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宵闇の使い魔 第拾漆話

意外なことに、"お迎え"はまだ来ない。
別に来なくて困ることも無いんだが。
まぁ、暫くはのんびりと過ごせそうだ―――


宵闇の使い魔
第拾漆話:忘却と妄執


「ところで、授業の方は良いんですか?」

此処は学院の食を一手に引き受ける厨房。
その片隅にある、普段はコックやメイドたちが使う椅子に虎蔵は座っていた。
問いの主であるシエスタは、ポットの用意をしながらお湯を沸か沸かしている。

最近はルイズが普通の――つまり、学生達が食べるものと同じ食事を虎蔵にも用意するようになったため、
此処で食事を取るということはなくなったのだが、しょっちゅうやってきては茶やら酒やらを飲んでいる。
今日も、朝一の講義にルイズ共々引っ張り出された後で、休憩と称して逃げ出してきていた。

「あの根暗っぽい奴の時間だからな―――あいつも部屋に戻ったし」
「あら、何かあったんですか?」
「いや、爺さんの所に行ったと思ったら、なんか変な本を持ってきてな―――
 それ以来殆どおこもりだ。キュルケが迎えに来ると、渋々ながら出るんだがな。講義にも」

ギトーの名前をすっかり忘れている虎蔵は、ふぁっ、と小さく欠伸をする。
引っ張り出されたという講義で眠気を誘発されたようだ。

「変な本ですか―――なんなんでしょう、それって」

シエスタは虎蔵の欠伸にクスリと笑いながら、カップとポットをトレーに置く。
ポットに湯を注ぐと、慎重にトレーを持ち上げて振り返った。
すると―――

「始祖の祈祷書、よ。シエスタ、私にも頂けます?」

いつの間にかやってきていたマチルダが、シエスタにそう声をかけながら虎蔵の隣の椅子に腰を下ろした。
微かな香水の匂いが鼻腔をくすぐる。

「あら、ミス・ロングビルも。えぇ、すぐに用意しますね」

シエスタは一旦トレーを置くと、二つ目のカップを取りに行く。
虎蔵はそれを見送ると、肘を突いてマチルダへと視線を向けた。

「おう――どした」
「休憩―――爺のセクハラがね。ちゃんとお返しはしてきたけど」

肩を竦めるマチルダに、「若いな、あの爺さんも」と言って笑う虎蔵。
シエスタが離れたためか、マチルダの口調は素に近い。
よく話はしているようだが、猫は被ったままのようだった。
あまり意味があるとは思えないのだが。
「ところで聞いたかい? 来週頭に、アルビオンのおえらさんがトリステインに来るんだってさ」
「―――今更不可侵条約の調印式でもするのか?」
「いや、姫様の結婚の前祝を兼ねた表敬訪問だとか何とか―――」

怪しいわよね、と肩を竦めるマチルダ。
虎蔵も頷くが、かといって何かが出来る訳でもないし、しなければならない訳でもない。
本格的に戦争でも始まれば色々と面倒にもなるのだろうが―――

「ま、今はのんびりしとこうや。どうせなんも出来んしな」
「それもそうだね――」

気だるげにいう虎蔵にマチルダも同意したところで、シエスタがトレーを手にやってきた。
今度はカップが二つ乗っている。
彼女は二人の前にカップを置きながら、気だるげな雰囲気の二人に首を傾げる。

「何のお話ですか?」
「いえ、アルビオンとトリステインはどうなるのかと思いまして」
「あぁ―――怖いですね。戦争にならなければ良いんですけど」

シエスタは至極普通の意見を返しながら、カップに薄緑色の液体を注ぐ。
虎蔵は仄かな香りで、それの正体に気づいた。

「ん? こりゃ―――」
「あ、お気付きになりましたか? 東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品なんです。
 《お茶》って言うんですけど―――やっぱり知ってましたね」
「妙な色ですね―――けど、やっぱりって?」

おぉ、と妙に感動しながらカップを手にする虎蔵に対して、
マチルダはその色と匂いに僅かな警戒を示す。
香りは悪くないな――と思いながら、ふとシエスタの言葉に引っ掛かりを覚え、問い返す。

「はい。前にトラゾウさんが「茶が怖い」って言っていたんですよ。覚えてます?」
「―――言ったか?」
「えぇ、ほら―――ミスタ・グラモンと決闘した後に」

ずずずっとお茶をすすり、満足気に息をつく虎蔵にたいしてにこにこと笑みを浮かべるシエスタ。
虎蔵は言われてようやく、言ったかも、位にまでは思い出した。
確かに、よく考えればあの言い回しが此処で通じることは考えにくい。
だとしたら、シエスタは何故―――

「私の曾お爺ちゃんがよく言ってたらしいんですよ。
 それでお爺ちゃんにも口癖が移ったらしくて、私も聞いたことがあるんです」
「ほぉ―――」
「曾お爺ちゃん、東の遠い所から来たらしいんです。ロバ・アル・カリイエではなかったらしいんですけど。
 それで、もしかしたらトラゾウさんもなのかなぁって思って」

虎蔵はふむ、とお茶を飲みながら考える。
此処は肯定の一手しかないが―――この世界にも日本的な地域があると言うのだろうか。

「確かに生まれは東の方だな―――」

後でマチルダなりオスマンなりから情報を仕入れるべきだと考えながら、
何時もどおりに飄々とした様子で茶を濁すのだった。




「あら、ダーリン。こんな所に居たの―――ミス・ロングビルも」

厨房からの帰りに廊下をマチルダと歩いていると、途中でキュルケ・タバサの二人と遭遇した。
二人、と言ってもタバサは本を読みながらキュルケに引っ張られているようなものだが。
そのキュルケは羊皮紙の束を手にやたらと上機嫌にしていたが、マチルダも居るのを見ると、
僅かにムッとした表情になる。何時ものことだが。

「厨房で一緒になっただけさ。あのチビっ子にも用事があってね」
「へぇ――まぁ、良いわ。私もルイズに用事があるのよ」

もはやマチルダも慣れたもので、肩を竦めてかるく往なす。
今日は珍しくキュルケもそれ以上突っかかることはなく、羊皮紙を丸めて胸の谷間に押し込むと、
タバサを掴んでいる手と反対の手で虎蔵の手も掴み、軽快に歩き出した。
マチルダは肩を竦め、彼女らの後を追う。

「で、なんなんだよ、いったい―――」
「あの子、最近塞ぎ込み気味じゃない。授業にもあんまり出てこないし。まぁ、気持ちは解らなくもないけど」
「授業に出ないのは理由があるんだろうけどね」
「あら、ミス・ロングビル。なにかご存知なの?」

両手で虎蔵とタバサの手を掴んでいるためうまく振り向けないキュルケに、マチルダは肩を竦める。

「すぐに解るよ――」
「あっそ。ま、それでね。気分転換になりそうなことを見つけてきたってわけ。
 あぁ、なんて友達思いなのかしら。私って」

口ではそう言いながら、明らかに自分が楽しんでいる様子である。
ルイズのためというのも嘘ではないだろうが。
虎蔵はなにをする気だ、と言った意味を込めてタバサを見るが、彼女は本を読みながら首を振るだけだ。

―――諦めろって事か―――

ため息を一つ。


キュルケはルイズの部屋に着くと、問答無用でドアを開ける。
鍵は掛かっていなかった。
ルイズは机に向かいながら、うーんうーんと頭を抱えていたが、ドアの開く音にも振り返った。

「トラゾウ? 悪いんだけど、何か飲み物―――って、何よぞろぞろと」
「ルイズ! 宝探しにいくわよ!」
「はぁ!? ちょっと、これ正気?」

部屋に入ってくるなりそう叫ぶキュルケに度肝を抜かれ、残り三人に助けを求める視線を送るルイズ。
だがタバサは本を読み続けていて、虎蔵とマチルダは初耳である。

「正気かとは酷い言い草ね、ルイズ。
 なんか最近引き篭もりがちだから、気分転換に連れ出してあげようって言うのに」
「引き篭もってないわよ! 詔を考えなきゃいけないの。姫殿下の結婚式のね」

あぁ、と頷くキュルケ。
アンリエッタの結婚相手は、ゲルマニア――キュルケの国の皇帝である。

「へぇ、なによ。大役じゃない―――で、どれ位進んだの?」
「うッ―――――まったく、全然――」
「駄目じゃない。何時までなの?」
「それを連絡に来たの。来週頭までだそうよ」

キュルケとマチルダの言葉に頭を抱えるルイズ。
既に三日は考えているが、一文も出てこないのだ。

「てか、詔ってどんなん何だ?」
「火に対する感謝、水に対する感謝って感じで、順に四大系統に対する感謝の辞を、
 詩的な言葉で韻を踏みつつ読み上げるんだけど―――」
「ふむ―――火、風、土―――水だけ居ないが、専門家が揃ってるぞ?」

ルイズの説明に対して、虎蔵はキュルケ、タバサ、マチルダと見ていく。
確かにそうだ。
全員がそれぞれの系統のトライアングル。
アドバイスを受けるには最適の相手といえる。
一人で考えるべき物なのではないかと思わなくもないのだが―――

「うーん―――間に合わないよりは、相談してでも―――」
「丁度良いじゃない。昼は宝探し。夜は皆で協力して詔を作る、と」

ぶつぶつと呟くルイズに、キュルケがぽんっと手を叩いて笑顔を作る。
我ながら名案、といった調子だ。
だがルイズはまだ迷っているようで、腕を組んでは唸っている。

「授業は?」
「貴女、今だって出てないじゃない」
「う――確かに」

そんな調子でキュルケの説得攻勢が続く中、マチルダが虎蔵の腕をちょいちょいとつつく。

「―――なんか、いつの間にかアタシも数に入れられてないかい?」
「入ってるな。拙いか?」
「問題ないとは言えないけど―――んー」

ルイズたち学生もサボリが許可されている訳ではないが、マチルダ――ロングビルの場合はもっと問題である。
虎蔵は"自由業"生活が長いため、気にしていないようだが。
とはいえ、ルイズの現状はオスマンも理解している。
その辺りを理由に話してみれば、許可が下りるかもしれない。
爺の相手は疲れるから、ちょっとした休暇のつもりで付き合うのは悪くなさそうだ。

「しかし、宝の地図だなんてそうそう当たりは無いと思うんだけどね」
「だろうな。ま、気晴らしには良いだろ――――当たりが出れば儲けもんだしな」
「まぁ、ね―――じゃ、許可取ってくるよ」

マチルダは殆ど説得されたも同然のルイズを一瞥すると、ひらりと手を振って出て行った。

「ほら、折角あるんだ。座って読めよ」

虎蔵はソファーにぼすんと腰を下ろすと、空いている隣を叩いてタバサを促す。
タバサは無言でそれに頷くと、ソファーにちょこんと浅く座って読書を続けた。
その乱れないペースに関心半分呆れ半分で肩を竦めると、虎蔵は背もたれに身体をは窓越しに空を眺める。

「―――ま、なるようにならぁな」

タバサが声も漏らさずに、こくりと頷いた。




「――――大丈夫なの? これ――」
「仮に失敗したとしても、問題はあるまイ。所詮は死体ネ」

此処はアルビオンの王宮に用意された馬の私室。
シェフィールドの協力を得て、無数の機材が運び込まれている。
中央のベッドには死亡した筈のワルド。
彼は全身に無数の縫合痕や金属板を晒しており、何本ものチューブに繋がれている。

「時間があれば色々と手を加えてみるのだがネ―――まぁ、とりあえずはこんなところカ」

馬は一言呟くと、装置のレバーを引く。
ガチャンと音を立てて、チューブが外れた。
この機材の調達を手伝わされたシェフィールドは、不機嫌そうな表情を隠しもせずに、
壁際からその様子を眺めている。

「―――これで本当に生き返るというの?」
「生き返る、というのとは異なるがネ。まぁ、使い物にはなる筈ヨ。素体が良い物であるからナ」
「なら良いのだけど」
「さぁ、目覚めたまえ―――」

馬はニヤッと笑みを浮かべると、ワルドの首筋からプラグを抜き取る。
びくっ、と一度だけ痙攣を起こすと、ゆっくりと目が開かれた。

「っぁ――」
「やぁ、おはよう。目覚めは如何かネ? ワルド君」
「―――此処、は」

上手く声が出せないのか、ワルドは蚊の鳴くような声をもらす。
目の焦点は合わず、ぼんやりとした様子のままだ。

「私は―――生きているのか」
「左腕が炭化。胸部から腹部にかけて刺創痕14箇所。全身に無数の切創痕―――本当によく生きていたものだネ」

そうか、と答えながら、ワルドが一応は無事と言える右手を実の前に翳すと、ゆっくりと目の焦点が合ってくる。
シェフィールドは堂々と"生きている"と嘯く馬に視線を向けるが、ワルド自身はまったく疑っている様子は無い。
馬はシェフィールドにニィッと笑みを向けて、見ていたまえと言わんばかりに頷いた。

「とはいえ、左手は義手。各種内臓も殆どが使い物にならヌ。いっそ死んでしまった方が楽かもしれんがナ」
「真逆。私にはやらねばならぬ―――やらねばならぬこと、だと?」
「フム、記憶が混乱しているようだガ―――ルイズ、という名前に心当たりはあるカ?」

シェフィールドの力―――マジックアイテムによって全て理解しているにも拘らず、
馬は何も知らないような調子でその名前を口にした。

「ルイズ! そうだ、私のルイズ! ――ッぐ」

ワルドは無理に体を起こそうとして全身を引きつらせ、再度ベッドに倒れこむ。
弄くられた身体がまだ馴染んでいないためだろう。

「落ち着きたまえ、ワルド君。君の居た礼拝堂の近くから、城の外へと抜け穴が見つかってる。
 恐らくは、君を倒した人物と共に逃げ出しているのだろうネ」
「くそッ――私はルイズを、ルイズを手に入れなければならなかったのに――」

息を荒げながらも、悔しそうに呻くワルド。
その様子を見てシェフィールドは首を傾げる。
クロムウェルの弁では、ワルドは彼にかなりの忠誠を見せており―――仮にそれが本心ではないにせよ、
任務を気にかける程度の演技はしてみせるような男、とのことだった筈だ。
それがどうだろうか。
まるで《レコン・キスタ》の事など忘却してしまったかのように、
ルイズ――あの虚無の力を持つ小娘のことだけに拘っている。

―――この男、虚無について詳しく知っているとでもいうの?―――

警戒に目を細めるシェフィールド。

「なに、生きていれば、また機会はある筈ヨ―――奪われたなら、取り戻せば良いこと。
 君を倒した男に復讐を果たし、彼女に君の力を見せ付けると良いネ」
「そうか。そうだな。奴を倒せば、ルイズは私の物になるに違いない―――」

以前の冷静沈着な様子など微塵も無く、憑かれたかのようにただルイズの事についてのみ執着を示すワルド。
しかしその瞳は僅かに濁って見えるが、十分に正気を感じさせる。
つまり、正真正銘本心からルイズを欲しているのだ。この男は。
一度、馬を問い詰める必要がある。
シェフィールドはそう考えながら、するりと部屋を抜け出した。

「あぁ、そうだトモ。発奮したまえヨ、ワルド君」
「勿論だ。ルイズは私の物なのだから――――」
「その粋ダ。が、今日はこのまま休みたまエ。まずは体力を戻すことネ」

馬はワルドにそう告げて部屋の明かりを落とすと、再見と一言残し部屋から出て行った。
残されたワルドは、暗くなった部屋の中で何度も手を握り締めながら呟く。

「あぁ、ルイズ。僕のルイズ。必ず手に入れてみせるよ。あんな男に渡すものか―――君は、私だけのものだ」

妄執に囚われたワルドを、窓から差し込む冷え冷えとした月明かりだけが照らしていた。

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