あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 16

その日は、端的に言って良い天気だった。
日差しは暖かく、風は心地よい。
かつては錬兵場だったという中庭に寝転がり、
ギーシュは実に楽しそうに頬をほころばせた。
風の魔法で切り裂かれた肌は痛み、吹き飛ばされた際に打ち付けた腰からは未だに鈍痛が響いて来るが、
それら全てを帳消しにしてなお余るほどの爽快感が彼を包んでいた。

「……なに笑ってんのよ」

声とともに、逆さまになったルイズの顔が視界に入った。
昨日と同じ乗馬服姿なのを見てほっと息をつく。
この爽快な気分を、婦女子の下履きを覗いたなどという下世話な喜びで汚したくはない。
最もブータに跨るようになって以来、ルイズがスカートのような服を着たのは舞踏会の時だけなのだが。

「なにと言われてもね、ルイズ。それは楽しいからに決まっているじゃないか」
「楽しいって、ワルドに負けたのに? あんたそんな趣味だっけ?」
「どんな趣味よ、ルイズ。いくら幼馴染だからって、アンリエッタ王女みたいなこと言わないでよ」

笑いながら会話に入ってきたのはキュルケである。
こちらはルイズと違ってギーシュの言い分を理解していると見えて、
よくやったとでも言いたげな目をしている。

「あんただって、ブータの講義は聞いてるでしょうに。
 大局的勝利と個人的勝利は違うってこの間習ったでしょう。忘れたの?」
「憶えてるわよ。
 ……ええと、勝負に勝って試合に負けるっていうあれでしょ。
 つまり、ギーシュは決闘には負けたけど、目的は果たせたってこと?」

まさにその通り、とでも言いたげに猫が喉を鳴らした。
弟子の成長具合に満足が行ったのか、ご満悦な顔でタバサに喉を撫ぜて貰っている。
そもそも、学生で未だドットメイジにすぎないギーシュが、
軍人でスクエアメイジのワルドに決闘で勝てるわけがないのである。
ブータの元で戦術を学んだギーシュがそれに気づかぬ筈がないのだ。

「で、その目的ってなによ」
「なに、簡単なことだよ。
 初めて会った時から、あの子爵殿のすました顔を、
 思い切りぶん殴ってやりたいと思っていたのでね」

その答えに、ルイズはまじまじと彼の顔を見詰め、
次にキュルケ、タバサ、ブータと視線を移して、
最後にもう一度ギーシュに目をやると深い深いため息をついた。

「前から思っていたのだけれど」
「うん?」
「ギーシュ、あんた、実は馬鹿でしょう?」

そうかな、とギーシュは笑った。
そうかもしれない。いやきっとそうだろう。
なにしろルイズ症候群の重症患者だ。利口な筈がない。
まてよ、すると感染源であるルイズはどうなのだろう。
罹患者が馬鹿なら、さしずめ感染源はそれを上回る大馬鹿に違いないのだが。

「しかしだね、ルイズ。考えても見たまえ。
 グリフォン隊の隊長殿を殴って、しかもお咎めなしだなんて機会はそうそうないだろう?
 ならばこの機を逃さず、と思っても仕方がないとは思わないかい?」

ルイズはがくりと肩を落とすと、疲れたような表情で口を開いた。

「前言を撤回するわ、ギーシュ。
 あんた間違いなく馬鹿だわ。それもただの馬鹿じゃなくて、大馬鹿よ」



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一体なぜこんなことになったのだろう。
元東薔薇花壇騎士団団員にして現北花壇騎士八号ことバッソ・カステルモールは、
王宮の廊下を歩きながらもはや何回目になるか解らぬ自問を再び繰り返した。

「姫殿下、もうそろそろ」
「黙りな、カステルモール。
 よもやお前、この国の王女であるわたしに、裸足で王宮を歩けと言うの?
 それとも、わたしを連れて馬車まで行くにも事欠くほどの体力しかないとでも?
 誉れあるわたしの騎士であるお前が?」

いえと否定する。
カステルモールとて、厳しい訓練を潜り抜けてきた騎士団の精鋭である。
従姉妹であるシャルロットよりは肉付きがいいとはいえ、
未だ発育途上の少女でしかないイザベラを抱き上げて馬車まで運ぶのは困難なことではない。
むしろ辛いのは、無遠慮ではなく、しかし確実に彼に突き刺さる周囲の宮廷雀たちの視線である。
だがそれもしかたがあるまい。
一国の姫君をお姫様抱っこして王宮を闊歩する騎士など、それこそ詩人の歌の中にしか存在しないのだから。
溜息を押し殺し、そっとイザベラの顔に目をやる。
それに気づいたか、ふんと鼻を鳴らして少女がそっぽを向いた。
その頬の赤みに、やはりまだ怒っておられるのかと密かに嘆息する。
先ほどの父王との会見では望みの答えは引き出せず、無理やり連れ出されたせいで靴はどこかに行ってしまった。
裸足で歩くわけにもいかぬから抱き上げて運べと命令したのは彼女自身だが、
自尊心の高い少女にとっては、それこそ子供でもないのに抱き上げて運ばれるのは不快なようで、
先ほどから頬を不満げに紅潮させ、カステルモールの方を見ようともしない。
それなのに時々目が合うのは、きっと抑えきれぬ怒りにこちらを盗み見ているからなのだろう。
そもそも自分はこの姫には嫌われているのだ、とカステルモールはしみじみと思った。

ことの始まりは数ヶ月前のことである。
ある領主がイザベラを狙うために地下水と呼ばれる傭兵メイジを雇ったという事件があった。
その際、あろうことか王女は従姉妹であるシャルロットを影武者としてその領主の館に乗り込んだのである。
それ自体は冤罪であることが後に判明するのだが、領主の誕生日を祝う園遊会である珍事が発生した。
酒に酔ったのか何者かの魔法なのかは本人が口をつぐんでいるため不明だが、
突如としてイザベラが舞台上にあがり、全裸で踊りだしたのである。
騒然として混乱の渦中に叩き込まれた会場の中で、いち早く自分を取り戻したのがカステルモールであった。
何しろ彼の認識としては、イザベラの姿をしているのは真実の主君たるシャルロットの筈なのである。
その主君の痴態をそのままにしておくことなど、忠義の騎士たる彼には不可能であった。
慌てて近くにあったテーブルの布を引っつかんで舞台に上がり、
裸の王女を抱きかかえて人目のつかぬ場所に強引に連れて行ったのである。
ようやくそこで自分が連れ出したのがイザベラ本人だと気がついたが、もはや後の祭りである。
布で申し訳程度に身体を包んだ王女は、まだ赤みの抜け切らぬ頬で、上目遣いに涙を湛えて言ったのだ。
「わたしの裸を見た責任、取ってもらうわよ」と。
これは仕方がないと腹を括り、任務後に宿舎に戻ると同時に身辺の整理をする。
王位の簒奪者の娘に断罪されるのは業腹だが、
騎士として、いや男として一人の女性に責任を取れなどと言われては逆らえぬ。
騎士団長に出頭を命じられ、除隊を命じられた時も動ぜずに受け入れられたものである。
続いての北花壇騎士団入隊の命令に首を傾げ、ややあってなるほどと頷いた。
つまりはシャルロットと同じように、危険な任務で死亡するのを待とうと言うのだろう。
考えてみれば、処分しようにも先の出来事は充分に醜聞である。
嫁入り前の少女にとってはまさに致命的だ。表沙汰にはできぬ。
故に任務上での自然死を装うつもりなのだろう。
いいだろう、と笑みが浮かぶ。
如何にイザベラとても早々危険な任務ばかり用意はできまい。
その一部を自分が引き受けると言うことは、同時にシャルロットに回される任務が減るということである。
ならばこの身を楯として、真の王位継承者をお守り申そう。

「姫殿下、馬車に着きましたので」
「また抱き上げるのは大変だろう?
 それともカステルモール。まさかわたしが重いとでも?」
「いえ、滅相もございません。
 姫殿下は羽のように軽うございます」

だが、その決意が失望に変わるのに早々時間は要らなかった。
任務を言い渡されることもせず、ただ我が侭なイザベラの護衛として過ごす日々。
あるいは自分を飼い殺しにする為に部下にしたのか。
きっとそうだろう。
騎士としての名誉ある死を与えず、今日のような恥辱を与えて溜飲を下げているに違いない。
ところが、周囲はそうは見ていないようで、古巣にいる昔馴染みの騎士仲間と酒を呑んだ時にそう洩らしたら、
世界が終わったかのような顔で無理矢理にその場にいた全員に酒を呑まされた。
あれは未だに謎である。


「姫殿下。お部屋に着きました。
 姫殿下?」

イザベラの私室に入り、長椅子にその身体を下ろす。
先に申し付けていた侍女が替えの靴を持って入ってきた。
心ここにあらずといった感じで靴を履くイザベラに、侍女も不思議そうな顔を一瞬だけしたが、
視線を王女の騎士に移すと、さもおかしそうに笑って退場した。
何がおかしいのかと首を捻るカステルモール。
それにしてもこの男、朴念仁にも程がある。

「――――決めたわ、カステルモール」

ややあって、考えに沈んでいたイザベラが顔を上げた。
家令を呼び、北花壇騎士に与える任務がしばらく無いことを確認すると、
猫のようなにやにや笑いを顔に浮かべる。

「父上は言ったわ。
 成果を上げれば文句はないと。
 なら、何をしようが成果を上げれば文句はないってことね。
 王の言葉は守られなければならないもの」
「成果、でございますか」

そしてイザベラは胸を張り、わがまま王女の面目躍如たる言葉を口にした。

「用意なさい、カステルモール。
 ふ、二人で今すぐアルビオンに向かうわ。
 アルビオンで、あのガーゴイル娘がなにをしようとしているのか確認するのよ。
 もしもよからぬ企みをしているのなら、わたしのこの手で叩き潰してやるんだから」

真っ赤な顔でそう言う王女を見つめ、カステルモールは密かに嘆息した。
ああ、まだ怒っていらっしゃる、と。








今回の没ネタ。

シェフィールドが父ジョゼフの使い魔だと知ったイザベラ。

「か、勘違いするんじゃないよ。
 こ、これはただのコントラクト・サーヴァントの儀式なんだからね」
(契約で縛らないと安心できぬほど、わたしが信用なりませんか、姫殿下)

その日から、毎朝毎晩コントラクト・サーヴァントの呪文を唱える少女の姿が見られたという。

とっぺんぱらりのぷぅ


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