あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mr.0の使い魔 第二十話

「二つの宝についてはこのくらいでよかろう。後は——」

 そこまで言って、マザリーニは口をつぐんだ。部屋の扉が激しく震動
しているのだ。結構な勢いでノックされているらしい。【サイレント】
のおかげで室内は静かだが、廊下はさぞ喧しかろう。
 マザリーニが顎をしゃくると、頷いたワルドが【サイレント】を解除
した。途端に鬱陶しいほどの打撃音が飛び込んでくる。しかめっ面にな
りながら、マザリーニは大声で怒鳴った。

「騒がしいぞ。何があった」
「は! 姫様が、枢機卿にお会いしたいと」
「何だと……今すぐにか」
「はい。玄関でお待ちです」

 まだ細部の説明が終わっていないというのに。唸るマザリーニに、腕
組みしたクロコダイルが小声で話しかける。

「続きは道中でも構わん。後一つだけ、姫はどこまで知っている?」
「……手紙の件だけだ。裏の事情は御存知でない」

 同じく小声での返答にクロコダイルが頷くと、マザリーニは再び声量
を上げた。

「わかった。姫さまをここへお通ししてくれ」
「はッ!」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十話


 ややあって、入って来たのはアンリエッタだけではなかった。一緒に
訪れたルイズとギーシュに、クロコダイルが呆れ顔になる。

「なんでお前らがいるんだ」
「それはこっちの台詞よ! 勝手に部屋を抜け出して……おまけに決闘沙汰まで!」
「ああ、すまないな、ルイズ。僕の方から誘ったんだ」
「え、あ、別に、ワルドのせいじゃ……」

 頭から湯気が出そうなほど怒りに満ちていたルイズだったが、横から
ワルドが声をかけるとその勢いが衰えた。いつものルイズならば絶対に
あり得ない反応に、クロコダイルは怪訝な顔をする。

「子爵、知り合いなのか?」
「ええ、まあ。僕とルイズの家は、領地が隣り合っていまして。
 昔はよく園遊会や晩餐会に招かれて、小さかったルイズと一緒に遊んだのですよ」
「は、恥ずかしいわ。あんまり言わないで」

 誰だこいつ。
 クロコダイルは素直にそう思った。ギーシュも、会ってから日が浅い
デルフリンガーも同じ感想を抱いた。雰囲気からすると、今のルイズは
“幼馴染みの憧れのお兄さん”を前に舞い上がっているようである。頬を
赤らめ、もじもじと気恥ずかしそうな仕草をするルイズ。幻ではないが、
どうにも信じられない光景である。
 二人がそのまま昔話に花を咲かせ始めたので、クロコダイルは諦めて
残るギーシュに声をかけた。

「結局、何をしに来たんだ」
「えーと、ルイズと姫様が師匠を捜していたみたいです」
「おれを?」

 答えを聞いたクロコダイルの視線が、アンリエッタを捉える。部屋に
入って以降、彼女はマザリーニと睨み合いを続けていた。何か腹に据え
かねる事でもあるのだろうか。
 と、自分への視線に気づいたアンリエッタが、マザリーニへの威嚇を
やめてクロコダイルに微笑んだ。

「あなたが、ルイズの召喚した使い魔なのですか?」
「いかにも」
「人間を召喚するなんて……昔から変わっていたけど、相変わらずなのね、ルイズは」

 驚きなのか呆れなのか、判断に困る表現である。
 しばらくクロコダイルを眺めていたアンリエッタは、ふと顔を曇らせ、
先ほどとは違う厳しい目つきで問いかけた。

「枢機卿から、何をお聞きになったのかしら」
「ワルド子爵の仕事について、少々」
「やはり……こんな事に巻き込んで、なんとお詫びすればよいか」

 どうやらアンリエッタは、この任務に関わらせた事を心苦しく思って
いるようだ。確かに、裏の思惑を知らなければ、自分の手紙を取り返す
ためだけに戦地へ向かわせる、それについての自責の念を持つのも当然
かもしれない。
 しかしここで余計な思いやりを発揮され、自分の参加が取り消される
のは困る。だから、クロコダイルは心にもない謝辞を述べて頭を下げた。

「もったいないお言葉。姫のために働ける事を光栄に思います」

 口先だけのおべっかにアンリエッタは僅かに表情を歪めたが、すぐに
微笑みを形作る。宮廷で、同様に誠意のない口だけの挨拶に慣れている
のだろう。


 さて、ここでクロコダイルは一つ忘れている事があった。“一応は”と
但し書きが付くが、クロコダイルの行動を監督するのは主たるルイズの
役目なのだ。自分を差し置いて使い魔が王女と会話を交わす様を見て、
彼女がおとなしく黙っている筈がない。

「ちょっと、姫さまの為に働くってどういう事!?」
「お、落ち着いてくれ、ルイズ」

 今にも掴み掛からんばかりの勢いのルイズを、後ろからワルドが抱き
とめる。体格差もあってそれ以上前に出る事はなかったが、彼女の目は
不機嫌と疑惑の念で爛々と輝いていた。
 実のところ、クロコダイルは任務についてルイズに説明するつもりは
ない。部屋に戻らずに出発して、翌日オスマンあたりに「遣いを頼んだ」
とでも言い訳してもらうつもりだったのだ。目的地は遠く離れた島国。
一度学院を離れれば、授業があるルイズはおいそれと追う事もできまい。
 しかし、その計画は事前の段階で頓挫してしまった。どうしようかと
考えを巡らすクロコダイル。
 それを見かねてか、それとも友人の無作法を見ていられなくなったか、
アンリエッタがさっと歩み出た。

「いけません、ルイズ。これ以上関われば、後戻りできなくなります」

 ルイズを諌めるアンリエッタの行動は、そう間違ったものではない。
自国の主から多少遠回しでも「関わるな」と言われれば、大抵の人間は
おとなしく引き下がる。それはアンリエッタに限らず、この場にいる他
の者も共通の認識だった。
 ただし。あくまで“大抵”であり“全て”ではない事を、アンリエッタは
失念している。そして感情的になったルイズは、数少ない例外であった。

「姫さま、わたしではお役に立てないと仰るのですか!?」
「そうではないの。お友達を、危険な場所に向かわせるなんてできないわ。
 ギーシュさんも、ここで聞いた事は忘れてください。わたくしからは、これ以上言えません」
「ひ、姫殿下の御命令とあらば……いや、でも師匠が行くのなら……」
「もう、間怠っこしい!」

 歯切れの悪いギーシュを睨んだルイズは、今度はアンリエッタを睨み
つけた。目尻に涙を浮かべて、思いの丈を叩き付ける。

「姫さま、危険な任務だというのなら、なぜわたしの使い魔へ直接伝えたのです?
 わたしはそんなに頼りになりませんか? わたしはそんなに信頼が置けませんか!?」
「違うの、違うのよ、ルイズ! お願い、わかってちょうだい!」

 段々口調が芝居がかってきた二人を前に、男どもは唖然とする他ない。
それほどに、少女達の舌戦は苛烈を極めていた。ギーシュなど、今まで
持っていたお姫様像とかけ離れたアンリエッタの姿に目を見開いている。
ワルドもまた、肉体はともかく精神的に一回りも二回りも逞しく育った
幼馴染みを見て開いた口が塞がらない。

「姫さまはいつもそう! わたしを放って何もかも話を進めてしまう!
 宮廷でままごとをした時だって、姫さまが勝手に役割を決めてしまったわ!」
「何よ! ルイズだって、わたくしのお話を全然聞かないじゃない!
 かくれんぼの時、入ってはいけないって言った倉庫に隠れて、二人とも怒られたのを忘れたの!」

 喧々囂々。
 次第に本筋から外れだした二人の口論に、マザリーニは頭痛を覚えた。
もしかして二人とも、何が理由で口喧嘩となったのか忘れているのでは
ないか。任務を説明している最中に乗り込んで来た結果が口喧嘩とは、
はた迷惑この上ない。


 そしてこの場でただ一本、デルフリンガーはかたかたと震えていた。
ルイズとアンリエッタを笑っているのではない。持ち主の怒気に怯えて
いるのだ。
 次に気づいたギーシュが、素早く両手で耳を塞ぐ。それを見たワルド
とマザリーニが怪訝な顔をした、直後。

「いい加減にしろ!!」
「「はひッ!?」」

 大砲もかくやというクロコダイルの怒声が轟いた。部屋の窓に数本、
ひび割れが奔る。遠慮の消えたクロコダイルの殺気と威圧感は壮絶だ。
悲鳴を上げたルイズとアンリエッタを睨みつけ、クロコダイルは激情を
鋳込めた地鳴りのような声で語りかけた。

「いいか、お前ら。おれは今、もの凄く機嫌が悪い。
 だから、これ以上くだらねェ事で喚くな。わかったか?」

 少女達は無言で頷く。幼き日に散々叱られはしたが、クロコダイルに
比べればあんなものそよ風も同然であった。人が殺せそうに思える叱責
など、見るのも聞くのも受けるのも初めてである。

「これからおれが言う事をよく聞いとけ。
 一つ、おれはワルド子爵の任務を手伝う事になった。
 二つ、任務の性質上おれからは内容を説明できん。
 三つ、足手まといは邪魔だから不要。
 以上だ。これでもまだ、何か言いたい事があるか?」

 誰も何も言えない——と思いきや、さにあらず。
 おずおずと、ギーシュが右手を挙げた。この中では最もクロコダイル
に免疫がある人間だ。“勇敢にも”と見るか“性懲りもなく”と見るかは人
それぞれであったが。

「師匠」
「何だ」
「ぼくは……その任務に、志願します」
「おれの話を聞いてなかったのか。足手まといはいらんと言った」
「なりません! このギーシュ・ド・グラモン、必ず役に立ってみせます!」

 決意を固めたギーシュの表情に、クロコダイルは少しだけ溜飲を下げ、
同時に彼を見直していた。やる気は合格、後は実力も伴えば使える部下
になりそうである。その実力をつけさせる訓練には、これがいい機会と
なるかもしれない。

「いいだろう。その気概に免じて、同行を許可する」
「は、はいっ!」
「構わんな? 子爵、枢機卿」
「あ、ああ」

 話を振られたワルドは、思わず頷いた。まだ殺気の余韻が残っている
ようだ。
 一方、マザリーニの表情は芳しくない。グラモンと言えば元帥の息子
である。そんな人間を密命に投入して、もし万一の事があった場合、親
が反発するのは確実なのだ。子供を危険にさらすのは心苦しい、という
のもあるが、余計なリスクを抱え込みたくないのが政治家としての本音
であった。
 懊悩するマザリーニに、ギーシュが声をかける。

「枢機卿、心配なのであれば、この場で誓約書でも何でも書きましょう。
 ぼくが自分の意志で危険に身を投じたと知れば、もしもの時、父も諦めがつく筈です」
「……そこまで言うなら、引き止めはすまい。頼むぞ、ギーシュ・ド・グラモン」
「杖にかけて!」

 ギーシュの準備は整った。後は、ルイズがどうするか。
 クロコダイルが主に目を向けると、ギーシュの覇気にあてられたのか
呆然としている。

「で、お前はどうする? 無理をする必要はないと思うが」
「……無理なんかじゃない。わたしも行くわ」
「ルイズ!」

 悲鳴じみた叫び声はアンリエッタのものだ。ワルドやマザリーニも、
歓迎しているとは言い難い。
 三人の咎めるような視線を受けて、それでもルイズは怯まなかった。

「わたしは、姫さまのお役に立ちたい。困っている友達を、放っておけない。だから行く」
「意見を変える気はないんだな?」
「ないわよ。いくらあんたに睨まれても怒鳴られても、もう決めたんだもの」

 茶化すように口を挟んだクロコダイルに、ルイズは突き刺さるような
眼光を返した。ギーシュと同じく、腹を括ったようだ。
 二人の覚悟を見たクロコダイルは、満足げに笑った。これだけやる気
なら、途中で潰れる心配はあるまい。半端な気持ちで血腥い戦地に足を
踏み入れると、すぐに精神が参ってしまう。しかしそれさえ避ける事が
できれば、後は勢いだけでもどうにかなるものだ。

「だ、そうだ。アンリエッタ姫」

 クロコダイルの呼びかけに、アンリエッタは諦めの吐息を漏らした。

「……わかりましたわ。
 ならば、ルイズとギーシュさんにもお話ししましょう。ワルド子爵の任務について」


   ...TO BE CONTINUED

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