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エデンの林檎 十四話

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十四話 『蛇はアダムをあきらめる』


 まるで視界のない場所を船が見えているかのように通っていく。
 その鍛え抜かれた操船技術でルイズたちを驚かせながら、軍艦イーグル号はその闇の帳を潜り抜ける。

「すごいな、こんな中を通るなんて。普通は何処かにぶつかって吹き飛ぶだろうに」
「ワルド様、多分これが、これこそが、本当に必要な技術なんじゃないかしら」
「……そうかもしれないね」

 硫黄という多大なる戦果を前にもろ手を上げて喜ぶウェールズたちを見ながら、ワルドは何かを考えていた。


「それで、彼女からの密書はどこに?」
「ここにございます。が、殿下、失礼は重々承知ですが本人である証明をお願いします」
「ああ、そうだったね。ほら、これだ」

 そういうとウェールズは自分のしている指輪をルイズがアンリエッタから預かった“水の指輪”に近づけた。
 二つの指輪の間に小さな虹がかかる。

「水と風は虹をつくる。王家の間にかかる虹さ」
「キレイ……」

 その光に感心しながらふとルイズは思う、姫様は旅費の足しにって言ってたけど売っちゃってたらまずかったんじゃ?
 彼女の短慮を心配しながら、ルイズは懐から手紙を取り出しウェールズに差し出した。
 ウェールズはその花押に軽く口付けをして、その手紙を読み始めた。

「そうか、アンリエッタは結婚するのか、僕のかわいい従姉妹は……」

 その言葉には万感の思いが込められていた。


 “最後の晩餐”

 そう呼ぶにふさわしいその宴席で、ルイズはワルドと二人バルコニーから青と赤の二つの月を眺めていた。
 手に持つグラスのおそらくかなり高価だろうその紫色の液体を揺らして香りを楽しみながら、ゆっくりと夜風に身をさらしていた。

「なあルイズ、あの手紙、何が書いてあったと思う?」
「そうね、大方“亡命してください”ってところじゃないかしら」
「だろうね……」

 ギシリと囲いに置かれたワルドの手が軋ぬ。

「亡命? 亡命だと? それで我がトリステインがどれほどの被害をこうむるか、わからないとでも言うのか?」
「わからないんでしょうね。それが彼女だもの」
「何故だ!? 王族なんだぞ!? たとえ家族を殺してでも国を守るのがその使命だろう!」

 女性に声をかけるギーシュ、男性を指先であしらうキュルケ、ひたすらに空の皿を生産するタバサ、その皿をせっせと厨房へ運ぶシエスタ、彼らを横目で観察しながら、ルイズはそのワルドの手にそっと己の手を重ねた。

「落ち着いてワルド様」
「……ああ、すまない。だが本当に何故だ? 何故こんなことになる。皇太子が冷静な方で助かったがそうでなければどうなっていたか」
「おそらく教わっていらっしゃらないのでしょう、いわゆる帝王学を」
「何故こうなった? このトリステインは歴史ある国なのに、誇り高き始祖ブリミルに連なる国なのに……」
「ワルド様……」



 悪い酒が回ったのか椅子にへたれこむワルドの肩に、ルイズはそっと手を添える。

「ワルド様、気に入らないのなら変えてしまえばよろしいのです。あなたはグリフォン隊隊長、少々無茶をしたところで文句を言う方などいませんもの」
「ルイズ、その方法はどんなものでもいいと思うかい?」
「越えてはならないボーダーさえ守れば。少なくとも国民が飢え、苦しむ手段は歓迎できませんわね」
「そうか、そうだな、そうだよな」
「ええ、私たちは誇り高き貴族ですもの」

 グラスを置き、ワルドは席を立った。

「ルイズ、少し考えることができたから与えられた部屋にこもっているよ。その間に皇太子から手紙だったか? それを受け取っておくといい」
「ええ、ごゆっくり」

 少しふらつきながら、それでもワルドは自室へ帰っていった。


 ウェールズの個室、なんともきらびやかな小箱から取り出した手紙を、彼はルイズに手渡した。
 ボロボロで端がほつれ、何度も何度も読み返したのだろう、手垢と指のあとが目立つその手紙を、大事そうにルイズに手渡した。

「これが約束の手紙だ、ミス・ヴァリエール」
「……失礼ですが恋文、ですわね」
「ああ、彼女から私へのね」
「では先ほどの書状に亡命を促す記述があったのでは?」

 その問いかけに、ウェールズはまっすぐにルイズを見つめて返した。

「そんな記述はなかった」
「それは本当でしょうか?」
「ああ、我が王家の名にかけて」
「……承りました」

 手紙はそっと、そして大切そうにルイズに手渡された。

「確かに。必ずや姫にお届けいたします」
「ああ、よろしく頼むよ」


 カタカタと音を立てるデルフを握り締め、ルイズは少しだけ剣を抜く。

「デルフ、どう見る?」
「何を、だ娘っこ」
「レコン・キスタよ」
「……武器として戦場を駆けたり武器庫に収まったりして六千年も生きちゃあいるが、これは流石に無理がありすぎる」
「そう、あなたもおかしいと感じるわけだ」
「聖地を取り戻すっていやあ聞こえはいいがいきなりこんな数は集まらねえ。別に全員がブリミル教の信徒ってわけじゃあるめえしな」
「こういうことが可能な手段は?」
「一つは人質だ。まあしかしこれは違うだろうがな。もう一つは報酬。まあ正直これも割に合うとは思えねえ」
「無理があるわね」
「もう一つあるぜ」

 がちゃがちゃとデルフがうなりを上げる。

「先住魔法だ」
「……エルフが手を貸しているとでも?」
「いんや。当時のマジックアイテムは結構反則物が多かったかんな。人間を能力ごとコピーするような道具もあったぜ」
「メイジのコピーが作れるとでも!?」
「メイジどころかエルフだってコピーできるだろうよ」


 つばを鳴らしながらデルフは言い放った。
 ふと、思いついたようにルイズは問いかける。

「ここで皇太子が死んだら、あなたならどうなると思う?」
「記憶が全部もどってるわけじゃねんだぞ? まあそのレベルのマジックアイテムなら死人を利用するくらい簡単だとは思うがね」
「ここで討ち死にしても意味ないってこと?」
「まああくまで予想だわな」

 それは絶望の証明といっても良かった。


 デルフとの考察を、ルイズはウェールズたちの前で一生懸命に説いた。
 たとえ聞き入れられないとしても、何もしないよりはましだと必至に説得を試みた。
 それは誰のためであったのか?
 ウェールズたちは神妙に、よく考えておくといって宴をあとにした。

 意味はないかもしれない、それでもルイズは叫ばずにはいられなかった。

 夜、キュルケを枕に天井を見上げながらルイズは一人考えていた。
 何故あの人たちは笑って死ねるのだろう?
 少なくとも自分は死にたくはないし、プライドを使うべき場所も心得ているつもりでいる。
 彼らがここで命を払う理由が、どうしてもわからなかった。

 少なくともレコン・キスタに払ってやるほど、安い命ではないはずなのに。

「そういえばワルド様は何してるのかしら?」

 結局彼は部屋から出てはこなかった。


 翌朝、目の下に隈を作って座すウェールズたちの前、ルイズはひざを突いていた。

「ミス・ヴァリエール、昨夜の意見は非常に参考になった。とりあえずある程度の策は講じさせてもらったよ」
「では?」
「私は亡命をすることになるだろうね。まあトリステインに、ではないが」
「……失礼ですが王は?」
「どちらにせよ父はここで爆死することになるだろう。パフォーマンスは派手なほうがいい」
「それでは!「ミス・ヴァリエール」」

 ルイズの言葉をさえぎり、ウェールズは力なく、それでも決意に満ちた目で笑った。

「我々王族は国民に対し責任を持たなければならんのだよ。それはあるいは政治で、あるいは軍事で、そしてあるいはその命で」
「ウェールズ様……」
「君の仕事には報いねばならないだろうね。これを上げよう、持っていくといい」

 ウェールズはその指から“風のルビー”を抜き取った。

「皇太子、これは国宝なのでは?」
「最悪殺された場合に相手に取られるのはしゃくでね。始祖ブリミルのころから続く国宝は既に退避済みだ、あとはこれだけなのだよ。もらってはくれないかな?」
「……謹んで」

 指輪を受け取り水のルビーの隣にはめる。
 近づけた指に虹がかかった。


 さあ決戦だ、爆薬の用意だ、ちゃんと導火線を延ばせこの馬鹿、とがやがやわめいて準備する王党派の残党たち。
 そんな中、門の方向へ向かっていたメイドたちの一団から、決して黄色くない恐怖の悲鳴が上がった。


「何事だ!?」
「でででで殿下あ! ワワワワワルド様が、子爵様が!」

 その声に跳ね上がるようにルイズは門へ向かう。
 果たしてそこにワルドはいた。

「やあルイズ、少し仕事に、ゴフッ、手間取ってしまってね」

 全身を己の血で濡らして。

「ワ、ワルド、様?」

 いくつもの魔法の痕が痛々しいグリフォンを従えて。

「ああルイズ、すまないね、右目が見えないんだ、できれば、ガハッ、正面から話してくれないかな」

 その手に男の生首をぶら下げて。

「少し君に習ってね、僕も自分を誇れるように動いてみたんだ」

 その右半分を覆う火傷の痕が痛ましい顔を笑顔にゆがめ、直後崩れるように倒れ伏した。

「誰か! 誰か水のメイジを早く!」
「急げ! 仕事など後で構わん!」


 ワルドはひどい有様だった。
 右半身をライトニングクラウドに焼かれたのか火傷と水ぶくれでずたずたになっていた。
 その美男子であった容貌は醜くただれ、右目は完全に光を失っている。
 右手はゴーレムか何かに殴られたのかグチャグチャに砕かれていた。
 しかもこともあろうにその腕で魔法を使うためだろう、杖剣をその腕に骨の代わりに手のひらからひじまで突き刺して、無理やり伸ばしていた。

「風のメイジを早く! 腕を切り落とさねばならん!」
「医者をとっと呼べえ! 右目をえぐる!」
「水の秘薬はまだかあ!」

 わらわらと洗浄した机の上で下着一枚にされたワルドが次々と処理をされていく。
 持っていた生首は少し離れたところに鎮座していた。その表情は実に普通、おそらくは殺されたことも理解してはいなかったのだろう。

「ル、イズ」
「ワルド様、今は治療を」
「わ、わかってる。これ、を」

 ぶるぶると震える左のこぶしのから指輪が一つ零れ落ちた。
 床にコロリと転がる。

「そ、そのルーン、調べたんだ」

 ぶるぶると震えるまま、左手でルイズの額を指す。

「君な、ら、それが何、かわかるは、ず」
「黙って! 布もってこい! 右目をえぐるぞ!」

 布を咥えた口から発せられるくぐもったうなり声をBGMに、ルイズはその指輪に手を伸ばした。
 額のルーンが輝き指輪の情報を彼女へ送り込む。



―名前:アンドバリの指輪
―分類:マジックアイテム
―機能:対象の生物をその生死にかかわらず洗脳・操作する
―使用方法:指輪を対象に向けキーワードを唱える
―追記事項:死者を操る場合たとえ遺体が欠損していても生前のままに修復される、この効果は指輪を外すと解除される

「……なんてこと、ビンゴだわ」
「どうかされましたかルイズ様?」
「シエスタ、デルフを抜いて」
「? はい」
「どしたよ嬢ちゃん」

 かちゃかちゃとつばがなる。

「昨日のあれ、当たりだったわ。アンドバリの指輪、記憶にない?」
「あーちょっと待て、うーあーおお! 思い出した思い出した! 確かエルフが全盛だったころのやつだわ。どっかの精霊が持ってたはずなんだが……」
「奪われたんでしょうね」
「精霊相手に良くやるねぇ」
「ともかくワルド様の回復を待ちましょう」


 数時間後、全身を包帯でぐるぐる巻きにされながらも何とか動けるまでに回復した、否させられたワルドは王たちの前にひざまずいていた。

「それで子爵、ヴァリエール嬢によればあの指輪がレコン・キスタの戦力の秘密だそうだが?」
「私も詳しくは知りませんでしたがね、妙に大事にしていたので奪ってきたまでです。結果としては最良でした」
「元の持ち主は?」

 その問いに少し迷ったように視線をめぐらせ、自分をまっすぐに見つめるルイズに気づく。
 自嘲気味の笑みを浮かべた後、ワルドは王に向き直った。

「レコン・キスタ総司令官、オリヴァー・クロムウェルの持ち物でした。あの首級の正体ですよ」

 その暴露に周りが騒然となる。
 ジェームズ一世は一人、その発言をかみ締めた。

「子爵、それは君がレコン・キスタに所属していたということだと考えてよろしいか?」
「その通りでございます、閣下」
「貴様!」「この恥知らずが!」
「黙らんかあ!」

 わめきだす側近たちを怒声一つで黙らせ、ジェームズ一世はワルドをねめつける。

「話せ、何故裏切り、何故戻った」
「裏切った理由は簡単です。私は祖国を愛している」
「愛している?」
「だからこそ、今の王族は、アンリエッタ姫殿下は許容できなかった」
「彼女がか?」
「今回もそうです。おそらく皇太子への書状には亡命を示唆する一文があったでしょう。それがどのような結果を生むかも知らずに! 彼女は私情で、自分の愛やら恋やらのために国を捨てたのです! 王族なのに!」
「君は……」
「私は祖国を、トリステインを愛している! だからこそ国のため、身命を賭して戦ってきた! だが中央に近づけば近づくほど腐敗が覆っている!」

 誰も、その血を吐き出すような叫びをとめることはできなかった。

「なのにあの王女はこともあろうと王族がいやだと! 日々衣食住に困らぬ生活がどれほど幸福か、あの王女は知ろうとしない! 国の力は民が築くもの! 平民も、貴族も、それは尊重されるべきだ!」

 もう、誰もその隻眼から目が離せない。


「なのにわが国の貴族どもはプライドばかり高くその意味を理解せず! 他国よりはるかに劣る国力にも関わらずそれを認識しない!」

 その片目から血の涙があふれた。

「ゲルマニアに嫁ぐ、それでゲルマニアに取り込まれれば困るのは利権をむさぼれなくなる貴族だけ! なのに結婚したくない!? 平民が貴族に戯れに殺されるのは許容できても国のために自分を捨てるのはいやだという! ふざけるな!」
「子爵……」
「……失礼を。ただ外から干渉すれば変えられると思ったのです。少なくとも役に立たない貴族は消えるほかないでしょう? よしんば敗北しても今よりはましだ、そう考えました」
「祖国のためか」
「祖国のためです。まあ最もこんなマジックアイテムで成り立っているなんて思ってもみませんでしたが。これは流石にダメですよ。裏切った意味がない」
「それが戻った理由か?」
「最大のものはルイズです」
「私?」

 きょとんとした顔のルイズに微笑みかけ、ワルドは声を吐き出す。

「彼女の姿に、何より貴族たるその態度に、私は感銘を受けたのです。震えましたよ。王女が間違ったら殴って止めればいいなどと」
「は、ははは! それは!」
「ええ、おそらくそれこそが、正しい家臣のあり方なのでしょうね。そうです、私は祖国を変える努力を怠っていた。だから戻ったのです。受け入れられるかどうかは別ですがね」

 苦笑を消しワルドは姿勢を正す。

「閣下、今ならばレコン・キスタに洗脳されていた指揮官たちも正常に戻っているでしょう。彼らに語り掛けられれば勝利も不可能ではありません」
「子爵……」
「私はこの有様、もう帰らなければなりません。ここからは貴国の内政に関わります」
「祖国で弁明をしてくるといい。今ならヴァリエール嬢も弁護してくれるだろう」
「はは、ありがたいですね。それじゃ私たちはこれで――」

 砂嵐が、部屋の中に吹き込んだ。

「魔法か!」
「いえ、知り合いよ」

 落ち着いた様子のルイズの前で、砂が固まりフードつきのローブをかぶった女の姿になる。

「ハーイ、ルイズ」
「使えるようになったのね」
「途中何度も落ちかけたけどね」

 砂から人に戻るという魔法を超越した現象に、その場にいたものは驚きを隠せないでいた。

「何でここに?」
「……学園に侵入者さ。白い仮面のメイジが来てね、仲間にならないなら死ねってさ」
「あら、心配してくれたの?」
「い、いいだろ別に! 状況が状況だけに人手がいるかと思ってさ! まあ本当いうときたくなかったんだけどね。特に王宮は」

 顔を隠しながらフーケはちらちらと横目で王族を確認している。
 何か事情があるのか? そういえばアルビオン出身だっけ、と少し考えた。

「それにしても白い仮面ねえ? ワルド様?」
「いや? そんな時間はなかったよ。君が思ったより迅速に動いていたからね」
「じゃあ誰が?」
「少なくともそいつに背格好は似てたね」

「がああ!」
「ああ!」「閣下!」「父上!」

 玉座から悲鳴、振り返るとそこにはありえない光景。
 件の白仮面のメイジの風の槍が、ジェームズ一世の腹を椅子の後ろから貫いていた。


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