あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのミーディアム 第一章 -14


夜闇に暮れたヴェストリの広場。寮からは遠いこの広場で現在灯りとなるのはほぼ夜空に輝く2つの月のみ。
その月明かりに照らされて塔の影から出てきたのはキュルケ。
ふふんと鼻をならし彼女は水銀燈に正面から向き直った。
「ようやく2人っきりになれたわね。少々お時間頂けませんこと?お人形さん?」
「ええ、そのつもりできたのだから…。あと私の名前は水銀燈よ。お人形さんなんて名前じゃないわ」
「これは失礼…水銀燈」
「で、この私に何の御用かしらぁ?」
前回の続きのような不穏な気配が二人の間に渦巻く。
「あなたの……コレを頂きたいの」
キュルケが自分の左胸を指差しトントンと叩いた。
「へぇ…?」
水銀燈も狂気じみた笑みを浮かべて翼を大きく広げる。これでいつでも羽を放つことができる。
……つまり襲いかかってきた瞬間いつでも先制できる。
「理由を教えて頂けるかしら…?」
内から滲み出る狂気を隠そうともせず水銀燈が問った。
「それはね……目障りだったの。あなたがちやほやされてるのが…」
「ああ、あなたいつもそこの火トカゲで私の事見てたのよねえ?」
ちょくちょく自分を見つめる赤い影のことに気づいていたらしい。
ルイズが言っていた主と使い魔の感覚の共有を思い出す。
「あら、お気づきだった?」
「くっだらなぁい…。そんな事のためにわざわざ私を呼び出すなんて」
「私としては大きな問題よ」
そうしてキュルケが一歩前に出る。水銀燈はそれを牽制するように威圧し禍々しい気配を醸し出す。
その殺気を感じ取りキュルケの傍らにいたフレイムが主を守るように彼女の前に立った。
「素敵なナイトですこと」
「ええ、私自慢の忠臣ですから。……お下がりなさいフレイム、これは私と彼女の問題なの」
フレイムを追い越しキュルケは手で待ったをかけ自分の使い魔を下がらせた。
「ホントにホントにおバカさぁん……。品評会のアレ、貴女も見たわよねぇ?その上で私に挑むなんてぇ……」
「お生憎様、うちの家系は代々火遊びが大好きでして」
「フフ……火傷ではすまなくてよ?」
二人の間に夜風が強く吹き抜け広場の草木を大きく揺らす。
風がおさまり広場が再び静寂に包まれようとしたその瞬間、キュルケが水銀燈に向かって駆け出した!余裕の表情を崩さず水銀燈は迎え撃つ!


火と風の塔の間、再びこのヴェトリの広場を決闘の地として、妖艶な二人の魔女の舞踏が今、ここに!






始まりませんでした。


「ああん!もう我慢できない!抱きしめさせて~!!」
「……はい?」
くっは~とキュルケは息をもらし満身の笑みで水銀燈に抱きついた。
あまりの突拍子な言葉に水銀燈は凍りつき、あっさりとキュルケに捕まる。
「いっつもずっと見てたわ!ああ!この背徳的な黒い翼とドレス!鋭い紫紺の双眸!最高よ~!」
キュルケはそのまま水銀燈に高速で頬ずりを始めた。
「ちょ、ちょっと貴女!私の命が欲しかったんじゃないの!?」
「私が欲しいのはあなたの心!左胸指差したでしょ!」
「そう言う事!?私を目障りって言ったじゃないの!」
「ええ!目障りだったわ!あなたのまわりに沸いた取り巻きが!
それにあなたいつもヴァリエールと一緒だし、ずっと2人っきりになりたかったの!」
その高速の頬ずりがさらに加速し始める。
「熱っ!このままじゃ私の方が火傷じゃすまなくなる!」
キュルケのまさちゅーせっちゅを受け水銀燈も大慌て。
「と、に、か、く!離れなさい!!」
そして抱きついたキュルケを無理やり突き飛ばした。
「んもう、つれないわね……」
地面に倒れたキュルケが瞳をキラキラさせて水銀燈を見つめる。
「さっきの会話の流れからなんでこうなるのよ!?せっかくボロボロの翼も直して万全の状態で決闘に望もうとしたのに!」
「わざわざ私に会うためにおめかししてくれたの?嬉しい!」
「くっ!」
駄目だ、恐らく今のキュルケには何を言っても彼女の都合よく解釈するだろう。
話は通じない、しかし相手は別段敵意がある訳ではないため力ずくで排除する訳にもいかない。
……と言うかあまり相手にしたくない。
ならば水銀燈の取るべき手段は一つのみ。
「付き合ってらんなぁい!!」
三十六計逃げるに如かず!!彼女は回れ右をして翼をバサリとはためかせると本塔の方へと飛んでいく。
「ああん!待ちなさいよ水銀燈~!」
キュルケもまたフライを詠唱して小さくなる黒い翼の後を追った。
水銀燈の後ろをピタリと追従してくるキュルケ。流石の彼女も舌を巻いた。
「しつこいわねぇ!どの道私はルイズの契約者!貴女の物になんかなる訳ないでしょ!」
「我が家系は昔からヴァリエール公爵家から欲しい物は全て奪わせて貰ってきた!貴女も例外じゃなくてよ!」
「ああもう!どうすればいいのよこれぇ!」
「水銀燈!あなたのためにマドリガルを綴ったの!マドリガル、恋歌よ!
……恋歌?そうよ!私あなたに恋したみたいなの!」
自分で勝手に納得してキュルケがさらにズレた思考を展開する。
「私は女の子で人形なのよ!?」
「そんな事関係無いわ!いつだって愛の力はどんな障害だって乗り越えてきたのだから!」
「性別はおろか人間ですらないのに!乗り越えられる訳無いでしょうがぁぁぁぁぁ!」

水銀燈が半ばキレ気味に叫んだ。だがキュルケは気にせずさらにスピードを上げ水銀燈に肉薄する。
……恋は盲目とは言うがこれは度が過ぎている。
「聞いて!私のマドリガル、我が身から溢れ出る熱情の律動(リズム)を!」
捕まるまいと水銀燈もスピードを上げた。そして後ろを振り向きキュルケを見やる。

「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー! アノノアイノノォオオオォーヤ! ラロラロラロリィラロロー! ラロラロラロリィラロ! ヒィーィジヤロラルリーロロロー!」
「何言ってるのこの子!?」
満身の笑みで得体の知れない歌を歌いかっ飛んでくるキュルケに水銀燈も肝を潰す。……原曲はすごくいいのに。


完全にトリップしてしまったキュルケをどうするか悩んでいる内に本塔に差しかかった。そして塔から見知った顔が出てくるのを確認した。
「タバサ!」
タバサは小柄な体に似合わぬ大ぶりな杖を右手に、左脇に本を挟んで塔の扉を閉める。そして上から自分の名を呼ばれ空をを見上げた。
タバサの前に黒衣の天使が降りたつ。
「助けて!変出者に追われているの!」
少女はいつもの眠たげな、感情の読み取れぬ表情で首を傾げた。
少し遅れてキュルケも到着しタバサに声をかけた。
「タバサ!その子捕まえて!」
「貴女もタバサを知ってるの!?」
「運が無かったわね!その子は私の親友よ!さあ!捕まえて頂戴!!」
だが呼ばれた彼女は水銀燈の後ろから動かず親友であるはずのキュルケに対し杖を構える。
「タバサ!?」
「運が無かったのは貴女のほうねぇ!貴女とタバサが親友なら私はこの子の恩人なのよぉ!お、ん、じ、ん!!」
例の食堂の一件が幸を奏したようだ。自分の背で構える少女を頼もしく思った。
「退きなさいキュルケ!貴女も私とタバサを相手にドンパチは避けたいでしょ!」
「むう…私の親友すら押さえておくとは流石は私のお人形!」
「勝手に貴女の物にしないで!」

タバサは水銀燈の後ろからキュルケを見据えていたがふと、その視線がパタパタしている黒い翼に移った。
よく見るとこの翼、黒い艶が美しく見た目より柔らかそうでふかふかしている。
彼女はふらふらとそれに近づくと突然ばふっとその翼に顔をうずめた。
「ひゃっ!」
水銀燈が慌ててタバサに振り返る。
「ななななななな何なの突然!?」
タバサは珍しくうっとりと恍惚とした表情を浮かべて言った。
「シルクの肌触り……」
「ああ~!ずっる~い!私もやりかったのに!」
タバサがキュルケの方へと駆け寄り水銀燈に向き直った。
寝返りやがった畜生!!タバサの裏切り者!ガリ!アスラン!ストレイボウ!
とまでは言わないが水銀燈の心中はまさにこんな感じ。
「ね、ね、どうだった?あの翼?」
キュルケがタバサに耳打ちする。
「抗い難い誘惑」
タバサはにへら~っと笑って答えた。
…あのタバサをここまで言わせ、こんな表情まで出させるとは水銀燈、恐るべし。
「形勢逆転ね」
「翼…ふかふか…」
手をいやらしくワキワキさせ、ずいっと黒いお人形へと迫る大小2人のメイジ。
水銀燈絶体絶命のピンチ!!



「ああ~っ!あんた達何やってんのよ!!」
聞き慣れた甲高い声を聞き水銀燈が声のした方を振り返った!
桃色の長い髪を揺らし走り寄ってくる水銀燈のミーディアム。始祖は彼女を見捨てていなかった!
「ルイズ!来てくれたのね!」
「あんまり遅いから心配してきてみればあんた達!なに人の使い魔にちょっかいだしてんのよ!」
実力的には二人に劣るかもしれないが今の水銀燈には心強い味方。
真っ向から二人のメイジと対峙するルイズの横顔が輝いて見えた。
「別に大したことじゃないわよ」
「翼をもふもふ」
悪びれもなく答えた二人のその言葉を聞きルイズが眉をひくつかせて怒り出す!
「そのためにこの子を…?ふざけないで!」
「そうよ!もっと言ってやりなさいルイズ!」
ルイズの怒髪が天を突きキュルケとタバサに向かって言い放った!
「この子の翼をモフモフするのは私なんだからぁぁぁぁぁぁ!!」
「そうよそうよ!……って、何ですってぇぇぇぇぇぇ!?」
水銀燈再び絶叫。ルイズもまたキュルケとタバサの方に駆け出し水銀燈に向き直る。
ブルータスお前もか!ルイズのヨヨ!アリシア!シーマ様!
どうやら始祖ブリミルはハルケギニアに生まれた者以外にはあまり優しくはないらしい。
「最初にモフモフするのは私よ。それなら手伝ったげる」
「仕方ないわね、あなたの使い魔だし」
「わかった……」
「ああああ、貴女達!いつか絶対あの世で詫び続けさせてやるんだからぁぁぁぁぁ!」
再び塔の壁に追い詰められた。迫り来る壁が三人となりその逃げ道を完全に封鎖。
水銀燈今世紀最大のピンチ!!

「ルイズ、タバサ。あの子にジェットストリームモフモフを仕掛ける!」
「了解よ!」
「了解…!」
今にも飛びかからんばかりに血走った眼の三人。キュルケの統制の元、三人一列となって突撃をかけた!
(落ち着きなさい、落ち着くのよ水銀燈……こんな時は素数を数えればいいと誰かが言ってたわ…)
彼女は荒げた呼吸を沈めて冷静になる。
(1・3・5・7・9・11・13・15・あいーん・つう゛ぁーい・ぐーてんもーげん・いーあるいーあるいちいちいちいち
  • テトラクテュス・グラマトン…。あ、今のフレーズ歌の歌詞に使えるわね、メモメモっと。)
水銀燈は最早どれから突っ込めばいいか分からない程に錯乱していた。
彼女は懐から取り出した紙に何やら書き始め……
「あいーん・つう゛ぁーい……違ぁぁぁぁぁぁう!!」
それををビリビリと破り捨て本日何度目か分からぬ絶叫をあげた。

もはや打つ手無し!自暴自棄になりキーッとヒステリックに唸って自分の髪をかきむしる水銀燈。
しかしそんな折り、彼女はルイズ以下三人の後ろに何か巨大な影を見たような気がした。
目の錯覚か?と目をこすりもう一度見てみる。
やはり錯覚等ではない、迫り来る三人の後ろに立つのは山のように大きい人型の何か。
「ルイズー!後ろ後ろー!」
警戒を呼びかけるがルイズ達は全く意に返さずこちらに向かってくる。
「そんな古い手に引っ掛かるもんですかーっ!」
そして三人がかりで水銀燈をがっしりと押さえその翼に魔手が伸ばされようとしたその時!
ドスン!と彼女らの後ろで巨大な何かが大地を踏みしめ、大きな地響きが三人+一体を揺らす。キュルケが振り返り驚愕した。
「な、何よこれ!」
「ゴーレム……それもかなりの使い手……!」
タバサは表情を固くして呟いた。
「何でこんなのがここに…」
ルイズはただ呆然として見上げていた。
そう、現れたのは全長30メイルはあろうかと言う巨大な土の巨人。肩に黒いローブを纏ったメイジらしき者を乗せて、それがこちらへ向かってくる。
「貴女達!何ぼーっとしてるの!逃げるわよ!」
水銀燈の渇が入り三人が我に返った。
すかさずルイズ達は走りだしてその場を離れ、水銀燈も上空へと離脱。
今まで彼女らのいた場所にズシンとゴーレムの足がめり込んだ。
(ふざけた真似してくれるわね…!どこの誰の仕業よ!)
水銀燈は大きく翼をはためかせ術者の顔を拝んでやろうとゴーレムの頭に向けて上昇していった。
「はぁ…はぁ…何なのよ…あれ」
全力でゴーレムから逃げ出し近くの草むらに滑り込んだルイズが息も絶え絶えに言った。
「聞いたことがあるわ……巨大なゴーレムを操り盗みを働く謎の盗賊…」
息を落ち着かせたキュルケが言う。
「土くれのフーケ…」
相も変わらずの仏頂面でタバサがキュルケの後に続けた。盗賊と言う言葉にルイズが大慌てする。
「盗賊!?もしかして学院の宝物を!?ど、ど、ど、どうしよう!」
「落ち着きなさいよヴァリエール。盗むにしてもお宝があるのは誉れ高きトリステイン魔法学院の宝物庫よ?
厳重な固定化が複数のスクウェアクラスの手でかけられてる上に、壁はすっごい厚いって話だし。あのフーケでも忍び込むのは無理よ」
キュルケの楽天的な意見。しかしそこでタバサが口を挟む。
「それは万全な常態での話」
「万全ってなによタバサ?…あ、」
キュルケが言ってる最中に思い出した。そしてルイズも。あの昼間に起こったとんだアクシデントの事を。
「……そう言えばどっかの誰かさんが派手に消し飛ばしちゃったのよね…」
ルイズが自分の使い魔が昼間やらかした事を目に浮かべ頭を抱える。
「それもご丁寧に宝物庫の壁を綺麗さっぱりとね…」
「で、でもちゃんと壁は直ってるし固定化だってかけ直してるはずよ!」
自分の使い魔の責任問題に発展すると思ったのか早口でまくし立てるルイズ。
それに対しタバサは無表情で呟く。
「たしかに壁は錬金で完全に修復された。物理的衝撃による破壊は困難」
そしてその顔を険しくして話を続ける。
「ただしおそらく、今かけられている固定化はあくまで間に合わせ。フーケの技量が今のそれを上回るとしたら……」
ルイズとキュルケが青ざめて顔を見合わせた。
「どんなに分厚い壁でも錬金の前では無意味。
そしてフーケは錬金でも名手と知られる土のメイジ……!」
タバサが冷静に、しか厳しい事実を躊躇なく二人に突きつけた。

ゴーレムがその巨大な腕を宝物庫のある五階に伸ばしフーケがそれを伝って壁の前に立つ。
そして壁に手を当て伝わってくる感触にフッと笑みを漏らした。
「掛かっている固定化はトライアングルの物、だがこのレベルのなら……!」
懐から鉛筆ほどの長さの杖を取り出しそれを指揮棒ほどの長さに伸ばす。
「私の錬金で破れる!!」
ルーンを唱え壁に向かって魔法を放った!『錬金』は光の輪を壁の表面に描くと、その中心から砂となってさらさらと崩れていく。
そして物の数秒で壁にトンネルのような穴がぽっかりと開いた!

フーケは穴から宝物庫に侵入、様々なお宝の中からお目当ての品『破壊の杖』を探し始めた。
無数の杖が壁にかかった一画に目を付けたフーケ、その中にどう見ても杖に見えない品があった。
不思議な金属でできた全長1メイル程のそれには鉄のプレートがかけられ、ご丁寧に『破壊の杖。持ち出し不可』と書いてある。
「ビンゴ…!」
フーケはパチンと指をはじき破壊の杖を手に取る。フードから見えた口元だけで深い笑みを浮かべ、入った穴に向かって走り去る。
「ととと、いつもの奴もやっとかなきゃね…」
後ろを向いたまま杖を振った。すると杖が立てかけてあった壁に文字が刻まれ始めた。刻まれた文面の内容はこうだ。

『フーケは大変な物を盗んでいきました』

破壊の杖まで簡単に盗まないで♪
「……ちょっとお茶目すぎたね、やっぱりいつも通りにしとこうか」
『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
フーケはその文面に満足気にうなずくと穴を出てゴーレムの右腕に飛び乗る。
しかしフーケを出迎えたのはゴーレムだけではなかった。
「逃さないわよ!!」
双月をバックに左手を輝かせ細身の剣を構えた翼のシルエットがフーケに襲いかかった!
「何者!?」
フーケは瞬時に杖を構え頭上に降ってきたその剣を受け止めた。
「盗人風情に名乗る名などない!」
「あなたは…!」
小柄な体にも関わらず水銀燈がフーケを圧倒している、その刃がその頭上に迫ったその時。
「ゴーレム!」
フーケの命令でゴーレムの左手が水銀燈を掴もうと迫りくる!
「ちいっ!」
彼女はフーケから離れ、掴みかかってくる巨大な土の手を避けた。
そのままゴーレムの肩に乗り逃走を計るフーケ。ゴーレムが二本の巨大な腕を振り回し水銀燈を寄せ付けない。
「あなたのおかげで望みの品が手には入った!感謝するわ!」
フーケは皮肉をこめた感謝の言葉を水銀燈に向かって言い放つ。そして学院外の草原に出ると。ゴーレムをしゃがませ地面にに駆け下りた。
「好き勝手言ってくれるわねぇ!!」
水銀燈も後を追おうとするもそれを邪魔するゴーレムの腕は尚も健在。
腕を必死に回避する彼女の視界でフーケがどんどん小さくなっていく。
(このままでは取り逃がしてしまう……!)
「メイメイ!」
水銀燈が自分の人工精霊を呼び出した。すると翼から紫色の蛍のような光が現れ彼女の周りを飛び交う。
「あのメイジを追いなさい!!」
水銀燈が叫ぶように命令をする。メイメイはチカチカと肯定するように強く瞬きフーケの追跡を開始した。
「頼んだわよ、メイメイ…!」
残ったゴーレムの攻撃を避けながら水銀燈は人工精霊に望みをかけた。
やかてフーケ、メイメイとも見えなくなると突然ゴーレムが崩れ落ち巨大な土の山となる。
月明かりに照らされた小山のような土くれを残し、フーケは『破壊の杖』をその手に姿を消した。
翌朝……
トリステイン魔法学院ではは昨夜から蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。
何せ、秘宝『破壊の杖』が盗まれたのである。
宝物庫に学院中の教師が集まり壁に空いた綺麗な円形の穴を見て、口をその穴と同じようにあんぐり開けていた。
壁には『土くれ』のフーケの犯行声明が刻まれている。

『フーケは大変な物を盗んでいきました』という文に×印がかけられ、そのすぐ下の壁に
『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と刻まれているのを見た教師達。
好き勝手に喚き始めた。
「おのれ土くれめ!なんたる屈辱か!」
「ナメた真似を!貴族達の財宝を荒らす忌々しい奴が!」
「学院の宝まで簡単に盗まないで!」
「あ、頭が痛い……鈍痛鈍痛鈍痛鈍痛……」
そして誰の責任になるか押しつけ合いを始める。貴族のくせに非常に見苦しい。
「皆の者、静粛に!!」宝物庫の扉が開かれ学院長オールド・オスマン氏が現れた。
「ここでどんなに文句を言おうと杖は戻らぬ。
誰の責任かと問えば我々全員じゃ。無論私も含めてな……。
よもやこの学院に賊が入るとは誰も思わなんだ……」
厳しい表情を浮かべオスマン氏が深刻に言う。

俯いた顔を上げ気を取り直し、オスマン氏はそばにいたコルベールに聞いた。
「犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
「この三人です」
コルベールは後ろに控えた三人を指差す。ルイズ・キュルケ・タバサの三人が前に歩み出てオスマン氏に一礼した。
水銀燈は三人の後ろに控え、宝箱の上に足を曲げて座り込み、忌々しげに穴を睨んでいる。
「ふむ、君達か」
オスマン氏は意味深そうに後ろの水銀燈を見つめた。
「……何よ」
その視線に気づいた彼女は不機嫌な様を隠さずに壁の穴を睨みつけていた瞳をギロリとオスマン氏に移す。
オスマン氏は慌てて目をそらし三人に説明を求めた。
「あの、まず大きなゴーレムが現れました。そのゴーレムの腕を伝ってメイジが宝物庫の壁の前に立つと錬金らしき魔法で……」
「なる程、あの穴は錬金によるものか。間に合わせの固定化では無理もないの……」
ルイズが説明を続ける。
「そして何か宝物を持ち出してまたゴーレムに乗ったところで……」
水銀燈がルイズを見て言った。
「この子と交戦しました」
「ふむ」
「水銀燈、学院長に説明を」
「はあ、わかったわよ…」
水銀燈は一つため息をつき宝箱から立つとオスマン氏に説明を始める。
「最初、顔を拝んでやろうと剣で能天を斬りつけたら杖で防がれたわ、
鍔迫り合いになったけどゴーレムに邪魔されて一度離脱。以後、振り回した腕が邪魔で賊に近づくことすら出来なかった。
賊はゴーレムを私の足止めに残して逃走。後に残るは崩れた土の山だけよ」
「ふむ…追うにも手掛かり無しじゃのう」
オスマン氏が髭をなでながら言う。
「あ、手掛かりと言えば私の…」
「遅くなりましたわ」
そこで水銀燈の言葉を妙齢の女性の声が遮った。
「ミス・ロングビル!何処へ行っていたのです!大変ですぞ!事件ですぞ!」
コルベールが顔を真っ赤にさせて興奮した調子で言った。あっちっち~茹で蛸茹で蛸~。
「申し訳ありません。朝から急いで調査をしておりましたの」
対照的にミス・ロングビルは落ち着き払ってオスマン氏に告げる。
「今朝方の騒ぎに気づき、宝物庫を見ればこのとおり。フーケのサインを見つけた私はすぐに調査を始めました」
「仕事が早いの、ミス・ロングビル。して結果の方は?」
「はい、フーケの居所がわかりました。」
「な、なんですと!」
コルベールが素っ頓狂な声をあげた。
「誰に聞いたのじゃね?」
「近在の農民に聞き込みを行ったところ…近くの森の廃屋に黒ずくめのローブをまとった『男』が…」
「……?私、直接会ったけどあの声は間違いなく……」
女だと水銀燈が言いかけたところで、誰にも気づかれることなく宝物庫に入ってきた紫光に気づく。
(メイメイ!)
フーケ追跡から無事帰還したメイメイ。フラフラと力無く飛びその瞬きも弱々しい。よほどの距離を追ったのだろう。
(ご苦労様、結果を聞かせて頂戴)
メイメイがチカチカと暗く瞬き主にその成果を報告。
「…何ですって!?」
思わぬ報告の内容に彼女は思わず大声をあげた。
宝物庫にいた以下全員が水銀燈に振り向く。
その中でロングビルの顔が引きつった。水銀燈の存在に気づいていなかったからなのだが……一体何故?
「ああ、失礼。独り言だから気にしないで。」
独り言にしては大きすぎだが、そんな事に構ってられないと皆、再びミス・ロングビルの報告に耳を傾け始める。
(よくやってくれたわメイメイ。ゆっくりお休みなさい)
水銀燈の労いの言葉に嬉しそうに瞬くと、メイメイは元いた黒い翼の中に帰って行った。
その後、水銀燈はいまだ報告を続けるロングビルに意味深な視線を送る。
しかし、今の時点で彼女の向けた視線の意味、その真意にに気づく者は誰もいない……。


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