モット伯の屋敷が燃えてから3日が経ち、既に日も暮れようとしていた。
そこにはもはや見る影もなく、ただ焼け焦げた残骸があるだけだった。
そこにはもはや見る影もなく、ただ焼け焦げた残骸があるだけだった。
「ようやく調査が開始されたみたいね」
「はい、思いのほか時間がかかったみたいですね、主任」
「はい、思いのほか時間がかかったみたいですね、主任」
「何よ、わざわざこんな所まで呼び出して!ゴミ漁りでもしろっていうの?」
「主任~、私に怒らないで下さいよ~」
「主任~、私に怒らないで下さいよ~」
廃墟にやってきた白衣を纏う金髪の美女。確かに美女なのだが吊り目がずいぶんきつい印象を与える。 その女性がこれも若い白衣の女性を引き連れていた。美女が二人、廃墟の片付けに追われる薄汚れた兵士たちからはかなり浮いている。
ちょうどそこに一人の中年の男がやってくる。
ちょうどそこに一人の中年の男がやってくる。
「これはこれは、ええとミセス・ヴァリエール、ご足労ありがとうございます。自分がここの責任者であります」
「ミセス…?」
「ミセス…?」
ミセスとよばれた女性はこめかみを引くつかせた。
「ミス…ですわ」
「え? ああこれは失礼しました。はは…それと遺体と調査報告書についてですが、それはもう送ってあります」
「え? ああこれは失礼しました。はは…それと遺体と調査報告書についてですが、それはもう送ってあります」
笑って誤魔化そうとするが女性の顔は引きつったままだ。
「それで? ここに私を呼びつけましたワルド子爵はどこにいらっしゃるのかしら?」
「子爵ですか?あの方はまだ仕事があると言われて…どこかへ行かれました」
「な、なんですって!」
「子爵ですか?あの方はまだ仕事があると言われて…どこかへ行かれました」
「な、なんですって!」
この兵士は確かに聞いたのだ。そうプツンと何かが切れる音を。
「こ、こいつを渡すように言われてまして。ではこれで…」
そういって兵士の男は小さな円筒形の金属を手渡し逃げるように去っていく。
「しゅ、主任?」
「クソ! あのド低脳が! わざわざ私を呼びつけておいて自分はいないだと? ふざけるんじゃないわよ!」
「クソ! あのド低脳が! わざわざ私を呼びつけておいて自分はいないだと? ふざけるんじゃないわよ!」
ゲシゲシと瓦礫を蹴りつける。
「主任~。今もらった報告書に襲ったのはフーケみたいだと書かれてますよ?」
火に油を注ぐようなことを言うこの部下の女性。案の定、書類を奪い取ると、ビリビリッと引き裂くのであった。
「何で結論が出てるのに呼び出されなきゃいけないのよ! あの気障野郎、ちびルイズの婚約者と思って調子こいてんじゃないわよ!」
「わ、わたしに怒鳴らないでくださいよぅ?」
「うるさい。黙れよ!」
「わ、わたしに怒鳴らないでくださいよぅ?」
「うるさい。黙れよ!」
いつの間にか人がいなくなったモット伯屋敷跡、エレオノールは己の怒りを部下にぶつけるのであった。
「ふう…ねぇ?」
「あう? 何ですか主任」
「あう? 何ですか主任」
ようやく落ち着いたエレオノールは遠くに見える建物を指差す。
「あの建物…トリステイン魔法学院だったわよね?」
「えう? そうですけど、それがどうしたんですか?」
「えう? そうですけど、それがどうしたんですか?」
エレオノールは顎に指を当てて何やら思案する。
「あんた、先に研究所に帰ってなさい。私は寄るところがあるから」
「はい? わかりました。では先に戻りますね」
「はい? わかりました。では先に戻りますね」
一人になったエレオノールはぼそりと呟く。
「ここまできたことだし、ちびルイズにでも会いに行くか」
Zero ed una bambola ゼロと人形
アンジェリカは眠りからいまだに覚めない。ルイズは堪らなくなって何度も息をしているかどうか確認してしまう。そう、ルイズの脳裏にはまだあの光景が鮮明に焼きついているのだ。
このままアンジェリカも……そんな思いに耐え切ることができなかったルイズは、ついにアンジェリカを自分の部屋から医務室に移すことに決めたのだ。
このままアンジェリカも……そんな思いに耐え切ることができなかったルイズは、ついにアンジェリカを自分の部屋から医務室に移すことに決めたのだ。
シエスタはモンモランシーの治療のかいあって、すでに日常生活に支障がない程度に回復していた。
だがルイズは一度見舞いに行ったきり彼女に会っていない。朝一人で洗濯に行ってもシエスタには会うことはできなかった。食堂でもそうだ。
キュルケにしてもそうだ。相変わらずよく絡んでは来るものの、アンジェリカについては一言も触れない。タバサは…あまりよく分からない。よくキュルケと一緒にいるけれどもいつも本を読んでいる。キュルケと反対のタイプだということはすぐに理解できた。
モンモランシーだけが以前と変わらずに接してくれるのだ。ただ屋敷が焼けたことに関してはしつこく聞いてくる。あそこで何があったのかわたしは言葉を濁し誤魔化すことしかできなかった。
何度かそれを繰り返すうちにやがてモンモランシーは何も聞かなくなった。事情を察知したのだろうか、ともかくその心遣いはありがたかった。
だがルイズは一度見舞いに行ったきり彼女に会っていない。朝一人で洗濯に行ってもシエスタには会うことはできなかった。食堂でもそうだ。
キュルケにしてもそうだ。相変わらずよく絡んでは来るものの、アンジェリカについては一言も触れない。タバサは…あまりよく分からない。よくキュルケと一緒にいるけれどもいつも本を読んでいる。キュルケと反対のタイプだということはすぐに理解できた。
モンモランシーだけが以前と変わらずに接してくれるのだ。ただ屋敷が焼けたことに関してはしつこく聞いてくる。あそこで何があったのかわたしは言葉を濁し誤魔化すことしかできなかった。
何度かそれを繰り返すうちにやがてモンモランシーは何も聞かなくなった。事情を察知したのだろうか、ともかくその心遣いはありがたかった。
一人部屋に取り残されたルイズ。
「アンジェ、着替え…」
もうこの部屋にはアンジェリカはいないのに……。もともとは一人だったその部屋がやけに広く感じられる。
ルイズはアンジェリカとの短くも楽しい日々を思い出す。もうあの頃には戻れない、そんな焦燥感に駆られて部屋を飛び出るのでる。目元に涙を浮かべながら…。
ルイズはアンジェリカとの短くも楽しい日々を思い出す。もうあの頃には戻れない、そんな焦燥感に駆られて部屋を飛び出るのでる。目元に涙を浮かべながら…。
もうあの部屋に一人でいるのに耐え切れない。ルイズの持ち前の性格からか、誰かに頼ることなどできず、ただ中庭をぐるぐると歩き回るしかなかった。
だがそんなルイズの背後から影がそろりと忍び寄り、ルイズの頬をぷにっと摘み上げた。
だがそんなルイズの背後から影がそろりと忍び寄り、ルイズの頬をぷにっと摘み上げた。
「いひゃい、はにひゅんにょひょ!」
こんなくだらないことをするのは学園には一人しかいない、そうキュルケだ。
「馬鹿! 痛いじゃないのよ!」
頬をつまみ上げる手を乱暴に振り払う、抗議の声をあげようと振り向くがその手の持ち主を見て目を丸くして驚いた。
「ちびルイズ、ずいぶんなご挨拶ね。」
「姉さま!」
「姉さま!」
ルイズは驚きのあまり口を開けたまま立ち尽くす。
「何間抜けな顔してるのかしら、うりうり」
エレオノールはそういうとルイズの頬をぷにぷにと触り始める。
「ひゃねしゃま、ひゃんひぇひょひょに」
「んー近くに来たからついでによ。最近あんたにも会ってないしね。」
「姉さま! わたしに会いに?」
「んー近くに来たからついでによ。最近あんたにも会ってないしね。」
「姉さま! わたしに会いに?」
手を振りほどき歓声をあげてこたえる。少し気分が沈みがちだっただけに家族が会いに来てくれるというのはうれしいものだ。思わず顔が綻ぶ。
「まさか、ちびルイズのためだけに来るわけないじゃない。」
「え?」
「仕事のついでよ。ここに用があるのよ。それしてもずいぶん探したわよ」
「え?」
「仕事のついでよ。ここに用があるのよ。それしてもずいぶん探したわよ」
ルイズの喜びを足蹴にするようなことをエレオノールはいう。ルイズは拗ねたように反発するのだった。
「だったら先に用を済ませばよかったじゃない!」
「そんな可愛げのないこというのはこの口?」
「いひゃい、いひゃい。ねえひゃま、いひゃい」
「そんな可愛げのないこというのはこの口?」
「いひゃい、いひゃい。ねえひゃま、いひゃい」
いとも簡単にルイズをあしらうエレオノール。ルイズをからかうことにかけては右に出るものはいないのだ。
「仕事のついででも会いに来てやっただけありがたく思いなさい」
「うぅ~。姉さま、用って何?」
「うぅ~。姉さま、用って何?」
そう言いながら真っ赤になった頬をさするルイズ。
「ほら、モット伯の屋敷が焼けた事件があるでしょ?それについてここの学院長に聞きたいことがあるのよ」
その言葉にルイズはドキッとした。まさかばれた?姉さまはアンジェリカを捕まえに?ルイズは冷や汗をだらだらとかく。
「そういえば、あんたモット伯の屋敷が燃えた事件知ってるわよね?」
「え? は、はい。ええと近くで起きた事件ですから色々と噂になってますわ」
「え? は、はい。ええと近くで起きた事件ですから色々と噂になってますわ」
動揺からか口調が少しおかしくなる。だがエレオノールはさほどそれを気にせずに話を続ける。
「知ってるのなら話が早いわ。ほら、あんたの婚約者のいけ好かない髭のワルドっていたじゃない?」
「え、ワルド様?」
「そう、あいつが報告書作っておいて後の仕事全部押し付けたのよ」
「え、ワルド様?」
「そう、あいつが報告書作っておいて後の仕事全部押し付けたのよ」
顔を歪ませてルイズに愚痴を吐くエレオノール。だがそんなことよりもルイズには気になることがある。
「あの、報告書、その報告書にはなんて書かれていたのですか?」
ルイズははやる気持ちを抑えて尋ねる。
「そうね、『土くれのフーケ』の仕業だと書かれているわ。ま、私はその裏付けをするのよね」
なんだかんだいってしっかりと報告書に目を通していたエレオノール。ルイズはその言葉を聞き安堵する。
「じゃあ、あとであんたの部屋に行くからワイン用意して待ってなさい。学院長に会ってくるわ」
「え? 姉さま、学院の中わかるの?」
「ちびルイズに心配されるほど落ちぶれてはいないわよ」
「え? 姉さま、学院の中わかるの?」
「ちびルイズに心配されるほど落ちぶれてはいないわよ」
そして何事もなかったかのように去っていくエレオノール。ルイズはただ呆然とそれを見送るのであった。
Episodio 16
Il lavoro della piu vecchia sorella
姉の仕事
姉の仕事
Un'intermissione
「隊長、報告書はあれでよかったんですか?」
「ああ、あれでいいんだ。マザリーニの奴が、何かあるとすぐ仕事を押し付けるからな」
「確かに、最近は仕事の量が増えていますね」
「適当な所で手を抜いておかないとな。それにアカデミーは優秀だ。すぐに報告書の矛盾に気付いて事件を解決するさ」
「ですが、こちらに文句を言ってきませんか?」
「そのときにはこういうさ。仕事が多すぎて手が回りませんでしたってね」
「ははは、それはいいですね。では隊長、自分は先に失礼させて頂きます」
「ご苦労、ではまた明日」
「ああ、あれでいいんだ。マザリーニの奴が、何かあるとすぐ仕事を押し付けるからな」
「確かに、最近は仕事の量が増えていますね」
「適当な所で手を抜いておかないとな。それにアカデミーは優秀だ。すぐに報告書の矛盾に気付いて事件を解決するさ」
「ですが、こちらに文句を言ってきませんか?」
「そのときにはこういうさ。仕事が多すぎて手が回りませんでしたってね」
「ははは、それはいいですね。では隊長、自分は先に失礼させて頂きます」
「ご苦労、ではまた明日」
「ふん、馬鹿な奴だ。所詮親の七光りか。さて王立魔法研究所の諸君。お手並み、拝見させてもらうよ」
幕間