あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ディセプティコン・ゼロ-11

秘密港は今、喧騒の最中に在った。
ウェールズを含め王党派のメイジ、兵士達が呆然と見据える先に黒く勇壮な巡洋艦の姿は無く、黒々とした闇だけが拡がっている。
至る所に飛び散った血痕、そして転がる死体。
無残に歪み、今は吹き飛ばされて彼等の足元に在る扉。
それらが示すものは、何者かがこの港を襲い、『イーグル』号を沈めたという事実だ。

「『イーグル』号が……何という事だ……」
「これでは……女子供の避難が……」

愕然と呟くウェールズ、そしてパリー。
周囲の惨状を見渡していた2人の目に、物言わぬ巨大な鉄塊が映り込む。
その瞬間ウェールズの脳裏に、桃色の髪を持つ少女の姿が浮かんだ。

自身に、トリステインへの亡命を懇願した少女。
本心からの言葉で、王党派の最後を憂いた心優しきメイジ。
そして―――――目前の鉄塊、その主。

「ラ・ヴァリエール嬢……」
「は?」
「メイジとその使い魔は視覚を共有出来る……そうだったな、パリー? ならば彼女が何か知っているやも知れぬ」

言うや否や、ウェールズはメイジを2名引き連れ、ルイズの部屋へと向かうべく港を後にする。



通路の奥へと消えてゆくウェールズの背後、物言わぬ鉄塊は主を守るべく、静かに胎動を始めていた。





「……どうして?」

ルイズは呆然と、その言葉を口にした。
疑問、混乱、恐怖、諦観。
それら全てを何とか言葉へと変えたそれは、簡潔ながらも直接的な質問となって対象へと投げ掛けられる。
しかしそれを受けた当の者は、一切の答えを返さない。

「……どうして?」

もう一度、同じ言葉を繰り返す。
その声は先程とは違い、僅かな震えを含んでいた。
ルイズの頬には鮮血が細かな点を打ち、純白の服には赤い斑点が滲んでいる。
傍らのベッドにも血の染みが拡がり、それは未だに拡大を続けていた。
彼女の手が頬へと触れ、赤々とした血の筋を指でなぞり、次いで目の前へと翳される。

「……答えて」

震える手、震える声。
それらを打ち払う余裕すら無く、ルイズは搾り出す様に絶叫した。



「答えなさい……デルフッ!」




彼女の目前には、刃の付いた腕を振り切った体勢で床に手を着く、亜人型のデルフ。
そして右手と首の『在った』箇所から血を噴き出す、ワルドだったものが佇んでいた。
床に転がるワルドの右手は杖を握り、落ちた首は信じられぬとばかりに目を見開いている。

「……」
「デルフッ! これは……これはどういう……きゃ!」

無言のデルフを問い詰めようとルイズが一歩を踏み出した瞬間、デルフは彼女の腕を掴みそのままベッドの上へと放り投げた。
そしてルイズが血塗れのシーツに沈んだ瞬間、室外より扉を切り裂いて飛来した無数の風の刃が、デルフへと殺到する。
しかし、それらは悠然と佇むデルフに触れた瞬間、微風の如く霧散して失せた。
デルフは床に転がる死体の胸倉を掴むと、それを大きく切り裂かれた扉へと人間離れした膂力を以って投げ付ける。
その暴挙にルイズが目を瞠った、その瞬間―――――

「デルフ!?」

残る扉の残骸と宙を舞う死体を微塵に打ち砕きつつ、暴風を纏った杖がデルフを吹き飛ばす。



―――――ワルドだった。



その姿を捉えたルイズは、瞬間的に全てを理解する。

「『遍在』……!」

見れば部屋全体を朱に染めた鮮血も、たった今微塵と化した死体の破片も、その全てが幻の様に消え失せていた。
それは紛う事無く、彼女が身を以って味わった『風の遍在』の特徴。
死した遍在は、風となって空へと還る。

「貴方……まさか」

ルイズが言葉を紡ぐより早く、ワルドは彼女へと杖を振る。
しかしその杖は半ばから断ち切られ、柄より離れた先端は金属の腕によってワルドの胸、肋骨の隙間を縫って刺し込まれた。
ルイズがひっと悲鳴を洩らすが、デルフは構わずワルドの喉を貫くべく腕を振り上げる。
だがワルドは、心臓を貫かれながらもデルフへと密着、抱え込む様にしてその動きを封じた。
デルフはワルドを振り払おうともがくが、残された力の全てを注ぎ込んで押さえ付けるそれを引き剥がす事は叶わない。
その時、既に扉の吹き飛んだ出入り口より、新たに2人のワルドが飛び込んだ。
1人は遍在に押さえ込まれるデルフへ、もう1人はベッドにへたり込むルイズへと踊り掛かる。
しかし、状況を理解したルイズは既に杖を構え、ワルドの杖が届く直前に詠唱を完了させた。

「……『錬金』ッ!」

ルイズが知る限り、自身の魔法で最も威力と発動までの時間が優れたそれを、ワルドの手袋へと掛ける。
瞬間、爆発が起こり、遍在は跡形も無く消失した。
しかし対象との距離が近かった事も在り、ルイズ自身も爆風の余波を受ける。
服が切り裂かれ、杖を手放し、ベッドへと叩き付けられるルイズ。
その破れた着衣の間から、一通の封筒が零れ落ちる。
この旅の目的である、アンリエッタがウェールズへと宛てた手紙。
咄嗟に手を伸ばしたルイズの視界に、部屋に飛び込んでくる人影が映り込んだ。

「……! ワルドッ!」




ルイズ達には知る由も無いが、正真正銘のワルド本体。
彼は『閃光』の二つ名に恥じぬ速度でルイズとの距離を詰め、その胸を貫くべく杖を握る腕に力を込めた。
ルイズの手に杖は無く、デルフは死に掛けの遍在に抱え込まれたまま、もう一体の遍在と死闘を繰り広げている。
最早、打つ手は無い。
ワルド、そしてルイズまでもが決着を予感する中、機械仕掛けの魔剣が電子音の叫びを上げた。

『……!』

人間には決して理解出来ぬ、耳障りな電子の雄叫び。
それと共にデルフは腕部のトーチを展開し、3000℃を超える高温の炎を斬り掛かる遍在の顔面へと浴びせ掛けた。
瞬時に瞼と眼球を炙られ、鼻の肉を気化され、上唇を焼き切られた遍在は、聴くに堪えない絶叫と共に床へと転がる。
その瞬間、デルフは反対の腕を半ばから放射状に展開。
其処から覗く銃口を、今まさにルイズの心臓を貫かんとするワルドへと向けた。
そして、銃声。

「ッ!?」

瞬間的に発射された数発の銃弾がワルドの肩を貫き、彼が突き出した杖はルイズの頭の横、石壁を抉るに留まった。
デルフは更に発砲、ワルドを射殺せんとする。
しかし彼は驚くべき速さで窓へと奔り、空中へとその身を躍らせた。
しがみ付く遍在の首を切り飛ばし窓へと飛び付いたデルフは、置き土産とばかりに放たれた『エア・ハンマー』を文字通り斬り裂き、トーチを収納した側の腕までをも展開して、墜ち行くワルドへと向かって銃弾を連射する。
その数発がワルドへと命中したが、彼が超低空飛行で城へと接近した風竜の一団に回収されたのを見るや、デルフは銃口を収納して拳を石壁へと叩き付けた。

「ひうっ……!」
『……! ……、……!』

砕け散る壁の破片に思わず声を洩らすルイズにも構わず、デルフは電子音にて何事かを呟く。
それは主の命を狙ったワルド、そしてその敵をみすみす逃した自身に対する悪態であったが、ルイズにそれを理解する術は無く、またデルフにも自身がこのハルケギニアのものとは異なる言語を口にしているという自覚は無かった。
暫くして落ち着いたのか、デルフはルイズへと声を掛ける。

「……娘っ子、無事か?」
「え、ええ……」

ルイズは恐る恐る声を返すと、部屋の惨状へと目を向けた。
既に遍在の死体や血は消え失せているものの、扉は粉砕され、壁は抉られ、ベッドにはワルド本体の血が飛び散り、ルイズの着衣は至る所が裂けている。
正に散々たる有様であった。
ルイズは深呼吸をひとつ、落ち着いた声でデルフへと問い掛ける。

「ワルドは……レコン・キスタだったのね」
「そういうこったな。大方、口封じでもするつもりだったんだろう」
「そんな……」

はっきりとそう告げられ、ルイズは力無く視線を落とす。
そしてルイズは、視界に入ったベッド上の光景に顔色を変えた。

「無い……」
「あ?」

デルフが訊き返すと同時、ルイズは絶望の叫びを上げる。



「手紙が……姫さまの手紙が無いッ!」



ウェールズ、そして騒ぎを聞き付けたキュルケ達が部屋へと駆け付けたのは、その直後だった。





「子爵殿、傷の具合は……」
「大事無い、気遣い感謝する」

そう言葉を返せば、竜騎兵は視線をワルドから前へと戻した。
真昼とはいえ、高度3000メイルに位置するアルビオンの気温は低い。
その上高速で飛ぶ風竜の背に居るのだから、吹き付ける冷たい空気が身に沁みる。
ワルドは血を流す肩口を押さえながら、小さく身震いした。
そして自身に手傷を負わせた、あの奇妙な亜人の姿を脳裏に浮かべる。

一体あの亜人は、何処から現れたのだろう。
遍在の杖がルイズを貫く直前、一瞬にしてその右手と首を落とし、更に扉の外に控えていた此方に気付いた。
それだけならまだしも、あの『剣技』。
あの鋭さは、並の達人どころではない。
歴史に名を残すメイジ殺しと呼ばれた剣士達の中にも、果たしてあれ程の剣の使い手が居たかどうか。
あの流れる様な、それでいて計り知れぬ力を秘めた動き。
まるで、自身が剣そのものであるかの様な―――――

その時ワルドの脳裏に浮かんだのは、ルイズの部屋に置かれていた一振りの長剣。
しかし彼は、自嘲気味に首を振る。
余りにも馬鹿げた妄想に、自身の事ながら呆れ果てたと言わんばかりに。

剣が亜人になり、3体の遍在を手玉に取った?
子供だって、もう少しましな想像をする。
そもそもあれが亜人であったのか、ゴーレムだったのか、はたまたガーゴイルだったのか、それすらも不明なのだ。
今はあれやこれやと考えたところで無駄だろう。

やがて彼等の眼前に、旗艦『レキシントン』号の黒々とした巨体が姿を現す。
竜騎士達は見事な腕でその甲板へと降り立ち、回収した手紙を艦長へと手渡す為、ワルドは後甲板へと向かった。
彼は精一杯の威厳を取り繕う『仮』の艦長へと手紙を渡し、心にも無い賛辞を二つ三つ告げると、治療を受ける為に船内へと消える。



その遥か下方、原形を留めぬ人間の破片が散乱する、貴族派陣地の一画。
巨艦へと降り立つ風竜の一団を見上げる、地中から覗く4つの眼が在った事に、彼等が気付く事はなかった。







ニューカッスル城内、簡易的な玉座の間と化したホール。
その空間は今、重い空気に満たされていた。

「まさかワルド子爵が、レコン・キスタに組していたとは……」
「我等は『イーグル』号を失い……アンリエッタ姫殿下からの手紙も奪われたという訳か」

それらの言葉に、再び場に沈黙が下りる。
ウェールズも、ジェームズ1世も、同席を許されたルイズ達も。
誰もが口を噤み、絶望を滲ませた表情を浮かべていた。
しかし数分後、幾分明るい声でウェールズが声を発する。

「ヴァリエール嬢。君は今すぐにでも、ご学友と共にトリステインへと戻るべきだ。貴国に我等の不始末を押し付けるのは心苦しいが、此処に残って我等の最後に付き合う道理は無い」
「殿下……!」
「ただ出来れば、可能な限り女子供を乗せてはくれまいか。たとえ全ては無理であろうとも、出来得る限りの者達は助けたい」

ウェールズの言葉に反対する者は居ない。
誰もが彼と同じ、真摯な瞳でルイズを見詰めている。
それに戸惑い、友人達へと視線を送るルイズ。
ギーシュは神妙な顔で頷きを返し、キュルケは肩を竦め、タバサは無表情。
結局はウェールズへと視線を戻し、了承の言葉を口にしようとした、その時。

「ちょっといいか、王子サマ」

キュルケの傍らに在ったデルフが、唐突に声を発した。
ホール中の視線が一振りの剣に注がれる中、デルフは一瞬で変形を終えてルイズの隣へと歩み寄る。

「……何かね、デルフリンガー君」

ウェールズは驚く事も無く、デルフへと声を返した。
彼は既に、ルイズの部屋にて変形した彼の姿を目にし、このインテリジェンスソードがどういった存在なのか説明も受けている。
そしてこの場に居る全員が、デルフがワルドの凶刃からルイズを守り抜いた事を耳にしていた。
しかしウェールズとルイズ達以外の者達が亜人型のデルフを目にするのは初めてであり、流石に驚きを隠せない様子である。
デルフはそれらの反応を無視し、ウェールズへと言葉を紡いだ。

「お前さん方はそれで良いかもしれんがね、こっちはそうもいかねーんだ」
「デ、デルフ! アンタってばまた!」

慌てて彼を抑えようとするルイズだったが、意外にもそれを押し留めたのはウェールズだった。

「ヴァリエール嬢」
「で、殿下……」
「続けたまえ」

デルフはルイズを指差すと、王族に対するものとは思えぬぞんざいな口調で言葉を続ける。

「姫さんはよォ、『ゲルマニアとの同盟締結の為、何としてでも手紙を回収してこい』って言ったんだぜ? 失敗したとあっちゃあ、この娘っ子の命がアブねーのよ」
「ア、アンタ何を……ッ!?」

デルフの言葉にそんな事は無い、と抗議し掛けたルイズだったが、背中を抓られて押し黙った。
ウェールズはそんな彼女を訝しげに見遣ったが、すぐにデルフへと視線を戻して言葉を返す。

「……それで、君は何が言いたいんだね」
「簡単な事さね。代わりになる成果が欲しいのさ。後々王宮からヘンな言い掛かりを付けられねぇようにな」
「……それは、どういったものかな」

硬い声で先を促したウェールズに、デルフはさらりとその言葉を口にした。




「アンタらを生きてトリステインへと亡命させる。無論、女子供も含めてな」
「なっ……!?」
「構わねーだろ? どうせゲルマニアとの同盟は決裂なんだ。いずれトリステインとレコン・キスタは一戦おっ始めるぜ」
「ふざけるなッ!」

次の瞬間、ホールに詰めた貴族達が口々に怒声を放った。
彼等の声は怒りに満ち、その視線には侮蔑の光が入り混じる。
ウェールズすらも憤怒の視線をデルフへと送り、今にも爆発しそうな怒りを寸でのところで抑えていた。

「此処まで……此処まできてッ……恥知らずどもに背を見せろと申すかァッ!」
「此処で逃げたとあっては、先に逝った勇者達に合わせる顔が無いわッ!」
「我等は此処に! 王家の誇り、そして名誉を示しつつ! 栄光と共に死を」
「もうよい!」

一喝。
あれ程までに騒がしかったホールが静まり返り、貴族達が呆然とした表情で玉座へと視線を向ける。
彼等の視線の先に座する年老いた王は、何処か疲れた様な雰囲気を纏いつつも、威厳ある声を張った。

「陛下……」
「諸君。諸君はこれまで、この無能な王に良く仕えてくれた。厚く礼を述べる。しかし、もうよい。諸君がこの忌まわしき大陸で、滅び行く王家に最後まで付き従う必要は無い。彼等と共に、トリステインへと逃れるがよい」
「陛下! 何を仰る!」
「そうです! 我らも此処に、陛下と共に栄光在る敗北を……」
「敵は! 叛徒どもはこの大陸を統一した後、トリステインへと攻め入るだろう。その時、精強なるアルビオンの艦、そして竜に相対する彼の国の軍、その導き手となるのは誰だ?
 トリステインの将軍か? ロマリアの神官か? 始祖ブリミルの導きか? 否! 諸君だ! 諸君こそが、叛徒どもを打ち破る最後の希望だ!」

その叫びを終えるや否や、ジェームズ1世は激しく咳き込む。
ウェールズが咄嗟に駆け寄り、その身体を支えた。
それでも王は何とか顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべて言葉を続ける。

「……その為にも、何としても生き延びるのだ。彼の国の王女はまだ若い。この老いぼれへの忠誠心、我が姪の為に使ってやってはくれぬか」

その言葉に、ホールの至る所からすすり泣く声が洩れる。
ルイズ、そしてギーシュも歪む視界に上を向き、キュルケは飄々とした態度が鳴りを潜め、タバサは何時も通りの無表情。
そしてウェールズが何事か言葉を発そうとした矢先、またもやデルフの声が場の空気を打ち砕いた。

「話は最後まで聞けよ、ジイさん。誰がアンタを置いていくって言ったよ? 全員だ。文句の付け所も無く、全員連れてトリステインに亡命するんだぜ」
「な……!」

その無礼どころではない言葉に、貴族達が再び色めき立つ。
しかし更に続く言葉に、ホール中の人間が絶句した。

「大体な、誰も尻尾巻いて逃げろだなんて言ってねぇだろうが。真正面から堂々と、連中を足腰立たなくなるまでブチのめして悠々と去るのさ」

目を丸くする一同に構わず、デルフはホールの中空に簡易的なアルビオンの地図を投写する。
驚きの声を無視しつつ、彼は誰へともなく問い掛けた。

「この城には何人居る? 貴族、平民、戦える奴、戦えない奴、全部含めてだ」
「947名だが……」
「それだけ乗り込める船ってのは?」
「……そうなるとやはり、戦列艦クラスだな。しかしそんな船は……」
「ロサイスには?」
「確かにロサイスならば、戦列艦は山ほど在る。しかしあそこは貴族派の本拠地だ」
「そんな事はいい。ロサイスなら戦列艦が在るんだな?」
「う、うむ」
「動かすには、最低で何人必要だ?」
「魔法の補助が在れば、30名程で……」




デルフの問いに、貴族達が代わる代わる答えてゆく。
その様を呆然と見ていたルイズ達であったが、デルフが張り上げた声に我へと返った。

「決まりだ。護衛も含めて50人、相棒でロサイスに飛んで戦列艦を分捕る。大陸の下を通って城へと戻りゃ、後はそのままオサラバだ」

それは、余りに無謀な作戦だった。
たった50人で敵の本拠地に攻め入り、戦列艦1隻を盗み出すという、成功する見込みなど皆無の作戦。
少なくともルイズはそう考え、それは他の者達も同様だった。

「ま、待て! たった50名でロサイスに!?」
「おう」
「馬鹿な! あの地はレコン・キスタの総本陣なのだぞ!? 50名ばかりの戦力で何が出来る!」
「誰もアンタ方だけでやれなんて言ってねぇさね。敵本隊を引き付けるのは相棒、船上の敵を始末するのはアンタ方と俺だ」

今度はその言葉に、ルイズが目を瞠る。
同時に、タバサの視線が僅かに動いた。

「相棒って……ブラックアウト? それともスコルポノック?」
「蠍の方は残さにゃならんだろ。あいつが守りの要だ」
「なら……」
「そういうこった」

その時、伝令の兵がホールへと駆け込んできた。
報告の内容は、『レキシントン』が接近、砲撃の構えを見せているとの事。
一同に緊張が走る中、デルフはブラックアウト、スコルポノック双方からの通信を受け、ウェールズへと問いを発した。

「なあ、王子サマ」
「何かね」
「お前さんなら、重要な書類ってのは船の何処に仕舞う?」

その問いにウェールズは、その意図が読み取れないながらも『艦長室』と答える。
更に『レキシントン』の艦長室、その正確な位置を聞き出したデルフは、画像を消し去りつつルイズへと振り返った。
映像がぶれて消える際、何者かの頭部を模したらしき紋章が映り込んだが、余りに一瞬の事に気付いた者は居ない。
彼はルイズへと、何処か楽しげに語り掛ける。

「『お披露目』だぜ、娘っ子」
「え?」
「ずっと疑問だったんだろ? 相棒が一体何なのか。それを今から見せてやる」

言いつつ扉へと歩み寄り、それを開け放った。
その先に続く通路の奥から響くのは、ルイズ達にとって聴き慣れた重々しいローター音。
思わずデルフへと視線を集中させる面々に、彼は打って変わって低く、昏い怒りに満ちた声で言葉を吐く。



「誰に喧嘩を売ったのか……そいつを思い知らせてやらねーとな」



赤く染まる擬似視界の中、顔の紋章と変形を始めたルーンが、互いを喰らい合うかの様に侵食を始めた。





「砲撃位置に付きました。艦長、ご命令を」
「ふむ……では、王家の最後を華々しく飾り立ててやろうではないか。なあ子爵」

無駄口を叩いている暇が在るのなら、さっさと下命しろ。
口には出さず、ワルドは内心で侮蔑の言葉を紡いだ。
一時的なお飾りの艦長だが、それにしても無能に過ぎる。
まともに言葉を交わすのも苦痛な為、ワルドは適当に言葉を返して会話を切り上げ、下方の陣を見遣った。
何故か蠍のゴーレムが姿を眩ました結果、貴族派の陣は昨夜より1リーグ程前進している。
未だに兵達は警戒しているとの事だが、上層部は『数で押せば問題は無い』と判断していた。
よって、捨て駒として傭兵どもが先行させられていたのだが、如何なる理由か迎撃を受ける様子は無い。
城に引き上げたのか、と訝しむワルドの視界に『それ』が映り込んだのは、視線を城へと移す途中の事だった。

「あれは……」

それは自身がこの大陸を訪れた際に乗っていた、ルイズの使い魔だった。
何時の間に現れたのか、それは貴族派の前線から僅か5,60メイル程の位置に着地し、その翼を回転させたままその場に鎮座している。
周囲が騒然とする中、ワルドはその状況を好機と捉えた。

ルイズは始末し損ねたが、此処であの使い魔を片付ければ彼女達は帰還の術を失い、事がトリステインに洩れる事は無くなる。
何故この場に現れたかは知らないが、このまま砲撃してしまえば―――――

その時ワルドの視線の先で、回転していた使い魔の羽が唐突に停止した。
慣性を無視し、基部を破損させかねない強烈な制動。
何事か、と細められたワルドの目は、続く変化に限界まで見開かれた。
周囲の兵達が何事かを口々に喚き、地上では銃弾と魔法が変貌を始めた異形へと放たれる。
しかし異形の変化は止まらない。
貴族、平民の区別無く、地上の人間達が本能からの警鐘に従い、必死の攻撃を加える中―――――



鋼鉄の悪夢は、遂にその本性を曝け出した。





ルイズ達がバルコニーへと辿り着いたその時には、既にブラックアウトは貴族派の前線近くに着陸していた。
無防備にも敵の眼前に鎮座するブラックアウトにルイズ達は心底から驚愕し、今すぐ逃げるよう伝えろと、デルフへと食って掛かる。
しかし沈黙を保ったままにデルフがブラックアウトを指したその瞬間、一同の脳裏からその様な言葉は跡形も無く消え去った。




鋼を打ち合わせた様な音と共にローターの回転が止まり、基部が一段上昇。
6枚のローターブレードが尾部方向へと折り畳まれ、其処で一旦全ての動きが止まる。
そして数秒後、ローター基部が更に一段上昇。
それが引き金だったかの様に、無数の金属音と共に壮絶な変貌が始まる。
吸気口カバーが90度回転すると同時、惰性で回転していたテールローターが停止。
垂直尾翼が縦に割れ、内側に折り畳まれる様にして収納。
装甲という装甲がジグソーパズルの如く分割、コックピットまでが左右に二分され、覆い被さる様に展開した内部機構に呑み込まれて下方を向く。
最早原形を留めぬ尾部は半ばから左右に分かれ、分割された装甲が内部機構を覆いプロテクターを形成。
コックピットの左右からは一対の機構が分離、巨大な5本の指が展開される。
ローター基部が後方へと90度回転し、その下から歪な『狂戦士』を思わせる鋼鉄の頭部が出現し―――――



高圧のエアと共に、双方の腕から瞬時に展開した多連装砲身が、20mmの弾雨を敵に浴びせ掛けた。



重々しい雷鳴の様な音が轟き、最前線から十数メイル後方まで、百数十名の貴族派兵士が一瞬にして細切れの肉片と化す。
その瞬間的な殺戮に、時間にすれば僅か1,2秒だが、魔法と銃撃の嵐が途切れた。
信じられない光景にスペルを唱える口が、引き金を引き絞る指が、持ち主の意思を離れ硬直したのだ。

そして彼等が我に返るより先に、ブラックアウトは次の攻勢を繰り出した。

上空より接近するも、20mm弾幕による虐殺を目にした竜騎士達が思わず降下の勢いを緩めたその瞬間、ブラックアウトを中心に青い衝撃波が爆発。
100メイル以内の人間が軒並み電磁波に焼かれ襲い来る灼熱感にのた打ち回り、竜達は方向感覚機能を破壊されて互いに衝突、或いは狂った感覚に任せ突き進んだ結果、騎手を振り落とし20mmの弾幕に絡め取られ四散する。
此処で漸く後方の兵、そして指揮官達は状況を理解した。

余りの惨事に、レコン・キスタ陣営全体が後退を始める。
しかし、ブラックアウトの攻勢は衰えるどころか、更に苛烈さを増した。

次いでブラックアウトの腕、内蔵された砲身より放たれたのは、直径2メイル程度の青く光る球体。
多少鍛えていれば十分に眼で追える速度。
地面へと突き刺さる見当違いの射出角度。
数多の戦場を潜り抜けてきた傭兵達の目に、迫る魔法を叩き落してきたメイジ達の感覚に、それは脅威度の低いものと認識された。
そして、光の球体が地面へと接触した瞬間―――――



青い光を放つ巨大な壁が、直線上に存在する全てを薙ぎ払った。





「……何なのだ、『あれ』は」

それは、誰の言葉だったか。
城のバルコニーより戦場を見詰めるルイズ達、そして王党派一同の視線の先では、鋼鉄の死神による一方的な殺戮劇が繰り広げられていた。

雷鳴の様に轟く砲声。
絶叫。
『壁』が大気を穿つ音。
悲鳴。
爆発音。

ハルケギニア全土が悲鳴を上げているのではと錯覚する程の声が、無数に折り重なってはアルビオンの大地に轟く。
それは圧倒的な力に蹂躙される弱者の叫び。
抵抗を試み、その勇気さえも踏み躙られる力無き者達の断末魔。
ニューカッスル城のテラスというテラス、窓という窓からその光景を見詰める、900人超の王党派陣営。
彼等は歓声を上げる事も無く、ただただ目前の惨劇に戦慄していた。
そしてルイズは、先程の誰かと同じ言葉を紡いだ。

「……何よ……何なのよ、『あれ』……」

返されるのは、無機質な魔剣の言葉。

「使い魔さ」

ルイズはゆっくりと、傍らのデルフへと視線を落とす。
ギーシュ、キュルケ、タバサまでもが呆然と戦場の光景を見詰める中、四肢持つ魔剣は無感情に言葉を繋げた。



「『あれ』がお前の使い魔だ、『ルイズ』」



惨劇は、続く。





秒速1000メイル超の弾速を持つ20mm弾が、回転する6連装砲身より毎分6000発という発射速度で戦場へとばら撒かれる。
砲弾が死体の山を量産する傍ら、20メイルを優に超える鋼鉄の巨人からは更に、幅50メイル、高さ25メイル程の、半球状の青い光の壁―――――『プラズマ』が放たれる。
更に足元を動き回る者達に対しては、展開し高速にて回転するメインローター及びテールローターによる『斬撃』が繰り出される。

肉片が残っている者はまだ幸運だ。
殆どの者はプラズマに呑まれ蒸発し、縦しんばそれを避けたとしても、プラズマの通過痕より一拍遅れて起こる爆発に巻き込まれるか、20mmによって跡形も無く消し飛ばされる。
生きてブラックアウトの足元まで距離を詰めたとしても、攻撃に移るより先に回転する巨大なローターブレードの斬撃により、挽肉どころか血煙となって掻き消える。
しかも遠方よりその様を見る後方の陣は、撤退を試みる端からスコルポノックによる強襲を受けていた。
狙いも付けずに放たれる無数の砲弾と、地中より襲い掛かる、回転する爪と尾による刺突。
土のメイジが生み出すゴーレムは瞬く間に砲撃に削られ、周囲の人間ごと地中へと引き摺り込まれる。
退路すらも塞がれ、レコン・キスタ勢は今や、絞首台上の死刑囚も同様だった。



そう、正しく死刑囚。
ブラックアウトは誰1人として、敵をこの戦場から生かして返すつもりは無かった。

プラズマが連続して放たれ、その通過痕が凄まじい爆発を起こす。
約6リーグに渡る業火の線が幾重にも引かれ、数千の命が断末魔を上げる事すら許されずに消し飛ばされた。
しかしブラックアウトは満足しない。
20mmを広域にばら撒きつつ、戦場を練り歩く。
時折、背面にローターを展開しては数リーグを飛び、地点を変えて更なる破壊を撒き散らす。
それらを繰り返し、戦場の3分の1が業火に埋め尽くされた頃―――――



プラズマを放ち続けるブラックアウトの周囲に、50発を超える砲弾が落着した。





「撃て!」

その声と共に、地上を徘徊する化け物へと無数の砲弾が降り注ぐ。
十数発が命中、化け物は背面から地面へと叩き付けられた。

「砲撃の手を緩めるな! 撃ち続けろ!」

『レキシントン』―――――否、『ロイヤル・ソヴリン』が誇る優秀な砲術長は、実に的確な指示を下す。
そして、それに従う砲手達もまた優秀な部下であり、発射の間隔をずらして間断無く放たれる砲弾は、化け物を土柱の中へと封じ込めた。
更には随伴する2隻の戦列艦からも、猛烈な砲撃が地表へと叩き込まれる。
お飾りが何事かを叫んでいる様だが、それを気に留める者は1人として存在しない。
ワルドもまた、砲撃の正確さに舌を巻いてはいたものの、背後で喚く置物の言葉など欠片も聞いてはいなかった。

そろそろ死んだか。

弾着が200を超える頃、ワルドは改めて後甲板より地上を見下ろした。
着弾点は土煙に覆われ、化け物の姿は視認出来ない。

しかし、あれ程の砲撃を受けたのだ。
最早、欠片も残っては―――――

その瞬間、土煙の中に光が瞬き、大気を切り裂いて飛来した数百発の砲弾が、『レキシントン』左舷を蹂躙した。
巨大な左翼が布切れの様に引き裂かれ、大砲が小枝の様に吹き飛び砕け、人間がグレナデンの実の如く弾け飛ぶ。
更にはミズンマストが半ばから吹き飛ばされ、他のマストとの間に張られたロープにより、メインマスト、ジガーマストを巻き込んで甲板へと落下を始めた。
このままでは、全てのマストが崩壊を始めるだろう。
しかし甲板上からそれを見た風系統のメイジ達が、咄嗟の判断で『エア・カッター』を放ち瞬時にロープを切断。
ミズンマストのみが落下し、全体の崩落は免れた。
落下した部位は右舷を直撃、舷側の一部を破壊して地上へと落下する。
見れば随伴艦までもが弾幕に呑み込まれ、未だ浮いているのが奇跡とすら言える有様へと成り果てていた。

「ぐ、ぬッ……化け物め……ッ!」
「し、子爵! こ、此処は、此処は任せるッ! わわ私は手紙を守らねばならんッ!」

払い切れなかった破片を受け呻くワルドの背後から、置物の喚く声が響く。
ワルドが振り返った時には既に、後甲板にその姿は無かった。
恐らくは艦長室に逃げ込んだのだろう。
先程の台詞が、それを物語っている。
舌打ちをひとつ、地上へと視線を移したワルドの目に、またしても信じられない光景が飛び込んだ。



化け物の肩部横に突き出した小さな翼の下、太く長い棒状の物体。
ワルドには知る由も無いが、『スポンソン』と呼ばれる、本来は燃料タンクの役割を持つそれ。
その側面が上下に開き、内部より2本、棒状の物体が化け物の横へと射出される。
射出後の一瞬、それらは重力に従い落下を始めたが、直後に尾部から噴出した炎により、重力を振り切って『レキシントン』へと突撃を開始した。
燃焼音、そして大気を切り裂く飛翔音。
白い尾を引き『レキシントン』へと迫る、2本の鋼鉄の矢。
それらを目にしたワルドは雄叫びを上げ、反射的に後甲板より飛び退いた。
2本の矢は艦体後部側面を貫き―――――



爆発。
後甲板が根こそぎ吹き飛ぶ。
爆発は、艦体内部から。
ワルドは中甲板に叩き付けられ、苦痛に呻く。
他にも数名が、間一髪で後甲板より飛び退いた様だが、彼等もまた中甲板へと打ち付けられ、苦痛の声を上げている。
その時、ワルドは爆発の起こった部位に気付き、思わず声を荒げた。

「……『艦長室』ッ!」



艦長室は跡形も無く吹き飛び、残る部位には業火が燃え盛る。
其処に置かれていたアンリエッタの手紙もまた、炎に呑まれて塵と消えた。





炎上し、高度を落とす『レキシントン』を捕捉しつつも、ブラックアウトは更にミサイルを発射、随伴艦を撃沈せんとする。
其々1発ずつミサイルを受けた2隻の戦列艦は殆どのマスト、そして翼を失いながらも、その砲撃の手を緩める事は無かった。
今だにブラックアウトの周囲には数十発の砲弾が降り注ぎ、時折数発がその胴へと直撃する。
防御フィールドを貫く程ではないものの、重力による加速を受けた砲弾の衝撃は相当なものだ。
警戒し、移動しつつ攻撃を繰り返すが、敵の錬度は異常なまでに高く、足を止めれば間髪入れずに集中砲火が襲い、移動を始めれば面制圧砲撃へと移行する。
各艦がコンタクトを取る時間的余裕は無い事から推測するに、砲手達が各々状況に合わせて砲撃を行っているのだ。
最早、優秀などという言葉で表し尽くせるものではない。
砲撃精度に関しても、エレクトロニクスの存在しない世界としては考えられない程の精密さである。
彼等が放つ砲撃の苛烈さに、ブラックアウトはプラズマによる対地攻撃を断念し、20mmとミサイルによる対空戦闘に専念せざるを得なかった。

だがその時、激しい砲声が唐突に鳴りを潜める。
見れば『レキシントン』が大陸の端へと到達しており、そのまま眼下の雲海へと逃走を図る最中であった。
その光景にブラックアウトは腕を翳し、プラズマの発射体勢を取る。
あと数秒で、『レキシントン』は地面と同高度となる。
其処に、プラズマを撃ち込もうというのだ。
そして、『レキシントン』の底部が地面に重なる寸前―――――



『レキシントン』、そして随伴艦からの一斉射がブラックアウトを襲った。



『レキシントン』が舷側を晒し、今まさに大陸下へと消えようとするその瞬間に合わせ、3艦の全砲門が同時に火を噴いたのだ。
『レキシントン』による側面からの砲弾幕と、随伴艦による頭上からの砲弾幕。
ブラックアウトの行動を読み、互いに意思の交換を行う事無く同じ戦法を採った、『レキシントン』を除く2艦の指揮官、そして3艦全ての乗組員による、芸術的ともいえる砲撃であった。

90発を超える砲弾の雨。
内、30発前後がブラックアウトへと直撃し、その巨体を半回転させ地面へと叩き付ける。
そして、ブラックアウトが身を起こすまでの僅かな時間の内に、『レキシントン』は焔を吹き上げつつ雲海へと姿を消した。



手負いの敵を逃がした。
その事実はブラックアウトの思考中枢に、極めて重要な問題として記録される。

技術的、文明的、共に格下の相手に不覚を取ったのは、これで『3度目』だ。
それは敵に対する、認識の修正が十分でない事を意味する。
それだけではない。
敵旗艦を逃した事によって、戦果によるトリステイン王宮への牽制が失敗し、主に害が及ぶ可能性すら在る。
それを避ける為には、現状に於いて得られる最大の戦果が必要。

今後のシミュレーションを終えたブラックアウトの擬似視界に、炎を上げつつ不時着した随伴艦の姿が目に入る。
頭上では消化に成功したらしきもう1艦が、今尚ブラックアウトへと砲撃を続けていた。
どうやら『レキシントン』の撤退を確認した後、僚艦を援護する為に留まったらしい。



左右のスポンソンが開き、計4発のミサイルが空中の随伴艦へと向け飛翔する。
発射を阻止しようと、不時着した艦が砲撃を開始するが、もう遅い。
デルフを通し、攻撃中止の命令を下すルイズの絶叫が届いたのは、ミサイルの着弾とほぼ同時の事だった。





轟音と共に空を埋め尽くす爆発を背に、6枚羽の死神が城へと振り返る。
その胸部、彼等自身の頭部を模ったディセプティコンのマークを取り囲む様に、細かく長大なルーンが光を放っていた。

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