あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の王-01


「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ!神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!わが導きに、応えなさい!」

 例によって、例の如く呪文が唱えられた時、一同は息を飲んだ。それは、例によって、例の如く巻き起こった爆発が原因では無い。
 爆心地に一人の男が伏せている。突き倒された車椅子の車輪が、カラカラと虚しい音を立てる。

「ひ!し、死んでるぅっ!」

「ゼロのルイズが、通りすがりの怪我人を吹き飛ばした!」

「……とうとう死人が出たか!」

「殺っちまいやがった!……ゼロのルイズ!」

 豊満なウェストの少年マリコルヌを筆頭に、次々と悲鳴が上がる。貴族とは言え、若い彼等は死体にも、刃傷沙汰にも馴れていない。

「人聞きの悪い事を言わないで!」

 ルイズは真っ赤になって抗弁した。この男は死んでもいなければ、通りすがりでも無い。自分が召喚したのだ――――
 最後の一言を、寸前で飲み込む。人間が召喚されるなど聞いた事も無い。それは、あまり自慢出来る事とは思えなかった。その上、烏を思わせるボサボサの黒髪に、高貴さとは無縁の服装。

「ゼロのルイズが平民を召喚した!」

 嘲笑を想像して、ルイズは身を強張らせる。
 その想像と裏腹に、笑う者は一人も居なかった。生徒達は困惑の態で、何やら囁き合っている。
 一同の様子に、ルイズも漸く気付いた。倒れた車椅子だ。
 部品の大部分は金属で、ピカピカに磨き上げられている。見た事も無い、不思議な素材も散見する。車輪を覆う、複雑な文様を刻んだゴムは、どの様にして造られた物だろう。底面中央に位置する五つ目の車輪と、それを懸架するアームの両側に伸びる小さなブレードの意味は?
 車椅子に揺られる老貴族なら、何人か知っている。だが、眼前の品は、その精緻と洗練とで、記憶に残るそれらを玩具以下に変えてしまった。到底、平民の持ち物では無い。
 一方、別の点を気にしている者も居た。

「どう思う?」

「背が高い。背中が広い」

 友人の問いかけに、水色の髪をした幼女タバサは短く答えた。

「無駄が無い。部品同士の付き方がいい」

「部品、て……でも、そうよねえ」

 その肉体は、限られた糧と、日々の労働による研磨で最適化された職工の物では無い。豊富な栄養と、弛まぬ訓練の積み重ねによって作り上げられた騎士の物だ。
 一体、この男は何者だろう。

「さて、ミス・ヴァリエール。儀式を続けなさい」

 輝く額が、一同の困惑を断ち割った。

「え?……ミスタ・コルベール。この……人とですか?」

 ルイズは一瞬、呼び方に迷う。

「でも、人間の使い魔にするなんて、聞いたことがありません!」

「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない」

 ルイズは尚も躊躇した。相手の身分や立場が判然としないのに、どうして軽率な真似が出来る。

「ミス・ヴァリエール。彼が何者であれ、呼び出された以上、君の使い魔にならなければならない。
古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。
彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」

「でも、そんな……」

「早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね?何回も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」

 そうだ、そうだ!コルベールの言葉に同調して野次が飛ぶ。
 ルイズは仕方なく、気を失っている男を仰向けにした。体格に相応しく体重もそれなりで、小柄な少女は難儀した。
なかなか男前なのは救いだが、所詮は人間。ドラゴンや、グリフォン、マンティコア……せめてワシかフクロウが良かったのに。心の中で、儀式前の自分が愚痴を零す。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 服装を除けば、御立派なのに――――そんな事を考えながら、呪文を唱える。この時、ルイズは一見粗野な男の衣服が、その実、自身が身に着ける制服より、遙かに高価な物である事に気付かなかった。桃色の小さな頭が、ゆっくりと降りる。


 男が目を開いたのは、その時だった。正面から目が合った。ルイズは内心に生まれた躊躇をねじ伏せ、構わず行為を続ける。儀式儀式。接吻じゃない。照れてどうする。

「あれ――――?」

 思わず奇声が漏れる。目の前には、自身の膝と地面だけが在った。男の姿が無い。どうなっている。どこへ消えた。慌ててぐるりを見回す。

「なんや……ごっつ、ええ空やわ」

 予想に反する暢気な声は、予想に反する方向から聞こえて来た。

「どこや、ここ?」

 いつの間に――――なにより、どの様に移動したのだろう。男は数メイル先で空を見上げていた。仰向けのまま辺りを見回すと、思い出した様に、その目をルイズに向ける。

「あー、そやそや。嬢ちゃん。いきなりで驚いたけど、嬢ちゃんの気持ちはよーう、判った」

「へ?……」

何を言っている。何か、とんでも無い勘違いをされてはいないか。誤解を解こうと、口を開きかけた時、男はにやけた顔で、聞き捨てならない言葉を口走った。

「せやかて、ワイももうトシくって落ちついたさかい。毛も生えとらんガキにはボッキでけへんわ」

 刹那、ルイズの中で、決定的な何かが切れた。ブツンと、音を立てて。

「なんで知ってるっ!」

 あっ――――
 気付くと、叫んでいた。内心で声が漏れたのは、ほぼ同時だ。
 脳裏に父の言葉が浮かんだ。貴族の言葉は、神の言葉に等しい。決して取り消す事は出来ない。慎重に言葉を選びなさい――――
 顔から血の気が引いた。ルイズは今更ながらに、その言葉を噛み締めた。顔を上げると、あの鼻持ちならないツェルプストーが半ば呆れ、半ば同情する様な目を向けている。その隣の水色頭。無表情なのに、どこか勝ち誇った顔に見えたのは何故だろう。

「……ゼロだ」

「ゼロのルイズだ……」

「あんな所までゼロなのに……」

「そんな所までゼロなのか、“ゼロなルイズ”」

「ロリのルイズだろう。常識で考えて」

 引いた血が、五十二倍速で頭に登る。

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」

 ルイズは言葉にならない絶叫を上げた。



「貴方、怪我してない?どこか痛い所は?」

「チンチンが張って痛いっス」

 頭上から見下ろす乳――――もとい、少女に男は満面の笑みで答えた。

「なんや、ここは天国か?そっか、ワイは死んだんやな。せやないと、こないなキレーな天使が地上におるわけあらへん!」

 その言葉に赤毛の少女キュルケは失笑する。御世辞は言われ馴れているが、ここまで軽いノリは始めてだ。

「まあ、お上手。それだけ元気なら大丈夫ね」

「お~、元気も元気。股間はとってもアガリクス茸や」

 キュルケばかりでは無い。男が一言喋る度に、生徒達から笑いが漏れる。
 だが、例外も居る。例外と言うか、真逆だ。一言毎に頭の血管を膨れ上がらせていたルイズは、遂に爆発した。

「ミスタ・コルベールっ!!」

「は、はひっ?」

 その勢い気圧されたか、コルベールの声が裏返った。

「も う 一 回 ! 召 喚 を さ せ て 下 さ い ! 」

「そ、それは駄目だ。さっきも言っただろう。これは伝統なんだ」

「だからって、平民――――」

 いや――――キュルケの、よりによって、あのツェルプストーの眼下で、立ち上がろうともせず鼻の下を伸ばす男の顔に、ルイズは訂正する。

「 下 民 を使い魔にするなんて、聞いたこともありません!」

 こんな下品な男。考えるだけでもおぞましい。

「だから、平民だろうが、奴隷だろうが、彼が何者であれ、呼び出された以上、君の使い魔にならなければならない。これは――――」

「こら、ハゲ!勝手なこと抜かすな」

 意外な相手からの意外な言葉に、コルベールは血相を変えて振り向いた。


 二人が言い合っている間の出来事だ。タバサはその軽さに驚きを覚えながら、車椅子を起こす。そして、キュルケと、少女達の働きに使命感を刺激されたフェミニズムの権化、見るからにキザな少年ギーシュの二人が、男を車椅子に座らせた。
 男は二人に礼を述べ、最後にタバサが帽子を手渡すと、頭を撫でて水色の髪をグシャグシャにした。

「取り敢えず、誰が当事者でどっからがギャラリーかは判ったわ。一体、これは、どう言うつもりやねん?まず、そっから説明して貰おうかい」

 笑顔が一変したのは、三人の元を離れた時だ。品のないジョークを飛ばしながらも、男は冷静に周囲を観察していた。自分の身に何が起きたのかも、薄々とだが理解しているらしい。

「ワイは今、むっちゃ虫の居所が悪いねん。言葉は慎重に選べや」

 言葉通り、声に苛立ちが滲む。コルベールは答えを返そうとして、その前に考えを変えた。交渉も契約の過程。目線でルイズを促す。ルイズは渋々、

「ここはトリステインよ。かの高名なトリステイン魔法学校。そして、あんたは私が使い魔として召喚したの」

「召喚?なんや、判らんけど、要するにワイを拉致ったんは嬢ちゃんか」

男の声から、怒りが抜け落ちた。完全に拍子抜けした様子だ。

「拉致じゃないわよ!召喚!神聖な儀式よ!」

「そないなんどっちでもええ」

 男は声を上げて笑い始めた。何がツボに入ったのか分からない。抱腹絶倒の狂態を、ルイズは唖然と見守った。
 一頻り笑うと、居住まいを正した。声には未だ、笑みが残っている。

「いや、大した物やでホンマ。どんな手品使うたか知らへんけど、このワイを、しかも二人の“王”が見とる前で拉致ってのけたんやからな」

 その言葉に、ルイズは凍り付いた。
 最近、二国の王が介する様な話は有っただろうか――――その考えは直ぐに消えた。召喚をこの男は、平然、拉致と言った。極めて無知か、さもなくば始祖ブリミルを信仰しない、異文明下の人間のどちらかだ。
 貴族が儀式と称する者を、犯罪行為に言い換えられる平民が居るものだろうか?
 これ程、下品な男が王の面前に出られるとは思えないから、法螺とも取れるが、それを言ったら、我等が学園長とて充分、アレでナニだ。
 王に直接的に仕え、二国の王が介する様な場所にも列席する人間を召喚してしまった。下手をすれば、外交問題になる。

「その話、本当?」

「嘘ついてどないすんねん」

「平民じゃないの?」

「そうでないと都合悪いんか?」

「そりゃ……もし、あんたが貴族や国家の重要人物なら、大問題だもの」

「なるほど、嬢ちゃんは貴族か」

「由緒正しい、古い家柄の、ヴァリエール家の三女よ」

「で、嬢ちゃんの親父は、おのれの領民かどわかされても、黙ってる様な男かい」

 その一言に、今度こそルイズは声を失った。


 考えが甘かった。平民なら大丈夫。そんな訳が無い。ならず者ならいざ知らず、人一人が突然消えたら、どんな村や教区でも騒動になるだろう。神聖な儀式。伝統。そう繰り返していたコルベールも、顔を曇らせる。

「で、要求はなんや?」

「え?」

「要求。ついカッとなってやった、とか言わへんやろ。今更、反省されてもこっちが困るわ」

 どうする。使い魔になれ。そう言って大丈夫なのか。ハルケギニアの知識層ならノーとは言わない。支配下の民を使い魔にしも、事後承諾は取れる。なんと言っても、始祖ブリミルからの伝統を持つ神聖な儀式だ。だが、この男は間違いなく異民族。
 決断まで、さしたる時間は必要無かった。メイジは使い魔召喚の儀式により属性を固定し、専門課程に進む。人間で属性が固定出来るかはともかく、ここで契約出来なければ留年だ。

「要求は一つ。私の使い魔になりなさい」

「使い魔?なんや、それ?」

「黙って契約に応じればいいの」

 男はルイズと、二人の様子を見守るコルベールの顔を、順繰りに見つめると、

「……まあ、契約言うんは、互いの同意が必要やで。話も細かくなるやろ。こないな所で、立ち話もなんやし、落ち着ける所に場所移さへんか?」

「言っておくけど、コントラクト・サーヴァントは……」

 法的な契約とは意味が違う――――そう続けようとした時だ。

「コントラクト・サーヴァントの魔法は、法的な契約とは違う」

 そう説明しようとしたルイズを、コルベールが留めた。

「今回の所は、ここまでにしておこう」

 時間が無い。既に次の授業時間に食い込んでいる。それに、見た所、この男は頭がキレる。納得させた上で契約に漕ぎ着けるのは、容易い事では無いだろう。

「じゃあ、私の……使い魔は?」

 進級は?そう言いかけて、ルイズは言葉を濁した。

「当面、保留だ。強引に契約をして、大きな問題に発展してもいけない」

 学園長の指示を仰ごう。コルベールはそう言った。これは、我々の手に余るかも知れない、と。
 散々、契約を強要した人間の言葉では無い。ルイズは不満に感じたが、反論もしなかった。この男と契約する。それは留年を恐れての答えで、決して自信を伴った物では無かった。

「さて、ミスター。貴方を我々の学園に招待したいと思います。お受け頂けますか?」

「否応も無いやろ。好きにせえ」

 その答えで、長いやりとりにケリがついた。

「あんた、偉そうね」

「そりゃそーや」

「貴族なの?」

「王様や。ま、元やけどな」

 ルイズは呆れた。もしや、とも思ったが、こいつはやはり平民だ。おまけにイカレている。

「名前は?王族なら、さぞ御立派な名前をお持ちなんでしょうね」

 思わず嫌味が漏れた。
 男は答えなかった。ただ、笑みを浮かべて空を見上げている。年に似合わない、無邪気な笑みだ。ルイズは苛立った。

「なに、ボケっとしてんのよ。名前は?」

「“空”や」

「え?」

「ワイの名前は“空”や。そう呼んだってや」

 男は空に向けていた笑顔を、そのままルイズに向ける。ルイズは慌てて、顔をそらした。何故そうしたかは自分でも判らなかった。



 ――――To be continued


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