あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ハルケギニアの騎士テッカマンゼロ-6


ワルドのグリフォンに揺られて続けてもう二日。彼はルイズに気を使って何度か休もうとしたが、ルイズはそれを全て断った。
自分がついてきたために、既に遅れが出始めている。一人乗りと二人乗りではスピードに差が出るのは当然のことだ。
これ以上迷惑を掛けるのは嫌だった。
しかし、すでにルイズは限界間近だった。
エリート中のエリートであるワルドはともかく、ルイズはもともとただの学生だ。長期の乗馬(この場合はグリフォンだが)は彼女に多大な疲労を与えた。
彼に抱かれるような姿勢でグリフォンにまたがったまま、疲労で目蓋が重いのを必死に耐える。
半分意識が飛びかけたところで振動がなくなった。グリフォンが足を止め、一声鳴いた。
それで目をしばしばさせながらも目を覚ましたルイズに、頭の上からワルドが優しく声をかける。
「着いたよ」
その声にルイズははっとし、辺りを見回す。
目の前には、ただっぴろい草原が広がっていた。
ところどころに花が咲き、なかなかに良い眺めだった。その向こう側に見えるラダム樹がなければ。
ラダム獣は一通り暴れた後は地に潜り、ラダム樹となる。この植物は言うなればラダムの侵略を受けた証だ。
今のところ、ラダム樹は毒を発するわけでも人を襲うわけでもなく、これといった害はなかった。
しかし、気味の悪さと敗北感は拭えない。
このタルブ村とやらも、一度はラダムに襲われたのだろう。建物の多くが壊されている。
それでもタルブ村の人々はここで生活していた。
ラダム獣は、一度ラダム樹の根付いた土地には普通は二度と襲い掛かってくることはない。
経験的にそれを知ったからだ。
ラダムの目的がラダム樹を植えつけることであることははっきりとしていたが、その先に何があるのか……
それは誰一人として知らなかった。
タルブ村には着いた二人は村の外れの木にグリフォンを繋ぎ、歩きで竜の羽衣があるという建物に向かった。
今さらな気もするが、こんな村でグリフォンを乗り回すわけにもいかない。
村の外れに、それはあった。
意外なことに、この寺院のような巨大な建物には何一つ損害がなかった。
この中に、竜の羽衣は収められているらしい。
ワルドに案内されて、ルイズは寺院に入った。中では、既に何人かの人が巨大な何かに取り付いていた。多分村の人間に手伝わせているのだろう。
それを指揮しているのは、ミス・ロングビルだ。
あらためてルイズは目の前の巨大な金属の塊を見上げた。
鈍い輝きを放つ、鋭いシルエット。それが竜の羽衣だという。
ルイズが勝手に想像していたものとは全く異質で、はるかに巨大なものだった。

建物に入ったワルドはミス・ロングビルから一通りの話を聞き、頷いた。
「まさか、これほどのものとは」
「これだけ大きいと、運ぶこともできやしないわ」
「そうだな。アカデミーに連絡してみるか」
ワルドはルイズと話している時とはまるで別人のような、冷徹な口調になっている。
仕事用なのか、あるいはこれが本来のワルドなのか。
そういえば、わたしは今のワルドのことを何も知らない。
自分の知らない姿を見て、ルイズは一抹の寂しさを感じた。

ルイズも何か手伝おうと思ったが、できることなど何もなかった。
サモン・サーヴァント、あの悪夢の際に杖を失ってしまったからだ。杖を失い、魔法の使えなくなったメイジなど、何の役にも立たない。
そりゃ、杖があっても何もできないかもしれないけど……
結局、ルイズは寺院の近くの岩に腰掛けてワルドやミス・ロングビルがせわしなく動き回るのを見ていることしかできなかった。
岩に腰掛け、頬杖をついていたルイズは不意に声を掛けられた。中年の平民がおっかなびっくりとした様子で話しかけてきている。
「あの……少しよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
別にやることもなかったルイズは、顔も向けずに応えた。
平民は貴族に対して怖れを抱いており、自ら話しかけるようなことは滅多にない。にもかかわらず声を掛けてくる。何を訊きたいのか、少しばかり興味もある。
「トリスタニアのほうからいらっしゃった、貴族、の方ですよね」
黙ったまま頷く。
「すみませんが……トリステイン魔法学院のことはご存知ありませんか?」
魔法学院、最も聞きたくない単語に顔が曇る。それを表に出さないように取り繕い、平静を装ってルイズは訊きかえした。
「……なんで、そんなことを聞くの?」
「そちらに私どもの娘が奉公に出ておりまして……シエスタといって、黒い髪で黒い瞳の、貴族様と同じぐらいの歳の娘で……。
ご存知ありませんか?」
そこまで言って、頭を上げた。相当に心配していたのだろう、髪の毛には白いものが混じり、頬はこけ、目の下に隈ができている。
小さな胸が、しこりでもできたかのように重くなった。
「ごめんなさい、分からないわ」
……ここにも、ラダムに運命を狂わされた人がいた。ルイズはそう思いながらも、本当のことを言うことはできなかった。

頭を下げた平民は竜の羽衣のほうに行った。
ワルドたちにも訊きに行ったのだろうか。しかし、真相を知っているのは自分だけのはずだ。
ルイズがテックシステムから解放されたとき、残っていたのはわずか数人だった。
ツェルプストー、モンモランシー、もう倒したけどギーシュ、あと風竜を召喚した女の子――確か、タバサとかいったっけ。
他にも校舎や魔法学院付近の別の場所で適合したのが何人かいたみたいだったけど、全部で十人もいないはず。
もしかしたら、その中に……。

思考がまたも無限ループに陥りそうになる。
こんなことを考えていても仕方ない。もう、どうしようもない。
ルイズはゆっくりと立ち上がりかけるが、頭を押さえて倒れかける。
頭痛、いや違う。テッカマン同士の間だけに通じる、精神感応だ。
ダガーはもう、この世にいない。とすれば……新しいテッカマン!?
この感覚は自分から知らせようと思わなければ、発生されない。
つまり、誰かが自分を誘っているということだ。
ルイズは周囲を見回す。誰にも見られないように、こっそりとその場を後にした。
作業には参加していなかったので、ルイズがいなくなったことには誰も気付かなかった。
ルイズは気配のする場所へとまっすぐ急いだ。この感覚は近づくたびにさらに強く、自分の位置を知らせてくる。
誰なの……?
考えながら、タルブ村から少し離れた場所へと足を運ぶ。この村に来たとき目にしたラダム樹の方から気配を強く感じる。
ラダム樹と草原との境目、そこでルイズは足を止めた。
「ここにいるんでしょ! 誰!」
大声で叫ぶ。人間として、ラダム樹の森には足を踏み入れたくなかった。
ルイズの声に応えるかのように、ラダム樹が不気味に蠢き、紫色の花粉を吐き出す。
「よく……来てくれたわね」
一瞬目の前のラダム樹が喋ってのかと思ったが、そんなはずがない。
やがて、植物の影からゆっくりと一つの影が姿を現した。
燃えるような赤い髪、その背の高さにふさわしい、見事なプロポーションをトリステイン魔法学院の制服で覆っている。
肌の色は褐色、白い肌で小柄なルイズとは何もかもが対照的な印象の美女だ。
「ツェルプストー……あなたが来たのね」
魔法学院ではいつもルイズをゼロと呼び、からかっていたクラスメイトのキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーだ。
「ええ。裏切り者を始末するためにね。けど、どうしても戻ってくるつもりはないのかしら?
あなたを倒さなければならないなんて、寂しいわ」
内容とは裏腹に、彼女の言葉は学院に居たときと同様のからかうような口調だった。
ルイズはそれに反発するように――事実、到底受け入れられるような内容ではない――声を荒げる。
「ふざけないで! 何で今さらそんなことを聞くのよ! 答えは分かりきってるでしょうに……」
「あなた……オメガ様が誰かも知らないのね。なんて、悲しいことなのかしら!」
今度は哀れみを含んだ芝居がかった調子だ。
「うるさい! オメガが誰かなんて知ったことじゃないわよ!」
「聞く気はないわけね。なら別にいいわ。……ここで倒してあげるから」
「望むところよ……ツェルプストー」
「あなたにできるかしら? ゼロのルイズが!?」
会話は終わった。それを感じた二人は、お互いクリスタルを取り出して構える。


「テックセッター!」
クリスタルを掲げたキュルケは、拡大したシステムボックスに包まれた。
その中で、彼女の姿は変貌を遂げていく。褐色の肌が強固な外殻に覆われる。さらにクリスタルのもつ光=物質変換機能によって装甲が形成、
ハルケギニアには概念すら存在しない推進機構や強力な武装を内包し、テックセットは完了した。
赤と黒、まさにキュルケを象徴するようだ。シルエットはどことなくゼロに似通ったものがある。
第二のラダムのテッカマン、エビルが今ここに誕生した。

「ツェルプストー……」
テッカマンエビルに変わったキュルケを見たルイズは、ふと緑色の結晶に目を落とす。
ギーシュの次は、キュルケ……。わたしは、戦えるの……?
殺せるの? ……あのキュルケを。
しかし、ルイズの逡巡はすぐに断ち切られた。
跳躍したエビルが、テックランサーを振り下ろす。ルイズはそれを横に転がるようにしてかわした。
目標を見失ったランサーはいとも簡単に大岩を砕き、大地を割った。
そうよ、殺せるかどうかじゃない。戦わないと……。
ルイズは意を決して立ち上がる。
そして、クリスタルを天に掲げた。迷いを振り切るように、力強く叫ぶ。
「テックセッターッ!」
赤と白、二人のテッカマンはランサーを切り結びながら上昇した。
ランサーは火花を散らし、大気を震わす。
そして二人が激突し、離れるたびにエア・ハンマーさえも児戯に思えるほどの衝撃波が草花を巻き上げ、木々をなぎ倒す。
何者も、音さえも介入できない、二人だけの空間がそこに広がっていた。

数十度目かの衝突、離れた瞬間にエビルは短く呪文の詠唱をした。
ランサーの先端から、火球が放たれる。『火』系統の初歩、ファイヤーボールだ。本来小さな火球なのだが、ギーシュのワルキューレ同様
テックシステムの影響を受けているらしく、熱量が段違いに高い。それでもテッカマンにダメージを与えることは無理だろうが。
それでも驚かせるには十分だった。何しろテックランサーを杖にして詠唱が可能などということを知らなかったのだから。
しかし、考えてみれば当然のことかもしれない。テックシステムは人間時の性質や能力に応じてフォーマットを行う。その際、
人間時の特性が最大限活用されて、テッカマンの能力となるのだ。ならば呪文が詠唱できるような調整がなされていても、何ら
不思議ではない。ギーシュが人間時の杖をわざわざ使っていたのは、単なるこだわりだろう。

ゼロは顔を両手で覆い、火球から身を守ろうとする。
だが、もともとエビルはファイヤーボールを当てるつもりなどなかった。この程度で与えられるダメージなどたかが知れている。
ランサーを軽く振り、火球を爆発させる。
ファイヤーボールが目の前で弾け、ゼロはバランスを崩した。そこに、エビルの蹴りが見舞われる。
反応が遅れたゼロは、蹴りをまともに腹部に喰らい、吹き飛ばされてしまう。
「ああぁぁぁっっ!!?」
地面に激突しても、まだ勢いは止まらない。大地を抉るように、
半ば地面に埋もれるような形となったゼロの目前に、エビルが舞い降りてくる。
すぐに飛翔できるようにわずかに浮遊しながら、余裕の態度でエビルは嘲るように顔を近づけてきた。
「どうしたの、ルイズ。あなたの力はこんなもの? これでどうやってギーシュを殺したのかしら?」
ことさらに『殺した』という言葉を強調する。
それは、どんな攻撃よりも強く彼女の胸を抉った。見えない唇を、血がにじむほどに噛み締める。
「だあぁっ!」
激昂したゼロは右手のランサーを一際強く握り締め、薙ぎ払う。が、エビルは軽く後ろに下がってそれをかわした。
続けて呪文を詠唱。キュルケに対抗してファイヤーボール……のはずが、やはり失敗した。
何もない空間が爆発。エビルは一瞬驚き後方に飛ぶが、すぐに気を取り直して笑い声を上げた。
「ゼロ、ゼロのルイズ! これのどこがファイヤーボールなのよ! 人間の時と同じね。あなたったらどんな魔法を使っても爆発させるんだから!
あっはっはっは!」
「エビル!」
昔と同じようなからかいの言葉に、ルイズはかすかに学院のことを思い出す。
ゼロと蔑まれ、馬鹿にされ続けたあの日々。それでも、今の地獄に比べればはるかにましな世界だった。
それら全てを奪ったラダム。呼び出してしまったのは、他ならぬ自分自身。
激昂したルイズはランサーを構え直し、さらに激しい攻撃の嵐を繰り出した。

ゼロは怒涛のような攻撃を繰り出した。突き、薙ぎ払い、打ち下ろし。あらゆる種類の斬撃が襲い掛かるが、エビルは軽々とそれを受け流す。
それにさらに熱くなったゼロは、大上段から力任せの一撃を振り下ろした。しかし、これもたやすくかわされた上に、腹部に膝を喰らう。
呻き、くの字に折れ曲がってしまったゼロに、エビルは更なる猛追をくわえる。
アッパー気味の拳を顔面に叩きつける。それで浮き上がってしまったゼロの胸部へ、とどめとばかりに強烈な蹴りを叩き込んだ。
吹き飛ばされたゼロはランサーを取り落とし、地面に何メイルもの引きずり跡を作り横たわる。
それでも彼女は、よろめきながらもゆっくりと立ち上がる。
「しつこいわねえ」
ゼロの様子を見たエビルは、たまらず呟いた。
能力的には自分の方が上、にもかかわらずここまでてこずるとは、驚嘆すべきしぶとさだ。
興味深げにエビルは目の前でもがくゼロの様子を見つめた。
しかし、突如として異変が起こる。いきなり動きが止まったのだ。
戦闘中であるにもかかわらず、ゼロは頭を抱えてうずくまり、苦悶の叫びを上げる。
「ああぅ……うああぁぁぁっ!」
突然苦しみ始めたゼロの様子に、エビルはいぶかしみつつも様子を伺った。

「そう……そういうことなの」
テッカマン同士の感応を利用して、エビルは全てを察した。
もともとテッカマンはラダムにより、侵略の尖兵として生み出されたものであり、ラダムに支配されないゼロはテッカマンとして不完全な存在であるといえる。
しかし、テックシステムの中で植えつけられたラダムの知識や本能はいまだ彼女の中に残っている。
それが今、目覚めようとしていた。
どうやら一定時間以上のテックセットでラダムの本能が頭をもたげてきたらしい。本来のテッカマンにはない不完全さゆえの欠点。
それは人間として戦おうとしているゼロにとって、致命的なものであろう。
苦しみ続けるゼロに、エビルはゆっくりと歩み寄っていった。この様子ならば、倒すのはラダム獣を操るよりも容易いだろう。
ひざまづいて苦しむゼロを見下ろしながら、ランサーを突きつける。
「さようなら……ルイズ」
ランサーを振り下ろそうとした瞬間、ゼロの両肩が展開された。
「ボルテッカァー!」
間髪いれず、切り札が放たれる。
ひざまずいた体勢のまま放たれた一撃は、きれいな草花を焼き払い、草原に黒い道を作り出した。

「危ないわねぇ。全く油断のならない」
寸前でボルテッカをかわしたエビルは、やや離れた高台からゼロを見下ろした。
あれでほとんどの力を使い果たしたのか、ゼロは立ち上がることもできないほどに疲弊している。
正直、あの状況でボルテッカまで放つなんて……。ここで迂闊に攻め込めば、返り討ちにあうことはなくとも思わぬ痛手くらいは受けるかもしれない。
「まあいいわ。もっと面白いことを考えついたから」
エビルは踵を返し、呼び出した飛行型のラダム獣に飛び乗った。テッカマンエビルを乗せたラダム獣はそのまま飛翔していく。
「じゃあね、ルイズ。次を楽しみにしてるわ」
小さくなっていくゼロを見ながら、エビルは口の中で呟いた。


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