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封仙娘娘異世界編 零の雷 第零章 その二

  二


わけが分からない。

私は確かにその剣を召喚することに成功した。……爆発が起きたのはイレギュラーだったが。
そして、確かに契約のキスをした。無機物相手にファーストキスは適用されるか否か、などという話は
この際どうでも良い。

……何故そこで爆発するか。

召喚で爆発したのだから、契約の際にも爆発するのが道理、とでも言うのか。
そんなふざけた道理は野良犬にでも食わせてしまえ。

それより何より不快なのは、今まさに、己の首を締め上げているこの『腕』だった。


 *


今度の爆発は先ほどに比べればずっと小規模だったため、爆煙もすぐに消えた。
だが、状況は一変していた。

突然現れた謎の男が、ルイズを背後から拘束している。
男は射抜くような視線で周囲を見渡す。
周りの生徒達の中にも、この特異すぎる状況を理解できる者は居ないようで、
皆、呆然と成り行きを見守るばかりだった。
――結局、男は特に何をするでもなく、さっさと彼女を解放した。
自由の身となったルイズはその場にへたり込む。
男がルイズを拘束していた時間は三十秒にも満たない。だが、拘束されていた側にとっては永遠にも等しい三十秒だった。
文句を言ってやりたい気持ちでいっぱいだったが、今はまだ声が出ないのが腹立たしい。
ついでに、解放される直前に聞いた舌打ちも癇に障った。
ルイズは咳き込みつつも、恨みがましい視線を男に向ける。

そこで初めて、男の姿を見た。
髪の長い、中肉中背の男だった。自分を締め上げていた太い腕から、もう少し大柄な男をイメージしていたが、
意外にも身長はルイズと頭一つ程度しか違わないようだ。
何より特徴的なのは、目だった。
黒の中にわずかに金色の入り混じった瞳は、猛禽類のように鋭い。

目が合う。

ルイズはその眼光に気圧されそうになりながらも、何とか口を開いた。
「あ、あんた……誰? 何なの?」
男は思いきり顔をしかめた。
「……自分から呼んでおいて『誰?』とは随分な挨拶だな」
呼んだ? 一体誰を? ……召喚?
「! 剣!!」

動転してすっかり忘れていた。今こそまさに、我が使い魔たる剣を活躍させる好機ではないか。
そしてこの目障りな男を斬り伏せて――斬り伏せ……

左手に握られているのは鞘だけで、肝心の剣は消失していた。

慌てて周囲を探るが、それらしい物体はどこにも見当たらない。
――まさか、先ほどの爆発で粉微塵に……? いやいやそんな規模ではなかったはずだ。
第一、それなら間近にあった自分の顔面もただでは済まないはず。
ああもう全然分からない!

……などと頭を捻り倒していると、いきなり男がルイズの手から鞘を奪い取った。
当然彼女は返しなさいよ、と文句を言おうとしたが、男の次の行動の方が早かった。

男が鞘を軽く揺すると、驚くべき事に、鞘は瞬時に黒い上着へと変じていた。
そして、そうするのが当然というように、それを羽織った。
呆然と口をぱくぱくさせるルイズに、黒い上着の男は告げた。

「まだ質問に答えてなかったな。

 我が名は殷雷刀。刀の宝貝だ」


その男の左手には、奇妙な文様が刻まれていた――即ち、『使い魔のルーン』である。


  三


目を覚ますと、そこは異世界だった。
目を覚ます――つまりは気を失っていた訳なのだが、その辺りの記憶がどうにも曖昧だ。
全ての欠陥宝貝を回収し、仙界へと凱旋したのがおよそ七日前。
殷雷はひとまず戦いによって受けた傷を癒すため、つづらの中で休養を取ることにした。
祝宴はその後で、というのは彼の相棒の提案だった。
そして特に何事もないまま今日に至る。
そこまでは間違いない。

つづら、と言ってもただの箱ではない。その内側は断縁獄などと同じように一つの世界が形成されている。
休養中も何度か人の姿でその中を歩き回ったりしていた。
そして今日。はっきり言ってしまえばつい先ほどの事だ。

散策中、宙に浮かぶ鏡のような物を見た……が、それからのことは…?

……焼け付くような痛みで飛び起き、とりあえず目の前にいた小娘をふん捕まえてみた。

やはり記憶が飛んでいる。


 *


「インライトー? カタナ? パオペー?」
彼の返答の中で、ルイズに理解できたのは『我が名は』だけだった。
「殷雷が個体名だ。刀の殷雷。つまり殷雷刀」
理解できないのは殷雷にとっても同じだった。何故こんな根本的なところから説明しなければならないのか。
「その、カタナって何よ」
「片側に刃の付いた、細長い武器だ。触ると切れて、痛い。分かるか? 武器」
「何よその言い方。馬鹿にしてんの? 大体それって剣のことじゃない」
彼の世界では剣と刀は違う武器なのだが、流石にそこまでいちいち説明するのは面倒だった。

「で、私が召喚したあの剣はどこに消えたの?」
「……お前、人の話全く聞いてなかっただろ」

ルイズは先ほど、間違いなく召喚した剣――いや、カタナ?――に対して契約のキスをした。
そして、目の前に居る殷雷とかいう男の左手の甲には、使い魔の証であるルーンが刻まれている。
……ところで、先ほどからミスタ・コルベールがこのルーンに興味を示しているようだが、今はそんなことに構っている精神的余裕はない。
「宝貝には、人間の姿に変化できるものもいる」
――インテリジェンスソードという物がある。己の意思を持ち、人語を解す剣のことだ。
『カタナのパオペー』というのも、そんなような物なのだろう。よく分からないが。
しかし人に姿を変えるインテリジェンスソードなど、聞いたこともない。
「……やっぱり信じられない」
「なら、その目で確かめろ」
言うが早いか、殷雷は小さな爆発に包まれ、ルイズが召喚した刀――殷雷刀が地面に転がった。
慌ててルイズはそれを拾うと、殷雷刀が心に語りかけてきた。
『どうだ。納得したか?』
……さすがにここまでされれば、この状況を受け入れるしかない。
「……納得したわ」
満足し、殷雷はまた人の姿に戻った。
「じゃあ今度は俺の番だな」
殷雷はそこで一度、深呼吸してから続けた。

「ここはどこだ? 俺は何の用事で呼ばれたんだ? ついでに左手のコレはなんだ?」

そう言えば、彼に対しては一切説明をしていなかった。


 *


「……分かった。使い魔とやらに、なってやるよ」
意外にも彼は素直に状況を受け入れた。表情は少しばかり苦々しげだが。
これにはルイズも驚いた。間違いなく拒絶されると思ったからだ。
「と言っても、契約を解除する方法が見つかるまでだがな」
この場にいたのが敵だったならば、殷雷は間違いなく破壊されていただろう。
これは平和ボケしていた己に対する罰でもある。
――ルイズにとっては喜ばしい事態のはずだった。
だが、彼女の心の中には先ほどまでとは全く違う感情が芽生えていた。

「……ミスタ・コルベール。召喚の儀のやり直しを要求します」
「却下」

つい数分前まであれほど燃えていた剣に対する情熱は、いつの間にやら綺麗さっぱり消えていた。


 *


「さて、問題もないようだし、じゃあ皆教室に戻るぞ」
問題はここにあります先生。聞いてんのかハゲ。
そんなルイズの目による訴えは、コルベールには届かなかった。
目は口ほどには物を言わないものである。
コルベールと生徒たちは宙に浮き、城のような石造りの建物へと向かっていった。
「……飛んでやがるな」
殷雷にとっては非常に不可思議な光景だった。
ルイズの話から大まかに理解はしたつもりだったが、やはり実際に目の当たりにするのには敵わない。
彼の作られた世界――仙界では、飛行術は道士から仙人に昇格して初めて伝授される高等仙術なのだ。
そこいらの人間がそう易々と使えるような術ではない。
(まさか、こいつら全員に仙人並みの実力があるとか言わねえだろうな……)
――と、上空から野次が飛んできた。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」
「その使い魔――ええと、召喚したのが生き物じゃなかったことを笑えばいいのか、
 人間に化ける剣なんて珍しい物を召喚したのを尊敬すればいいのか、
 それともそいつにいきなり首締められてたのを笑うべきなのかわかんないけど、
 とにかくお似合いよ!」
……最後のは野次ではなかったかもしれない。

そして、ルイズと殷雷だけが残された。
「……お前は飛ばないのか?」
「……うるさい」
本当は言い返すだけの気力も残っていなかったし、いっそこのまま自室に戻って眠ってしまいたい気分だったが、
もちろんそういう訳にはいかない。まだ今日の授業は残っているのだ。
「……そう言うあんたは飛べないの?」
「刀が飛ぶわけなかろう。……そういえば槍の奴は飛んでいたな。
 ん、こっちの話だ。気にするな。」
ルイズは大きな溜息をつくと、肩を落として教室へと向かって歩き出した。
その姿に何か思うことがあったのか、殷雷はその背中に声を向けた。
「空は飛べんが、お前を走らせることは出来るぞ」
「……どういうこと?」
「刀の姿の俺は、所有者の身体を操ることが出来る」
「速いの?」
「それなりにはな」
ルイズの目にわずかだが輝きが戻ってきた。
「やるか?」
「やる」
その答えに満足したのか、殷雷はまた軽い爆発を起こし、殷雷刀へと変化した。
ルイズも今度は落ちる前に受け止める。
ゆっくりと、刀を鞘から抜く。その刀身は鏡のように美しく輝いている。
そしてその瞬間、ルイズの視界が一変した。いや、視界だけではない。
聴覚、触覚、嗅覚、そして恐らく味覚も。
今までは全く気にも留めなかった色、音、匂い、風の感触。それらがが信じられないほど鮮明に感じられる。
『すごい……これがカタナのパオペー』
ふと、左手がわずかに輝いている事に気が付いた。これも『パオペー』とやらの能力だろうか。
『では、行くぞ。手を離すなよ』
――そして、ルイズは駆け出した。


 *


右手に殷雷刀、左手に鞘と杖を携え疾走するルイズ。
軽く猫背になり、倒れ込むような姿勢。足は暴れ馬の如く激しく大地を蹴るが、上体はほとんど揺れていない。
それはまさに、神速と言っても過言ではないかもしれない。
『私がこんなスピードで走れるなんて、信じられない……!』
ルイズの機嫌は戻ったようだ。全く世話の焼けるご主人様だ。
これなら教室まではあっという間だろう。ついさっき、飛んでいた生徒を一人追い越した。
……少しくらい遠回りしていっても問題はなさそうだ。
『そういえば、肝心な事を聞いていなかった』
『何?』
『お前の名前だよ』
そうだったか? そうだったかもしれない。
『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ』
『……あ?』
『……ルイズでいいわ』
『わかった、ルイズ』
『ルイズ様、よ!』
『……どうしろってんだ』

その異変には、実は最初から気付いていた。だが、確証がなかった。
しかし、こうして走り回っていれば嫌でも気付かざるを得ない。
『妙だな……』
『どうしたの、インライ』
『いや、少しばかり速すぎる――むっ』
『へっ?』
唐突に、足元に軽い衝撃が走る。石ころにつまずいたのだ。
考え事をしていたとは言えそこは武器の宝貝。
ルイズは空中でその身を一回転させ、見事に体勢を保った。
自身の思わぬ速度に若干の焦りはあったものの、それでも殷雷にとってはこの程度、トラブルの内にも入らない。

――だが、ルイズにとっては話は別だった。

殷雷刀に所有者を操る能力が備わっているのは、先ほど本人が述べた通りだ。
だが、そこに強制力はない。
所有者が望まぬ限り、殷雷刀はその身体を操る事は出来ないのだ。
そして、殷雷の感じたわずかな焦りは、そのままルイズにも伝わっていた。

一瞬、ほんの一瞬。ルイズはその身を強張らせてしまったのだ。
殷雷刀は、ルイズの手からすっぽ抜けた。

残されたルイズの身体はそのままの勢いですっ転び――壁際に積み上げてあった木箱に激突した。

人の姿に戻った殷雷は一筋の汗を垂らしつつも、一応言うべき事を言った。

「だから手を離すなと……いや、ええと、悪かった」

気を失ったルイズにはもちろん聞こえていないのだが。

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