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ゼロのアルケミスト-3


異世界から召喚された人外魔境のマッド・アルケミスト クラリス・パラケルススの一日は終始趣味の為に消費される。
元居た世界では組織の運営に関する書類仕事なども有ったのだが、ハルケギニアのトリステイン魔法学院に不本意ながら居を移してからはソレすら無くなった。
故に今はほぼ全てを趣味(主に実験)に消費されているといっても過言ではない。

「どうぞ~開いてるわよ~」

今日も今日とてフラスコに満たした紫色の液体に、スポイトから群青色の液体を一滴ずつ加えていたクラリスは作業から目を離す事無く、ノックされたドアに答えた。
開け放たれた扉から無言で入ってくるのは青髪に眼鏡をかけ、小柄な身長と相反する長い杖を持った少女。

「あら? まだ授業中じゃなかったかしら」
「自習になった」
「なるほど。で? 何か御用」

フラスコの液体が爆発して実験は取り合えず終了したクラリスは、そこで始めて来客に視線を向ける。

「たしかタバサちゃんだったわね?」
「アナタの世界の文字を教えて欲しい」

タバサが指差した先にはクラリスが、数多い蔵書の内から幸運にも持ち込めた僅かな書物。
遠い世界でも貴重な魔術の書だが、全く魔法体系が違うハルケギニアではそれ以上の価値を持つ。
タバサはそこに自分の目的を達成する為の手段が示されていないか?と踏んでいるのだ。
中には先週号のジ○ンプや十年前のボ○ボンのように役に立たないものも存在したが。

「別に構わないけど……私には此方の文字を教えてくれるかしら」
「解った」

タバサと同様の思考をクラリスも持っている。
ハルケギニアと言う魔法が一般化され、総魔力量も多い世界での魔法を深く理解する事は魅力的だった。
ここで一人のメイジと一人の錬金術師の間に相互協力の関係が結ばれる。
ただ問題があるとすればメイジは氷のように無感動で、錬金術師は悪魔のように狡猾だと言う点だろう。

「じゃあこっちの机でやりましょうか?」

クラリスは自分が持ち込んだ机から離れ、やはり物置から引っ張ってきた長机へと移動。
そこにも既に無数の物品が散乱しているが、二人で語学を教授し合うにはスペース的余裕がある。
頷きながらもタバサはその室内を検分していた。いつの間にか料理で使うような釜や人が入りそうなガラスの立方体が並んでいた。
少なくとも最初にクラリスを見たときには無かったものである。此方で用意したとしたらあまりに早い。

「なにか興味が惹かれるものはあった?」
「得には」
「あらそう?」

テキトウな紙を引っ張り出して五十音の表をサラサラと描きながら、ふとタバサの顔をじっと見つめてクラリスは呟いた。




「本当は活発な娘なのに」
「っ!?」
「大事な人の命がかかっている……慎重になるのは仕方が無いのかしら?」
「なんでっ!?」

思わず杖を強く握りなおして、タバサは搾り出すように呟いた。どうしてこの異国の客人はそんな事を言い当てられるのか?
確実に嫌な汗をかいている事を自覚しつつ、笑顔で自分を追い詰める言葉を続けるメイジを睨みつける。

「本を見るアナタの視線は間違いなく輝いていたわ。なのにそれ以外の時はまるで装ったように無感情な目をしている……そうしなければ成らない常態にある。
 自分は魔法学院に席を置いているし……見たところ健全。首に絞め殺す呪いもかかっていない……後は家族よね?」

タバサは苛立ちを募らせながらも、言語の基礎を説明するクラリスの穏やかな口調に耳を傾ける。
そこからは普通に言語学の授業になったが、タバサがあからさまに発する警戒の気配と、ソレを華麗に流すクラリスの穏やかな気配が室内に良く解らない空気を充満させていた。

「まっ! そんな事私には関係ないことだわ」
「……」
「もし貴方が私の助けを欲するならば、力を貸してあげても良いけど」
「!?」

本は確かに知識を得ることが出来るが、実際に行う事で得られる知識には遠く及ばない。本人曰く140年分の知識となればその量と質は凄まじいものであり、タバサの目的は大きく前進するだろう。

「そう……」

だがタバサは直ぐにそれに頼る事などできなかった。邪気や悪意が一切無いクラリスの笑顔は、逆に彼女に僅かな警戒心を与えていた。
この女はいつでも笑っている気がした。悲しい時も怒っている時も……人を陥れ、その命を奪っている時も。
その微笑は麻薬。甘い匂いで虫を堕すウツボカズラ。絡めて離さない蜘蛛の糸。心地よい雰囲気は地獄への手招き。

「何かあったら……お願いする」

しかしタバサは完璧に誘いを蹴る事はない。困難な目的に達する為に、あえて甘い匂いに誘われよう。
地獄への手招きも振り解いて走り、蜘蛛の糸など引きちぎる。これからの接触でどの程度信頼が置けるか、役に立つかを見極めれば良い。
そんな判断を何時もの鉄仮面の下に隠して、クラリスの説明をタバサは時々頷きながら聞いていた。


「お姉さま、アイツはクサイのね」
「?」

次の授業の時間が来たので、クラリスの小屋から出てきたタバサは突然そんな事を言ってきた自分の使い魔 シルフィードに首を傾げた。
基本的には他人に好意的な風韻龍が突然そんな風にタバサは驚きを感じつつ、どこか納得したものも得ている。
やはり野生の血は違和感のあるモノに敏感なのだろうと。

「薬と魔道と……人殺しの匂いがするのね」
「そう……」
「アイツは自分の目的の為ならなんでもする危ない奴なの。だからお姉さま……「シルフィード!」……」

『近づかないで』と言おうとしたのだろう使い魔の言葉を遮り、タバサはため息を一つ。

「目的の為になんでもするのは私も一緒」



アルコールランプで薬草を加熱していたクラリスは、今日二回目のノックに顔を上げた。

「ミス・パラケルスス、ヴァリエールです!」
「あぁ、ルイズちゃんね。どうぞ」

ドアから入ってくるのは桃色の髪が美しいゼロのルイズ。その向こうに広がる外の景色は夕方のオレンジに染まっていた。
時間の感覚が麻痺するほどに集中する為、その景色でクラリスは久し振りに時間を認識しなおした。

「それで? アナタはどのような御用かしら?」
「えっと……ホムンクルスを呼び起こす呪文を成功させるコツか何かをお伺いしたいと」

ルイズの懐から取り出されたのは少し大きめな試験管。そこにはクラリスが授けた使い魔である人造生命体 ホムンクルスが待機状態で収まっている。
本来ならば人と同じ体躯と人以上の力で創造主を守るはずのホムンクルスは、未だに小さな体を人工羊水の中に浮かべて眠っていた。
その状態では勿論ルイズが使い魔とする為にコントラクト・サーヴァントを行う事も出来ない。

「あら? まだ起こしていないみたいね?」
「はい……」

契約を行うにはルイズが言う呼び起こす呪文を唱え、ホムンクルスを人間サイズの起動状態にしなければ成らない。
だがルイズは何せゼロのルイズ。しかもクラリス曰く簡単な魔法だが、それは彼女にとっての異国の魔法。
もし失敗して爆発などしたら手に収まる試験管と、そのうちに収まる小さな人造の命は木っ端微塵。
せっかく手に入れた使い魔を殺すのは心苦しく、だがやらなければ契約できずに留年と言う板挟みにルイズは陥っていた。

「失敗するのは怖い?」
「はい……私はずっとゼロだったから。こんな時まで失敗しそうで……あっ! 
ミス・パラケルススを召喚してしまったのも事故みたいなものですね、申し訳ありません!!」
「うぅん、私は随分楽しい思いをさせて貰っているわ。もし良かったら、アナタの事をもっと聞かせてくれる?」

身の上話なんて多くが失敗と恥の歴史であるルイズは出来れば喋りたく無かった。だがこの人の言葉は魔法が掛かっているのだろうと、同時に思う。
クラリスの優しい口調は逆に強制力を持っている。だけどその強制力を強制されていると認識できない感じ。

「私の家はゲルマニアとの国境沿いにあって……」

そんな所から始まったルイズの身の上話は多岐にわたった。
メイジとしても貴族としても優秀な家族とデキソコナイのゼロである自分について。
自分の失敗やその時の心境など、普通ならば決して語りたくない事も彼女の口からは容易く漏れた。

「大変だったのね」

まるで操られるように全てを語り切り、憔悴しきったルイズにクラリスが与えるのはそんな言葉と温かな微笑。
そして抱き寄せてその背中をポンポンと叩きながら、耳元でさらに囁く。

「いくら失敗しても貴女はメイジたることを、貴族であろうとすることを止めなかった」
「ウッ……ヒック……グス」
「ルイズ……貴女は立派よ」
「わっ私が……リッパ?」
「そう……貴女は立派でステキよ」

初めて言われた褒め言葉と、久し振りにかけられた優しい言葉。
どちらも焦り傷ついたルイズの心を癒し……捕らえるには充分だった。



「ルイズちゃん、失敗を恐れてはいけない」

一体何分自分の胸で泣いていたか解らないルイズが、落ち着きを取り戻したのを確認して長机に向かい合うようにして座り、クラリスは語りだした。
それは教え子に言い聞かせる教師であり、子供に御伽噺を語る親のようでもあった。

「誰でも失敗はするの。完璧な人間なんて居ないわ」
「ミス・パラケルススも……失敗するんですか?」
「もちろんよ。本当の意味で成功する事なんて、むしろ少ないぐらいだわ。例えば……」

今度はクラリスが自分の失敗談を語りだした。140年分だからルイズの失敗回数など歯牙にもかけないほど多い。
その中でも生え抜きに面白い(ヒドイ)話を厳選して、彼女は語る。
初めて作ったホムンクルスは失敗で奇形だった事、間違えて混ぜた薬品で自分も大火傷を負ったこと、なぜだか呼べた魔王に居城を半壊させられた事。

「とまあ、こんな感じよ」
「ミス・パラケルススも苦労されているのですね……」
「私は失敗を苦労だと思った事は無いわ」
「そんなっ!?」

失敗が苦労でないのならば、自分は一体何の為に苦しんでいるのか?と息を荒げるルイズに、クラリスはさらに優しく言い聞かせる。

「なんで人は失敗するんだと思う?」
「間違った事をしたからですか?」
「それもあるけど……もっと根本的な問題ね。ならどうして人は成功すると思う?」
「正しい方法を選択したからですか?」
「それもあるけど……もっと根本的なことよ」

要領を得ない会話を一旦区切り、クラリスは彼女の原点とも言える真理を告げた。

「なぜ成功し、失敗するか? それは行動したからよ」
「?」
「何もしなければ失敗しないわ。でも成功も決してしない」

それはまさしく今のルイズの状態だった。失敗による爆殺を恐れる余り、成功してコントラクト・サーヴァントを行う事も遠ざけている。
なぜか無性に焦り、狼狽してきたルイズにクラリスは止めを刺した。

「恐れることなんて無いわ。進む事に代価は必要なものよ。それが自分の失敗でも、他人の命でも……」
「……ミス・パラケルスス」
「クラリスで良いわ」
「はい……クラリス様、私やってみます!」

一礼するとルイズは外へと駆け出した。その目に宿っていた輝きを思い出して、クラリスは笑みを深くする。
アレは自分と同じ探求者の輝きだ。己の目的の為に最大限の努力と無数の失敗を積み重ねる事を厭わない目。
彼女が自分のようなマッドになろうと、聖女のような人物のようになろうとクラリスとしては面白い未来に過ぎない。


「やるわよ」

何時もの野次が周りから響くがルイズは気にも留めない。
手の内には杖と未だに絆無き使い魔(候補)が眠っている試験管。
いつの間にか集まっていたギャラリーたちはルイズの小さな宣言に、さらにどよめきを深くする。

「止めとけルイズ!」
「使い魔を殺してしまうぞ~」
「お前は魔法を成功する可能性の方が低いんだからさ~」

そんな野次に対してルイズが浮かべるのは笑みだ。そこに宿るのはある種クラリスと同じ輝き。
彼女ほど精錬され、巧妙に美しさだけを映し出すようなものではない。荒削りな探求者の輝き。

「魔法が使える者をメイジと呼ぶんじゃないわ」

息を小さく吸って吐き……宣言する。

「進む事を止めない者をメイジと呼ぶのよ!!」



その日、ルイズは人生において二つ目と三つ目の魔法を完成させ……仮初めの命を使い魔とした。


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