あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 09


 燦燦とした太陽が己が輝きを持って下界を照らし出す中、
 ここヴェストリ広場はその日、異様な空気に包まれていた。

 普段ではあり得ないほど人だかりができ、それは年齢を問わずとして様々だった。
 彼らの顔は、見世物を嘲り笑うように趣味の悪い笑顔を浮かべている。
 そう、これからココで見世物があるのだ、見逃してはならない!
 思い浮かべる悦を付く像に心を疼かせ、醜悪な笑顔に更なる腐敗が掛かる。
 普段気品に振舞うように躾けられるべき貴族の卵たちの、化けの皮の下が垣間見えた時だった。

「来たッ!!」

 誰かが叫んだ、男だったが女だったか? いや、それが誰であろうとかまわない。
 ただ、見世物を実演する者の登場に、会場は沸いた。
 そして、それを知らせてくれたことにだけは、顔もわからない誰かに感謝をする。
 ゆっくりと歩を進める男に大多数の視線が折り重なった。

 ギーシュは既に広場に出ていた。
 二枚目な頬に赤い“もみじ”を貼り付けている様がどこと無く痛々しく笑いを誘うが、
 当の本人はそんな事お構いないのか、大勢の人間で出来たリングに囲まれる真っ只中で
 あの使い魔の到着を黙って待っていた。
 食堂のときほど興奮しているわけでも無い、かといって、頭が冷静では断じて無い。

「待っていた」

 ギーシュは呟いた。誰に聞こえるわけも無く、自分に言い聞かせるように。
 はらした頬の痛みを胸に感じながら眼を閉じ、彫刻のようなで相貌で、ただじっとあの男が来るのを。
 誰かが意気揚々と叫んだとき、ギーシュは強く眼を開き、ごく自然な動作でマントを翻した。
 風に靡くマントが、日の光に当てられて眩しく光った。

 待っていたぞ……!




「諸君、決闘だ!」

 息を溜めて言葉を放ったとき、再び会場がどっと沸く。
 ヤジを飛ばす見知った級友を始め、見知らぬ人々からも応援かわからない声が耳に届く。
 溢れる声援が全て自分に向けられていると感じたとき、例えそれがヤジであろうとギーシュは心強いと思った。
 しかし、指し示すバラの先にいる男に動揺は見られない。

(これらの内容はともかく、こんな歓声ごときでは、奴を怖気づかせるには足りないという事か?)

 男の精神に感心したが、敵であるという事を忘れない。ヤツにとってここはアウェイ(敵地)である事に変わりないように。
 それにしてもこの男、常人なら圧倒的なプレッシャーを感じていいはずだというのに、
 まるで感情が抜け落ちている人形みたいだ、無言の表情に変化が見られない。

 見上げた刹那、ふと目が合い、身体が震えた。
 一転して変わらない鋭い眼光――恐怖すら感じる、これは召喚された時のまさにそのもの。
 後ずさりしそうになるのをぐっとこらえた、こちらの動揺を読み取られるのは得策ではないからだ。
 でも、まぁ後ずさり位仕方ないな……怖いのだから。 

「改めて名乗らせてもらう! 僕の名ギーシュ、2つ名は『青銅』。
 そして僕はメイジだ。よってこの決闘、魔法を使う!」 
「…………」

 言うなり、すぐさま魔法を唱えて杖を振る。
 造花の花びらが宙を舞い、2秒とたたず金属製のハンマーを持った甲冑の女性像が一体、ギーシュの前に姿を現した。
 ギーシュは付け加えた、「この女性像の名はワルキューレ、僕のゴーレムだ!」と。

「……!」

 無言の使い魔の男がこのとき、気のせいかと思うほど僅かな一瞬だけ瞳孔を開かせる。
 驚いたのだ! この無感情な男が。

 そして、今のギーシュはこの隙を見逃さない。
 ワルキューレは表面上の指示を出す前に颯爽と男に向かって駆け出し、
 持っていたハンマーを大きく振りかぶって、男の脳天めがけて一直線に振り落とした。





「どうしよう……どうしよう」 

 シエスタは広場近くの通路をうろうろとしていた。 
 俯けた頭を左右に振り、右に行っては頭を抱え、左に進んでは可愛らしい唸り声をあげ、
 一向にその場から動けていない。

 ――まさかこんな事になろうとは、誰が予想できたんだろう?

 この壁の向こうでは、今、まさに自分と同じ身分――平民――の人がメイジと戦って……いや、戦いになってるはずがない。
 いくら身体の大きなあの人でも、相手はメイジなのだ。
 武器も無しじゃ、きっと一方的にやられているはず。

(……あの時、一声かればそれだけで今の状況は無かったんじゃないか?)

 そう思うとどうしても頭を抱えてしまう。
 でもその反面、『起きてしまった事は仕方がない、せめてこっそりでいいから応援に行こう!』
 という思いもある。いやむしろ、頭の中ではこの思いのほうが強く、近くまで来たのはいいのだけど、
 言い出せない不当な罪悪感と、同じ階級の人間が貴族に蹂躙されるのを見たくない思いが重なってしまい
 シエスタを広場まであと一歩の距離で踏みとどまらせていた。

 また踵を返し、広場に背を向けていたときこの日一番の大歓声があがった。 
 吹き飛ばされそうなくらいに大きな声の塊が、背後から耳を劈いて通り過ぎる。

「…………え!?」

 シエスタは茫然とした表情で、即座に広場への通路を振り返った。
 歓声の余韻が空気を揺らし、まだ余震のように耳を掠めて聞こえている。

「まさか……もう……?」

 沸かれんばかりの大歓声が情報として脳へと送られたとき、
 あのターミネーターという男の人が貴族に踏みつけられる絵が眼に浮かぶのは、ごく自然な事だった。





 ぱたん、と本を閉じる音がした。
 しかしその小さな音は、未だ冷めやらない興奮の残り火にいとも簡単にもみ消される。
 彼女は、小さな身体には見るからに不釣合いな厚さの本を持った手を小脇に移し、
 周囲の歓声とどよめきを耳障りであるかのように払いのけると、傾かせていた頭を上げて
 眼の先に存在する男へと興味の対象を移した。

「…………」

 男は自分の視線に気づかなかった。
 男の眼は、眼前に立ちすくむ青銅の人形をじっくりと見つめていた。
 そのときふと、
 哀れみを覚えるような男の悲しい眼が、今の自分にどこかしら似ているように思えた。



 バラの杖を片手に、ギーシュは立ち尽くしていた。
 視線だけは対峙する男に向けていたが、見開かれた瞳は痙攣するように
 ぶるぶると震えている。

「なにが……起きたんだ?」

 ありのままを受け止めるには、今のギーシュの頭じゃすこしばかり足りない。 
 知らず知らずのうちに、歩数にして2歩ほどの距離を逃げるように遠ざかった。

 回りそうに無い頭を必死で動かし、ギーシュは改めて考えた。
 ワルキューレの一撃に手加減は無かったし、それに対して男はよける事も受ける事もしなかった。
 分厚い青銅の鎚は確実に男の脳天に突き刺さり、すごい勢いで押し潰した。 

 コレは事実。ここまではまだ理解できる。でも、なら……なんで?

 金属同士をぶつけ合わせたような重く、鈍い音が響くと、
 男の顔が謝りを入れるようにすばやく俯き、傷ついた頭部の皮膚から血が浅く額を伝う。
 それだけだった。
 頭こそ項垂れているが死んだようなそぶりも無く、大げさに痛がるそぶりもない。
 男は何事も無かったかのようにすぐさま顔を上げると、
 ギーシュに対する皮肉を込めてか、口の端を少し吊り上げてにやりと笑い、首を傾けて見せた。 

 なぜこの【平民】は無事なんだ――――?

 ちなみに、男の頭部をつぶすはずだった全身金属のハンマーは、
 柄の部分から『く』の字に曲がり、直接激突したひときわ大きいハンマー部分は見るも無残にへしゃげていた。




 振り下ろされるハンマーは、ターミネーターにとって
 楽々よけること(必要は無いが)も受け止めること(同じく必要無い)もできた。
 そんな彼が、わざと第一撃を無防備に頭に受けさせたのは、己が主人の命令に故に他ならない。



 決闘が始まる少し前、ルイズの部屋――――



「絶対に、死んじゃダメよ!」

 部屋に戻った開口一番、ルイズが言った。
 ターミネーターは何のことやら、とでも言うように首をかしげる。

「いい、いくらアンタが平民として強くても、メイジには絶対勝てないわ。
 ギーシュも……怒りに狂ったといえど、まさか平民を殺しはしないでしょうし、
 いい! アンタは最初の一撃を無防備に貰いなさい!」  

 ターミネーターは「なぜだ?」と口を開こうとしたが、
 ルイズが続けざまに、強く言い放った言葉に口を半分ほど開かせたところで止め、

「これは命令よ!」
「了解」

 半開きのまま別の言葉を選択して、言った。
 去り行くターミネーターの後姿を見て、コレで一安心だとルイズは息をついた。それは、
 あの物分りのいい使い魔が、『わざと負けること』を解ってくれたのだと思っての安堵の息だった。

 ――――しかし、彼女はそれを伝えていなかった。

 伝わったと勘違いしたあまり、そこまで言う事を頭から忘れてしまっていた。
 だから、ターミネーターの命令が『最初の一撃を無防備に貰う事』以外インプットされていない事に
 この時点では全く気づいていなかった上、毛ほども気にかけていなかった。


 ただ、ターミネーターが部屋を出て行くとき、振り返って珍しく苦笑いを見せ

「殺しはしないさ」

 と言ったときは、流石にこの男は頭がおかしいのかと思った。


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