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マジシャン ザ ルイズ 3章 (17)

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マジシャン ザ ルイズ (17)船酔い

戦火の奏でる狂想曲。
打ち砕かれ、制御を失った船体が天から地へと叩きつけられる音が響く。

一瞬で勝敗が決した、戦場というよりも処刑場という形容こそが相応しい空域。
そこからしばしの距離を離した位置に、竜騎兵達の一団が控えていた。
「ふむ、参ったな」
月光の中を飛翔する屍竜達、その中でも一際大きな体躯を持つ一匹の背にある男が低く唸る。
照らし出された男は歳の頃は四十ほど。肉体は戦場で鍛え上げられた最上質の筋肉で覆われ、腰には時に鈍器としても使われる鉄塊の杖が下げられおり、左目は眼帯で覆われている。
男の名は白炎メンヌヴィル、生ける伝説とも呼ばれるメイジの傭兵である。
そして今の彼は、アルビオン屍竜騎士団団長として戦場に身をおいている身でもある。
「あのような埒外なフネ相手に、この程度の手勢で仕掛けるのは自殺行為か…」
戦場の高揚に脈動する心臓を押さえつけ、その頭脳は冷徹に戦況を分析する。
人を燃やす炎に暖かさを奪われた男、最も熱い炎を冷たく操る男、それがメンヌヴィルという男を最も的確に言い当てた言葉である。
そのメンヌヴィルの目から見て、今のウェザーライトⅡは己が力単独で燃やし尽くすことができるほど脆弱なフネではないように思えた。
「仕方が無い。竜殿のお手並みを拝見するとしよう」
男は好機を待つ。
炎の欲望に焦燥を感じながら、静かに待つ。


「……うぇっぷ」
ウェザーライトⅡの艦橋、そこで最初に音を上げたのはモンモランシーであった。
口元を押さえるモンモランシー、その顔面は蒼白である。
船による三次元的な接近戦を考慮して作られた飛翔艦ウェザーライトⅡ。
この船は慣性を中和することで艦内の人間が挽肉になることは避けられるよう設計されていたが、ブリッジからその光景を見た人間が酔うことまでは考えられていなかった。
この為に乗組員は多かれ少なかれは視界酔いを感じていたのだが、それを最初に口にしたのがモンモランシーだったというわけである。
「ごめん、ちょっとおトイレ……」
モンモランシーのか細い声に、ウルザが無言で後部にある扉を杖で指し示す。
「………」
必死の形相で席から立ち上がり、ふらつきながらトイレを目指すモンモランシー。
慌てて駆け寄り、手を貸そうとしたギーシュが無言のままに片手で追い払われる。
飛び掛る寸前の猛禽類と同じ目つきをしたモンモランシー、これを目にしたギーシュは震え上がってしまい、席に戻る他なかった。
乙女心とは複雑怪奇なものである。

ブリッジの中、モンモランシーの次に青い顔をしていたのはコルベールである。
だが、その心境は他の者とは大きく異なっていた。
彼の心に押し寄せていたものは……後悔の炎。
(…これでは…これではまるで、虐殺ではないか)
両手で顔を多い、恐怖に身を震わせる。
血に塗れた手、その手を再び罪に染めてしまう日が来てしまった。
己の手によって作り出された兵器が人を傷つけてしまったという、眼前の事実。
あの船の中にはどれだけの人が乗っていて、その家族達は何人いたのだろうか。自らの行いで、どれくらいの人が涙を流すのだろうか。

彼の脳裏に、自分の手で焼き払った村の光景がフラッシュバックする。
燃え盛る炎の気配、人と建物が焼ける臭い、子供が泣き叫ぶ声……
彼の心に蟠る黒い闇が、幻覚というにはあまりにリアルなビジョンを見せる。
ここが戦場であると分かっていても止められない。
罪の意識がコルベールの心を焼き尽くそうと燃え広がっていく。
精神は絶望に覆われ、体の震えが止まらない。

「いいや、違うなミスタ・コルベール」

がたがたと震えるコルベールに、諭すような声色でウルザが話しかける。
「あの船の中には一人として生者は乗っていなかった。君はまだ、誓いを破ってはいない」
ウルザが杖で足元を叩くと、埋め込まれた球体に映像が映し出された。
遠見の映像である。
コルベールが強張った顔を上げると、そこには見たことも聞いたことも無い、おぞましい者達の姿があった。
映し出されたのは墜落した船の残骸周辺の様子。
そして、闇の中で蠢く、異形の人影達。
彼らは撃墜されたフネの乗組員達であった。
いや、元乗組員とでも呼ぶべきであろうか。

あるものは腐敗が進み蛆がたかり、あるものは首が無く、またあるものは全身を炭化させていた。
アルビオン空軍の格好をしているものもいれば、ゲルマニア帝国軍の制服の着ているものもいる、傭兵らしき鎧を着た者の姿もある。
彼らの共通点、誰もが一目見てで分かる共通点。
彼らの中に生きている者など一人としていない、それは死者達の群れであった。

誰かが問うに先じて、ウルザが答える。
「これはゾンビと呼ばれる、魔法によって仮初の命を与えられた亡者達。哀れなる被害者にして邪悪の手駒だ」


ウルザの気遣いにより、コルベール己の中の闇との決定的な対峙を避けることが出来た。
しかしコルベールとて、いつかこの船が人を殺す日が来るだろうことは分かっている。
いつか、答えは出さねばならない。そして、その日はきっと遠くないだろう。


「あれは、この世界にとっても滅ぼさねばらならぬ存在だ。この世界が……この世界がブリミルが作り上げた理想の世界なのだとしたら、あれは排除されねばならぬ」
ウルザの普段と変わらぬ冷静な立ち振る舞い、普段より一層無機質な声色。
ルイズはその中に滲む憤怒と憎悪を感じ取った。
それはウルザの深層意識にまで入り込んだ、ルイズだからこそ分かった小さな差異であった。
「ねぇ、ミスタ・ウルザ。あなた、もしかして………」
怒っているの? そう聞こうとしたルイズをウルザが遮る。
「次の客がみえたようだ、もてなしをするとしよう」



飛翔艦ウェザーライトⅡに迫る二つの影。
先ほどまで学院を攻撃していたもので間違いはない。

それは全体を赤と青でカラーリングされた、五十メールほどもある巨大な何かであった。
真鍮製の三角形をした頭部、長い首に巨大な体、力強く風を打つ飛膜の翼、細い腕の先端には鋭く尖った鋼鉄の鉤爪。
瞳は青い輝きを灯し、関節部からは蒸気が噴き出している。
そう、その姿はドラゴンのそれでありながら、鋼鉄の肉体を持っていたのである。
二匹はそれぞれ左右に別れ、弧を描くようにウェザーライトⅡに接近すると、炎のブレスをクロスさせるように吐き出した。
ウェザーライトはこれをロールをうちつつ垂直上昇するという、曲芸飛行で見事回避を成功させた。

「……あーん?相棒、なんだありゃ?なーんか、見覚えがある気もするんだけどよ」
それまでウルザの背中に背負われたまま、沈黙を貫いていたデルフリンガーが主に話しかける。
「あれは……」

ウルザの脳裏に閃くのは、かつてクルーグの街を滅ぼした巨獣、そしてナインタイタンズに襲い掛かった恐るべきファイレクシアの刺客。
それはファイレクシアの戦闘機械生物ドラゴン・エンジンであった。
赤と青にカラーリングされているが、相当に古い時代年式のドラゴン・エンジンに酷似していた。
「あれはドラゴン・エンジン機械生物。ここではない別の世界で生み出された機械の体に、人ならざる技にて生命を与えたものだ」


「では、あれがミスタ・ウルザが仰っていたファイレクシアの戦争機械なのですか?」
ウルザはコルベールの問いを、攻撃をするすると回避させながら答えた。
「その通りだミスタ・コルベール。あれこそがこの世全ての悪なるファイレクシアの手先だ」
言いながらもウルザは巧みな飛行操作を繰り返し、繰り返される攻撃を難なく避け続ける。
「空間転移に死者蘇生、それにドラゴン・エンジン!これだけ証拠が出揃えれば推測は確信の域に達する。ハルケギニアにかの世界からの尖兵が紛れ込んだことは間違いないようだ!」
ウルザが裂帛の気合とともに、杖を振り下ろす。

それまで様子見の為に防御に徹していた飛翔艦が、一転して攻勢の構えに移る。
ドラゴン・エンジンの尾による攻撃を横滑りに回避しながら、勢いそのまま船首だけを回頭させる。
船の先には『反射』による力場、逆袈裟に斬り上げる一刀。
羽打ち制動をかけることでこれを紙一重で避けるドラゴン・エンジン。
斬り上げを避けられたウェザーライトⅡは、その頂点に至る瞬間、すっぽ抜けたかのように上空へと駆け上がる。
昇る際に、ウルザは力場を使い、周囲の空気を素早く攪拌させる。
突然巻き起こる風圧。このために風を掴みそこね、空中に立ち往生する機械竜。
目論見通りに動きを止めたドラゴン・エンジンの頭上、縦に薙ぐ形でウェザーライトⅡがその光条を払う。
頭上から迫る自らを真っ二つにせんとする危機、これに対して生命の危機を感じたドラゴン・エンジンが全力で回避運動を行う。

飛膜翼はその構造上、前後の移動を得意とする反面、昆虫の翅のような横への移動を苦手としている。
縦の一撃を前後の移動で避けることは難しい、滑空も間に合わないであろう。
正に王手、これが単なるドラゴン・エンジンであれば、確実に仕留められていただろう。
ファイレクシアの戦争兵器と、異世界の知識との融合で生まれた「イゼット・エンジン」。
彼の導き出した解答は、体勢を制御しながらの背面右ブースターの全力噴射であった。

背後のフレアを片方だけ灯しながら不恰好に飛行するイゼット・エンジン。
上空からの切り払いが不発に終わったウェザーライトⅡ。
両者距離を離しての仕切りなおしとなった。

奇想天外な動きを繰り返す未知の飛行船に対して、イゼット・エンジンは強い警戒心を抱いていた。
彼が目覚めてからの短い時間を含め、その生涯の中で、このような動きをする飛行物体を彼は知らなかった。
もしも彼が作られた機械生物でなければ、今感じているものがどのようなものであるかを知ることができたかも知れない。
それは――恐怖。
動揺がしこりとして残され、彼はウェザーライトが奇妙な動きを始めた時も、動くことができなかった。

ウェザーライトⅡはそれまで前方に集中させていた力場を、前後に分割して発生させた。
前後に光壁を集中させ、その間に挟まれるようにして小刻みに震え始める飛翔艦。

敵は今、目の前で何かの準備をしている。
彼の心に戦うことを躊躇わせる何かが生まれかけるが、ファイレクシアの戦闘機械としての本能がそれを許さない。
そして何より、勝機はまだ残されている。
敵艦の後方上空、そこには高速で滑空しながら奇襲を仕掛けようとする同胞の姿。
苛烈なる闘争本能によって導き出される結論は唯一つ、前後からの挟撃作戦あるのみ。


「轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟ッーーー!!!」


周囲何リーグにも響き渡るような大音量の咆哮を一声上げると、イゼット・エンジンは目の前の敵を粉砕すべく突進を開始した。


天高くからウェザーライトⅡを見下ろす竜。
彼もまたファイレクシアの戦争機械と異世界の英知との融合によって産み落とされたイゼット・エンジンであった。
暗黒次元製の闘争本能が、イゼット・コアから大量のエネルギーをくみ上げる。
そして十分に力が満ちたことを確認すると、彼は主人の命を果たすべく、風をきりながら滑空を開始する。
夜陰に紛れ、上空からの奇襲攻撃。
イゼット・エンジンが背面のバーニアを全力で焚く、フレアが赤から青、やがて白へと変化する。
みるみるうちに飛翔艦との距離が狭まり、今やその距離はブレスの攻撃範囲となった。
全てを焼き尽くす灼熱の息吹、その必中の範囲に至っても船に目だった動きを見せない。
その前方には咆哮をあげながら、注意を逸らすべく正面から突進する同胞の姿。

前後からの挟み撃ち。
絶好の位置についた両機が顎を開き、これまでで最大の爆炎を吐き出した。
勝利を確信するイゼット・エンジン達。
だが、

破壊の火が到達する直前に、 ウェザーライトⅡが奔った。


前後に配置された『反射』の力場。
その中で挟まれるようにしながら、『移動する力』のベクトル変更を繰り返す。
そうして、本来船を動かすはずだった力は行き場を失い、暴走を始める。
力が暴発する瞬間に力場は形状を変化させ、艦を包み込む筒へと変化する。
その筒の中を、ウェザーライトⅡが奔る。
速く、速く、速く!

あるいはそれは、神河世界の武士であったならば「居合い」と呼んでいたかもしれない。


自らを砲弾と化したウェザーライトⅡは前方のイゼット・エンジンを轢き潰し、これを木っ端微塵に破壊した。

何のトラブルも無く設計どおりのスペックを引き出すウェザーライトⅡ。
十隻の戦艦を瞬時に葬った性能、そしてドラゴン・エンジンを一機撃墜した戦果。
そしてこれら敵の背後に感じられる、ファイレクシアの影。
こうした興奮がウルザを侵し、多少なりとも冷静な判断を失わせていたのは事実であった。
彼がこのことに気付き、今一度注意深さを取り戻していたならば、この先の展開は違ったものになったかもしれない。

「残るは一機!」


同胞を失い、怒り狂うイゼット・エンジンが周囲に炎のブレスを撒き散らしながら、猛然と突進してくる。
既にその目に理性の光などは無い、ただ只管に戦闘本能に駆り立てられた飛翔。
両者が交わる寸前、ウェザーライトⅡが翻り、その先端の白刃が機械竜の前面を切り裂いた。
イゼット・エンジンの体に、斜めの線が走り、そこから噴出すようにして火が溢れる。
噴水のような火花を一瞬放つと、それは内部から大爆発を引き起こし、自らの炎に飲み込まれた。


この時、初めて艦橋内部を激しい揺れが襲った。
「どうしましたミスタ・ウルザ!設計上はこの程度の爆発で衝撃を受けることなど無いはずでは!?」
揺れるブリッジ内、床から生えた立方体の一つに寄りかかりながらコルベールが叫ぶ。
ウルザはこれに、驚愕の声色を持って答える。
「違う、これは……まさか、敵に取り付かれているのか!?」


二匹目のイゼット・エンジン。その内部に潜んでいたのは生きた竜、赤と青の鱗を持ち額にルーンを刻まれた竜であった。
エンジンが斬激によって両断されるや否や、彼は内部から爆発を引き起こし、それを目隠しにしてウェザーライトⅡへと飛び移ったのである。
よもや竜の中に竜が潜むなどという罠が仕掛けられていたなど予想していなかったウルザはこの接触を許してしまい、その結果、力場の死角となる船との密着する距離にまで接近を許してしまったのだ。
そして、竜が船倉に取り付いた衝撃こそが、先ほどの揺れなのであった。


「実に素晴らしいアーティファクトだ。脆弱なる人の身でこれほどのものを作り上げるなど、どれほどの修練を積んだのか。全くもって、壊してしまうのが惜しい船だ」
そう呟く竜。それはかつてアルビオンの地下空間においてドラゴン・エンジンに新たな息吹を吹き込んでいた、あの韻竜であった。
「どれ、解析を始めるとするか」
竜の額に刻み込まれたルーンが光を放つ。
ウェザーライトⅡの構造を分析してそのコントロールを奪おうと、虚無の使い魔ミョズニトニルンの力が発揮される。
船の中枢に、魔法の神経を伸ばそうとする竜。
だが、その伸ばした触手を、現在主導権を握っている者の力で振り払われる。
「……ふむ、やはりこれの制御を一瞬で奪うのは無理か。ならば仕方が無い」
主導権を奪うことを諦めた竜は、その大きな口を小刻みに動かし、呪文を唱える。
そうして完成した呪文が、ウェザーライトⅡの中枢へと絡み付いたことを確認すると、彼は羽を打ち鳴らして船との距離を取った。



船に取り付いた巨大な何かとの、制御権争いに勝利したウルザ。
しかし、その直後に彼の身を唐突な痙攣が襲った。
「こ、これは……フィードバック!?」
気付いた時には手遅れであった。

「お、おおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオッッ!!」

ウルザの体に自らの魔力が逆流して流し込まれる、それも初期起動時の余剰負荷程度とは比較にならない量である。
バチバチと火花を散らしながら、ウルザの肉体を魔力のとげが駆け巡る。
彼の強大な魔力の分だけ、強大な力がウェザーライトⅡからウルザに跳ね返り、流れ込み、彼を焼く。

ウルザは自身を襲った最悪の事態を察知し、最後の手立てを打つべく、痙攣に震える指先を目の前の球体に触れさせた。

「……手動、操作に、……切り、変え る」

ウルザは、そう小さく呟くと意識を失った。



フネが、堕ちる。

絶好の機会を窺っていた男が、その顔を歪め獰猛に牙を剥いた。
「竜殿はきっちりと仕事を果たしてくれたようだな。ならば俺も相応の働きを見せねばなるまい」
男の周りには屍竜の群れ、生者など一人もいない。
男は周囲の屍者達に向かい、号令の声を上げた。誰のためでもない、それが己の習慣であったからだ。
「誰であろうと、平等に焼き尽くせ!」
男の右手に刻まれたルーンが光を放つ。

危機を迎えるウェザーライトⅡに、もう一つの脅威、虚無の使い魔ヴィンダールヴの影が迫る。



                          「……本当に、酷い目にあったわ」
                              ―――モンモランシー


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