あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 11


 パチッ……

 一筋の火花が空気を散らした。木の枝のように細く、青白い火花だ。

 パチ……バチッ……!

 大気にヒビを入れるように、小さな雷が目線を横切っていく。何度も、何度も、それは
 時に従うごとに数と厚みを増していった。
 一人の男は驚嘆の表情を携え、目の前で起こる不可解な現象に言葉を失っていた。
 男は端正な顔にひげを蓄えた壮年の年頃であったが、今はその体のどこからも落ち着いた
 様子は伺えない。
 途端、固唾を呑んで見守るものが強烈な光を発し、男は思わず両手で目をかばった。
 腕の影が顔をしかめ、失明したように白い輝き一色しか捉えなくなった半開きの目が睨む
 ように射すくめる。
 やがて、まだぼんやりとした視界の中に曲状の輪郭がおぼろげに浮かびあがった。


 その全貌は、夜の星々のように青白い輝きを見せる――大きな球体だった。






 ターミネーターが前進する足を止め、あろうことか、対峙するギーシュから目を背けた。
 使い魔――ターミネーター――の主である故なのだろうか、彼の顔は未だに感情が読み取れないが、
 ルイズには彼の遠くを見るような仕草が、彼が大事な何かを探しているように
 思えた。
 観客からはブーイングが起こる。「まじめにやれ!」だの「ふざけんな!」だのおおよそ貴族らしからぬ言葉の雨であったが、
 どれだけ暴言を吐こうともそれを誰が言ったかなどはさらに多人数の声にもみけされてしまうため、
 現状では傍観者たちは身分を忘れて言いたい放題だった。
 合間を縫って前列に出たルイズは背後の罵声にムッとし、ターミネーターの見通す先に
 目を向けたが、何も感じ取ることはできなかった。
 なんとなくわかっていた事だが、悔しいことに私とターミネーターは感覚の共有ができないらしい。
 単純に私の技量不足なのか、それともあいつがかつて例を見ない珍しい使い魔であるため
 なのか、理由はわからない。ただ、私としては後者だと信じたいけれど事実は多分……前者なのだろう。
 湧き上がった悔しさに、唇の端を少し噛み締めた。



「何する気かしら?」

 壁に追い詰められ、心身ともに自滅でガタガタなギーシュが、それでもなお目の輝きを
 失わせないことについて、隣にいる親友に尋ねたのだが答えは返ってこなかった。
 でも、別に答えを期待していたわけでもないのでキュルケはそれを受け流すと、このイベ
 ントはもう飽きたといわんばかりに、小さなあくびをして見せた。

 本心から言えばもともとキュルケにとって、この決闘は単なる暇つぶしであり、結末が
 どーなろうと至極どうでもいいことだった。
 たった今自分の隣で本を閉じた親友――タバサ――が珍しくあの使い魔の男に興味を持っ
 ているようだったので、面白半分についてきただけである。
 だから周囲の馬鹿貴族たちのノリに付き合う気は毛頭ないし、(ワルキューレの破壊を見たときはさすがに驚いたものだが)所詮人事の範囲内と、
 比較的冷めた反応をすることしかなかった。
 ギーシュを追い詰めた現状も、ルイズの使い魔を応援してもいないのですごいとは思ったが、
 それだけだ。
 ギーシュ程度であれば、あのくらい優位に戦況を運ぶくらい、多分私でもできる。
 それに、長居はしたくない。興奮しきった周りの予想以上の熱気からくる暑さに、体が汗でべとべとになりかけている。
 早くここから立ち去りたいとさえ思っていた。
 胸は特に、大きさゆえ汗も溜まりやすい。手をパタパタさせ胸元に微量な風を送り込んでやろうとしたとき、小さな風が心地よく吹いた。
 すぐにタバサのおかげだとわかり、礼を言ったのだが、当の本人は我関せずと何の反応もなかった。

 覗き込まずとも、眼鏡越しに光るタバサの目が、執拗にあの男を捕らえて離さないこと
 に気がついた。しかし、どうもタバサをあの男と近づけるのはよくない気がする。
 根拠なんてないけれど、本能が言う「あの男は危ない」と、「いろんな男と付き合ってきた
 けれど、あの男はその誰とも違うのだ」と。
 初見したときすぐに整った顔立ちが素敵だと思ったけれど、私だけだろうか、それがどうも不自然に思えたのは。
 汚れを知らないガラス球のような瞳に、一端に男前の顔つき。しかし、感情の乏しい人形
 のような面持ちに、作られたような話し方は、キュルケの胸に何かどろどろした重苦しい
 違和感を詰まらせた。
 そして食堂からこの決闘までの顔つきや表情を見ていて、それまで胸中でむず痒く蠢いていた違和感が、より深いものへと変貌したのだった。
 ……といっても、人の異性関係に自分の主観をゴリ押しするわけにもいかないし、
 そこはさすがに2つ名『微熱』、ちゃんと細かな微調整は欠かしていないつもりだ。

 ……しかし、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
 男女間の読みは深いが、タバサがターミネーターを【好き】だと一言も言ってないし、表
 現していないということ――大前提――を忘れている。

「人じゃない」

 タバサが小さく、一言だけ呟いた。
 不意打ちの言葉、わけがわからず「え……何のこと?」と頭を傾けた。
 正面にタバサの体を見据えると、彼女は一見してみると涼しげな顔で倒れ伏したあの男を
 見ているようだったが、私にはわかった。

 タバサは驚いているのだと。
 よく見ると、口を噤んだ彼女の肩は、かすかに揺れていた。




 ターミネーターは重病人のような足取りでゆっくりと立ち上がった。革ジャンについた
 白い砂埃をまるで気にも留めず、凛々しく尖らせた視線をギーシュへと送る。
 ギーシュは呆然とした顔であったが、ターミネーターがのろのろと立ち上がるのを見て、
 多少なりのダメージを与えたのだと勘違いしているのか、震えるような声と共に、表情に
 嬉々とした感情がにじみ出ていた。

「…………」

 ターミネーターは無言だった。しかし、彼の脳内――CPU――では今、静かにかつ高速
 で身体機能のダメージ検査と、先ほど体に起こった“不可解な現象”への解明を急いでいた。

 ここに拳銃の一丁でもあれば足を撃って即終了できるのだが、あいにくどうやらこの世界
 に銃器はないようだ。そして、少なくとも現状で無い物にすがるほど、彼の頭脳は馬鹿ではない。
 武器がない以上、ターミネーターの戦闘手段は白兵戦のみである。そのためにも、ターミ
 ネーターはギーシュに向かって歩き出した。

 一歩を地面につけたのと同時にギーシュの持つ杖の先に熱を感知した、そこから発生し
 たエネルギー体は形状を変え、ターミネーターの体を包み込む。
 とたんに、ターミネーターの体はふわりと浮かんだ。数センチ単位であろうが、完全に足が地面から離れている。
 さっきと同じだ。デシャビュする感覚は深くデータに刻まれている、まったく同じ浮遊感だ。
 手足をもがかせても空中で動けるはずがない。彼はなすすべもなく、見開いた目でギーシュを睨み付けた。

「ワルキューレ!!」

 ターミネーターの両脇に佇んでいた青銅たちは、主の掛け声を合図にターミネーターの
 肩と脇をつかみ、力の限り握り締めた。

「たたきつけろ!」

 言われるやいなや、2体のワルキューレは持てる力のすべてを使い、ターミネーターの
 体を背後の石壁へと放った。
 本来ならどうということのないパワーに、踏ん張りの利かない上手の届かない位置に立た
 れたワルキューレ、およびギーシュにはどうすることもできない。
 ターミネーターは正面から分厚い石壁にぶつかり、仰向けになって倒れた。




「何が起こったかわからないって、思っているだろ?」

 ギーシュが勝ち誇ったような声で言った。

「君の体が浮かんだのは僕の魔法のせいさ。簡単な、“誰でも使える魔法”……精神力が着
 き掛けだから、正確に言うと“もどき”なのかもしれないけどね」

 わざと後半を強調させ、客席を一瞥すると案の定、一人の少女と目が合った。
 すぐにそっぽを向かれてしまったが、少女が悔しそうに顔を歪めていたのを見て、ほほが
 にやりとつり上がった。

「ワルキューレが2体残ったのは嬉しいことだった。君の体はものすごく頑丈で重いよう
 だから直接叩くとこっちがこわれちゃうけど、振り回すだけだったら2体いれば十分だ……っと」

 説明中にターミネーターは起き上がるが、ギーシュが何気なく杖を振ると体はあっさり浮かび、
 背後からワルキューレたちによってまた石の壁にぶつけられた。今度は倒れなかったが、
 それゆえに襟の裏をつかまれ、頭を筆頭に何度も何度も壁に叩きつけられた。
 リズムもへったくれもない鈍い音が一つの曲のように休むことなく響き渡り、広場を満たした。

「ははは、いい様だよ」

 その音が、ギーシュをすっかり優越感に浸していた。にやりと口を三日月の形に曲げ、
 自身はいやらしく笑う。先ほどまで乱していた息は、すっかり整っていた。


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