あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-07

日の差さぬ広場、いつもならば人気のないそこは人で溢れかえっている。
血を血で争う闘いの場がそこにあった。
弐者が決闘場に立つ。
周囲を囲むのは貴族の子弟たちと、遠巻きに怯えた目で見つめる平民達。
力ない者は牙を持たぬ。
力ある物は牙を持たぬ人の為に闘う。
己のためでなく人のために牙を振るう。
だが、逆ならば?
牙ある者が牙を持たぬ人を害するならば?
その牙を力なき者たちに向けるのならば?
鉄風雷火の如く彼等を襲うとするならば?
そんな、非道を許しておけるのか?
否、断じて否である。
故に彼は立ち上がる。
彼はそうした者の祈りであるからだ。
彼がほんの少し他人より優しいからだ。
さあ、戦いの場に繰り出そう、誰かの願いを背中に受けて。


「やってきたぞ」
九朔は草を踏み締める。
目の前にはあの貴族の少年が構えている、その顔の不遜な表情は崩れない。
「逃げずに良くやってきた、褒めてあげるよ」
「汝に褒められても嬉しくはないな」
交差する視線に火花が散る。
互いが交わす怒りの大きさに、どれだけの人間が気づいただろうか。
薔薇の造花が掲げられる。
「諸君! 決闘だ!」
決闘の宣誓だ。
歓声は大きく、嬉々として騒ぎ始める。
それにギーシュは笑んだ。
その笑みに隠れた紅蓮の怒り、胸に宿したそれは凄まじかった。
眼前の少年、聞けばあのルイズの使い魔だという彼の言葉はギーシュのプライドを大いに
傷つけた。
彼とて軍人の息子である、誇りにかけて国を守る意味は知っている。しかし彼はそれを
侮辱した。与えられた地位を笠に着て脅す大馬鹿者とのたまったのだ。
このような侮辱を捨て置くことなどできない。
だからこそ其の身に刻んでやるのだ、己を侮辱したことの愚かさを。
「決闘はどちらかが負けを認めるまで、もしくはこの僕の杖である薔薇の造花を
 落とすまでだ―――では、始めるとしようか!」
闘いの開始が宣言され、歓声が囲む観衆から沸きあがった。
「仕る!」
その歓声を合図と九朔は決闘場をギーシュへと直線に駆けた。
戦い方など毛頭も覚えてなどいない、記憶の失った己ができるのはただ直(じき)に駆け
この拳で相手を打ち抜くのみ。
胸にあるこの熱い何かを叩き込むのみだ。
「破ァァアアァァ!!!!」
壱拾歩の距離を零にして拳を振りぬく。
しかし、
「甘いね!」
ギーシュの腕が振るわれ薔薇の花が壱枚散った。
「っ!?」
眼前に突如甲冑の腕が顕現、翡翠の瞳が見開かれる。
「ワルキューレ!」
口訣と共に虚空から生えた甲冑の拳が零距離の九朔を打ち抜く。
因果、勢いのついた肉体から繰り出されるはずの威力が九朔の脇腹へ逆流し破壊する。
吹き飛ぶ九朔、大地に無残に転がる。
「ぐ……はっ………」
喉の奥から酸いものがこみあげる。
痛みは尋常ではない、心の臓が脈打つ拍子に脇腹に激痛が走る。
耳をわずらわしい笑い声が突く。
「あはははははは! メイジが戦いで魔法を使う事に依存はないだろ?
 僕はギーシュ・ド・グラモン。系統は土の二つ名は『青銅』、人呼んで青銅のギーシュ。
 この青銅のゴーレム『ワルキューレ』が君の相手をしよう!」
見下す目つきで己を睨むギーシュに九朔は歯噛みする。
芝居がかったその口調も気に入らない、しかし、倒れて何もしない己は尚更に気に入らない。
両の腕に力を籠めて、一息に立ち上がる。
脇腹に走る激痛、痛みを堪えるのではなく、忘れる。
己の痛みなど瑣末なもの、胸糞の悪いこの気分をぶちかます。
先ほどのシエスタの顔を思い出し、何故かルイズも思い出した。
それだけで脚は力強く大地を踏み締める事が出来た。
「下らぬな。そんな軟(やわ)い一撃で我を打ち倒せると思うてか?」
「なんだと?」
口端に不敵な笑みを浮かべ相手を見下してやる。
「青銅などで我を打ち倒せると思うなよ、腑抜けが!」
ギーシュの顔から笑みが消え、ゾっとするほどの冷気が周囲に漂う。
観衆の貴族の少年少女たちもその危険な空気に気づき声を殺した。
「……言ってくれるじゃないか、君。望みどおり――――打ち倒してやる!」
轟ッ、その身からは想像出来ない俊敏な動きで甲冑の女騎士が九朔に迫った。
打ち出される青銅の拳が九朔の顔面を捉える。
「ちッ!」
間一髪飛び退いたその場に鎚のような一撃が通り抜ける。
遅れた蒼銀の髪が数本ちぎれ、大地が拳の形に陥没した。
当たればまず只ではすまない青銅騎士の拳に周りが微かな悲鳴をあげ青ざめた。
戯れの決闘が真意の決闘に変わっている。
もはやギーシュの眼は常の優男のそれではなかった。
「くッ!」
突進と拳を交互して打ち出すワルキューレの猛攻をぎりぎりで交わし続ける九朔。
単調なだけまだかわせる一撃一撃だったのだが如何せん手数が多い。
あの金髪に迫ろうにも動くに動けない。
「難儀な事だ―――なッ!」
顎下を狙う右の拳を横様にかわして飛ぶ。
脇腹を狙う左の拳を後ろに飛んでかわす。
凡そ数壱拾手はこの青銅騎士の攻撃を交わし続けただろうか。
しかし、その隙は少しずつ小さくなっている。
「あやつ………やりおるッ!」
九朔はギーシュへと視線を向けた。
こちらを冷たい目で睨む少年の瞳は食堂で見た軟派男のものではない。
腐っても男だったか、真剣になれば並ではなかったようだ。再び迫ったワルキューレの
突進をかわしつつ九朔はそう感じた。
眼前の戦いを離れた思考、一瞬ではあったがそれが九朔に決定的な隙を生み出していた。
「クザクッ!」
ルイズの悲鳴じみた叫びが遠くから聞こえた。
目の前の突進を飛び退き着地した九朔の背筋に冷たいものが走った。
はっきりと知覚できる濃厚な殺意のそれ。
全神経が、脳が、迫るそれをかわせと命令する。
だが、既に手遅れ。
「がは………ッ!」
首筋に叩き込まれる焼け付くような感覚、意識を断絶させるような衝撃。金属の冷たい
感触と抉りこまれる激痛が遅れてやってきた。
脳髄がゆさぶられ、視界がぶれた。
四肢から力が抜ける、操り人形の糸が切れたように九朔の体が崩れ落ちた。
攻撃はかわしたはず、なのに崩れ落ちる?
脳内、走る疑問はすぐに解決された。
混濁する意識の端に二体の青銅騎士を視認する。
「壱体………ではなかった………か」
苦々しく口走るが、その脇腹に新たな痛みが加わる。
壱体の騎士が九朔を蹴り上げていた。
「ごはッ!」
胸腔内の空気が一気に吐き出される。
背に熱が走る、両手を組んだ騎士の鎚が振り落とされる。
叩きつけられ、顔面が泥に汚れる。
「ぐぁ………ぁ…………くっ」
立ち上がらねば、そう思うが腕に力が入らない。
先ほどの首筋にうけた衝撃で四肢が麻痺している。
腹部に激痛、胃に爪先が深くめり込んだ。
「がッ!………ぐ……はッ……がはッ!」
口から胃液が零れた。
酸い匂いが漂う。
しかし、それでも青銅騎士の猛攻は止まらない。
腕、脚、脇腹、肋骨、顔面、次々にその拳が穿っていく。
痛みは激しく、衝撃はままならない。
しかし、それも少しずつ遠のいていく。
少しずつ意識が朧になっていく。
微かに眼を見開けばルイズがギーシュに向かって何かを叫んでいる。
頭に感じる重み、どうやらあの青銅騎士が自分を踏みつけているらしい。
ルイズが叫んでいる、だが、聞こえない。
まったく、何をそんなに必死になっているのか。
別段関係がないというのに、まったく困ったものだ。
払いのけられ、ルイズがこちらを確かに見た。
鳶色に涙を見た。
そして、その向こうにルシエスタを見た。
蒼黒に涙を見た。
「――――ッ!」
鼓動が大きく高鳴った、これほどまでないほどに熱を持った。
こんなのは嫌だ、これではまったく駄目だ。
胸糞悪い、誰かが泣いているのはこれほどなく気分が悪い。
痛みが消える、激痛が吹き飛ぶ。
しびれていたはずの四肢が漲る、血潮が猛る。
思考が明確になる、澄み切る。
脳内を何かが疾走する。
魂が昂ぶる、だというのに、精神は凪。
意識が広がる、どこまでも広がる。
人間の知覚を遥かに凌駕した領域が見えた。
左手に刻まれた術式(ルーン)が煌めいた。


―――どこかで頁(ペヱジ)をめくる音がした





「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。
 留めに入った教師がいましたが、生徒達に邪魔されて止められないようです」
ミス・ロングビルの言葉にオスマンが溜息をついた。
今さきほど目の前のこっパゲことコルベールに、ミス・ヴァリエールの召喚した
平民の使い魔がガンダールヴかもしれないと話を聞いていたところだ。
それだけでもなかなかな問題だというのに、それに加えて更に問題を
持ち込まれては辟易とした気分になるのも仕方ない。
「まったく、暇をもてあました貴族ほど性質の悪い生き物はおらんわい。
 で、誰が暴れておるんだね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あのグラモンとこの馬鹿息子か………おおかた女の子の取り合いじゃろうな。
 で、相手は誰じゃ?」
そこでミス・ロングビルの表情がやや困惑したものになった。
嫌な予感がする。
いや、期待か?
こういうときの予感ほど当たるものとは言うが。
「………それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の
 少年のようです」
やはり、か。
目の前のコルベールとオスマンは眼を合わせた。
彼もまた同じことを考えていたのは手に取るようにわかった。
「教師たちは決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが?」
「構わん、放っておきなさい。秘法を使うまでのことではあるまいて」
「………わかりました」
部屋を去るミス・ロングビルの足音を聞き、コルベールがうなずく。
「オールド・オスマン」
「ああ」
杖を振ると、『遠見の鏡』にヴェストリの広場が映し出される。
そこで見るのは彼等の想像を凌駕した光景だった。




――何も、超人に至る道は魔術だけではないのですよ


誰が言った言葉だろうか。
その人の姿はとても輝いていた気がする。
胸に去来する懐かしく熱い思い。
彼を自分は識っている。
魂に彼は刻まれている。
黒衣のスーツに身を包んだ長身痩躯のその姿、だが決して脆弱ではない。
その身体から滲み出る鬼気は溢れんばかりの力を秘めていた。
その瞳は正しく真っ直ぐに視界を収めていた。
その身のこなしは数多くの修羅場を潜り抜けた武士のもの。
彼は護る者。
その拳は数多くの外敵を大地に沈めた。
音速を超え、神速にまで鍛え上げられた拳闘術が彼の刃。
己が主の為に振るったそれは芸術にまで極められた最強の武器。
そして、自分は彼の技を識っている。
自分は彼との記憶を識っている。
「ウィン………フィールド」

■■破損記憶 再構築   ■■6%
■■■破損術式再構築………………術種選択:強化術式(ブーストスペル)



眼前を見下ろす、そこには大地に倒れたあの青銅騎士が在る。
胸に穿たれた拳の痕。
己が刻んだ一撃だ。
周囲の人間は沈黙していた。
踏みつけていた青銅騎士が瞬(またたく)く間もなく吹っ飛んだのだ。
そして、胸についたそれを見て知った。
彼が刻んだのだと。
「な、なんなんだ………何なんだお前はッッッ!?」
咆哮、その瞬間二体の青銅騎士が七になった。
ギーシュは知った。
その魂で彼が己を遥かに凌駕した何かを持っていることを識った。
故に全力を投じなければならないと理解した。
――そうしなければ、自分は殺される。
背骨に氷を押し込められた様な、そんな寒気が全身に走った。
「ワルキューレッッ! や、やるんだッッッ!」
七の騎士が九朔に向かい駆けた。
その手に大地から練成した槍、剣、斧といった得物を手にして。
九朔を前周囲から囲み迫る。
今、ここで一気にやらねばならない、強迫観念めいた何かがギーシュを追い込んでいた。
しかし、九朔はそんなギーシュを見てはいない。
広がった認識が迫る敵の挙動を知覚する。
明鏡止水と言う言葉がある、これはそれだというのだろうか。
昂ぶる魂と裏腹に凍りつくほどに澄み渡った精神、五臓六腑が賦活する。
吸い込む大気が細胞の一つまで、いや、『字祷子』までも活性化させる。
傷が癒えるのを感じる、血流が再構成されるのを感じる。
激痛が生命力へと転換される。
この力が何か、それを九朔は知らない。
自分が何者かなどは知らない。
記憶は未だ失われたまま。
「だが、この力を己(オレ)は――識っている!」
青銅騎士の刃が零距離に迫った。
しかし、それはもはや致命ではない。
常人を凌駕した知覚にはその一撃までの刹那は無限であった。
踏み締める大地、そして跳躍。
虚空に九朔の体が舞う。
蝶の如く軽やかに宙を跳び、大地へと舞い降りる。
消えたその場に刃が突きたてられた。
「なあっ!?」
ギーシュの驚愕が決闘場に響く。
当然だった、確かに刃は九朔を捕らえたはずなのに一瞬でその姿が掻き消えたのだ。
その驚愕は伝播したように周りの観衆へと、ルイズ、シエスタへと続く。
「うそ……な、なんなのアンタ!?」
「クザクさん……!」
今、彼の姿はゴーレムの背後にある。
その瞳は先ほどと全く変わらない
「さあ、どうした? かかってこい」
「い、言われるまでも!」
ワルキューレは思い出したように九朔へと一気に襲いかかった。
斧が迫る、剣が迫る、槍が迫る。
一撃でも当たれば即死も免れない。
しかし、九朔は退くどころか
「――仕る!」
突撃した。
七体の堅牢な青銅の鎧騎士へと九朔は突貫する。
迷いはない、ただ真っ直ぐ突き進むのみ。
先ほどと何も変わらない。
ただ違うのは、その身に溢れんばかりの力が漲っている事だけ。
剣を持ったワルキューレ二名が迫る。
横薙ぎと縦薙ぎ、十字の斬撃が九朔を襲う。
しかし、
「遅いッ!」
それが到達するより前に九朔は懐に入り込んだ。
拳を握り締める、力が拳を覆うのを感じる。
「覇アアアァァァァァァァ!!!」
爆砕する大気、音速を超えた零距離からの一撃がワルキューレを2つ同時に打ち抜いた。
そのまま吹き飛ぶ鎧騎士は金属片へと還る。
背後に迫る参の気配。
剣のワルキューレが握っていた刃、空に舞っていたそれを両手に掴み取り振向く。
二の槍と一の斧が同時に襲いかかる。
しかし、無意味だ。
何故なら彼は二闘流、二刀と二挺の使い手なのだから。
「温いッ!」
奔る右一閃、槍が中ほどから両断される。
「甘いッ!」
翻る左二閃、槍が刃先ごと真っ二つになる。
得物を失ったワルキューレを見逃すはずもない。
しかし、斧を持ったワルキューレが突進を仕掛ける。
「受けよ――――剣聖の舞」
突いて出た口訣、身に刻まれた記憶が九朔を動かした。
それは双刃を構えた彼が放つ必殺技、半人半書の身に流れる魔力が成す事のできる
身体強化による必滅奥義が壱――――剣聖銃神騎行曲。
「斬魔!」
横薙ぎ一閃が
「破邪!」
交差一閃が
「天魔覆滅!」
左右の同時一閃が爆砕する大気を伴い参体を駆け抜ける。
それは一瞬の静寂、崩れ落ちる間もなく、音もなく、ワルキューレは塵に帰す。
それを見届けるように青銅の剣もまた崩れ落ちる。
並でない威力に耐え切れず崩壊したのだ。
「な……なあぁぁっ……!」
ギーシュはいよいよ顔を青ざめた。周囲の観衆はその凄まじさに言葉を失っていた。
ルイズとシエスタはただ見守っていた。
「まだだッ! まだ……まだ2体あるんだ! や、やれ、やるんだッッ!」
持ちうる全思考を働かせ、ギーシュは残り二体のワルキューレを更に倍の大剣に持ち替え
させた。
そしてその大剣を振り回させ、九朔を間合いに入れさせない。
しかし、それすらも今の九朔には意味をなさない。
脳内を映像が疾走する。
それはウィンフィールドの姿、そして彼の美技。
拳闘術を極めた彼の超超超速度のフットワークが繰り出す必殺技。
護る者が生み出した、超音速を超えた神速の一撃必殺。
フットワークを刻む、刻む、刻む、刻む。
鼓動(ビート)鼓動(ビート)鼓動(ビート)鼓動咆哮(ビートウォークライ)。
鼓動(ビート)が咆哮(クライ)し、心の臓は超速脈動(フルドライブ)する。
構え、狙う。
振り回される大剣は竜巻の如く。
その中心点のワルキューレを視界に捉える。
それは決して彼の技には及ばない。
これはただの劣化模造品だ。
しかし、
「………え?」
「………クザク、さん?」
この二人のために振るう一撃ならばそれでも充分に真の威力を持つ。
握り締める拳、脈動する術式(ルーン)が煌めいた。

「秘拳――――即興拳武(トッカータ)!!」

第二の口訣、九朔の肉体が揺らぐ。
音速を超える。
超速を超える。
刹那を超える。
認識を超える。
大気を超える。
知覚を凌駕した認識領域で九朔は疾走(はし)る。
九朔の姿が消える。
大気が決闘場のあらゆる場所で爆砕する。
爆砕した大気が暴風を生む。
質量を伴った残像が大剣に顕現する。
繰り出す拳は無限数、穿たれ抉られ大剣は塵になる。
得物を失ったワルキューレを九朔『達』が囲む。
そして、
「――終止(フィーネ)!」
咆哮、二体のワルキューレは宙空へと打ち上げられ砕け散った。
砕けた青銅片が決闘場へと散らばる。
「――――」
沈黙が流れた。
そこにいるのは最初と同じく決闘する二人と観衆のみ。
勝負は決した、しかし、まだ終わりではない。
「……どうする、汝?」
互いに仁王立ち、ギーシュと九朔は睨みあう。
造花は握られたまま、拳は握り締められたまま。
その表情はどちらも硬く、どちらも微動だにせず睨みあう。
時間にしては数秒とも経ってはいない、だがそれは永遠にも思える長さ。
固唾を呑み観衆は見守る。
そして、
「参ったよ……僕の、負けだ」
薔薇が地面に落ちた。
どう、と歓声が上がった。
見物していた観衆、特に後方から眺めていた平民達は大きな歓声を上げた。
それは杖を持たぬ同じ平民への祝福。
貴族たちもまた歓声を上げた。
それは平民にも関わらず貴族を追い詰めた大十字九朔への祝福、そして負けはしたが
立派に戦い抜き優男でない一面を見せたギーシュへの祝福。
「信じられない強さだったよ。一体、君は何なんだい?」
祝福の証に握手を交わし、ギーシュは尋ねる。
ただの平民、いや、メイジでもこのような技を持つ者は居ない。
だとすれば、彼は一体?
「九朔だ」
「え?」
「我は大十字九朔―――騎士だ」
「騎士? それってシュバリエ……って平民の君がまさか!?」
「いや、そうではない。我は誰かを―――あ?」
その時、左手のルーンの輝きが消えた。
ギーシュの後方から駆け寄ってくるルイズとシエスタが見える。
だが、声をかける間もなく意識が断絶する。
そして、九朔はそのまま後方へと倒れた。
「クザク!」
「クザクさん!」
いきなり倒れたクザクに二人は駆け寄り体を揺さぶった。
「ぅ………」
どうやら、気を失っただけらしい。
口から微かに漏れる吐息、静かに眠っている。
それにほっと一息をつくと、ルイズは目の前で九朔を見下ろすメイドを見た。
顔を赤らめて、良かった、良かったと呟き真珠のような大粒の涙をぽろぽろと
流している。
その表情に在るのは恋する少女のそれ、複雑な気分になる。
胸に何ともいえない気持ちがいっぱいになるのだが、ルイズの前にギーシュの顔が
現れ思考は中断される。
「彼、気絶したのかい?」
「ええ。そうみたい」
「そうか……やはりやり過ぎたな。しかし、彼は一体何者なんだろうな」
「知らない、ただの平民でしょ」
「そうなのかな? 闘って思ったが、彼はただの平民じゃない気がする」
「そう。殺そうとしたくせに口が良く廻るわね」
それにうっと呻き、ギーシュの顔がすまなさ気なものになる。
「わ、悪かったと思っている……まあ、それは置いといてだ。彼、自分を騎士だと言った」
「騎士? 冗談でしょ、こいつ平民なのよ?」
「ああ、僕もそう思うけど……まあ、いっか。それより、だ」
ギーシュはそのままシエスタのへと視線を向けた。
それに微かに悲鳴をあげたシエスタだったが、ギーシュが頭を垂れた事に驚き、
そのまま停止してしまった。
「君に謝罪しよう。牙なき平民を守るはずの貴族である僕の行いを許して欲しい」
それに驚くシエスタとルイズ。
ギーシュは眠る九朔に視線を向け微笑んだ。
今までに見た事の無い笑顔だった。
「彼の、君を守ろうと闘った様に心打たれた。あそこまでぼろぼろになっても立ち上がろうと
 する彼の姿に感服したんだ。力なき平民たちの為にその身を賭して闘う彼にね」
立ち上がり『レビテーション』の術をかける。
「さて、それでは僕はこれでさよならとしよう。ケティとモンモランシーに謝りに
 いかねばなぁ」
それだけ言うとギーシュはまたも気障ったらしいポーズで去っていった。
振向くとき一瞬恥ずかしげにした表情はなんだったろうか。
そんなギーシュを見送るルイズのすそを掴む手。
見ればそこにはあのメイド。
「お、お部屋に運ぶのをお手伝いさせてもらって宜しいでしょうか?」
「………好きにしたら?」
はい、と喜んで浮かんだ九朔の体を押すシエスタ。
その隣で一緒に押しながらルイズは浮かない顔をしていた。
あの時、ギーシュと闘う前に言っていた事が耳に残っていた。
『後味の悪い真似はしたくない』、ただそれだけのためにコイツはこんなにボロボロに
なった。
見捨てるのが嫌だと戦い、傷つき、それがとても痛々しかった。
見ていて辛かった。
あの時、いきなり強くなって勝ってしまったが、それでも下手すれば死んでいた。
見ていて何も出来ない自分、止めようとしたのにとめられなかった自分、
無力だった自分が酷く情けなかった。
魔法を使えないだけでない、使い魔を守ることも何も出来なかった。
自分の弱さと無力さが悔しかった。
「私…………無力ね」
誰にも見えないように、隣で慈しむ様に九朔を眺めるメイドにも気づかれぬように
ルイズは呟いた。
広場から抜けた青空はどこまでも青く澄んでいた。




「……どう思うかね、ミスタ・コルベ-ル?」
一部始終を見届け、互いに目配せしオスマンは目の前のコルベールに問うた。
「やはり彼はガンダールヴであったのでしょうな。まさしく書にあるとおりです。
 しかし、千の軍隊を一人で壊滅させるとありましたが、だがあそこまでとは………」
そこにあるのは震えであった。己の力を遥かに超えた力への恐怖だった。
かつての彼を知るオスマンだからこそ、彼の言葉の意を理解する。
「そうじゃな、ミスタコルベール。だが、それだけではない……」
「? どういうことでしょうか、オールド・オスマン?」
その言葉に微かな違和感を覚えコルベールは尋ねるが何でもないとただ重々しく
オスマンは首を横に振るだけであった。
「何でもない、何でもないのじゃよ………」
そう呟くオスマンの顔、生気に溢れていたはずの老人の顔がやつれ果て
枯れ果てたものに見えたのは錯覚だったか。
窓から見える青空もまたどこまでも青く澄んでいた。


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