あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのトランスフォーマー8

丑三つ時(と言う時刻表現がハルケギニアにあるかどうかは別として)も過ぎた頃、
酒屋‘魅惑の妖精亭’店内の賑わいも多少納まり、空席もちらほら見受けられる。
店の混雑時、女性リピーターに散々ちやほやされ心底疲れ果てた給仕・スタースクリームは、
今は店奥の休憩室にてごろんと寝転がっていた。

今日は新人としては破格の8エキュー21スゥ5ドニエものチップを収得した彼は、
店長のスカロンに褒められ、ジェシカにも感心され、とても気分が良かった…のだが、
それと同時に、俺ってこの魔法世界に何しに来たんだと、自らの存在意義に疑問したりもした。
よもや、酒場の人気ウェイターになるとは…。満更嫌でもないが。

思えば、状況も掴めないままこの世界に引っ張り出され、高慢な少女に接吻された挙句下僕として扱使われ、
反抗しようものなら、棒切れ1本やら鞭やらで得意の変形能力や行動を軽々と制御され、
周りを見てみれば、フィクションの世界でしか無かった魔法を当たり前のように使用している。
最初、元科学者である彼にとって、そんな非科学的な事は信じられなかった。魔法学院の生活にはもう慣れたが。

そして武器屋に行ってみれば、昔の仲間、カセットロン部隊のフレンジーが剣へと変貌し潜んでいるでないか。
この未知の世界に仲間がいた為、一瞬希望が湧き、フレンジーに何か知ってる事を聞き出そうとしたが

『悪ぃな。頭脳回路がイカれたのか、記憶がかなり欠落しちまっててな。
 俺もよく判んねぇんだ。つーかその名で呼ぶな、俺はデルフリンガーだっつーに!!』

とえらく曖昧なしか返答が帰ってこず、余計に現状が掴めなくなってしまった。
使えない。

現フレンジーは大剣としても、いつも勝手にトリステイン学院内をふらふら出歩いているので常に手元におらず、
彼自身、自由気ままに暮したいらしく、隙あらば誰かの喉でも掻っ切って
人間共に恐怖に陥れてやろう、と言う意欲も野望も微塵もないらしい。
使えない。

今は剣に擬態している故、変形後のヒューマノイド形態時の体は多関節構造で昆虫の如く細く鋭く、
かつてのフレンジー最大の自慢であった、文字通り大地を揺るがすハンマーアーム能力も消滅している。
使えない。

昔から変わらないのは、生意気な性格だけ。と言うか元々、
デストロン・カセットロン部隊所属時も、同じ部隊の鳥形メカ(一時デストロン軍団最強と噂された事も)に
かなりの確立で役目を喰われていた。
使えない。

そう言えば、使い主であるルイズは、あの使えない剣型トランスフォーマーを、正体を知らなかったとは言え、
他ならぬ自分のために300エキューもの大金を叩いて武器屋から買い取ってくれたのだ。
そう思うと何だかルイズに申し訳無くなり、もう少しこの仕事に力入れてやるか、と決意するスターであった。

にしてもホントに使えんな、あの役立たずめ、とぶつぶつ言いながら
体のサイズに似合わず休憩所でごろごろしていると、店長に次いで店のまとめ役のジェシカから呼び出しが掛かる。

「スタスク、7番テーブルに女性のお客さん3名様。あんたの出番よ」
『解った。ったく誰だよ、こんな時間に来る物好き女は』

機械音を軋めながら、むくりと起き上がり、休憩所を後にした。



スタースクリームが休憩室でのさばっていたその頃、
城下町トリスタニアに降り立ったルイズ、キュルケ、タバサの3人は、
キュルケの記憶を頼りに、怪しげな店が立ち並ぶ夜のチクトンネ街をさ迷い歩いていた。
当初の予定ではこんな道を放浪する企画は無かったのだが、
スターが働いていると言う店の場所を唯一知っているキュルケが、見事なまでに場所をド忘れしたらしい。

「っかしぃわねぇ、確かこの辺だったと思うんだけど」
あくまで澄ました顔で、ルイズとタバサを引率しながら魅惑の妖精亭を探すキュルケ。

この時間帯にチクトンネ街になど出歩く少女達が珍しいのか、
貴族とは凡そ無縁のオーラを発する見掛けの悪い連中が、キュルケ一行にすれ違うたびに
何やってんだい嬢ちゃん達や、とかちょっかいをかけて来るが、キュルケはそれを慣れた様子で受流し続ける。
あんたにゃこんな事できないでしょ、とキュルケはルイズに得意げに自慢したが

「そもそも道に迷わなかったら受け流すも何も無いんだけどね」
「むぅ」
と珍しく嫌味返しされてしまったのだった。

しかし、念入りに歩き回った甲斐あってか、ようやっと看板に魅惑の妖精亭と書かれた店の前に辿り着いた一同。
タバサは口笛を吹くと、それまで上空で旋回しながら待機していたシルフィードが店の屋上に降り立った。

3人は入店し、それを屋上から確認したシルフィードは、その場には留まらず、魅惑の妖精亭の裏側の、
人気の無い路地にぽつんと聳え立つ、今では使われていない古い建物の屋上へとぴょこんと移動する。
辺りをきょろきょろ見渡し、街中ではあるがここが人々の目からは死角になる場所である事を確認すると、
口に銜えていた袋を傍らに置き、屋上の真ん中にちょこんと座った。
そして一息入れると

「我を纏いし風よ。我をヒトの姿へ変えよ」
と、座ったシルフィードは先住の魔法を唱えた。建物の屋上にいるので、
先住の魔法には必要不可欠な強力な風が、なんの障害にぶつかる事無くシルフィードの体を包み込む。
やがて、風は青い渦となり、しばしの間シルフィード姿が見えなくなる程に吹き回った。
ややあって、青い渦は消えたが、そこにいたのは蒼いドラゴンではなく、うら若き人間の女性であった。

服は着ておらず、裸のままだが、女性はぎこちなく足を動かし、手をぶんぶん振り回し始める。
しばしそんな、何かの準備体操にも見える可笑しな動きをしていると、今度は先程置かれた袋に手を伸ばし、
中から紺色のブラウスと長めのスカートと靴を取り出し、えらく時間をかけてそれを着用した。
その顔の表情は、なんだか物凄く苦々しい。美人が台無しである。
なんとか歪んだ顔を穏やかな顔に治めると、建物の外側に設置された階段で屋上から地上へと下りた。



『いらっしゃいませ、ようこそ魅惑のぅおぁっ』
果たして7番テーブルを囲んでるその一行は、宿塔で夢の中のハズの使い主様とそのクラスメイト達であった。
アポなしの来店に驚き、危うく冷水をのせたお盆を落としそうになるスタースクリーム。

『な、何故に此処にいるんだあんたらはっ』
「あら、ここの名物ウェイターってのは客にタメ口で接するのかしら?」
スタースクリームを視界に入れない様にか、そっぽ向き、腕を組みながら文句を言い放つはルイズ。
はぁい星くーん、と手を振るキュルケに、その横でいつもの様に本を読みふけるタバサ。

ぬぅ、1番身近にして扱いにくい客が来たな、と、
痒くは無いのだが、自身の金属で出来た頭を、同じく金属の指で思わずぼりぼりと掻き毟るスタースクリーム。
しかし客は客なので、一先ず冷水入りのグラスを3人の前に丁寧に置き、メニューを渡す。

『で、注文は?』
メニューを見ながらキュルケはラム酒を注文し、タバサは本を読みながら「水お代わり」と一言。
そして、ルイズは

「んー、ちょっと小腹が空いたわね。何かここで美味しい物は無いの?」
『はいよ、特製グラタンならすぐに御用意できますよっと』
「じゃ、それでいいわ」
「ヴァリエール。こんな時間にグラタンだなんて、お肌に悪いし太るんじゃない?」
「っさいわね、余計なお世話よ!」
「言っておくけど、脂肪と栄養はそうそう胸の方には回ってくれないわよぉ?」
「何が言いたいのよ!」
2人は席から立ち上がり、やいのやいのと痴話喧嘩をおっ始めた。

『静かにしてくれないか、ここは宿場も兼ねてて2階で寝てる客もいるんだ』
まぁ想定内のイベントであった2人の痴話喧嘩を、スタースクリームが事実且つ尤もな発言で宥める。
ルイズとキュルケは辺りを見渡し、他の静かに酒を飲んでいた客の冷たい視線を確認すると、
顔を見合わせ、それもそうねと大人しく席に腰を下ろした。

『じゃ、ラム酒とグラタンと水御代わりだな、少々御待ちくださいよっと』
のっしのしと厨房へ戻るスタースクリーム。
ルイズとキュルケはだんまり込んでしまった。

その頃、魅惑の妖精亭の2階。スタースクリームの言った通り、
此処は宿場となっており、廊下には6つほどのドアが設けられている。
その内の1つが開き、中から1人の男が出てきた。その男、この宿屋で1晩過ごす事にしたワルドである。
彼のトレードマークである帽子とマントは部屋に置いて、比較的軽い装備で、1階の酒場へと下りていった。



「ルイズ? ルイズなのかい!?」
階段を下りきったワルドが、ピンク色の後頭部を見て声をかける。

「ワルドさま!?」
椅子に座ったまま振り向くルイズ。え、まさか、そんな、と目の前に現れた憧れの人を目に動揺する。
ワルドはにこにこしながらルイズ達のテーブルへ寄った。

「声がしたと思ったら、やはりそうか! 僕のルイズ、何年ぶりだろう!」
ルイズの若干赤く染まった頬を優しく触るワルド。ルイズは上目遣いで恥ずかしそうにワルドの顔を見た。
厨房の前で腕組みしながら、コックがグラタンを調理するのを待っていたスタースクリームはその光景を見て、
あ、あれさっき他の女の子達に途轍もなくサービスを受けてた男だな、と極々普通の感想を浮かべた。
別にルイズの急変した態度にはどうでもいい様子である。

「あら、素敵な方じゃない。どちら様?」
キュルケの問いに、ルイズは顔を染めもじもじとしながら答える。

「ワルドさまは…」
「様付けはちょっと堅苦しいな、ワルドでいいよ」
「ワルドは、その、私の…」
「あんたの何?」
「婚約者」
キュルケは口に含んでた水をルイズの顔に噴出した。
ゲホンゲホンと気管に侵入しかけた冷水を吐くキュルケは、なに、あんたの、婚約者ぁ!?
と信じられないという顔でルイズに言った。

「…あによ。悪い?」
ルイズの濡れた顔を、ワルドがおやおやと微笑みながらハンカチで拭いてやっている。

『はぁー、ルイズ様の婚約者。それはそれは感動の再開、よござんしたね』
と出来立ての、チーズの濃厚な香りが食欲をそそる熱々のパスタグラタンをテーブルにコトンと置き、
ついでキュルケにラム酒、タバサに2杯目の冷水を差し出すスタースクリーム。
実は彼もルイズのためにハンカチを用意したのだが、その役はワルドに先を越されてしまい、
代わりにキュルケにハンカチを差し出した。

「やあ、君はさっきも僕に給仕してくれたガーゴイルだね?」
『ガーゴイル…まぁ、そうなりますかね』
はははと笑いながら、ワルドは右手を差し出し、それに答えスターも金属の右手を出し、両者は握手を交わした。

「改めて自己紹介しよう。僕は魔法衛士隊グリフォン隊隊長、ワルド子爵。ルイズとは婚約を交わした仲だ」
ワルドの名乗りに、酒場にいた他の客が関心を示す。魔法衛士隊と言えば、名誉と身分名高い職務である。

『む。俺はデストロン軍団航空参謀、スタースクリーム。ルイズ様とは使い魔としての契りを交わした仲で』
負けじとスターも名乗るが、当然ながら出てきた単語に誰もピンと来ないので、その場が極端に白けてしまった。



「きゅーい! スタースクリーム様、御会いしたかったー!!」
そんな白けた空気が、扉を突き破らんかの勢いでの入店と同時に、激しく興奮しながら、
ワルドを押しのけ、スタースクリームの硬い胸元に飛び込んだ、茶髪の若い女性の登場で一気に消えうせた。
皆はぎょっとしたが、スターはこの様に積極的な女性客は今までに2,3人は接してきた為、
慣れた様子で、この茶色い長髪の、くるりとした蒼い瞳が魅力的な客のニーズに合わせ適当に対応する。

『いらっしゃいませお客様、会いたかったとは、これは大変嬉しいお言葉。
 どうぞ此方の席へ、今宵はこの魅惑の妖精亭でごゆるりと時間をお過ごし下さいませ…』

ルイズはテーブルに思わず頭をぶつけた。
なにあれ。私の前じゃあんな態度取らないのに、なんなのあれ。仕事上の立場なんだろうけど、
にしたって気持ち悪いわよ。なにあれ。てかあの女も酒で酔ってるワケでも無さそうなのに馴れ馴れしすぎよ。
人前なのにデリカシーってもんを知らないのかしら。親の顔が見てみたいわ!
ってかスタースクリーム!! もうそんな女に構わなくていいでしょ!! 
せっかくご主人様がわざわざ仕事場に来てやったってのに! む~~~~!!!

僅か5秒でそれだけ葛藤するルイズ。親と言うか、使い主なら彼女の隣の席で本を読んでいるのだが。
一方茶髪の女性は、席を案内されても尚、スタースクリームに抱きついたまま離れようとせず、
スタースクリームもさすがに笑いながら困っている様子。

しかし、人間とはえらく柔らかいモノだな、特にこの2つの突起物は。
と、自身に備わる感知センサーから伝わる情報で、あくまで生物学的に、
金属生命体スタースクリームは率直な感想を思い浮かべた。ルイズにもここまで直に触れた事は無い。
そうだ、今度人間について研究してみるか、今まで取り扱った事の無いジャンルだしな、とスターは考えた
…が、スタースクリームの胸元できゅいーと可愛らしく唸りながら頬を擦るその女性は、実は人間ではなかった。

イルククゥと名乗る、彼女の正体をよく知るタバサは、ここに出発する前の、タバサの自室での事を思い出す。

「酒場に入ってスタースクリーム様に接したいのなら、この大きさのままのワケにいかないのは自覚しています。
 そこでお姉さま、なんと私、自ら人間の姿に変身する事を決意したのです! きゅーい!
 しかしやはりですね、服という存在はアリエナイと思うのです。到底理解できかねますです。
 と言う事でスター様にはありのままの姿で接する事に致しましたの!」
「却下」

そう、スターに抱きついて離ないこの女性は、韻竜であるシルフィードが先住の魔法で変身した姿なのだ。
しかし、筋金入りの服嫌いであるシルフィードは、部屋から出発するまさに5分前まで、
衣類は絶対着たくないと、さんっっっざん駄々をこね続けたのだ。最終的にタバサは、
人前で全裸でスタスクに抱きつきでもしたら、痴漢容疑でとっ捕まるのは、間違いなくスタスクの方。
会うなら会うでスタスクに迷惑にならない事を考えなさい、と言い切った。
すると、シルフィードはだんまり込み…何か一大決心した顔で、力強く決断の言葉を放ったのだった。

「お姉さま……! 私……! 着ます!!」
「当たり前」

こんな具合に、今の幸せそうなシルフィードには、そうした怒涛(彼女にとっては)の裏話があったのだ。
ちなみに、シルフィードは人間の姿に変身した際、髪の毛の色は自分の体色やタバサと同じく青色なのだが、
さすがに青髪のままだと、キュルケやルイズに何かしら疑われそうなので、今回は魔法で髪を土色に染めている。

タバサは、困り果ててるスターを見て、やっぱり止めておけばよかったかと一瞬後悔の思いを頭に巡らせたが、
やっぱり放っておこうと、再び‘ガーゴイルを実験的にからかう49の方法’に目を向けるのであった。



『イルククゥ様、貴女の熱意にはいやはや参りました。特別に1本サービスいたしますので、どうかお席に』
「あう、ごめんなさい、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃいました。きゅいきゅい」
ようやっと9番テーブルの椅子に落ち着いたシルフィードに、スタースクリームはワインを届けてやり、
今度は店の隅にあった予備の椅子を持って、ルイズ達のいる7番テーブルへ向かった。

『ずっと立ちんぼではなんでしょう。どうぞお客様、お席を』
スタースクリームが、ワルドのために椅子を用意したのだ。
ワルドは礼を言いながら、ルイズの隣に座り、再び愉快に昔話を語り合った。
ルイズも最初はワルドに対し緊張していたが、少しずつ打ち解け始めたか、今では笑いながら接している。
これで良しとスタースクリームは、満足げに厨房に戻ろうとしたその時、

「ちょっと顔貸しなさい」
と、知らずの間に席をはずしていたキュルケ。何故か隣にはジェシカも。
スタースクリームを半ば無理やり連れ店の外へ出る2人。
外は多くの酔っ払いや、何やら怪しい店の呼び込みで忙しい露出狂な女性やらで深夜ではあるが賑やかだ。

「まさかルイズの婚約者ってのが出てくるとは思わなかったわ。しかもすっごい良い男」
『まぁな』
「なんとも思わないの?」
『何がだ』
キュルケが何やら不満げな顔でどやどや言っているのが、スタースクリームにはよく理解できなかった。

「鈍いわねぇ、少しは嫉妬ぐらいしたらどうなのさ」
次に突っ掛ってきたのはジェシカで、スターはますます自分が怒られてる意味が解らなくなった。
いや、俺はちゃんと客にサービスしたぞ給仕長、と。

「多分ルイズったら、星君に使い魔としてじゃなくて別の感情抱いてるわね、わりかし本格的に」
キュルケの言葉に、スタースクリームは僅かながら驚くが、それとここに連れてこられた関連性はまだ解らない。

「星君はヴァリエールの事どう思ってるの?」
『え゛。なんだその脈略の無い質問は』
「誤魔化さないの! その辺どうなのよ星君!」
「ちゃんと答えなさいよスタスク!」
初対面であるハズのキュルケとジェシカだが、えらく息がぴったりである。

『ど、どうなのって言われても』
しどろもどろするスタースクリーム。
こと恋愛など縁の無かった彼にとって、どう答えればこの猛攻から逃れるのかが見当も付かなかった。

―そして、間の悪い事に―

「きゅーい! スタースクリーム様! 何処に行ったかと思ったらこんな所にいたのれすねー!」
現われたるは、茶髪シルフィードであった。ノリで大量に酒を飲んだか、かなりデキ上がった様子である。

『だぁぁもう勘弁してくださいよ、お客様ぁぁ!』
きゅいきゅーいと顔を真っ赤にしながら抱きついてくるシルフィードに、いい加減うんざりするスタースクリーム、
そしてその光景を見て、さらに形相を悪くする女傑2名。

「ちょっと! こっちは今取り込み中なの!!」
「きゅいーっ、なんなのれすか、邪魔しようらっれ、そうは行きまれんの、ういーっ」



「愉快だね、彼」
「愉快なのも考え物よ」
陽気に笑みを浮べながら、外の漫才に興ずるワルド。

「ワルド、私ちょっとスタースクリームを連れ戻してくる」
「それもそうだね、彼もそろそろ職務に戻らないと」
3人の他の女にちやほやされてる(実際は若干1名だが)スタースクリームに我慢ならず、席を立つルイズ。

ルイズが表に出向いたため、7番テーブルに残ったのは、ワルドとタバサのみ。
この時初めて、タバサはワルドを見据えた。
確かに、惚れ惚れするような凛々しい顔立ちに、優しさを醸し出した表情。魅力的な男性、ではある。
彼が婚約者だ、と自慢すれば羨ましがる女性は多いであろう。
が、胡散臭い。根拠は無いが、この伊達男からは確実に何かが臭う…ものの、断定は出来ない。

それと、この胡散臭さが他の誰かと似てるような気もした。
…例えるなら、あのゼロの使い魔、に。

「なんだい? 僕の顔に何か付いてるかい?」
「別に」

タバサは、これ以上の詮索は控える事にした。
ついで、ルイズが一口も手を付けてない、冷めかけたパスタグラタンを、勿体無いのでペロリと平らげた。


一方その頃、外では

「スタースクリーム! いい加減に店に戻りなさいよ!」
「あらあら張本人登場。さあ星君、いってみよーっ」
「うーん、自分で外に連れ出しといてなんだけど、他のお客さんに支障を来たすし、とりあえず戻りましょうか」
「きゅい! わたしとすふぁーすふりーむ様の邪魔しようなろという陰謀は阻止してやるろれす!」

スタースクリームにとって、ルイズまでも参上したこのややこしい縺れ縺れた状況は悪夢の他ならなかった。
いっその事、回線コードを一時切断して、狸寝入りで知らん振りしてやろうか、と首元に手を伸ばした…が、
そんなどうでもいい心境を軽く吹き飛ばす事態が、突如として発生した。


北の方向で、大きな倒壊音がしたかと思うと、その方角から悲鳴と共に大勢の人々が押し寄せたのだ。
阿鼻叫喚に雑じり、再び何かが破壊される音。メイジが賭博場を襲撃した、と逃げ惑う人々が口々に叫ぶ。
本より治安のいい街とは言えないが、まさかのメイジによる襲撃に、
普段は粋がってる連中も芳しくない血色で逃げ惑っている様だ。

『へぇ、この世界にもテロリズムはあるってのか』
波の様に横切る群集に戸惑う事無く、得られた情報で状況を把握するスタースクリーム。
ジェシカは急ぎ店内に戻り、外の騒ぎに不安がる客の対応にあたり、
キュルケは相変わらず陶酔したままのシルフィードを無理やり店に引き摺り戻した。

「テロリズム? なんなの、何が起こったの!?」
不安に駆られたルイズが、スタースクリームに寄り掛る。
貴族として、何の不安を経験する事無く育ってきたルイズにとって、この騒然とした空気は未知の恐怖に値する。

『どこかのアホ垂れが他人に腹いせしてるって事だな。今回はカジノで金を磨ったメイジの逆襲って所かね?
 若しくは愉快犯か。こちとら全然愉快じゃないがな』
と、またしても破壊音。今度はここから程近い居酒屋が襲撃されたらしい。まさしく無差別テロである。
その音に驚いたルイズが、きゃっとスタースクリームの腕に抱きつく。
やれやれ、普段は威張ってるくせにねぇ、とスターは嫌味を呟いたが、ルイズの耳には届いていない。

「え、衛兵はまだか!? まだ来ないのか!」
「きたぞ! あいつ等だ、逃げろぉぉぉ!!!」

――街灯に照らされた、一連の犯人と思われる、それぞれ仮面で顔を隠しマントを身に纏った3人のメイジ。
すでにスタースクリーム達の位置から、約60メイル程の距離まで近づいている。
仮面の効果もあるのだろうが、3人並んでゆっくりと此方に向かい歩む姿は、どこか無機質で不気味である。
しかし、犯人を目前にしたスタースクリームは、不安がるどころかにやけている。闘心本能に火が付いたらしい。

『スカロン店長は俺を店の用心棒役としても期待してるらしいからな』
「何言ってるのよスタースクリーム! 逃げなくちゃ!」
ルイズはスタースクリームの腕を引っ張るが、この金属生命体、そこから1歩も動こうとしない。

『ルイズ様。俺はまだあんたへの借金を稼いでない。
 俺のせいで壊した他の連中の私物の弁償代。それにあの使えないインテリジェンスソードの代金だ。
 この店まで奴等のとばっちりにあっちゃ元も子もないんでね』
「だからってあんたが体張る事は無いわ! 城から兵が駆け付けてくれるはずよ、だから―」
『ああ。だからその兵達が到着するまで、時間を稼ぎたいんだ』

―しばし、ルイズは口を硬く閉じ、スターの顔を見つめた。その間にも、メイジ達は刻々と距離を縮めている。

「…いい? 時間を稼ぐだけよ!? …怪我したって知らないわよ! あんたのせいでお金無いんだから!」
『了解で』

その時既にスタースクリームを横切る者はおらず、人々はメイジ達からなんとか逃れ、
立て籠もった店内や建物の物陰から、戦いの宣告をした頼もしき謎のガーゴイルの背中を見守っていた。

『トランスフォーム!』

その場で高く跳躍、空中前方回転、手足を引っ込め、体積を膨張させ、F-22ラプターに酷似した姿となり、
轟音と共に突撃した。スピード勝負の航空参謀にとって、変形に長ったらしいプロセスなど不要である。



3人のメイジは、前方から低空飛行及び猛スピードで接近する謎の飛行物体に警戒し、三方へと散開する。
1人は建物の屋上へ身軽に飛び上がり、1人は路地裏へ身を隠し、残り1人は果敢にも飛行物体へと突撃した。
飛行物体―スタースクリームF-22形態は、飛び掛ってきたメイジを確認すると、
瞬時に地面擦れ擦れで人型に変形、両者が衝突する間際に、両手でメイジの頭をがしりと掴み、
そのまま身をひねってメイジを地面に叩き付けた。

留まる事無く、再びF-22に変形し、3階建ての宿屋の屋上で仁王立ちする2人目のメイジに向かって特攻する。
屋上にいたメイジは、エア・カッターの類かと思われる風の魔法で、下方から迫るF-22を撃墜せんと目論み、
マントから突き出た杖から魔法を放とうとした直前、予想以上に速く屋上に到達したスタースクリームが、
人型への変形と同時に強烈な回し蹴りをメイジの顔面に炸裂させる。

仮面が割れる音と共にメイジは屋上の中央付近に吹っ飛び、下階への階段の前でぐったりと蹲った。
屋上に着地したスタースクリーム人型形態は、割れた仮面の下の素顔を確認すべくメイジに手を伸ばしたその時、
それまで路地裏に隠れていた3人目のメイジが、フライの魔法で飛翔し、スターの背後から襲いかかった。
気配を察知したスタースクリームは動揺する事無く冷静に、襲い来るメイジの首を振り向きざまに左手で掴む。
その隙、蹲っていた方のメイジがすくっと起き上がり、3人目のメイジに気をとられたスターに攻撃しようと
左手の杖を掲げたが、咄嗟にスタースクリームの右手がその杖を払い除け、メイジの二の腕を力強く握った。

左手に3人目のメイジの首根っこを、右手に2人目のメイジの腕を掴んだまま、変形する事無く高くジャンプし、
重力に引っ張られたまま屋上から通りへ自由落下した。
落下地点は、1人目のメイジを叩き付けた場所に程近い。落下時の衝撃と轟音と共に砂煙が巻き起こる。
砂煙はもうもうと立ち上っているが、今や戦いを交わす音は聞こえない。そして、辺りは静けさに包まれた。

「スタースクリーム!!」

自分の使い魔が、よもや2人のメイジを道連れに屋上から墜落する展開など予想だにしなかったルイズは叫んだ。
ルイズを始め、戦いを見守っていた人々はスタースクリームの安否を気づかい、息を呑む。

―沈黙の中、最初に聞こえたのは、機械音の足音だった。
ごとり、ごとりと、それまで魅せた俊敏な動きとはまた違う、鉄の重みを感じさせる音がゆっくりと地面に響く。
やや晴れた砂煙の中から、逆三角形のシルエットがぬぅっと現れる。
その瞬間、シルエットに向け人々から拍手喝采が送られた。
あれほど人間離れした不気味な姿形は、あの変身ガーゴイルに他無かったからだ。

スタースクリームの装甲は汚れてはいたものの、特に外傷らしいモノは見受けられず、
人々の歓声に包まれる中、何事も無かったかの様に、ホバリング飛行で優々とルイズの下へと帰還した。
が、彼の使い主様の口から発せられたのは、労いの言葉などでは無かった。



久しぶりにラプター形態を見た気がする……けど脳内ではF-15な昔のスタスクで再生されるんだよな支援



「無茶しすぎよスタースクリーム!! 壊れたらどーすんの!!」
『うん? いやぁ、ここでガトリングの弾薬やナルビームのエネルギーを消費するのも何だと思ってな』
「馬鹿! だからって、相手はメイジ3人だったのよ? 油断してたら…」
『はいはい、以後気を付けますからに。ったく、久方ぶりに褒められるかと期待してたんだがねぇ』

そう軽くいじけてみた所、ルイズの表情が途端に崩れ、顔を下に向けたのがスターの目に飛び込んできた。
これはつまり、彼女が今にも泣き出しかねないという事態に陥っている事を意味している。
今現在、周りには先程のスタースクリームの活躍に目を輝かせている人々が取り囲んでおり、
ここでルイズを泣かせてしまえば、周囲からの熱い視線が冷ややかなモノに変るのは目に見えていた。
これは店のイメージにも不味いと、頭を項垂れているルイズをなんとか宥めようとしたが、
ルイズは泣き出すことも喚き散らす事も無く、ただ1言ぽつりと呟いた。

「帰る」
『うん? なに? なんだって?』
「帰る」
『帰るか! よぉし待ってろ、今すぐトランスフォームして』

なんとか最悪の事態からは脱出できると、意気揚々とラプターに変形しようとしたスタースクリームだったが、
ルイズは頭を横に振った。

「ワルドのグリフォンに乗せてってもらう」
『え゛』
そう言うと、ルイズは魅惑の妖精亭の中へ入っていってしまった。
慌ててスタースクリームも店に戻ろうとしたが、その前にやっておかねばならぬ事を思い出す。
あのメイジ達の処理だ。

『そうだ、誰か縄を持ってきてくれ、連中を縛り付け…』
「おい、奴ら逃げたぞ!!」
『なにぃ!?』
慌てて通りの中央に振り向いたが、すでにメイジ達の姿は忽然と闇に消えていた。
命を奪う程ではなくとも、すぐには起き上がれない位には叩き潰したハズだが…。
スタースクリームは舌打ちにも聞こえる機械音を発し、直ちに追跡しようとしたが、1人の男がそれを制した。

「待て。深追いはしない方がいい」
冷静に言い放つのは、店内から顔を覗かせていたワルドであった。帽子とマントを装着している。
彼は口笛を鳴らし、何処からかで待機していたグリフォンを呼び出した。

「連中が何処の過激派だかは知らないが、関わり合いになるのは面倒だろう。…よっと。
 それに、あれだけ痛め付けてやれば、またそうそうでしゃばって来る事はあるまい。…よし、おいでルイズ。
 しかし君の戦いぶりには驚いたよ、スタースクリーム君」

なんだこの婚約者は、突然出てきてペラペラと…と、スタースクリームは指摘したかったが、
確かに、暗闇に消えたあの連中を闇雲に追跡するのも得策では無い。
しかし、にしても腹立たしいのは、それはグリフォンに跨りながらでの、上から目線な忠告だからである。
しかも何時の間にか、ルイズがワルドの前に抱かれる形でちょこんと跨っている。明らかに帰る気満々だ。

『結局お帰りになられやがりますかルイズ様』
ぷいと無視するルイズ。
ワルドはスターに苦笑を送ると、グリフォンの翼を羽ばたかせ、学院の方角へ飛翔して行った。

『あー、おきをつけてー』
と情け無い声で、何処からか取り出したハンカチをひらひらと振る航空参謀。
何か最後の最後にいい所をワルドに持っていかれた気がした彼は、
徐々に視界から消えゆくグリフォンをただ眺めながら、機械生命体らしかぬため息をつく。
その萎んだ背中には、どことなく哀愁が漂っていた。



「やっぱり戦いに関しては超一流ね、星君!」
そこに、事態の収拾とスターの武勇を聞きつけたキュルケが。

「あれ、ヴァリエールとあの殿方は?」
『その殿方と帰ったよ』
「まっ! 英雄を無視して何考えてんのかしらあいつ」
『お前とタバサはこれからどうするんだ?』
「それがねぇ、ここの屋上で待たせてたはずのタバサのシルフィードが行方不明なのよ。
 このままじゃ帰れないから、私達ここで1泊してくわね」
『あっそう、俺の出番は無しと』
「って事で星君、料金はお友達価格でお願いね!」
『うへっ』

その頃、魅惑の妖精亭店内では、キュルケ達が外に出ている隙に、
タバサが酔眠してしまった茶髪シルフィードのために寝室を1部屋借り、代金を前払いしていた。
キュルケ達からして見れば、見ず知らずの女性の部屋の代金を立て替えるなど妙なので、タイミングは今しか無い。
代金を受け取った店長であるスカロンが、寝息をたてるシルフィードを負んぶし、部屋へと送ってくれた。
宿場階への階段を上り、廊下を進んでいる際、スカロンに負んぶされたシルフィードが、寝言をぽつり。

「むにゅーん、すたぁすくりぃむさまぁ…」
「あらあら、スタスクちゃんにこんな可愛いファンが付くなんて、私の目に狂いは無かったようね。むほほほ」
スカロンは、彼女が店のリピーターになってくれる事を願ったが、それは暫く叶いそうに無いと思われる。
何故なら、恐らくシルフィードは、後でタバサから魅惑の妖精亭立ち入り禁止のお仕置きを喰らうであろうから。

その頃外では、何やら鎧を装備した十数名の介子達が、慌しくチクトンネ街を走り回っている。
ようやっと城から兵が駆け付けたらしい。

『ジェシカ。俺もう仕事アガって帰っていいか? 兵に事情を言わされるのも面倒なんだが』
すぐ其処で住民に聞き込みをしている兵士を見て、スタースクリームが言う。

「いいわよ、店長には伝えとく」
『悪いな』
「…ま、色々頑張んな、スタスクっ」
と、なんだか同情した表情で言いながら、ジェシカがスタースクリームの背中をぽんぽんと叩いた。
そりゃどうも、と軽く手を振ると、スターはとぼとぼとトリステイン学院へ帰っていった。
徒歩で。


トリステイン学院への帰路、ワルドに抱かれる形の状態で、グリフォンに跨ぎ空を飛んでいるルイズ。
2つの月の光も徐々に薄れ、東から僅かに光が大地を照らし始めている。夜明けだ。
高度で飛行している故、非常に肌寒く、ルイズは毛布に包まりながらぎゅっとワルドに寄り添う。

「君を送り届けたら僕はすぐに城へ向かう。仕事があるんでね」
毛布で顔を半分以上隠しているルイズは、不機嫌なのか或いは眠いのか、それに答えなかった。

「しかしルイズ。なんで彼ではなく僕に送ってもらう事にしたんだい? 彼は飛べるんだろう?」
「…だって、あいつ…自惚れてるんだもん。自惚れてる奴の背中になんか乗りたく無いもん。
 …でも、使い魔もロクに扱えないなんて、私もまだまだ…ね」
「いいやルイズ、そう卑屈にならずとも、彼の様な存在を召喚できただけでも、君は立派に成長したよ。
 君の使い魔はとても優秀だ。
 優秀な、ね」
そう、有難う…と言う言葉を最後に、ルイズは寝息を立て始め、ワルドの胸元で夢を見始めるのでった。




―数時間後。トリステイン王宮、執務室にて。

「魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド。アルビオンより帰還致しました、殿下」
「遠路ご苦労様です、子爵」

挨拶もそこそこに、現在も戦いを続けるアルビオン王族派の密偵として、
ワルドはトリステインの若き王女アンリエッタに、戦局に関し報告を述べた。

「アルビオン国内の戦況は尚も、王族派に貴族派両軍ともその場に駐屯し諜報戦が淡々と続いています。
 我等王族派はフネを殆ど押収され、残るは…」
「殆ど? やはり、ロイヤル・ソヴリン号も既に…」
「残念ながら」
アンリエッタは無言で項垂れた。
フネが接収されたのなら、王族派と敵貴族派との間に圧倒的な戦力差が生じてるのは手に取るように解る。
特にロイヤル・ソヴリン号は、数ある戦艦の中でも名立たる戦果と能力を持つフネであった。
だが貴族派はそんな強大な戦力を得たにも関わらず、未だ1艦のフネを執拗に奪い取ろうとしているのだ。

「また…ですか。またそこで出てくるのが‘トラファルガー’なのですか?」
アンリエッタのため息交じりでの問いに、ワルドはこくりと頷いた。

「ロイヤル・ソヴリン号も、トラファルガー号の身代りとなり敵に拿捕された、と言っても過言では無いかと」
「トラファルガー。名称でしか存じませんが…もうその名を聞くだけで滅入るようになってしまいました」
「心中、御察し致します」
「そのフネが、アルビオンの戦局を結果的に混戦状態にしているのでしょう? 
 何故、たかだか1艦のフネに…。トラファルガーとは? トラファルガーとは何なのですか!?」
「戦局を左右する何かを秘めたフネ、としか現段階では」

その後、しばしの沈黙が流れる。重い空気の中、先に口を開いたのは、アンリエッタの方であった。

「私とした事が。少々興奮が過ぎた様です。子爵、どうか御気に咎めず」
「まさか。私とて、一刻も早くトラファルガーの問題を解決したい次第。
 …報告は以上です」

アンリエッタの傍らに立つマザリーニ枢機卿が、ワルドの言葉を一言も漏らさず書類に書き留めた。
それをアンリエッタに手渡すと、マザリーニはワルドに話しかけた。

「してワルド君、今後の動きについては?」
「それについては特に重要な故、失礼ながら枢機卿方にも退室を願いたいのですが」
「ふむ。已むを得ませんな」

2人のやり取りを見たアンリエッタは手をかざす。
それを合図に、マザリーニと数名の兵士達は執務室を後にした。



「では子爵。枢機卿を払ってまでの重要な事、とは」
「…恐らく、10日後‘スヴェルの夜’の翌朝に、ラ・ロシェールから出港するフネが、
 アルビオンへの最後の渡り鳥となります。アルビオンの港が反乱軍に占拠されるのも時間の問題なのです」
「躊躇している暇も無いのですね」
「決着の時も間近です。そこで、次の任務にはある人物と同行したいのです」
「それは?」
「陛下もよくご存知の、トリステインのヴァリエール家の三女」
その名を聞き、アンリエッタの目が大きく開かれた。

「ルイ……ミス・ヴァリエールと? 何故です」
「実は、ミス・ヴァリエール自身で無く、彼女の使い魔に、是が非でも任務に協力してもらいたいのです」
「唐突ですね。事が事です、理由をお聞かせ下さい」

ワルドは報告書を述べるが如く淡々と、ルイズの使い魔、スタースクリームを推称した。
昨夜の城下町での連続爆破事件を、その実行犯である3人のメイジの退治により解決した事。
またその戦闘能力は、飛べば風竜の如く、腕力はオーク並みかそれ以上…と向こう敵無しである事。

「昨晩の事件については報告がありましたわ。1体のガーゴイルが天下無双の如く犯人を圧倒したと。
 さすがに天下無双は言い過ぎではと思いましたが、
 現場に居合わせた貴方の話を聞くと、あながち的外れな表現でも無いようですね」
「知能も人間並みで状況判断にも優れており、今回の任務には打って付けだと判断したのです」
成る程、とアンリエッタは相槌を打ち、手元にあった今後の予定表に目に通した。

「私は後日トリステイン学院にて催される、使い魔品評会に出席する予定です。
 当然ミス・ヴァリエールも参加するでしょうし、
 そのスタースクリームとやらを直接目に入れるいい機会です。それに私個人…あ、いえ」
一瞬、口を濁らせたが、再びきりっとした態度で口を開く。

「なんにせよ、ミス・ヴァリエールに話を持ちかけるのはその時になりましょう。
 子爵、貴方も次に備え、それまでゆっくり休養なさってください」
「はっ。陛下の御心遣い、心より感謝いたします」
深く一礼し、ワルドが退室したのを見届けた後、
それまで王女として気を引き締めていたアンリエッタの表情はとても緩やかになった。

「ルイズ。幾年ぶりに…貴女に会えるのですね。嗚呼、ルイズ…」

使い魔品評会まで、後6日―

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