あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ZEROMEGA-3


その夜、ティファニアの幸せは一つの絶頂を迎えた。
長い間、研究していたクッキー作りについに成功したのだ。
思えばここまで至る道筋は長かった。
そして、その道は数え切れないほどの小麦粉と砂糖の屍によって塗装されていた。
しかし、ロバ・アル・カリイエの諺でも言っているようにラスト良ければ全て良し。
使い魔の青年に気付かれないように夜こっそりクッキー作りの練習をしたことや一人でほろ苦い失敗作を処分したこと、焦げた焼き菓子を食べ過ぎて食事の量が減り、子供たちに心配されたことも今となっては良い思い出である。

恐る恐る口にしたクッキーは文字通り蕩けるように甘かった。
速くこのお菓子を彼に食べさせてあげたい!
その一心でティファニアは焼いたばかりのクッキーをお皿に載せて、家の外で夜空を眺めている彼の元に赴いた。
しかし、大好きな彼をちょっと驚かせてやりたいと言う少女らしい悪戯心で五宇たちの背後に忍び寄った結果、ティファニアは彼女の一番聞きたくない言葉をその長い耳で捉えてしまうことになった。

彼の口にしている言葉はわかったが、言っている意味は全く理解できなかった。
村は平穏で、夜空は美しく、この閉じた小さな世界はこんなにも幸せに満ち溢れていると言うのに。
どうして……。
どうして――っ!

「……ゴウさんたちはこの村を出て行くって言うのっ?」
「待って。落ち着いて、テファ。すぐに私たちが出て行くといっているわけじゃ」
「そのとおり、俺たちはできるだけ早くこの村を出て行かなければいけない」
「ゴウ――――っ!!!」

ティファニアを宥めようとしたタイラの重二輪を押しのけ、五宇は前に出る。
クッキーの皿を胸元に掲げている金髪の少女と向かい合うように立つ。

「旅の準備は既にできている。俺たちは近いうちにトリステインに向かう予定だ」
「どうして……」

信じられないと言うように首を振りながら、ティファニアが言った。
クッキーの皿を持つ手は危ういほど震え、大きな目の端には既に涙の水滴が浮んでいる。

「どうして、出て行くの。ウエストウッドにいるのが嫌になったの?」
「いや、ここは素晴らしいところだと思う。俺たちがいた世界にはこんなに自然の美しい場所は無かった」
「そ、それじゃ……わ、私が嫌いになったの? ゴウさんたちを勝手に呼び出したから、怒っているの?」
「それも違う。君が意図的に俺たちをこの世界に呼び出したんじゃないことは分かっている。それに文字を教えてくれたことや屋根を貸してくれたことには感謝している」
「じゃあ、どうしてっ!?」

自分でも驚くほど甲高い声でティファニアは五宇を問い詰めた。
青年はすぐに彼女の問いに答えてくれた。

「果たさなければならない使命があるからだ。俺はその使命を成す為だけに生まれてきた」
「そ、それなら、そのやらなくちゃいけない仕事が終ったら、私たちのところに帰ってきてくれる?」

まるで藁を掴もうとする遭難者のような目でティファニアは五宇を見た。
ハラハラしながら、二人を見守っていたタイラが重二輪の触手で青年の背中を突っつく。
五宇は一瞬目を瞑って考え込んだ後、

「いや、それは無理だ。元の世界に何時帰れるか分からないし、仮に帰れたとしても俺たちの世界はあまりに危険で、敵はあまりに強大だ。俺が生きてこの村に戻ることはない―――」

青年が最後まで言い終える前に乾いた音が夜空の下に響き渡る。
立体映像の少女は「あちゃ――」と言いながら、手の平で顔を覆った。
ティファニアは五宇の頬を張り飛ばした姿勢のまま、火を吹くような眼差しで彼を睨みつけた。

「どうせ出て行くなら、何故この村に留まったの! 結局失望させるなら、どうして期待なんて持たせたの! 私、楽しかったのに。今までこんなに楽しいと思ったことはなかったのに! こ、こんな思いをするぐらいなら、わ、私―――」

溢れる嗚咽に喉を詰まらせ、少女はそれ以上何も言えなくなった。
白い指で口元を抑え、五宇たちに背を向け、真っ暗な家の中に駆け込んだ。
後に残されたのは、月明かりにきらめく涙の雫と押し殺した泣き声だけ―――
恨みがましい目で隣りの五宇を睨みながら、タイラが言った。

「テファ、泣かせちゃったね」
「ああ……」

青年は無表情に頷いた。

「これってゴウのせいだよね」
「ああ……」
「明日からどんな顔でテファに会うつもりなの?」
「……わからない」

もう一度、パチーンと威勢の良い音が夜の大気を震わせた。
金属の触手で青年の頭を叩いた後、タイラは「わたしはもう知らないわよ」と言って重二輪の立体映像を切ってしまった。
一人取り残された五宇は無言でその場に立ち尽くす。

ウエストウッドを出て行くと決めた時から、何れこんな日が来ることは分かっていた。
しかし、現実のティファニアの涙は想像以上の衝撃を青年に与えた。
鳩尾と心臓の辺りが焼けた刃物で抉られるように激しく痛む。
この激痛はボディスーツの耐久試験の時に機関砲の直撃を受けたときと同じ―――いや、それ以上かもしれない。

気分が落ち込んでいる時は、視線も自然と地面を向く。
すると少女が苦心を重ねて焼いたお菓子が夜露に濡れた草の上にばら撒かれているのが見えた。
無残な有様に成り果てていた一枚を手にとり、口に運ぶ。
甘いはずの焼き菓子は、何故か酷く塩辛い味がした。




星も見えない夜空の下。
深海のように濃い闇を掻き分けながら男は走り続けていた。
息を吸い込む度に焼けるような痛みが胸を走り、肺は陸に上がった魚のように酸素を求めている。
深夜の路地裏を全力疾走するのはとても危険だ。
何時ゴミか死んだ浮浪者に蹴躓いて転ぶか分かったものではない。
そうやってできた傷は間違いなく化膿する。
路地裏の汚物塗れの泥には戦場の土と同じくらい嫌らしい毒が含まれているのだ。

しかし、男は足を止めることができなかった。
闇の中から迫る恐怖から逃げるためには、心臓が破裂するまで走り続けるしかない。
耳元に追いすがる乱れた息とバラバラの足音は部下たちのものだ。
その音に耳を澄ませれば、豚のように歪んだ顔まで目に浮かぶ。
そして、部下たちの背後には―――。

男は必死に「奴等」のことを頭から締め出そうとした。
しかし、それは間違いだった。
かえって想像力を刺激してしまい、脳裏に「追跡者」たちの姿が鮮やかに浮かび上がる。

奴等はまるでおとぎ話に出て来る亡霊のように薄汚い外套をまとい、顔が見えないほどフードを目深に下ろしている。
外套から覗く手足は真っ黒な鎧に覆われ、悪趣味なことに指先には獣のような鋭い鉤爪が付いている。
その爪先が触れる度に石畳は赤い火花を散らす。
カチ、カチ、カチ、死神の時計のように正確なその音。

奴等は影のように密やかに息をし、猫のように獲物を追い詰める。
ちくしょう、なぜ俺がこんな目に会わなきゃならないんだぁっ!
怯えた鼠のように泣きわめきながら、男は自分がこんな境遇に陥った経緯を思い返した。

今から三か月前、男は人生の春を謳歌していた。
その頃、彼は百人を超える荒くれたちを束ねる傭兵団の長だった。
傭兵団の中では決して規模の大きい方ではなかったが、業界での評判は悪くなかった。元貴族で魔法の使い手だった男はメイジたちの裏を掻く術に長けていた。
そのお陰で彼の率いる赤犬(グール)団はメイジ殺しの傭兵団として名を馳せることができた。

アルビオンの内戦が始まると、男たちはレコンキスタと言う名の追い風に乗って大いに活躍した。
ある時は名のある魔法戦士を暗殺し、またある時は大貴族の子弟を捕虜にして身代金を取った。
捕虜の女の時はさらに楽しみが増える。
もしその女の家が身代金も払えないような貧乏貴族の時は仲間内で弄んだ後に奴隷商人に売り飛ばした。
メイジの女はよほどのお古でない限りいつでも高く売ることができた。

時には身代金を受け取った後で捕虜を売り飛ばす事もあった。
メイジの力を持ちながら、貴族として認められなかった男は高貴な女性を奈落の底に突き落とすことに無上の喜びを見出していた。
しかし、積み重なる勝利は男の目に分厚い膜を張り、何時しか彼は死神よりも厄介な存在に取り付かれた。
その存在の名は慢心、または無謀。

男が傭兵の記憶を奪う呪われた土地に関する噂を耳に挟んだのはその頃だった。
迷信深い同業者たちの怯えを彼は鼻で笑い飛ばした。
人殺しを生業とする者が亡霊を恐れてどうする?
誰もが忌避する場所に金儲けのチャンスを見出す事こそ傭兵の醍醐味ではないか?

男はさっそく部下達を使って、呪われた土地の情報を集めた。
そして、間もなくそこがロサイスの北東にあるウエストウッドという名の村であることを知った。
そこまで分かれば、その村にエルフの血を引く少女がいることを探り出す事は簡単だった。

美少女のメイジは稀少品だ。
しかも、そこにハーフエルフと言う付加価値がつけば、これはもうとてつもないお宝である、
変態貴族相手に花売りをさせれば――トリステインのモットー伯辺りなら、処女だけで十万はかたい――城の一つや二つ買える金がすぐに手に入る。
その金でゲルマニアの爵位を買い、昔のコネで奴隷商人を始めればもう一生左団扇だ。

部下たちを引き連れて、ウエストウッドを襲撃した時、男は後一歩と言うところまでハーフエルフの少女を追い詰めた。
しかし、彼の手がようやく獲物に届いた瞬間、少女は「サモン・サーヴァント」の術を使ってあの恐ろしい黒騎士と鉄の獣を呼び出したのだ。
男は騎士の一撃であっさり気絶し、部下たちも獣に威嚇されてあっさり男を見捨てて逃げ去った。
結局、彼は少女と黒騎士が「コントラクト・サーヴァント」の儀式について一悶着している隙にほうほうのていで逃げ帰った。

その日からひたすら惨めな毎日が続いた。
傭兵と言う人種はツキと能力のあるリーダーに従う習性がある。
そしてツキと能力、どちらが重要かと聞かれれば前者と答えるものが大半なのだ。
部下の前で無様な姿を見せてしまった男は荒くれ男たちの信頼を失ってしまった。
男自身も自分を見捨てて逃げた部下たちを以前のように信じることはできなかった。

信じあえない者たちがいくら集まってもそれはただの烏合の衆だ。
あの日を境に男の作戦は失敗が続き、串の歯が抜けるように彼の周りから人が消えていった。
気がつけば、男が半生をかけて築いた傭兵団は五分の一まで数を減らしてしまった。

怒りと憎しみに脳みそが煮え滾った男は残った部下たちを酒場に送り、ウエストウッドに住むエルフの噂を流させた。
自分の没落の原因を作ったハーフエルフと黒騎士にせめての意趣返しをしてやりたかったのだ。
しかし、その命令こそ本当の転落の始まりだった。

ある日、突然酒場に送った部下たちが姿を消した。
また逃げ出したのかと思ったが、それにしては姿を消した後の消息が全く伝わってこないのが不気味だった。
やがて、ぼろ宿で部下たちの帰りを待つ内に、フードで顔を隠した奇妙な輩が彼の身辺で見え隠れするようになった。
傭兵の嗅覚で危険を嗅ぎつけた男は残り少ない配下たちをかき集めてすぐさま逃げ出した。
しかし時既に遅し、彼らは今袋小路に入ったネズミのように追い詰められようとしていた。

突然背後でけたたましい悲鳴が上がった。
「追跡者」がついに部下たちに追いついたのだろう。
激痛を現す悲鳴はやがて弱弱しく慈悲を乞う声に変わり、最後にはごぼごぼという血なまぐさい断末魔と化した。
男は涙を流しながら、始祖ブリミルに祈った。
もちろん、部下たちの安息を願ったわけではない。
自分の幸運を喜んだのである。

自分のケツも拭けないような愚図どもだったが、最後の最後に役に立ってくれた。
やつらが腑分けされている時間が長ければ長いほど、男が生き延びる可能性は大きくなるのだ。
「追跡者」たちを振り切るために最後の力を振り絞ってダッシュに入る。
しかし、十字路の角を曲がった瞬間、男は鉄よりも硬い胸板に弾き返された。

「て、てめえ、どこを見て…やが、るぅ?」

威嚇の声は尻すぼみになって喉の奥に消える。
二メイルを超える巨体が目の前に聳え立っていた。
男を跳ね返した逞しい体は奇怪な司祭服に覆われ、その上に乗った顔は山羊の頭蓋骨でできた仮面で隠されていた。
空っぽの眼窩の中から赤く光る隻眼が怯えきった男の顔を見下ろす。

男は呆然と巨体を仰ぎ見ながら聞いた。

「……金に興味がないだって? じゃ、じゃ一体なんでこんな真似を?」
【赤犬(グール)団、最後の男よ。汝らがウエストウッドにて邂逅せし黒騎士と妖精の子供について話すがいい】

またあいつらか!!
男の腹の中から黒騎士と妖精の少女を呪い、憎んだ。
皮肉なことに、怒りと憎しみが彼を恐怖の呪縛から解き放ち、一瞬男は冷静な思考を取り戻した。

「は、ははは、お、思い出したぜ。あんたら「教団」の人間だろ? ゲルマニアやトリステイン、最近はロマリア辺りに布教しているって言う。エルフの子供なんかどうするんだい? 神様の生贄にでも捧げるの……あ、いやいや分かった。分かった」

後ろから「追跡者」たちが爪をカチカチ鳴らしながら近づいてきたのを聞いて、慌てて話題を変えた。

「……依頼人のプライベートには干渉しない。傭兵の大原則だもんな。最近、不景気なもんでつい忘れていたよ。ああ、ちょっと待ってくれ。確かここらにあいつの事を書いたメモが――――『ファイアーボール』!」

隠しポケットの中に入っていた小さな杖を取り出し、男は目の前の司祭に子供の頭ほどの火球を放った。
男は敵を出し抜いたことに目を輝かせたが、その喜びは長続きしなかった。
全身を火に包まれながら、司祭が笑い声を上げた。
全く苦痛を感じさせない声で言った。

【愚か者が! 我/我々の体は混沌の聖なる力で護られている。貴様如きの魔法では傷一つ付けられぬわ!】

司祭の外套から黒い紐のようなものが飛び出し、男の腕に絡みつく。
一瞬鞭かと思ったが、よく見ればそれが蜥蜴の尻尾のような触手だとわかった。
触手が軽く腕を締め上げると、男の骨は朽木のようにあっけなく砕け散る。

「や、やめろ! お、俺を殺せば、黒騎士たちのことは何も分からな―――ぐもぉ!」

二本目の触手が男の口をふさいだ。
さらにもう一本が残った腕の動きを封じる。

【俗世の輩の言葉は偽りに満ちている。信用できぬ者の言葉など最初からあてにしておらん】

なら、一体どうやって聞き出すつもりなんだ?
そう疑問に思った時、「追跡者」の一人構えに出た。
外套の裾から細長い長方形の腕を突き出す。
腕の縁には鮫の歯のような鋸刃が生えており、突然唸り声を上げたかと思うとその刃が物凄い速さで回転し始めた。
男は恐怖に目玉がこぼれるかと思うほど目を見開き、体を捩る。
しかし、どんなに暴れても司祭の触手はびくともしない。
男の隣りに立った「追跡者」が髪の毛を掴んで彼の頭を固定し、

【さあ、祈りを捧げ。懺悔するが良い。真の福音にその身を捧げる時が来たぞ】

司祭の重厚な笑い声とともに、くぐもった悲鳴と骨を削る音が路地裏に響く。
血が目に流れ込み、自分の体がどうなったのか見ずに済んだことが男にとって唯一の救いだった。




◆    ◆    ◆




ま、まいなーなキャラばかり束ってごめんなさい。
とりあえず、補足までに各キャラの登場作品をのせておきます。

丁五宇、ヒノト・タイラ→「バイオメガ」シリーズ

●●●●たち(というか触手司祭)→「BLAME!」シリーズ

ちなみに原作の司祭さん(仮)は一言も喋っていません。



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