あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mr.0の使い魔 第二十二話

 太陽が半ばまで身を沈め、大地を朱に染め上げる。
 丸一日、馬を何度か換えつつ走らせ続けたおかげで、四人は夜になる
前に港町の入り口へと辿り着いた。道中に襲撃などの危険なトラブルも
なく、任務第一段階は疲労以外、特に問題なく終わったと言える。
 クロコダイルは、それに疑問を覚えていた。

「妙だな」
「え?」
「ここまで全く妨害がない。それこそ、簡単な罠の一つも、だ」
「敵が気づいていないだけではないでしょうか」
「だといいがな」

 安堵を多分に含むギーシュの楽観的な見方に、クロコダイルは素直に
賛同できなかった。相手がこちらの動きに気づいていないのなら、それ
は確かに喜ばしい事だ。ワルドが急いでいたのは奇襲される前に港へと
到着するためで、実際短時間で長距離を移動した四人を敵が見失った、
という事も考えられなくはない。
 だが仮に、相手が既にこちらの居場所を知り、射程内に収めていると
したら。そして、その上でなお、未だに仕掛けてこないのだとしたら。

「小僧、一応警戒は解くなよ。寝込みを襲われる可能性もある」
「わかりました」

 クロコダイルの忠告に、ギーシュは萎えかけていた気力を振り絞る。
 渓谷の先に揺らめく町の灯りが、一行を待ち構えていた。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十二話


 待ち構えていたのは、町の灯りだけではなかった。

「遅かったわね、ルイズ」
「な、なんであんた達がここにいるのよ!?」

 町の入り口に、キュルケとタバサが立っていたのだ。上空を見れば、
悠々と旋回するシルフィードの姿がある。
 驚愕にわななくルイズを見て、キュルケは心底楽しそうに笑った。

「あんたの部屋からがあんな朝早くに物音がするもんだから、気になったのよ。
 で、こっそり後をつけたら、ギーシュやミスタ・クロコダイルもいるじゃない」
「それで、タバサまで巻き込んでここまで追いかけて来たのかい?」
「そーゆーコト。何だか面白そうだったし」

 呆れ顔のギーシュに答えたキュルケが、ワルドに艶のある視線を送る。

「ダンディなあなたに興味があったしね」
「それは光栄だ。しかし残念ながら、僕は君の求愛を受ける事はできないな」
「あら、どうして?」

 にべもないワルドの返答に、キュルケは若干眉をひそめた。それでも
持ち前の気質故か、すぐにまた艶やかな流し目に戻って理由を尋ねる。
 ワルドは苦笑の度合いを深めながらも、彼女の疑問に淡々と答えた。

「僕はもう、一人の女性に心を決めているからね」

 その言葉に、キュルケは奇妙な違和感を感じる。何となくだが、愛情
以外に別の感情も混ざっているようだった。それも、何色もの絵の具を
出鱈目に混合したような、まだら模様の濁ったものが。
 他の面々も大なり小なりその事に気づいたようで、気まずい空気が場
を包む。ここで無為に時間を潰す気はないクロコダイルは、小さく息を
吐いて話題を変えた。

「子爵、おれ達の乗る船はいつ出るんだ」
「明日が『スヴェルの夜』ですから、フネが出るのは明後日の夜明け前ですね」
「あら、アルビオンに行くの?」

 これ幸いと、キュルケが喰い付いた。自分の言葉が妙な空気の引き金
になったのは、彼女にとって全く想定外だったのだ。これ以上雰囲気を
険悪なものにしないためにも、この転換は歓迎すべき事であった。
 他方、クロコダイルは聞き覚えのない『スヴェルの夜』という単語と、
何より部外者であるキュルケの興味津々な反応に、少し顔を顰めたが。

「……そうだ。取りあえず、宿に行くぞ。
 いつまでもこんな場所でうだうだやってるのは時間の無駄だからな」


 貴族御用達の『女神の杵亭』で、六人が借りた部屋は三つ。ワルドと
ルイズ、クロコダイルとギーシュ、キュルケとタバサである。
 戦力をあまり分散させたくなかったクロコダイルは男女別、三人ずつ
で二部屋という案を出したが、これにはワルドから否定意見が出た。

「ミス・ツェルプストーとミス・タバサは、本来任務とは無関係ですからね」

 それに、タバサはともかく、キュルケは手紙の中身を知られると困る
ゲルマニアの人間だ。仮に黙っていると口約されても、相応のリスクは
残る。そしてルイズは、キュルケと相部屋にすると、口論中にうっかり
事情をばらしてしまいかねない。
 そのようにワルドから説明されて、クロコダイルも納得した。二、三、
四階にそれぞれ一部屋ずつ分かれているのが気になるが、各自の資金と
空き部屋を相談させた結果である。普通料金の部屋は下の二つ以外全て
埋まっており、四階は空きこそ多いものの料金が数倍。結果、手持ちに
余裕があったワルドとルイズが四階、それ以外のメンバーは二階と三階
の部屋が割り当てられたのだ。先日クロコダイルが稼いだ金貨があれば
よかったのだが、残念ながら全額学院に置いてある。
 なお。

「ねぇ、ワルド」
「何だい、ルイズ」
「この指輪を売って、その代金で全員が四階に泊まる方がいいんじゃない?」
「だ、駄目だよルイズ! それは姫様から頂いた大切な物だろう」
「そうだけど……」
「必要な部屋はとれたんだ。無理をしてお金を作らなくてもいい」

 ワルドの必死の説得によって、ルイズのこの暴挙は未然に防がれた。


 二階。
 ベッドに寝そべり、キュルケは大きく伸びをした。隣のベッドに腰を
下ろしたタバサは、相変わらず本を読んでいる。何を読んでいるのか気
になって、キュルケはタイトルに目をやった。

「【砂漠の原生生物図鑑】?」
「そう」
「それ、読んでておもしろいの?」
「それなり」

 トリステインに砂漠はない。アルビオンにもない。ハルケギニア大陸
の東端、ゲルマニアやガリアの一部は砂漠に面しているが、その周辺は
あのエルフが暮らす地域との接点だ。では、タバサはどうしてこんな本
を読んでいるのか。
 考えを巡らすキュルケの脳裏に、ふと、砂嵐を纏うクロコダイルの姿
がよぎった。「ああ」と納得して、キュルケは暖かい笑みを浮かべる。

「研究熱心なのはいいけど、ミスタの事は載ってないと思うわよ?」
「違う」

 どうにもかみ合っていなかった。


 三階。

「小僧。アルビオンについて、お前はどれくらい知っている?」

 ソファに腰掛けたクロコダイルは、窓から外を眺めるギーシュに問い
かけた。昨夜のマザリーニとのやり取りで、ギーシュの父が政治に強い
影響力——少なくとも枢機卿を悩ますだけの力を持つ人間だと認識した
からだ。ひょっとすると、その父親から何か自分の知らない情報を得て
いるかもしれない、との期待があったのである。
 しかしながら、返答はクロコダイルの予想だにしないものだった。

「えーと、遥か上空に浮かぶ浮遊大陸だという事。
 普段は洋上を飛んでいるけど、一ヶ月に数回ハルケギニアの上空に接近する事。
 二つの月が重なる『スヴェルの夜』の翌朝、最もトリステインに近づく事……あれ、師匠?」

 つらつらとアルビオンについての基礎知識を述べていたギーシュは、
クロコダイルがしかめっ面で額を抑えているのに気づき冷や汗を流した。
まさか何か余計な事を口走って、機嫌を損ねてしまったのではないか。
思わず口を閉じ、ギーシュはクロコダイルの顔色を伺う。
 実のところ、彼の心配は少々的を外していた。クロコダイルは、“洋上
の島国”だと思っていたアルビオンが、実は“天上の島国”だった事に困惑
しているのだ。正直言って信じられない。グランドラインにも『空島』
というものが存在すると噂はあったが、実際に目にした事は一度もない。
第一、船でどうやって空の上まで行くというのか?

「まさか、空飛ぶ船があるなんて言い出すんじゃ……」
「え、フネが空を飛ぶのは当たり前じゃないですか」

 何を今更、とでも言いたげなギーシュの表情に、クロコダイルは本気
で頭痛を覚えた。

「師匠、大丈夫ですか?」
「……何でもない。続けろ」
「はぁ。後は、浮遊大陸故に空軍が特に精強な事、ぐらいです」
「国の内情とかどうして反乱が起きたとか、そういう事は?」
「情勢は、昨日姫殿下が仰ったのと同程度の内容しか」
「わかった」

 国土の位置やフネに関しては驚愕の新事実を教わったが、それ以外に
関してはクロコダイルの持つ知識と大差がないようだ。予想外の情報を
得た喜びと、欲しかった情報を得られない落胆を同時に感じる、という
奇妙な体験をしつつ、クロコダイルは気を紛らわせようと窓の向こうに
視線をずらした。
 山の天気は変わりやすいと言うが、この岩ばかりの山でもそれは当て
はまるらしい。いつの間にか雲が出ており、無数の星も二つの月も見え
なくなっている。雨になりそうだ。

「嫌な雲行きだな」
「同感だぜ。湿気が多いとサビちまう」

 デルフリンガーのどこかがずれた合いの手に、クロコダイルは微妙な
表情で鞘を小突いた。


 四階。
 のワインを一気に飲み干し、ワルドは小さくため息をついた。隣で
ルイズが心配そうに様子を見ている。

「ワルド、本当に大丈夫なの?」
「ん、ああ。少し疲れたけど、どうという事はないさ」

 意図したものとは少し違う回答だったが、ルイズはそれ以上追求する
のを是としなかった。ワルドは、大切な妹分を心配させまいと気遣って
いるのだ。その思いやりは嬉しかったが、同時に少し悲しくもあった。
憧れのワルドは、自分を“女”として見てくれていない。彼が本当に目を
向けているのは、ルイズではない。

「ねぇ、ワルド」
「何だい、ルイズ」
「ちいねえさまの事、考えてるでしょう」

 その瞬間、ワルドの肩がびくんと震えた。
 魔法衛士隊の隊長は、エリート中のエリートである。当然貴族の子女
からも人気が高い。が、ワルドはその手の申し入れを悉く断っていた。
先刻キュルケにも言った通り、彼には既に意中の相手がいるのだから。
 それが自分のすぐ上の、大好きな姉だという現実が、ルイズに複雑な
思いを抱かせていた。初恋の人が他人と恋仲になるのは悔しい。けれど、
それが姉の幸せにつながるのなら祝福したい。相反する二つの感情が、
ルイズの心の天秤をゆらゆらと揺らす。

「カトレアは、元気にしてるかい」

 ワルドの声が、ルイズを現実に引き戻した。色濃い不安と僅かな希望
を浮かべた表情は、歴戦の衛士とは思えないほど弱々しい。

「手紙では元気だって。けど、相変わらず、だと思うわ」
「そう、か」

 悲しげに呟くワルドに、ルイズもまたかけるべき言葉を失う。しばし、
部屋の中を沈黙が支配した。
 やがて、顔を上げたワルドは微笑を浮かべた。今の会話を引きずって
いるのだろう、その笑顔は不自然さが残るものだ。

「もう寝なさい。夜更かしは、体に悪い」
「……うん。おやすみ、ワルド」

 普段なら子供扱いに怒るだろうが、ルイズは素直に従った。これ以上、
大好きな彼を苦しめたくなかったから。


 ルイズが寝室の扉を閉めると、ワルドは再び杯をワインで満たした。
血のように赤いそれをじっと見つめる瞳は、つい先ほどまで慈愛に満ち
ていたとは思えないほど鋭い。抜き身の刃のような危うさを感じさせる
目つきで、ワルドは厳かに呟く。

「やっと見つけた可能性だ。今更、諦めるものか」

 ワルドは杯の中身を一気に飲み干した。
 野望の炎に油を注ぐように。
 降り始めた雨に、炎が掻き消されないように。


   ...TO BE CONTINUED

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