あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズさんとハヤテくんと-2

ハヤテの朝は常人より早い。
昔から早朝バイトがままあったので、早起きすること自体に体が慣れていた為だ。
「ん……あれ?」
起きた早々、見覚えの無い天井と、背中に伝わる硬い感触に、異世界で新たな職に就けたんだったと思い出す。
昨晩の最後の爆破と、召喚前から続く空腹で気を失って倒れた床から身を起こし、ベッドで何の不安も無くすやすやと眠る、主となった少女を見る。
やはり、夢ではなかった。
「ええと……」
早速何か雑用をしようかと思ったが、その直後に何処かの奥からしぼり出される、欲望の呻き声のような音が部屋に響く。
何の事は無い、昨晩の逃亡から何も入っていない、ハヤテの腹の欲求である。はらへった。
昔よくやった、水だけで空腹をしのぐネタをしようと思ったが、

(……あれ? 水ってどうするんだろう?)

もとよりファンタジー世界に現実の水道は期待していないが、多分井戸ぐらいはあるものだろうと当たりをつける。
実世界でも世界規模の文化であるし、日本で有名な竜の冒険では中に貴重なメダルが落ちている場所でもある、由緒正しき水道の基礎だ。
朝と言えど窓に差し込む光はまだ淡く、ようやく早朝になったばかりと言う程度。
主を起こさないように、ハヤテはこっそりと部屋を出る。
(水飲みに行くついでに、食堂探して残飯でも貰え無いかな?
 こんな大きな建物なんだし、作りすぎで余ってたらいいなあ)

『残飯に希望を持つようなのが、主人公でいいのか?』


5分後、早速道に迷っていた。
トリステインのみならず近隣の他国からも貴族の子弟が集うこの学院、並の広さではない。
ロンダルキア洞窟のように何度同じ道を通ったか分からなくなっていたところで、しかし幸いにもテーブルや椅子、そして主の部屋に負けず劣らず豪華な調度品が立ち並ぶ大部屋にたどり着いた。
アルヴィーズの食堂。
おはようからおやすみまでみんなの食生活を守る為の場所は、今は朝食の準備に多くのメイドが縦横無尽に動き回っていた。
「あのう、すみません」
「はい?」
一人の、素朴な感じの黒髪メイドが反応し、仕事を中断して駆け寄って来る。
ハヤテが何か言おうとしたが、その前に彼女はハヤテの左手のルーンに気づき、
「もしかして、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう平民ですか?」
「はい、綾崎ハヤテです。お嬢様の所でお世話になっています。これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。変わったお名前ですね?」
おかしいですか、と尋ねようとして、昔は日本でも下級の人は名前しか無かった時代もあったっけ、と思い出す。
ファンタジー世界なのだから、別段珍しい事も無いだろう。むしろこの名乗り方は、全部が名前に思われても仕方が無い。
とは言え別の世界にいた、と言っても信用されないのがパターンなので、「ハヤテで結構です」と言うにとどめる。
実際の理由は何なのか分からないが。

「はい、ハヤテさん。私はシエスタと言います」
と、言葉を遮る様に、ハヤテの腹がもう一度自己主張する。はらへった、メシ食わせろと大合唱。
「ふふ、お腹が空いてるんですね」
「すみません、召喚される前から何も食べて無くて……残飯だけでも結構です」
『だからどうして残飯なんだ、主人公よ』
「残飯だけだなんて冗談が下手ですね。賄い食ならありますよ」
「あ、ありがとうございます」
冗談じゃなかったんですが、と言おうとする前に、ハヤテはシエスタに腕を引かれて厨房の奥に連れて行かれた。

タバサと言うメイジの使い魔、シルフィードは暇を持て余していた。
使い魔となった時、彼女は主から制約を告げられていた。主以外の相手の前で話してはならない。
シルフィードは竜種ではあるが、その中でも珍しいどころかとうに滅んだとされる、韻竜という種であった。
他の竜との違いの一つに人の言語を解する事があり、喋ったらバレる為に周りには風竜として喋らない様にさせていた。
だが、大体の人間もそうだが、一言も話さないままじっと我慢するのは辛いものがある。まして、シルフィードはお喋りだった。
普段なら主に怒られそうなので自重しているが、今は新しい本を取りに図書室へ行った為、一人だ。周囲に人も見当たらない。
召喚されて一日、主はかなり無口なうえ、他の誰にも話してはいけない。その反動で、独り言を言っても、仕方が無かっただろう。

「あー! もう、黙ってばかりは苦しいのね! もっとお姉様と喋りたいの!
 きゅいきゅ―――」

耳が物音を捉え、口を止める。水がいっぱい入ったバケツを、うっかり取り落とした音だ。
ギリギリと嫌な予感とともに、錆びた歯車のようにゆっくりと音源に振り向くと、みずぼらしいコートに身を包んだ少年、ハヤテの驚きに満ちた顔。
しばしの沈黙。空気が痛い。
少しばかり時間が経ってから、シルフィードが再起動して、

「……あの、」
「きゃー! (韻竜だって)バレちゃったー!?」


シエスタからの賄い食を胃にかき込み、水汲み場をついでに教えて貰った後、ハヤテはバケツを借りて水を手に入れ、その帰り。
ハヤテの特技、というか生活上の必須技能として、気配を悟られずに神出鬼没と言うのがあり、借金取りとの逃亡の最中で身に着けたという、非常に嫌な方法のスキル入手方法だった。
借金取りのいない今でもその癖はすぐには抜けず、気付かぬ間に気配を消そうとしていたりする。
閑話休題。

水汲み場からの帰り道に何らかの物音を聞いたハヤテはつられる様にフラフラとそちらへ行き、気付かれる事なく喋る竜を目撃した。
ただシルフィードの懸念と異なり、ハヤテとしては6メートル程の竜が横たわって、しかも言語を話した事に驚いてバケツを落としただけなのだが、

(落ち着け……落ち着けよハヤテ、すぐに突っ込んだら負けだ!
 KOOLだ! KOOLに行くんだ!)
『この学院にぃ、ひぐらしを鳴かせる気かぁ、ハヤテよ』
(―――そうだ、魔法とか2つの月とか、もう二つも非常識を見たじゃないか!? 異世界だぞ、ファンタジーだぞ!?
 今更竜がいたり、それが喋るぐらい非常識でも何でも無いじゃないか!)
『その思考がぁ、既に非常識だと言ってやるぅ!』
(うるさい黙れ、天の声!)
脳内ボイスに突っ込みながら、ハヤテは目の前で「お姉様ごめんなさい!どうしよう!」とか巨躯に似合わず可愛く騒いでいる竜をどうしたらいいのか、途方に暮れていた。


結局シルフィードが落ち着くまでハヤテは待ちぼうけになり、それからようやく異世界にて初の、人間以外の知的生命体との対話に成功した。
竜にもたれるように座り込み、自己紹介から始める。
「綾崎ハヤテです。ルイズお嬢様の使い魔をさせていただいております」
「シルフィードよ。お姉様の使い魔なの、よろしくね、ハヤテ。
 何してたの?」
「お嬢様の部屋の拭き掃除をしようと思いまして、水を汲んで来たのですが……」
「ごめんね、驚かせて」

「いえ、こちらが勝手に驚きましたから。
 それにしても……やっぱり、竜って喋るんですね」
「やっぱり?」
何か誤解されている気がした。
喋る竜―――韻竜はとうに滅んだとされているのは子供でも知っている事なのに、この人間の少年は何故か喋る事を当然のように思っている。
誤解を解こうとしたが、それよりは別の事を言った方がいいと思い立ち、
「あの……わたしが喋ってたの、他の人には内緒にして欲しいのね?」
「内緒ですか?」
「内緒。竜は人前で喋っちゃいけないっていう事になってるのね」
少しの嘘に、ハヤテは疑問を抱いた様子も無く、分かりましたと返す。
そういう設定なんですね、と言う意味は理解出来なかったが。
「けど、意外に声は可愛らしいんですね」
「可愛い? ホント? 嬉しいのね」
「ええ。イメージじゃ、中年の渋い男の声で重々しく喋るのを想像してました」

『ぜんうちゅうのぉ、かぁみとなぁるのだぁ!』

「っていう天の声みたいな」
やはり意味が分からないが、何となく無茶苦茶な事を言われたイメージがよぎったので、「失礼ね!きゅいきゅい」と抗議しておいた。
「けど、ホント嬉しいのね。
 お姉様、あまりそういう事は言ってくれないから」
「人前で喋っちゃいけないんじゃ無かったんですか?」
「お姉様は主人のメイジだから知ってるの。お姉様と、ハヤタだけの秘密」
「ハヤテです。光の巨人ではありませんから」


「もうすぐ朝食の時間なのね。食堂に行かなくていいの?」
「―――しまった! 忘れてました!」
話に花を咲かせ過ぎて、気付けば空は明るくなっていた。
お嬢様を起こさなきゃと急いで立ち上がり、バケツを持って、
「ちょっと待って」
「はい?」
「また、お話ししたいのね。お喋りできないから退屈なの。いい?」
「勿論です。僕でよろしければ、ぜひ!」
「わたしはこの時間はよくここにいるのね。
 ありがとなのね、ハヤト」
「ハヤテです。ゲッター2でも技の2号でもありませんから」

『異世界に行っても突っ込みは冴えていたハヤテ、惜しむらくは分かってくれる相手がいない事だった』



「何処行ってたのよ!」
もう一度水を汲んで部屋に帰って来たハヤテを待っていたのは、両腕を組んで待っていたルイズの叱りだった。
「申し訳ありません、お嬢様! 拭き掃除の為の水汲み場を探していたら、道に迷いまして」
「拭き掃除? 何で……ああ、昨日雑用を頼んだわね。
 これからは、書き置きぐらい残していきなさい!」
「はい、お嬢様」
自分でも無茶苦茶言っていると思うが、ルイズはそれでも怒り続けるしかなかった。
わざと顔を真っ赤にでもしていないと、涙の跡が見えると思ったから。

朝起きて、部屋に誰もいない。
寝ぼけていた頭が起きてから、昨日使い魔を召喚した事に気付く。
だが、部屋のどこを見ても人っ子一人見当たらない。
「やっぱり、使い魔を呼んだと思ったのは……私の夢だったの?
 そうよね……使い魔に平民なんて、ありえないもの」
実際の私は、やっぱり使い魔の召喚すら出来ないダメメイジだったのかと打ちひしがれ、思わず涙をこぼしてしまう。
が、すぐに涙を拭い、そしてサモン・サーヴァントをして確かめられる事を思いだし、発動させ―――失敗した。
失敗がこの場合は成功なのだが、今度は逃げられてしまったのかと不安になる。
まさか一日で愛想を尽かされたとは、あの態度から考えにくかったが、相手は人間、何を考えるか分からない。
先に食堂に行ったキュルケが「昨日の今日でもう振られたの?」と茶化してきたので「使い魔として働いているだけよ」と堂々と誤魔化したが、正直不安が小さな胸に詰まっていた。

「お嬢様は、大切な人です」

昨日はつい爆破してしまったが、結局の所、ルイズはそう言われて嬉しかった。
ただそれを素直に出せないだけで。
だから、バケツ片手に戻って来るハヤテの姿を認めた時、理不尽だとは思うがつい怒ってしまい、ならそのまま済し崩しに食堂に連れて行き、泣き顔を誤魔化してしまおうと画策した。

「じゃあ、さっさと食堂行くわよ! 連れていってあげるから、付いて来なさい!」
「あの、お嬢様!」
「なに―――」
よ、と言うが早いか、ハヤテはどこからかハンカチを取り出し、ルイズの頭を押さえて目もとを拭い始める。
突然の奇行に、ルイズは抗議しようとして、しかし呂律が回らない。
「な、な、な、なに、なに、」
「お嬢様の顔に、涙の跡がありましたので。顔を洗う暇がありませんので、これで勘弁してください」
まるで幼児か何かに対する扱い。
失礼な、と言うより先に、何故か体の奥からこれ以上見られたくないとの思いが強くなり、礼も言えずついと横に向く。
「こ、子供じゃないのよ、私!? 今の、小さな子供にするみたいに、か、顔に!」
「いえ、お嬢様って黙っていると可愛らしくて魅力的ですから、涙の跡なんかついてると勿体無い―――」

「―――ひ」

ハヤテの脳天から足の裏まで電撃が駆け抜け、思わず口をつぐむ。
ルイズが急に怒り出したのを本能で察知したが、何故怒ったのか分からない。
だが一つ分かる事がある。何とかして、機嫌を取らなければ、また爆破される!
「ち、違うんですお嬢様! それは言葉のあやで、」
「一言多いのよあんたはー!」

『教訓:口は災いの元』



主に連れられて来た食堂のテーブルの上では、先程のがらんとした何も置かれていない時とはうって変わり、満漢全席―――とは行かずとも、
普通の人は食べないような肉の丸焼きやら、何やら見たことの無い野菜か肉かがどんと盛られた皿が所狭しと並べられている。
フードファイターでもなければ食いきれないような料理の山が、そこにはあった。
「お金って、あるところにはあるんですねえ……」
「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないの。
 『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ」
だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの、とルイズが胸を張る。と言われても、ハヤテには「はぁ」と空返事しか出来なかったが。
と喋りながら中に入り、空いたテーブルに近寄る。ハヤテは先んじてルイズより前に一歩出て、先に椅子を引く。
「どうぞ、お嬢様」
「ん」
当然のように座るルイズ。内心、(やっぱりそのくらいは気は利くのね……)と感心していたが。

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします」
そこにいた貴族の生徒全員で祈りを済ませ、いざ朝食に取り掛かるが、
「くすくす……」
「ふふふ……」
5分もしないうちに、周囲から苦笑や嘲りとともに、視線が集中しているのを感じる。
ルイズは気になって周りを見渡すと、ハヤテが椅子の一歩斜め後ろで直立不動のまま待機していた。
さっきの笑いは、使い魔に食事を『おあずけ』させているように見えるからか!
「ちょ、あんた! 何してるのよ!」
「お嬢様のお食事が終わるまで、お待ちしているのですが……」
「あ、あんたはいつ食べる気なのよ!」
「勿論、お嬢様が食べ終わってからですが」
「そんな時間無いわよ! 恥ずかしいから、さっさと食べなさい!」
「え、よろしいんですか?」
「いいわよ! 食べ終わったらすぐに授業なんだから、そんな時間無いし。
 あんたの分はこれ!」

先に賄いを食べたとはいえ、一日以上空腹だった+育ち盛りのハヤテの胃にはまだ若干の余裕があった。
しかし、これと主の指差す先には、床の上に置かれた皿―――硬そうなパンの欠片2つと薄い色のスープのみ。

「こ、これは……」

食事というよりおやつレベル以下の、しかもテーブル上と比較して物凄い差の量に言葉を一瞬失うが、
(これは……試練か! この程度の苦難すら乗り越えられないようでは、お嬢様の使い魔の資格は無いと!
 僕は今……お嬢様に試されている!
 ふっ……この程度の苦難など、親が食事代掠めて行って無いから、何度もコンビニのゴミから弁当を無断で拾うことに比べれば簡単な事だ!)

『大いなる勘違いである。なお、よい子は真似しないようぅに!』

「ほんとは使い魔は外で、あんたは―――」
「分かりましたお嬢様! 見事、期待に応えてみせましょう!」
「いや、あの……もしもーし……」
説明する前に勝手に納得されて勝手にやる気を出され、ルイズは振り上げた拳の行き場を無くした。
(ちゃんと主として、躾けようと思ってた矢先に、こいつは……!)



朝食が終わって向かった先は、大学の講義室を思わせる教室だった。
ルイズとハヤテが中に入った時、先にいた生徒達の視線が集中し、そしてくすくすと生まれる笑いにルイズは顔をしかめるが、ハヤテは周囲の光景に目を奪われ、それどころではなかった。
「うわぁ……」
現実では不可能な事実が目前にある。
肩に乗ってるフクロウやらカラスやら、向こうにも普通にいる動物はまだしも、赤いトカゲ―――サラマンダーや窓から覗く巨大な蛇、空想上の物に至っては六本足トカゲのバシリスク、目玉おばけのバグベアー、蛸人魚のスキュアなどなど。
まさに不思議のバーゲンセールだ。
朝に喋る竜を見たが、ここにいる謎生物達も、彼女や自分と同様『使い魔』とされているのだろう、と理解。
成程、人間の使い魔が他にいるかは分からないが、この様子では確かに珍しそうだ。
「では、お嬢様。僕は外で―――」
「何言ってんのよ、あんたもここにいるの」

「授業ですけど、よろしいのですか?」
「他の使い魔もいるでしょ? 今日はその顔見せも兼ねてるけど、授業では普通は付き添うものなのよ」
「はぁ、分かりました」
食堂でやった通り、ハヤテは斜め後ろで待機。もう慣れ始めていたルイズ。
扉が開いて先生が現れ、授業が始まった。

「皆さん、春の春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。
 ……おやおや、変わった便い魔を召喚したのですね、ミス・ヴァリエール」
教室がドッと笑いに包まれ、
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を運れてくるなよ!」
「違うわ! きちんと召喚したけど、こいつが来ちゃっただけよ!」
「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう!」
などと主がクラスメイトと言い合いを―――中身から相手は召喚時の告白と怪我騒ぎを知らないらしい―――している最中、ハヤテは一人、心中で小さな幸せを噛み締めていた。
(ありがとうございます、神様、お嬢様。お金の心配も不安も無く、異世界とはいえ学校に通えるようになって。
 ……どうせ向こうは両親が「もうハヤテは学校通わないから」とか言って学校から残りの学費も回収してるだろうし)
金にだらしないバカ二人を思い出して鬱になったが。とにもかくにも、これからはお嬢様に養って戴く身。
お金の不安はもうしなくていいんだ、ハヤテ!

『それはヒモと言うんだ、ヒモと!』
(うるさい!)
と前を見ると、既に騒ぎは収まり、授業らしい授業が始まっていた。


女教師―――赤土のシュヴルーズが講義を行い、時折生徒を指す。
形は自分の世界の授業とほぼ代わりはしないように見える。
文字は見た事も無く読めもしなかったが、彼女の話から、魔法には主流の四属性―――火水土風と、失われた『虚無』を含めた5つの系統があると理解。
中でも土は、重要な金属を作りだしたり、建物を建てるのに役立ったりと、生活に密接に関係している、と彼女は誇らしげに述べた。
前置きしたところで彼女は教卓に石を数個置き、
「では、土の基礎である錬金を、おさらいしてみましょう」
シュヴルーズが杖を振ると、ただの石ころは一瞬にしてピカピカと光る金属に変化した。
「ゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」
誰かが驚きで叫び、
「違います、ただの真鍮です。ゴールドを―――」

その光景を見ていたハヤテの脳内で、欲望が膨れ上がる。
この世界の錬金は、現実の怪しげな物とは違って、本当に物を変えてしまうのか。
ああ、あの世界でこんな術があるのなら、
「そこら辺の石ころを金属に変えて、生活費や学費や借金を簡単に返して……ぶつぶつ」
「あんた、黒い思考だだ漏れよ」
無視せずにいられなかったルイズに突っ込まれた。
「それに、金属を無分別に作ったら価値が下がって大変だし、何より珍しい金属はそうおいそれと作れないわよ」
「そうなんですか……」
やはり当然と言うべきか、立ちはだかる問題に、ハヤテの欲望は一歩目で打ち砕かれた。
『ハヤテの野望・トリステイン編―――完!』

そんな風に講義中に喋っていると、当然先生に見咎められ、
「ミス・ヴァリエール、授業中の私語は慎みなさい」
「すいません……」
「お喋りをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょうか」
「私ですか?」
そうですとシュヴルーズが告げると、ルイズはしかし立ち上がらず、代わって周囲がざわめき出した。
「先生、危険です!」
「どうしてですか?」
「とにかく危険なんです! ルイズだけは、ルイズだけは!」
「―――やります」
周囲の否定に逆に背を押されたように、ルイズは立ち上がり、つかつかと前に歩き出す。
教師が見守る中、ルイズは杖を振り上げ、呪文を唱え、

(……あれ?)

何故か周囲の―――特に前の方に座る生徒は、揃って椅子の下に隠れる。
理由は分からないが、頭に「対ショック姿勢!」の怒鳴り声が聞こえるイメージのポーズだ。
嫌な予感がする。
例えるなら、まだ逃げなれていない若い頃、逃げ道の無い密室で扉一枚先に借金取りがノックをしまくった時みたいに、危機が間近に迫った気配だ。
……僕の思い出にろくな物は無いのか。

過去回想の間にルイズは呪文詠唱を終え、目をつむって、杖を振り下ろす。


―――その瞬間、机ごと爆発した。

炸裂する爆音に使い魔達が怯え、竦み、ただひたすらに暴れ出す。
シュヴルーズは至近距離の爆風に吹き飛ばされ、黒板に叩き付けられた。
必死で使い魔をなだめる主達。ガラスが割れ、悲鳴が舞い、怒号が飛び交う。
そんな中、使い魔も外にいて、混乱を全く意に介さずにいたメイジの少女―――タバサだけが、それを目撃していた。
あくまで目撃しただけで、ほんの少し興味を示しはしたものの、また何事も無く椅子に座ってはいたが、彼女は確かに目撃していた。
シュヴルーズより爆心地に近い筈のルイズが、どうなったのかを。


目の前で石ころが光り出した時、ルイズはまたダメかと思った。
今まで魔法は全て爆発と言う失敗の結果に終わり、つけられたあだ名は『ゼロのルイズ』。
そんな彼女が錬金を志願したのは、使い魔の存在があったからこそ。
確かにあの平民、途方もないボケボケで、常識も無いし、予想の斜め上だったり下だったりの言動で私の心を振り回すけども。

「―――お嬢様」

汚れの無い、澄んだ真っ直ぐな瞳と言葉に乗せた信頼だけは、裏切れないと思ったから。
使い魔召喚が上手くいったのだから私は変わったんだと、周りを見返したい気持ちも少なくは無かったが、それよりもメイジとして、相応しい所を使い魔に見せてやろうという気持ちが強かった。

しかし現実は非情で、結果はいつもの通り、失敗。
視界を閃光が埋め、ルイズは襟を引っ張られるように後ろに吹き飛ばされ、固い二つの棒みたいなのにがっちりと抱えられ―――

(―――抱えられ?)

「大丈夫ですか、お嬢様?」
低い姿勢のまま、ルイズを『お姫様だっこ』をするように抱くハヤテがいた。
爆風を遮るように、背中を爆心の方に向けたハヤテが、いつの間にか。
「あ、あんた……」
「お怪我は、ありませんか?」
「あ、うん……あんたが、」
守ってくれたから、と何故か言葉に出せない。みっともない所を見られた気持ちが、ルイズに口を開かせなかった。
代わりに出せた言葉は、
「どうして……」
「お嬢様が初日に言ったじゃないですか。使い魔は主を守るものだって。
 ―――僕は、お嬢様を守る為に、ここにいますから」
「いや、その……いいわ」
どうやって教室の真後ろから真ん前まで駆け付けたのかと聞きたかったのだが、何の疑問も持って無いハヤテの顔にどうでもよくなった。

「あんたこそ、大丈夫なの?」
「はい。昨日今日で、お嬢様の爆発には慣れましたから」
「あー、うん……ならいいわ」
いつもなら皮肉に捉えて怒る所だが、実際の活躍を目撃した今ではそんな事を言う思考も浮かばなかった。
ともあれ、珍しく―――ルイズにとっては本当に珍しく、上目遣いで躊躇らうように礼を言おうとして、
「あ、ありが―――ッ!」
言葉を止める。
止めざるを得なくなり、代わりに湧き上がるのは不可思議な恥ずかしさと、全身を火照らせる程の怒り。
「あんた……!」
「何でしょうか?」
「その、手……!」
「え……ああっ!?」
指摘で気付いたハヤテが、慌ててその場所から掌を離す。
ハヤテの右手は、抱き抱えるどさくさで、ルイズの16歳にしては全然目立たなくて小さいにも程がある、胸と言っていいかどうか生物上怪しい場所を掌全面で触れていた。
「ち、違うんですお嬢様!
 でこぼこが無くて気付かなかった……じゃなくて! 腹部を掴むつもりが滑ってしまって……でもなくて!」

「―――あんた」
「は、はいっ!」

地の底からねっとりとせり上がる冷たさが、ハヤテの背中をなで上げる。
思わず気をつけをしてしまいそうだった。
(おかしい……昨日今日でこんなにミスをして怒られるなんて―――理由は分からないけど―――、僕らしくない!
 不思議世界で浮かれて、集中力が足りて無いのか?)

とか何とか反省しても、後の祭り。
怒りに震える主が無言で杖を振り上げ、


「いっぺん記憶失えバカー!!」
「デスティニーッ!?」

も一つ黒板に大穴が空き、ハヤテは本当に記憶を無くしそうになった。



『どうにも締めが締まらないハヤテの使い魔人生。おおハヤテ、死んでしまうとは情けない』
「このぐらいで死んだら、使い魔は務まりませんよ? ……多分」
『次回は、喋る剣と戦いまっす!』

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