アンリエッタがまだ王女だったころ、ラグドリアン湖の南に「ガイア教」という怪しい宗教が流行っていた。
それを信じないものは恐ろしい祟りに見舞われるという。
その正体は何か?
イザベラはガイア教の秘密を探るため、トリステインから秘密のメイジを呼んだ。
その名は……雪風参上!
それを信じないものは恐ろしい祟りに見舞われるという。
その正体は何か?
イザベラはガイア教の秘密を探るため、トリステインから秘密のメイジを呼んだ。
その名は……雪風参上!
赤雪のタバサ 第4話
「……ッ!」
横に転がり、巨大ガマガエルののしかかりを避けるタバサ。間一髪、潰されずにすむ。
『思ったより身軽い…』
普通これだけの大きさならばもうちょっとノロマでも仕方がない。身体の大きさに比例して動きが鈍くなるのは当然なのだ。しかし、今のカエルの動きは並みの人間なら潰されていてもおかしくない速度であった。タバサが避けることができたのは、皮肉にもこれまで与えられた過酷な任務をこなすうちに身についた体術のおかげであった。タバサの基本戦術は手数とスピード。相手の動きを読み、敵の攻撃を避け、ひたすらスピードに乗って連撃を繰り返す。今までに積んだ苛烈な経験ゆえの動きであった。
のっそりと、かえるの後方、先ほどまでタバサがいた場所に醜悪な顔をした男が現れた。
「フッフフ、小娘。おまえはもうそのガマから逃れられん。おまえがいくら逃げようと、そのガマは必ずおまえの行くところに現れるのだ」
そんなバカな、とタバサは思う。魔法を使われたなら確実にわかる。目印となるマジックアイテムを使われたとでもいうのだろうか?
それではいったいいつつけられたのか?思い当たる節はない。それともハッタリか。あるいは先ほどのカエル集団が見張っている以上、どこに逃げても見つけることができるというのか?
ハッタリである様子はない。現に、完全にまいたはずが追いつかれていた。かえるは巨大ガマのほかにはいない。ならば何が…。
「さあ、ガマよ!なにをぐずぐずしている!早く小娘をしまつしろ!」
男の声に、ガマがノソリと動き出す。じりじりと、タバサを追い詰めていく。
タバサの足元の土が崩れて、石が下に転がっていく。いつの間にか崖に追い詰められていた。
「フッフッフ、とうとう追い詰められたな。」
男の顔がさらに醜悪に歪んだ。
「小娘、なかなかかわいらしいではないか。降参すれば、命だけはたすけてやるぞ?」
男の目がぎらつく。この男、よほど好色のようだ。成長したタバサでも想像しているのだろうか?思わず背中が冷たくなる。
「……拒否。」
タバサがぼそりと呟く。何かを決心したように、男を見る。
「ふん。ならば死ね。やれ、ガマ!」
男の命令にガマが口を開け、舌を伸ばそうとした。
その舌が届く寸前、タバサの身体が下に降りて行った。
自ら、崖から身を投げたのだ。
「なにぃ!?」
慌てて崖上へ駆け寄る男。下を覗くと、タバサが脚を下にして、器用に崖を滑り落ちていく姿が見えた。
「ええい、くそ!なんという運動神経だ!さすがにこの崖をガマが飛び降りるのは無理だ」
やがてタバサの姿が闇に溶けて見えなくなった。男はガマへ振り向き、
「しかし、おまえには、仲間が残したにおいがあるはず。さあ、追いかけろ。」
巨大ガマガエルが、匂いをかぐように周囲を見渡し、のそのそと追いかけていく。
「フッフフ、小娘。おまえはこのガマ法師からは逃げられん。これから行く場所も、だいたい見当がつくしな」
横に転がり、巨大ガマガエルののしかかりを避けるタバサ。間一髪、潰されずにすむ。
『思ったより身軽い…』
普通これだけの大きさならばもうちょっとノロマでも仕方がない。身体の大きさに比例して動きが鈍くなるのは当然なのだ。しかし、今のカエルの動きは並みの人間なら潰されていてもおかしくない速度であった。タバサが避けることができたのは、皮肉にもこれまで与えられた過酷な任務をこなすうちに身についた体術のおかげであった。タバサの基本戦術は手数とスピード。相手の動きを読み、敵の攻撃を避け、ひたすらスピードに乗って連撃を繰り返す。今までに積んだ苛烈な経験ゆえの動きであった。
のっそりと、かえるの後方、先ほどまでタバサがいた場所に醜悪な顔をした男が現れた。
「フッフフ、小娘。おまえはもうそのガマから逃れられん。おまえがいくら逃げようと、そのガマは必ずおまえの行くところに現れるのだ」
そんなバカな、とタバサは思う。魔法を使われたなら確実にわかる。目印となるマジックアイテムを使われたとでもいうのだろうか?
それではいったいいつつけられたのか?思い当たる節はない。それともハッタリか。あるいは先ほどのカエル集団が見張っている以上、どこに逃げても見つけることができるというのか?
ハッタリである様子はない。現に、完全にまいたはずが追いつかれていた。かえるは巨大ガマのほかにはいない。ならば何が…。
「さあ、ガマよ!なにをぐずぐずしている!早く小娘をしまつしろ!」
男の声に、ガマがノソリと動き出す。じりじりと、タバサを追い詰めていく。
タバサの足元の土が崩れて、石が下に転がっていく。いつの間にか崖に追い詰められていた。
「フッフッフ、とうとう追い詰められたな。」
男の顔がさらに醜悪に歪んだ。
「小娘、なかなかかわいらしいではないか。降参すれば、命だけはたすけてやるぞ?」
男の目がぎらつく。この男、よほど好色のようだ。成長したタバサでも想像しているのだろうか?思わず背中が冷たくなる。
「……拒否。」
タバサがぼそりと呟く。何かを決心したように、男を見る。
「ふん。ならば死ね。やれ、ガマ!」
男の命令にガマが口を開け、舌を伸ばそうとした。
その舌が届く寸前、タバサの身体が下に降りて行った。
自ら、崖から身を投げたのだ。
「なにぃ!?」
慌てて崖上へ駆け寄る男。下を覗くと、タバサが脚を下にして、器用に崖を滑り落ちていく姿が見えた。
「ええい、くそ!なんという運動神経だ!さすがにこの崖をガマが飛び降りるのは無理だ」
やがてタバサの姿が闇に溶けて見えなくなった。男はガマへ振り向き、
「しかし、おまえには、仲間が残したにおいがあるはず。さあ、追いかけろ。」
巨大ガマガエルが、匂いをかぐように周囲を見渡し、のそのそと追いかけていく。
「フッフフ、小娘。おまえはこのガマ法師からは逃げられん。これから行く場所も、だいたい見当がつくしな」
タバサは近くに水の流れる音を聞き、月明かり頼りにその場所を探していた。
全身にべったりとついた、かえるの体液を洗い落とすためだ。体中、崖を滑り降りたときについた擦り傷でいっぱいだ。多少しみるだろうが、土を洗い落とすためにも身体を洗う必要があった。
「……変なにおい」
自分の身体にこびりついた体液をかいで、タバサがそう言う。
「……目印は、このにおい?」
先ほどの自分の行動を振り返るが、これ以外に身体に付着したものはない。もしあの男、つまりガマ法師だ、がマジックアイテムを使ったのだとすれば、なぜそのときにタバサを始末しなかったのか、ということになる。目印をこちらが気づかずつけることができるなら、さっさと攻撃すればいいのだ。となると、他に考えられるものはない。
そういうわけで、用心のためにおいを消すべく水につかることにしたのだ。音の先に行くと、小川がさらさらと流れていた。
万一を考え、音を立てぬよう静かに水に入っていくタバサ。服を脱ぎ、それを洗ってにおう。
「とれていない…」
まるですっかり身体に染み付いてしまっているようだ。何度も、自分の身体も含めて洗うタバサ。ようやく匂いが弱くなり、明日になれ
ば落ちているかもしれないと小川から上っていく。
生えている草や木の枝を掴み、身体を持ち上げる。そのとき、手に木の枝や葉っぱとは違う別のモノの感触を得た。
『またカエル!?』
さきほど取り囲んでいたカエルがもう追いついたのか?手を恐る恐るのけてみる。
するとそこには、カエルはカエルでも、木の枝に突き刺さって完全に干物と化したカエルがいた。百舌のはやにえ、というやつだ。
これでは通報される恐れはない。胸をなでおろすタバサ。
「……。」
はやにえから手を離し、陸に上ったタバサの脳裏にある考えが思い浮かぶ。大きいとはいえ、あれもカエルだ。倒せないわけはない。
そう考えたタバサの行動は早い。あっという間にどこかへと走り去った。
全身にべったりとついた、かえるの体液を洗い落とすためだ。体中、崖を滑り降りたときについた擦り傷でいっぱいだ。多少しみるだろうが、土を洗い落とすためにも身体を洗う必要があった。
「……変なにおい」
自分の身体にこびりついた体液をかいで、タバサがそう言う。
「……目印は、このにおい?」
先ほどの自分の行動を振り返るが、これ以外に身体に付着したものはない。もしあの男、つまりガマ法師だ、がマジックアイテムを使ったのだとすれば、なぜそのときにタバサを始末しなかったのか、ということになる。目印をこちらが気づかずつけることができるなら、さっさと攻撃すればいいのだ。となると、他に考えられるものはない。
そういうわけで、用心のためにおいを消すべく水につかることにしたのだ。音の先に行くと、小川がさらさらと流れていた。
万一を考え、音を立てぬよう静かに水に入っていくタバサ。服を脱ぎ、それを洗ってにおう。
「とれていない…」
まるですっかり身体に染み付いてしまっているようだ。何度も、自分の身体も含めて洗うタバサ。ようやく匂いが弱くなり、明日になれ
ば落ちているかもしれないと小川から上っていく。
生えている草や木の枝を掴み、身体を持ち上げる。そのとき、手に木の枝や葉っぱとは違う別のモノの感触を得た。
『またカエル!?』
さきほど取り囲んでいたカエルがもう追いついたのか?手を恐る恐るのけてみる。
するとそこには、カエルはカエルでも、木の枝に突き刺さって完全に干物と化したカエルがいた。百舌のはやにえ、というやつだ。
これでは通報される恐れはない。胸をなでおろすタバサ。
「……。」
はやにえから手を離し、陸に上ったタバサの脳裏にある考えが思い浮かぶ。大きいとはいえ、あれもカエルだ。倒せないわけはない。
そう考えたタバサの行動は早い。あっという間にどこかへと走り去った。
グエー、と身の毛のよだつような嫌な鳴き声。
のしのしと月明かりの中、岩のようななにかが動いている。
巨大なガマガエルであった。背後には何百何千というカエルを引き連れている。
ガマガエルの眼前に、人影が現れた。
「予想通り。」
タバサだ。ガンバスターかゲッタードラゴンかという感じに、腕を組んで待ち構えている。
「さよなら。」
くるっと後ろへ飛び退き、逃げ出すタバサ。グエーッ!と鳴き声を挙げ、ガマガエルが飛び掛った。
「遅い。」
木を利用し、飛び、転がるように逃げるタバサ。その後ろを追いかけるガマガエル。
しばらく追いかけっこが続いた後、ついにタバサががけ下に追い詰められた。崖下から5メイルほど離れた場所で、じっとガマを待ちかまえている。
「グエー!」
勝利を確信したように、ガマガエルが叫んで飛び掛った。
その行動を待っていたかのように、タバサが身を伏せた。
「グエッ!?」
ガマガエルが、空中に張ってあった、黒く塗った縄に引っかかった。
その縄に引っかかった瞬間、両脇から杭がガマ目掛け飛んできた。
「グエー―ッ!」
空中に立ち上がった形になったガマの両脇に、杭が深々と突き刺さった。
タバサがゴロゴロと地面を転がってその場を離れる。よろよろと、ガマがよろめきながら倒れこむ。
「ぐぇー!」
崩れ落ちた先が、ぽっかりと口を開けた。落とし穴だ。落とし穴と言っても、人工のものでなく、自然に陥没した穴の上に木の枝や草を置いてカモフラージュしたものだ。その中には杭が何本も、上を向けて置かれていた。
当然、ガマはそれをまともに食らった。顔や腹部に何本も杭が突き刺さり、その状態で頭から落とし穴に突っ込んでいた。
自分の体重ゆえ杭は普通でなく突き刺さっている。この状態では這いずり出ることもできない。グググ、とうなり声をあげ、絶命した。
その遺体へタバサが近づく。後ろに付き従っていたカエルは、ボスの死を知って怯えたのか、一匹残らず逃げ出していた。
「……。」
見れば見るほどすごいやつだ、とタバサは思う。牧場などで囲いを作るのに使う杭が、ミニチュアのように小さい。ただ、これだけ大きいカエルなど聞いたことはない。魔物の一種なのだろうか?月明かりの元、マジマジとその異形を観察し、覚えこむタバサ。
しかしあまりここに長居するわけにはいけない。この大ガマを操っていた男が、ガマの断末魔を聞いてすぐにでもやってくるかもしれない。そうなれば杖を持たない自分は不利である。タバサはカエルを警戒しつつ、いずこかへと走り去った。
タバサとすれちがうように、醜い男がガマの元へ現れた。
「ああっ、ガマ!」
使っていたかえるの群れが逃げ帰ってきたのを見て、慌ててやってきたガマ法師だ。
自分のオオガマガエルが絶命しているのを見て、慌てて傍に駆け寄る。
「ガマ!わしがせっかくここまで育てあげたガマが……」
周囲を見回し、仕掛けられた罠を見つけ、わなわなと震えるガマ法師。
「小娘の分際でよくも…。おぬしの命は、このガマ法師がきっといただくぞ。」
その言葉が終わるか終わらぬか。ガマ法師はスーッと陽炎のように消えたのであった。
のしのしと月明かりの中、岩のようななにかが動いている。
巨大なガマガエルであった。背後には何百何千というカエルを引き連れている。
ガマガエルの眼前に、人影が現れた。
「予想通り。」
タバサだ。ガンバスターかゲッタードラゴンかという感じに、腕を組んで待ち構えている。
「さよなら。」
くるっと後ろへ飛び退き、逃げ出すタバサ。グエーッ!と鳴き声を挙げ、ガマガエルが飛び掛った。
「遅い。」
木を利用し、飛び、転がるように逃げるタバサ。その後ろを追いかけるガマガエル。
しばらく追いかけっこが続いた後、ついにタバサががけ下に追い詰められた。崖下から5メイルほど離れた場所で、じっとガマを待ちかまえている。
「グエー!」
勝利を確信したように、ガマガエルが叫んで飛び掛った。
その行動を待っていたかのように、タバサが身を伏せた。
「グエッ!?」
ガマガエルが、空中に張ってあった、黒く塗った縄に引っかかった。
その縄に引っかかった瞬間、両脇から杭がガマ目掛け飛んできた。
「グエー―ッ!」
空中に立ち上がった形になったガマの両脇に、杭が深々と突き刺さった。
タバサがゴロゴロと地面を転がってその場を離れる。よろよろと、ガマがよろめきながら倒れこむ。
「ぐぇー!」
崩れ落ちた先が、ぽっかりと口を開けた。落とし穴だ。落とし穴と言っても、人工のものでなく、自然に陥没した穴の上に木の枝や草を置いてカモフラージュしたものだ。その中には杭が何本も、上を向けて置かれていた。
当然、ガマはそれをまともに食らった。顔や腹部に何本も杭が突き刺さり、その状態で頭から落とし穴に突っ込んでいた。
自分の体重ゆえ杭は普通でなく突き刺さっている。この状態では這いずり出ることもできない。グググ、とうなり声をあげ、絶命した。
その遺体へタバサが近づく。後ろに付き従っていたカエルは、ボスの死を知って怯えたのか、一匹残らず逃げ出していた。
「……。」
見れば見るほどすごいやつだ、とタバサは思う。牧場などで囲いを作るのに使う杭が、ミニチュアのように小さい。ただ、これだけ大きいカエルなど聞いたことはない。魔物の一種なのだろうか?月明かりの元、マジマジとその異形を観察し、覚えこむタバサ。
しかしあまりここに長居するわけにはいけない。この大ガマを操っていた男が、ガマの断末魔を聞いてすぐにでもやってくるかもしれない。そうなれば杖を持たない自分は不利である。タバサはカエルを警戒しつつ、いずこかへと走り去った。
タバサとすれちがうように、醜い男がガマの元へ現れた。
「ああっ、ガマ!」
使っていたかえるの群れが逃げ帰ってきたのを見て、慌ててやってきたガマ法師だ。
自分のオオガマガエルが絶命しているのを見て、慌てて傍に駆け寄る。
「ガマ!わしがせっかくここまで育てあげたガマが……」
周囲を見回し、仕掛けられた罠を見つけ、わなわなと震えるガマ法師。
「小娘の分際でよくも…。おぬしの命は、このガマ法師がきっといただくぞ。」
その言葉が終わるか終わらぬか。ガマ法師はスーッと陽炎のように消えたのであった。
霧も濃い、深山。
村からさらに南に10リーグも行ったところにあるこの辺りの山は、昔から魔物が出るといわれ地元の人間が近づくことはない。
現に、いくつかの魔物が確認できる。首が2つある狼、美女の姿をした食虫植物、オーク、牙が生え鱗で覆われた馬…。ここに普通の人間が迷い込めば、無事に出ることはほぼ不可能ではなかろうか。
だが、そんな山の中に怪しく輝く灯火があった。それも、5つ。
灯火は合図を送っているかのようにくるくると回転し、谷の中心へふわふわと漂いながら近づいていく。
灯火5つが、五芒星の形に並んだ。火が膨れ上がり、5つの影を谷に映し出した。
「魔界衆五連星、マーグ」
「ガマ法師」
「嵐月」
「ギャロップ」
「ゴトー・マ・ターヴェ」
炎に照らし映されたのは、5人の異形たち。
「ガマ法師、間諜をとりにがしたそうだな。」
緑色の髪をした少年。昼に、村人を集め説法をしていた、マーグが口を開く。
「むねんながら。」
醜い顔をした男、ガマ法師が申し訳なさそうに答えた。
「わしのガマまでやられもうした」
「話によると女の、それも子供らしいじゃないか。よほど頭がきれるのだろうね。」
緑がかった紺色の髪を持つ、出っ歯の男が言う。右目の下に十字の傷痕があり、頬骨が出ている。目つきは鋭く、異様な光を放っている。ギャロップ、と名乗った男だ。
「おぬしほどの男が取り逃がすのだ。舐めてかかれば大やけどをしそうだな。」
額に傷がある男、嵐月がむむむと呻る。どことなく硝煙の匂いがする男だ。
「それで、ゆくえは?」
ヒゲ面の大男、ゴトーが問う。でかい。身長が2メイルもあるだろうか。全身筋肉の塊というのか、破裂しそうなエネルギーが体中に宿っているような男だ。
「いまのところかいもくわからぬ。わしのカエルの体液の匂いも、2日もすればきえてしまう。」
「うむ。」
「外見は茶髪の小娘ということだったな。」
「さよう。しかし、髪の色はあてにはならぬ。薬をつかえばいくらでもかえることができるのでな」
「だが、話によれば送り込まれるのは男という話ではなかったか?女の、それも子供とは聞いていないぞ」
ゴトーが、相手が女子供ではやりづらいとばかりに、困惑した表情をする。
「変装ではないのか?」
「変装するには身長が低い。わしのみたところ、150サントあるなしというぐあいじゃった。」
ふむ、と頷く一同。
「たしかに、150サントという背の低い男が北花壇にいるとは聞いた事がないな。仮にマジックアイテムを使っていれば、それはそれですぐにわかる。」
「なればすぐに誰が送り込まれたか素性は知れよう。女の子供など、北花壇にいるとすればすぐにわかるだろうしな」
嵐月が腕を組んで顔を下げ、なにやら考え事をしている。
「どうした?」
「いや……」
嵐月が顔を上げた。
「北花壇で、女の子供と聞いてな。どこかでその話を聞いた覚えがあったのだ。なんでもオルレアン公の息女が、北花壇にいるという」
「ほう」
「だがな、その話と符合すると思えぬのだ。その話の娘はすでに15、16のはず。しかしガマの話では12歳前後というではないか。つまり、赤の他人だと思うのだ」
「うむ。わしが見た限り、よく見てせいぜい14歳というところであった。」
「だが……万一がある。よく調査してみぬことには。さきほどマーグが言ったが、髪の色はすぐに変えられる。」
「下手に手を出すわけにはいかなくなったな。」
「まずは行方を捜すことにするしかあるまい。」
「だが茶色の髪の子供など、いくらでもいるぞ。」
「なに、手はある。わしの考えでは、おそらく単独ではなく、数人で村に潜入してきたはずじゃ。茶色の髪をした女の子を連れたものはいないか、と聞いて回ればすぐに見つかるワイ。」
ガマが立ち上がる。
「それではわしはリョフ様に報告をしてこよう。」
「うむ」
「では……」
「魔界衆五連星の名誉にかけて……」
灯火が、風もないのに静かに消える。あたりは漆黒の闇に包まれた。
辺りを包む霧が揺れることもなく、気づけば5人の姿は消えうせていた。
村からさらに南に10リーグも行ったところにあるこの辺りの山は、昔から魔物が出るといわれ地元の人間が近づくことはない。
現に、いくつかの魔物が確認できる。首が2つある狼、美女の姿をした食虫植物、オーク、牙が生え鱗で覆われた馬…。ここに普通の人間が迷い込めば、無事に出ることはほぼ不可能ではなかろうか。
だが、そんな山の中に怪しく輝く灯火があった。それも、5つ。
灯火は合図を送っているかのようにくるくると回転し、谷の中心へふわふわと漂いながら近づいていく。
灯火5つが、五芒星の形に並んだ。火が膨れ上がり、5つの影を谷に映し出した。
「魔界衆五連星、マーグ」
「ガマ法師」
「嵐月」
「ギャロップ」
「ゴトー・マ・ターヴェ」
炎に照らし映されたのは、5人の異形たち。
「ガマ法師、間諜をとりにがしたそうだな。」
緑色の髪をした少年。昼に、村人を集め説法をしていた、マーグが口を開く。
「むねんながら。」
醜い顔をした男、ガマ法師が申し訳なさそうに答えた。
「わしのガマまでやられもうした」
「話によると女の、それも子供らしいじゃないか。よほど頭がきれるのだろうね。」
緑がかった紺色の髪を持つ、出っ歯の男が言う。右目の下に十字の傷痕があり、頬骨が出ている。目つきは鋭く、異様な光を放っている。ギャロップ、と名乗った男だ。
「おぬしほどの男が取り逃がすのだ。舐めてかかれば大やけどをしそうだな。」
額に傷がある男、嵐月がむむむと呻る。どことなく硝煙の匂いがする男だ。
「それで、ゆくえは?」
ヒゲ面の大男、ゴトーが問う。でかい。身長が2メイルもあるだろうか。全身筋肉の塊というのか、破裂しそうなエネルギーが体中に宿っているような男だ。
「いまのところかいもくわからぬ。わしのカエルの体液の匂いも、2日もすればきえてしまう。」
「うむ。」
「外見は茶髪の小娘ということだったな。」
「さよう。しかし、髪の色はあてにはならぬ。薬をつかえばいくらでもかえることができるのでな」
「だが、話によれば送り込まれるのは男という話ではなかったか?女の、それも子供とは聞いていないぞ」
ゴトーが、相手が女子供ではやりづらいとばかりに、困惑した表情をする。
「変装ではないのか?」
「変装するには身長が低い。わしのみたところ、150サントあるなしというぐあいじゃった。」
ふむ、と頷く一同。
「たしかに、150サントという背の低い男が北花壇にいるとは聞いた事がないな。仮にマジックアイテムを使っていれば、それはそれですぐにわかる。」
「なればすぐに誰が送り込まれたか素性は知れよう。女の子供など、北花壇にいるとすればすぐにわかるだろうしな」
嵐月が腕を組んで顔を下げ、なにやら考え事をしている。
「どうした?」
「いや……」
嵐月が顔を上げた。
「北花壇で、女の子供と聞いてな。どこかでその話を聞いた覚えがあったのだ。なんでもオルレアン公の息女が、北花壇にいるという」
「ほう」
「だがな、その話と符合すると思えぬのだ。その話の娘はすでに15、16のはず。しかしガマの話では12歳前後というではないか。つまり、赤の他人だと思うのだ」
「うむ。わしが見た限り、よく見てせいぜい14歳というところであった。」
「だが……万一がある。よく調査してみぬことには。さきほどマーグが言ったが、髪の色はすぐに変えられる。」
「下手に手を出すわけにはいかなくなったな。」
「まずは行方を捜すことにするしかあるまい。」
「だが茶色の髪の子供など、いくらでもいるぞ。」
「なに、手はある。わしの考えでは、おそらく単独ではなく、数人で村に潜入してきたはずじゃ。茶色の髪をした女の子を連れたものはいないか、と聞いて回ればすぐに見つかるワイ。」
ガマが立ち上がる。
「それではわしはリョフ様に報告をしてこよう。」
「うむ」
「では……」
「魔界衆五連星の名誉にかけて……」
灯火が、風もないのに静かに消える。あたりは漆黒の闇に包まれた。
辺りを包む霧が揺れることもなく、気づけば5人の姿は消えうせていた。
馬よりも早く、風となって走る1人の男がいた。
醜い顔をした男、ガマ法師だ。
山を抜け出、街道を一直線にリョフの元へ急いでいる。闇の中だ。フクロウといえどもこの姿を見つけ出すことは不可能ではないか。
『むむむ?』
そんなガマの額に、汗が流れ落ちる。街道の反対側に、人魂のようなものが現れたのだ。
バッと跳ね飛び上がり、くるくると回転し、岩陰に身を隠すガマ法師。
『なにものだ?』
人魂を警戒し、物陰からこっそりとそちらを伺う。人魂はしばらく揺れていたと思うと、パッと2つに分かれた。
分かれた人魂はさらに4つになった。4つは8つ。8つは16と、どんどん数が増えていく。
『まさか……あの小娘か??』
胸元からダガーナイフを取り出し、構える。その間にも人魂は増え、街道の向こう側は真昼のようになってしまった。
その光の下に、なにかが現れた。茶色い髪をした少女だ。
「き、きさま!」
思わず飛び出るガマ法師。そこに現れたのは、さきほどとり逃がした少女。つまりタバサだ。
「くう、まさか、きさまは忍者だったのか!?」
タバサは答えない。代わりに拍手を一回打った。
「げぇっ!?」
ガマ法師の周囲に人魂が現れた。ただの人魂ではない。さきほどまでの人魂が青白かったのに対し、こちらは赤々と燃えている。
人魂が法師の周囲を回転する。たちまちのうちに、ガマ法師の周囲に炎の壁が出来上がった。つまりガマ法師は炎の竜巻の中心
部へ飲み込まれてしまったのだ。
「ぐぉお……わ、わしは水は得意だが、火は苦手なのだ…」
炎の壁がどんどん狭まってくる。ガマ法師の衣服がこげ、皮膚を炙られる。
「こ、こうなれば…一か八か火の中を突っ切って逃げるしかない…っ」
背中に岩が当たった。さきほどこの岩の陰に隠れ、街道を警戒したのだ。そう考えると街道は向こう側だ。
「敵はわしが飛び出すのを待ち構えているだろう。しかし、まさか真正面へ逃げてくるとは思うまい…」
ガマ法師が火の壁に突っ込む。全身が焼け、衣服に火がついた。
「ぐわあ!」
飛び出たガマ法師の身体に、何十本もクナイが突き刺さった。
「や、やつめ…裏をかくことを呼んでいたか…だが!」
ガマ法師は、そのまま全速力で走る。何本もが致命傷となる場所へ刺さっているが、まだ多少の動きは取れるはず。
小娘は、忍術を使うという情報を仲間に伝えるだけでも、どれだけ戦況が代わるかわからない。ただその一心で走る。
「おまえたちよ!」
走りながら、ガマは口笛を吹いた。あちこちからカエルが現れ、ガマの背中を守るように集合する。
その光景を見ながら、タバサは不気味な笑みを浮かべた。
「フッフッフ、どうやら罠にかかってくれたようだな」
タバサが自分の顔に手をかけ、皮を引っ張った。その下から現れたのは、赤い仮面をつけた男の顔。
「遠目で、しかも火に囲まれた状況では多少の身長差まで気が回らぬはず。」
赤影であった。
「これでタバサとやらに警戒が向く。さて、リョフや魔界衆相手にどれだけ戦えるか…。」
赤影が手を振ると、空中から杖が現れた。
「このわたしが殺すに値するかどうか、貴様の魔法の腕前を存分に見せてもらうぞ。」
どうやって手に入れたのか。赤影が手にしていたのは、たしかにタバサが置いてきたはずの魔法の杖であった。
醜い顔をした男、ガマ法師だ。
山を抜け出、街道を一直線にリョフの元へ急いでいる。闇の中だ。フクロウといえどもこの姿を見つけ出すことは不可能ではないか。
『むむむ?』
そんなガマの額に、汗が流れ落ちる。街道の反対側に、人魂のようなものが現れたのだ。
バッと跳ね飛び上がり、くるくると回転し、岩陰に身を隠すガマ法師。
『なにものだ?』
人魂を警戒し、物陰からこっそりとそちらを伺う。人魂はしばらく揺れていたと思うと、パッと2つに分かれた。
分かれた人魂はさらに4つになった。4つは8つ。8つは16と、どんどん数が増えていく。
『まさか……あの小娘か??』
胸元からダガーナイフを取り出し、構える。その間にも人魂は増え、街道の向こう側は真昼のようになってしまった。
その光の下に、なにかが現れた。茶色い髪をした少女だ。
「き、きさま!」
思わず飛び出るガマ法師。そこに現れたのは、さきほどとり逃がした少女。つまりタバサだ。
「くう、まさか、きさまは忍者だったのか!?」
タバサは答えない。代わりに拍手を一回打った。
「げぇっ!?」
ガマ法師の周囲に人魂が現れた。ただの人魂ではない。さきほどまでの人魂が青白かったのに対し、こちらは赤々と燃えている。
人魂が法師の周囲を回転する。たちまちのうちに、ガマ法師の周囲に炎の壁が出来上がった。つまりガマ法師は炎の竜巻の中心
部へ飲み込まれてしまったのだ。
「ぐぉお……わ、わしは水は得意だが、火は苦手なのだ…」
炎の壁がどんどん狭まってくる。ガマ法師の衣服がこげ、皮膚を炙られる。
「こ、こうなれば…一か八か火の中を突っ切って逃げるしかない…っ」
背中に岩が当たった。さきほどこの岩の陰に隠れ、街道を警戒したのだ。そう考えると街道は向こう側だ。
「敵はわしが飛び出すのを待ち構えているだろう。しかし、まさか真正面へ逃げてくるとは思うまい…」
ガマ法師が火の壁に突っ込む。全身が焼け、衣服に火がついた。
「ぐわあ!」
飛び出たガマ法師の身体に、何十本もクナイが突き刺さった。
「や、やつめ…裏をかくことを呼んでいたか…だが!」
ガマ法師は、そのまま全速力で走る。何本もが致命傷となる場所へ刺さっているが、まだ多少の動きは取れるはず。
小娘は、忍術を使うという情報を仲間に伝えるだけでも、どれだけ戦況が代わるかわからない。ただその一心で走る。
「おまえたちよ!」
走りながら、ガマは口笛を吹いた。あちこちからカエルが現れ、ガマの背中を守るように集合する。
その光景を見ながら、タバサは不気味な笑みを浮かべた。
「フッフッフ、どうやら罠にかかってくれたようだな」
タバサが自分の顔に手をかけ、皮を引っ張った。その下から現れたのは、赤い仮面をつけた男の顔。
「遠目で、しかも火に囲まれた状況では多少の身長差まで気が回らぬはず。」
赤影であった。
「これでタバサとやらに警戒が向く。さて、リョフや魔界衆相手にどれだけ戦えるか…。」
赤影が手を振ると、空中から杖が現れた。
「このわたしが殺すに値するかどうか、貴様の魔法の腕前を存分に見せてもらうぞ。」
どうやって手に入れたのか。赤影が手にしていたのは、たしかにタバサが置いてきたはずの魔法の杖であった。