「アンジェ、痛い。どこに行くのよ?」
アンジェリカはルイズの手を掴んだまま足早に歩く。
「ほら、見て下さい。最初にこの二人を殺したんですよ」
アンジェリカは薄い胸を張っていう。
「こ、ころした・・・?」
「はい! 最初は剣をこの胸に突き刺しました! それでですね、この人はAUGで撃ち殺しました!」
「はい! 最初は剣をこの胸に突き刺しました! それでですね、この人はAUGで撃ち殺しました!」
アンジェリカは一人はしゃぎながら、うれしそうに説明をする。
「とても簡単に殺せましたよ、ルイズさん」
アンジェリカは笑みを崩さない。
「それでですね、止めを刺した後はお屋敷の中に入って残りの人を殺したんですよ?」
再びルイズの手を掴み屋敷の中に入っていくアンジェリカ。ルイズは抵抗もせずにアンジェリカについて行く。
屋敷の中、倒れている男がいる。
「アンジェ?あれも・・・」
「そうです。ルイズさん。あいつもやっつけました」
「そうです。ルイズさん。あいつもやっつけました」
そういうとアンジェリカはルイズを部屋の中に引っ張る。
その光景に思わずルイズは目を背ける。
その光景に思わずルイズは目を背ける。
「あの、どうですか?とっても簡単に殺せました。ほら見て下さい!剣を今日初めて使ったのにこんなに上手に殺せたんですよ?」
頭が痛い、眩暈がしてきた。ルイズは嬉しそうに、何かを期待するかのように瞳を覗き込んでくるアンジェリカから目をそらしてしまった。
「あの、ルイズさん。あっちでも殺したんですよ。まだ終わりじゃありませんから」
アンジェリカはまたルイズの手を引いて歩き出す、ルイズは抵抗もせず、ただついて行くしかなかった。
廊下の先に見える赤黒い水溜り、倒れている人影、今まで人の死をここまで感じたことはあっただろうか。
錆びた臭いが屋敷に充満する。ルイズは顔を青くて立ち尽くす。
錆びた臭いが屋敷に充満する。ルイズは顔を青くて立ち尽くす。
「ね、ねぇアンジェ?」
思わず胃の中が逆流してきそうになったが何とか堪える。
「何ですか?」
「アンジェ、聞くけど本当に貴方がやったの?」
「そうですよ。私が全部殺しました」
「アンジェ、聞くけど本当に貴方がやったの?」
「そうですよ。私が全部殺しました」
信じられない、いや信じたくない。目の前にいる少女が、虫一つ殺せないような可憐な少女が目の前に起きている惨状の原因だなんて。
「こ、これもアンジェ。貴方がやったっていうのかしら?」
ルイズはそういって血溜まりに沈むメイドの死体を指差す。
「はいそうですよ。それがどうかしたんですか?」
「どうしたじゃないわよ! 何でこんなことするのよ!」
「どうしたじゃないわよ! 何でこんなことするのよ!」
ルイズがアンジェリカを問い詰めようとしたその時、ガタリと物音がした。
「え? 何、何の音?」
「何でしょうか?あ、あれですね」
「何でしょうか?あ、あれですね」
アンジェリカはクローゼットに近づくとデルフリンガーを引き抜いた。
「アンジェ、何してるの?」
ルイズの問いに答えず、デルフリンガーをクローゼットに突き立てる。
「な、何かいるのかしら?」
ルイズは恐る恐るクローゼットに近づき、そっと扉を開ける。
「え!?」
驚くしかなかった、クローゼットの中には腹を赤く染めたメイドの少女がいたのだ。
「た、助けて・・・」
何故クローゼットの中にいたのか、疑問は残るがそれよりも助けないと。
「待って、今助けるわ」
「退いてくださいルイズさん!」
「アンジェ?何を・・・」
「退いてくださいルイズさん!」
「アンジェ?何を・・・」
ルイズはアンジェリカを制止しようとするが間に合わない、煌めく左手の紋章、デルフリンガーを奔らせる。
メイドの胸がバックリと開き、鮮血が舞い散り、ルイズとアンジェリカを紅く染めた。
メイドの胸がバックリと開き、鮮血が舞い散り、ルイズとアンジェリカを紅く染めた。
「ア、アンジェ……」
「ごめんなさいルイズさん。討ち漏らしがありました。でもこれで目撃者もいません」
「ごめんなさいルイズさん。討ち漏らしがありました。でもこれで目撃者もいません」
何を言えばいいのだろうか。叱責、賞賛、それとも罵倒か、言葉が出ない。ただ一ついえるのはアンジェリカは嘘をついてはいない。この惨劇を引き起こしたのは間違いなくアンジェリカだ。
「えっとですね、あともう一箇所。どなたでしたっけ?ここの一番悪い人。その人もちゃんと殺しましたよ?」
「そう……なの。案内してくれない?」
「そう……なの。案内してくれない?」
もしアンジェリカがこの惨劇を引き起こしたというのならば主としてその結果を見届けなくてはならない。
ルイズは意識が飛びそうになるが、懸命に堪える。
ルイズは意識が飛びそうになるが、懸命に堪える。
「はい!」
アンジェリカはルイズの言葉を聞くと嬉しそうに返事をした。
軽い足取りで最後の惨劇の場へ行くアンジェリカ。
重い足取りで最後の惨劇の場へと歩くルイズ。
軽い足取りで最後の惨劇の場へ行くアンジェリカ。
重い足取りで最後の惨劇の場へと歩くルイズ。
そして扉は開かれた。
「見て下さいルイズさん!」
「見てるわよ・・・アンジェ」
「見てるわよ・・・アンジェ」
ルイズはその光景を見つめる。今度は目をそらさない。
「一つ聞きたいことがあるの」
「何でしょうかルイズさん」
「何で・・・どうしてでこんな事したの?」
「だってルイズさんがこうしろって仰ったじゃないですか」
「わたしが?」
「何でしょうかルイズさん」
「何で・・・どうしてでこんな事したの?」
「だってルイズさんがこうしろって仰ったじゃないですか」
「わたしが?」
ルイズはその時のことを思い出していた。
『じゃあ悪い人なんですね。私やっつけますよ?』
『え?じゃあお願いするわ』
『え?じゃあお願いするわ』
そうだ、確かにそう言っていた。アンジェリカのそれをただの冗談と思って。なのにアンジェリカは本気でそれを言っていたのだ。
ルイズは知らなかった。アンジェリカの恐ろしさを何も知らない。笑って人が殺せる事を、武器も持たない無力な人間を殺せることを。
ルイズは知らなかった。アンジェリカの恐ろしさを何も知らない。笑って人が殺せる事を、武器も持たない無力な人間を殺せることを。
ベットには貴族らしい男の死体が横たわる。恐らくそれがモット伯だろう。
「ねぇアンジェが怪我をしたシエスタを助けたのよね」
「シエスタちゃん、怪我したのですか?」
「シエスタちゃん、怪我したのですか?」
おかしい、先ほどから言動がおかしい。一体何なのだこの子は。ルイズは恐怖をアンジェリカに覚える。
「ルイズさん、どうかされましたか?」
アンジェリカが話しかける。思わず身構えてしまう。アンジェリカの凶器の矛先が自分に向けられるのではないか、一抹の不安がよぎる。
「あながち間違いでもないかもな。娘っこ、この小娘はおまえさんを通して誰かを見ているからな」
ルイズの心を見透かしたようにデルフリンガーが呟く。
「ルイズ!一体何があったの!」
ようやくルイズたちに追いついたキュルケとタバサ。屋敷の惨劇と赤く汚れたルイズに驚く。まるで今そこで人を殺したような…そんな汚れ方だ。
「キュルケ? ああ、これね・・・アンジェがやったんですって」
さっきも一人目の前で殺したの、そう呟きペタンとその場に座り込むルイズ。
「冗談……ではないみたいね」
ルイズの様子を見ればそれが冗談ではないとすぐに分かる。虚ろな目、細かく震える体、それらが事実を物語るのだ。
「本当なら危険」
「タバサ、危険って?」
「一応貴族」
「タバサ、危険って?」
「一応貴族」
それもそうだ。モット伯もあれで一応貴族なのだ。それが殺されたとなると一大事だ。
「どうしてこんなことになったのよ。私どうすればいいの?」
ルイズは泣きたくなった。何が悪かったのか、こんなことになるなんて。ただ普通のメイジとして過ごしたかっただけなのに・・・。
「……燃やしましょう」
キュルケは少し思案した後、そう提案する。
「燃やすって……」
「証拠隠滅?」
「そう、タバサの言う通りよ。この屋敷を死体ごと燃やすの。そうすれば誰が殺したかなんてわからないわ」
「でもそううまくいくの?」
「大丈夫よ。何か聞かれても知らぬ存ぜぬで通せばいいもの」
「食堂にあった油撒いてきた」
「タバサ! 早いわねぇ。じゃあ燃やすわよ」
「証拠隠滅?」
「そう、タバサの言う通りよ。この屋敷を死体ごと燃やすの。そうすれば誰が殺したかなんてわからないわ」
「でもそううまくいくの?」
「大丈夫よ。何か聞かれても知らぬ存ぜぬで通せばいいもの」
「食堂にあった油撒いてきた」
「タバサ! 早いわねぇ。じゃあ燃やすわよ」
キュルケは魔法で炎を生み出し、屋敷へと解き放つ。
「じゃあ早く学院に戻るわよ。タバサ?」
「何」
「シルフィードは?」
「今呼ぶ」
「何」
「シルフィードは?」
「今呼ぶ」
タバサが口笛を吹く。きゅいきゅいと鳴きながらシルフィードが飛んでくる。少女たちはその背中に飛び乗った。
激しく燃え盛る炎、全てを焼き尽くし、空を赤く照らす。学院への帰路に少女たちは何を思うのか。それぞれの思いを胸に眠りに就く。
幾つもの命の炎が消えた夜。星空はいつも変わらぬ、ただ静かに月が昇り、沈み往く。世界は何一つ変わらない。
翌日アンジェリカが目を覚まさなかった。彼女が目を覚ますのは事件から4日が過ぎてからだった。
Episodio 14
Un cielo serale e che brucia, il cielo stellato che non cambia
燃える夜空、変わらぬ星空
燃える夜空、変わらぬ星空