あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mr.0の使い魔 第十九話

 女子寮を出たルイズとアンリエッタは、人気のない中庭で一旦歩みを
止めた。クロコダイルが行き先に選択できる場所は、学院内でも無数に
あるのだ。

「ねぇ、ルイズ。最初はどこを探すの?」
「そうですね……」

 もう一度頭巾をかぶり直したアンリエッタの問いかけに、ルイズは目
を閉じて考える。
 部屋を出たクロコダイルが行きそうな場所といえば——。

(ミス・ロングビルの部屋……じゃないわよね)

 真っ先に思いついたのは、最近仲の良いロングビルの部屋。
 しかし、ルイズはそれを否定した。あそこは教員寮である。外出禁止
が命じられている今、教師に見つかればたとえクロコダイルでも強制的
に部屋に戻されるだろう。強制とまではいかずとも、遠回しに「帰れ」
と言われる筈だ。それがわかっていて、あえてロングビルの所を訪れる
可能性は低い。
 何より、捜しに行った自分達が見つかるとまずい。見つかったらそこ
でミッション失敗である。行くとしたら最後だろう。

(でも、他に行き先は思いつかないし、目的地を知ってそうな人っていうのも——)
「おや、ルイズじゃないか。生徒は全員寮内待機じゃないのかい?」

 悩むルイズに、ふと声がかけられた。
 顔を上げると、月明かりの中にギーシュの姿が。

「あ、いた」
「え?」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第十九話


「いい所に来たわ」

 にっこりと微笑むルイズを前に、ギーシュはぶるりと身を震わせた。
目が笑っていない。ギーシュの脳裏に、浮気が発覚した父に詰め寄る母
の姿がよぎる。

「ギーシュ、あなたクロコダイルの居場所を知ってるわよね? 教えなさい」

 いきなり断定口調のルイズだが、これは何も当てずっぽうで言った訳
ではない。「生徒は寮内待機」と言ったギーシュ本人が出歩いており、
かつ彼は常日頃クロコダイルを追いかけ回しているのである。疑うなと
言う方が無理な注文だ。
 実際、ギーシュはこくこくと頷いて、自分の知っている事を口にした。

「あ、ああ。窓から師匠が中庭にいるのを見つけたから、ちょっと気になって」
「それで?」
「えーと、ちょうど誰かと話をしてたみたいだったね。
 マントにグリフォンの刺繍があったから、姫殿下の護衛——グリフォン隊の誰かだと思う。
 しばらくすると揃って学院の外に出て行くから、こっそりと後をつけたんだ。
 そしたら……ほら、平原に、デルフリンガーの実験をした場所があるだろう」
「あの大岩の?」
「そう。あそこまで行ってから、いきなり戦い始めたんだ。
 いやぁ、凄かった。何せ、その貴族相手に一歩も引かないんだから」
「何ですって!?」
「どうしてそんな……」

 ルイズだけではなく、アンリエッタも目を丸くして驚いた。どういう
経緯でそんな決闘沙汰に発展したのか。まさか、何かとんでもない非礼
でも働いたんじゃなかろうか。考えれば考えるほど、原因になりそうな
行為はわからなくなる。
 一方のギーシュは二人の動揺にも気づかず、事の顛末を一息に語る。

「まぁ、結局はうやむやのうちに終わったんだけどね。
 岩陰から誰かが出て来て、仲裁したようなんだ。後は皆でどこかへ行ってしまったよ」
「どこかって、どこよ」
「さぁ、そこまでは。見る物がなくなったから、ぼくはこうして帰って来てしまったし」
「……ギーシュさん、とおっしゃいましたね」
「ん、ああ」

 呼びかけに応えつつも、ギーシュは首を傾げた。女子にはこんな声の
子はいなかった筈。メイド達とも違う。
 こと女性に関しては、ギーシュの記憶力はずば抜けていた。

「そういえば、まだ名前も聞いていなかったね。
 ルイズ、よければ紹介してくれないか? 学院にいる生徒やメイドじゃないだろう」
「え? あー、その、ね。こ、この人は……」
「構いませんよ、ルイズ」

 アンリエッタがフードを外した瞬間、ギーシュの顎がカクンと落ちた。
聞いた事がない筈だ。グラモン家に生まれて十七年、王女のお声を耳に
する機会など一度もなかったのだから。

「あ、あ、あ……!」
「御静かに願います、ギーシュさん。
 それより、戦っていた貴族がどんな魔法を使ったか、ご存知かしら」
「うぁ、はい、風の系統です。【フライ】や【ウィンドブレイク】を使っていましたから」
「風系統のメイジ……」

 上擦った声で返されたギーシュの言葉に、アンリエッタはじっと考え
込んだ。横に立つルイズが、ちょいちょいとギーシュをつつく。

「つーかアンタ、どっから覗いてたのよ。
 いつもは近づくだけで【砂嵐】に吹き飛ばされてるじゃないの」
「ふっ、ぼくだって場の空気ぐらいは読めるのさ。
 決闘の最中に割り込むような無粋なまねは、ぼくの美学に反するしね」

 嘘くさい台詞にルイズが半目になるが、ギーシュは気にしない。

「だからほら、愛しいヴェルダンデに手伝ってもらったんだよ」

 ギーシュはとんとん、と二回、靴底で地面を叩く。すると足下の土が
盛り上がり、一頭のジャイアントモールが顔を出した。

「まさか、穴掘って隠れてたの?」
「そうだとも。師匠も、離れてこっそり見ている分には気にならなかったようだ。
 ああ、ヴェルダンデ! 君はなんて役に立つんだろうね!」

 ヴェルダンデに頬擦りするギーシュ。典型的な飼い主馬鹿である。
 ルイズは、猫可愛がりって言うんだろうか、でもこいつモグラだし、
じゃあモグラ可愛がりかもしれない、などと埒もない事を考えていた。

——もぐもぐ
「え、きゃあ!?」

 そのモグラことヴェルダンデだが、不意に鼻をひくつかせると、勢い
よくアンリエッタに飛びかかった。思考に没頭していたアンリエッタは、
不意打ちを避けられず押し倒されてしまう。

「姫さま! ちょっとギーシュ、あんたモグラに何させてんの!」
「ぼ、ぼくじゃない! ああヴェルダンデ、いきなりどうしたんだ!?」
——もぐもぐもぐ

 アンリエッタの上にのしかかったヴェルダンデは、狼狽するギーシュ
を放ってもそもそと動いた。目を輝かせて、アンリエッタがはめている
指輪に鼻をこすりつけている。もっとも、ヴェルダンデの体は小さな熊
ほどもあるために、被害は指先だけではすまないのだが。

——もぐもぐ、もぐもぐ
「や、あっ! そんな、ひゃん、くすぐったい!」
——もぐもぐもぐ、もぐ
「あ、そこ、だめ! やめ、やぅっ!」

 【タイトル:美女と野獣】。
 そんな馬鹿な考えを浮かべて目を細めていたギーシュに、隣のルイズ
の怒声が飛んだ。

「ギーシュ、何とかしなさいよ!」
「わ、わかったよ。ヴェルダンデ、一体どうしたんだい?」
——もぐ、もぐもぐ
「なに、その宝石が気に入ったのかい? うーん、それじゃ仕方ないな。
 珍しい宝石や希少な鉱物に目がないのはジャイアントモールのサガだから」
「誰が翻訳しろって言った! さっさと止めないと爆発させるわよ!」
「あ、ごめん。ヴェルダンデ!
 気持ちはわかるが、姫殿下にそれ以上うらや——もとい無礼な事をしてはいけないよ」

 ギーシュの説得が功を奏したらしく、ヴェルダンデは名残惜しそうに
アンリエッタの上から体をどけた。下敷きになっていたアンリエッタの
衣装は、土と泥でべとべとに汚れている。
 一国の姫になんて事を! ルイズはお仕置きしようとヴェルダンデを
睨みつけた。が、つぶらな瞳に見つめられるとふつふつと罪悪感が湧く。
ギーシュの言う通りというのは癪だが、確かにかわいい、かもしれない。
そんなヴェルダンデにお仕置きするなんて——。
 くっと唇を噛み締めたルイズは、仕方がないので躾を疎かにした主に
制裁を加える事にした。風切り音とともに、鋭い回し蹴りがギーシュの
脇腹に突き刺さる。

「がふッ!?」
「まったく、このエロギーシュ! すみません、姫さま。お召し物を汚してしまって」
「い、いいのよ、替えのドレスはまだあるから。でも、こうしていると昔泥遊びをした時のようね」
「あの時は二人とも泥だらけになって、侍従長さまに叱られましたわね」

 朗らかに笑う少女達の横で、少年は泡を吹いて痙攣していた。砂嵐に
もまれ続けたために多少打たれ強くなっており、気絶してはいない。が、
今に限っては、意識がない方が痛みを忘れられて楽かもしれなかった。

「それで、姫さま。先ほどは、何を考えていらしたのですか?」

 ぱたぱたとドレスの汚れを払うアンリエッタに、ルイズが尋ねる。

「グリフォン隊には、各系統それぞれを得意とするメイジが数人ずついます。
 ですが、今日の護衛の中には、風系統のメイジは一人だけ」
「それって……」
「グリフォン隊隊長、『閃光』の二つ名を持つ、ワルド子爵です」

 そう答えたアンリエッタの表情は、珍しく険しい物だった。


 子爵達の居場所に心当たりがある。
 そう言ったアンリエッタを筆頭に、捜索チームは夜の学院をこそこそ
と移動した。ちなみに、なんとか起き上がったギーシュは、王女と一緒
に行動できると知って有頂天だ。巡回している兵にアンリエッタが抜け
出した事を告げ口されない為の処置なのだが、当人はその辺まで考えが
回ってないらしい。
 時折出くわしそうになる兵士を、時には物陰に潜み、時には茂みの中
に隠れ、時にはヴェルダンデの掘る穴に潜り込んでやり過ごしながら、
三人はついに目的地に到着した。

「姫殿下、ここなのですか?」
「ええ」

 来客用に急遽掃除された宿舎。玄関口では二人の衛兵が槍を手に歩哨
を務めている。ほとんどの窓は真っ暗だったが、一つだけ、カーテンの
隙間から光が漏れていた。
 近くの木立に身を隠しながら、アンリエッタは明るい窓を指差す。

「おそらく子爵はあの部屋にいる筈です。ルイズ、あなたの使い魔も一緒でしょう」
「クロコダイルがあそこに、ワルド子爵の部屋に……」
「いいえ。あそこはマザリーニ枢機卿の部屋ですわ」
「え?」
「姫殿下、それはどういう……?」

 疑問符を浮かべるルイズとギーシュ。
 するとアンリエッタは、ぱっと木陰から飛び出した。当然そんな事を
すれば兵に見つかるのだが、何せ王女である。突如目の前に現れた王族
に、衛兵達は目を瞬かせた。

「こ、これは、姫様!」
「こんな時間に一体何用でしょうか? それに、そのお姿は——」
「わたくしの事などどうでもよろしい。
 それよりも、マザリーニ枢機卿に会わせなさい。今すぐにです」

 アンリエッタからにじみ出る気迫は、怒りか、あるいは苛立ちか。
 理由が何であれ、すこぶる不機嫌であるのは確実だ。これ以上機嫌を
損ねてはまずい。二人の兵士は顔を見合わせると、一人が慌てて宿舎へ
と駆け込んだ。


   ...TO BE CONTINUED

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