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ゼロのアトリエ-34


トリステインの城下町、ブルドンネ街では派手に戦勝記念のパレードが行われていた。
聖獣ユニコーンにひかれた王女アンリエッタの馬車を先頭に、高名な貴族たちの馬車が後に続く。
その周りを魔法衛士隊が警護している。
そして、荷馬車を装飾して急遽作られたお立ち台の上に、イーヴァルディの勇者。
アンリエッタの馬車のすぐ後に、引きつった愛想笑いを浮かべて手を振るシエスタと、
豪華に着飾り、不承不承笑みを返すマチルダ・オブ・サウスゴータの姿があった。

狭い街路にはいっぱいの観衆が詰め掛けている。
通り沿いの建物の窓や、屋上や、屋根から人々はパレードを見つめ、口々に歓声を投げかけた。
「アンリエッタ王女万歳!」
「トリステイン万歳!」
「我らがイーヴァルディに栄光あれ!」
観客達の熱狂ももっともである。
なにせ、王女アンリエッタが率いたトリステイン軍は先日、
不可侵条約を破って侵攻してきたアルビオン軍をタルブの草原で打ち破ったばかり。
あの伝説の『イーヴァルディの勇者』と共闘し、
数で勝る敵軍を完勝に近い勝利で叩きのめした王女アンリエッタは、
まさに『聖女』と崇められ、いまやその人気は絶頂であった。
この戦勝記念のパレードが終り次第、アンリエッタには戴冠式が待っている。
母である太后マリアンヌから王冠を受け渡される運びであった。
これには枢機卿マザリーニを筆頭に、ほとんどの宮廷貴族や大臣達が賛同していた。

隣国のゲルマニアは渋い顔をしたが、皇帝とアンリエッタの婚約解消を受け入れた。
一国にてアルビオンの侵攻軍を打ち破ったトリステインに、強硬な態度が示せるはずもない。
ましてや、イーヴァルディの勇者の存在を力技で証明されては、同盟の解消など論外だ。
アルビオンの脅威に怯えるゲルマニアにとって、トリステインは今やなくてはならぬ強国である。
つまり、アンリエッタは自分の手で自由を掴んだのであった。



賑々しい凱旋の一行を、中央広場の一角でぼんやりと眺める敗軍の一団がいた。
捕虜となったアルビオン軍の貴族たちだ。捕虜といえど、貴族にはそれなりの待遇が与えられる。
杖こそ取り上げられたものの、縛られる事もなく、思い思いに突っ立っている。
周りには見張りの兵が置かれたが、逃げ出そうなどと考える者はいなかった。
貴族は捕虜となる際に捕虜宣誓を行う。その宣誓を破って逃げ出そうものなら、名誉と家名は地に落ちる。
何より名誉を重んずる貴族たちにとって、それは死に等しい行為なのだ。

その一団の中に、日焼けした浅黒い肌が目立つ精悍な顔立ちの男の姿があった。
ルイズの『二重奏』の中で炎上沈没した巨艦レキシントン号の艦長、サー・ヘンリー・ボーウッドである。
彼はやはり同じく捕虜となった傍らの貴族をつついて言った。
「見ろよホレイショ。ぼくたちを負かした『聖女』たちのお通りだぜ」
ホレイショと呼ばれた貴族は、でっぷりと肥えた体を揺らしながら答えた。
「ふむ…イーヴァルディの勇者とやらがどんな化け物かと思えば、可愛らしいものではないか。
女王の即位は前例のない事でもあるし、大丈夫なのかね?未だ戦争が終ったわけではないのだがな」
「君は歴史を勉強すべきだよ。かつてガリアで一例、トリステインでは二例、女王の即位があったはずだ」
ボーウッドにそう言われて、ホレイショは頭をかいた。
「歴史か。してみると、我々はあの『聖女』たちの輝かしい歴史の一ページを飾るに過ぎない、
リボンの一つと言うべきかな。戦場を包んだあの虹と、我らを操った何とも心地よい旋律!驚いたね!」
ボーウッドは頷いた。レキシントン号の上空に輝いた虹の魔法陣は、見る間に拡大し…
その後にやって来た二重奏が、全てを決した。彼等は自ら艦を壊し、戦いを放棄したのだ。
何より驚くべき事は…その二重奏は誰一人として殺さなかった事である。
艦隊は彼ら自身によって破壊されたが、艦に乗っていた者は全て生きながらえている。
「まさに『奇跡』だね、全く。あんな魔法は見たことも聞いたこともない。
いやはや、我が『祖国』は恐ろしい敵を相手にしたものだ!」
ボーウッドは呟いた。そして近くに控えた、大きなハルバードを持ったトリステインの兵士に声をかける。
「きみ、そうだ、きみ」
兵士は怪訝な顔をしたが、すぐにボーウッドに近寄る。
「お呼びでしょうか?閣下」
敵味方を問わず、貴族には礼が尽くされる。至極丁寧な物腰で兵士はボーウッドの言葉を待った。
「ぼくの部下達は不自由していないかね。食わせるものは食わせてくれているかね?」
「兵の捕虜は一箇所に集められ、トリステイン軍への志願者を募っている最中です。
そうでない者は強制労働が課せられますが…ほとんど、我が軍へ志願するでしょう。
あれだけの大勝利ですからな。まあ、胃袋の心配はされなくても結構です。
捕虜に食わせるものに困るほど、トリステインは貧乏ではありませぬ」
胸を張って兵士は答えた。ボーウッドは苦笑を浮かべると金貨を取り出し、兵士に握らせる。
「これで聖女達の勝利を祝して、一杯やりたまえ」
兵士は直立して、にやっと笑った。
「おそれながら閣下の健康のために、一杯頂く事にいたしましょう」
立ち去っていく兵士を見つめながら、ボーウッドはどこか晴れ晴れとした気持ちで呟いた。
「もしこの忌々しい戦が終って、国に帰れたらどうする?ホレイショ」
「もう軍人は廃業するよ。なんなら杖を捨てたってかまわない。あんなものを聴かされてしまったあとではね」
ボーウッドは大声で笑った。
「気が合うな!ぼくも同じ気持ちだよ!」


枢機卿マザリーニはアンリエッタの隣で、にこやかな笑顔を浮かべていた。
ここ十年は見たことのない、屈託のない笑みだ。
馬車の窓を開け放ち、街路を埋め尽くす観衆の声援に、手を振って答えている。
彼は自分の左右の肩に乗っかった二つの重石が軽くなった事を素直に喜んでいた。
内政と外交、二つの重石である。その二つをアンリエッタに任せ、自分は相談役として退こうと考えた。
マザリーニはそのために、残った懸案を――
まず、すぐ後で手を振っているマチルダ・オブ・サウスゴータをちらりと見て、アンリエッタに問うた。
「殿下。かの者の処遇ですが…本当によろしかったのですか?事情があったとはいえ、盗賊は盗賊。
彼女を公的に許し、『イーヴァルディの勇者』の仲間と認めるということは、国法の原則を曲げること。
将来的に禍根を残す結果になりはしないかと…」
「マザリーニ」
アンリエッタは国民に優しげな笑顔を向けたまま、きっぱりと告げた。
「わたくしはかの錬金術師の献策を採用すると決めました。土くれのフーケはあの戦場のいずこかで死に、
通りすがりのマチルダ・オブ・サウスゴータが『イーヴァルディの従者』となったのです」
言い切ったアンリエッタの自信と威厳に満ちた態度に、マザリーニは思わず追従したくなったが、
この場はこらえてもう一つ、本命の懸案事項を問いかけた。
「その『錬金術師』とやらにしてもです!ヴァリエール殿の発案とはいえ、未知の『錬金術』とやらを公的に認め、
国家としての支援を約定するなどあまりにも厚遇が過ぎまする!他の貴族たちに示しが…」
「マザリーニ」
アンリエッタは一瞬国民に答える手を止めると、マザリーニに向き直って宣告する。
「わたくしにルイズを信じよと言わなくて、誰を信用しろというのです?
これが以前のルイズであれば、わたくしもあのような提案を受け入れはしません。
戦場で見事に己を示し、確固とした芯を持った今のルイズだからこそ言えるのです。
それに、救国の伝説に対する答礼としては、これでもあまりに過小だとは思いませんか?」
それだけ言うと、アンリエッタは道を埋め尽くす国民に再度、挨拶を返し始めた。
「姫様!だとしても、おさまらぬ事情というものがあるのです!政治というものを知っていただきませんと、
これから先は『姫』であるだけではやっていけない事態も待ち構えているのですぞ!」
「まあ、大変ですね。でも、その調整のためにあなたたち政治家という職があるのでしょう?頑張ってはくれないのですか?」
「姫様!」
冗談か本気か。くすくすと含み笑いを漏らすアンリエッタに釣られて笑っている自分に気付き、
おそらく生涯現役を貫かねばならぬなと、決意を新たにするマザリーニ。
「どうせルイズに救われた国。ならば、そのルイズに未来を託してみるのも良いかもしれません」
アンリエッタの誰に言うでもない呟きを聞きながら、窓の外を見上げる。
そこにはあの日とは違う、雲ひとつない青空が当たり前のように広がっていた。


ゼロのアトリエ 34 ~望郷の小夜曲~

さて一方、こちらは魔法学院。戦勝で沸く城下町とは別に、表面上はいつもと変わらぬ雰囲気の日常が続いている。
タルブでの王軍の勝利を祝う辞が朝食の際に学院長のオスマン氏の口から出たものの、
他にはとりたてて特別な事も行われなかった。やはり学び舎であるからして、一応政治とは無縁なのだ。
ハルケギニアの貴族にとって、戦争はある意味年中行事であり、いつもどこかとどこかが小競り合いをしている。
始まれば騒ぎもするが、戦況が落ち着いたらいつものごとくである。

そんな中、学院外の草原でとある儀式が行われようとしていた。
巨大な魔法陣と、そこここに配置された竜の砂時計。
あの勝利から既に何日経っただろうか、ヴィオラートたちが協力して作り上げた秘儀の祭壇。
キュルケ、タバサ、コルベール。ギーシュと使い魔、そしてルイズとヴィオラート。
ヴィオラートに縁があり、また、錬金術に興味を持った彼らが一堂に会し、行うのは…召喚の儀式。
ヴィオラートは美しい鈴を鳴らし、その動作を確かめていた。
一人だけ錬金術に縁のなかったギーシュが、自分だけ心持ち浮いているような感触を味わいながらも問う。
「それで、その…『神の浮船』ってやつを操るわけかい?」
「うん、エスメラルダさんから受け取った『フォルグロッケ』に、効果を上乗せしてあるから…」
ヴィオラートは効果に納得したのか、その『フォルグロッケ』をしまいこむと、まずコルベールに向き直った。
「コルベール先生、お世話になりました」
「あ、ああ。うん。貴女が行ってしまうと寂しくなりますね…ああ、いや、別にその、
残って欲しいとかそういうのではなく、技術の発展に有意義な話ができたというのが、
私としても正直稀なる僥倖であったわけですが」
コルベールは奥歯に物の挟まったようなつかみどころのない言葉を連ねると、
ヴィオラートと魔法陣をちらちらと見比べ、他の皆の視線に気付いて、取り繕うように言った。
「えーおほん!それでは、実証試験を執り行いましょう。皆さん、砂時計を取ってください」
ルイズ達は肩をすくめると、それぞれ一つの砂時計を手に取り、何かの呪文を唱え始める。
魔法陣が輝き、その上空…魔法学院の塔の先端より遥かに高い空に、天を隠す巨大なゲートが姿を現す。
「開いた…これが、『時空の扉』というものですか…」
感嘆するコルベールをよそに、ヴィオラートは開かれた『扉』に『フォルグロッケ』を向け、
一定のリズムで鳴らした。
まるでそのリズムに操られたかのように、中から巨大な船が音もなく現れて、進み出る。
「すごい…」
言葉を失う一同の中で、コルベールだけがようやく一言を発して、その船を観察する。
その船…『神の浮船』は皆の驚きなどどこ吹く風でゆるゆると降下を始め、
学院そばの草原に船底を横たえる。
かの『レキシントン』の何倍あるのだろうか。

皆が『神の浮船』の大きさ、あるいは神秘的なたたずまいに心奪われる中、
ヴィオラートはしずしずと歩を進め、巨大な船の傍らに手を触れる。
手を触れた場所に穴が開き、ちょうど人が通れるぐらいの大きさに広がって、固定化した。
ヴィオラートが開いた『入り口』の前に立ったその時、
最後の最後まで迷っていたコルベールの口をついて、秘めていた言葉が飛び出した。
「私も…連れて行ってはくれないだろうか?」
「先生!?」
ルイズ達は驚いて、コルベールとヴィオラートを交互に見比べる。
「私も、錬金術というものの全てを学んでみたいのです!ミス・プラターネ!」
熱の篭ったコルベールの言葉は、それを見る者の心に例外なく彼の覚悟を感じさせたであろう。
だが、しかし。ヴィオラートは黙って首を振る。
「コルベール先生には、頼みたいことがあるんです」
コルベールに真摯な眼差しを向け、ヴィオラートは言った。
「ルイズちゃんを、支えてください」
コルベールが、いやこの場にいる皆がその意味を図りかねて、沈黙が辺りを包む。
「そうだ。タバサ、あなた、ヴィオラートに報告したい事があるって言ってたわよね?」
空気を変えるキュルケの提案にタバサがぴくっと反応し、
そのまま、迷いを振り切るように前に進み出て、
独特の鱗のような模様の付いた容器を両手で掲げ、ヴィオラートに見せた。
「できた」
短く言って、ヴィオラートの反応を待つ。
「うわあ、タバサちゃんが作ったの?凄いじゃない!秘薬ウロボロスを作るのは、もっと後になると思ってたけど…」
にこやかに喜ぶヴィオラートを前に、タバサは小さな唇を震わせて、呟いた。
それは、親しい人間を作ろうとしなかったタバサが一歩踏み出すことを決めた、ほんの少しの勇気。
「…が…とう…」
「ん?」
ヴィオラートのいる間、命がけの戦いの最中でさえ表情を変えなかったタバサの顔が崩れた。
「…あり…が…とう…」
眼鏡に溜まるしずくを一顧だにすることなく、目の下を手でこすって、幼子のように泣いた。
「ど、どうしたの?タバサちゃん?」
しゃくりあげるタバサをどう扱っていいかわからず、ヴィオラートは思わずキュルケに助けを求めた。
「貴女の錬金術が、タバサを救ってくれたって事よ。あたしからもお礼を言わせてもらうわ。ありがとう、ヴィオラート」
「そ、そうなの?なんだかよくわからないけど、どういたしまして」
なんだか要領を得ないので、とりあえずタバサの頭に手を置いて、優しく撫でてみる。
少しずつ泣き声はおさまり、タバサはまた、いつもの無表情に戻る。こころなしか、顔を赤らめているようだ。
また、しばしの静寂の後、ルイズが我に返って呼びかける。
「…ヴィオラート!」
ヴィオラートはあらためて振り返り、ルイズの顔に浮かぶ別離の哀しみを見て取って、ある魔法を使った。
それは、魔法でない魔法。知恵と優しさを兼ね備えた者だけが使える、ありふれた魔法のタネ。
「もう、そんな顔しなくてもいいじゃない」
「でも…この世界には帰ってこないんでしょ?元の世界で、暮らすんでしょ?」
泣いてこそはいないが、悲しみをこらえてうつむくルイズに、
ヴィオラートはこれまでにない慈しみを含ませた声で、語りかけた。
「うん。あたしは、自分が帰るだけで精一杯。自分でもう一度この世界に来ることは、多分ないと思う」
ヴィオラートの言葉を待ち、ルイズは俯くのをやめる。
「あたしにはできなかった。それなら…」
そこで言葉を切ると、ヴィオラートは顔に満面の笑みを浮かべて、タネを明かす。
「ルイズちゃんが、あたしを超える錬金術師になったら?」
世の人はそれを『希望』とでも言うのだろう。
それ一つで、今生の別れを予感していた場の空気が一変した。
その言葉に、ルイズははっとなって顔を上げる。
コルベールもキュルケもタバサも、ヴェルダンデさえ空気を読み取って、一斉にルイズへと視線を向けた。
「皆、少なくとも、この鈴と砂時計を作る技術を身につけることはできると思うんだ。
これの作り方はちゃんと錬金術書に残してあるから、それが理解できるようになって、材料を揃えられたら…ね?
これが、あたしがルイズちゃんに教えられる最後の課題。言ってみれば、卒業試験ってとこかな?」
そうだ。ヴィオラートにできなくても、未来永劫できないと諦めることはない。
ヴィオラートがせっせと書き溜めた錬金術書に、要素は全て残されている。
それさえあれば、少なくとも今行っている儀式を再現する事は可能かもしれない。
再現できなければ代用となる手段を探し、また、新たな可能性を作る。

そうだ、あの日悟った可能性に満ちた世界、ルイズがそれを体現できるかどうか。
それを改めて実証する機会がやってきたのだ。
「別の何かに理想を求める前に。ルイズちゃんなら変えられるはずだよ、この世界を!」
一度忘れたはずの諦めに侵食されていた事に気づいたルイズは、ぷるぷると頭を振って答える。
「そう。そうよね。貴女にできなくても、私にできないとは限らないわよね。
見てなさい、貴女がいなくたって、この世界の皆で乗り越えてみせる」
ルイズは…ヴィオラートに出会う以前とは別人のように成長したルイズは、
ヴィオラートに挑むような視線を送りつけて、全身全霊をかけた誓いを世に放った。
「きっと創り出してみせるわ!二つの世界の架け橋を!」
ルイズのその言葉にヴィオラートは勇気付けられ、
初めて出会った時のような…お日さまのような微笑を浮かべると、
しずかに…音もなく、神の浮船に足を踏み入れる。
「皆、今までありがとう。それじゃ…」

「またね」

神の浮船は ゆっくりと空を巡り、掌に収まるぐらい小さくなって…
そして…消えた。

ルイズの進む道は、この日決められた…いや、ルイズ自身が、己のあるべき姿を選び取った。
皆が寂寥感を漂わせながら一人、また一人と去って行き、草原が静寂と二つの月の光に包まれた後も。
ルイズだけが、神の浮船が消えた空の彼方を見つめていた。いつまでも、いつまでも。


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