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ゼロのアトリエ-35


初めは、誰もが無力だった。
不死身の勇者も、高名なる錬金術士も王室料理人も
初めは何の力もないごく普通の人間だったのだ。

だが、彼らは誰よりも夢や希望を強く抱き、追い続けた。
だからこそ世に名を轟かすほどの存在になれたのだ。
夢は、追いかけていればいつか必ず叶うものなのだから…



ゼロのアトリエ 35 ~グラムナートの錬金術士~



もうすぐ、約束しておいた雇用期間が過ぎる。
ロードフリードは空になった商品棚を眺め、掃除でもしておこうかとカウンターを離れた。
あの錬金術士は、今どこで何をしているのだろうか?

「ういーっす」
はたきをかけるロードフリードが次は掃き掃除だな、とほうきを視界に入れたあたりで、
くわを担ぎ、土だらけになったバルトロメウスが姿を現した。
「なんだまだ開けてたのか?外はもう暗くなってるし、今日はもう終わりでいいと思うぞ」
「そうか。まあ、掃除だけ終らせて帰ることにするよ」
ロードフリードは何事もなかったかのようにホウキを掴み、掃き掃除を開始した。
「お前も律儀だなあ。商品がなけりゃ客もいないんだし、んなの適当にやっつけりゃいいじゃねえか」
「そういう訳にはいかないよ。ヴィオが戻って来た時、がっかりさせたくはないからね」
「へいへい。全く、あれのどこがそんなにいいんだか」
バルトロメウスの冷やかしには反応を返さず、ロードフリードはかねてからの懸案事項を問うことにした。
「それにしても、今回の旅はちょっと長いと思わないか?」
「何だ、心配してんのか?大丈夫だって。あいつの事だ、どうせまた『何とかのモンスターさんをやっつけてきたよ!』
とか言いながら平気な顔で帰ってくるに決まってるって」
「そうか?まあ、たしかにヴィオが負ける姿は想像しにくいけどね」

兄の言葉が発せられるタイミングを見計らったかのように、
扉のベルが鳴り、待ちかねた来客を告げる。
「ただいま~」
満面の笑みを浮かべて帰ってきた店主の顔。
ヴィオラートの額には、村を出る前にはなかった何かの文字が刻まれているようだ。
新しい趣味か?それとも、また何か錬金術の為の何かだろうか。
「ほらな。こいつを心配するだけ損だぞ」
兄の妹に対する信頼が、ロードフリードの顔をほころばせる。
何だかんだ言っても、やはりこの二人は兄妹なのだ。
他人の入り込めない、見えない絆という物がある。

でも、自分の役目はバルトロメウスのように振舞うことではない。
ヴィオラートがロードフリードにどうあって欲しいか、自らがそれを受けてどうすべきか。
騎士精錬所を卒業し、村に帰ってきた時から、彼はいつもそのことを頭の片隅に置いて実践してきた。
今彼が望み、彼女が望むたった一つの言葉。
その一言でヴィオラートの冒険は一区切りついて、彼女はこの村の日常へと回帰する。
それもまた、ごくありふれた奇跡なのだろう。積み重ねた日常と絆が織り成す奇跡。
だから、彼はいつも通り、穏やかな笑みを浮かべてヴィオラートを迎えた。



「お帰り、ヴィオ」



雲をつくような巨大な樹に手を加えて作られた、空を行く船の桟橋。
その中腹に設けられたホールに、子供達の集団が輪を作っていた。
輪の中心にいた女性が、本を閉じて立ち上がる。
金色の髪が長い耳を掠め、動きのある美というものの形をさりげなく見せた。
「そろそろ時間よ。皆、お船に乗りましょう」
「えーっ、もっとイーヴァルディのご本読んで!テファお姉ちゃん!」
「ぼくももっと読んで欲しいなあ」
「あたしも!」
ティファニアは困ったような顔をして、子供達を見回す。
「みんな、イーヴァルディの勇者が大好きなのね?」
「うん!おおきくなったら私、錬金術士になるの!」
「ぼくは断然勇者だな!錬金術士より、勇者の方が強いもん」
「錬金術士の方が強いよ!爆弾も武器も作れるから」
「爆弾なんて使う前に勇者が勝つもん」
「ばかだな、勇者が気づく前に投げればいいじゃん」
「気づくもん!勇者ビーム出すもん!」
「あ、みんな、ちょっと落ち着いて。船の中で読んであげるから…」
話が変な方向に飛び火して収拾が付かなくなった子供達の輪。
対応に苦慮するティファニアに係員が近づき、時計を見て、伝えるべき事柄を伝えた。
「ウエストウッド孤児院ご一行様、間もなく出港時刻となりますが」
「あ、はい。すいません。さ、皆、あとはお船の中でね」
子供達は大人を困らせるのは大好きだが、大好きな大人が本当に困っている時は敏感に察知する。
あれほどやかましかった子供達は静かにティファニアの言う事に従い、船に向かう。
途中、ティファニアの姿をちらちら見る人はいたが、
それを何か特別な事だと感じる者は誰もいない。
ティファニアがその姿を隠さずとも外を出歩けるようになったのは、もう何年前の事になるだろうか。

「カロッテランド発、タルブ行き。ただいま出港いたしまーす」


それはあまりにも大きく、あまりにも美しい伝説だった。
親が子供に語って聞かせる夢物語。
誰もが知り、そして誰もが信じない。ありえないはずの奇跡。
ルイズが、ヴィオラートが、彼女達全てが確かに生きていたという証であり、新しき世界の日常。
そう、ただの日常を創り出すために彼女達はいくつの夜を越え、いくつの悲しみを耐えたのだろう。

ティファニアの閉じた『イーヴァルディの勇者』の表紙と、ここにある全ての艦船の横腹、
『港』である樹のそこかしこと、無数に配られたパンフレットの一角。
その全てに、にんじんを追加されたヴァリエール家の紋章が、誇らしげに輝いていた。


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