あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-13


「ミス・ヴァリエール、今回の課題ですけれど……」
「はい……」
 厳しい表情で手元の原稿に目を落とすミセス・シュヴルーズ。
 ごくりと唾を飲み込むルイズ。
 暴れる心臓に押し出されるように噴き出した汗が頬を伝い、掌を濡らす。

 永遠にも思える数秒の沈黙。
 張り詰めた空気を解すように、教師は温和な笑みを浮かべる。

「たいへん素晴らしい出来栄えです。
 2年生の提出した論文で、これほどのものは初めて見ましたよ」
「本当ですか!?」
 安堵感と喜びから、ぱあっと表情を輝かせるルイズ。
 その無邪気な笑みにミス・シュヴルーズも頬を綻ばせ、言葉を続ける。

「ええ、そう。アカデミーにいらっしゃる貴方のお姉さんでも、
 今の貴方の年齢で、これほどのものを書くことは出来なかったでしょう」
「エレオノール姉様でも……?」
 ルイズが目を丸くする。
 絶対に叶わないと思っていた、雲の上の存在。エレオノール。
 自分が、落ちこぼれと呼ばれ続けたこの自分が、姉様と並んでいる?
 先ほどとは全く違う心臓の高鳴りに、ルイズが頬を高潮させる。

 まったく、ころころと表情を変える生徒だこと。
 そして、ミセス・シュヴルーズは微笑みながら、慈しみに溢れた言葉とともにルイズの肩に手を乗せる。

「自信をお持ちなさい、ミス・ヴァリエール。
 あなたが誰よりも努力していることは皆が知っています。
 始祖ブリミルもきっと見ていらっしゃるわ」
「は、はい! ありがとうございますっ!」

 深々と頭を下げ、感謝の意を表するルイズ。
 そこから遠ざかる足が、貴族と呼ぶには少しばかり問題がありそうなほどに
 軽やかに見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
 ふふっ、はしたないこと。気持ちは理解できるけれど、転んでも知りませんよ。
 あら、あそこに居るのはミス・ロングビルかしら?



(……嫌な目だ)
 ルイズとすれ違いざまに、ミス・ロングビルは顔を顰める。
 落ちこぼれと評判のこの生徒のことが、彼女は好きではなかった。

 昨日よりも今日、今日よりも明日が良い日だと信じて疑わない真っ直ぐな瞳。
 どれほどの困難に遭おうとも、どれほどの逆境に見舞われようとも、決して折れぬ強き魂。
 嗚呼、なんと麗しきことよ。吐き気がするほどに。

 翻って、自分はどうか。
 魂に刻み込まれているのは、己を裏切った冷たい世界への復讐心。
 守るべき者の為に─────いや、それを言い訳に手を汚し続ける外道。
 己の醜さを知りながら生き方を変えられない、格好悪い大人。
 忌まわしき過去に縛り付けられた道化の独楽鼠。
 そんな自分に、何時からか付けられた二つ名。

『土くれ』

 誰が呼び始めたかは知らぬが、これほど自分に似合いの名も無かろう。
 フッと自嘲めいた笑みが浮かぶ。
 落ちこぼれなら落ちこぼれらしく、もっと淀んだ目をしていればいいものを。

「……どうかしたんですか、ミス・ロングビル?」
『自分の名』を呼ぶ声に、思わず立ち止まる。
 目の前には金髪の少年。ああ、さっきの彼女の使い魔として召喚された彼か。
 知らず知らずのうちに眉間に皺が寄っていたらしい。
 いけないね、どうも。

 とりあえず、仕事のことに少し問題があるとだけ答えておく。
 別に嘘では無い。例えばセクハラとか特にセクハラとか他にはセクハラとか。

「そうですか……あまり無理をしないで、体には気をつけてくださいね」
 とりあえず納得したのか、そう言って笑みを見せる。
 坊やも甘いことだね。
 もっとも、この程度の猫も被れないようでは社会人なんてやってらんないんだけど。

 あ、嬢ちゃんにほっぺ引っ張られてやんの。
 う~ん、確かにそんなに悪くはないと思うけど、少し頼りなさげなんだよねえ。

 さて、無駄口はここまで。そろそろ仕事の準備といこうか。
 ここは分の悪い賭けに張るしかないか、仕方ないねえ。
 本当はもう少しスマートに行きたかったんだけど。



「何だってのよ、もう!」
 眼前の巨大ゴーレムに自慢の火球を打ち出し、自棄気味に吐き捨てるキュルケ。
 その横でタバサは既に2度目となる『ウィンディ・アイシクル』の詠唱を始めている。
 うららかな陽光の下、せっかくアンニュイな気分で散歩を楽しんでいたというのに、
 そこに突如として現れたのは30メイル級のゴーレム。一体何の冗談なのよ、これは。

 こちらの魔法は当たっていてもまるで気にせず、煩い蚊や蝿を振り払うように腕を振り回すばかり。
 それだけと言えばそれだけなのだが、何しろサイズがサイズなので、
 豪腕の一振りだけで背筋が凍りつくような旋風が巻き起こる。
 まともに喰らえばカルシウムたっぷりの人肉ミンチの出来上がりだ。
 変わり果てた姿と言うにも程がある。


    ズゴォォォォォォォォンッ……!!


 部分的に錬金された鋼鉄の右拳が石壁にぶち当たり、轟音が鳴り響く。
 衝撃が砂塵を舞い上げ、砕けた岩の破片がパラパラと飛び散る。
 恐怖心が身を縮め、集中が乱されて練り上げた火球が霧散してゆく。
 ええい、この大事なときに!

「……!」
 歯噛みするキュルケの横で、詠唱を完成させたタバサの氷嵐がゴーレムの左肩に降り注ぐ。
 狙いは、そこに立つ黒いローブを纏った術者。
 小さき親友の尋常ならざる肝っ玉に、内心で舌を巻くキュルケ。

 だが、敵もさるもの。
 咄嗟に余ったゴーレムの左手を、雪風を遮る即席の壁とする。
 感覚を持たない大質量の岩の塊に対し、冷気は決定的な打撃にはならない。
 氷の刃が表面を削り取るも、所詮は焼け石に水。
 与えた損傷も随時再生していく。舌打ちするタバサ。

「駄目、私たちだけじゃ止められない」
「でも、だからって見過ごすわけには───!」

              ───ドガァァァァンッ!!


 キュルケの言葉は最後まで発せられること無く、閃光と爆音にかき消される。
 爆風の中、ほぼ同時に振り返る二人。
 そこに立つのは、左手にフェイズガンを構え、右手にデルフリンガーを携えたクロード。

「いやん、ダーリン! 助けに来てくれたのね!」
「まあ、間違っちゃいないけどさ。デルフ、状況はわかるか?」
「さっきから動く気配が無いな、あの程度の火力が致命傷になるとも思えないんだが」
「……!」

 それを聞いたクロードが、弾かれたように飛び出す。
 巻き起こる砂煙が晴れ始め、残されたのは左腕の肘から先を失ったゴーレムと、塔に空いた大穴が一つ。
 今度はキュルケとタバサの表情が変わり、慌てて追いかける。
 さらにそれを後ろから追いかける影一つ。

「こらーっ! 私を忘れんじゃないわよ!」
「うっさいわね! あんたなんかどうせ役に立たないんだから、そこで待ってなさい!」

 苛立ちに任せて吐き捨て、振り返ることなくクロードを追いかけるキュルケ。
 だから、気付かなかった。
 自らの発したその言葉の重さに。
 愕然として立ち尽くし、その場に取り残されたルイズに。



「……」

 ルイズは唇を噛み、自分の両手を見つめる。
 何も生み出せぬ、何も守れぬ、無力な両手を。
 口を開いても何も言葉は出てこず、歯と唇から吐息が漏れていく。

 そうだ。自分があの場に居て、何が出来るというのか。 
 魔法も使えぬ、武器も持たぬ自分が、何の役に立つというのか。
 己の無力さを噛み締めるように、白い歯が軋る。

 さっきまで浮かれていた自分が、ひどく滑稽に思えた。
 エレオノール姉さまに並んでいる?
 何を寝惚けていたのだろう、コモン・マジックひとつ扱えない役立たずが。

 今の自分に、何が守れるというのか。
 何も守れぬ者の、何が貴族か。

「……っ!」

 力が欲しい。
 何時か、などという曖昧な言葉など要らない。
 今、力が必要なのに。

 悔しさに、不甲斐なさに、ルイズは一人俯く。
 己の無力に打ちのめされ、足元に一滴、涙が零れ落ちた。





「やばいぜ、相棒!」
「解ってる!」

 壁に空いた大穴を目指し、ゴーレムの体をよじ登るクロード。
 既に魔法が解けかけているのか、体の一部が土へと還りかけている。
 クロードの背中に冷たい汗が流れ落ちる。
 5階への直通ルートから落下しようものなら、まあ無事ではすむまい。
 下手をすれば全身を強く打ってサヨウナラだ。

「てやぁっ!」
 意を決し、崩れかけた足場から決死のダイブを敢行。
 ギリギリのところで塔へ飛びつき、穴の縁に手を引っかける。
 その後ろでゴーレムは土煙とともに崩れ去っていった。
 一息つくとともに、えいやっと身を翻して穴へと体を滑り込ませる。

 そこには、一足先に『フライ』で入り込んだキュルケとタバサが呆然と立ち尽くしていた。

「……やられたな、こいつぁ」
「……僕らの負けだ。くそっ!」
 そう言って、クロードは拳を石壁に叩きつける。
 クロードには読めぬ文字で、壁にはこう書かれていた。


『破壊の宝玉、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』


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