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宵闇の使い魔 第拾捌話

キュルケの提案で、私達は宝探しに向かうことになった。
シルフィードの背中で楽しそうに地図の説明をしているキュルケを見て、
子供じゃ無いんだからと言ってはみるものの――それなりに期待があることは否めない。
ずっと沈んでいた気持ちが、少しだけ良くなってくる。
キュルケには少しくらい、感謝して良いかな――なんて、思った。


宵闇の使い魔
第拾捌話:宝を求めて


「ほいよ――――仕舞いだ」
「ぴぎ――――」

最後の一体となったオーク鬼が、短い悲鳴を上げて動かなくなった。
左胸からデルフの切っ先が生えている。
虎蔵によって背後から一撃で心臓を貫かれていた。


此処はとある森の中にある、廃墟になった寺院。
古くは開拓民の村のものとして建造されたのだが、オーク鬼の襲撃によって放棄されたという。
その後も領主による討伐は行われず、かなりの数のオーク鬼の住処になっていた。

だが、虎蔵と三人のトライアングルメイジの連携に勝てるはずも無く、
オーク鬼たちは五分と持たずに全滅していた。

「いや、やっぱ斬るのは良いねぇ。楽しいったらありゃしねぇぜ! なぁ、相棒!」

久々に使ってもらえたデルフはやたらと上機嫌だが、虎蔵は軽く肩を竦めて峰で肩を叩く。
虎蔵は基本的に"刀を消耗する戦い方"をするのだが、この世界では刀の調達が困難――今の所は、完全に不可能である。
しかし、ギーシュのゴーレムやワルドを斬り捨てていった結果、
決して少なくはない数の刀を使い物にならなくしてしまっていた。
そこで今回はデルフの出番となったわけである。

「つーかよぉ、こう見えても俺ぁ伝説の剣なんだよ。もっと使ってくれても良くねえ?」
「わかった、わかった――――おう、お疲れさん」
「あ、こら。まだ話はッ――――」

虎蔵はデルフを鞘に収めながら、ルイズ達へと合図をおくった。
ルイズたちがオーク鬼の死体を避けながらやってくる。

彼女らの元へと向かおうとしたオーク鬼もいたのだが、
それらは全てはマルチダの《アース・ハンド》で拘束されてしまったため、全くと言って良いほど被害は無い。
それどころか汗一つかいていない。

「なんていうか、緊張感が無いわねー」
「まぁ、トラゾウがいるんだもの。当然でしょ」

杖を胸の谷間に収めるキュルケに対して、ルイズは自分の事のように胸を張って誇る。
辺りに転がるオーク鬼の死体に嫌悪感を抱いているようだが、怯えて立ち竦むほどではないようだ。
キュルケやタバサは討伐経験でもあるのだろう。
足元の血溜を避ける程度で涼しげな様子だ。
マチルダは言うまでも無い。


「随分と気を使ったじゃないか。アタシはもっと、バッサバッサ切り捨てるかと思ったよ」
「あぁ、ま――そっちのが面倒になりかねんからな」

マチルダがお疲れ、と言って僅かに浴びた返り血を拭くためのハンカチを手渡す。
意外なほどに気が利く彼女に感心しつつ、虎蔵はそれを受け取った。
ルイズたち三人娘は宝を求めて寺院へと入っていっており、デルフは既に何処かへと消えている。
久々の娑婆だというのあっという間にしまわれてしまったらしい。
マチルダは僅かに憐憫の情を抱きつつ、10メイルほどの土ゴーレムを作り出した。

「ま、とりあえずかたしておこうか」
「任した」

マチルダが作り出した穴に、オーク鬼の死体を投げ込むゴーレム。
今日は此処で野宿になるだろうから、必要な作業だ。
流石に、死体の近くで一夜を明かすのは虎蔵にしてもご免被りたい。
ルイズたちであればなおさらだろう。


マチルダによる"片付け"が終わって暫くすると、三人が寺院から出てきた。
ルイズが手に何かを持っている――――が、表情からしてまたハズレのようだ。
虎蔵とマチルダの視線に気づくと、ルイズは手に持っている物を放り投げてきた。
虎蔵がそれを取り、眺める。

「また大ハズレよ――安物のネックレス。なにが《ブリーシンガメル》だか」
「ま、物があっただけ良かったんじゃないの?」

祭壇の下に隠されていたチェストから出てきたのは、取るに足らないガラクタと数枚の汚い銅貨であった。
その中で辛うじて見れるものが、投げ渡された真鍮のネックレスだという。
虎蔵が「見るか」とマチルダに差し出せば、彼女は「冗談じゃない」と肩を竦めた。

「まったく、徒労も良いところね」
「なによ。戦ったのは殆どダーリンだし、此処に来るのだってシルフィードに乗ってきたんじゃない」

ぶつぶつと文句を言うルイズに、キュルケが呆れながらもっともな事を言う。
だが、心理的な徒労感があるのは否めない。
タバサなどは虎蔵のように岩に腰掛けて、本を読み始めてしまった。
キュルケはそれをみて肩を竦めると、手を叩いて注目を集めてから口を開いた。

「まぁ、兎に角――野営の準備をしなくちゃね。向こうに丁度良い中庭があったわ」





そして夜。
寺院の中庭で焚き火を取り囲む一行は、なんとか詔を完成させていた。
少なくとも、それなりの様にはなっただろうと、ルイズは満足気に《始祖の祈祷書》を抱きしめる。
そして、協力してくれたキュルケ、タバサ、マチルダを順に眺めては、僅かに頬を染めて口を開く。

「あー、の、その――――ありがとう。なんとか仕上げることが出来たわ」
「あら、珍しい。ミス・ヴァリエールが自分から礼を言うなんて」

ルイズの様子に芝居がかった調子でからかうキュルケだが、その表情は実に嬉しそうだ。
焚き火の明かりで本を読んでいるタバサも、本から視線を上げて、僅かにだが笑みを浮かべている。
彼女らの間の友情は、《破壊の杖》の事件やアルビオンでの経験を通して少しずつ強くなっているようだった。

「ま、完成して何よりだよ―――そこの二人が完全に役立たずだったけどねぇ」

葉巻を吹かす虎蔵と、その隣の地面に突き刺さったデルフを見て、マチルダがニヤニヤと笑う。
頭数があるに越したことはないという理由でデルフも参加させられていたのだが、当然ながら無力だった。
虎蔵も同様である。

「そりゃおめぇ、俺ぁ剣だぞ。剣に何を期待してやがる」
「――餅は餅屋と言ってな」

カチャカチャと自身を鳴らしながら抗議するデルフと、それに追従する虎蔵。
だが、虎蔵の言い回しは誰も理解できなかったようで首を捻るばかりだ。
虎蔵はふぅっと煙を吐き出して、いつものように肩を竦める。

「適材適所ってことだ」
「――――トラゾウって、たまに妙な言い回しをするわよね」
「しゃぁねぇだろ。此処の生まれじゃないんだから」

そう言えば、と頷くルイズ。
虎蔵自身がまったくと言って良いほど元の世界のことを口に出さないためか、意外と忘れそうになるのだ。
キュルケやタバサ、マチルダすらも似たような反応である。

「それは四大系統に対する感謝って言われても難しいわよねぇ」
「――――けど、アンタの世界にも魔法はあるんだろう。属性とかは無いのかい?」

キュルケは詔の話に乗ってこなかった虎蔵に納得する。
彼の性格からして、わざわざ知らない話に首を突っ込むようなことは――よっぽど暇でもなければ、ありえないだろう。
しかし、マチルダは彼自身が手品と証した雷の魔法や、元の世界に召喚されるという話を思い出して首を傾げた。

「専門家じゃねえから断言は出来んが――――聞いたことはねえな。四だの五だのってのは、別の話だ」
「――――あるの?」
「ん?あぁ――――考え方が根本から違ぇんだがな」

否定の後にぽろっと漏れた一言に、タバサが食いついた。
読んでいた本から視線を上げている。
よほど気になったようだ。

「あらゆる物質は、火、水、土、空気――もしくは風の四元素からなるっつー四大元素説。
 地、水、火、風、空の五つの要素によって世界が構成されてるっつー五大思想――五輪とも言うな。
 木、火、土、金、水の五種類の元素によって万物が構成され、そいつらが互いに影響を与え合っているっつー五行思想。
 他にもまぁ色々あるが――共通して言えるのは、技やら術やらじゃなく、世界の在り方、捉え方ってことだな」

説明に聞き入っていたルイズ達だが、"世界の在り方、捉え方"という言葉に首を捻る。
虎蔵はぼりぼりと頭をかくと、焚き火用にと集めてきていた物の中から細い枝を手にした。
枝を教鞭のごとく揺らしながら、五行思想を例にするとだなと説明を始める。



「木の花や葉が幹の上を覆っている立木が元となっていて、樹木の成長・発育する様子を表す木行。
 光り煇く炎が元となっていて、火のような灼熱の性質を表す火行。
 植物の芽が地中から発芽する様子が元となっていて、万物を育成・保護する性質を表す土行。
 土中に光り煇く鉱物・金属が元となっていて、金属のように冷徹・堅固・確実な性質を表す金行。
 泉から涌き出て流れる水が元となっていて、これを命の泉と考え、胎内と霊性を兼ね備える性質を表す水行。
 木行、火行、土行、金行、水行――――これらをもって五行とする」

手にした枝で、五角形の頂点になるように五つの丸を書く虎蔵。
それら五つの丸を矢印で繋ぎ、五角形を作った。。

「こいつらが木、火、土、金、水をあらわしてると考えれ。
 こん時、木と木の摩擦によって火が生じる。物の燃焼にって生じる灰、即ち土。
 地中を掘れば鉱物――金が存在し、金属の表面には水滴が生ずる。そして水が植物――即ち木を育てる。
 これが五行相生。順送りに相手を生み出して行く関係で――」

次に、五角形の中で丸を頂点にした五芒星を書いた。
先程と同じように一辺一辺が矢印になっている。

「木は土の養分を吸収し、土は水を濁す。水が火を消して、火は金属を溶かす。金属製の道具によって木が切り倒される。
 相手を打ち滅ぼして行く関係を、五行相剋という。
 ま、実際は更に幾つかの法則があるんだが――そいつらの法則、関係性によって世界が成り立っているって考え方な訳だ」
「アタシらの概念からすると、木・土・金ってのが被って感じるねぇ」
「かもな。まぁ、お前らの属性ってのは現象そのものを示してるような感じだが――
 こいつは、さっきも言ったように世界の在り方を説明してるに過ぎん」

パキッと乾いた音を立てて枝を折ると、それを焚き火に放り込んだ。
再び葉巻を咥えながら、何か質問は――とでも言った様子でルイズたちを見る。

「あー、じゃあ、その五行って奴で魔法――のような物は使えないってことかい?」
「わからん。俺は知らんが――――無いと断言はできんよ。
 場の気の巡りをよろしくやって、道術やらなんやらの威力を高めるってのなら俺もやるしな」
「それが例の《ライトニング・クラウド》もどきってことかい」

マチルダの問いに、んだ、と頷く虎蔵。
すると、今度はタバサが手を上げてきた。
まるで学院の講義のように。

「―――――場の気の巡りって、何」
「あー、それはだな――――」

タバサはその未知の体系に知識欲をそそられたのか、次々と質問を投げかけてくる。
虎蔵はやや面倒そうにしながらも、タバサに説明を続けた。
それを見てルイズはやや不満そうになるのだが、タバサの中々見ることの出来ない生き生きとした様子に、

「今夜だけなんだから―――」

と呟いて、キュルケと共にそれを見守るのだった。





その後、虎蔵がタバサの質問攻めから解放されるのには、マチルダが夕食の用意を終えるまでかかった。
喋りつかれた様子の虎蔵に対して、タバサは実に満足気である。
ちなみに、何故マチルダが夕食の用意をしたのかと言えば、単純に料理が出来るのが彼女だけだったからだ。
立場は色々あれど、貴族のお嬢様方に野外で料理というのは酷なようである。
――――もっとも、マチルダも元は貴族のご令嬢なのではあるが。
ルイズとキュルケが、一人女としてのスキルを見せ付けたマチルダに嫉妬心を抱いていたのは、触れるまでも無いことだろう。

野兎とキノコのスープを食しながら、一行は明日の予定について話し合っていた。
意外に美味しいマチルダの料理と詔の完成という達成感のお陰で険悪な雰囲気にはなっていないが、
宝の地図は悉くハズレという結果である。
誰もが流石に疲れを感じてきていた。
だが、キュルケだけは別なようで――――

「次が地図が最後なんだから、行くだけ行ってみましょうよ。《龍の羽衣》だって」
「どの辺りにあるの?私はそろそろ学院に戻らないといけないんだけど」
「タルブ村の近くだって書いてあるけど―――」

アンリエッタの結婚式のために、ゲルマニアへ向かわねばならないためだ。
ルイズは式そのものを喜ぶことなど出来ないが、与えられた役目を果たさずにいられる訳でもない。
更には、詔はみんなの協力もあって、一応ながら完成しているのだから。
キュルケはルイズの問いに、羊皮紙の中から地名を見つけ出しては、
この辺りの地理にも詳しいマチルダへと視線を向ける。

「あぁ、ラ・ロシェールの近くだよ。此処からだと、ちょっと寄り道くらいで済むね」
「あら、丁度良いわね。じゃあ明日は、タルブ村に向かうってことで決定」

お誂え向けな最後の地図に、キュルケはぽんと手を叩いた。
まだ望みを捨てていないのか、それとも単に皆で宝探しという行為そのものを楽しんでいるのかはわからないが、
彼女だけはまだまだ楽しそうな様子である。
だが――――

「――――ろくなもの見つけてないのに、よくもまぁあんなに元気だねぇ」
「まったくだ――――」

大人二人はそんなキュルケを見て、肩を竦めるだけだった。



トリステインを目指す艦隊の中で、ひときわ巨大なフネ――レキシントン号。
その後部甲板に、日焼けした浅黒い肌が目立つ精悍な顔立ちの男の姿があった。
腕組みをして雲海を眺めている。
サー・ヘンリ・ボーウッド――――レキシントン号の艦長である。
そこに、ひょろりとした眼鏡の男が近づいてくる。

「――――全く、恥も外聞も無いとはこの事ですな」
「何がだい、副長」

ボーウッドは振り向かずに答える。
苦虫を噛み潰したかのような声になったのは、眼鏡の男――副長の言わんとしていることが解っているからだろう。

「条約破りですよ。なんなら、栄誉ある竜騎士隊の指揮を、祖国を裏切った不気味な男に任せることを付け加えても良い」

副長は眼鏡を外し、ハンカチで拭きながら嫌味ったらしい口調で吐き捨てた。
能力はあるが、世渡りが下手な男である。
自分が上官でなければ、このような地位に上り詰めることは無かったであろう。
もっとも、今此処に居ることが幸せであるかどうか、ボーウッドには判断が付かなかったが。

「少なくとも後者は、我々が言えることではないな――――」
「確かに。我々も裏切り者でしたな」

自嘲的に笑いながら、副長は眼鏡を掛けなおした。

「とはいえ、それを別にしても――――不安ではあるのですよ。見ましたか、彼を」
「あぁ。《閃光》のワルド――聞いていた噂と、かなり異なる印象を受けたことは否定できないね」
「他に寄らず、寄せ付けず、女の名前をぶつぶつと繰り返すのみ――あれで指揮など取れるものでしょうか」

ボーウッドは、そうだな――とだけ頷く。
《閃光》のワルド――トリステインで有数の風の使い手。
そういった噂は、アルビオン軍人である彼らにも聞こえてはいた。
グリフォン隊隊長という肩書きを考えれば、指揮能力も優れたものがあると考えて良い筈だ。
しかし、異様なほどの威圧感を振りまきながら、「ルイズ、ルイズ」と呟く姿は、
それらの噂をかき消して余りある不安材料である。

「各竜騎士に、緊急事態には独自の判断で動く許可を出しておいてくれ。ただし、記録には残すなよ。後が面倒だ」
「――そうですな。了解しました」

副長が立ち去って暫くすると、ボーウッドはふぅっと深いため息をつく。
彼ならば汲み取ってもくれるだろうが、部下の前で堂々と政治批判をするわけにもいかないだろう。
なにより、あのウェールズ皇太子が従っているのだから。

しかし、本心としては全くもって彼の言うとおりであった。
条約破りを、よりにもよってこの《王権》で行うことになるとは――――なんと破廉恥なことか。

――いつか自分には罰が下るのだろう――

軍人は政治に口を出さず、命令を忠実に実行すべし。
その精神が間違っているとは思っていない。今も。
しかし、この行為が正しいなどとは死んでも思えなかった。
出来る事ならば、今すぐ礼拝堂に駆け込んで懺悔をしたいものだ。
だが――――

「――――始祖ブリミルは、ぼくらの懺悔を聞いてくれるだろうか」

疲れた声の呟きは、誰に届くことも無く風に乗って消えた。




そして夜が明ける。
トリステインとアルビオンの――否。ハルケギニア全土を巻き込むことになる戦乱の第一歩が、始まろうとしていた。

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