あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズさんとハヤテくんと-1

暖かい。ハヤテはまず思った。
寒い冬で夜だった筈なのに、身にぶつかる風は温暖で、背中の地面は草の暖かみで快適ささえ感じる。
そうか……死んだのか。ここは天国なんだ。そう思うと気分が楽になった。
どうせ生きていても、家も物も無く、あるのは借金だけ。
生きていても未練も無いし―――

「いやぁ、息子の生命保険でいっぱいお金が入ったよ」
「これでまたギャンブルが出来るわね」

 ―――未練あるなぁ!

怒りは人の秘められた力を発揮するという。
ハヤテは朦朧とした体と意識を無理やり叩き起こし、生き返ってあのアホ両親を一発殴るまでは死ねないと、力の入らない足で立ち上がろうと決意した。



ここはトリステイン魔法学院。今行われているのは、進級試験である使い魔の召喚であった。
試験課題として、各人一匹以上の使い魔を召喚、ならびに契約する事が求められていたが、今の挑戦者ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは既に二桁を超える失敗をしていた。
もう、失敗は出来ない。成功していないのは私だけ。試験監督官のコルベールが試験終了を告げようとしている空気を敏感に感じ取ったルイズは、最大の気合いを込めて召喚に挑む。


果たしてそれは、成功した。
爆発、そして煙幕の向こうに影が見える。

「何か見えるぜ?」
「ゼロが、やっと成功したのか?」

幻じゃない!やっと成功したんだ!
そんなガッツポーズさえ決められそうな喜びは、煙が晴れて現れた姿に悲嘆へと変わった。
ようやく現れたと思ったら、車輪のついた妙な骨組みの物と、奇妙なみずぼらしい服装をして倒れていた人間。
ただの平民。
竜じゃなくても、せめてグリフォンやオークぐらいならよかったのに、人間を呼び出してしまうとは。
監督していた教師に抗議はしたものの、召喚した物が何であれ契約するのが伝統だと切り捨てられた。
仕方なく諦め、平民を召喚した自分の運命を呪いながら杖を振って呪文を唱えようとした時、その人間、綾崎ハヤテは目を覚まし、起きあがった。


どこでどうしたのか、ハヤテの傷は深かった。幸か不幸か、現在出血中の傷は腹部のみで、厚手のコートに隠れて周りからは見えない。
ともあれそんな状況では正常な思考は出来ず、ハヤテの考えは常時より斜めへ飛んでいた。

(ここ……どこだ?)

周りを見渡そうとする……が、血が足りないからか視界が安定せず、辛うじて遠くに大きな建物―――学院が見えたのみだった。
続いて何かぶつくさ言う声が聞こえ―――ルイズ達が騒いだり呪文を唱えたりする声だが、ハヤテには分からない―――、振り向くと一人の少女がいた。
彼女は何者だろう? いつの間に? ていうかピンク色の髪ってどこのアニメ?

『ハヤテ、お前は知らないが、お前のいた世界の某白凰学院の生徒会長の髪もまたピンク色で、生徒手帳にもしっかりと「髪の色は各自の色を尊重する」と書いてあるぞ! by天の声』

閑話休題。
色々考えようとした矢先、無理に起き上がった為に、全身(主に腹部と背中)に電極入れられて高電圧を流されたような痛みと、背中の服がぬるりと気持ち悪くなる感触がした。
腹部に続いて、背中まで傷が開いたらしい、と分かった。
頑丈さはそれなりに自信があったのだが、流石の綾崎ハヤテでも今の状況はピンチだと自覚出来た―――普通の人間ならとっくに死んでいるが。
ピンチだ。
金がかかるから、というより有り金も余り無いのだが、医者にかからないと死ぬかもと思うぐらいピンチだ。
今のハヤテには余裕が無さ過ぎて、周囲で「ゼロのルイズが平民を呼んだぜ!」等とはやし立てている観客集団は目に入っていないし、聞こえてもいない。
唯一目に入るのは、年下かもしれないピンク髪の少女。彼女に、全力で助けを請う事にした。

「感謝しなさいよ、普通―――」
「―――頼みがあるんだ」

相手の口上を遮る様に、静かで重い声が出る。真剣だというアピール。
ルイズは、言葉と同時に襲い来る、突き刺す様な視線と、小柄ながらガシッと掴んで離そうとしない両手に、息を呑んだ。
「な、何よ……」
相手の返事だけが聞こえる。ハヤテは礼儀として話す相手の目をマジマジと見つめ続け、思いのたけを吐き出す。

「僕は今、(助けて貰う為に)君が必要なんだ」

強さを持つその言葉は、ルイズを魅きつけた。
(ひ、必要って……ええっ!?)
「い、いきなり何言い出すのよ! へいみ」
んの癖に、とは続けられなかった。妙に迫力のある圧力に、気圧されたからだ。
怖い母親に怒られた時の、訳の分からない圧迫感にも匹敵し、口をつぐんでしまう。

「僕は本気さ! 君しかいないんだ!」
訳:君しか見当たらないので本気で助けて欲しいです。
(本気で……なんで私なの!? 可愛くないし、魔法なんてダメダメだし、胸も背も小さいのに?)
「じょ、冗談でしょう!?」
「冗談でこんな事は言えない。一目見て、君しかいなかったんだ! 命を懸けてもいい!」
訳:もうすぐ死にそうなのに、冗談なんか言っていられない。君しか見渡す余裕が無い。早く助けてプリーズ。

(私しかいない……命をかける……)
「あ……う……」
ルイズの顔が真っ赤に煮立つ。いきなり、こんなボロい格好の平民に愛の告白をされるなんて。
でも、よく見れば顔も真剣でそこそこいいし、

(それに……)

生まれてこの方貴族なのに魔法が使えず、家でも学院でも居場所なんてろくに無い。
そんな自分を、目の前の男は真剣に、必要だ、と言い切ってくれた。命を懸ける、とも。
性格や年齢の問題もあるだろうが、婚約者にもそんな真剣に言われた事、いまだかつてあっただろうか?
そう考えた時、さっきまで平民なんか召喚したと落ち込んでいた自分が馬鹿らしくなった。
これ程情熱的に言うのだ、受け入れてやれずして何が貴族だろうか、といい具合で頭が沸騰していた。

(でも、ちゃんと躾はしなきゃ! このキスは許すけど、貴族と平民の差ははっきりさせるんだから!)

勿論ハヤテに告白の意図は無い。
血が一刻を争う程に足りなくなり、頭がぼおっとして何を口走っているかも分からず、最低限度の言葉を全力で伝えるのみ。
その全力を、少し痛い程肩に食い込む両手と、ずっと自分だけを躊躇いも照れも無く見つめ続ける瞳が加わって、ルイズは『きちんと』全力で受け止める決意を固める。
どっちもどっちだ。

「あ……あんたがそこまで言うなら、し……仕方ないわね。感謝……しなさい」

彼女は彼の綺麗な瞳を見ていられなくて、目を固く閉じる。
もぎたての果物のように瑞々しく柔らかい唇は僅かに突き出され、期待とほんの少しの不安に震えた。

(……えーっ!?)
さてハヤテは混乱した。助けてと頼んだ筈なのに、どうして相手は目を閉じるのだろう?
この様子を見ていたら、まるでキスをせがんでいるように見え、
(し、初対面の男相手に何する気ですか!? はしたないですよ!)
と思い、諭そうとした。
『だがハヤテはマヒしている!』
(ちょ、天の声―――!)

時既に遅し。
ハヤテとルイズの口がぴたりとくっついて、
(あ―――)
ハヤテの頭の中で、ブレーカーが落ちた。


ルイズは決意した。彼の頼み通り、契約する事を。
緊張で瞳を閉じ、背伸びをして、口と口があわさった時、
(―――むぐ!)
ルイズの首から上を中心にして、後ろ向きに力がかかる。
咄嗟に相手の肩を押さえ、つま先立ちの足を大地にがっしと踏み締めて、
(い、いきなり押し倒すなんて、何考えて―――)
ルイズの目がハヤテの腹部に止まった時、言葉は出て来なくなった。
大怪我としか言えない量の出血が、開いたコートの奥の服でみるみる広がっていた。
告白から急転直下の事態に、思わず動揺してけが人を突き飛ばしてしまい、

「ミ、ミ、ミスタ・コルベール! ち、血が! 怪我が!」
「ヴァリエール、落ち着きなさい―――いけない! 水のメイジの皆さん、重傷人です! 手を貸しなさい!」


哀れ、不幸な主人公綾崎ハヤテ、何も分からぬまま異世界で朽ちるのか。
一話の前半も終わらぬまま、命は尽きてしまうのか!
(まだ……死にませんから……)

ハヤテのごとく、完!

(完、じゃない……ガク)



深海からゆっくりと、ゆっくりと引き揚げられる沈没船のように、ハヤテは目覚めた。知らない天井だ……と言おうとしたが、使い古された表現なのでやめた。
とても豪華な洋館風の部屋だ。二人も三人も眠れそうな広い、ふわふわの大型ベッドに寝かされ、金持ちの家で無ければ見る事の無いような高い家具類が部屋には揃っていた。
今度こそ死んで、天国だろうか、とハヤテは思う。さっきの風景がどこだったのかは結局分からないが、ここがそうなら天国も随分とブルジョアなものだ。
(もしや、天国の大富豪の家!? でも……僕を寝かせる理由なんて無い筈だし)
逆に考える。
ベッドに寝かせているのを、助けるとかの善意じゃなくて、何らかの目的―――例えば、生け贄とか餌に使うとかだったら!?

『貧相な顔の奴だな。まあいい、若いのはいい肉がついてるからな。
 ペットのキャサリンちゃん(怪獣)にでもあげようか。ファファファ……』
(とか悪どいマフィアが!?
もしくは、洋館でゾンビが出る某ゲームがあったけど、まさかあの扉の向こうから人の形をしてない何かが―――)
とまだ頭が働いてない、というか普通に思考能力がおかしい方向に逝ってるハヤテの見る先にある入口の扉が、唐突にノックもなく、ゆっくりギギギと耳障りな音をたてる。
まさか本当に、と思う間もなく、姿を現したのは―――

「―――ギャアアアアッ!?」
「なぁっ、失礼ね!」
「ァァァ……あれ?」

出て来たのは灰色のグダグタ人間でも人語を解する二足歩行の虎でもなく、小柄なピンク髪の少女だった。見た事の無い服に、マントをした、変わった服装だ。
さっき、見た事あるような、無いような……。
「何よ、寝てると思って静かに開けたのに」
「す、すみません」
まさか化け物かと思ったとは言えず、ハヤテは口をつぐんだ。
「……べ、別にいいわよ。それより、怪我は大丈夫なの?」
「怪我……?」
今更思い出したと言わんばかりに、ハヤテは上半身の服をめくって腹部や背中を確認し、

「……あれ、夢?」
「夢じゃないわよ。物凄い出血だったんだから。
 呼び出した使い魔にいきなり死なれたら、たまんないわよ」
「使い魔?」

聞き覚えの無い言葉が耳に飛び込んで来た。何を言い出すのだろう、この少女は?
「あんな大勢の前で告白したんだし……ちゃんと元気になって働いて貰わないと」
「告白……何の?」

「―――何ですって?」

控え目気味だった彼女の声が、短刀を突き付ける修羅場の女みたいに鋭くなった。
『まさに、ドスを利かすと言う奴だ』
(いや、上手くないから! もしかして僕、地雷踏んだ!?)

冷や汗だらだら。
眼光鋭く、一歩一歩ドシドシと足音が響き、彼女は寝ているハヤテの目前に杖らしきもので指し、怒り一色の形相でまくし立てた。服の中に氷を入れられたような寒気が背筋を撫で上げる。
「さ、さっき、私が必要だって言ったじゃない!」
「さっき……」
じゃああれは夢じゃなくて、やっぱりあの時いたのは彼女だったのかと思い出し、
「あれは、助けて貰うのに必要だって意味で……」
「私しか、いないって言った」
「ええと……視界がおかしくて、君しか見え辛くて」
「い・の・ち・を・か・け・る・っ・て!」
「もう死ぬかもって思ってたから……あれ?」
説明によって誤解を解き、ルイズが数歩離れる事で妙な威圧感からは解放される。
だけど何故だろう? プルプルと下を向いて震えている彼女を見ていると、某髭配工官の爆弾兵みたく危険一歩手前に見えるのは……。

「この……馬鹿ぁぁぁー! 私の純情を返せーっ!!」
「ぎゃぁぁぁっ! 傷がー!!」

数分後、ルイズの部屋を突然の爆発と轟音が襲う。
彼の想像通り、ピンチだった。イ○ラを食らうス○イムの気分を理解した。



時は現代。世の中の大多数がクリスマスイヴに浮かれている夜。

「…………」

ハヤテは、自分の家だったはずの場所で、目の前に広がっている荒野の光景に、絶句せざるを得なかった。
荒野と言ってもここは現代日本の、街のど真ん中。特撮の決戦地では無く、某猫型ロボットでのみんながよく集まる空き地から土管を抜いたものと言えば分かり易いだろう。
問題は場所ではなく、時間だ。
現在は日課の労働(アルバイト)終了後の、空に月が煌々と輝く時。
ハヤテは疲れた身体に鞭打って、狭いながらも楽しい我が家に帰ってきた筈なのだが、いつの間に家は某砂漠の城みたく地中に潜れるようになったのだろう?

「じゃなくて! 何で家が無いんだ?」

答は転がってきた。非常に都合良く風に飛ばされ、足元に絡みつく便箋。
手に取ったとき、ハヤテは衝動的にそれを破り捨てたくなった。

『借用書
 1億3852万6630円
 ハヤテ! 後は頼んだ!! By綾崎父&母』←意訳

「なんだそりゃあっ!」
訂正。粉々に破り捨ててしまった。
今まで生活費を父が「絶対儲かる」と勝手にライ○扉株に投資して一ヶ月後に○○えもんがお縄についたり、学費を母が気づいたら「夢に投資してくるわね」と三つの絵柄を揃える機械に遊びに行ったりして学校に何度も謝ったりといった程度の不幸は多々あって慣れっこだが、流石に朝にあった家が夜に消滅しているのは予想の範囲外だった。
一晩でやってくれましたってレベルじゃなかった。

(ど、どど、どうしよう?
 こんな借金頼まれても、払えない―――)
「おい!」

そうして途方に暮れていると、ソリに乗ったサンタの代わりに、ベンツに乗ったヤクザ×3が背後から突然現れる。
顔に取れない傷の痕があったり、目つきが悪かったりで、明らかにボランティアをしてくれそうな雰囲気では無い。

「兄ちゃん、この家の関係者か?」
「―――うわぁぁぁぁぁっ!!」

相手が用件を言う前に、衝動的に逃げた。
長年借金取りから逃げ延びた経験から、『その手』の相手を嗅ぎ分けられる、一般生活で間違いなくいらないスキルが発動した為だ。

「あっ、このガキ! 待ちやがれ!」
「ちっ、なんて逃げ足の速さだ!」
「車を出せ!」

長年の経験は脚力も鍛え上げ、あっという間に黒服を撒いてしまう。
「探せ、探せ!」
「たかだか自分の身体のある部分を他人に売るだけだ、さっさと出てきやがれゴルァ!」
さっさと隠れた物陰からコソコソと抜き足差し足しながら、捕まったら間違いなく売られる、と寒さの中、怯えで震えた。


「はぁ……お腹が空きました……」
全力疾走で、ようやくたどり着いた先は人気も明かりも無い公園。
とりあえず撒いた事に安心すると、身に向かい風の寒さが突き刺さり、両手をコートの袖で擦って暖める。

「ふぅ……これから何しよう」

どうしよう、では無く何しようであるところが、ハヤテが変わり者である所以である。
普通両親に借金背負わされ、怖い借金取りに売り飛ばされそうな未成年がいたら、国や法律が保護してくれそうなものだが、この綾崎ハヤテ、下手にスキルを上げ過ぎて大抵の問題を自力で解決出来る為、他に助けを求める思考が抜け落ちやすかった。
そして、そのような福祉の手からも抜け落ちてしまう。
不幸、とにかく不幸、何より不幸。
一言で言えば不幸を呼ぶ体質で、その不幸を余り不幸と思っていないのも、また不幸であった。
故に、今現在も新たな不幸―――携帯も無く、頼れる親戚や友人も居ない状況に、途方に暮れた。
このまま公園で凍死か、空腹で餓死か……翌日の新聞の一面を想像し、ゾッとまたも身震いする。

「いやいや、仕事があればいいんですよ!
 なけなしの金で買った履歴書を書いて、バイトを―――」

『しかし、ハヤテはついさっき住所と電話番号を失った!』

まともな履歴書を書く事もできず、更にへこむ。
幸せを楽しむ日のクリスマスイブの夜に、家を無くし、私物を失い、おまけに借金を背負わされ、着の身着のまま+ボロいロングコートだけが今の相棒。心まで寒くなる現状に、ハヤテは誰もいない公園で溜め息を洩らした。

「ポケットの中には10円が一枚、叩いてみても10円は一枚……」
当然、なけなしの金を使った為になけなし以下の金しか持っていない。童謡を歌っても、現実は甘くない。

「覚悟を……決めるしかないのか……」


 『いっそ金持ちの令嬢をさらってみる。失敗しても刑務所で食事と寝床があるぜ!』
→『これで人生終わらせてたまるか! オレは逃げ切ってみせる!』(10000パトス消費)


(ちょうど夜の公園の自販機前に、無防備な少女が……あれ?)

ハヤテの誘拐の意思とは無関係に、足が動き出す。自販機を通り過ぎ、あっという間に公園の敷地外へ。
いけない、今公道に出たら、あの怖い借金取りに見つかってしまう……!

「いたぞ! あの家のガキだ!」
「ガキの肝臓一千万だ! 絶対に逃がすな!」
「お前の身体は売り物じゃい! ちゃんと無駄無く使ってくれるわ!」

予想通り、怖い人達と真正面に遭遇してしまった。
なんと親切な事でしょう。彼等は自分を捕まえて、借金の返済にあてがうつもりなのです、と、ある前後リフォーム番組のナレーションが脳裏に流れる。アフターケアの説明までしてくれる親切さに、涙が出そうだった。

「って冗談じゃない! 僕には……まだ帰れるところがあるはずなんだ!」

あまりの不幸に神も慈悲を覚えたのか、公園の入り口に放置自転車が1個。それはハヤテの強い味方となった。
後ろから待てー、だの逃がすなー、という定番のセリフと足音を受けながら、自転車に跨って全速力で逃亡。
あっという間に黒服を突き放し、背景にすら映さなくするそのスピードはバイトで鍛え上げたもの。
最高時速二百キロ、自転車便業界最速と称されたその腕前は伊達ではなかった。

「光の速さで明日へダッシュ―――!」
「くそっ、逃がすな!」
「こちとらと○メモフ○ンドで首が回らねえんだ! てめえを捕まえねえとこっちの身がやばいんだよ!」
(○きメモファ○ドは元本割れしてませんからー!)

捕まれば最期、必死で逃げた。奥歯を噛んで、加速装置……があったらいいなぁって妄想をするぐらい全力で逃げた。
その甲斐あり、いろんな意味で危ない黒服の声だけしか聞こえないような遠く、人のいっぱいいる大通りに出てきたところで、ようやくほっとしてスピードを少しだけ緩め、

「危ない! ブレーキの壊れたバイクが走って来るぞー!」
「うわっ!」
ハヤテを新たな不幸が次々と襲う。
だがバイク程度なら躱すのは容易く、自転車に乗ったまま軸をずらして避けて、

「危ない! 酒に酔った運転手が操る乗用車が猛スピードで突っ込んで来るぞ!」
(この天の声、具体的過ぎだー!)

今から自転車をこいでもスピードが出るまでにぶつかる。車が速過ぎて自転車を降りても逃げようが無い。
間に合わない、と周囲の目撃者が両手で目を隠し、

「―――たぁーっ!」

目を開けていた人々は信じられないものを見た。
制止状態のマウンテンバイクに乗る少年が、車をエキ○イト○イクのように大ジャンプして避けた光景を。
万国びっくりショーさながらの芸を最前列で目撃し、ぶつかりかけで酔いが醒めた運転手は車を蛇行させ、勢い余って路肩に突っ込むが、歩行者達の視線は非常識な少年にのみ注がれる。
そんな少年綾崎ハヤテは、障害物を飛び越えた後の空中で風を受けながら、今日一日何度ついたか分からない溜め息をついて安堵し、前を向いて言葉を失った。

「危ない! 速度を60キロ以下に落とすと爆発する爆弾が仕掛けられたバスが100キロで突っ込んで来るぞー!」
「ちょっと待てー!」

いつの間にか車道に飛び出していた―――訳ではない。
逃げ惑う歩行者を尻目に、むしろはね飛ばしそうな勢いで歩道を走り、正面に突撃してくる都市バス。
いつから此所はアメリカになったんだ! と天の声に叫ぶ事しか出来ず、某忍者のように空中でもう一度ジャンプ出来ないハヤテは、哀れ着地と同時に弾き飛ばされる。
衝撃を撃ちこまれる全身。舞い散る血飛沫。飛翔するハヤテとマウンテンバイク。そしてダウン寸前の思考。

「い、たい―――」

それでもなお生きている頑丈さもまた、不幸ではある。いっその事死なせてやれよと思わなくも無い。ハヤテの意識が薄れ行き、

(えーっ!?)

逃げ切った歩行者が絶句する。弧を描いて浮遊するハヤテ+αの軌道上空間に、突然穴が開く。穴は意識の無くなったハヤテ+αを吸い込んで行き、消える。
待てど、血の一滴靴の一つすらも車道に落ちては来ない。
目撃者達は一瞬凍り付いたかのようにシンとするが、やがてせきをきったように騒ぎ出した。バイクはともかく、クリスマスイブの繁華街の大通りで酔っ払い運転にバスの暴走、少年一人の消滅。
騒ぐには十分な材料が揃っていた。



「何それ?」
またベッドに寝かされ、怪我の原因を説明したハヤテを襲うのは、少女のジト目で見下ろす顔だった。
「ホラ吹くにしても、もっとまともな嘘があるでしょ?
 何よ、異世界って。それに、この部屋より大きな、馬より速く走る乗り物にぶつかってって…」

まあ、仕方ないかなと思う。
説明の前にこの場所、世界の事を聞かされ、挙句目の前の彼女は魔法使いで、知らない間に使い魔となっていたと言われても、間違い無く明後日の方を向いて宗教の被害者かと哀れむか、精神病院行きを勧める。
さっきの魔法らしき爆発を食らって、いつの間にか夜になっていた外で2つある月を見ていなければ。

彼女―――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、この世界をハルケギニア、と言った。
彼女の瞳と態度に嘘をついている様子は無い―――とすれば、ここは噂の異世界とかファンタジーとかいう所か。
ならば、機械を知らなくてもお約束として納得できる。
だが……重要な事はそんな事では無い!

(やった……やったぞ……! やったんだー!)

ハヤテは心の中で喝采を挙げる。
生まれてこの方16年、金儲けの為に気付いたら犯罪を子供にさせていた父親と、正直某南の半島国家○国に金を貢いでるんじゃないかってぐらいパチスロパチンコしては金をスる母親から離れ、借金からも解放されたこの身。
あの二人から解放されるのは死ぬまで無理かもとか思っていたが、流石のバカ親の借金取りの効力も異世界までは届くまい!
いや届いてもらっては困る!

(オレは……自由だー!)

異世界でリセットされたこの身一つあれば、生きて行ける自信が存分にあった。
滅多に使わない一人称を使う辺りに興奮の度合いが窺える。
実はこれが夢だったと言われる現実より、幸せな空想を選んだとも言えるが、誰がそれを非難できようか。

『だが、この後ハヤテに避けようのない不幸が襲いかかるとは、誰も知るよしもなかった……』
(何て不幸なナレーション!?)

「で、次に、使い魔の事なんだけど」
「つかいま?」
「……忘れてたわね?」
「はい、すみません……」

自分より年下と思われる小さな少女にジト目で睨まれ、申し訳なく謝る。
使い魔とか言う関係以前に尻に敷かれていた。

「全然常識知らないみたいだから、もう一度簡単に説明するわね。
 ここはハルケギニアのトリステイン王国、トリステイン魔法学院。
 あんたは、私達2学年目の生徒の進級試験で、使い魔になる為に呼び出されたのよ」
「はぁ……」

使い魔使い魔とさっきから言われてるが、全然イメージが湧かない。
某魔装機神みたく自分の無意識が形成されたシンボルみたいなものか、某召喚ゲームみたくポケ○ン扱いで一方的なのか。

「使い魔って、何ですか?」
「それも知らないのね……どんな所に住んでたのよ。って、さっきの説明はもういいわよ?
 簡単に言えば、メイジのしもべ、もしくは世話をしたり守ったりするの。使い魔には必ず、メイジの『物』という証明でルーンが刻まれるの」
「ルーンって、何ですか? 北欧で使われたアレですか?」
「北欧ってどこ……かはもういいわ。
 あんたなら、左手にあるでしょ? それが、誰かの使い魔って証よ。
 だから、あんたは私のもの」
「……はぁ」

少なくとも、異世界に現れた勇者みたいには、そう簡単には自由にはなれそうも無かった。

「空返事ばかりねぇ。
 サモン・サーヴァントはハルケギニアの生き物を呼び出す呪文なのに、さっきも異世界の人間だって言うし……今の状況、理解してるの?」
「聞いた範囲の程度は、ですが」

ハヤテには異世界から来たという確実な証明が無かった。
携帯電話やノートパソコンのような明らかに存在しないものを見せられれば良かったのだが、生憎私物はほぼ全て失われ、ポケットには10円のみ。
ともかく、今は言われた情報を信用するしか無い。

「使い魔、失敗かしら……はぁ、過ぎた事は仕方無いわね。
 じゃあ次、使い魔の詳しい役割よ」

ルイズが指をピンと立て、得意げに話す。
まるで先生の真似ごとをしているちびっ子みたいだな、と気付かれたらまた爆破されそうなハヤテの感想。

「まず、使い魔は主人の目や耳となる―――つまり、あんたの見た物が私も見る事が出来るの」
「そうなんですか?」
「あんたじゃ無理みたい。私、何も見えないから。
 次は、主人の望む物を見つけてくる……って、期待出来ないわね、貧相な顔だし体だし、常識無いし」

グサッ、とハヤテの心に剣が刺さる。まだ告白まがいを根に持っているらしい。

「最後で、一番重要なのが、主人を守る事なんだけど……無理?」
最早期待していないという蔑んだ目でハヤテを睨むが、予想とは逆に、彼はようやく立ち直り、輝きを見せた。
「そんな事でいいんですか?」
「出来るの?」
「任せて下さい! 借金取りから逃げ切る事で鍛えた逃走能力で、どんな危険があろうとも必ず逃がします!」
「逃げるだけなの!?
 ……まあいいわ、期待しないでおいてあげる。後はおまけで、洗濯、掃除、その他雑用、それだけ……な、何よ?」

半ばやけくそで言い切ったルイズに、ハヤテは尊敬の視線を送っていた。汚れの無い瞳に見つめられ、ルイズは思わずたじろぐ。
(喜んだと思ったら傷ついて、また喜んで……忙しいわね)
「それだけですか?」
「え?」
「仕事は、それだけですか!?」
「そ、そうよ」
「サファリパークで自分の分の食料取って来いって猛獣の群れに放り投げたり、負けたら死ぬ賭け麻雀の代打ち頼まれたり、金持ち相手の美術品をこっそり贋作とすり替えて来いとか、無いんですか!?」
「最後しか分かんないけど、有るわけないでしょ!
 使い魔はメイジの物扱いなんだから、使い魔が何かしたら全部主に返ってくるのよ。犯罪なんかさせたらどうなると思ってるの?」
「収入は!? 食事は!? 住居は!? 労働時間は!? 期間は!?」
「無いわよ! 朝昼晩3回! ここ、学院! 普通はずっとだけど、休憩は考えといてあげる! 私が死ぬまで!」

ハヤテは感動した。天にも昇る気持ちだった。
怪我を治してくれただけでなく、終身雇用先まで準備してくれるなんて!
神様ごめんなさい、最初は情報集めて生活できる目処を立ててから逃げようかと思ってたけど、ずっと暮らしていけるのなら話は別。
僕は、この子にちゃんと恩返ししなければ!
ハヤテは感謝の心そのままに、ルイズの白魚のような5本の指をがっしと両手で掴み、

「ありがとうございます! 綾崎ハヤテ、貴方の為に粉骨砕身、頑張ります!」
「そ、そう……頑張りなさい」
ルイズはそう言うのがやっとだった。こいつ、詐欺かなんかに騙されやすいんじゃ無いかしら?
使い魔にする事をこんなに感謝されるとは思わなかったルイズの、正直な感想だった。

「はい、お嬢様!」
「おじょ……!?」
まさかそこまで下手に出るとは。本気をぶつけて来るので予想外に照れる。
ハヤテとしては、借金取りオーラとは違う金持ちオーラを嗅ぎ分けて言っただけなのだが。
「あれ、他のが良かったですか?」
「……好きにしなさい」
「では、お嬢様で! やっぱり、お嬢様は僕にとって、必要な方です!」
「必よ……っ!」

ルイズの脳裏に、契約前の光景が甦る。
ルイズはほんの少し話しただけだが、ハヤテの習性を少しだけ学んだ。
(落ち着くのよルイズ、こいつはすぐ誤解するように言うだけで、深い意味は無いのよ)
「そ、そう……それじゃ、せいぜいこれから役に立ってもらうわ」
「はい! お嬢様の様な優しい方が契約相手で、良かったです!」
(普通なら喜んでいい筈だけど……別に意味なんか……)
「……あれ? そういえば契約って、どうやったんでしょう?」

ピキ。ハヤテの何気ない疑問に、とうとうルイズの堪忍袋の尾が切れた。
こいつは、どうして、こう、余計な事ばかりいうのかしら!?
思い出すだけで、その、えっと、もういい!


「この……バカァー!!」
「またですかっ!?」



こうして、ハヤテは無事、新たな職業と寝床を手に入れ、使い魔としての一歩を歩む事になった。
「『こうして~』ってくだりを聞くと、デ○クリ○ゾンを思い出しますよね」
『次回も、ルイズの爆発と戦います!』

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