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Mr.0の使い魔 第二十一話

 再びワルドが【サイレント】をかけ直した部屋の中で、一同は任務に
ついて姫直々の説明を受ける。
 アンリエッタが語った内容は、ワルドがクロコダイルに説明したもの
とおおよそ同じであった。ただ違うのは、彼女が殊更にアルビオン王家
の悲惨さを強調し、貴族派に対して怒りをぶつけている事。そして手紙
の中身について言及しなかった事である。
 話に引き込まれたルイズとギーシュは同じように義憤や悲哀を表して
いたが、横で眺めているクロコダイルからすれば茶番劇もいいところだ。
 アルビオン王家と親戚——肉親の情だけで動くほど、国は甘くない。
 かわいそうな王様——力なき王は王座を追い落とされて当然だ。
 礼儀知らずな貴族——戦争の勝者は、どんな非道も正当化できる。

(結局、このお姫様の感情論だな。くだらねェ)

 そもそも内憂を処理できなかったのは、どんな理由であれアルビオン
王家に責任がある。反乱前に貴族派の動向を見極められず、追い込まれ
てもなお他国に援助を要請しない王家は、己を支配者足らしめる努力を
怠っているとしか思えない。今となってはどこの国も支援してくれない
だろうし、反乱の兆しを巧妙に隠されていたのかもしれないが、政治も
戦争も負けた方が“悪となる”のだ。

(アラバスタもこれくらい楽に潰せればよかったんだが……)

 自分が反乱のきっかけを与えたアラバスタも、アルビオン同様動きが
鈍ければ今頃はクロコダイルの支配下に入っていた筈。あのビビ王女が
尽力して『麦わら』一味に助けを求めなければ。コブラ王が王家を捨て
てでも反乱軍の“国民”を助けようとしなければ。そして——自分が彼ら
を見くびって、最後まで放置しなければ。
 己の失態を思い出したクロコダイルは、軽く頭を振って余計な回顧を
追い出した。今考えるべきは過去の屈辱ではなく、これからの任務だ。
 見れば、説明は終わりを迎え、アンリエッタからルイズに一通の書状
と指輪が手渡される所であった。

「姫さま、これは?」
「ウェールズ皇太子に、手紙を返していただくように書いておきました。
 この『水のルビー』は、旅の資金にでも充ててください」

 待て、ちょっと待て。
 手紙を返してもらうための手紙というのも本末転倒だが、それよりも
『水のルビー』だ。つい先ほどマザリーニから「必要だ」と説明された
ばかりである。それをあっさりと他人に渡し、あまつさえ売り払っても
構わないというのはどうなのか。
 何とも言えない表情でクロコダイルがマザリーニの顔を見ると、彼は
多分に諦めを含んだため息とともに首を振った。

(……『風のルビー』の真偽を確かめる手段。偽物を持ち帰らねェように渡されたんだ)

 そう考えでもしないと、また怒りが爆発しそうだ。ひたすらに忍耐を
続けようとするクロコダイルは、隣のワルドが拳を握りしめている事に
気づかなかった。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十一話


 翌朝、学院周辺は朝霧に覆われていた。視界は最悪だが、こっそりと
出かけるには最適である。が、その前に一つ、クロコダイルは済ませて
おきたい用事があった。
 教員寮に入り、ある一室の扉を軽く叩く。
 数秒して、部屋の住人——ロングビルが顔を出した。

「クロコダイルじゃない。どうしたの、こんな朝早くに」
「少し出かける用事ができたんでな。二、三日学院を空けるが、その間に調べ物を頼みたい」
「調べ物?」
「グリフォン隊隊長、ワルド子爵の経歴だ。時間が足りなければ大雑把にでも構わん」

 その言葉に、ロングビルの目つきが変わる。悪名高い盗賊フーケが、
新しい獲物を見つけた時の目だ。

「新しい部下って事かい」
「部下“候補”さ。まだ確定じゃない」

 グリフォン隊の隊長を任された、風のスクウェアメイジ。
 実力は間違いなくある。昨夜実際に戦ってみてよくわかった。しかし、
それ故にあっさりなびくとは思えない。あの燃え盛る野心を抱くに至る
までのきっかけだけでもわかれば、交渉、懐柔、あるいは恐喝によって
味方に引き込む事も容易になろう。敵対する場合でも、情報は多い方が
何かと好都合だ。

「わかった、できる範囲でやっておくよ」
「一応言っておくが、あまりおれの名は出すな。国の上層部に警戒している奴がいる」
「ふぅん……あんたもいよいよ有名人かね」

 ロングビルの軽口に、クロコダイルは答えを返さず背を向けた。


 学院長室で、アンリエッタは霧に隠れた正門を眺めていた。生徒達の
手を借りる事を、事後承諾ではあるがオスマンに許可してもらう為だ。
ワルド、ルイズ、ギーシュ、少し遅れてクロコダイルが霧の向こうへと
消えたのはついさっき。四人の任務への意気込みに安堵を感じはしたが、
それでも不安は拭いきれない。

(始祖ブリミルよ。どうかルイズに、彼女達に御加護を……)

 全員が無事で戻って来れるよう、始祖に祈りを捧げるアンリエッタ。
 そのすぐ横では、オスマンとマザリーニが口喧しくいがみ合っていた。

「生徒やその使い魔を動員するとは、王宮も随分と人手不足のようじゃのう」
「老いに負けそうな学院長を招集して、ギックリ腰でもされてはたまりませんので」

 この二人、とにかく仲が悪い。宮廷、学院、果てはどこぞの酒場でも、
顔を合わせるたびに口喧嘩が始まる。王宮側と学院側の折り合いがよく
ないのは、半分以上こいつらのせいだ。

「言いおったな、このクソ爺め」
「そのクソ爺の倍以上年をくった御老体は、一体何爺ですかな」

 なぜここまで互いを毛嫌いするのか、当人達以外に知る者はいない。
過去に何か壮絶な因縁があるとか、単にそりが合わないだけだとか噂が
あるが、真相は闇の中だ。
 ただ、少しぐらいは時と場所を弁えてもらいたい、というのが周りの
人間の共通した思いだった。アンリエッタがこめかみに井桁を浮かべた
のも仕方なかろう。

「お二人とも、こんな時ぐらい喧嘩を控えようとは思わないのですか?」

 王女の言葉に二人は一瞬押し黙ったが、すぐにマザリーニが口を開く。

「しかしですな、姫様。既に出発した以上、事が終わるまでは余計な手出しはできません」
「古人曰く『杖は振られたのだ』。いくら気を揉んでも、彼らを助けられはしないのです」

 オスマンも珍しく厳かな顔で同意を示した。

「まぁ、頼りない鳥の骨が推した隊長殿では心配なのもわかりますが」
「気を揉むふりをして乳を揉む老人よりはよっぽどマシですがね」
「「……ふん!」」

 意見の一致が見られたのはほんの数秒足らず。
 大きなため息をついて、アンリエッタは再びブリミルに祈りを捧げた。

(始祖ブリミルよ……どうかこの二人に天罰をお与えください)

 さっきと違って随分と剣呑な内容であったが、真剣さでは同じかそれ
以上である。彼女もいろいろとストレスを溜め込んでいるようだ。瞳を
閉じて祈りに集中するアンリエッタ。
 だから、という訳ではないかもしれないが。
 学院の門からさらに三つの影が霧の中へ消えた事を、アンリエッタも、
視線で火花を散らすオスマンとマザリーニも完全に見落としていた。


 出発から数時間。太陽は空高く昇り、霧もすっかり消え去った。
 暖かい春の日差しが降り注ぐ街道、そこに馬に跨がるクロコダイルと
ギーシュの姿がある。全力で走らせ続けているため、前の駅で馬を交換
していた。さすがに疲れの色が出始めたギーシュが、ぼそりと呟く。

「ワルド子爵は、少し速すぎるのではないでしょうか」

 彼の視線は、遥か前方を疾駆するグリフォンに向けられていた。
 グリフォンは魔法衛士隊が有する幻獣の中でも、特に速度と持久力に
優れた生き物だ。瞬発力や小回りはヒポグリフに、魔法での攻撃・防御
ではマンティコアにそれぞれ劣るものの、スタミナと最高速は他二種の
追随を許さない。特に長距離の行軍では、一部のドラゴンと並んで重宝
される存在であった。
 さらに、ワルドはグリフォン隊の隊長である。その彼が従える一体と
なれば、部隊の中でもリーダー格、最高クラスの身体能力を持っている。
当然ながら、そこらの馬とはそのスペックが根本から違うのだ。

「同感だな。時は金なり、とは言うが」

 今までの経験の差か、ギーシュに比べてクロコダイルにはまだ余裕が
あった。しかし、目的地である港町ラ・ロシェールまでは、普通に馬を
走らせても二日はかかるという。このままのペースで走り続けるなら、
途中でまだ数回、馬を取り替えねばなるまい。それに、全力疾走する馬
を御するのは結構な体力を消耗するのだ。港町まで保つかどうか、少々
不安が残る。
 最も心配されるルイズはグリフォンに同乗させたので、こちらは問題
ない。騎手はワルドだから、疲弊するとしたら彼の方だろう。
 そのワルドについて、クロコダイルは気になっている事があった。

(子爵……何を焦っている?)

 昨日、任務の説明をされた時は気づかなかったのだが、今のワルドは
どことなく様子がおかしい。何か気がかりな事を抱え込んだまま、この
任務に参加しているようだ。特に奇襲を受ける危険が高い今回のような
任務では、それが生死の分かれ目となる事もある。現在のワルドの精神
状態で、面倒な事になりはしないか。

「——考えても埒があかんな」
「どうかしましたか、師匠?」
「いや……少し急ぐぞ。このままだと、また引き離される」
「あ、はい!」


 グリフォンの上で、後ろを見やったルイズは不安げな声を発した。

「ねぇ、ワルド。少し飛ばしすぎじゃないかしら」
「え? あ、ああ。済まないな、どうにも気が急いてしまって」

 少し前からクロコダイル達との距離が開いているのだが、ワルドは今
気がついたようだった。後方というのは確かに注意が届きにくいので、
気づかないという事もあるかもしれない。
 が、ワルドは現役の軍人であり、しかも部隊の指揮を執る隊長である。
隊列を組んだ場合、先頭に立つ状況は多いだろう。また、グリフォンに
限らず他の幻獣、時には馬や歩兵を率いる事も考えられる。そのような
指揮官が後続を置き去りに突出するようではだめだ、というのは、軍事
に疎いルイズでもわかる事だ。
 ならばなぜ、グリフォン隊の隊長を務めるほどの男が、クロコダイル
達を引き離している事に気づいていなかったのだろう。急ぎたい、との
気持ちはわからないでもないが、本当にそれだけか。何か他にも理由が
あって、それを隠そうとしているのではないか。難しい顔でグリフォン
の足を緩めるワルドを見ていると、ルイズにはそう思えてならない。

「ワルド、何か心配事があるの?」
「どうしたんだい、急に」
「何だか、無理してるみたいに見えたから」
「そんな事は、ないさ。大丈夫、大丈夫だよ」

 ワルドの言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。


 ラ・ロシェールは、アルビオンとトリステインを繋ぐ港町である。両国
を往来するフネにとっては停泊のための要港であり、またそのフネの乗員、
乗客にとっては重要な休息の場であった。
 アルビオンの紛争騒ぎが終息しつつある現在、この町は一足早く戦場に
見切りをつけた傭兵達でごった返している。特に多いのは、王党派の側で
参加していた連中だ。彼らにとって、主とは忠誠を誓う人間ではなく金を
払ってくれるスポンサーであり、報奨金よりも自分達の命の方が大切だ。
だからこそ、負けが決まった王軍を見限り、早々に身の安全を確保したの
である。
 ラ・ロシェールの裏町にある居酒屋『金の酒樽亭』も、そんな傭兵の客
ばかりがたむろしていた。

「長らく続いたアルビオン王家の天下も、もう少ししたら終わりだな」
「ったく、ツイてねぇ。俺を雇った伯爵、初日に部隊丸ごと全滅しやがった。
 おかげで魔法が飛び交う戦場を一人で逃げ回るはめになっちまったぜ」
「ハハ、災難だったな。ま、王党派の雇い主が外れクジなのは今更だけどよ」
「そうでもないぜ? 死んじまった貴族や大臣は、大抵金目の物を残してくれるからな」
「おいおい、そりゃ傭兵じゃなくて追い剥ぎだろう」
「死人にやるより、生きてる人間が使う方がマシさ。それに殺したのは貴族派の連中だ、俺じゃねぇ」

 お互いに自分の境遇を自慢したり、王党派や貴族派について好き勝手な
批評を論じたりして笑い合う。自分が参加しない戦争の決着など、彼らに
とっては酒の肴にしかならない。命と飯と寝床と金、この四つが手に入る
なら、王家の滅亡も貴族の隆盛も傭兵達には無関係だった。
 と、店の扉が開いて、新たな客が入って来た。頭の上から全身をローブ
ですっぽり包んだ、不気味な風体の人物である。異様に張り出したフード
のてっぺんが、傭兵達の目を引いた。
 珍客の乱入に店内が静まり返るも、その人物は気にする様子などない。
一通り店の中を見回すと、最も体格のいい傭兵の元へ歩み寄った。
 フードの下、眼鏡をかけた素顔が少しだけ覗く。細身の青年だった。

「何か用かい、兄ちゃん」
「君がまとめ役には適任だろう。そう思ったから声をかけたのさ」
「まとめ役だと?」

 中のワインが半分ほど減ったジョッキを置き、その傭兵は眉根を寄せる。
 軽く肩をすくめた青年は、苦笑とともに説明した。

「なぁに、ちょっとした依頼だ。指定する貴族達に襲撃を駆けて欲しい」
「暗殺か」
「いやいや、殺す必要はない。派手に暴れてくれれば十分だ」

 「ただ」と付け加えて、彼はローブの下から大きな革袋と一枚の羊皮紙
を取り出す。曝け出された右手の甲には、ミミズを這わせたような小さな
入れ墨があった。それ以外は随分と小綺麗な、武器を持たない者の手だ。

「条件がある。これに書いてある通りに事を進めてもらおう」

 羊皮紙の内容を読み進めるうち、傭兵の顔がさらに顰められる。不可解
でならない、といったところか。

「依頼主が貴族派なのも、可能な限り人を集めろってのも、決行日まで動くなってのもわかる。
 だが、逃げても追うなってのはどういう事だ。殺さないなら、足止めが目的じゃないのか?」
「ワタシも仲介でしかないから、全てを知っている訳ではないが……舞台演出の都合、と言っておこう」

 そう嘯いた青年は、一抱え以上ある革袋の口を紐解く。

「前金でエキュー金貨千枚、完遂できれば同じものを後四つ用意しよう。配分は君達で好きにしたまえ」

 ぎっしり詰まったエキュー金貨に、酒場の全員が目を見開いた。この町
の傭兵を総動員するにしても、報酬としては破格の額だ。若い連中からは
歓声が上がったが、一部の老練な傭兵は喜ぶどころか警戒心をむき出しに
していた。指定された日に適当に働くだけで金貨五袋、5000エキュー
が支払われる仕事。あまりにも話がうますぎる。

「……一つ聞かせてくれ、兄ちゃん」

 それでも。
 ここまで知った——否、“知らされた”以上、何もせずに引き下がる事は
できない。交渉が決裂した場合、口止め料が金から命になるだけだ。

「何か問題でも?」
「この仕事、本当に貴族派の依頼か?」

 傭兵の問いかけに、青年は口元を歪めた。

「そう言う事に“なっている”ガネ」


   ...TO BE CONTINUED

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