ここはトリステイン辺境の貴族の屋敷。
時は真夜中、見回りの兵隊が船をこぎ始めるそんな真夜中。
双子の月の月光射すそこへ黒い巨大な影が現れる。
それは土のゴーレム、どでかいどでかい土のゴーレムだった。
誰もが見上げ、そして驚く。
そのでかさ、その雄大さ、何より力強さに。
肩に乗る女はそんな彼らを見てにんまりと笑む。
そして自分用にあしらえた奇怪な眼鏡をくい、と直して深呼吸。
そして、
「やいやいやいやい! お前ら聞きな! 私はフーケだ、『土くれ』フーケだ!」
天を指差し、
「物を盗ませたなら天下一! スクエアだって土にする! そんな私が
てめえらのお宝いただきにただいま参上だよ!」
力いっぱい叫んだ。
それは大地を貫き天を突く雄叫び、女とは思えぬ豪快な咆哮。
盗賊フーケ、その名を聞き屋敷中から衛兵達が、ガーゴイル達が
メイジたちが大慌てで出てくる。
そして、向かいかかってくる全ての者達がこちらに武器を向けてくる。
それにフーケは気持ちの良い笑みを浮かべてそれを見やる。
「おう、上等だよあんた達! そうでなきゃつまんないってね!」
顔は隠すが身は隠さず、両者は大激突する。
フーケはひたすらに真っ直ぐ突っ込む、真っ直ぐ、真っ直ぐ。
屋敷の宝物庫を狙って真っ直ぐ、真っ直ぐ。
時は真夜中、見回りの兵隊が船をこぎ始めるそんな真夜中。
双子の月の月光射すそこへ黒い巨大な影が現れる。
それは土のゴーレム、どでかいどでかい土のゴーレムだった。
誰もが見上げ、そして驚く。
そのでかさ、その雄大さ、何より力強さに。
肩に乗る女はそんな彼らを見てにんまりと笑む。
そして自分用にあしらえた奇怪な眼鏡をくい、と直して深呼吸。
そして、
「やいやいやいやい! お前ら聞きな! 私はフーケだ、『土くれ』フーケだ!」
天を指差し、
「物を盗ませたなら天下一! スクエアだって土にする! そんな私が
てめえらのお宝いただきにただいま参上だよ!」
力いっぱい叫んだ。
それは大地を貫き天を突く雄叫び、女とは思えぬ豪快な咆哮。
盗賊フーケ、その名を聞き屋敷中から衛兵達が、ガーゴイル達が
メイジたちが大慌てで出てくる。
そして、向かいかかってくる全ての者達がこちらに武器を向けてくる。
それにフーケは気持ちの良い笑みを浮かべてそれを見やる。
「おう、上等だよあんた達! そうでなきゃつまんないってね!」
顔は隠すが身は隠さず、両者は大激突する。
フーケはひたすらに真っ直ぐ突っ込む、真っ直ぐ、真っ直ぐ。
屋敷の宝物庫を狙って真っ直ぐ、真っ直ぐ。
――ただ、真っ直ぐ
氷の矢が飛ぼうと火の玉が飛ぼうと構いやしない。
ニッカリ笑って貴族に逆らって、道理を蹴飛ばし信念突き通す。
狙った宝はがっちりいただき、気に食わない奴等もまとめてぶっ飛ばす。
「土くれのフーケ! 今度はチミルフ様のお屋敷も狙うとは!」
「はん、黙りなアホ貴族! アンタらみたいに偉ぶってる奴等はどうにも
気に食わないのさ!」
飛びかかってきた男を鞘に入った奇妙な形の剣で叩き落す。
ガーゴイルはゴーレムの腕で殴り飛ばす。
意地で支えて、気合で進む。
でかい顔面(がんめん)のさばる奴は、拳で殴って退かせてみせる。
スクエア・トライアングルなんて関係ない。
ただ一体のゴーレムを操って彼女は盗みを行いそしてやってのける。
彼女はただの盗賊ではない、真っ直ぐな盗賊。
技術も何もあったもんじゃない、盗みをする前には真正面から宣言する。
そして真っ直ぐぶつかって毎回大乱闘の大活劇。
屋敷一つを丸ごとぶっ飛ばすその戦い方は大雑把極まりない。
しかし、そんな彼女の盗みを人は歓迎した。
なぜなら、フーケは皆が気に食わない奴等をぶっとばすからだ。
誰もが気に食わない、でかい顔をのさばらせる傲慢貴族どもを
ぶっ飛ばすからだ。
そんな女の喧嘩花道、使うゴーレム顔二つ、後に残すは一つのマーク、
とんがり眼鏡をかけた弩派手な髑髏。
去るときに彼女は謳う、いつもこの一言を。
ニッカリ笑って貴族に逆らって、道理を蹴飛ばし信念突き通す。
狙った宝はがっちりいただき、気に食わない奴等もまとめてぶっ飛ばす。
「土くれのフーケ! 今度はチミルフ様のお屋敷も狙うとは!」
「はん、黙りなアホ貴族! アンタらみたいに偉ぶってる奴等はどうにも
気に食わないのさ!」
飛びかかってきた男を鞘に入った奇妙な形の剣で叩き落す。
ガーゴイルはゴーレムの腕で殴り飛ばす。
意地で支えて、気合で進む。
でかい顔面(がんめん)のさばる奴は、拳で殴って退かせてみせる。
スクエア・トライアングルなんて関係ない。
ただ一体のゴーレムを操って彼女は盗みを行いそしてやってのける。
彼女はただの盗賊ではない、真っ直ぐな盗賊。
技術も何もあったもんじゃない、盗みをする前には真正面から宣言する。
そして真っ直ぐぶつかって毎回大乱闘の大活劇。
屋敷一つを丸ごとぶっ飛ばすその戦い方は大雑把極まりない。
しかし、そんな彼女の盗みを人は歓迎した。
なぜなら、フーケは皆が気に食わない奴等をぶっとばすからだ。
誰もが気に食わない、でかい顔をのさばらせる傲慢貴族どもを
ぶっ飛ばすからだ。
そんな女の喧嘩花道、使うゴーレム顔二つ、後に残すは一つのマーク、
とんがり眼鏡をかけた弩派手な髑髏。
去るときに彼女は謳う、いつもこの一言を。
「私を誰だと思っていやがる! 私はフーケだ、土くれのフーケだ!」
これは、永劫連なる運命においてそれに風穴を開けた女の物語
没落貴族になっても尚、己の不幸を嘆かなかった女の話だ
真っ直ぐ理不尽を蹴っ飛ばし、逃げず引かず振り向かなかった女の話だ
そんな彼女の胸に生きる一人の男、その背中、その言葉
彼は一度死んだ男だった
欲望に忠実に奔放に生き、仲間を愛して自由を目指し、散った
これはそんな女の、一度死んだ男との物語だ
没落貴族になっても尚、己の不幸を嘆かなかった女の話だ
真っ直ぐ理不尽を蹴っ飛ばし、逃げず引かず振り向かなかった女の話だ
そんな彼女の胸に生きる一人の男、その背中、その言葉
彼は一度死んだ男だった
欲望に忠実に奔放に生き、仲間を愛して自由を目指し、散った
これはそんな女の、一度死んだ男との物語だ
―――――9年前
アルビオンはサウスゴータ、当年14歳のマチルダ・オブ・サウスゴータ
は非常に、凄まじく、とてつもなく、暇だった。
貴族の生活は退屈というのが常だ。
父は名ばかりの太守、治めているのは議会なので大してする事はない。
食事は心配せずとも出てくる。
服は召使が出してくれて着替えさせてくれる。
そんな暇と退屈だらけの日々、彼女がそんな退屈しのぎを紛らわすのに
サモン・サーヴァントに手を出すのはそう遠くなかった。
「トリステイン魔法学院………ねぇ」
ベッドの上で寝転がりながら取り寄せた教科書を流し読む。
この教科書はあの高名なトリステイン魔法学院でも御用達の教科書とか
言うが、特にめぼしいと思えるものがない。
トライアングルに近いレベルの魔法の腕を持つマチルダは大体の
魔法をこなすことができる。
系統は『土』、たまにメイドを脅かしたりするのにゴーレムを使ったり
したこともある。
すぐにつまらなくなってやらなくなったが。
そんな彼女が教科書を流し読みし、ようやくおもしろそうだと思えたのが
『サモン・サーヴァント』の項だった。
「ふぅん、使い魔ね。召使がいるし要らなかったけど、おもしろそうよね。
…………うん、よし!」
ベッドから跳ね上がるように飛び降りると、マチルダは窓際の机に置いた
タクトを取った。
「さて、呪文呪文………っと」
タクトの代わりに机の上に置いた本をめくりながらサモン・サーヴァント
の唱え方をぱらぱらと流し読む。
魔法の腕には自身があるので失敗なんてまず在り得ない。
というかコモン・マジックなのだ、失敗したらよっぽどの能無しだ。
「ま、大体唱え方も分かった事だしやってみますか!」
タクトを振り上げ、呪文を唱える。
さて、どんな使い魔が現れるのか。系統に沿った使い魔がでてくると
いうのでグレートモールか?
それとも、ミミズ?ああ、それは嫌だな。もっと可愛いのが良い。
もしできるのならドラゴンとかなら最高だ。
空を自由に飛びまわりたい。
そんな期待の入り混じった気持ちを胸にいっぱいにしてマチルダは
その呪文を唱えた。
「我が名はマチルダ・オブ・サウスゴータ! 五つの力を司るペンタゴン!
我の運命に従いし使い魔を招喚せよ!」
だが、この時マチルダは僅かなミスをしていたのに気づかなかった。
それはほんのちょっと、ちょっぴりの間違い。
だが、それこそが彼女の運命を大きく変えることになる。
ただの盗賊フーケになる運命を大きく変える。
「きゃあ!?」
開くゲート、鏡が眩く光り、マチルダの部屋を閃光が満たした。
そのあまりのまぶしさにマチルダは驚き目を瞑った。
そして、続いて聞こえる何かが倒れる音。
ゆっくり瞳を開き、マチルダはその正体を見た。
「あ―――ッ!?」
息を呑み、少女はその場にへたり込む。
そこにいたのは血まみれの男、今にも息絶えそうなズタボロの男。
「お、お母様! お母様ァァーーーー!!」
叫び、マチルダは部屋を飛び出した。
は非常に、凄まじく、とてつもなく、暇だった。
貴族の生活は退屈というのが常だ。
父は名ばかりの太守、治めているのは議会なので大してする事はない。
食事は心配せずとも出てくる。
服は召使が出してくれて着替えさせてくれる。
そんな暇と退屈だらけの日々、彼女がそんな退屈しのぎを紛らわすのに
サモン・サーヴァントに手を出すのはそう遠くなかった。
「トリステイン魔法学院………ねぇ」
ベッドの上で寝転がりながら取り寄せた教科書を流し読む。
この教科書はあの高名なトリステイン魔法学院でも御用達の教科書とか
言うが、特にめぼしいと思えるものがない。
トライアングルに近いレベルの魔法の腕を持つマチルダは大体の
魔法をこなすことができる。
系統は『土』、たまにメイドを脅かしたりするのにゴーレムを使ったり
したこともある。
すぐにつまらなくなってやらなくなったが。
そんな彼女が教科書を流し読みし、ようやくおもしろそうだと思えたのが
『サモン・サーヴァント』の項だった。
「ふぅん、使い魔ね。召使がいるし要らなかったけど、おもしろそうよね。
…………うん、よし!」
ベッドから跳ね上がるように飛び降りると、マチルダは窓際の机に置いた
タクトを取った。
「さて、呪文呪文………っと」
タクトの代わりに机の上に置いた本をめくりながらサモン・サーヴァント
の唱え方をぱらぱらと流し読む。
魔法の腕には自身があるので失敗なんてまず在り得ない。
というかコモン・マジックなのだ、失敗したらよっぽどの能無しだ。
「ま、大体唱え方も分かった事だしやってみますか!」
タクトを振り上げ、呪文を唱える。
さて、どんな使い魔が現れるのか。系統に沿った使い魔がでてくると
いうのでグレートモールか?
それとも、ミミズ?ああ、それは嫌だな。もっと可愛いのが良い。
もしできるのならドラゴンとかなら最高だ。
空を自由に飛びまわりたい。
そんな期待の入り混じった気持ちを胸にいっぱいにしてマチルダは
その呪文を唱えた。
「我が名はマチルダ・オブ・サウスゴータ! 五つの力を司るペンタゴン!
我の運命に従いし使い魔を招喚せよ!」
だが、この時マチルダは僅かなミスをしていたのに気づかなかった。
それはほんのちょっと、ちょっぴりの間違い。
だが、それこそが彼女の運命を大きく変えることになる。
ただの盗賊フーケになる運命を大きく変える。
「きゃあ!?」
開くゲート、鏡が眩く光り、マチルダの部屋を閃光が満たした。
そのあまりのまぶしさにマチルダは驚き目を瞑った。
そして、続いて聞こえる何かが倒れる音。
ゆっくり瞳を開き、マチルダはその正体を見た。
「あ―――ッ!?」
息を呑み、少女はその場にへたり込む。
そこにいたのは血まみれの男、今にも息絶えそうなズタボロの男。
「お、お母様! お母様ァァーーーー!!」
叫び、マチルダは部屋を飛び出した。
「う………」
そんな彼女の声を、男は微かにだが聞いていた。
その声を遠くに聞きながら彼は思う。
痛みよりも、生きている喜びよりも、何故ここにいたのか不思議に思う。
自分の死に悲しむ兄弟や仲間達の姿を思う。
今頃あいつらはどうしているのだろうかと思う。
いや、心配する事はないな。
男はそいつの顔を思い出し、にんまりと笑んだ。
あいつならきっと皆を引っ張っていけるはずだと確信していた。
なぜならアイツは、自分の大事な弟分でかけがえのない相棒なのだから。
安心すると、急に力が抜けるのを感じた。
また死ぬのか、そう考えるが頭が朦朧としてはっきりしない。
誰かが駆け寄る音がするが、目を開ける力もない。
そんな脳裏に唯一つ浮かぶのは惚れた女と大事な相棒。
「なんか眠てえぜ………シモン、ヨーコ」
はぁ、と溜息をつき男は―――――カミナは気を失った。
そんな彼女の声を、男は微かにだが聞いていた。
その声を遠くに聞きながら彼は思う。
痛みよりも、生きている喜びよりも、何故ここにいたのか不思議に思う。
自分の死に悲しむ兄弟や仲間達の姿を思う。
今頃あいつらはどうしているのだろうかと思う。
いや、心配する事はないな。
男はそいつの顔を思い出し、にんまりと笑んだ。
あいつならきっと皆を引っ張っていけるはずだと確信していた。
なぜならアイツは、自分の大事な弟分でかけがえのない相棒なのだから。
安心すると、急に力が抜けるのを感じた。
また死ぬのか、そう考えるが頭が朦朧としてはっきりしない。
誰かが駆け寄る音がするが、目を開ける力もない。
そんな脳裏に唯一つ浮かぶのは惚れた女と大事な相棒。
「なんか眠てえぜ………シモン、ヨーコ」
はぁ、と溜息をつき男は―――――カミナは気を失った。
【次回予告】
ふとして思い出す昔のこと
哀しい事、嬉しい事、怒った事、驚いた事
語りつくせば日はまた昇り、昇った朝日にアイツを思う
あの日出会った規格外、カミナという漢を思い出す
哀しい事、嬉しい事、怒った事、驚いた事
語りつくせば日はまた昇り、昇った朝日にアイツを思う
あの日出会った規格外、カミナという漢を思い出す
次回、『ゼロの使い魔異聞~お前の魔法で天を突け!~』
「あんた、私の召使になりなさい」