あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

魔法少女リリカルルイズ16


トリステイン城下町の細い路地の奥で男は痛む右手を押さえて壁にもたれかかった。
男の生業は間諜である。
トリステイン王家の醜聞に関わる証拠。
その奪取が男の任務だった。
醜聞が広まればトリステインの内情はいくらか不安定になる。
そうなれば男の祖国に有利に働く。
そのために男は城に忍び込んだ。
だが、その後がいけなかった。
桃色がかったブロンドを持つ女に不審をとがめられ、己の正体を暴露されてしまった。
その上、その女の一撃を右腕を受けてしまったのだ。
後は騒ぎを聞きつけた魔法衛士隊に捕まる前に逃げ出し、ここまで逃れてきたわけだ。
だが、それもいつまでもはもたない。
右腕から落ちる血が道しるべとなり、追っ手を導くことになる。
案の定、路地を走る音と声がする。
すぐに目の前に衛士どもが現れた。
男は手近にあった鉢植えを握る。
これを投げつけて、その間に逃げればまだ時間を稼ぐことはできる。
時間を稼げば彼を助ける者が現れる。
男にはその当てがあった。


男の握った鉢植えの中には大きな力が眠っていた。
青い宝石の形をとるそれは男の強い思いに応じ、目を冷ます、青い光を放つ。
それは少しずつ強さを増していった。


フォークがさくりと心地よい音をたててパイ生地に突き刺さる。
少し下品だが大きめに切り取ったパイを口に運ぶ。
クックベリーの甘い香りがいっぱいに広がっていった。
ぱくり。
もしゃもしゃ。
「んーー、甘い。おいしい」
頭に閃光のイメージ一瞬浮かぶが甘さがそれを打ち消す。
ルイズは落ちそうになる頬を押さえる。
これ以上ないくらいに顔がとろけていった。
ここはトリステイン城下町にあるケーキ屋「翠」。
腕のいいパティシエのいるこの店の人気は高い。
特に、この特製クックベリーパイの予約は半年先まで詰まっている。
そして今日のこの日はルイズが待ちに待った予約を入れた日なのであった。
この最初に口に入れる瞬間のためにルイズは朝食を控えた上に、馬の背中に3時間も乗ってここまで来たのである。
その間、ユーノはずっとルイズの肩にしがみついていた。
馬に乗って揺れていたので何度か落ちそうになったがどうにか到着した。
そのユーノは今は人間の形に戻ってルイズと同じテーブルの向かいの椅子に座っている。
「ルイズ、おいしそうだね」
「うん。すっっっごく。ユーノも早く食べなさい」
「う、うん」
ユーノとルイズの前には1ホールずつ切り込みを入れたパイが置かれている。
正直、1人で食べるには少し多すぎる量だ。
「いつも私が食べてる分の半分をあげるのよ。ありがたく思いなさい」
「う……うん」
ということは、ルイズはいつも2ホール食べていたことになる。
と、言っている間にルイズの前のパイはすでに円から半円になっていた。
ユーノも一切れ小皿にとり、小さく切ってぱくり。
「あ、これ、ほんとにおいしい」
「でしょ?あー、待っててよかった」
ぱくぱくぱくぱく。
ルイズの目の前の円はさらに欠けていく。
ユーノはその間にまだ一切れしか食べていない。
「ねえ、ルイズ。これ、半分持って帰っていい?」
「どうして?」
「お土産にしたいんだ。シエスタさんに」
「シエスタ?」
──何故ここであのメイドのの名前が出てくるの!
ルイズの声が少し裏返る。
せっかく2人で来たのになんでメイドが!
いや2人で来たからって何があるってわけでもないけど。
「いつも手伝ってもらっているから、お礼をしたいな、と思ったんだけど……」
ユーノはなにかわからないルイズからのオーラにたじろいでしまう。
それを見たルイズはオーラを静めて考える。
シエスタに頼んでいることは本来、学院のメイドの仕事ではない。
それなのにシエスタにやらせている。
シエスタは平民でメイドだからお礼はいらない。
しかし平民の仕事に報いるのは貴族の義務だ。
だからユーノの言うようになにかを与えるのはあたりまえだ。
だが……それをユーノにあげたパイから出すというのが気に入らない。
それでは、まるでユーノがあのメイドにプレゼントをしているみたいではないか。
それがなぜか気に入らない……。
「そのクックベリーパイは持って帰ったら味が落ちるの。後でなにか包んでもらうわ」
というわけで、このあたりで妥協することにした。
自分が買って帰るのだからユーノからのプレゼントにはならない。
それなら安心。
「うん」
ユーノの返事を聞いてからまたクックベリーパイを口に運ぶ。
少し大きめの切って口に入れる。
ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく。
お皿が空になってしまった。
少し物足りない。
いつもの半分しか食べてないのだからあたりまえだがもうちょっと欲しい。
ユーノの方を見ると、まだパイが四分の三も残っていた。


フォークの先にすごい視線を感じたユーノはもしやと思いその元を追ってみた。
予想どおり視線の元はルイズだった。
すごい目つきだ。
いや、すごいなんて物じゃない。
視線に物理的圧力があったらパイが穴だらけになるんじゃないかと言うくらいの目つきだ。
「あの……ルイズ。僕、全部食べきれないから残りで良かったら食べる?」
その途端ルイズの目つきが変わる。
「ほんと?ほんとにいいの?」
眼がキラキラ星が散ったように光り出す。
顔は満面の笑みを通り越して、笑顔があふれ出ている。
背景が光っているようにも見えるから不思議だ。
「いいよ……どうぞ」
ユーノはパイを乗せたお皿をルイズの方に押す。
手が短いので机の真ん中あたりにしか届かない。
ルイズも手をお皿に伸ばす。
「しょ、しょうがいないわ。余り物なんて貴族が食べる物じゃないけど、ユーノがせっかくくれたんだからもらってあげるわ」」
使い魔にお礼は簡単に言う物ではないのでこう言っておく。
「あー、もー、ほんとにありがとう」
なにか余計な言葉がこぼれたみたいだがルイズは気づかない。
お皿の端に手をかけて引っ張ろうとした途端……店の窓を突き破って太い鞭のような物が入ってきた。
それはルイズの前に落ちてきて、四分の三残っていたパイを机ごと木っ端微塵にした。
「ル……ルイズ?」
ルイズは何も言わない。
落ちて動かなくなった鞭のような物に目を移すとそれがなにかよくわった。
植物の蔓だ。
長い蔓だ。
根本は外にあるようで店の中からは見えない。
その蔓は勢いよくはじけて、店の壁と天井を壊しながら外に出て行った。
ルイズは静かに立ち上がる。
呆然としている店員や客を避けながら店の入り口へ。
入り口横の机にバン、と音を立てて金貨を数枚置く。
「次の予約、半年後でいいわね」
入り口にいた店員が首を痙攣させるように縦に振る。
異様な雰囲気を纏わせながらルイズは外へ出た。
「待ってよ、ルイズ」
ユーノもあわてて店の外に出た。


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