あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

あらららー!脈がない!


彼――孫悟空――は、自らの身に起こった出来事に二重の意味で困惑していた。
一つ、どう贔屓目に見てもここは、さっきまで自分がいたあの世の風景ではない。
一つ、我慢できないくらい体が熱い。
悟空がいくら鍛えているとはいえ、その身体は生身である。
外部からの衝撃には滅法強くても、火を点けられれば火傷はするし、雪国に行けば凍傷を起こす。
だから、彼の身を苛む熱の奔流もまた、無視できる類のものではなかった。

「うあぢい~~~~!!!!!」

本能的に叫びながら、見えない炎を消すかのようにゴロゴロと転がりまわる。
その様子を見て「天使相手に、ちとやりすぎたか?」と、さすがに慌てたルイズが声をかけた。

「だ、大丈夫!『使い魔のルーン』が刻まれたら、すぐに収まりますから!」

それを言い終わるか終わらないかの内に、悟空の身体から急速に熱が引いていく。

「はあっ、はあっ…」

這いつくばって荒い息をつく天使(仮)の元に、コルベールが素早く駆け寄り、左手に刻まれた紋章を確認する。

「ふむ…珍しいルーンだな」
「天使にも刻めるものなんですねえ」
「ともあれ、これでミス・ヴァリエールの契約も完了、と。お疲れ様。さてと、じゃあみんな教室に戻るぞ」

当たり前のように空を飛んでいく禿頭を、天使(仮)は呆けた様子で見送る。

「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」

物言わぬ聴衆と化していた他の生徒達も、いつもの調子を取り戻したのか、ルイズに挨拶代わりの罵声を浴びせながら飛んでいく。
しかし、今のルイズにそんなものを気にかける余裕は無い。

「……あの」

恐る恐る、天使(仮)に声をかける。

「……なあ、おめえ、誰だ?」


疑問を顔に貼りつけて、天使(仮)がルイズたちに詰問する。

「私はルイ――」
「ここどこだ? オラ、何でこんなとこにいんだ?」」

ルイズの説明を聞く様子も無く、次々と疑問の言葉を投げかける。

「落ちついて。一度に多くを訊いても多くを答えるのは無理」

珍しく、自主的にこの場に留まっていたタバサが口を開いた。

「降りてこられたばかりでまだ混乱しているかと存じますが、まずは私達の説明を聞いて下さいませ」

タバサに付き添っていたキュルケもフォローする。
天使(仮)に対し失礼の無いよう、声色に気をつかって。

「天使様は、ここにいるミス・ヴァリエールの使い魔となられたのです。不本意とは存じますが、ご了承下さいませ」
「ちょっとキュルケ。不本意ってどういう意味よ」
「だって相手は天使様なのよ!? それがヘッポコ魔術師の使い魔だなんてどう考えたっておかしいじゃない」
「ななななぁんですってぇ~!!」
「……なあ、さっきから言ってる天使ってオラの事か?」
ようやく話の流れをつかんだ悟空がルイズに質問する。
以前、ヤードラット星に流れ着いたときも似たような出来事があったのを悟空は懐かしく思い出したが、さすがに
天使扱いされるのはこれが初めてであった。

「あ、当たり前じゃない」

他に誰がいるというのか。ルイズは喉から出かかった言葉を辛うじて飲み込んだ。

「オラは孫悟空だ。天使じゃねえぞ」
「『ソンゴクウ』って名前の天使様ですか。私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。以後お見知り置きを」

キュルケがうやうやしく頭を下げる。

「なに人の使い魔に色目使ってんのよ」
「これをどう考えたら色目使ってるように見えるのよ!」

まあちょっとばかしそのつもりでもあったが。

「だからオラは天使じゃねえって…あ、わかった。おめえたち、オラが頭の上に輪っかつけてるから
 天使だと思ってんだな?」
「思うも何も、頭に輪っかついてるのは天使しかいないじゃない」
「おめえは死んだ事無いから知らないかもしんねえけどよ、死んだら頭の上に輪っかがつくんだぞ」

空気が死んだ。輪っかはつかない。

「…………え?」
「オラ死んでっから輪っかがついてんだ」
「幽…霊?」

そう呟いたタバサが、直立した体勢のまま斜めにゆっくりと傾く。
倒れた。



「タバサッ!?」

血相を変えたキュルケが慌てて駆け寄り、ゆさゆさとタバサを揺する。
タバサの顔は真っ青を通り越してほとんど白い。
元々血色のいい肌ではなかったが、ここまで顔面蒼白になっているタバサをキュルケは見た事が無い。
過呼吸も併発しているのだろうか、呼吸が浅く、弱々しい。

「ど、どうしよう……」
「おい、おめえ大丈夫か!?」
「保険委員(メディック)!! 保険委員(メーディーック)!!!!!」

だが、既に他の生徒は校舎に戻っている。
今ここに居るのはルイズ、キュルケ、フレイム、気絶しているタバサ、シルフィード、
そして天使改め幽霊にクラスチェンジした謎の使い魔。
ギーシュは薄情にも既に帰っていた。

「シルフィード!来なさい!ていうか来て!」

キュルケが本来はタバサのものである使い魔を呼ぶ。
ふわりと舞い降りたドラゴンの背に、気絶したタバサをそっと横たえ、

「学院の医務室に運んでちょうだい。私もつきそうから」

自分もフレイムを連れて乗り込む。

「きゅいきゅい!」

一声鳴いて飛び立つ。ルイズにはその鳴き声が了解、と聞こえた。
あっという間に視界から飛び去っていくドラゴンを見送り、ルイズは密かにその姿に憧れた。
せめて使い魔が飛べたら、私も惨めにトボトボ歩かなくて済むのに。
やりきれない思いはやがてやり場の無い怒りへと変わり、それを隠そうともせず、謎の幽霊男に向き直る。
天使でないと判った以上、もうこいつに対しかしこまる必要も無い。

「で、あなたは何なの?」



悟空の説明は最初から最後までルイズの理解を超えていた。
曰く、自分はセル(それが何なのかはルイズには判らない)の自爆に巻き込まれて死んだ。
曰く、死んだ後肉体を貰って、あの世で修行するためにカイオウとかいう奴と一緒に蛇の道(何処だよ!)を歩いていた。
曰く、せっかくだから地獄のゴズとメズに挨拶しようと地獄に寄り道する事にした。
曰く、蛇の道を飛び降りて地獄に行こうとしたら、突然現れた鏡に落っこちた。
それで今ここにいるという。

「…そんな突拍子も無い話が信じられるとでも思ってるの?」
「嘘じゃねえって」

それがまた問題なのだ。
そもそも、コントラクト・サーヴァントは生きているもの(当たり前だが)を対象として行われ、
サーヴァントの死をきっかけに、また新たなサーヴァントと契約を交わすようになる。
初めから死んでいる、しかも平民を対象に契約を交わすなど前代未聞だ。
最後の手段「サーヴァントぶっ殺してもう一度召喚」が使えない。
ルイズにだって人を見る目はあると自負している。
この幽霊男は嘘をついているとは思えない。
とすれば選択肢は二つ、本当の事を言っているか、イカレているかだ。
しかし、言っている事がにわかには信じられない内容である事以外、この男の言動はしっかりしている。
少なくとも悪い人間ではないのかもしれない。
気付けば、あたりはすっかり暗くなっていた。今夜も綺麗な月が出ている。
ルイズにつられて空を仰ぎ見た悟空は「うえっ!?」と驚きの声をあげた。

「何?」
「月が二つあるぞ…。ここ地球じゃなかったのか」
「チキュウ?」
「なあ、ここ何てとこだ?」
「ハルケギニア。そしてここはトリステイン魔法学院」
「ハルキゲニア星っつうのか…。オラいつの間にかよその星に来ちまってたんだな…」

前言撤回。やっぱこいつイカレてる。

「ハ・ル・ケ・ギ・ニ・ア! ああもうあんたの意味不明な説明聞いてたらすっかり遅くなっちゃったじゃない! 帰るわよ!」

返事も待たず、ずんずんと歩いて行く。

「あ、ああ…」

有無を言わせぬ迫力に気圧され、悟空はルイズの後をついて行った。

(よくわかんねえけど、まあいっか)

死して尚、能天気な男である。

「どこに行くんだ?」
「部屋に帰るのよ。あ、でもその前にタバサの見舞に行った方が…でもキュルケに会うのは癪だし……」

ぶつぶつと考え込むルイズを眺めていた悟空がふと思い出す。


「タバサって、さっきぶっ倒れた奴か?」
「そうよ。あまり面識無いけど、一応あんたを引っ張り出すの手伝ってもらった手前、礼は言っておかなきゃね」
「よし、じゃあオラが連れてってやる」

そう言うなり、悟空はルイズの手を取った。

「きゃ!? ちょ、ちょっと何を―」

もう片方の手を自分の顔の前に持って行き、人差し指と中指を眉間に当てる。

「する―」

ルイズが非難の言葉を言い終わらないうちに、二人の姿は「ピシュン」と音を立てて忽然と消えた。



「…タバサ、大丈夫?」
「……幽霊嫌い」
「判ってる」
「みんなには内緒」
「大丈夫よ。それにしてもルイズの奴、よりによって幽霊なんか召喚するなんて嫌みったらしいったらありゃしないわね」

トリステイン学院、医務室。
騒ぎを聞き駆けつけたコルベール先生の判断により、モンモランシーが呼ばれ、その場で気付け用の香水を特別調合することにより、タバサは程無くして目を覚ました。
今はベッドに付き添うキュルケと二人きりだ。
タバサは何も言わないが、今夜一緒にいて欲しいのは長年の付き合いであるキュルケには判っていた。

「見ておきなさい、明日会ったら只じゃ済まさないわよ…」

タバサの顔色は未だ悪いままだ。
身体にかけられたシーツの端を、指が白くなるほどきつく掴んでいる。
親友を恐怖のズンドコ、もといどん底に叩き落したあの使い魔とそのマスターにどんなし返しをしてやろうかと考えていると―

ピシュン「―のよっ! 平民の分際で!! 放しなさいったら!!!!」

――件の人物が、眼前に現れた。

「…へ?」
「…あ?」
「…ひ」

最初の声はキュルケの、次の声はルイズの、最後の声は目を恐怖に見開き、唇をわなわなと振るわせたタバサのものである。

「オッス」

空気を読まない幽霊男が呑気に挨拶する。
それがスイッチとなり、

「ヒア―――――――――――――――――――!!!!!」

トリステイン学院に、本日二度目の絶叫が響き渡った。



「だあぁぁぁ~……」

ぼふっ。
ルイズは力無く自室のベッドに倒れ込んだ。


あの後、錯乱し見境無く攻撃魔法を連発するタバサから杖を奪い取るのと、駆け付けたコルベールに事情を説明するのとで
(こっちは結局日が昇ってから改めて行なわれる事になった)、精魂尽き果てたルイズはもう何も考えたくなかった。
タバサの悲鳴に共鳴して割れた窓ガラス37枚の修理費、740エキュー。
半壊した医務室の修理費、350エキュー。
使い物にならなくなった薬剤や医療器具の弁償代金、2070エキュー。
タバサを抑えつけるのに要した労力、プライスレス。
キュルケと折半とはいえ、痛手にもほどがある。
早く寝てしまいたい。
だが、その前にやらなくてはいけない事がある。
気力を振り絞り、ルイズは上体を起こして悟空に向かい合った。
この男、手加減無しのタバサの攻撃魔法を殆どその身に受けていたというのに、全くダメージを受けた様子が無い。
幽霊ってば便利よねとルイズは結論付けた。
実際には肉体がある以上、生理的には生きている人間と何ら変わりは無いのだが、ルイズはそれをまだ知らない。
知っていれば質問攻めにしていただろう。さっきの理解不能な移動手段といい、不可解な事が多過ぎる。
だが、「幽霊である」という前提と、限界をとうに超えた疲労感が、ルイズから正常な思考力を奪っていた。
ちなみにタバサは幾ら攻撃しても全く怯まない悟空を見て理性の糸が切れ、泡を吹いて再び昏倒した。
キュルケも今は披露困憊して自室で寝ている。

「おめえも寝た方がいいんじゃねえか? だいぶ疲れてるみてえだぞ」

あんたのせいよと罵ってやりたかったが、今はその気力すらない。

「…寝る前にいくつか言っておかなきゃいけない事があるの」
「ああ」
「あんたはあたしの使い魔になった以上、やんなきゃなんない事があるの」
「…なあ、使い魔って何だ?」

あ、ダメ。
いまので力抜けた。

「…そ…そこから説明させる気……?」
「かったるそうだから喋らなくていいぞ。ちょっと探らせてくれ」

そう言うと、悟空はベッドの上に突っ伏しているルイズの頭に手を置いた。
指先一本動かすのも億劫な彼女には、頭に置かれた幽霊の手すらどこか心地よく感じた。

「…なによまた何処かに連れてこうっての~…?」

「また」とは、悟空がヤードラット人に習っためちゃんこ便利な移動手段、瞬間移動の事である。
『フライ』や『レビテーション』などとは比較にならない超高等な技術であり、魔法が使えない代わりにその知識をしこたま
頭に詰め込んだルイズですら知らない未知の技術であったが、疲労で頭が麻痺しているルイズにはそれに対する疑問すら起こらない。
やがて、ルイズの頭から手が離れた。

「いろいろわかったぞ。とりあえずオラはおめえの使い魔になっておめえのために色々しなきゃなんねえんだな」

そ~よ~、と力の無い返事をする。
かつて悟空がナメック星でクリリンの頭に手を置いた時に披露した読心術なのだが、ルイズには知る由も無い。

「けどオラが見てるものが本当におめえにも見えてるのか?」
「無理みたいね~…。あんた幽霊だってこと以外平民と変わらないみたいだし~…」

疲れからか、ルイズの口調は少し間延びしていた。

「あと、オラはこの世界の人間じゃねえみてえだから、秘薬とか見つけんのも多分無理だと思う」
「でしょ~ね~」
「だけど、おめえを守るってのは出来ると思うぞ」
「ふ~ん…そう……って、え!?」

ガバ、とルイズが飛び起きた。

「あんた強いの!?」
「まあ、結構」
「何か特殊な能力とか使える!?」
「さっきの瞬間移動とか、あとまあ色々」
「掃除洗濯その他雑用とかできる!?」
「掃除と洗濯くれえなら楽勝だ」

カメハウスや神様の神殿で修行をしていた頃に、基本的な生活の作法は叩き込まれている。
亀仙流の基本「よく動き よく学び よく遊び よく食べて よく休む」の「よく学び」の成果である。

「あんたそこそこ…使える…かもね……。…だめ、もう限界」

ルイズは今度こそベッドに突っ伏した。
服を脱ぐ余力はおろか、ハナクソをほじる力すら残っていない。
呟くような声で、幽霊改め使い魔に命令する。

「あんたはとりあえず床で寝てて…私の毛布1枚使って…いいから…」
「あ、ああ」

ルイズが指差した毛布を取る。
部屋の隅に丁度よさそうな空間があったので、とりあえずそこに毛布を敷いた。

「朝になったら…私起こして…今着てる服洗濯してきて…ね…」
「おう」
「じゃおやすみー」

僅かに残った力で、ルイズが寝っ転がった体勢のままぱちんと指を弾いた。
ランプの火と、ルイズの意識が消えるのはほぼ同時だった。


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