あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の使い魔と煉獄の虚神-4-後

―――薬草師のレオンはサビエラ村で随一の切れ者と尊敬されている青年である。
短い間だがガリアの首都リュティスまで行って薬草学の勉強もした秀才だし、貴族に水魔法を使ってもらえるだけの金が無い人々を癒すという仕事柄、貴族や魔法に対する尊敬と恐れも薄い。
だが、初めて見せられた攻撃魔術に、そんな余裕は吹っ飛んでいた。
吸血鬼騒ぎに怯える村の青年団を引き連れて、一番怪しい占い師の老婆マゼンダと、その息子のアレキサンドルを吊し上げにしようとしていた時、邪魔をしてきた男、王国から派遣されてきた花壇騎士だという子供連れのメイジに、偉そうな事を言うんなら魔法を見せてみろと迫ったのはレオン自身だ。
戦場どころかメイジ同士の決闘なども当然見たことの無いレオンは、どうせ貴族の魔法などと言っても猟師の弓か城の兵士が持っていた銃程度なのだろうとタカをくくっていた。

それが、完全に覆される。
タバサの杖を持ち、身振りを加えてもっともらしい呪文を唱えるグレン・アザレイ。
当然だが、そんな事で魔法は発動しない。
グレンは、この世界に来てから常に身につけている道具を取り出したのだ。
それは、空気を概念魔術で圧縮し固めた3ミリほどの粒。
悪鬼に観測されない透明な粒を、グレンは百個ほどマントの内側に入れて常備してある。
その粒を7つ、杖を突き出す動作で近くの木へ向けて飛ばした。
亜音速で突き刺さった空気の弾丸はしかし、3ミリの穴を開けるだけだが……圧縮の魔術を解除した途端、膨張した空気によって内側から幹を破裂させる。
村人達には、グレンが杖を向けた途端に樹木が粉々に爆発したようにしか見えない。
威勢の良かったレオンは、腰をぬかして地面にヘタリ込んでいた。
……だが、もしこの魔術を『地球』で魔術師と戦う専任係官達が見ていたのなら、村人以上に怖気で背筋を凍らせていただろう。
視認できない透明な弾丸は、視覚による魔術消去を許さない。
弾丸の速度を亜音速に抑えたのも、音速を突破した時の音で聴覚により消去されるのを防ぐため。
そして、悪鬼の肌に触れた瞬間に触覚での消去が発動し、圧縮空気の爆発によってダメージを負う。
いや、わざわざ飛ばさなくても、空気中に浮かばせるか地面に転がしておくだけで触れた悪鬼を吹き飛ばす地雷になるだろう。
『鬼火』と呼ばれる達人剣士の専任係官ならば、飛んで来る飛翔音を聞き分けて避ける事もできようが、これは完全に対『悪鬼』用に考えて織り上げられた魔術に違いなかった。

死に瀕して「より強い魔法、より高度な魔法が勝負を決する決まりなど無い」と敗北の理由を語られた男は、それを糧として新たな戦法を生み出したのだ。
地球人が、そしてサイトが知れば戦慄するだろう。
グレンはまだ、地球人と戦う事を考えの外には捨てていないと。
そなん事は知らないレオンや村人達にとっても、その爆発だけで花壇騎士の実力を信じさせるには十分だったようだ。
タバサとグレンはそのまま占い師の老婆に会うため、息子のアレキサンドルに案内させて小屋へと入ってゆく。
部屋には病気で外に出られないという老婆が一人。
流れ者で、占い師という怪しげな商売で、外出も出来ないとなれば吸血鬼と疑われても仕方あるまい。
そんな、ベッドの上から起き上がれないマゼンダ婆さんを前にグレンは一言。

「ご老人、もう具合は良いはずだ」

そう告げた。
相似魔術の使い手であるグレンが『神に近き者』と呼ばれる理由はいくつも有るが、その一つは相似大系の奥儀である『原型の化身』である。
相似世界において人はすべて神の似姿とされる。ゆえに、人と人は同じ原型を持ち、お互いに『似て』いる。
『原型の化身』はその繋がりを利用し、人間同士を強制的に似せるのだ。
極めれば、人を生命を操る神の如き力。
事実それを極めたグレンは、脳さえ残って活動していれば、悪鬼の魔法消去下でなければ周囲の人間に『似せ』る事でどんな傷でも回復させる。
たとえ腕がもげ、脚が取れ、胴体を二つに割られていても、一瞬で健康体になれるのである。
同じ原理で、健康な人間と相似させる事で病人を一瞬で回復させる事すら可能だった。

「おおう、身体が軽いですじゃ!?」

なんかババアが元気になった。

「歯も生えてきたですじゃ!」

おまけに一本も無かった歯が全部生え揃っていた。

「お肌や髪もツヤツヤに!!」

見た感じ30代前半ぐらいに若返っていた。まだまだイけるぜゴーゴーな感じである。
グレンがやりすぎたらしい。
すっかり元気になった、若い姿はなかなか美人だった元老婆はシーツを豊満な身体に巻きつけて外に飛び出す。
ひゃっほーいとか言いながら、呆然とする村人を尻目に広場で跳び回ってた。

「マゼンダ」

騎士様の連れてきた子供が女を指差して言った一言に、村人のアゴがカコンと落ちる。

「魔法で元気になった。お日様の下に出たから吸血鬼じゃない」

子供ことタバサがボソっと言う言葉に、釈然としないながらも村人達は肯いていた。
魔法って凄い、と感心半分恐れ半分の肯きである。
自分が参照元にされてあの人が15歳の姿とかにならなくて良かったと、
キュルケクラスの巨乳を揺らせて踊る元ババァを見ながらタバサは考えていた。


―――トリステイン王女アンリエッタはルイズの幼馴染である。
幼い頃の遊び友達であり、大人の汚い計算と関係なく自分の友であってくれるルイズ。

「とあーっ! 円月剣!!」

だが、王女であるからには公平を旨とせねばならない。

「うりゃー、ジャンプ切り!」

だから、王女として、目の前で親友の使い魔が繰り広げる『剣舞』と称する何かを、褒める事など出来なかった。

「必・殺! イナズマ雷鳴サンダー!!」

最初はいっぱいいっぱいだったサイトだが、何だか段々気持ちよくなってきたようだ。
野外に特設された使い魔品評会の会場に、予想に反して嘲笑の声は無い。
有るのは痛い沈黙だけだ。
ガンダールヴの能力まで発揮して、凄い速さでデルフリンガーをギザギサに振るサイトの努力は、しかし会場の誰にも伝わっていなかった。
もちろん、彼のご主人様にも。

「帰るわよ、犬」
「何でだよ? これから超必殺のエターナルフォースブリザードが炸裂するんだぜ!」
「いいから帰る!」
「いた、いたたたた! 耳、耳がとれるっ!」

耳を引っ張られて舞台の袖に引っ込まされるサイト。
彼は勇敢で優しい少年だが、残念な事にちょっとバカなのだった。

品評会の優勝は、順当にキュルケのサラマンダーに決定する。
サイトの芸を評価したのは、後で「サイトさんの剣舞、素敵でした」と言ってきたシエスタだけ。
恋は盲目なのだ。


―――キュルケはゲルマニア生まれの恋に生きる女である。
屋外での晩餐会が終わり、寮の住人が部屋で静かに過ごす頃、キュルケはルイズの部屋を訪ねようとしていた。
別にルイズに用があったワケでは無い。
品評会優勝を話のネタに、ダーリンことサイトにかまってもらおうという魂胆だ。
だが、自室のドアを開けたその場所に、先客が居た。
ギーシュ・ド・グラモンが、まるで盗賊のように鍵穴を覗いているのである。

「アンタ、何してるのよ? ペッタンコのルイズの着替えでも覗いてるの?」
「しっ! 今この部屋に姫殿下がいらっしゃっているのだ」
「アンリエッタ王女が? 何で?」
「よく判らないが、ルイズは恐れ多くも姫殿下の幼馴染だったから尋ねて来られたらしいね。
 そして何か困難な任務をルイズとあのサイトに御下命なされるとか……って、キュルケ、キミいつの間にボクの背後を!?」
「お約束のリアクションはどうでも良いから、ちゃんと聞き耳を続けなさいよ」
「あ、うん。そりゃ続けるがね……」

アレ? ボク今なんで命令されてるの? 的な不条理を感じつつ、ギーシュは鍵穴に目を押し付ける。
見れば許しがたい事に、王女が平民にお手を許されている場面。

「おのれサイトめ平民のクセに~ッ」

だが、真に許しがたいのはその先であった。
アンリエッタの手を取ったサイトは、絶妙のタイミングで姫殿下の腰を引き寄せ、その高貴な唇に下賎な唇を重ねたのだ。

「キスしやがったー!!」
「何ですって!?」

人生二度目のはずなのに、やけに手馴れたキスであった。
舌とか入ってたかもしれない。
気絶するアンリエッタにオロオロするサイトに、必殺のルイズ崩拳がズビシと大炸裂。

「ごぼはぁ!?」
「このエロ犬ーっっ!! 死になさいっ! 死んでアタシと殿下に侘びなさいよっ!!」
「ぐげぼぉ!!」

続けて放つはドロップキック・ゼロ。
危険な角度でサイトの顔面に食い込むルイズの両足。

「その通りだ! トリステインの可憐な花、我等の至宝を汚した罪、死んで償いたまえ!」
「ぶびゃらぁ!?」

更に扉が勢い良く開いたかと思うと、元帥家秘伝グラモン・ブリーカーが追い討ちを掛けた。
ボロボロになりつつも立ち上がったサイトがフラフラと倒れ込んだ先が偶然にもキュルケの胸の谷間だったのは、幸福なのか不幸なのか。
ぽよんと、サイトの顔を優しく包む弾力。

「うほっ♪」
「いやん、ダーリン♪」

ルイズの中で何かが切れる音がした。
こう、ブチブチっと。

―――惨酷シーンにつき、しばらくお待ち下さい―――

ルイズとギーシュによる折檻が続くこと約5分。
あまりの凄惨なリンチに、アンリエッタ女王は笑顔(営業用)を引き攣らせながらルイズに指輪を託して。

「それでは、お友達と一緒にアルビオンへ向かって下さいね」

と言って、そそくさと血の処刑場から退散していった。
後にはルイズと、いつの間にやら密命を託された形になったギーシュとキュルケ。
その足元に、ボロ雑巾と言うかグロ雑巾になったサイトが転がっていた。


―――ミス・ロングビルはアルビオン出身の元貴族である。
「困難な任務」を任されてアルビオンに向かう事になったキュルケに脅されて、道案内として同行する事になったのは、不幸な必然だろう。
何日もあのシリを撫でられなくなると、オスマン氏は大変残念がりながら見送ってくれた。
多分、鞍の上でプリプリ揺れるシリを視姦するのが目的で。
そんなワケで、ルイズ達は馬上の人となる。
旅の仲間はルイズと使い魔サイト、それにギーシュとキュルケとミス・ロングビル。
更に、魔法騎士隊の隊長でルイズの婚約者であるワルド子爵がアンリエッタより同行せよとの指令を受けて参加した。合計6人の大所帯である。
後ついでに地下を掘り進むギーシュの使い魔の巨大モグラも来ているはず。
一行は馬で2日、馬車なら4日以上かかる道程を1日で走破するため、途中で二度馬を乗り換えて全力で駆けさせた。
馬は生き物である以上、疲労するから最高速度で走れるのは一瞬だ。
その速度を維持するため、発達した交通の要所には馬を用意した『駅』が有り、そこで元気な馬に乗り継いで行くシステムが有るのだ。
だが、その間もワルドとルイズを乗せたグリフォンは休憩もとらずに走り続けた。
それは幻獣のとんでもない体力と、騎手の技量の賜物に他ならない。

そうして、一日中馬上で揺すられてクタクタになったサイト達は目的地・ラ・ロシェールに到着。
キュルケもギーシュも流石にぐったりしている。
元気なのはワルドと、彼に運ばれていたルイズ。それに何気に平然としているミス・ロングビルだけだ。

「中々乗馬に通じておられるようですな、レディ」
「色々あって旅なれておりますので。お恥ずかしいですわ」
「いや、女性でなければ騎士隊にスカウトしたいぐらいですよ」
「まぁ、お上手ですわ、子爵さまったら」

ハッハッハホッホッホと笑い合う、実はけっこう負けず嫌いな大人二人。
双方目が笑ってないような気がして、背筋が震えるサイトであった。


―――エルザは狡猾な吸血鬼である。
5歳程度にしか見えない外見の少女だが、その実30年以上もの間人間の生き血を吸って行き続けた妖魔なのだ。
村長の孫娘のような立場を手に入れたエルザは、その立場を隠れ蓑にして人の生き血を啜っていた。
自分より後から村にやってきた占い師の親子を疑わせるように仕向ける策まで使って。
村人は誰一人彼女を疑っていない。
吸血鬼退治に派遣されたメイジも、その外見と知略に簡単に騙されて罠にはまる。
そうして今夜も、彼女は愚かにも杖を手放したメイジ、グレン・アザレイを誘い出し、捕らえる事に成功したのだ。
そのはずだった。

「なんで!? なんでつかまらないのよ!?」

先住の魔法によって伸びた枝が、杖を持たない間抜けなメイジを捕まえたはず。
なのに、枝はグレンの周囲を包むだけで、その身体に届かない。
無数の空気の粒を固めて作った見えない壁が、グレンの周囲を守っているゆえに。

「これが『先住』か。精霊大系……いや、完全大系に似た魔術だな」
「くそおっ! 枯れし葉は契約に基づき水に替わる力を得て刃とならん」

鉄のように硬くなって飛ぶ落ち葉。
それも、空気の壁に阻まれて尽く砕けて落ちる。

「ウソっ―――あいつをとめてなさい、アレキサンドル!」

恐怖に彩られる幼い顔。
エルザは勝てない事を悟り、グレンに背を向けて逃げ出した。
彼女が逃げ出すのを助けるのは占い師の息子アレキサンドル。
魔術師が使い魔を持つように吸血鬼が血を吸った者を一人だけ操るという、屍食鬼、グールである。
屍食鬼はグレンに飛び掛り、エルザが逃げるための捨石になった。
そして捨石らしく、一瞬でバラバラにされる。
外見からは想像もつかない運動能力で、そのわずかな時間で走って逃げるエルザ。
だが逃げ出した方向には、タバサに連れられた村人達が集まっていた。

「除けえぇぇぇぇ!!」

愛らしい顔のままに、子供に発する事が出来るとは思えない憎悪にあふれた絶叫がエルザの喉から吐き出される。
トロル鬼やオーク鬼には劣るが、吸血鬼の腕力は普通の人間を遥かに凌駕するのだ。
合わせて魔法も使えば、平民でしかない村人の集団などグレンが追いつく前に蹴散らせる。
そう思って、魔法を唱えようとした瞬間、エルザの胸に氷の矢が突き刺さった。
タバサのウィンディ・アイシクル。
放たれた無数の矢は、胸だけではなく全身をめった刺しにする。

「うそ……!?」

呆然と見開かれる少女の目。
凄惨な光景に、エルザを吸血鬼と知らず孫のようにかわいがっていた村長をはじめとする、幾人もの村人達が目を背けた。

「二人とも、メイジだなんて……ズルっこ、だわ……」

擦れたエルザの声が聞こえたのか聞こえなかったのか。
タバサはドットスペル『土』の『錬金』でエルザの周囲の土を油に変成。
同じくドットスペル『火』の『発火』を唱える。
言い訳も返答もせず、雪風の魔女は無慈悲に吸血鬼を燃やし尽くした。


―――土くれのフーケは元盗賊である。
王女殿下の密命を受けたルイズ一行が宿泊する、ラ・ロシェールで一番高級な宿『女神の杵』亭への襲撃に一番に気がついたのも、職業柄研ぎ澄まされた感覚のおかげだったに違いない。
とは言っても気がついた時には宿の入り口は包囲されて矢を射掛けられていたから、あまり威張れる事でもないだろうが。
二階に居たサイトとルイズが物音に気付いて下りてきた頃には、キュルケとギーシュ、ミス・ロングビルとワルドが、突入を目論む傭兵相手に、つくりつけの机を盾として防衛線を張っている所だった。
他の客もメイジなのだろうが、机の下で震えているだけで役に立ちそうには無い。

「トリステイン貴族も不甲斐無いですわね」
「そりゃ同感だけど、相手は貴族と戦うのにも慣れてるみたいよ。どうするつもり?」

アルビオン出身のミス・ロングビルとゲルマニア貴族のキュルケがぼやいた。
ルイズ達トリステイン貴族の面々には反論の言葉も無く、憮然とその侮辱を受け入れる。
それはともかく、傭兵達は魔法の届かない距離から矢を放ち、こちらの消耗を待っていた。
だからといって反撃しなければ、屈強な重装甲の前衛が突撃してくるだろう。
呪文を唱える間も無いほど接近されれば、メイジに勝ち目は無い。
だからこそ、多くのメイジは従者や使い魔に詠唱中の自分を守らせるために連れ歩くのだから。

「しくじったわ。やっぱフレイムを連れて来るんだったわね……」
「こうなったら、サイトとギーシュのゴーレムを先頭に全員で突撃して撃てるだけの魔法を……」
「ちょ、おま、ルイズ! 俺を殺す気か?
 ついさっき、任務が終わったら俺が地球に帰る方法を探してやるとか言ったクセに」
「仕方ないでしょう! このままじゃどの道全滅だし、アンタは私の使い魔なんだから」
「いいかね、諸君」

ギャンギャン騒ぐ子供達をたしなめるように、ワルドの低い声が響く。

「このような任務は通常、半数が目的地に到達すれば成功となる」
「……囮作戦ってコトね?」
「そうですね。仕方ありませんわ」

ワケが判らないと言うなギーシュサイトルイズのお子様三人を尻目に、キュルケとミス・ロングビルはワルドの策を理解して頷いた。
ここで数人が大暴れして、その隙にルイズ達がアルビオンへの船に乗り込むのだ。

「ここは私とミス・ロングビルの二人で十分よ。あんたたちは行きなさい」
「いや、しかしレディだけを置いて行くなどとは、トリステイン貴族として許される事では無くてだね」
「アンタのゴーレムなら矢避けぐらいにはなるでしょう。いいから行きなさい!」
「……判った。ヴェルダンデ、後は任せたよ!!」

自分も残ろうとしたギーシュだったが、キュルケに諭されてルイズ達と共に裏口に走る。
飛び出した四人に何本もの矢が放たれるが、キュルケの予想通りギーシュが生み出したゴーレムが身を挺して矢を受け止めてくれる。
そのまま桟橋へ向けて四人は走り去った。
残されたのは美女二人。
机の影で、蓮っ葉な口調に戻ったミス・ロングビルが髪を下ろしながら聞く。

「良かったのかい? あのボウヤ二人でも残ってりゃ、多少の足しにはなったろうに」
「ダーリンは一応ルイズの使い魔ですもの。残ってもらうワケにはいかないわ。
 それにギーシュに居られちゃ、貴女も全力が出せないじゃない『土くれ』のフーケ」

ニヤリと笑うキュルケとミス・ロングビル――もとい、フーケ。
その言葉の意味は「ゴーレムで蹴散らせ」だ。

「いいよ、やってやろうじゃないさ! 時間稼ぎは頼んだよ小娘!」
「あら、時間稼ぎはかまわないけど―――あまりノロマだと、あいつら全員消炭にしてしまいますわよ!」

興奮すると言葉が汚くなる美女と、興奮するほど言葉が丁寧になる美女が同時に立ち上がり呪文を詠唱する。
キュルケの前方に生まれるのは炎の渦。
『火』『火』『風』のトライアングルスペルによって生み出されたそれは、二人に向かって放たれた矢を尽く燃やし尽くす。
グルグルと回される杖に従って回転する炎輪は、呪文と共に徐々に巨大になっていた。
ダンと机を蹴り倒して走るキュルケ。
走りながら突き出した杖に従い、炎の渦が6つの炎条となって傭兵達に襲い掛かった。
悲鳴をあげて燃え上がる男達。

だが、呪文を放った瞬間のキュルケは無防備極まりない。
仲間の死にも恐れを抱かない勇猛な数人が武器を掲げてキュルケに殺到する―――寸前。
盛り上がった土がキュルケと傭兵達を隔てた。
完成したフーケの呪文により生み出される30メイルの巨大ゴーレム。
平民の剣や矢では相手にもならない破壊そのものの腕が、キュルケを仕留めようと迫っていた数人を横薙ぎに払い飛ばした。

「あ、あんなのが出てくるなんて聞いてねぇぞ!」
「だ、駄目だぁ、逃げろぉ!」

傭兵達は我先に逃げ出そうとする。
当然だ。傭兵にとって正義とは勝利ではなく生き延びる事。
金のために雇われて戦うのに、死んでは金がもらえないのだから。
だが、逃げ出す男達の前に立ち塞がった雇い主はそれを許しはしなかった。

「あかんたれやなぁ、ちょおデカブツが出た程度で、逃げ出したらあかんやろぉ。
 傭兵1番から6番を【木偶の坊】と定義、定義済み概念【傀儡】を加算。
 変数域に【人参果】を代入―――もうちょお、戦こうてや」

紅い加賀友禅を着た女がそう言った瞬間、6人の傭兵達の身体が変成された。
身につけていた鎧や武器がメキメキと音を立てて、巨大な蜘蛛の脚を思わせる節足に成ったのだ。
魔法生成された寄生生物である『脚』は宿主である傭兵の肉に食い込み、擬似神経を張り巡らせる。

「はぎゃ!? ギがごGAごごごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉげヲけえぇぇぇぇ」

あまりの激痛に、正気を失った6人の悲鳴がラ・ロシェールの夜空に響く。
悲痛な声が途切れれば、そこには人間と蜘蛛を混ぜたような、奇怪な魔法生物が生み出されていた。
仲間を怪物にした犯人が目の前の雇い主だと本能的に理解した他の傭兵達は、瞬間の判断で女に剣を向ける。

「くそっ、死にさらせぇ!」
「タマ獲ったるわぁ! うおぉぉぉぉ!」

まさにメッタ刺し。突き刺さる槍と剣は総数13本。
その状態で、しかし女はニタリと笑う。

「あーあ、一張羅がダイナシや。こっちでは着物も手に入らへんのになぁ」
「な……馬鹿な……不死身だと!?」
「ほんまに、あかんたれや。死人を刺したかて、死ぬワケあらへんやないの」

女の名は『染血公主』ジェルヴェーヌ・ロッソ。
数ヶ月前、サイトの故郷『地球』で死んだはずの高位魔導師。
その恐るべき魔女が操るのは、名付ける事で対象を思うがままに変成する『宣名大系』の魔術である。

「傭兵7番から12番を名付けて【独活】。定義済み概念【傀儡】を加算。
 変数域に【鈴虫】を代入―――変わりや」
「ひいぃぃぃ!?」

細い手足をもった外骨格の巨大昆虫に変えられる男達。
泡をくって逃げ出そうとする生き残りを、ジェルヴェーヌは許さない。

「傭兵ケインの血を名付けて【逃げ水】。定義済み概念【緋牡丹】を加算」

夜気が震える。
全身の血液をニトログリセリンに変成された傭兵は、周囲に破壊を撒き散らして爆発する。
約7リットルもの火薬が生み出す、圧倒的な爆発に巻き込まれて肉片に変えられた者、10名以上。
逃げられない。逃げた者から殺されると、傭兵達は悟る。
血と炎の臭いが濃くなった戦場に、不吉な風が吹いた。

……戦いの風向きが変わった事に、ゴーレムの背後へ回り込んでくる傭兵を焼いていたキュルケが気付く。
ゴーレムに取り付く気味の悪い巨大昆虫。
職業意識以上の必死さの、決死の形相で向かってくる傭兵達。
次々に叩き潰されながら恐怖に錯乱して涙とヨダレを流しつつ、彼等の猛攻は止まらない。

「マズいねぇ。何があったか知らないけど、こりゃ支えきれないかも」
「なんなのよ。普通逃げ出すでしょうに……とは言え今更脱出も難しそうねぇ」
「自決でもするかい、お貴族様?」
「まさか。ツェルプストーの歴史に敗北主義者は一人も居ないわ」

お互いの背中を守りながら、美女二人が言葉を交わす。
フーケもキュルケも自分の美貌を自覚しているだけに、殺されるならともかく、生きて捕らえられればどんな目に遭うか理解している。
それでも自分から死を選ぶような二人では無いのだ。
ククッと喉の奥で笑うフーケ。
背中をあずけた女が、自分と同じ事を考えていると理解したからだ。

「ホント惜しいねぇ。アンタとは気が合いそうだったんだけど」
「同感だわ。一度ゆっくり盃を交わしたかったものね」
「ギュ」

共感と相互理解が、二人の女傑を結びつけた。
目と目で意思を確認して、乱戦の中に飛び出すタイミングを計る。
こうなったら中央突破を狙う以外に生き残る道は無い。

「ギュギュ」

とは言っても、おそらく二人とも生き残れないと覚悟を決めた突撃である。
この数相手の乱戦で、精神力を酷く消費した二人に、勝ち目はほとんど無いのだから。

「ギュギュギュ!」

死を覚悟して戦場に立つなら、背中をあずけるのは愛した男が最高だとキュルケは思う。
だが、死の瞬間まで恐れたりはしないであろうこの女となら、そう悪く無いとも考えた。
せいぜい派手に戦って、華々しく散ろうと決意する。
キュルケは何処までもツェルプストーの名に相応しい火のような女だった。
フーケは、ルイズやワルド達貴族を逃がすために死ぬのは業腹だと思う。
けれど、この女と共に戦って死ぬなら、破壊の杖を盗み損ねて縛り首にされるよりは上等かと考えた。
せいぜい派手に暴れて、足掻くだけ足掻いてから死のうと決意する。
朽ちた『土くれ』に『微熱』の炎が燃え移ったのかもしれなかった。

「ギュー!!」
「ん? ナニよこの鳴き声」

緊迫した雰囲気に水を差すコミカルな声にやっと気付くキュルケ。
見れば、宿屋の入り口の側から顔を出しているモグラが居る。

「ヴェルダンデ! ギーシュの使い魔じゃない!!」
「ギュイ」

つぶらな瞳の、小型の熊ほどもあるジャイアントモールが、ついて来いとでも言う様に鼻先を動かし、親指(?)を立てる。
ヴェルダンデがそこに掘ってあるモグラ穴は、キユルケ達以外には気付かれていないだろう。
つまり、安全度の高い脱出経路という事だ。

「凄いわヴェルダンデ! ギーシュはお馬鹿だけど使い魔は天才ね!」
「こりゃ、あのボウヤに感謝しなきゃねぇ」

大喜びで使い魔品評会優勝の賞品だった『小さな王冠』をヴェルダンデにかぶせるキュルケ。
光り物が大好きなヴェルダンデも嬉しそうだ。
こうして二人と一匹は、大暴れさせたゴーレムを囮に無事に逃げ出せた。
もちろん最後にゴーレムを土に戻して、穴を塞ぐ事も忘れずに。







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