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宵闇の使い魔 第拾陸話



今頃、ウェールズ殿下は勇敢に戦い、そして死んでしまっているのだろう。
これから、アンリエッタ殿下は最愛の人を亡くし、好きでもない男のもとに嫁ぐのだ。
なんでこんなにも全てが上手くいかないんだろう。
――――自分のことではないのに、とても泣きたくなった。


宵闇の使い魔
第拾陸話:それぞれの日常へ


アルビオンからトリステインの王宮へと直行した一行。
マチルダ達を待合室に残し、虎蔵とルイズは謁見室へと通されていた。
自ら出迎えに来たアンリエッタにワルド不在の理由を説明していた為か、マザリーニも呼ばれている。
もっとも彼は事情を知らないため、明らかに平民である虎蔵が飄々と其処に立っている事が気に入らぬ様子だが。

「姫殿下、これは一体どのような―――そもそも何故平民がこのようなところに」
「枢機卿。申し訳ありませんが、まずは話を聞いたください」

アンリエッタが人払いを終えて戻ってくると、マザリーニは不機嫌さを隠そうともせずに口を開いた。
だが、アンリエッタに遮られると、渋々といった様子で頷く。
彼女はルイズをちらりと一瞥すると、マザリーニへの説明を始めた。

ウェールズと自らが恋仲であったこと。
彼の元に始祖ブリミルの名において永久の愛を誓った手紙があったこと。
その手紙の回収をこの二人に頼んだこと。
回収は成功したが、その途中で同行させたワルドの裏切りが発覚したこと。

マザリーニは話が進むたびに顔色を悪くしていったが、回収に成功のくだりで何とか持ち直した――
が、ワルドの裏切りという言葉を聞くと、目を見開いて「真逆――」と呻いた。
ワルドはトリステインでも有数の使い手として、マザリーニの信頼も厚かったのだ。
無理も無い。
しかし、彼がこの場に居らず、手紙が回収されているということは―――

「なんと―――」
「彼を同行させたのは失敗でした。私も、彼ならばと思っていたのですが―――油断でした。
 ごめんなさいね、ルイズ―――辛い思いをさせました」
「いえ、それは私だけではありませんから―――これを」

ルイズはそういうと、アンリエッタの元へと進み出て、ウェールズから預かった《風のルビー》を手渡す。
アンリエッタはそれを見て悲しげな表情を浮かべた。
こればかりは、流石に隠しようも無い。
マザリーニも何も言わなかった。

「殿下は、最後まで勇敢に、戦いに向かわれました―――」
「そうですか―――ならば、私も逃げる訳にはいきませんね」

アンリエッタはまるでウェールズの鼓動を感じようとするかのように、《風のルビー》を胸に押し当てる。
そして、ウェールズと同じような表情を浮かべた。
ルイズは胸を痛める。
自分では、ウェールズどころかアンリエッタも救えないのだ、と。
自分は虎蔵や仲間に助けられているのに―――


「使い魔さん。いえ、トラゾウ――で宜しかったわね?
 貴方もありがとう。ルイズを、私の大切な人を守ってくれて」
「いんや――ま、ちょっとした運動にはなったくらいだ」

虎蔵はそう言って肩を竦めてみせる。
それにマザリーニが激昂しそうになるが、アンリエッタが微かに笑いながら抑えた。
ルイズは相変わらずな様子の虎蔵に顔を赤くする。

「他の皆さんにも、アンリエッタが感謝していたとお伝えください。
 公式な礼は出来ませんが、せめて言葉だけでも」
「―――はい」
「さぁ、今日はもうお帰りなさい、ルイズ。貴女は貴女の生活に戻るのです。後は―――私の仕事ですから」

ルイズは深々と頭を下げると、謁見室を辞する。
虎蔵ものんびりとそれに続いた。
彼女たちを見送ったアンリエッタは、受け取った《風のルビー》をそっと撫でて小声で呟く。

「ルイズ。私は―――何を賭しても、この国を守って見せます―――
 ねぇ、ウェールズ様。これで良いのですよね?」




戦が終わって二日後。
死体と瓦礫の入り混じる中を、奇妙な集団が歩いている。
一見すると聖職者のような格好をした男。
ビア樽めいた体躯を白いダブルのスーツで包み、黒丸サングラスにソフト帽という格好をした初老の男。
細い、ぴったりとした黒いコートを纏った女。
彼らは周囲で行われている財宝あさりには目もくれず、とある報告のあった場所を目指していた。

「まったく――簡単な任務だと言っておったのに――」
「ミスタ・クロムウェル。大丈夫ですヨ」

ぶつぶつと呟く聖職者風の男――《レコン・キスタ》総司令官、オリヴァー・クロムウェルに対して、初老の男が声をかける。
体躯のせいか、演技が入っているのか、動作の一つ一つがやたらとコミカルに見えた。
もっとも、誰一人笑みを浮かべないが。

「ミスタ・マー―――」
「我々はこういった事態の為に此処に居るのですかラ――心配はいりませんヨ。なぁ、ミス・シェフィールド」
「う、うむ―――それもそうだな」

マーと呼ばれた男の、ニィっとした妙に薄ら寒い笑みから視線をそらすクロムウェル。
一方、女――シェフィールドはこれといった反応を示さなかった。
不気味な二人組みである。

実のところ彼らはクロムウェルの部下ではない。
"とある筋"から派遣されたアドバイザーのようなものなのだ。
更に言えば本来、クロムウェルよりも遥かに上位の存在である。
とはいえ、周囲には《レコン・キスタ》の兵士も居るため威丈高に振舞っているのだ。
いや、振舞おうとしているというのが正しい。
彼の声は微妙に震え、彼らを前にして妙な緊張をしているのが見て取れる。
もっとも、周りの兵士達はそんなことに注目などしていないのだが―――
クロムウェルは急ぎ気味で目的の場所へと足を向けた。


彼らの目的地であり、二日前まで礼拝堂であった場所は、見事に瓦礫の山になっている。
その中から引きずり出されたのであろう、激しく損傷したワルドの死体は地面に横たえられていた。
彼を探し出した兵士達が、クロムウェルに彼の所持品を差し出す。
クロムウェルはそれを受け取ると、兵士達をこの場から下がらせ、一人ワルドの所持品を検分し始めた。
万が一、手紙を手に入れていた場合を考えて強奪は禁止していたのだが―――

「やはり、無いか―――ふん、下らん」
「まぁ、待つヨロシ。見せてもらえるかネ?」

やはり、手紙は手に入れられなかったようだ。
クロムウェルは銀でできたロケットがついたペンダントを手にして中を見ると、詰まらなそうに顔を顰める。
それを投げ捨てようとしたのだが、マーがソレを止めた。
さほど高価には見えないそれに興味を示したマーに、首を傾げながらペンダントを差し出すクロムウェル。
マーは中身を見ると、くつくつと笑ってポケットにしまった。

「ミスタ・クロムウェル。彼を一時預かっても構わんかね?」
「は?いえ、構いませんが―――いったい、何を」
「なに、向こうにはジョーカーがアルのだ。我々も、エースくらいは必要だと思わんかねネ?」
「―――何をする気だ」

周りに《レコン・キスタ》の兵士が居ないためか、思わず素の口調になるクロムウェル。
ジョーカーの意味が解らない為だ。
ワルドを倒した何者かのことだろうか。
シェフィールドも怪訝そうな様子でマーを見た。
どうも、彼と彼女の間には明確な信頼関係というものは無いようである。
しかしマーは気にした様子も無くニィッと笑みを浮かべた。

「使えるものは死体でも使うということネ。貴方もさっきもやったことヨ?」

クロムウェルはマーの言葉を聞いて、はっと何かに気づいたように自らの指に嵌められた指輪を見た。

《アンドバリの指輪》
人の心を奪ったり、死者に偽りの命を与えたりと言った奇跡とも思える力を行使できるアイテムである。
これならば、ワルド子爵を蘇らせる事もできるであろう。
だがこの指輪、無限に使える訳ではないのだ。
人を生き返らせる為にはかなりの消耗を伴う。
既に側近達の前でウェールズを蘇らせている為、これ以上の消耗は避けておきたいのが正直な所であった。

「――し、しかし、ミスタ・マー。確かに彼は有能な方ではあったが、アレを使うというのは――」
「指輪は不要ネ。我々に任せておけば、大丈夫ヨ―――」

渋るクロムウェルに対して、マー――即ち、幽幻道士・馬呑吐は、まるで魂を抜かれるかのようないやらしい笑みを浮かべて見せた。



学院への帰還から暫くがたった。
あのアルビオンでの冒険からのルイズ達の日常はというと――――

ギーシュは、ほんの2,3日は何か凄い手柄を立てたと言う噂を聞きつけたクラスメイトに囲まれて居たが、詳しく話すことができないこともあって、あっという間にもとの生活に戻っていた。
モンモランシーに無断で数日も外出した事をしこたま怒られたりもしたようだが、結果最後には仲直りをするのだから、本当に何時も通りだった。

キュルケもまた、今までとそれほど変わらない毎日である。
キープしている男子達とそれなりに付き合いながらも、虎蔵にちょっかいを掛け続けている。
面倒事を嫌った虎蔵は殆ど相手にしていないが。
その為かどうかは解らないが、最近どんどんボーイフレンドが減っていっているらしい。

タバサは以前よりかなり虎蔵に近づくようになった。
虎蔵が暇そうにしているのを見ると、彼を広場の人気の無い方へとへ引っ張っていっては、実戦さながらの特訓をしているのだ。
虎蔵は面倒臭がっているのだが、毎回無言のまま見つめ続けられて、結局根負けして付き合っている。

マチルダはこれと言った用事がなくても、酒瓶を片手に虎蔵の所へやってくるようになった。
そのせいかどうかは解らないが、ルイズやキュルケとの仲はよろしくない。
もっとも、それで彼女の正体を暴露するような事はしないため、本気で嫌いあっているのとは違うようだが。
また、酒の調達先なのか、シエスタと話している所を見かけることも増えた。
虎蔵はティファニアの事を思い出して、意外と面倒見が良いタイプなのかもしれないな、などと感じていた。

そしてルイズは―――

「トラゾウ?」
「ん?なんだ、まだ起きてたのか―――」

夜遅く、マチルダやマルトーと酒を飲んで帰ってきたトラゾウに、ベッドから声が掛けられる。
小さく欠伸をしながら視線を向ければ、ルイズがちょこんとベッドの上に座っていた。
普段の生活リズムからすれば、確実に寝ている時間であったため、トラゾウは僅かに驚く。

「トラゾウ、ソファーで寝ると疲れが取れにくいって言ってたわよね?」
「あぁ、それが?」

街で適当に仕入れてきた寝巻きに着替えながら、ルイズに返事を返す。
召喚当初は着替えの手伝いすらさせようとした彼女だが、最近はシーツで作ったカーテンに隠れてやるようになった。
虎蔵が着替える時も自分からカーテンを閉めている。
虎蔵自身はたいして気にしてもいないのだが。

「こっちで寝て良いわよ」
「は?」
「だから、ソファーじゃなくてベッドを使って良いって言ってるの。私だけだと広すぎるもの」

確かに、ベッドは彼女の小さい身体には不釣合いに大きく、二人でも十分なサイズである。
なにが切欠でこんな事を言い出したのかは知らないが、虎蔵としては断る理由はなかった。

「さよけ。ならま、そうさせて貰うわ」

ごきごきと首を鳴らしながら、躊躇う様子も無くベッドに腰を下ろす虎蔵。
自分から招いた事ながら、思わず「――ッ」と緊張を露にしてしまうルイズに構うことなく、そのままばったりとベッドに横になった。

「ぬぅ―――柔らか過ぎて落ち着かんな」
「――嫌なら出なさいよ」
「いや、ソファーよりは良いからな」


落ち着かないなどと言っておきながら虎蔵はあっさりと寝てしまったのだが、ルイズの方は隣が妙に気になって眠れないで居た。
異性が隣で寝ている事には、意外なことにそれほど抵抗が無かった。
多分、虎蔵だからなのだろうが。

しかしその一方で、寝れないで居る原因が虎蔵であることも事実だ。
自分にとって彼はいったい何なのだろうか。
ただの使い魔?
それともそれ以上の何か?

ルイズは考えた。
考えに考えたが、解らなかった。
眠くなるまで考え続けたが、解らなかった。
だから彼女は、睡魔の総攻撃を受けて朦朧とする意識の中で、なんとなく虎蔵に寄り添ってみた。
アルコールと葉巻の匂いがする。
本当ならば好きではない筈の匂いなのに、それほど気にならなかった。
眠いからだろうか。

いつしかルイズは、虎蔵の片腕に頭を預けて、夢の世界へと落ちていった。

―――あぁ、そうか。兄様が居たら、こんな感じなのかな―――



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