ミスタ・コルベールはそう言うのが好きなんでしょ」
「始祖ぶりみるかて、異世界から来た、て話やん」
「あんた、自分が始祖ブリミルと同じ存在とでも言うつもり?」
「まさか。ワイはただのライダーや」
「元王じゃなかったの?」
「そ。ストームライダーの王様」
「何、それ?とにかく、何の証拠も無し、別の世界なんて言われても、信じられる訳無いわよ」

 空は携帯電話を取り出して見せた。適当な動画を再生すると、小さなスピーカーから音楽が流れ出す。

「なにこれ?綺麗~。ねえ、何の系統の魔法で動いてるの?風?水?」
「魔法やない。コッパゲが大好きな領分、て言えば判るか?」
「……要するに、私には理解不可能な物、て事?」
「あ、そや。今度、あいつに見せたろ。絶対、喜ぶわ」
「あんた、随分と気に入られたみたいだしね」

 学院長室を立ち去る時の事を思い出す。

「今度、食事に招待させて下さい!僕はコック長のマルトー親父に顔が利きますから、どんな珍味、美味でも用意できます」

 コルベールはいい年をして独身だ。浮いた話の一つも聞かない。研究室の異臭が原因。当人はそう言い訳する。ひょっとしたら、始祖ブリミルの教えに背く、おぞましい趣味を持っているのかも知れない。ルイズはぞっとした。

「それにしても、この歌。聞いた事も無い言葉ね。何語?」
「宇宙語」

 携帯から流れ出る歌は日本語だ。それをルイズは聞いた事も無い、と言う。当然の様に会話を交わして来たが、言語と文字については、色々と制約が有りそうだ。

「でも、これだけじゃ、わからないわね。やっぱり、別の世界だなんて信じられない」
「……まあ、ええわ。ワイのやる事が変わる訳や無し」

 空はルイズの姿をデジカメに写そうと考え、止めた。データを手渡す手段も無いし、恐らく、気味悪がられるだけだろう。

「使い魔の仕事は判ってるの?」
「ああ。コッパゲに聞いたわ」
「なら、説明はいいわね。何だか今日は疲れたわ。眠くなって来ちゃった」
「ワイはどこで寝ればええ?」
「その辺の床で寝なさい」
「毛布かなんか有るか?」

 ルイズは黙って毛布を投げた。そのぶっきらぼうな態度に、空は首を傾げる。

 さて――――

 ここからだ。ルイズは内心で固唾を飲んだ。


 人間として、最も大切な事は何だろう。それは身分の別、長幼の序だ。この二つが無ければ、どんな徳目も、獣の情と変わらない。
 細い指が、ブラウスのボタンにかかる。
 就寝の為、着替え。ここで、空に退室を要求する訳にはいかなかった。それは彼を男性と認める事だ。人間と認める事だ。それでは、メイジと使い魔と言う関係が成り立たなくなってしまう。
 一つ、一つボタンを外して行く。指先が震える。耳が熱い。顔が熱い。大丈夫――――ルイズは自分に言い聞かせる。ここには誰も居ない。誰も見ていない。
 兎に角、相手の顔を見ない事だ。そう考えた時、思わず、視線の片隅に空を捉えてしまった。
 空が見ている。車椅子の肘掛けに頬杖を突き、澄ました顔で見つめている。
 ボタンをもう一つ。顔の熱が頭まで回る。心臓の高鳴りが吐息に漏れない様、必死で堪える。指先で拍動と痺れが混じり合う。
 ブラウスがするりと肩から落ちた時、唇から零れた息に熱が籠もった。真っ白な肌が薄桃に染まっている事に、ルイズは気付かない。
 スカートのホック。二度、三度と外すのに失敗した時、空が車椅子ごと背を向けた。

「スマン。気付かんかったわ」

 全身から力が抜けた。火照った肌から、忽ち熱が逃げて行く。熱いのか、寒いのか判らない。何か勘違いをしている空に、言い返してやろうとした時、舌が縺れた。

「べ、別に気を使わなくてもいいわよ。使い魔に見られたって、な、なんとも感じないんだから」
「そか。でも、ワイはなんや照れ臭いわ。あっち向いとる」
「す、好きにしなさい」

 ルイズは必要以上に急いで着替えを続ける。スカートを、ニーソックスを脱ぎ、下着に指をかける。

「……今、見なかった?」
「見てへん見てへん」

 ルイズは下着を脱ぎ捨て、大きなネグリジェを被る。慌てたせいで、途中、何度か指があらぬ所につっかえた。

「でも、ルイズには見えとるんやろ」
「え?」
「ワイの見とる物が、他人にも見えとるっちゅーのは妙な気分や。用足す時とか、目瞑らな。それとも、開けてた方がええ?」
「なな、何馬鹿な事言ってるのよ!大体、何も見えてないわよ!」
「ホンマ?」
「あんたじゃ、駄目みたいね。本当に何も見えないもの」
「なんや、相性悪いんかな……そうなると、ワイ、役立たずやん」

 使い魔の仕事は、まず主人の耳目となる事。理由は判らないが、ルイズは空と感覚を共有出来ていない。残る二つは、主人の望む物を見つけて来る事、主人の護衛――――どちらも、空の脚を考えると、覚束無い。

「本当に何も出来そうもないわね」
「肩身狭いわあ……ま。何か役に立てんと、ワイも気引けるさかい。せめて雑用でも引き受けとこか」
「雑用?」
「勉強とか、色々忙しいんやろ。ルイズが余計な事に気取られんでええ様にな」
「そうね。じゃあ、あんたに出来そうな事、させて上げるわ。これ、明日になった洗濯しておいて」

 空の元に、何かが飛んで来た。レースのキャミソールにパンティだ。白い、精緻な造りのそれに、空は眉を顰めた。

「脱いだ物はちゃんと畳まんとアカンで、ルイズ」
「雑用はあんたの仕事でしょ」
「脱ぎ散らかすんは行儀悪いやろ。次は気を付け」
「あんたね。使い魔がご主人様にそんな口きいていいと思ってるの」
「阿呆。誰がやったかてアカンもんはアカンわ」

 意外だった。まさか、この男がこんな真面目な事を言い出すとは思いもよらなかった。

「……わ、分かったわよっ」
「ま、でも少し感心したわ。今まで、自分で洗濯してたんやろ。成金はすぐ子供甘やかすけど、その点、ルイズの親御さんは立派やし、この学校も大した物や」

 空が何だか奇妙な事を言っている。ルイズは曖昧に頷きを返すと、指を鳴らし、ランプを消した。


 瞼に透ける陽に、空は目を覚ました。床は固く冷たかったが、互いに急な話だったのだから仕方が無い。追々、改善を促せばいい。
 ルイズが眠っている間に外した義足を装着。車椅子を手元に引き寄せ、シートを持ち上げる。そこには小さいながらも、収納ボックスが備えられている。まずは昨日出来なかった荷物のチェックを済ませてしまおう。
 ソーラーパネルが在るから、駆動補助モーターや制御回路の電力は当分、大丈夫。簡単な工具も有る。問題は、保守パーツだ。
 阿呆やってんなあ、ワイ――――空は肩を落とした。カップメンが一つ、スペースの過半を埋めている。こんな事になるなら、代わりにもっと部品を入れておけば良かった。後は、創世神〈ジェネシス〉のエムブレム・ステッカーが数枚。
車椅子のバッテリーと、携帯やエアトレックを繋ぐケーブル。その他、毒にも薬にもならない物が埃と共に紛れている。
 予備部品は僅か。おまけに車椅子用と義足用が混在している。まあ、これは部品が尽きる前に帰れと言う、風の神様のお告げだろう。
 くよくよ考えても仕方が無い。空は車椅子に座る。昨夜渡された下着を片手に、窓を開けると、一躍、眼下へと飛び降りる。

「きゃっ!」

 自在輪に後中輪のサスと、駆動輪のショックアブソーバー、強靭な両腕が落下の衝撃を吸収した時、傍らから短い悲鳴が聞こえた。
 そこには、一人の少女がへたり込んでいた。サラサラの黒髪に、清楚な面差し。すらりとした肢体に、メイド服をツンと持ち上げる、たたわな果実。これに眼鏡が加われば、或る意味、究極生命体だ。空はここが異世界だ、と言う認識を新たにする。

「スマン。驚かせて、悪かったわ」
「だ、大丈夫です。少し驚いただけですから」

 そう、立ち上がった時、少女は「あら?」と声を上げた。「んん!」と空が唸ったのは、ほぼ同時だった。

「あなたはもしかして、ミス・ヴァリエールの使い魔になったって言う……」
「ワイ、有名なん?」
「ええ。なんでも召喚の魔法で平民を喚んでしまったって。噂になってますわ」
「冴えん噂やなあ」
「私、シエスタ、て言います。貴族の方々の御世話をする為、ここにご奉公させて頂いています」
「ワイは空や。所で、聞きたいんやけど……それ――――」

空はシエスタと名乗るメイドの靴を指差した。爪先と踵に車輪が付いている。一瞬、エアトレックと勘違いしたが、勿論、モーターもサスも装備されてはいないし、タイヤの形状も極めて原始的だ。ファンタジー版インラインスケートとでも言うべきだろうか。

「あ、これですか?飛翔の靴、て言います」

 シエスタは屈託の無い笑みを浮かべると、クルリと回って見せた。

「空でも飛べるんかい?」
「まさか。きっと、飛ぶ様に速く走れる、て意味だと思いますよ」
「どこでも手に入る物なんか?」
「故郷で……タルブと言う小さな村ですけど……そこで使われているんです。余所では見た事が有りません」

 どうなっている。空は首を捻る。何故、その村にだけ、こんな物が有る。際だって冶金技術が優れているのだろうか。
 ついでに幾つか質問する。まず洗濯はどこですれば良いのか。もう一つ。何故、仕事中まで、その飛翔の靴を履いているのか。

「なんだか、学院長……それにミスタ・コルベールや、何人かの方々が大変に入られて。仕事中、特に給仕の時は必ず履いている様、仰せつかっているんです」

 洗濯板に盥を借りて洗濯を始める。手洗いなど始めてだから、遅々として進まない。今度、コルベールに洗濯機を造らせよう。たった二枚の下着と延々格闘した空は、そう決意して物干し台に向かう。
 そこでは、シエスタがクルクルと小気味良く回りながら働いていた。長いスカートが羽の軽快さで浮き上がる。チラチラと覗く白い脚が刺激的だ。自分とオスマンは、本当に血が繋がっているのでは無いだろうか。
 と、不躾な視線に気付いて、シエスタは慌ててスカートを抑えた。空が笑顔を見せると、気まずそうに目を逸らす。

「そや、ルイズを起こさないかんのやった。今、何時や?」
「6時23分19秒ですっ」

 項を真っ赤に染めたメイド姿のスケーターは、逃げる様に立ち去った。

「はあ。この国、時計の技術が進んでるんやな……て、んな訳あるかい!」

 現代日本とて、時間を秒単位で答える奴は変人と言うしか無い。一体、どんな娘だろう?


 声をかけてもルイズは目を醒まそうとしなかった。揺すっても駄目だった。毛布を剥ぎ取ると、さすがに起きた。いかにも不機嫌そうな顔だ。爽やかな目覚めと言う言葉とは、終生無縁な人間の様だった。

「ぐっもーにんや、ルイズお嬢様」
「はえ? え、え……。って、あんた誰よ!」

 ルイズは叫んだ。そのつもりだった。だが、彼女の鋭い声は、睡魔が粘土の様に捏ねて丸めてしまった。空は爆笑した。御陰で、主人の少女は益々不機嫌になった。

「いやー、大物やわ、ルイズ」
「けど、見知らん相手やったら不審者やん。寝惚けとる場合かい」

 空の笑い方は少し、しつこかった。少なくともルイズはそう感じた。

「あ、朝から御主人様を不愉快にさせる無礼な使い魔には、罰が必要ね。朝ごはんヌき!」
「それ禁則事項や。ツカイマ虐待はアカンで」
「あの契約書とやら?法的拘束力は無い筈でしょ」
「うん。無い。罰則規定も無い。単に、ルイズが始祖ブリミルと、先祖から受け継いだヴァリエールの名に賭けて誓っただけの話やし」

 要する、決して破れない、と言う事だ。ルイズは益々不機嫌になる。ヘラヘラと笑っていた空は、その様子に、少し心配になった。
 契約内容はトリステインの風習や、ルイズの経済状況をオスマンやコルベールに確認しながら決めた。大切なのは、衣食住の保証。他の条項は譲れない一線を守る為の防波堤と、半ばあの二人へのアピールだ。うるさく言う気はあまり無い。
 書類で信頼は生まれない。契約書で頬を叩く様な真似をすれば、関係悪化は目に見えている。それは空も望む所では無かった。

「服」

 何か、フォローを入れるべきだろうか。そう考えた時、ルイズは短く言った。空は椅子にかけられた制服を、丁寧に畳んで側に置く。

「下着。クローゼットの一番下の引き出し」
「どれでもいいんか?」

 適当な物を取り出して渡す。

「気になるなら、向こう、向いててもいいわよ」
「ん。そうする」

 平静を装った声に、空は素直に答えた。


 ルイズの身支度を待って、部屋を出た時、見覚えの有る顔と出会した。燃える赤毛に、彫りの深い顔。なにより目を引く迫力のバスト。年に似合わない、噎せ返る様な色気を放つ少女だ。

「お、あん時の天使さんやん!昨日はさんきゅー、な」
「どういたしまして、ミスター。ルイズもおはよう」
「おはよう。キュルケ」

 ルイズは顔を顰めた。いかにも、嫌そうな声だ。

「ルイズ。友達とは仲良うせんといかんで」
「大きな御世話よ!」

 二人のやり取りに、キュルケは声を上げて笑い出した。

「あっはっはっ!平民に、使い魔に説教されてるの!あなたらしいわ!さすが、ゼロ!“ゼロなルイズ”!お子様ねー」
「ううう、うるさいわね!」
「私も昨日、使い魔を召喚したのよ。どうせ、使い魔にするなら、こう言うのがいいわよね。フレイムー」

 キュルケは勝ち誇った声で使い魔を呼んだ。現れたのは、真っ赤な巨大トカゲだ。体躯は虎並み。口元としっぽで炎が燃えている。


「なんや、こいつ。けったいやなー」

 空は巨大トカゲの額をペチペチと叩いた。

「火トカゲは珍しいかしら?」
「これって、サラマンダー?」
「そうよー。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山のサラマンダーよ。好事家に見せたら、値段なんて付かないわ」
「そんなんワイかて、大きい価値物の尻尾が前側に……――――」

 空の後頭部を、ルイズは力一杯引っぱたいた。

「あははっ、素敵な使い魔じゃない。羨ましいわ」
「素敵じゃない!」
「でも、フレイムも素敵でしょ。私の属性にピッタリ」
「あんた『火』属性だもんね」
「ええ。微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。貴女と違ってね」
「あんたみたいにいちいち色気振りまくほど、暇じゃないだけよ」

 キュルケは笑顔で答えた。余裕の笑みだ。

「貴方、名前は?」
「“空”や」
「素敵ね」
「おおきに」

 お先に失礼――――キュルケは颯爽と立ち去った。巨躯に似合わぬユーモラスな仕草で、フレイムが後に続く。

「くやしー!なんなのあの女!自分がサラマンダーを召喚したからって!あー、もう!」
「こらこら、どこのイジワルなカタキ役やねんっ。ま、でも、あのトカゲは確かにオモロいわ。強そーやし」
「そーよ!そーでしょ!メイジの実力を見るには使い魔を見ろって言われてるくらいよ!なんで、あのバカ女がサラマンダーで、私が人間の雑用係なのよ!キー!」
「まあまあ。同じ人間様ちゅーのも、そう悪い事ばかりやないで。トカゲに悩み相談しとったら、単なる危ない奴やろ」
「同じじゃないわよ!メイジと平民じゃ、狼と犬程の差が有るのよ!」
「そないなん、大した差や無いわ。狼狩る犬種かて居るし、ワイが飼ってる犬は80㎞/hで走るで」
「そんな犬居る訳無いでしょ!」
「ホンマやて。ストーン、コールド、スタナー……元気にしとるやろか」
「三匹も飼ってたの?」
「ああ。スタナーには100匹兄弟が居たさかい。貰い手見つけるんに、エラい難儀してなあ」
「だから、そんな犬居る訳ないでしょ!」
「嘘やないて。ホンマ」

 それよりも、気になる事があった。

「所で、微熱やら、ゼロ、てなんや?」
「ただのあだ名みたいな物よ」
「はー。微熱は微妙やけど、ゼロて格好良いやん」
「……嫌味?」
「ちゃうちゃう。ゼロ言うたら、れい戦のゼロ。最強の戦闘機の名前や。ワイの国じゃ、決定版にはゼロって付くんや」
「言っている意味、全然判らないわ。大体、あんたの国は関係無いでしょ」
「なら、なしてゼロ?」

 ここで、胸を見る奴は少なくない。もし、そうしたら平手打ちをくれてやろう。ルイズは心の中で準備する。だが、空が注視したのは、そのずっと下。おヘソの更に下だった。
 平手は飛ばなかった。拳を握り込んだ平手など、ある訳が無い。廊下に鈍い音が響く。

「っ!……――――痛っ!なにすんねんっ。た、体罰は禁止ーっ」
「これは体罰じゃないわ!躾よっ!」

 悲鳴を上げながらも、空は少し安心した。どうやら、フォローは要らないらしい。なにより、ボケにはツッコミが必要だった。

 ――――To be continued


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