貴族派に取り囲まれたニューカッスルにて、結婚式を行おうともちかけたのはワルドである。
ルイズは即座に応じたのだが、こうして式を執り行おうとしたその時になると、突如として杖を振り、ワルドを吹き飛ばしてしまったのだ。
ルイズは即座に応じたのだが、こうして式を執り行おうとしたその時になると、突如として杖を振り、ワルドを吹き飛ばしてしまったのだ。
「わたしと本気で契りたいのならば、その杖は不要のはず!
目出度い婚約の儀に武器を持ち込むとは、ワルド、あなたはわたしと結婚するつもりなんてないのね?」
「ち……違う。僕は……決して、そんなことは」
「ルイズにはお見通しよ。さあ皇太子殿下。この不埒者はわたしが成敗いたします」
「ど、どういうことなのかね」
目出度い婚約の儀に武器を持ち込むとは、ワルド、あなたはわたしと結婚するつもりなんてないのね?」
「ち……違う。僕は……決して、そんなことは」
「ルイズにはお見通しよ。さあ皇太子殿下。この不埒者はわたしが成敗いたします」
「ど、どういうことなのかね」
ウェールズも困惑しているが、ルイズだけは並々ならぬ自信の炎を目に宿らせ、続けた。
「先日の夜わたし達を襲撃した白仮面の男、あの男とワルド、あなたはまったく同じ人物だったわ」
「か……顔は見えなかった。僕にはそんなことは……」
「顔などたった一要素に過ぎないわ。かたち、魔法の使い方、筋肉の流れ、におい……全てあなたと白仮面は同じ。
そしてあなたは風のメイジ! 遍在を使えることは間違いないなり!」
「な、なり……?」
「か……顔は見えなかった。僕にはそんなことは……」
「顔などたった一要素に過ぎないわ。かたち、魔法の使い方、筋肉の流れ、におい……全てあなたと白仮面は同じ。
そしてあなたは風のメイジ! 遍在を使えることは間違いないなり!」
「な、なり……?」
ワルドは身の震えを抑えながら、目の前のあの小さなルイズに問いかけた。
段々変貌しているような、そんな気のする相手だが……
段々変貌しているような、そんな気のする相手だが……
「ルイズ……昔の君はそうじゃなかった。一体何が君を変えてしまったんだ?」
「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」
「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」
叫んでルイズは杖を振り上げる。
「不退転戦鬼、ゼロのルイズ! 散さまになりかわり、無礼者ワルドに天誅を下すなり!」
「ハララ……あの使い魔か……」
「ゼロ式魔法防衛術! 爆破!」
「ハララ……あの使い魔か……」
「ゼロ式魔法防衛術! 爆破!」
なんのことはない、いつもの失敗魔法である。
しかしルイズの精神力がことのほか充実していたためか、ワルドを凄まじい威力が襲う。
しかしルイズの精神力がことのほか充実していたためか、ワルドを凄まじい威力が襲う。
「ぐおっ!? ルイズ、残念だよ、君を仕留めなければならないだなんて」
「戯言は不要! 爆破!」
「戯言は不要! 爆破!」
容赦の無い魔法であった。
流石にこれはたまらないと、ワルドはすぐさま詠唱を行う。
ルイズの爆発をかいくぐって、四体の遍在が姿を現した。
流石にこれはたまらないと、ワルドはすぐさま詠唱を行う。
ルイズの爆発をかいくぐって、四体の遍在が姿を現した。
「さて、僕の……っく」
「爆破!」
「爆破!」
本当に、無駄口を叩いている暇はなさそうだ。
それでも、この爆発。確かに威力も速度もなかなかのものだが、まだまだ戦闘のプロであるワルドには及ばない。
しかも遍在もいるのだから、ルイズの隙をついての魔法など容易いものだ。
それでも、この爆発。確かに威力も速度もなかなかのものだが、まだまだ戦闘のプロであるワルドには及ばない。
しかも遍在もいるのだから、ルイズの隙をついての魔法など容易いものだ。
(僕の小さなルイズ。君にはそんな杖を振っている姿など、似合わないよ……)
いくらかの愛惜を覚えながら、ワルドの、ルイズの死角にいる遍在が詠唱を終える。
ウィンド・ブレイクにて、ルイズを仕留めるのだ。
ウィンド・ブレイクにて、ルイズを仕留めるのだ。
「さようなら! ルイズ!」
「……うぬ!」
「……うぬ!」
死角からの痛打!
小さなルイズは、その猛烈な風の打撃にたちまち吹き飛ばされた。
礼拝堂の壁に叩きつけられ、ずるりと床に崩れ落ちる。
小さなルイズは、その猛烈な風の打撃にたちまち吹き飛ばされた。
礼拝堂の壁に叩きつけられ、ずるりと床に崩れ落ちる。
「使い魔は選ぶべきだったね、ルイズ。……では改めてウェールズ殿下。お命頂戴いたし……」
「爆破!」
「爆破!」
倒れたはずのルイズは、そのワルドの思惑を容易く打ち砕いた。
強烈な打撃により、骨のいくつかも砕けたはずである。
事実、ルイズの口元から血が零れ落ちている。しかしルイズはそれをものともせず立ち上がっているのだ。
強烈な打撃により、骨のいくつかも砕けたはずである。
事実、ルイズの口元から血が零れ落ちている。しかしルイズはそれをものともせず立ち上がっているのだ。
「ぐ……」
不意を衝かれたワルドだったが、今の爆発も致命の一撃には程遠い。
改めてルイズを見るに、最早ボロボロで戦えるようには見えなかった。
改めてルイズを見るに、最早ボロボロで戦えるようには見えなかった。
「やめておきたまえ。ルイズ、せっかく助かった命を散らすこともないだろう」
「戯言は不要と言ったはずよ! 爆破!」
「昔から……意固地になると君は聞かなかったね……!」
「戯言は不要と言ったはずよ! 爆破!」
「昔から……意固地になると君は聞かなかったね……!」
もう一度、ワルドとその遍在は詠唱を行う。
五方向からのウィンド・ブレイクである。一撃ですら容易に人の命を奪えるというのに、それが五つ重なったとなれば……
五方向からのウィンド・ブレイクである。一撃ですら容易に人の命を奪えるというのに、それが五つ重なったとなれば……
「今度こそ! さらばだ、ルイズ!」
「……! 爆破!」
「……! 爆破!」
ルイズを中心に巨大な爆発が起こった。
ウィンド・ブレイクを防ごうとして果たせなかったのだろうか。
風の魔法とこの爆発によって、今度こそルイズは砕け散った……そうワルドは思ったのだが。
ウィンド・ブレイクを防ごうとして果たせなかったのだろうか。
風の魔法とこの爆発によって、今度こそルイズは砕け散った……そうワルドは思ったのだが。
「ぬ……微温いわ、ワルド! それでもスクエアのつもりなの!?」
「ル……ルイズ。君は、そこまで……」
「ル……ルイズ。君は、そこまで……」
なんと。ルイズは、全身に傷を負い、滂沱の如く血を流しながらも、なおも立ち上がっていた。
鑑みるに、五方からのウィンド・ブレイクが自身に命中するその一瞬前、自らに爆発を放ったのであろう。
爆発によってウィンド・ブレイクの威力は相殺され、こうしてルイズは生き残ったのだ。
しかし体内に爆破を行ったのである。ルイズの内蔵も最早ズタズタのはずであった!
鑑みるに、五方からのウィンド・ブレイクが自身に命中するその一瞬前、自らに爆発を放ったのであろう。
爆発によってウィンド・ブレイクの威力は相殺され、こうしてルイズは生き残ったのだ。
しかし体内に爆破を行ったのである。ルイズの内蔵も最早ズタズタのはずであった!
「君は、君はそこまでして戦える人ではなかったはずだ! 何故だ! ルイズ、何故こんなにも!」
「全て散さまのお陰!」
「全て散さまのお陰!」
そう、ルイズは散に絶対の愛を捧げていた!
使い魔として召喚し口付けを受けた、あの散に!
散の言葉によってルイズは、ゼロの名をおぞましきものから栄光の名へと変えたのである!
使い魔として召喚し口付けを受けた、あの散に!
散の言葉によってルイズは、ゼロの名をおぞましきものから栄光の名へと変えたのである!
――ルイズよ! 零式とは最強の武術の名なり! ならばゼロのルイズとは!
――はい! ゼロのルイズとは最強の魔術師の名にございます!
――その通りだ!
――はい! ゼロのルイズとは最強の魔術師の名にございます!
――その通りだ!
「この身は既に散さまのものなれば、爆破しても死にいたるはずがなし!
ワルドごときの魔術恐れるに足りないわ!」
「そう……か。そこまであの使い魔に入れ込むとはね……」
ワルドごときの魔術恐れるに足りないわ!」
「そう……か。そこまであの使い魔に入れ込むとはね……」
気力のみでここまで戦えるルイズに、ワルドは戦士としての畏敬の念を抱いた!
裏切ったとはいえ魔法衛士隊長である! 武人として一流の血がその念を呼び覚ましたのだ!
裏切ったとはいえ魔法衛士隊長である! 武人として一流の血がその念を呼び覚ましたのだ!
「ならばこれで本当に最後にしよう。尊敬を込めて君を仕留める」
遍在もろとも、揃って杖を構える!
刺し貫く魔法、エア・ニードル! 近接戦の必勝形であった!
刺し貫く魔法、エア・ニードル! 近接戦の必勝形であった!
「僕の手で直接仕留めることが君への手向けになるだろう。いくぞルイズ!」
「来い~!」
「来い~!」
血まみれのルイズが吼える!
それに呼応するように遍在は揃ってエア・ニードルを構え、突撃した!
瞬間!
それに呼応するように遍在は揃ってエア・ニードルを構え、突撃した!
瞬間!
「この刹那を待っていたわ!」
「なんだと!?」
「なんだと!?」
全てのエア・ニードルがルイズに突き刺さる!
しかし同時に、全てのワルドがルイズを中心として動きを止めていた!
しかし同時に、全てのワルドがルイズを中心として動きを止めていた!
「不退転戦鬼たるもの、実力の及ばぬ相手に抗する技はひとつ!
肉弾幸なり!」
「バカな! ルイズ、君は!」
肉弾幸なり!」
「バカな! ルイズ、君は!」
ルイズ渾身の爆発である!
数瞬後、目を開けたウェールズが見たものは、崩れ落ちるルイズとそれを支えるアンリエッタの姿であった。
「ア、アン!? どうして君がここに……」
「ルイズの莫迦!」
「ルイズの莫迦!」
アンリエッタはルイズの頬を張った。
気絶していたルイズがうっすらと目を開ける。
気絶していたルイズがうっすらと目を開ける。
「ひ……姫殿下」
「このような局面で肉弾幸を使い、散さまが喜ぶと思っているの!?」
「アン、散さまって……」
「このような局面で肉弾幸を使い、散さまが喜ぶと思っているの!?」
「アン、散さまって……」
ウェールズの呟きは無視された。
「ルイズ。本懐を遂げるにはまだ早すぎるわ」
「で……でも、ワルドが……」
「ワルドごとき散さまの敵ならず! 狙うは大将首でしょう!
走狗相手に相果てたところで何になるのですか!」
「あ……ああ……!」
「で……でも、ワルドが……」
「ワルドごとき散さまの敵ならず! 狙うは大将首でしょう!
走狗相手に相果てたところで何になるのですか!」
「あ……ああ……!」
ルイズは涙を流していた。
「不甲斐なしやルイズ! 命の使いどころを誤ってはなりません!」
「ああ……姫殿下。わたしは散さまに申し訳のつかないことをするところでした」
「分かればよろしいのです。では! 此度の戦果、ともに散さまにご報告いたしましょう!」
「ああ……姫殿下。わたしは散さまに申し訳のつかないことをするところでした」
「分かればよろしいのです。では! 此度の戦果、ともに散さまにご報告いたしましょう!」
手に手を取って帰ろうとするルイズとアンリエッタ。
流石にウェールズは聞いてみた。
流石にウェールズは聞いてみた。
「アンリエッタ……昔の君はそうじゃなかった。一体、何が君を変えたんだい?」
「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」
「あ、やっぱりそっすか」
「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」
「あ、やっぱりそっすか」
ルイズはコントラクト・サーヴァントの折に燃える口付けを。
アンリエッタはルイズの部屋に忍んで来た夜、燃える口付けを。
双方受けたため、この有様となったのであった。
アンリエッタはルイズの部屋に忍んで来た夜、燃える口付けを。
双方受けたため、この有様となったのであった。
「ふふふ……元はと言えばルイズもアンリエッタもこの散を召喚した魔法国の王侯貴族!
しかし散の燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのだ!」
しかし散の燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのだ!」
美 し さ は 兵 器
ゼロのススメVoltex 完