「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!!
神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な使い魔よ!!
私は心より求め、訴えるわ! わが導きに応え、ここに現れなさああああい!!」
神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な使い魔よ!!
私は心より求め、訴えるわ! わが導きに応え、ここに現れなさああああい!!」
(ドガーーーーーーーーーン ズズズズン ビリビリビリ)
ルイズの召喚失敗による爆発は、もはや何十回目であろうか。
日も傾き、他の生徒たちの使い魔召喚はとっくに終わっていた。
日も傾き、他の生徒たちの使い魔召喚はとっくに終わっていた。
「ミス・ヴァリエール、日没まで猶予を与えましょう。それでダメなら、残念ながら…」
教師のコルベールがリミットを定めた。生徒たちは使い魔を愛でたり、飽きて居眠りをし始めたりしている。
これでダメなら、彼女の進級は認められない。留年である。
教師のコルベールがリミットを定めた。生徒たちは使い魔を愛でたり、飽きて居眠りをし始めたりしている。
これでダメなら、彼女の進級は認められない。留年である。
「留年なんて絶対イヤ! お願い、早く出てきて! げほっ、はい早くホラ!
ホラ早く、大丈夫、ね、いいから、ちょっとでいいから、ホント、ね、お願いします」
目に涙を浮かべたルイズの思考は、もはやハマーのそれであった。フライング土下座も出来そうなくらいに。
ホラ早く、大丈夫、ね、いいから、ちょっとでいいから、ホント、ね、お願いします」
目に涙を浮かべたルイズの思考は、もはやハマーのそれであった。フライング土下座も出来そうなくらいに。
簡潔に言おう。彼女の望みは叶えられた。神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な者が召喚されたのだ。
いきなり、すうっと空が暗くなった。
(ラーーーーーーー ラーーーーーーーーー)
「歌声……!?」
どこからか多数の人間の歌声が響き、天から芳しい花弁と羽毛が降り注ぐ。
そして次の瞬間、一同は驚愕した!
(ラーーーーーーー ラーーーーーーーーー)
「歌声……!?」
どこからか多数の人間の歌声が響き、天から芳しい花弁と羽毛が降り注ぐ。
そして次の瞬間、一同は驚愕した!
地面から、踊り子風の衣装をしたケバい化粧の女たちが、整然と並んでせり上がって来た!
手にはリボンつきの丸い手楯を持ち、人形のように硬直したポーズを取っている。
手にはリボンつきの丸い手楯を持ち、人形のように硬直したポーズを取っている。
(ゴウン ゴウン ゴウン ゴウン バアアアアン)
しかも彼女たちは劇場のセットのような『ひな壇』の上に列を作り、その中央上方を指している。
ニュッとひな壇の一番上に台がせり出し、どこからともなくスポットライトが当たる。
その強い光は、宙空に怪しいシルエットを浮かび上がらせた!!
ニュッとひな壇の一番上に台がせり出し、どこからともなくスポットライトが当たる。
その強い光は、宙空に怪しいシルエットを浮かび上がらせた!!
「だっ……誰!! 何者なの!!?」
そのシルエットは、手を広げてポーズを取った長身の男のようだ。
肩のところに二本、線のような影も見える。…吊り下げられている? どこから?
そして影はキュルキュルと台の上に降り立った…。
肩のところに二本、線のような影も見える。…吊り下げられている? どこから?
そして影はキュルキュルと台の上に降り立った…。
(ドンデンドンデンドンデンドンデン ドン ジャッジャカジャーーン)
ドラムロールが流れ、男の顔にライトが当たる。
「「「き、貴族……!!?」」」
そう、彼こそは、まさに真の貴族。
金髪碧眼の甘いマスクに、凛々しい眉毛と長い睫毛。長身で整った美しい体型。
マントのような上着には大きなボタンと飾り紐が付けられ、体にフィットしたエレガントな衣服と靴。
腰のベルトには乗馬用の鞭が吊るされている。メイジの杖だろうか?
「「「き、貴族……!!?」」」
そう、彼こそは、まさに真の貴族。
金髪碧眼の甘いマスクに、凛々しい眉毛と長い睫毛。長身で整った美しい体型。
マントのような上着には大きなボタンと飾り紐が付けられ、体にフィットしたエレガントな衣服と靴。
腰のベルトには乗馬用の鞭が吊るされている。メイジの杖だろうか?
「いかにも!! 諸君はじめまして、僕の名は麗しき貴族・『趙公明』!!
バラの運命(さだめ)に生まれた気高き騎士(ナイト)さっ!!(ヴァヴァアアアン)」
バラの運命(さだめ)に生まれた気高き騎士(ナイト)さっ!!(ヴァヴァアアアン)」
男は背後から何本もの山百合を伸ばして咲かせ、花びらを散らせながら名乗った。BGM付きで。
「き…貴族だ!」「ゼロのルイズが貴族を召喚したぞ!」「どこの国の人だ!?」
「き…貴族だ!」「ゼロのルイズが貴族を召喚したぞ!」「どこの国の人だ!?」
「う……嘘…」
確かに、彼はどこから見ても完璧に貴族だった。むしろ王族かも知れない。
だとしたら、えらい事である。外交問題に発展するかも知れないのだ。
彼の放つ強い魔力は、かなり遠くからでも分かるほどである。高位のメイジでもあるのだろう。
『チョウ・コウメイ』と名乗る貴族は、唖然とするルイズに台の上から優雅に会釈した。
確かに、彼はどこから見ても完璧に貴族だった。むしろ王族かも知れない。
だとしたら、えらい事である。外交問題に発展するかも知れないのだ。
彼の放つ強い魔力は、かなり遠くからでも分かるほどである。高位のメイジでもあるのだろう。
『チョウ・コウメイ』と名乗る貴族は、唖然とするルイズに台の上から優雅に会釈した。
「やあ、美しく可愛らしいマドモワゼル! 僕を退屈な『神界』から召喚して、解放してくれたのはキミだね?
神となったこの僕を呼び出すなんて、なかなか素敵な力をお持ちのようだが」
「……し、し、『神界』?! いま『神』と仰いましたか?」
神となったこの僕を呼び出すなんて、なかなか素敵な力をお持ちのようだが」
「……し、し、『神界』?! いま『神』と仰いましたか?」
貴族であり、神様だとは、この優男は何者なのか?
コルベールを含め、全員が眠気も吹っ飛び、あっけに取られている。
彼はひな壇から歩み降り、こちらに近づいてくる…。
コルベールを含め、全員が眠気も吹っ飛び、あっけに取られている。
彼はひな壇から歩み降り、こちらに近づいてくる…。
「その通り! 僕は数千年前、華麗なる戦いに敗れ、魂魄を封印されて『神』となった存在……
いろいろと改装してはいるが、『神界』も新たな『仙人界』も、華麗なる戦いがなくて飽き飽きしていたところさ。
お呼び出しいただき、光栄の至り。感謝するよマドモワゼル。
…それで、今日はいったいこの僕になんの用事だい? ええと、お名前は…」
いろいろと改装してはいるが、『神界』も新たな『仙人界』も、華麗なる戦いがなくて飽き飽きしていたところさ。
お呼び出しいただき、光栄の至り。感謝するよマドモワゼル。
…それで、今日はいったいこの僕になんの用事だい? ええと、お名前は…」
「る、ルイズ! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです! チョウ・コウメイさま!」
思わず敬称をつける。呼び捨てにするわけにもいくまい。
「おお、素敵なお名前だ! 有難う、ミス・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!(ヴァアアン)」
思わず敬称をつける。呼び捨てにするわけにもいくまい。
「おお、素敵なお名前だ! 有難う、ミス・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!(ヴァアアン)」
「…あ、あの、貴方を召喚いたしましたのは…その…」
確かに『神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な』存在なのだが、使い魔とするには流石に手に余る。
まだ呆然としているコルベールの方を向き、間接的に説明を頼むことにした。
「…あ、は、はい、ミス・ヴァリエール。まさか貴女がこんな…その、凄い方を召喚するとは…」
確かに『神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な』存在なのだが、使い魔とするには流石に手に余る。
まだ呆然としているコルベールの方を向き、間接的に説明を頼むことにした。
「…あ、は、はい、ミス・ヴァリエール。まさか貴女がこんな…その、凄い方を召喚するとは…」
「さあ、用事を言ってご覧? 不老不死かな? 力かな? それとも富や権勢? 世界征服?
華麗な戦いがお望みなら、すぐにも受けて立とうじゃないか!(くるくる びっ)」
華麗な戦いがお望みなら、すぐにも受けて立とうじゃないか!(くるくる びっ)」
華麗なステップで踊るように近寄る男の前に、意を決してコルベールが歩み寄る。
「…あああの、ミスタ…とお呼びしてよろしいのですかな? チョウ・コウメイさま。
私どもは、その、メイジでして、つつつつ使い魔召喚の儀式を行っている最中に、彼女が」
「『使い魔』!? この高貴なる僕が!?(くわっ)」
「「ひぃいっ!!」」
ほら、やっぱり怒った。神様を使い魔だなんて、無礼というか冒涜にも程がある。
「…あああの、ミスタ…とお呼びしてよろしいのですかな? チョウ・コウメイさま。
私どもは、その、メイジでして、つつつつ使い魔召喚の儀式を行っている最中に、彼女が」
「『使い魔』!? この高貴なる僕が!?(くわっ)」
「「ひぃいっ!!」」
ほら、やっぱり怒った。神様を使い魔だなんて、無礼というか冒涜にも程がある。
「気分を害した。僕は帰るよ。…おや? 空間移動は出来るが、次元の壁があるようだね…。
…で、帰る方法はあるのだろうね? そこの頭髪の寂しいキミ!(ビシッ)」
趙公明は柳眉を逆立て、杖(鞭)を抜いてコルベールを指す。全員その剣幕に震え上がる。
「…い、いえ、あの、まだ送還については、よく分かっておりませんでして、はい」
…で、帰る方法はあるのだろうね? そこの頭髪の寂しいキミ!(ビシッ)」
趙公明は柳眉を逆立て、杖(鞭)を抜いてコルベールを指す。全員その剣幕に震え上がる。
「…い、いえ、あの、まだ送還については、よく分かっておりませんでして、はい」
コルベールもルイズも、覚悟を決めた。きっと彼の言う『華麗なる戦い』とやらで、皆殺されてしまうのだ。
無意味にバラの花に埋もれたり、涙を零しながらスローモーションで芝居がかった動きをしたりして。
無意味にバラの花に埋もれたり、涙を零しながらスローモーションで芝居がかった動きをしたりして。
「………ふむ。まあ、この『月が二つある』世界に興味も湧いて来たよ。
ないのなら見つけることが先決だね。華麗な戦いも出来そうだし……」
ないのなら見つけることが先決だね。華麗な戦いも出来そうだし……」
どうやら風向きが変わった。夕空に浮かぶ双月に、趙公明がふと目を留めたのだ。
ちなみに踊り子やひな壇は、いつの間にか消えていた。
ちなみに踊り子やひな壇は、いつの間にか消えていた。
「よかろう、『使い魔になれ』という願いを叶えよう。ただし、僕はキミの下僕ではない。
キミを下僕にもしないが、協力者として活動してもらうよ。ミス・ヴァリエール」
「は、はあ…それで、あの、契約というものが」
「契約? まだ何か必要なのかい?」
「『コントラクト・サーヴァント』と申しまして、ち、誓いの接吻が必要なのです」
キミを下僕にもしないが、協力者として活動してもらうよ。ミス・ヴァリエール」
「は、はあ…それで、あの、契約というものが」
「契約? まだ何か必要なのかい?」
「『コントラクト・サーヴァント』と申しまして、ち、誓いの接吻が必要なのです」
機嫌のいいうちに、こちらに従わせてしまおう。ルイズは少し欲を出した。
「接吻…ミス・ヴァリエールのかい? ははは、実に光栄だね。しかし今の僕は実体がない魂魄体(霊体)。
残念だが、唇も触れられるかどうか…(くるくる)」
残念だが、唇も触れられるかどうか…(くるくる)」
なるほど、少し彼の体は透けている。とはいっても霊体なら、魔力を込めた接吻ならば触れる事は可能かもしれない。
少々くどい顔だが、美青年には違いなかろう。ファーストキスの相手にしても、貴族や神様なのだから敬意の範囲内だろう。
少々くどい顔だが、美青年には違いなかろう。ファーストキスの相手にしても、貴族や神様なのだから敬意の範囲内だろう。
……ひょっとしてギーシュあたりのご先祖様だったらどうしよう、とか考えてしまったが。
「で、ではミスタ、少し屈んで下さいませ。
……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
ルイズの唇は趙公明の唇に触れ、契約は一発で成功した。
シュウシュウという音とともに趙公明は『受肉』し、魂魄体は再び肉体の衣を纏う。
そしてその左手には、謎のルーンが刻まれていた…。
「おお…何千年ぶりの肉体は、少し重く感じるね……そして甘美な痛みと共に刻まれた、この左手の文字は何なのかな?」
「私にはなんとも…でも、珍しいルーンですな。スケッチしてお調べいたします」
シュウシュウという音とともに趙公明は『受肉』し、魂魄体は再び肉体の衣を纏う。
そしてその左手には、謎のルーンが刻まれていた…。
「おお…何千年ぶりの肉体は、少し重く感じるね……そして甘美な痛みと共に刻まれた、この左手の文字は何なのかな?」
「私にはなんとも…でも、珍しいルーンですな。スケッチしてお調べいたします」
召喚と契約は成功した。ルイズは進級を認められ、強大な使い魔を得たのだ!
達成感で誇らしい気分になり、ない胸を反らせて深呼吸する。
達成感で誇らしい気分になり、ない胸を反らせて深呼吸する。
「では皆さん、使い魔召喚の儀式は全員無事終了いたしました! おめでとう! さあ、早く学院に帰りますぞ」
そうコルベールが言うと、皆は『フライ』の魔法で飛び上がった。
「おお、これが魔法か。…おや? ミス・ヴァリエールはどうしたのだね?」
「…ミスタ・チョウ・コウメイ、私はまだ飛べないのです…」
進級はしたが、やはり魔法はまともに使えない。ルイズの誇らしい気分がひゅーっと抜けていく。
そうコルベールが言うと、皆は『フライ』の魔法で飛び上がった。
「おお、これが魔法か。…おや? ミス・ヴァリエールはどうしたのだね?」
「…ミスタ・チョウ・コウメイ、私はまだ飛べないのです…」
進級はしたが、やはり魔法はまともに使えない。ルイズの誇らしい気分がひゅーっと抜けていく。
「ほう、ではこの僕が『御主人様』をお運びしよう。さ、つかまりたまえ」
趙公明はニッと笑うと、ルイズを姫抱きにしてジャンプする。そしてそのまま、風に乗るように飛翔した。
「ははははは、心地よい風だねミス・ヴァリエール!! さあ、彼らを追い抜いていくよ!」
趙公明はニッと笑うと、ルイズを姫抱きにしてジャンプする。そしてそのまま、風に乗るように飛翔した。
「ははははは、心地よい風だねミス・ヴァリエール!! さあ、彼らを追い抜いていくよ!」
ルイズの胸に、再び誇りが甦る。なにしろこの使い魔は、『神様』なのだ!
何千歳という事は、まさか始祖ブリミルの関係者なのだろうか?
何千歳という事は、まさか始祖ブリミルの関係者なのだろうか?
(始祖ブリミルよ、感謝いたします。こんな素敵な方に会わせて下さって…)
(つづく)