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封仙娘娘異世界編 零の雷 第一章 その一

 第一章  その女の名は

 一


天に浮かぶ巨大な二つの月が、殷雷を冷徹に見下ろしている。
……わざわざそんな表現をしてしまうのは、被害妄想故だろうか。
言うまでもないが、彼の居た世界では月は一つだった。

……ここは本当に異世界なのだろうか。それとも幻覚を見せられているのか。
もしくは彼を陥れるために造り出された大掛かりな舞台装置か――
それらの状況を引き起こせる宝貝を、頭の中で列挙してみる。

甚来旗、望全界、緩終鎖、擬戦盤、塊邪星、廊虚夢、轟武剣――

馬鹿馬鹿しい。彼は自嘲の笑みを浮かべ、本日三十八度目の溜息をついた。
ついでに二十三度目の舌打ちも付け加える。
それらの宝貝は全て、俺たちが苦難の末に回収した物ではないか。
今挙げた分だけではない。七百二十六――己を含めれば七百二十七――の欠陥宝貝は、
長い苦難の末、全て回収した。
旅は終わったのだ。
では、自分が今置かれているこの状況は何なのだ? そもそも一体何の意味がある?
たかが宝貝一つのために大袈裟すぎるのではないか?
……それがどうしても分からない。

――長い旅の間お互いを支え合ってきた、彼の相棒は今どうしているのだろう。
己の失敗が原因とは言え、全ての仙術を封じられ、ただの人間に身を落としながらも
弱音も吐かずに戦い抜いた彼女。
彼女は既に仙人としての力を取り戻している。『元・仙人』などという不名誉な肩書きも
もはや過去の話だ。

……彼女は、殷雷が消えたことに気付いただろうか。
気付いたとしたら、自分を迎えに来るだろうか。
以前と違い、ここは魔法の世界。
来るにしてもわざわざ仙術を封じるようなことはしないだろう。

まぁどちらにせよ、今の彼に出来ることは何もないのだが……

……そういえば、回収の旅を始めた頃の彼女は、今のルイズと同じくらいの年齢だったな。

 *

「――――ぬばぁ!」
海坊主のような奇声と共に、ルイズは跳ね起きた。
息が荒く、珠のような汗をびっしりと浮かべている。
「嫌な――すごく嫌な夢を見たわ」
「ほぉ」
「私は恐ろしい魔剣に身体の自由を奪われ、皆を次々と斬り殺すの……」
「それはそれは」
「最後には――私の力を奪い尽くした剣が、人の姿に化けて私を見下ろしていた……」
「夢で良かったではないか」
「あ、あのおぞましい顔……ダメ。思い出すだけで……」
「その魔剣とやら、こんな顔をしていなかったか?」
「ぎゃ――――――――――――――――!!」
絹を裂く、と言うには少しばかり色気の足りない悲鳴を上げ、ルイズの意識は再び闇へと落ちた。

何だこの三文芝居は。

……話が進まないので、殷雷はルイズを叩き起こした。
「夢じゃなかったとはね……」
「現実だ」
夢だと思いたいのは殷雷にとっても同じなのだが。
突然、ルイズがベッドの上で飛び跳ねた。
「――そうだ授業っ!?」
「もう夜だぞ」
「……ぐぁああああああぁ」

――ここはルイズの自室だった。
昼間の大爆走人間砲弾事件(仮)の後、気絶したルイズは医務室へと運び込まれ、
『治癒』の魔法を受けた。
殷雷の居た世界には治癒系の仙術はほとんど存在しない。
皆無というわけではないが、膨大な力が必要になるため、非常に効率が悪いのだ。
木箱が緩衝材になったお陰で彼女の怪我はそう大した物でもなかったのだが、
それでも見る見るうちに傷が塞がっていくのは驚くべき光景だった。
ただ、全ての傷が癒えても一向に目を覚まさないので、結局彼女の自室へと戻ったというわけだ。
十二畳ほどの広さの部屋の光源は、全て机の上の燭台(らしき物)によって賄われている。
昼間のように、とはいかないまでもこれで十分だった。

「……あんたのせいで授業サボっちゃったじゃない」
「その件に関しては謝る。すまん」
使用者を危険に晒してしまったという負い目からか、殷雷は素直に謝罪した。
武器の宝貝ともあろう者が平和ボケしていたなど、恥晒し以外の何物でもない。
「ん、わ、分かればいいのよ、うん。分かれば」
殷雷のような相手にこうも素直に謝られると、逆に困惑してしまうルイズであった。

 *

ドンドンドン。
「ちょっとルイズー? 何なのよさっきの大声はー?」
不機嫌そうに扉を叩く音と、それに劣らず不機嫌な声。
先ほどの悲鳴を聞きつけ、隣人が文句を言いにやって来たのだ。
すぐに扉が開いた。
「何だ。鍵掛かってないじゃない」
正確に言うと、鍵は壊れていた。より正確に言うと、鍵は壊してしまった。殷雷が。
伸びたルイズを背負って部屋に戻って来た時、鍵が見つからなかったのだ。
恐らく木箱に激突した時にでも落としたのだろう。
面倒だった殷雷は、とりあえず最も短絡的な行動で扉を開けたわけだ。
……もちろん、それでもできる限り直しやすいような壊し方をしたつもりだが。

部屋に入ってきたのは『微熱のキュルケ』こと、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
燃えるような赤い髪と褐色の肌、そして何よりその豊満な胸がルイズとは対照的な娘であった。
「……相変わらず地味な部屋ねぇ」
「そりゃあんたから見ればそーでしょうよ」
ルイズにしてみればキュルケの部屋の方が派手すぎるのだ。あらゆる意味で。
「あたしの部屋は来客が多いからね」
「男にだらしないだけじゃないのよ」
二人の間で火花が散る。……誰が見ても一目で分かる、犬と猿であった。

「――で、わざわざそんな事を言うために来たわけ? こんな夜更けに」
大声を出したことを咎めるだけなら部屋の外からで十分のはずだ。
「せっかくだから『ゼロのルイズ』が召喚したって言う、噂の使い魔を一目見ておこうと思ってね」
「私の部屋は見世物小屋じゃないわよ!」
俺は見世物扱いか、と突っ込みたい気持ちもあったが、この二人の会話に割り込む気にはなれなかった。
「そうよね。じゃあ、見物料はいらないわね」
――この牛野郎!
売り言葉あれば買い言葉あり。売って買って買って売って。
言葉の即売会とでも言ったところか。……取り扱うのが言葉の内はまだ平和なものだが。
怒りの臨界点を超えたルイズが杖を振り上げた辺りで、殷雷が割って入った。
……さすがにこれ以上放置すれば、流血沙汰になる。
「俺がその、ルイズの使い魔だが」
名乗り出るまでもなくキュルケは気付いていた。当然と言えば当然だが。
ジロジロと物色するような視線で眺め回すキュルケ。
「ふぅん……なかなかいい男じゃない。インテリジェンスソードだって聞いてたけど?」
「そのインテリ何とか言うのはよく分からんが、俺は刀の宝貝だ。名は殷雷」
「インライ、よろしくね。あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
 二つ名は『微熱』。微熱のキュルケよ」
……この世界の人間はどうしてこうも名前が長いのか。と言うか、どこからどこまでが名前なのやら。
「さっき『噂の』とか言っていたが……噂になっているのか?」
「そりゃ、あんだけ派手にやればねぇ」
もっともな話ではある。……どうもこの世界に来てから調子が悪いような気がする。
「お前にも使い魔はいるのか?」
「――そうよ! あんたも見せなさいよ、使い魔を!!」
ここぞとばかりに口を挟むルイズ。
キュルケはあっさりと答えた。
「部屋で寝てるわ。もう遅いしね」

……そう言えば、今何時だろう。
そろそろ就寝しなければ明日の授業に差し支えるのではないか。

「ン……そろそろ部屋に戻るわ。あたしも眠くなってきたし」
「ちょっ、話はまだ終わってないわよ!」
「じゃあね、インライ。また明日」
ルイズの罵声を無視し、キュルケはさっさと部屋を出て行ってしまった。

「……なんなのよ、あいつは!!」
俺に言われても困る。とは思っても口には出さなかった。
ルイズが目覚めてからまだ小一時間も経っていないのだが、結局また改めて寝ることにした。
「あんたは床で寝なさい!」
ルイズの機嫌はまだ直らない。
殷雷は特に反論もせず、刀の姿に戻り床に転がった。
……全く反論もされないというのも、それはそれで拍子抜けしてしまう。
どこまでも難儀なご主人様である。

「……………眠れない!」

黙って、寝ろ。
殷雷刀は無視を決め込んだ。

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